競馬観戦時における忘却を考慮したパズル型勝負服記憶支援手法のレース映像を用いた検証

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November 26, 25

スライド概要

競馬観戦において騎手が着用する勝負服で競走馬を識別するニーズがある.しかし勝負服には似ている服が多く存在するうえ,毎レース識別したい勝負服が異なるため,似た勝負服を識別可能な程度に記憶にしたうえでレース後すぐ忘却する必要がある.我々はこれまで,勝負服を分割し元に戻すことで勝負服を記憶する,忘却を考慮したパズル型記憶促進手法を提案し検証を行ってきたが,単なる勝負服画像による検証であり実際の競馬観戦とは状況が大きく異なっていた.そこで本稿では,提案手法の有効性をさらに検証するため,競馬のレース動画から切り抜いた短時間のループ映像と静止した勝負服画像群から記憶した勝負服を選択する再認実験を塗り絵手法と比較して行った.結果より提案手法は塗り絵手法より高い正答率であった.また主観評価により,塗り絵手法の方が前回の勝負服を忘れることができないと評価され,勝負服を正面から見る場合において塗り絵手法は正答率を落とすことが明らかになった.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

競⾺観戦時における忘却を考慮した パズル型勝負服記憶⽀援⼿法の レース映像を⽤いた検証 明治大学 宮崎勇輝 中村聡史

2.

研究背景 • 競馬観戦中、自分の応援する馬をレース中に探す必要がある • 馬番・帽色・毛色・勝負服などを頼りに着目馬を見つける 帽色 馬番 勝負服 毛色 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX 1

3.

研究背景 通常、馬番で各競走馬を識別することが多いが 馬体の影に隠れて馬番が見えない状況は頻繁に起こり得る 見えない 馬番 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX 2

4.

研究背景 通常,馬番で各競走馬を識別することが多いが 馬体の影に隠れて馬番が見えない状況は頻繁に起こり得る 着目している競走馬を見つけることができないと 見えない レース観戦の楽しさが減少してしまう! 馬番 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX 3

5.

研究背景 • トラッキングシステムは各競走馬の位置把握が容易 • ゴール直前では表示が消失・大型スクリーンを見てしまう • システムに頼りすぎると競走馬の競り合いを直接自分の目で 観戦することは難しい JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX JRA公式チャンネル「2024年 凱旋門賞(G1) | ブルーストッキング | JRA公式」https://youtu.be/pGraxDBcfDM?si=2goLroe3HdWFo-7F 4

6.

研究背景 勝負服は種類が多く、馬番やトラッキングシステムが見えなくても ほとんど一意に識別することができる 勝負服 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX 5

7.

研究背景 大まかに勝負服を記憶していると 似ている勝負服が複数頭出走している時に困惑することもある JRA公式チャンネル「2025年 京都金杯(G3) | サクラトゥジュール | JRA公式」https://youtu.be/4s8lVSLwKPM?si=mMXakbiehTtZ̲f56 6

8.

研究背景 大まかに勝負服を記憶していると 似ている勝負服が複数頭出走している時に困惑することもある 似ている勝負服を識別可能にして 競馬観戦することが重要 JRA公式チャンネル「2025年 京都金杯(G3) | サクラトゥジュール | JRA公式」https://youtu.be/4s8lVSLwKPM?si=mMXakbiehTtZ̲f56 7

9.

研究背景 競馬場は1日で複数回のレースが施行される 応援する競走馬や騎手の勝負服はレースごとに異なる場合が多い 1R目 3R目 2R目 4R目 同じ勝負服が出走 8

10.

研究背景 競馬場は1日で複数回のレースが施行される 応援する競走馬や騎手の勝負服はレースごとに異なる場合が多い 1R目 3R目 2R目 4R目 覚えた勝負服を レース後すぐに忘れる必要がある! 同じ勝負服が出走 9

11.

どういった支援を目指す? • 着目馬の勝負服をレース開始前に短時間で識別可能にしておく • レース中はシステムの補助を必要とせずに十分に観戦ができる • レース後すぐに記憶した勝負服を忘れることができる この勝負服が応援している馬であると 識別できるようにする! 着⽬⾺の勝負服 類似勝負服 10

12.

提案パズル手法 • 同じ勝負服内での交換 Ø模様や配色を覚える • 異なる勝負服間での交換 Ø勝負服間の違いを覚える 11

13.

これまでの研究(EC77) 競馬アナウンサーが塗り絵で 勝負服を記憶している事例があるため パズル手法の比較手法として用いて、 競馬特有の勝負服が見え隠れする状況 を再現した画像再認テストで検証 塗り絵⼿法 画像再認テスト 日経ラジオ社:「色鉛筆を使う楽しい職場です。」 https://www.radionikkei.jp/keibablog/150928.html 宮崎 勇輝, 中村 聡史. 競馬観戦時における着目馬識別を可能にする忘却を考慮したパズル型勝負服記憶支援手法の提案,情報処理学会 研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC), Vol.2025-EC-75, No.39, pp.1-8, 2025. 12

14.

