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May 17, 19
スライド概要
手書きとフォントの文字形状の違いによる記憶効果の比較
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
手書きとフォントの文字形状の 違いによる記憶効果の比較 伊藤理紗 濱野花莉 (明治大学3年) 野中滉介 菅野一平 中村聡史 (明治大学) 掛晃幸 石丸築 (株式会社ワコム)
どちらが覚えやすいと思いますか? 山田花子
はじめに 我々は勉強において教科書や参考書、ノートを 利用している 学校で書いたノートを使って 教科書やテキストを 勉強した内容を振り返る 繰り返し読む 23% 24% 41% 76% 36% よくある ときどきある ない 2014年 ベネッセ教育総合研究所調べ はい いいえ 2015年 ベネッセ教育総合研究所調べ
はじめに ノートを取る際、紙に手書きする人とPCで取る人が いる ノートの取り方 PC 24% 紙のノート 76% 大学生(文理混合)108人
はじめに 教科書や参考書、ノートには様々なフォントや 手書き文字が使われている • 教科書や参考書:教科書体、ゴシック体、明朝体等 • ノート:自身の手書き文字、PCのエディタで使用するフォント 教材かノートかによって目にする文字は異なる
はじめに 教科書や参考書、ノートには様々なフォントや 手書き文字が使われている • 教科書や参考書:教科書体、ゴシック体、明朝体等 • ノート:自身の手書き文字、PCのエディタで使用するフォント 手書きと、フォントどちらが 学習素材に向いているのだろうか? 教材かノートかによって目にする文字は異なる
関連研究(手書き文字に着目) 見慣れた文字の方が納得しやすい [川上 2018] 自身の手書き文字は見慣れている 自身の手書き文字の方が納得しやすい →学習に向いている?
関連研究(手段に着目) • 手書きとタイピングでは手書きのほうが 記憶に残りやすい [ズルキフリー 2008] • 手書きとタイピングではタイピングのほうが 記憶に残りやすい [曽根 2010]
関連研究(手段に着目) 記憶効果は異なるが、書くという行為の影響が なくなった後にどちらが記憶に残りやすいかについて 明らかでない 「メモをとる」「タイピングする」という行為に着目して おり、文字形状としての違いには着目していない
関連研究(記憶容易性と読みにくさ) • 読みづらいフォントの方が記憶に残りやすい [Diemand-Yauman 2011] • 単語を180度回転させて読みにくくしたものを 提示した方が記憶に残りやすい [Sungkhasettee 2011]
関連研究(読みにくさに着目) • フォントのみを比較していて、手書きについては 比較していない • 文字を回転させる手法は実際の学習には 向いてない
研究目的 フォントと手書き文字の 記憶における差を検証 →覚えやすさをコントロールできるのではないか? 例)覚えやすいノート
仮説 関連研究より… • 崩れた文字のほうが記憶に残る • 見慣れた文字は納得しやすい
仮説 関連研究より… • 崩れた文字のほうが記憶に残る • 見慣れた文字は納得しやすい フォントよりも手書きのほうが記憶に残りやすい 自分の手書き文字のほうが記憶に残りやすい
実験 • 文字列記憶実験 • 意味のない文字列を記憶する実験 • 特徴記憶実験 • 物事の特徴を記憶する実験
文字列記憶実験 ランダムなひらがな4文字×10個を 覚えてもらってテストをする フォントと手書きで比較 • フォント →游ゴシック • 手書き →実験協力者自身の手書き文字
文字列記憶実験 手順 1. 文字を書き写す 2. 手書きかフォントを3分間見て 覚える 3. テストを行う これを4回繰り返す (練習2回、本番2回)
文字列記憶実験(実験1) 実験1 • 問題点を洗い出すために行った • 実験協力者:8名(大学2~3年生) 使用した文字とスコア 1 2 平均 フォント 6.50 4.00 5.25 手書き 6.75 5.00 5.88 1問1点(完答)で算出
文字列記憶実験(実験1の考察) • フォントと手書きの間に有意差は認められなかった • 濁音・半濁音が含まれるものは覚えにくい 例)ふぞつろ、べめつぼ • 既存の単語が含まれるものは覚えやすい 例)う゛いあゆ、うまうか、げかるび • 覚えたタスクが次のテストに影響している
文字列記憶実験(実験2) 実験2 実験協力者:16名(大学1~3年生) 手順 1. 文字を書き写す 濁音・半濁音、既存の単語を 除いたタスクを用意 2. 手書きかフォントを3分間見て覚える 3. テストを行う 4. 休憩(2分) これを6回繰り返す(練習2回本番4回)
文字列記憶実験(実験2の結果) 使用した文字とスコア 1 2 3 4 平均 フォント 5.33 6.00 5.25 4.25 5.21 手書き 4.25 5.17 5. 83 5.00 5.06 1問1点(完答)で算出 得点にばらつきがあり、有意差は認められなかった
文字列記憶実験(実験2の考察) • 最初に文字列を書き写してもらうことで 手書きという行為の影響が出ている可能性 • 発音のしやすさがスコアに影響している可能性 • 全体的に得点が低いため、手法を再検討する 必要あり
実験手法の見直し • 手書きという行為の影響を受けない • 発音のしやすさや事前知識が影響しない Diemand-Yaumanの手法を用いて再実験
特徴記憶実験 • 架空の物事の特徴を記憶 [Diemand-Yauman 2011] • 固有名詞3つ×7つの特徴 • 宇宙人、ケーキ、 国、ゲームの4テーマ用意 • 実験協力者(大学1〜3年生):26名 手順 1. 手書きやフォントを90秒間見て 覚える 2. 15分間動画を見て休憩する 3. テストを行う
特徴記憶実験 使用したフォント • MS 明朝 あ あ • MS ゴシック
特徴記憶実験 手書き文字の特徴 • 手書きA • 丸文字 • 横に長い • 1文字ずつ離して書かれている • 手書きB • 角ばっている • 縦に長い • つなげて書かれている
特徴記憶実験 アンケートを実施 • 自身の手書き文字に自信があるか? • 自身の手書き文字は手書きA、Bのどちらに似てい るか? • どのぐらい似ているか • 提示された文字は読みやすいか? • 普段、どのくらい手書き文字を書くか? • 普段、どのくらい活字を読むか?
