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November 27, 25
スライド概要
生成AI時代の特許調査で人が果たす役割
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弁理士・博士(理学)/弁理士法人レクシード・テックパートナー
様 生成AI時代の特許調査で 人が果たす役割 2025年9月24日(水) 13:00~ 14:30 弁理士法人レクシード・テック パートナー 角渕 由英 弁 理 士 ・ 博 士(理 学) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 1
自己紹介 弁理士法人レクシード・テック パートナー弁理士・博士(理学) つの ぶち よし ひで 角渕 由英 <経歴> 2008年 日本学術振興会特別研究員(DC1)採用 2011年 株式会社技術トランスファーサービス 入社 登録調査機関部門 2014年 博士(理学) 東京大学 2016年 弁理士登録、秋山国際特許商標事務所 2017年 特許検索競技大会2017 最優秀賞・ゴールド認定(化学・医薬分野) 2018年 特定侵害訴訟代理業務付記登録 2019年 AIPE認定知的財産アナリスト(特許) 2023年 弁理士法人レクシード・テック 入所 社員弁理士 <委員など> 2020年~ 特許検索競技大会実行委員会 副委員長(~2024年) 2021年度 特許庁IPAS事業 アソシエイトメンター 2022年~ 知財実務情報Lab.®専門家チーム 2022年~ 知財塾 侵害予防調査ゼミ、検索式作成ゼミファシリテーター 2023年~ 経済産業庁九州経済産業局 チーム伴走型知財経営モデル支援・広報事業 支援チーム専門家(~2024年) 2024年~ 特許庁VC-IPAS事業 、スポットメンターおよびメンター 2025年~ 特許検索競技大会実行委員会 委員長(現任) デジタル名刺 <著作(主なもの)> 「特許調査における弁理士の役割」(パテント, 2025.8) 「侵害予防調査についての一考察 」(パテント, 2024.2) 「第三者特許の無効資料調査の留意点」(知財管理,2023.9) 「特許調査における先行技術資料および無効資料の変化」(知財管理,2022.9) 「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」 (経済産業調査会, 2022.6) 「弁理士のための特許調査の知識」(パテント, 2022.5) 「侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」 (知財ぷりずむ 新春特別寄稿, 2020.1) 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける「不可能・非実際的事情」の主張・立証についての考察」(パテント, 2016.7) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 2
拠点(東京・京都) 京都(四条烏丸):7名 https://lexceed.or.jp/ 東京(新丸ビル): 8名 組織 ※2025年9月1日時点 資格者: 弁護士・弁理士1名、弁理士6名 学 位: 博士5名、修士2名、学士2名 所員数: 15名(東京8名、京都7名) 拠 点: 東京(新丸ビル)・京都(四条烏丸) 創 業: 2022年7月1日(4期目) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 3
弊所の強み 技術系専門家の有機的な協働によってシナジーを発揮 事業のあらゆるステージにおけるバックアップ 知的財産・法律 弁護士・弁理士1名、弁理士6名 高い技術力 特許調査・分析 特許検索競技大会 博士5名、修士2名、学士2名 (特に医薬・バイオ、化学) 最優秀賞 ワンストップサービス 出願・権利化、契約、鑑定、係争、 特許調査・分析、ベンチャー、国際業務 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 4
一気通貫で業務に関わる専門家集団 多くの専門家・事務所等に依頼する必要があり、効率が悪く、事業全体を把握した上でのアドバ イスとなりにくい。 一気通貫で知財業務をバックアップするための資格保有者・スキル保持者が揃っている。 化学・バイオに強みを持つ専門家集団(博士、修士も多数所属)。 市場分析・技術動向調査 知的財産アナリスト 先行技術調査・侵害予防調査・無効資料調査 弁理士/サーチャー 出願権利化 、発明発掘、セカンドオピニオン、コンサルティング、企業研修 弁理士/サーチャー/博士 知財契約・権利行使 付記弁理士 無効化対応 情報提供、異議申立、無効審判、無効鑑定、侵害鑑定 付記弁理士/博士 技術を主軸として、資格の枠組みを超えてシームレスにアドバイス スタートアップのクライアントも多数 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 5
主な業務範囲 当法人は、バイオテクノロジー・化学分野を中心とした技術的バックグラ ウンドのある弁護士・弁理士が、開発型企業の事業をワンストップでバッ クアップするユニークな弁理士法人です。 • 出願権利化(発明発掘、定期相談、新規国内出願、中間対応) • 特許調査業務(先行技術調査、 侵害予防調査、無効資料調査) • 分析業務(技術動向調査、IPL) • 無効化業務(情報提供、異議申立、無効審判) • 鑑定(無効鑑定、侵害鑑定) • セカンドオピニオン(他事務所の見解に対する意見) • 訴訟(侵害訴訟、その他知財に関する訴訟) • 契約(NDA、その他知財に関する契約書レビュー) • セミナー(契約、数値限定発明、特許調査、生成AI活用など) • 執筆(書籍、論文、WEB記事) • 各種委員(スタートアップ支援、官公庁などの専門委員) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 6
本日の内容 「特許調査は手段であり、目的ではない。」と講師は言い続けてきた。 特許調査は多岐にわたる知財活動を支える重要な業務であるが、特許調査そ れ自体は手段であり、目的ではありません。 生成AIの急速な進歩によって、従来は専門的な調査の知識が求められ、時間 を要していた特許調査が効率化される状況下、調査によって解決すべき課題 を正しく見極め、問いを立てることが、人間の重要な役割となっていくで しょう。 本セミナーでは、講師が執筆した「特許調査における弁理士の役割」と題す るパテント誌の論考(2025年8月)に基づいて、特許調査について概論を 述べた上で、調査種別ごとに目的や私見を述べ、生成AIの時代に人が果たす 役割に言及し、仮想的な事例も踏まえながらお話をします。 ・「特許調査における弁理士の役割」(パテント, 2025.8) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 7
目次 5.実務における特許調査の仮想事例 1.はじめに 5.1 依頼者からの相談 2.特許調査とは 5.2 特許分析 3.特許調査の種類と目的 5.3 侵害予防調査と先行技術調査 3.1 先行技術調査 5.4 特許出願 3.2 侵害予防調査 5.5 侵害鑑定 3.3 無効資料調査 3.4 技術動向調査 5.6 無効資料調査 5.7 無効化業務 4.人が果たすべき役割 5.8 係争対応 4.1 特許調査の特殊性 5.9 その後 4.2 特許調査と人 4.3 特許調査で解決すべき課題 6.おわりに 4.4 問いを立てることについて 4.5 問いを磨くことについて 4.6 生成AI時代の特許調査のPDCAサイクル 4.7 問いと生成AI 4.8 仮説から逆算した情報収集 4.9 課題解決のためのアクションの実行 4.10 調査に携わるメリットと調査スキルの向上 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 8