これまでの研究(EC77) 塗り絵⼿法 パズル手法は塗り絵手法と 同程度の正答率で忘却性が高い ことが明らかになった しかし、画像による検証であったため 実際の競馬観戦とは状況が異なっていた 画像再認テスト 日経ラジオ社:「色鉛筆を使う楽しい職場です。」 https://www.radionikkei.jp/keibablog/150928.html 宮崎 勇輝, 中村 聡史. 競馬観戦時における着目馬識別を可能にする忘却を考慮したパズル型勝負服記憶支援手法の提案,情報処理学会 研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC), Vol.2025-EC-75, No.39, pp.1-8, 2025. 13

15.

実験目的 勝負服を横から見る場合や、重なって見える場合でも 提案手法が識別に有効であり、すぐに忘れることができるかを レース映像を用いて検証 14

16.

映像再認テスト • 映像から記憶した勝負服を選択するテスト • 対象は動いているため、映像を一時停止することになるが、 単純に停止すると停止中に探索を継続できてしまう • 選択直後に選択箇所以外の画面を即時に遮蔽し、他の勝負服の視認 や直後の比較を防ぐ必要がある 遮蔽なし 遮蔽あり 15

17.

映像再認テスト レースの流れによる位置推定では 勝負服の再認テストにならない 任意の順番で 記憶した勝負服を選択できるよう 記憶対象が全て出現する映像 数秒の映像では勝負服の ⾒落としが⽣じるため ループ再⽣で複数回視聴可能 レースの流れを考慮しない 短時間映像よる勝負服識別 5s 16

18.

本実験での映像再認テスト 17

19.

実験概要 • 大学生・大学院生28名 • 実験参加者間比較として各手法それぞれ14名に分け実施 • データ欠損により2名を除外し、各手法13名が分析対象者 パズル⼿法︓14名 塗り絵⼿法︓14名 18

20.

実験手順 異なるレ ースで 6回繰り 返す 練習 手法で記憶 2分休憩 映像・画像再認 テスト 1分休憩 アンケート 19

21.

手法手順 特定のレースに出走している勝負服から 3つの類似服の中から1つを正解として記憶するタスクを3回行った 1分間の時間制限があり制限時間まで次のタスクへ進まない 20

22.

結果 表︓映像再認テストにおける正解・不正解・⾮選択の件数とその割合 総選択 正解 不正解 ⾮選択 パズル⼿法 234 180 (76.9%) 36 (15.4%) 18 (7.7%) 塗り絵⼿法 234 169 (72.2%) 57 (24.4%) 8 (3.4%) Øパズル手法:76.9% Ø塗り絵手法:72.2% • 映像再認テスト選択時間 選択時間[s] • 映像再認テスト正答率 Ø手法間に大きな差はなかった パズル 全体 塗り絵 パズル 塗り絵 正解 パズル 塗り絵 不正解 21

23.

結果 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス 同勝負服選択 記憶ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 1 (2.8%) 3 (8.3%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:本来選択すべき正解識別服に類似する勝負服を選択した誤り • 忘却ミス:類似ミスに該当しない、前回の試行で記憶した勝負服に 類似する勝負服を選択した誤り • 同勝負服選択:各映像で異なる勝負服を選ぶという指示に反し 同一の勝負服を複数回選択した誤り • 記憶ミス:上記の分類に該当しない誤り 類似ミス 類似 正解 忘却ミス 映像1 映像2 同勝負服選択 映像1 映像2 22

24.

結果 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス 同勝負服選択 記憶ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 1 (2.8%) 3 (8.3%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:本来選択すべき正解識別服に類似する勝負服を選択した誤り • 忘却ミス:類似ミスに該当しない、前回の試行で記憶した勝負服に 類似する勝負服を選択した誤り • 同勝負服選択:各映像で異なる勝負服を選ぶという指示に反し 同一の勝負服を複数回選択した誤り • 記憶ミス:上記の分類に該当しない誤り 類似ミス 類似 正解 忘却ミス 映像1 映像2 同勝負服選択 映像1 映像2 23

25.

結果 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス 同勝負服選択 記憶ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 1 (2.8%) 3 (8.3%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:本来選択すべき正解識別服に類似する勝負服を選択した誤り • 忘却ミス:類似ミスに該当しない、前回の試行で記憶した勝負服に 類似する勝負服を選択した誤り • 同勝負服選択:各映像で異なる勝負服を選ぶという指示に反し 同一の勝負服を複数回選択した誤り • 記憶ミス:上記の分類に該当しない誤り 類似ミス 類似 正解 忘却ミス 映像1 映像2 同勝負服選択 映像1 映像2 24

26.

結果 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス 同勝負服選択 記憶ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 1 (2.8%) 3 (8.3%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:本来選択すべき正解識別服に類似する勝負服を選択した誤り • 忘却ミス:類似ミスに該当しない、前回の試行で記憶した勝負服に 類似する勝負服を選択した誤り • 同勝負服選択:各映像で異なる勝負服を選ぶという指示に反し 同一の勝負服を複数回選択した誤り • 記憶ミス:上記の分類に該当しない誤り 類似ミス 類似 正解 忘却ミス 映像1 映像2 同勝負服選択 映像1 映像2 25

27.

