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March 17, 25
スライド概要
競馬観戦において騎手が着用する勝負服で競走馬を識別するニーズがある.しかし勝負服には似ている服が多く存在するうえ,毎レース識別したい勝負服は異なるため,似た勝負服を識別可能な程度に記憶にしたうえでレース後すぐ忘却することができないと,競馬観戦中に混同を引き起こす.そこで本研究では,勝負服を分割し元に戻すことで勝負服を記憶する,忘却を考慮したパズル型記憶促進手法を提案した.またパズル手法の有効性を検証するため,勝負服を記憶する際に利用されている塗り絵手法との再認実験による比較実験を行った.実験の結果,再認テストは両手法ともに好成績であったが,塗り絵手法は忘却性が低く,前回記憶した勝負服が次の再認テストに影響を及ぼしていることが明らかになった.また,パズル手法の方が類似勝負服との違いを意識することができ,塗り絵手法より勝負服識別のために長期的に利用したいと評価された.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
競馬観戦時における着目馬識別を可能にする 忘却を考慮したパズル型勝負服記憶支援手法の提案 明治大学 宮崎勇輝 中村聡史
研究背景 • 競馬観戦中,自分の応援する馬をレース中に探す必要がある • 馬番や帽色,毛色,勝負服などを頼りに着目馬を見つける 帽色 馬番 勝負服 毛色 2 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX
研究背景 通常,馬番で各競走馬を識別することが多いが 馬体の影に隠れて馬番が見えない状況は頻繁に起こり得る 見えない 馬番 3 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX
研究背景 通常,馬番で各競走馬を識別することが多いが 馬体の影に隠れて馬番が見えない状況は頻繁に起こり得る 着目している競走馬を見つけることができないと 見えない レース観戦の楽しさが減少してしまう! 馬番 4 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX
研究背景 • 既存のトラッキングシステムは各競走馬の位置把握が容易 • 技術的問題のためゴール直前では表示が消える • このシステムに頼りすぎては,白熱した競走馬の競り合いを 観戦することは難しい JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX 5
研究背景 勝負服は種類が多く,馬番やトラッキングシステムが見えなくても ほとんど一意に識別することができる 勝負服 6 JRA公式チャンネル「2024年 ヴィクトリアマイル(G1) | テンハッピーローズ | JRA公式」https://youtu.be/wOtdqohsy2w?si=bgtfyymLcpTHYjcX
研究背景 • 大まかに勝負服を記憶していると 似ている勝負服が複数頭出走している時に困惑することもある 7 JRA公式チャンネル「2025年 京都金杯(G3) | サクラトゥジュール | JRA公式」https://youtu.be/4s8lVSLwKPM?si=mMXakbiehTtZ_f56
研究背景 • 大まかに勝負服を記憶していると 似ている勝負服が複数頭出走している時に困惑することもある 似ている勝負服を識別可能にして 競馬観戦することが重要 8 JRA公式チャンネル「2025年 京都金杯(G3) | サクラトゥジュール | JRA公式」https://youtu.be/4s8lVSLwKPM?si=mMXakbiehTtZ_f56
研究背景 競馬場は1日で複数回のレースが施行される 勝負服は馬主が所有することが多いので 応援する競走馬や騎手の勝負服はレースごとに異なる場合が多い 1R目 2R目 3R目 4R目 9