1.はじめに 「特許調査は手段であり、目的ではない」(1)。 特許調査は、発明の新規性や進歩性を検討する先行技術調査、特許権の侵害リスクを見極める 侵害予防調査、ビジネスの障害となる特許権や特許出願を無効化できるかどうかの可能性を探 る無効資料調査、さらには技術動向調査に至るまで、特許実務の基盤を支える重要な業務であ る。 しかしながら、筆者は長年にわたり、特許調査はあくまでも手段であり、特許調査それ自体は 目的ではないこと、特許調査のみで課題が解決する訳ではなく、調査結果および調査から得ら れる示唆に基づいて課題を解決し、目的を達成するためのアクションが必要であるという点を 繰り返し強調してきた(2)。 そしていま、生成AIの急速な進歩により、手段としての特許調査の実行プロセスが大きく変 わりつつある(3)。これまで、特許調査の専門家が、専門的な特許調査の知識を駆使して、専 用のデータベースを活用するなどして、多くのコストを費やしてきた調査の準備、情報収集、 スクリーニング、分析といったタスクが、生成AIによって効率化されることで、「特許調 査」の概念が大きく変わっていくことが予想される。特許調査に限られない、この大きな技術 的な転換点において、特許調査に携わる人が、どのような役割を果たしていくべきか、改めて 問い直すことが必要である。 本セミナーでは、特許調査について概論を述べた上で、調査種別ごとに目的や私見を述べ、生 成AIの時代に人が果たす役割について、仮想的な事例も交えつつ論じる。 なお、本セミナーは特許事務所の弁理士の視点で主に語られているが、企業などに属する知財 人材にも同様の視点が求められると筆者は考える。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 9
2.特許調査とは 「特許調査は手段であり、 目的ではない」 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 10
2.特許調査とは 「特許調査」とは何であろうか。一般には、広義の特許調査として、特許文献(公 開特許公報、特許掲載公報など)や、非特許文献(学術論文、技報、製品カタロ グ)、インターネット情報なども含む広範な技術情報から必要な情報を探索し、抽 出し、評価・分析を行う一連の活動を指す。 ここで、特許調査には必ず、解決すべき課題が存在する。単に文献や情報を収集す ることは、特許調査ではないと筆者は考える。特許調査の真に解決すべき課題が明 確ではない状況で、単に検索式や指示を、データベースなどに入力し、結果が出力 されることは、調査とは言えず、単なる検索に過ぎない。 リサーチに関する書籍には、「リサーチとは何か?広義にとらえれば、問題の解決 を目的として、問いに答えるために情報収集をすれば、その行為はリサーチであ る。」と記載されている(4)。特許調査も、これと同様に、「何らかの問題の解 決を目的として、問いに答えるための行為」であるといえるであろう。 つまり、特許調査では、解決すべき課題は何か、答えるべき問いは何か、その目的 を明確にした上で必要な情報を的確に探し出し、その情報を評価・分析して課題解 決に活かすことが重要である。特許調査により解決すべき課題が異なれば、調査設 計、調査範囲、調査戦略、スクリーニングの仕方、評価・分析手法に至るまで、大 きく異なることになる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 11
2.特許調査とは 課題を解決するための特許調査は、単に情報を収集、選別し、リストアップする作 業ではなく、問いに答えるべく、必要な情報を的確に探索して評価・分析 することに他ならず、課題を解決するための具体的なアクションに繋げることが 求められる。 繰り返しになるが、「特許調査は手段であり、目的ではない」。調査の依頼 者が、真に求めていることは、ビジネスにおける優位性の構築であったり、ビジネ スにおけるリスクの把握・低減であったり、研究開発を効率的に進めるヒントで あったり、係争を勝ち抜くことである。 この根底にある目的を意識することで、特許調査において、より的確に調査を設計 して実行し、得られた情報を正しく評価することができる。特許調査の背景にある 解決すべき課題を強く意識し、答えるべき問いに答えることを追求する姿勢が求め られる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 12
3.特許調査の種類と目的 3.1 3.2 3.3 3.4 先行技術調査 侵害予防調査 無効資料調査 技術動向調査 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 13
3.1 先行技術調査(5)(6)(7) 先行技術調査とは、ある発明について、その発明と同一又は類似する技術が既に、 出願されていないかどうか、公知となっていないかどうかを調べる調査である。 具体的には、ある発明について、新規性や進歩性の判断をする際に先行技術となり 得る特許文献、非特許文献、インターネット情報などを調べる調査である。 先行技術調査の目的は、そのタイミングに応じて様々であるが、先行技術調査を通 じて得られる先行技術や知見に基づく発明の評価を通じて、特許出願の要否、出願 内容の検討、出願戦略の立案、あるいは開発へのフィードバックなど、これから出 願する内容をビジネスでどう活かすか検討をし、具体的なアクションにつなげるこ とが本質的な目的である。 特許出願をする前であれば、発明の新規性、進歩性を評価し、特許出願に値するか どうかを判断すること、先行技術との差異を把握し、発明をブラッシュアップした り、アイデアを追加したりするなどして請求項や明細書の作成に活かすことが目的 となる。 特許出願をした後であれば、出願審査請求をする前や、外国出願をする前に、その 特許出願に係る発明を権利化できるかどうかを検討することが目的となる。 いずれのタイミングにおいても、先行技術を調査して検討することで、その発明の 新規性、進歩性を評価することが目的となるが、より本質的な目的としては、ビ ジネスへの貢献であることを忘れてはならない。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 14
3.1 先行技術調査(5)(6)(7) 先行技術調査の対象となる発明が、先行技術と差別化できる技術であるかどうかを 見極め、ビジネスにおける位置づけ、発明の特徴を評価し、権利化後における活用、 具体的には、自社のビジネスを保護しつつ、競合他社にとって脅威となる特 許権を取得することで、ビジネスで優位性を築くことが求められる。 そのような観点からすると、ある製品、サービス(以下、「製品等」ともいう)に おいて、どのような観点、着眼点で発明を認定すればよいのか、ビジネス的な視点 で検討をするために、どのような先行技術が存在するのかを俯瞰的に調べることが 有効であると筆者は考える。 生成AIの台頭により、高度な検索スキルが不要となり、時間がかかるスクリーニ ングが効率化されていく技術進展の中で、先行技術調査では、先行技術を見つけ るだけではなく、発明の位置づけを見極め、どのように権利化していくべき かという構想を練ることへと比重が移っていくであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 15
3.1 先行技術調査(5)(6)(7) ある製品やサービスにおいて、先行技術調査をする際に、何を探すのか、発明を いかに言語化するかが非常に重要である。 ここで、ある製品やサービスについて検討をする際に、どのあたりに特徴があるの か、どのように発明を認定し、先行技術調査の調査観点とするのか、当たり前のよ うに技術や発明の認定がなされることがあるが、想定される「発明の言語化」と いうタスクは、知財人材が普段から何気なく行っているが非常に重要なスキ ルを発揮する思考過程であるのではないだろうか。 このような視点で先行技術調査を捉えると、なんとなく似ている先行技術を単に検 索することとは全く異なり、発明をどのような視点で見て把握するのか、発明 の認定、ビジネスにおいて取得すべき特許権の検討という企業の知財活動に おいて非常に重要な調査であると考えることができる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 16
3.2 侵害予防調査(8)(9)(10) 侵害予防調査とは、ある製品やサービスについて、関連する第三者の特許出願、 特許権(以下、「特許権等」ともいう)を侵害するおそれがあるか否かを調べる 調査である。 侵害予防調査の目的は、ある製品等の実施に際し、第三者の特許権等についての リスクを事前に評価することにより、ビジネス上のリスクを最小限に抑え、ビジ ネスにおける自由度を確認することである。 侵害予防調査の真の目的は、ある製品等に関連するビジネスを行う上で、障害と なり得る特許権等を把握することで、当該特許権等に対する何らかのアクション、 具体的には、侵害検討、設計変更の検討、無効化、ライセンス交渉等を検討、実 行することで、ビジネスにおけるリスクを最小化することにある。 また、広義には、侵害予防調査と同一視される、FTO(Freedom To Operation(自由実施))調査(11)を行うことで、ビジネスを行う際 に、どの範囲であれば自由実施技術の範囲でビジネスを行うことができ、他社の 特許権を侵害する可能性が低いのか把握することも、侵害予防調査の目的の1つ ともいえる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 17