結果と考察 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 同勝負服選択 記憶ミス 1 (2.8%) 3 (8.3%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:パズル手法の方が多い傾向 • 忘却ミス:間違いとしての数が少なく大きな差はなかった Ø前回記憶した勝負服と今回記憶した勝負服が似ている場合に、類似勝負服を 選択してしまっていても、分類を全て「類似ミス」としたため • 「前回記憶した勝負服を思い出して迷うことがあったか」という アンケートにおいてパズル手法(2.38)・ 塗り絵手法(2.92)[リッカート尺度] 不正解の中でも忘却ミスによる間違いは 今回の分類より多い可能性がある 26

28.

結果と考察 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 同勝負服選択 記憶ミス 1 (2.8%) 3 (8.3%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:パズル手法の方が多い傾向 • 忘却ミス:間違いとしての数が少なく大きな差はなかった Ø前回記憶した勝負服と今回記憶した勝負服が似ている場合に、類似勝負服を 選択してしまっていても、分類を全て「類似ミス」としたため • 「前回記憶した勝負服を思い出して迷うことがあったか」という アンケートにおいてパズル手法(2.38)・ 塗り絵手法(2.92)[リッカート尺度] 不正解の中でも忘却ミスによる間違いは 今回の分類より多い可能性がある 27

29.

結果と考察 表︓映像再認テストにおける不正解を間違い内容ごとに分類した表 総不正解 類似ミス 忘却ミス パズル⼿法 36 27 (75.0%) 5 (13.9%) 塗り絵⼿法 57 40 (70.2%) 8 (14.0%) 同勝負服選択 記憶ミス 1 (2.8%) 3 (8.3%) 4 (7.0%) 5 (8.8%) • 類似ミス:パズル手法の方が多い傾向 • 忘却ミス:間違いとしての数が少なく大きな差はなかった Ø前回記憶した勝負服と今回記憶した勝負服が似ている場合に、類似勝負服を 選択してしまっていても、分類を全て「類似ミス」としたため • 「前回記憶した勝負服を思い出して迷うことがあったか」という アンケートにおいてパズル手法(2.38)・ 塗り絵手法(2.92)[リッカート尺度] 不正解の中でも忘却ミスによる間違いは 今回の分類より多い可能性がある 28

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結果と考察 表︓勝負服の⾒え⽅による映像再認テストの正答率 映像数 横(直線など) 正⾯(コーナーなど) 14 22 パズル⼿法 75.4% 79.4% 塗り絵⼿法 76.8% 65.2% 横映像(直線など) 正⾯映像(コーナーなど) 塗り絵手法は正面映像の正答率が悪かった! 29

31.

結果と考察 騎手が屈んでいるため勝負服の一部しか見えない • 塗り絵手法:特徴的な部分を記憶していたため 正⾯映像(コーナーなど) 一部分を見ただけでもそれを正解と誤認した • パズル手法:類似との差分を意識できていたので勝負服の一部分だけを 頼りに判断することが少なかった 正解 類似 塗り絵手法 星型という特徴を覚えていた 正解 類似 パズル手法 星型に加え、袖模様が違うと覚えていた 30

32.

アンケート パズル⼿法 塗り絵⼿法 パズル手法は塗り絵手法より • 手法を行う難易度が高い • 類似服との違いを意識できる • 継続して使用することへの不満感が少ない 31

33.

記述式アンケート • パズル手法の方が継続的に使用する時に面倒さを感じない • 「塗り絵して勝負服を覚えるのは楽しく感じたが、毎回やるのは 少し大変だと感じた」「塗り絵面倒だし大変」 競馬観戦時の何度も手法を行い記憶する状況では パズル手法の方が適している 32

34.

記述式アンケート パズルの完成 • 少ない色で構成された勝負服や単純な模様の勝負服が難しい Ø「全ての服が同じ2色で構成されるパズルは難しかった」 Ø「星や丸の記号が入っている服は簡単で単純な模様は難しかった」 塗り絵の完成 • 色が複数使われている勝負服や複雑な模様の勝負服が難しい Ø「色が複数使われている服は時間がかかった」 Ø「ひし形や星があると一気に難しくなった」 33

35.

考察まとめ • パズル手法は塗り絵手法より高い正答率 • 選択時間に手法間の差はない • 主観評価により塗り絵手法は忘却性が低い • 勝負服を正面から見る場合、塗り絵手法は正答率を落とす 34

36.

展望 • 大型スクリーンを見て応援や直接馬を見て応援するなど 観戦方法が映像で観戦する時とは異なる • 観戦間隔やそのレースに対する興味度 レース結果によって忘却の程度や 忘却の必要性は変化する 競馬場での実地実験により パズル手法の有効性を検証する 35

37.

まとめ 背景:競馬観戦では勝負服から着目馬を見つけるが似た服も多い 目的:パズルの要素を用いて似た勝負服を識別可能にする 実験:競馬映像を用いてパズル手法の有効性を検証 考察:パズル手法は正答率が高く、塗り絵手法は見え方による差が大きい 展望:実際の競馬観戦で有効かの検証を行う 36