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January 10, 22
スライド概要
HCI196において発表
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
筆跡の自筆との類似性が 記憶容易性に及ぼす影響の検証 髙野沙也香 山﨑郁未 伊藤理紗 濱野花莉 菅野一平 中村聡史(明治大学) 掛晃幸 石丸築 (株式会社ワコム)
背景 学習で活用する道具 ・教科書 ・参考書 ・手書きのノート ・電子資料 ・PC/iPad上のノート →様々なフォントや手書き文字が使用
背景 学習で活用する道具 ・教科書 ・参考書 ・手書きのノート ・電子資料 ・PC/iPad上のノート →様々なフォントや手書き文字が使用 どのような文字が 記憶に残りやすいのか
背景 記憶しやすい文字が判明 記憶しやすい要素を採用したデジタルノート
関連研究 平均手書きノート 又吉ら[2017] ユーザーの手書き文字を過去の自身の 手書き文字と平均化する手法を提案
先行研究 Itoら[2020] 2種類のフォントと2種類の手書き文字 →提示した筆跡と自身が書く手書き文字が 類似している場合に記憶容易性が上がる 山﨑ら[2020] 2種類のフォントと4種類の手書き文字 →提示した筆跡と自身が書く手書き文字が 類似していない場合に記憶容易性が上がる
目的 自筆文字と他者の筆跡との類似性を求め, 自筆文字との類似性が記憶容易性に 及ぼす影響を検証する
関連研究 Oppenheimerら[2011] 流暢性の低い文字が逆説的に記憶成績を 向上させる効果(=非流暢性効果) 川上ら[2018] 接触経験のある筆跡で書かれたメッセージ の方が流暢に処理され,読みやすい 自筆文字の流暢性は高い
仮説 自筆文字と類似性の高い筆跡は 記憶容易性を低下させる
実験要件 手書き文字の類似性と記憶成績を比較したい →実験参加者内で独立性の高い筆跡が必要 A 低 < < < 高
実験要件 手書き文字の類似性と記憶成績を比較したい →実験参加者内で独立性の高い筆跡が必要 ・実験参加者群の設定 ・実験参加者内の筆跡の類似判定
実験の流れ ①実験参加者の筆跡の取得 ②参加者の筆跡の類似度評価 ③特徴の異なる4種類の筆跡の選定 ④特徴の異なる4種類の筆跡を用いて 特徴記憶実験を行う ⑤参加者の筆跡との類似度と筆跡ごとの 記憶成績を比較
実験の流れ ①実験参加者の筆跡の取得 メロスには政治がわからぬ. メロスは,村の牧人である. 何でも薄暗いじめじめした所で ニャーニャー泣いていた事だけは記憶している. あのイーハトーヴォのすきとおった風, 夏でも底に冷たさをもつ青いそら
実験の流れ ②参加者の筆跡の類似度評価 11 8 10 1 15 5 2 12 16 4 13 6 14 17 3 7 18 9 19
実験の流れ ③特徴の異なる4種類の筆跡の選定 11 8 10 1 15 5 2 12 16 4 13 6 14 17 3 7 18 9 19
実験の流れ ④特徴の異なる4種類の筆跡を用いて 特徴記憶実験を行う A 記憶 休憩(忘却) 記憶度テスト
実験の流れ ⑤参加者の筆跡との類似度と筆跡ごとの 記憶成績を比較 類似度が高い筆跡の テスト結果 VS 類似度が低い筆跡の テスト結果
実験の流れ ②参加者の筆跡の類似度評価 11 8 10 1 15 5 2 12 16 4 13 6 14 17 3 7 18 9 19
類似度評価実験 類似度評価方法 ・複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 →主観的な類似度評価 ・評価指標対を用いた筆跡の特徴による 類似度評価 →客観的な類似度評価
類似度評価実験 複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 ・1つのお題となる筆跡に対して9個の選択肢 →似ていると思う筆跡を最大3個選択 似ている筆跡が無い場合の選択肢を用意 ・実験概要 参加者:筆跡提供者のうち22名 試行数:84回