3.2 侵害予防調査(8)(9)(10) そのような観点からすると、ある製品等において、どのような観点、着眼点で他 者が特許出願をして、権利化をしているのか、そして、存在し得る特許権等はど のような権利範囲のものであるか、ビジネスにおける重要性が高いものを優先し て想定することが重要であると筆者は考える。 想定していない観点については、侵害予防調査における検索式などの入力に反映 することが原則としてできないし、たまたま当該観点に関する特許権等を抽出で きたとしても、それ以外の特許権等が存在するかしないかは、何ら担保されるも のではない。 そして、侵害予防調査は、リスクとなり得る特許権等を見つけるだけでは、真の 目的を達成できたとは言えない。 侵害予防調査では、単なる特許文献の抽出と評価に留まらず、特許請求の範囲に 記載された発明の認定、クレーム解釈(12)、対象となる製品やサービスとの対 比、当該特許権等の有効性の評価、回避策の検討など、法的知見に基づいた高度 な検討スキルが求められる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 18
3.2 侵害予防調査(8)(9)(10) つまり、侵害予防調査をする際には、先行技術調査と同様、ある製品等について どのような発明があるのか検討し、存在し得る特許権等を想定して、何を探すの か、ある製品等が含まれ得る発明を、いかに言語化をするかという点が非常に重 要であると言える。 ここでも、「発明の言語化」という知財人材が普段から何気なく行ってい るタスクが非常に重要な役割を果たすと筆者は考えている。 そして、生成AIを活用することで、特許権等の抽出、評価が効率化され、調査 対象の製品等が、検討対象の特許権等に係る発明の技術的範囲に属するか否か、 判断をすることに、人は、より一層注力することができるようになっていくであ ろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 19
3.3 無効資料調査(13) 無効資料調査とは、特許権等に係る発明について、その有効性を否定するための 先行技術等を調べる調査である。 無効資料調査の目的は、そのタイミングに応じて様々である。権利化前であれば、 その出願に係る発明について、審査官が拒絶理由を通知できるような先行技術を 調査することが目的となる。権利化後であれば、その特許権に係る発明について、 無効理由を主張できるような先行技術を調査することが目的となる。 無効資料調査の真の目的は、ある製品等に関するビジネスを行う上で、障害とな り得る特許権等に係る発明の技術的範囲から、当該製品等が外れるような拒絶理 由、無効理由を主張することで、当該特許権等に係る発明を訂正で減縮させたり、 無効化することで、特許権侵害のリスクを小さくしたり、除去したりすることに ある。 無効資料調査の対象となる特許権等に係る発明の新規性、進歩性を、文言上、否 定できる先行技術を単に収集するのみでは、出願人・特許権者が補正・訂正をす ることによって、新規性欠如、進歩性欠如の拒絶理由・無効理由を解消されてし まい、依然として製品等は、特許権等に係る発明の技術的範囲から外れず、特許 権侵害のリスクは除去できないことになる ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 20
3.3 無効資料調査(13) 無効資料調査の真の目的を達成するためには、無効化の対象となる特許権等に係る 発明の認定のみならず、当該特許権等に係る発明の技術的範囲に含まれ得る製品等 との関係の理解が不可欠である(14)。 具体的には、特許権侵害訴訟の場面を想定し、無効論を単独で検討するのではなく、 属否論と併せて検討することが不可欠であり、単に文言上、新規性を否定できる先 行技術や、訂正で解消可能な無効理由しか主張できない先行技術を調査するだけで は不十分である。 つまり、想定される特許権者の主張を人が検討し、当該特許権による権利行使が裁 判所によって認めないように、新規性、進歩性の観点だけではなく、記載要件(サ ポート要件、実施可能要件、明確性)違反の観点からも無効理由のロジックを構築 するための証拠収集が求められる。 人が無効理由のロジックを構築するために必要となる証拠を検討すれば、必要な証 拠が明確になるため、生成AIを活用して情報を収集・分析するDeep Res earchを行うことで、効率よく証拠を収集できるし、証拠収集と評価のサイク ルをスピーディーに回すことができるので、人は無効論のロジックを構築すること に、より一層注力することができるようになっていくであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 21
3.4 技術動向調査(15) 技術動向調査とは、ある特定の技術分野やテーマに関連する特許情報や非特許情 報を体系的に収集・分析し、企業、技術、市場の動向や、自社、他社のポジショ ニングなどを分析する調査である。 技術動向調査の目的は、様々である。ある製品等の開発に参考となる技術動向を 知ることが目的となる場合もあれば、競合他社の動向把握が目的となる場合もあ れば、自社のポジショニング、強み・弱みを競合他社と比較して把握することが 目的となる場合もあるし、今後の開発の方針を策定するためのニーズ探索、ホワ イトスペースの探索が目的となる場合もある。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 22
3.4 技術動向調査(15) 技術動向調査・分析の真の目的は、ある技術テーマに関して、競合他社、自社の 状況、トレンドを把握し、ビジネスにおける自社の優位性を構築することにある。 単に書誌情報(出願人、出願年、特許分類、引用情報、ファミリー情報、法的ス テータス、審査経過)や、課題や解決手段、発明の特徴に関するキーワードを解 析して、グラフにするなど可視化するだけではなく、マーケット情報、ビジネス に関連する情報など、特許情報以外の情報と併せて検討を行い、分析の結果か らビジネスにおける戦略的な示唆や、具体的なアクションに結び付ける 提案が求められるであろう。 従来、技術動向調査では、検索式を作成し、それなりの規模の母集団を解析する 必要があったが、生成AIを活用することで、対象の特許情報を効率よく処理し たり、可視化をしたりすることで、情報の読み取り、解釈に注力することが可能 になり、人は調査結果、分析結果に基づく提案、意思決定に必要な洞察の 提供などの付加価値が大きい領域で、専門家としての価値を発揮できる ようになっていくであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 23
4.人が果たすべき役割 4.1 特許調査の特殊性 4.2 特許調査と人 4.3 特許調査で解決すべき課題 4.4 問いを立てることについて 4.5 問いを磨くことについて 4.6 生成AI時代の特許調査のPDCAサイクル 4.7 問いと生成AI 4.8 仮説から逆算した情報収集 4.9 課題解決のためのアクションの実行 4.10 調査に携わるメリットと調査スキルの向上 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 24
4.人が果たす役割 前章で私見を交えて述べたように、特許調査は、単に情報を収集したり、抽 出したりする作業ではなく、ビジネスにおける何らかの課題を解決するた めの手段である。特許調査は手段であるが、ビジネスを行う際の様々な局面で必 要な業務、重要な業務であることに変わりはない。要求されるスキルや視点は サーチャーとは異なるかもしれないが、専門家である知財人材の調査への関与の 仕方、技術的並びに法律的な専門知識が、調査結果の質を左右するであろう。 特許調査の課題や目的が曖昧なまま調査が実行された場合、どれだけ多くの資 料・情報を集めたとしても、結果をどう解釈し、どのようなアクションにつなげ るべきかが見えなくなってしまう。そのような状況に陥らないためにも、技術、 法律、ビジネスを横断的に理解し、特許調査の課題と目的を明確にし、解 くべき問いを立て、調査の位置づけを的確に設計、調整できる専門家の介 在が不可欠である。 特許調査を単に行うのではなく、何のために特許調査を行うか、特許調査によっ て何を解決したいのか、解くべき問いを明らかにし、特許調査の発揮する価 値をを高める-その役割を担うのが、技術と法律とビジネスを橋渡しする 専門家である人であると筆者は考える。 本章では、人の果たすべき役割について論じる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 25