研究背景 競馬場は1日で複数回のレースが施行される 勝負服は馬主が所有することが多いので 応援する競走馬や騎手の勝負服はレースごとに異なる場合が多い 1R目 3R目 覚えた勝負服を 2R目 レース後すぐに忘れる必要がある! 4R目 10
どういった支援を目指す? • 着目馬の勝負服をレース開始前に短時間で識別可能にしておく • レース中はシステムの補助を必要とせずに十分に観戦ができる • レース後すぐに記憶した勝負服を忘れることができる この勝負服が応援している馬であると 識別できるようにする! 着目馬の勝負服 類似勝負服 11
提案手法 パズルの「絵を分割し元に戻す行為」により 類似勝負服の識別をする 12
提案手法 ①セルごとに分割 ②異なる勝負服間で交換 ③同じ勝負服内で交換 13
提案手法 各セル(数字)の位置は同じだが,模様がバラバラなパズルが生成される 14
提案手法 • 同じ勝負服内での交換 • 模様や配色を覚える • 異なる勝負服間での交換 • 勝負服間の違いを覚える 15
パズル手法 識別正解勝負服 覚えたい勝負服のパズルを主に操作 • 同じ勝負服内での交換 • 異なる勝負服間での交換 を使いパズルの完成を目指す 類似勝負服 同じ勝負服内での交換は同期して動く 16
実験目的 提案するパズル手法が勝負服の識別に有効でありつつも すぐに忘れることができるかの検証 17
塗り絵手法 競馬アナウンサーが塗り絵によって 勝負服を記憶している事例があるため パズル手法の比較手法として用いた 日経ラジオ社:「色鉛筆を使う楽しい職場です。」 https://www.radionikkei.jp/keibablog/150928.html 18
塗り絵手法 識別正解勝負服 識別正解勝負服を塗り絵 類似勝負服 勝負服に使用される12色から 色を選択可能 19
予備実験 • パズルを完成させる時間と塗り絵を 完成させる時間に大きな差があった • 勝負服を記憶してすぐ再認テストを 行なっていたので両手法共に記憶が 強く残りすぎた • 本実験ではパズルを難しく,塗り絵を 簡単に調整し,刺激時間を60秒で統制 20
本実験 • 大学生・大学院生12名 • 2日間でパズル手法と塗り絵手法を実施 A群 1日目 2日目 B群 21
本実験手順 練習 手法で記憶 インターバル 再認テスト 1分休憩 アンケート 22
本実験手順 手法で記憶 インターバル 再認テスト 3つの類似服の中から1つを正解として記憶するタスクを3回行った 両手法とも1分間の時間制限があり制限時間まで次のタスクへ進まない 23
本実験手順 手法で記憶 インターバル 再認テスト 手法を終えてから再認テストまでの間に2分間のインターバルを確保 実験参加者の行動を統制するために ChatGPTにより生成された競馬に関する文章を読む時間とした 24
本実験手順 手法で記憶 インターバル 再認テスト • 18個の勝負服から手法によって記憶した 識別正解勝負服を3個選択 • 競馬特有の勝負服が 見え隠れする状況を動きによって再現 • 忘却性の問いを確認するために 2回目と3回目の再認テストは前回の識別 正解勝負服が登場 25
結果と考察 再認テスト正答率 • パズル:88.0% • 塗り絵:86.1% 正答率と再認テスト解答時間に 大きな差はなかった 26
結果と考察 再認テスト正答率 • パズル:88.0% • 塗り絵:86.1% パズル手法は 強い記憶支援手法と考えられる塗り絵手法と 同程度の高い正答率であった 正答率と再認テスト解答時間に 大きな差はなかった 27
結果と考察 忘却性の問いを確認するために2回目と3回目の再認テストは 前回の識別正解勝負服が登場していた パズル手法 塗り絵手法 選択順番 1番目 2番目 3番目 1番目 2番目 3番目 100.0% 100.0% 83.0% 100.0% 100.0% 83.0% 1回目 2,3回目 87.5% 95.8% 75.0% 83.0% 95.8% 66.6% 表:再認テストにて選択した順番ごとの正答率 • 1回目の再認テストは両手法同じ正答率であった • 2回目と3回目は塗り絵手法はパズル手法に比べて 正答率が低く,前回の正解勝負服を選択している回数が多かった 28