どれが覚えやすいと思いますか?
どれが覚えやすいと思いますか?
特徴記憶実験(結果) スコア ** * 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB N=25,*:p<0.05,**:p<0.01 →フォントより手書きの方がスコアが高い
特徴記憶実験(結果) 似ていると回答した文字とスコアの関係 手書きA 手書きB 手書きA (9人) 80.0 72.2 手書きB (16人) 71.3 77.5 →自分と似ている手書き文字の方が スコアが高い可能性
特徴記憶実験(追実験) 本実験の結果にブレがないかを検証するため 追実験を実施 • 実験協力者(大学1〜2年生):14名 • 本実験の実験協力者 • 動物、遊園地、服、料理の4テーマを用意
特徴記憶実験(追実験の結果) * 100 * 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB N=14,*:p<0.05
特徴記憶実験(追実験のまとめ) • MSゴシックが低いことに変わりはない • 本実験の実験協力者を全員集められなかった
実験結果のまとめ • 文字列記憶実験 ランダムなひらがな4文字を記憶 • 有意差は認められなかった • 濁音・半濁音、読みにくい文字列は覚えにくい • 特徴記憶実験 架空の物事の特徴を記憶 • 手書き文字の方が覚えやすく、 MSゴシックのスコアが低い • 自分の手書き文字に似ている文字の時スコアが高い
考察 • 読みにくいと回答した文字のときに スコアが高くなる傾向があった • 読みやすいと回答した文字のとき スコアと読みやすさに相関なし →読みにくい文字は読む速度が遅くなるため 内容を受け流さずに読めることが要因
考察 手書き文字の方がスコアが高い →フォントより手書き文字の方が読みにくいため 手書き文字のほうが見慣れていると感じるため
考察 • 自分の手書き文字に近い文字で書いてある方が 内容を覚えやすい →自分の手書き文字に似ている文字の方が 見慣れていて納得しやすいため? [川上 2018] • 特徴記憶実験において、本実験・追実験ともに MSゴシックのスコアは大幅に低い →MSゴシックの字形の特徴は記憶に適さない
考察 特徴記憶実験の性差 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB 男子 (14人) 66.4 65.7 82.1 65.7 女子 (12人) 76.4 64.5 80.0 78.2 → 覚えやすい文字には性差があるのでは?
考察 特徴記憶実験でのスコアのコサイン類似度 • 手書き同士、フォント同士が高い コサイン類似度 明朝―ゴシック 0.75 明朝―手書きA 0.59 明朝―手書きB 0.61 ゴシック―手書きA 0.48 ゴシック―手書きB 0.53 手書きA―手書きB 0.65
考察 特徴記憶実験でのスコアのコサイン類似度 • 手書き同士、フォント同士が高い →手書きが覚えやすい人とフォントが覚えやすい人がいる コサイン類似度 明朝―ゴシック 0.75 明朝―手書きA 0.59 明朝―手書きB 0.61 ゴシック―手書きA 0.48 ゴシック―手書きB 0.53 手書きA―手書きB 0.65
考察 • MS明朝と手書きA、手書きBが比較的高い • とめ、はね、はらいの特徴が影響している コサイン類似度 明朝―ゴシック 0.75 明朝―手書きA 0.59 明朝―手書きB 0.61 ゴシック―手書きA 0.48 ゴシック―手書きB 0.53 手書きA―手書きB 0.65
まとめ • 背景 • 勉強する際に、手書き文字とフォント どちらを用いた方が記憶に残りやすいか? • 目的 • 手書き文字とフォントの記憶における差を検証する • 覚えやすさのコントロールが可能になるのではないか
まとめ 実験 • 文字列記憶実験 • 有意差は認められなかった • 実験手法を再検討 • 特徴記憶実験 • 手書き文字の方が記憶に残りやすい • MSゴシックは記憶に残りにくい • 自分に似た手書き文字の方が記憶に残りやすい
展望 • 実験協力者自身の手書き文字を用いた データセットを用意し同様の実験を行う • フォントや手書き文字の種類を増やし 同様の実験を行う
展望 • 各種の記憶しやすくする要因を考慮し、 記憶容易性を高めるノートを実現する • 重要度によって文字を使い分けるといった応用 例)選挙のポスター、取扱説明書
まとめ • 手書き文字の方が記憶に残りやすい • MSゴシックは記憶に残りにくい • 自分に似た手書き文字の方が記憶に残りやすい