4.1 特許調査の特殊性 特許調査は、情報検索の知識・スキルが必要ではあるものの、前提として技術の理 解が不可欠であり、調査結果を有効に次のアクションに活かすには、法律的知識も 求められる。 特許分類の知識、調査データベースの使い方など、情報検索のスキルの特殊性から、 調査を専門とする調査会社やサーチャーに特許調査を依頼することが多いと筆者は 感じている。 一般的な特許事務所では、クライアントから特許調査を依頼された際に、簡単な調 査(例えば、出願前の先行技術調査)であれば弁理士が自ら調査を行うことはある が、本格的な侵害予防調査や無効資料調査は、弁理士が自ら調査を行う代わりに外 部の調査会社や専門サーチャーに外注することが通常であろう。 しかし、このように分業されて役割分担がされてしまうと、特許調査の真の目的が 正確に伝達され、背景に潜む情報も踏まえて解決すべき課題を解決するような特許 調査を実行できるであろうか。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 26
4.1 特許調査の特殊性 例えば、特許調査の依頼者(企業の知財担当者)、 調査依頼を受ける主体(特許事務所)、 調査の担当者(調査会社のサーチャー)、 調査の結果を検討する主体(特許事務所の弁理士)、 調査の結果に基づいたアクションを実行する主体(書面を作成する法律事務所の弁 護士)が異なる場合を想定すればわかるように、 各主体の技術に対する理解、背景にあるビジネスへの理解、法律的知識、調査の基 本的な考え方や知識は大きく異なるであろう。そのような状況で、調査の真の目的 を実現することは非常に困難であることが想定される。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 27
4.2 特許調査と人 筆者は、特許調査において、弁理士が調査の基本的事項を理解し、特許調査におい て、主体的な役割を果たすことの重要性を主張し続けてきた(16)。 なぜ、多くの弁理士は、積極的に特許調査を行わないのか、その理由を考えると、 特許事務所の弁理士は主な業務が出願代理であることや、そもそも、特許調査は サーチャーの仕事であり、分業が行われてきたという慣習もあるだろう。 また、特許調査のスキルの特殊性から、安易に特許調査を行うことが躊躇われると いう事情もあると筆者は感じている。また、先行技術調査については、特許出願の 相談を受けた発明の新規性、進歩性を否定する先行技術が見つかった場合に、特許 事務所として出願の依頼が無くなってしまうという事情もあるかもしれない(この 場合、依頼者の真の利益とは何か、受講者の皆様には、考えて頂きたい)。 特許調査のスキルに関しては、生成AIの登場により、調査それ自体のハードルが 大きく下がろうとしている。また、特許事務所として、クライアントに対して提供 する価値は、出願権利化のみではなく、調査を踏まえ、クライアントにとって、ビ ジネスにおいて真に意味のある価値の提供であるべきである。先行技術調査の結果 を踏まえ、どのような観点で出願を検討すべきか、いかなるポイントで開発をすれ ばよいのか、場合によっては出願をしないことも提案するような、クライアントに とって真に利益となるアドバイスを行うことが必要であると筆者は考えている。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 28
4.3 特許調査で解決すべき課題 「特許調査は手段であり、目的ではない」のであり、特許調査の目的は、何ら かの課題、問題の解決である。しかし、解決すべき課題、解くべき問題が何である かを特定することは、非常に難しいと筆者は考える。 特許調査を行うこと、それ自体が目的となっている場合、解決すべき課題が本質的 に解決されることは難しく、調査結果に基づくアクションを意味のある形で実行す ることは困難となる。 例えば、特許第○○○○○○○号(対象特許権)の請求項1について、無効資料調 査を依頼された場合を想定する。 依頼者の製品等の詳細を聞かずに、対象特許権の請求項1に記載の発明について、 無効資料を探す場合、新規性を否定するために、文言上、請求項1の構成要件の全 てが記載された文献や、進歩性を否定するために、請求項1の構成要件が記載され た文献の組合せを探すことになるであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 29
4.3 特許調査で解決すべき課題 しかし、文言上、新規性を否定できる文献が見つかったとしても、依頼者の製品 等を権利範囲に含めつつ、新規性欠如の無効理由を解消するような訂正を行うこ とは容易であろう。 また、請求項1の構成要件が記載された文献の組合せをサーチャーが見つけたと して、進歩性欠如の無効理由を主張するための動機づけまで詳細に検討がされて いるとは限らない。この場合、無効資料調査の真の目的を達成すべく、障害とな り得る特許権等に係る発明の技術的範囲から、依頼者の製品等が外れるような拒 絶理由、無効理由を主張することは難しい可能性が高い。 この無効資料調査で、解くべき問いは何であったかと言うと、依頼者の製品等が 対象特許権の請求項1に係る発明の技術的範囲に属さないような訂正をさせること や、完全に無効化することにあった。単に、新規性・進歩性を否定できる文献を 探すことは、真に解くべき問いではなかったのである。 この例は、あくまでも仮想的な喩え話であるが、特許調査において、解決すべ き課題、解くべき問いを特定することは、非常に重要であると筆者は日頃 の実務を通じて痛感しており、生成AIを活用する際に大きな意味を持つ。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 30
4.4 問いを立てることについて 特許調査では、何かしらの課題、問題を解決することが大切である。すな わち、「問い」を立てる必要がある。 数学者であるジョージ・ポリア(George Polya)が1945年に著し た、「いかにして問題をとくか(現著名:How to Solve It)」(1 7)では、問題解決のアプローチを以下の4つのステップで整理している。 第1 問題を理解すること(18) 第2 第3 第4 計画をたてること 計画を実行すること 振り返ってみること まず冒頭に、問題を理解することが挙げられている。解くべき問い理解するには、 解くべき問いを立てること、直面している(とはいえ、はっきりは見えてはいな い)課題、問題は何であるのかを特定することが前提となる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 31
4.4 問いを立てることについて 特許調査においても、解くべき問いを立てることは非常に重要である。その問いを 立てることができるのは、誰であろうか。調査の依頼をしたクライアントの知財担 当者や事業部の担当者であろうか、調査を行うサーチャーであろうか。特許調査に おいて、問いを立てる役割の一翼を担うべきは、弁理士であると筆者は考える。 特許調査に関する技術を理解でき、特許制度に明るく、進歩性や記載要件、侵害訴 訟における法的な論点に詳しく、依頼者のビジネスに詳しい弁理士こそが、問いを 立てることに関与し、問いを磨くことができるのではないだろうか。そして、特許 調査によって、問いを解決するべくアクションを実行するのは弁理士である。 特許調査において、解くべき問いを意識せずに、ひたすら調査の実行(Do)を繰 り返しても、問いは解けない。その特許調査は、何に答えを出すのか、明らか にする必要がある(19)(20)。その特許調査により、何に答えを出す必要があ るのかを検討してから、そのためには何を特許調査で明らかにするのか、という流 れで調査を設計していくのである。 そもそも、特許調査で何らかの問いを解くことを意識していたとしても、その問い が解くべき問いではなかったとしたら、その特許調査を行っても、真に解くべき問 いを解いたことにはならない。 必要なのは、立てた問いを磨き、解くべき問いを見極めることである。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 32