結果と考察 忘却性の問いを確認するために2回目と3回目の再認テストは 前回の識別正解勝負服が登場していた パズル手法 塗り絵手法 選択順番 1番目 2番目 3番目 1番目 2番目 3番目 100.0% 100.0% 83.0% 100.0% 100.0% 83.0% 1回目 塗り絵手法は前回の記憶を忘れることができず 87.5% 95.8% 75.0% 83.0% 95.8% 66.6% 2,3回目 パズル手法より忘却性が低い • 1回目の再認テストは両手法同じ正答率であった • 2回目と3回目は塗り絵手法はパズル手法に比べて 正答率が低く,前回の正解勝負服を選択している回数が多かった 29
結果と考察 競馬では着順を意識して観戦する場合があるので 記憶の強度に差を設けたい この馬が1着に来て欲しいので レース中はこの勝負服をすぐに見つけたい! この馬は見つけたいけど,重要度は高くない! 30
結果と考察 競馬では記憶の強度に差を設けたいことがあるため 再認順番が重要である 塗り絵難度の高い模様 塗り絵難度が高い勝負服では再認テストにおいて パズルでは58.0%,塗り絵では87.5%早く選択された 31
結果と考察 競馬では記憶の強度に差を設けたいことがあるため 再認順番が重要である 手法内提示順番 パズル手法 塗り絵手法 1番目 2番目 3番目 1番目 2番目 3番目 1 33.3% 30.6% 27.8% 25.0% 25.0% 38.9% 選択順番 2 13.9% 44.4% 38.9% 19.4% 41.7% 36.1% 3 38.9% 13.9% 22.2% 33.3% 16.7% 22.2% 表:再認テストにおける手法内提示順番に対する選択率 塗り絵手法では最後に記憶したものから選択している 32
結果と考察 競馬では記憶の強度に差を設けたいことがあるため 再認順番が重要である 手法内提示順番 パズル手法 塗り絵手法 塗り絵手法では記憶の強度を変えたい場合でも 1番目 2番目 3番目 1番目 2番目 3番目 塗り絵難度によって記憶強度が変わってしまう 1 33.3% 30.6% 27.8% 25.0% 25.0% 38.9% 選択順番 2 13.9% 44.4% 38.9% 19.4% 41.7% 36.1% 3 38.9% 13.9% 22.2% 33.3% 16.7% 22.2% 表:再認テストにおける手法内提示順番に対する選択率 塗り絵手法では最後に記憶したものから選択している 33
結果と考察 主観評価アンケート • 塗り絵手法に比べパズル手法の方が 類似服との違いを意識でき,前回内容を思い出すことが少なかった と評価された • 長期的に使用するなら12名全員が 簡単なパズル手法を使いたいと評価した 34
結果と考察 記述式主観評価アンケート • パズル手法:類似勝負服間の交換によって模様の違いを 記憶でき,特に似ている服を識別できた • 塗り絵手法:模様の複雑さの違いによって記憶できたが, 複雑すぎる模様は手間がかかった 35
考察 客観的指標と主観的評価から • パズル手法は塗り絵手法と同程度の高い正答率 • 塗り絵手法は前回記憶を忘れることができず忘却性が低い • 塗り絵手法は塗り絵難度によって記憶強度が変わる 36
考察 客観的指標と主観的評価から • パズル手法は塗り絵手法と同程度の高い正答率 勝負服識別には塗り絵手法に比べて • 塗り絵手法は前回記憶を忘れることができず忘却性が低い パズル手法が優れている • 塗り絵手法は塗り絵難度によって記憶強度が変わる 37
展望 • 実際の競馬観戦で識別することができるかの検証 • パズル手法の適切なパラメータの検証 38
まとめ 背景:競馬観戦では勝負服から着目馬を見つけるが似た服も多い 目的:パズルの要素を用いて似た勝負服を識別可能にする 実験:競馬アナの使用する塗り絵手法とパズル手法を比較 考察:正答率は同程度だが再認順番や忘却性で差が生じた 展望:実際の競馬観戦で有効かの検証を行う 39