4.5 問いを磨くことについて 特許調査において、問いを立て、調査の目的を明確にし、問いを磨くことで、真 に問うべき事項を特定して調査を実行することが、重要である。 特許調査の目的が曖昧だと、どれだけ時間をかけても、費用を費やしても、調査 結果に基づいてアクションを実行しても、本質的な問題解決には至らないであろ う。 無効資料調査では、請求項に記載の発明のどの構成要件が新規性・進歩性の観点、 従来技術との差異としてポイントとなっていて、実施可能要件やサポート要件と いった記載要件との関係で考慮すべき事項は何であるのか、構成要件を表面的に 探すだけでは、真の意味で無効化はできない。 問いを立てることで、何が問題解決に必要であるのかが明確となり、調査の設計、 調査戦略の策定が可能となり、検索式や、検索手法にも反映させることができ、 調査の結果見つかった情報を評価する軸も定まるであろう。 問いを立てることは、特許調査において進むべき進路を定めるコンパスを手にす ることと同義である。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 33
4.5 問いを磨くことについて たとえば、ある特許権に係る発明について無効化を検討しているとして、問いを立 てることなく、問いを磨くことなく無効資料調査を行った場合、表面的な問いは、 「この請求項に記載されている構成要件が記載された文献を探す」ことになってし まう。 より本質的な問いに辿り着くには、「この請求項に記載の発明のポイントなる構成 要件と、その技術的な意義は何であるか」を検討して、問いを磨く必要がある。 磨かれた問いは、「この請求項に記載の発明と、懸案となっている製品等の関係で、 有効な無効論の主張、進歩性欠如を主張する際の動機づけは如何なるものであり、 無効論と属否論を併せて、どう論理構築をすれば、非侵害であるか、無効であるこ とを主張できるか」となる。 このように、問いを立て、問い磨くことで、単なる情報収集ではなく、問題を解決 できる特許調査が実現する。そして、問いを立て、問いを磨くことができるのは、 専門家である知財人材に他ならない。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 34
4.6 生成AI時代の特許調査のPDCAサイクル 筆者は2020年1月の論文で、特許調査のPDCAサイクルに関連して、以下の ように述べた(21)。 調査の成否を決めると言っても過言ではない計画(Plan)がしっかりしていれ ば、技術革新が目覚ましい人工知能(AI)を活用して、文献のスクリーニングを 効率的に実行(Do)することが可能になると考えています。そして、評価を適切 に行って結果をフィードバックすることにより改善することで、人間が膨大な件数 のスクリーニングを行うことが省力化できるようになるはずです。 つまり、調査をすること自体は目的ではなく手段であり、調査によって解決すべき 課題を解決して目的を達成するために、想像力(妄想力)を最大限に発揮し、調査 の計画(Plan)を立てることが調査における人間の役割となっていくでしょう。 本稿を執筆している2025年4月現在、筆者の予想が現実になろうとしているこ とを感じている。今後の特許調査のPDCAサイクルはどのようになっていくであ ろうか。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 35
4.6 生成AI時代の特許調査のPDCAサイクル 生成AIが登場する前は、特許分類とキーワードの選定、検索式の作成、スクリーニン グと言った調査の実行(Do)におけるハードルが、普通の人にとって高かった。 特許分類とキーワードの選定、それらの演算の仕方、特許検索データベースの使い方な ど、専門のサーチャーと同等のレベルで特許調査の知識、スキルを持つことは難しい。 生成AIを活用した特許調査サービス等を用いて、自然言語に基づいて検索式を構築し て検索を実行したり、スクリーニングにおいても生成AIの活用によってランキング順 に並び替えたり、目的とする文献を抽出したりすることで、調査の実行(Do)におけ るハードルは下がり、必要となる時間も大幅に節約をできるはずである。 また、調査結果の評価(Check)についても、生成AIを活用して、文献の要約を 作成して記載内容を理解したり、クレームチャートを作成したり、分析に関する示唆を 得たりすることで、業務の効率化を実現することができる。このように、生成AIを活 用することで、評価(Check)→改善(Action)→計画(Plan)の修正 →再実行(Redo)のサイクルを高速に回すことが可能となるであろう。 そのような状況で、知財人材は生成AIを活用して、出力された結果の正確性、妥当性 を評価し、新規性や進歩性の判断、特許権の技術的範囲の解釈並びに製品等との対比な ど、技術や法律の理解と解釈、判断に注力することができ、専門家としての経験と スキルをより一層活かすことで、その価値を最大限発揮できるであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 36
4.7 問いと生成AI 特許調査に限らず、生成AIの活用において、問いを立てることは、非常に重 要なスキルとなると筆者は確信している。今後、質の高い問いを立てることが できるというスキルが、特許実務は勿論、様々な場面において大きな差を生むで あろう。与えられた指示や質問(プロンプト)によって、生成AIの出力は変わ る。生成AIを活用して、特許調査を行う場合、解くべき問いは何であるのかを 理解できる者でなければ、真に有効な特許調査を実行することはできないだろう し、生成AIの出力を評価できないであろう。 生成AIは入力であるプロンプトに対して出力を返す。つまり、ユーザーの問い が入力となる。例えば、特許文献の要約をすることを想定する。生成AIに「こ の特許文献の内容を要約して」と指示をすると、表面的な要約が返ってくるかも しれない。これに対して、知財人材であれば、「この特許文献に記載されている 発明の技術的課題と、その課題解決手段について、実施例を中心に構造化して」 と指示をして、法的な評価に役立つ情報を出力させようとするであろう。 単に要約をさせるのではなく、要約のその先にある問題、例えば、ある特許文献 に記載されている発明の特徴を課題と解決手段の観点から理解をするために要約 をすることを指示できるかどうか、問いをどのように立てるかによって、出力さ れる内容の深さが変わってくる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 37
4.7 問いと生成AI また、ある分野における専門家であっても、最初から最良な問いを立てることは難 しいだろう。最初の問いが曖昧なものであったとしても、生成AIとのやり取りの 中で、問いが磨かれることで、問いが明確になっていく。技術を理解し、特許 法・審査基準・裁判例を理解し、法的な論点も知っている知財人材は、問いを立て ることができるし、問いを磨くこともできる。 無効資料調査の場面を想定してみる。最初の問いは、「この特許権の請求項1に係 る発明の内容を教えて下さい」だとする。生成AIとの対話の中で、問いが磨かれ ていくと、この特許権の請求項1に係る発明の、この構成要件の技術的意義は何で あるか、その構成要件は、先行技術と比較して、どのような点で相違するのかとい うように、問いが磨かれていくであろう。 立てた問い、そして、磨いた問いについて、知財人材が自ら調査の実行主体となる か、調査を実行する主体であるサーチャー等に説明をして調査を実施することにな る。 特許調査を実行するとは、単に特許文献を集め、整理する事ではなく、解くべき問 いを立てて、その問いを解くことで、調査によって達成すべき目的を達成すること である。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 38
4.8 仮説から逆算した情報収集 解くべき「問い」を立て、問いが磨かれていれば、どうすれば問いを解くことができる のか、課題を解決する際に、解像度の高い仮説を持つことができる。特許調査に限らず 情報収集は、アウトプットを前提とし、仮説を持って必要な情報を逆算して収集するこ とが有効である(22)。 先行技術調査では、調査対象となる発明に対し、どのレベルの先行技術が存在し得るの か想定をして、想定される先行技術が存在するか否か調査報告書で新規性、進歩性の判 断をすることを意識して、調査を設計し、調査を実行する。 侵害予防調査では、調査対象となる製品等に対して、どの観点でどのような特許権等が 存在し得るのか想定をして、想定した観点について、どのような特許権等が存在するか 否か調査報告書で見解を述べることを意識して、調査を設計し、実行する。 無効資料調査では、無効論だけではなく侵害論も意識して、懸案となっている製品等が 特許権の発明の技術的範囲に属するのであれば、進歩性欠如の無効理由を主張できるよ うな無効資料を調査することが有効であろうという仮説を持つことが有効である。 このような仮説を持って、結論が記載された調査報告書を想定して、つまり、問いが解 かれた状態を想定して、必要な情報を逆算して収集することになる。必要な情報が明確 となっていれば、生成AIを活用した特許調査、Deep Researchによる情 報収集を行うことで、自ずと問いが解ける方向へと進むであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 39
4.9 課題解決のためのアクションの実行 手元に集まった情報が問いを解決するのに足るものであるのか否か、専門家たる知 財人材が評価を行う。知財人材が評価をする際に、特許文献に記載されている内容 の評価、目的となる事項が記載されているかの判断、対象となる特許権との対比な ど、様々な場面で生成AIを活用して、少なくとも部分的には生成AIを用いるこ とで、検討を行うことが今後一般的になっていくであろう。 ここで、大切なことは、生成AIの出力である生成文をいかに読むかという ことである。入力したプロンプトによって生成された出力である、「生成文」は、 生成された文字列からなる文章に過ぎない。生成された文章を、どう読むのか は、読み手次第で大きく異なるであろう。 経験やスキルを活かし、正しく、生成文を読んで理解をし、問いに未解決の部分が あるかどうかを判断し、必要に応じて修正を加えたり、タスクを再度回したりこと で問いを解決する、といったことが専門家である知財人材に求められていくと筆者 は感じている。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 40
4.10 人が調査に携わるメリットと調査スキルの向上 ここまで述べてきたように、人が特許調査で果たすことができる役割は非常に大 きく、生成AIの時代には専門家である知財人材の果たす役割がより重要となる と筆者は考えている。 従前、特許調査の難しいといった印象や、特許調査はサーチャーが行うものとい う慣習の影響であるかは定かではないが、特許調査を業務の主軸とする弁理士は、 出願権利化を業務の主軸とする弁理士よりも少ないことは間違いないであろう。 しかし、特許調査で大切なことは、解くべき問いを立てること、立てた問いを技 術的、法律的な知見に基づいて磨くことである。 そして、弁理士が特許調査に主体的に関与することは、何よりもクライアントに とって大きなメリットがある。普段から、出願権利化を依頼している弁理士であ れば、クライアントの技術、ビジネスについて詳しく、競合となる主体、それら の技術の特徴なども、知っているであろう。 そして、次の章で詳細を説明するが、特許調査の結果、取るべきアクション、例 えば侵害予防調査の調査結果を見て、リスクが高いと判断した特許権等があれば、 そのまま侵害鑑定、無効鑑定と言った鑑定業務を行うことができる。また、無効 資料調査では、調査で有効な文献が見つかれば、そのまま情報提供、特許異議申 立、無効鑑定、無効審判請求など、スムーズに書面作成へと進むことができる。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 41
4.10 人が調査に携わるメリットと調査スキルの向上 特許調査は手段であり、目的ではないことを忘れてはならない。何かしらの問いが あるはずであり、その問いを明確にした上で、問いを解くことが求められる。 特許調査の準備段階で、問いを正しく立てられていれば良いが、実際に問いを解決 すべくアクションを実行する主体ではない者が、正しい問いを立てられるかという と、筆者は難しいと感じる。 アクションを実行しない者、そもそもアクションを実行したことがない者に、問い を立てることを任せることは専門家である知財人材として、正しい判断であろうか。 大切なことは、調査結果から、問いを解くべくアクションを実行することであり、 有効なアクションを実行できるに足る調査結果が得られているかにある。 調査結果を、どう活かすかまで見据えて問いを立て、調査を設計できるのは、技術 と法律の両面に精通する専門家ならではの強みであろう。 特許調査における困難性としては、特許分類、キーワードを組合せて演算をする検 索式の作成はもちろん、多くの特許文献をスクリーニングする時間の確保が難しい こと、スクリーニングに時間がかかることが挙げられるであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 42
4.10 人が調査に携わるメリットと調査スキルの向上 これら特許調査における困難性を、生成AIが解消し得ると筆者は考えている。 もちろん、特許調査の基礎知識は必要であるが、生成AIを活用することで検索 式の作成を補助、実行できるし、ノイズ除去や文献抽出に生成AIを活用するこ とでスクリーニングを効率化できるであろう。 また、調査業務に携わることで、知財人材としてのスキル向上にもつながる。 特許調査を通じて得た知見に基づいて、クレームドラフティングや権利化におけ る中間対応、無効化業務における説得力のある主張など、強い特許、有効な主張 とはいかなるものか、といった感覚が自然と養われていくであろう。 以上のように、特許調査を理解し、特許調査の指揮者として積極的に携わること は、クライアントに提供するサービスのクオリティが向上するのみならず、専門 家としての付加価値の向上にも直結すると筆者は考える。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 43
5.実務における特許調査の仮想事例 5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 5.7 5.8 5.9 依頼者からの相談 特許分析 侵害予防調査と先行技術調査 特許出願 侵害鑑定 無効資料調査 無効化業務 係争対応 その後 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 44
5.実務における特許調査の仮想事例 特許調査は単に特許文献を探すというタスクに留まらず、調査の結果に基づい て、様々なアクションを検討し実行することで価値が発揮されることを筆者は 実感している。 以下では、弁理士が特許調査を行うことのメリットを、仮想的な事例に基づい て説明をする。あくまでも仮想的な事例をわかりやすく、端的に示すことを優 先しており、厳密性を欠く点があることはご留意頂きたい。 登場人物などは以下のとおりである。 ・弁理士A:出願権利化、無効化、各種特許調査を扱う弁理士 ・顧客B社:新製品Xを企画し、販売する弁理士Aの顧客 ・競合C社:特許権P1を保有、顧客B社の競合企業 ・競合D社:特許出願P2を出願中、顧客B社の競合企業 ・取引先E社:顧客B社の取引先 ・サーチャーF:特許検索競技大会で最優秀賞を受賞、弁理士資格を保有 ・弁護士G:弁理士Aの所属する特許事務所と提携する知財弁護士 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 45
5.1 依頼者からの相談 弁理士Aは、顧客B社から、ある分野における新製品Xを企画しており、特許調 査の依頼を受けた。新製品Xは、これまで顧客B社が扱ったことのない分野の製 品である。 そもそも、何を調査すればよいのか。ここで、問いを立てる必要がある。新製品 Xについて、関連する先行技術が存在するか否かを検討する先行技術調査をして、 特許出願をした場合に、特許権を取得できるか否かを検討することが思い浮かぶ かもしれない。 しかし、特許権を取得したからと言って、顧客B社が新製品Xを販売する際のリ スクは依然として残る。 企画中の新製品Xは、顧客B社がこれまでに取り扱ったことのない分野の製品で ある。 当該製品の分野において、まずは、どのような競合企業がいて、どのような特許 出願がされているのか、どのような特許権が成立しているのかを調べる必要があ ると弁理士Aは考えた。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 46
5.2 特許分析 弁理士Aは、この新製品Xの関連する分野について、マクロに分析をすることに した。 特許調査をする前に、生成AIを用いてDeep で、製品に関する情報を効率的に収集した。 Researchを行うこと 生成AIを活用して検索式を作成して検索を行い、母集団を得た。 得られた母集団を、生成AIを活用した分析を行って(23)(24)、課題、技術 的特徴などの観点を洗い出し、独自の分類を構築して、出願人毎に着目している 課題等を可視化することで分析をした。 マクロ分析に基づいて、検討すべき主体となる競合企業、出願が多くなされてい る観点、着目されている課題などを洗い出すことができた。 そして、マクロ分析の結果から、再度、生成AIを用いてDeep Resea rchを実行するブーメラン分析をすることで(25)、今回の新製品Xの特徴、 今後の開発の方針が明確になった。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 47
5.3 侵害予防調査と先行技術調査 新製品Xの特徴として明確になった、いくつかの技術的な観点を中心に、侵害予 防調査を行ことにした。 この時、ステータスが生存中の特許権等に絞り込むことなく、新製品に関する特 徴と考えられる観点について、先行技術となり得る文献もピックアップすること にした。 侵害予防調査の結果、検討すべき特許権等がいくつか見つかった。 それと同時に、既に特許権が満了しているか、権利が成立する可能性が極めて低 い、大部分がパブリックドメイン(自由実施技術)となっている安全な領域を見 出すことができ、ビジネスを行う上で、リスクが低い範囲を見極めて提案するこ とができた。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 48
5.4 特許出願 特許分析の結果、競合企業に着目されていない観点について、顧客B社は、秘匿 化できるものはノウハウ化し、秘匿化が難しく、権利化できそうな観点について は、網羅的に複数件の特許出願を行うことにして弁理士Aに代理を依頼した。 このとき、弁理士Aは、再度、生成AIを活用して、先行技術調査を行った(2 6)。 見つかった先行技術文献を検討し、新規性、進歩性の観点から技術的な特徴を明 確にした上で出願書類を作成して出願を行った。 出願書類を作成する時点で、特許分析、侵害予防調査、先行技術調査をしていた ため、新製品Xの技術分野における技術常識を把握することができており、競合 他社の明細書、特許請求の範囲の書き方も参考にしてスムーズに書類を作成でき た。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 49
5.5 侵害鑑定 検討すべきいくつかの特許権に係る発明について、弁理士Aは、顧客B社からヒ アリングを行って、オールエレメントルール(27)に基づいて検討を行った。 弁理士Aは、検討すべき特許権に係る発明が、どのような発明の技術的範囲(権 利範囲)であるかを顧客B社に説明し、侵害を回避するための対策を議論した。 検討の結果、競合C社が保有する特許権P1については、権利範囲が非常に広く、 侵害の回避が困難であり、競合D社の特許出願P2についてはビジネスの障害と なり得る可能性が高いことがわかった。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 50
5.6 無効資料調査 弁理士Aは、顧客B社と協議を行い、懸案となる特許権P1、特許出願P2につい て、無効資料調査を行うことになった。 弁理士Aは、新製品Xを意識して、無効資料として有効な資料を想定し、特許権者 が行うであろう訂正も考慮して、調査の観点、特許権P1、特許出願P2に係る発 明が解決しようとする課題など論理付けも意識して、調査の戦略を練った。 特許権P1、特許出願P2の出願経過について、生成AIを活用して効率よく検討 を行った。 弁理士Aは、綿密に調査を設計し、主張することができる可能性が高い、無効論の ロジックを想定して、特許検索競技大会で最優秀賞を受賞したこともある弁理士資 格を保有するサーチャーFと協働して調査を行った。 インターネット情報などについては、Deep Researchを行うことで補 完をした。 そして、弁理士Aは、無効対象の特許権P1、特許出願P2ともに、進歩性欠如の 無効理由、サポート要件違反の無効理由を主張できるという内容の調査報告書を作 成した。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 51
5.7 無効化業務 特許出願P2については、無効資料調査の結果を利用して、情報提供をして、拒 絶査定とすることができた。 その後、出願人である競合D社によって拒絶査定不服審判が請求されて特許出願 P2は特許査定となり特許権P2が成立した。 その後、特許権P2について、特許査定となったポイントとなる構成について、 発明が解決しようとする課題(28)に着目して追加で無効資料調査をし、特許異議 申立をした。 特許異議申立の結果、特許権者である競合D社は、訂正請求をすることで、特許 権P2に係る発明を減縮したので、新製品Xは、当該特許権P2に係る発明の権 利範囲に含まれなくなった。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 52
5.8 係争対応 顧客B社は、新製品Xを販売するに際し、取引先E社から、特許権P1に関して、特許権 侵害のリスクを指摘された。顧客B社の依頼を受けた弁理士Aは、無効資料調査の結果に 基づいて、無効鑑定書を作成した。 新製品Xの販売後、特許権P1の特許権者である競合C社から、警告状が顧客B社に届い た。弁理士Aは、提携する弁護士Gとともに顧客B社を代理して、競合C社との交渉を 行った。 しかし、交渉が決裂し、競合C社から、顧客B社を被告とする特許権侵害訴訟が提起され た。侵害訴訟付記代理の資格を持つ弁理士Aは、弁護士Gと共同して特許権侵害訴訟と特 許無効審判の受任をした。 弁理士Aは、無効資料調査の結果に基づいて、無効審判請求書を作成し、無効審判を請求 した。侵害訴訟について、弁理士Aは、無効審判における無効論の主張に加え、侵害論に ついても弁護士Gと議論をして、準備書面を作成して、訴訟を進行した。 結果として、無効審判では、進歩性欠如の無効理由があるとして無効審決を得ることがで き、侵害訴訟では、被告製品(新製品X)は特許権P1の技術的範囲に属しないとして勝 訴した。 その後、無効審判の審決取消訴訟、侵害訴訟の控訴審についても、弁理士Aと弁護士Gは、 引き続き代理をした。その結果、控訴人である競合C社の主張は認められず、顧客B社は 勝訴を勝ち取ることができた。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 53
5.9 その後 このように、顧客B社の新製品Xについて、最初の特許調査の依頼から始まり、 様々な業務を行う必要性が生じ、弁理士Aが主担当となり、侵害訴訟まで一気通貫 で業務を行った。 その結果、顧客B社の新製品Xは、大ヒット商品となり、ビジネス的に大成功を 収めることができた。 この仮想事例から、各場面で特許調査が重要な役割を果たしていること、そして、 各種特許調査は何らかの課題を解決するための手段であり、弁理士Aは各場面で必 要なアクションを実行することで、1つ1つの問いを解いて、課題を解決している ことがわかる。 弁理士が特許調査を行うことについて、その意義、メリットを少しでも感じて頂け ば幸いである。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 54
6.おわりに 「特許調査は手段であり、目的ではない」とい うことが、多くの人にとってこれまで以上に重 要性を増していくことは間違いない。 生成AIの登場によって調査のプロセスが変 わったとしても、ビジネスにおける課題を解決 し、事業を成功に導くためには、人の知見や判 断力、そして「問う力」が欠かせない。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 55
6.おわりに 本セミナーでは、「特許調査は手段であり、目的ではない」という筆者の想う原点 に立ち返りながら、各種特許調査、具体的には、先行技術調査、侵害予防調査、無 効資料調査、技術動向調査において、知財人材が主体的に関与し、問いを立て、 問題解決に繋げていくべきであることを論じた。 そもそも特許調査を行うのは、企業や依頼者が直面している「課題」を解決するた めであるにもかかわらず、調査そのものが目的化してしまうと、問題解決に 資する情報を十分に想定できないという事態が生じかねない。 そこで重要となるのが、調査を行う前に、人が解くべき問いは何であるのか、問い を立て、立てた問いを磨き上げることであることを述べた。 生成AIの著しい進歩によって、従来は専門的な検索ノウハウや膨大な時間が必要 であった特許調査のハードルが下がり、特許調査の実行が効率化される時代にこそ、 知財人材が担うべき役割は、より本質的な問題を見極め、解くべき問いを 定め、必要なアクションへつなげることにシフトするであろう。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 56
6.おわりに また、問いを磨いて、解像度を高めて調査を設計・実行すれば、生成AIを活用し た検索式の作成やスクリーニングを活用することで、調査のPDCAサイクルを高 速で回すことが可能となり、調査結果のクオリティも飛躍的に向上することになる。 さらに、特許調査の過程で得られる多面的な知見は、クレームドラフティングや中 間処理、無効審判や侵害訴訟といった係争業務など、知財人材としての中核をより 強固に支える基盤となると同時に、周辺業務に幅が広がることにもなる。 特許調査の結果に基づいて問いを解決するためのアクションを実行できる ことが、専門家としての知財人材の価値となる。 「特許調査は手段であり、目的ではない」ということが、多くの人にとってこれま で以上に重要性を増していくことは間違いない。 生成AIの登場によって調査のプロセスが変わったとしても、ビジネスに おける課題を解決し、事業を成功に導くためには、人の知見や判断力、そ して「問う力」が欠かせない(29)。 本セミナーが、受講者にとって、特許調査の在り方や、人としての関与の仕方を見 直す一助となり、今後の実務において少しでも参考となれば幸いである。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 57
参考文献(1/3) (1)角渕由英、新春特別寄稿 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~、 知財ぷりずむ、Vol.18,No.208、p.8-38 (2020) (2)角渕由英、改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ、p.3-12、 一般社団法人 経済産業調査会 (2022) (3)大瀬佳之,大規模言語モデルの特許実務における利活用、 パテント、Vol.76、No.13、p.22-41 (2023) (4)ウェイン・C・ブース,グレゴリー・G・コロンブ,ジョセフ・M・ウィリアムズ, ジョセフ・ビズアップ,ウィリアム・T・フィッツジェラルド,リサーチの技法、 p.36、ソシム (2018) (5)野崎篤志、特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版、 一般社団法人 発明推進協会 (2019) (6)酒井美里、特許調査入門 第三版 サーチャーが教えるJ-PlatPatガイド、 一般社団法人 発明推進協会 (2020) (7)小島浩嗣、技術者・研究者のための特許検索データベース活用術[第2版]、 p.101-148、秀和システム (2022) (8)静野健一、特許調査、特に権利調査における現状と課題、情報の科学と技術、 Vol.65、No.7、p.284-289 (2015) (9)東智朗、尼崎浩史、できるサーチャーになるための特許調査の知識と活用ノウハウ、 p.191-197、オーム社 (2015) (10)角渕由英、侵害予防調査についての一考察、パテント、Vol.77、No.2、p.83-100 (2024) (11)佐藤総合特許事務所HP、企業における特許侵害を予防するためのFTO調査のススメ (2024年7月27日)
参考文献(2/3) (12)永野周志、注解 特許権侵害判断認定基準、ぎょうせい (2015) (13)角渕由英、第三者特許の無効資料調査の留意点、Vol.73、No.9、p.1143-1148 (2023) (14)潮見坂綜合法律事務所、桜坂法律事務所、初心者のための特許クレームの解釈、 p.312-319、日本加除出版 (2020) (15)野崎篤志、特許情報分析とパテントマップ作成入門 第3版、一般社団法人 発明推進協会 (2023) (16)角渕由英、弁理士のための特許調査の知識、Vol.75、No.5、p.3-15 (2022) (17)G.ポリア、いかにして問題をとくか、丸善出版 (1975) (18)前掲注17、問題を理解することについて、ポリアは、以下の項目を挙げている。 ◇未知のものは何か、与えられているもの(データ)は何か、条件は何か。 ◇条件を満足させうるか、条件は満つものを定めるのに十分であるか。 ◇図を掛け、適当な記号を導入せよ。 ◇条件の各部を分離せよ、それをかき表すことができるか。 (19)安宅和人、イシューからはじめよ[改訂版]、英治出版 (2024) (20)前掲注19、p.45、イシューを見極める、『いろいろな検討をはじめるのではなく、 いきなり「イシュー(の見極め)からはじめる」ことが極意だ。つまり、「何に答えを出 す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにするのか」とい う流れで分析を設計していく。…(中略)…問題はまず「解く」ものと考えがちだが、 まずすべきは本当に解くべき問題、すなわちイシューを「見極める」ことだ。』とある。 (21)前掲注1、p.18
参考文献(3/3) (22)中崎倫子、大学図書館司書が教えるAI時代の調べ方の教科書、中央経済社 (2024) (23)上村侑太郎、サマリア分類支援機能を特許情報分析に活用、 サマリアウェビナーセミナー資料 (2024) (24)川上成年、生成AIの特許データ分析への活用について、 日本マーケティング学会ワーキングペーパー、Vol.9、No.19 (2023) (25)山内明、IPランドスケープ3.0、Japio YEAR BOOK 2019、 p.216-225 (2019) (26)安藤俊幸、AIを用いた効率的な特許調査方法-生成系AIを活用した特許情報活用の 新パラダイム-、Japio YEAR BOOK 2024、p.218-229 (2024) (27)前掲注2、p.111-118 (28)高石秀樹,特許法上の諸論点と,「課題」の一気通貫(サポート要件・進歩性判断にお ける「課題」を中心として)Vol.72,No.12(別冊No.22),p.115-143 (2018) (29)本稿は、特許調査に特化して執筆されているが、他の弁理士業務においても、 問いを立て、問いを磨き、問いを解決するためのアクションを実行できることが、 弁理士の価値であり、生成AIの登場によって業務のプロセスが変わったとしても、 ビジネスにおける課題を解決し、事業を成功に導くためには、弁理士の知見や判断力、 そして「問う力」が欠かせないと筆者は考える。
有料セミナーのお知らせ <生成AI対応リニューアル版> プロのサーチャー弁理士が手の内を明かす、侵害予防調 査と無効資料調査の実務的ノウハウ ~ 調査の実務的ノウハウを学び、生成AIを正しく 最大限に活用する方法 10/10(金) 10:00~16:00 この度、前回の当該セミナーを ベースに、生成AI活用に関する内 容を大幅にアップデートして、新 たなセミナーとして開催させて頂 くこととなりました。 生成AI活用には、前提として、実 務の基本的な理解が必要不可欠で す。 調査に生成AIをどのように活用す べきか悩む方々はもちろん、特許 検索の初中級の方も参加いただけ ますし、一通り調査の知識を身に 付けた上級者の方が、更に高いレ ベルに至るための知識を得ること も期待できると思いますので、特 許調査に関わる方は、ぜひご参加 ください。 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 61
著作物一覧→ 最近の著作物 ・「特許調査における弁理士の役割」(パテント, 2025.8) ・「侵害予防調査についての一考察」(パテント, 2024.2) ・「第三者特許の無効資料調査の留意点」(知財管理, 2023.9) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 62
生成AI関連の記事 知財実務情報Lab.🄬🄬の記事 noteマガジン 特許調査における生成AI活用 ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 63
本日はセミナーにご参加いただき ありがとうございました。 弁理士法人レクシード・テック パートナー 角渕 由英 弁理士・博士(理学) ©2025 LEXCEED GROUP. ALL RIGHTS RESERVED. 64