類似度評価実験 筆跡比較による類似度評価の実験システム
類似度評価実験 評価指標対を用いた筆跡の特徴による 類似度評価 ・10個の評価指標対で筆跡の特徴を評価 →4段階評価 ・実験概要 参加者:筆跡提供者のうち22名 試行数:28回
類似度評価実験 評価指標対 松野[2012] 指標 読みやすい 読みにくい 整っている くずれている やわらかい かたい かわいい かわいくない 女性的 男性的 丸い 角ばっている のびのびした こぢんまりした 明るい 暗い 力強い 弱々しい 親しみがある 親しみがない
類似度評価実験 評価指標による類似度評価の実験システム
類似度計算方法 複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 投票数から人の主観的な類似度を算出 𝐶ℎ𝑜𝑖𝑐𝑒 𝐴, 𝐵 + 𝐶ℎ𝑜𝑖𝑐𝑒(𝐵, 𝐴) 𝑆𝑖𝑚𝑖𝑙𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 𝐴, 𝐵 = 𝑁 𝐶ℎ𝑜𝑖𝑐𝑒(𝑋, 𝑌):お題がXの時にYを選択した人数 𝑁:全実験参加者の人数(今回は𝑁 = 22)
類似度計算方法 評価指標対を用いた筆跡の特徴による 類似度評価 ①4段階の評価:-1.5,-0.5,+0.5,+1.5 ②実験参加者ごとに各評価指標対の評価値の 平均を算出 ③9個の評価指標対を用いて筆跡間のコサイン 類似度を算出 →0付近の正負の影響を抑制 ( 0.25 > 𝑥 の場合,𝑥 = 0)
コサイン類似度の最大・最小 コサイン類似度の最大:0.959
コサイン類似度の最大・最小 コサイン類似度の最小:-0.901
クラスタ分析 クラスタ分け 複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 →人の主観的な類似度 ≥ 0.7の筆跡ペア間のみ を繋いだネットワーク図を作成
クラスタ分析 複数筆跡を並べて比較する類似度評価 クラスタ3個,ライン1個,独立1人 ① ③ ②
クラスタ分析 クラスタ分け 評価指標対を用いた筆跡の特徴による 類似度評価 →実験参加者ごとの各評価指標対の評価値の 平均を用いてVBGMMによるクラスタリング
クラスタ分析 評価指標対を用いた筆跡の特徴による 類似度評価 クラスタ5個 ② ③ ④ ⑤ ①
代表筆跡の選定 各クラスタの代表筆跡の求め方 ・複数筆跡の比較評価 ・評価指標対による評価
代表筆跡の選定 選定した4種類の筆跡
選定した4種類の筆跡 手書きAの筆跡の特徴 ・やわらかい ・女性的 ・弱々しい ・こぢんまりした ・丸い
選定した4種類の筆跡 手書きBの筆跡の特徴 ・読みやすい ・整っている ・丸い ・やわらかい ・かわいい ・女性的
選定した4種類の筆跡 手書きCの筆跡の特徴 ・かわいくない ・男性的
選定した4種類の筆跡 手書きDの筆跡の特徴 ・読みやすい ・整っている ・のびのびした ・力強い ・明るい
特徴記憶実験 実験概要 4つのテーマ 宇宙人,化石,RPG風のキャラクター, 深海生物 →各テーマに3つの固有名詞,7つの特徴
特徴記憶実験 実験概要 1.参加者に記憶用紙を提示,90秒で記憶 2.15分間の休憩動画を見せる 3.記憶用紙に関するテストに取り組んでもらう 4.1〜3を4テーマ分繰り返す
特徴記憶実験 実験概要 ・記憶用紙に関するテスト →21項目から10項目を出題 固有名詞の特徴を回答してもらう形式
実験結果 テストの採点 ・解答のキーワードが含まれていれば正解 例)正解が住宅地→住宅街も正解 ・ 1問10点で換算し,100点満点 ・固有名詞と特徴の組み合わせを完全に 取り違えている →単純なミスであり,記憶できているため 正解とした
実験結果:テーマごとの比較 テーマごとの得点の平均 テーマ間で有意差があった
実験結果:テーマごとの比較 テーマごとの得点の平均 テーマ間で有意差があった 偏差値を用いて比較
実験結果:筆跡ごとの比較 筆跡ごとの偏差値の平均 筆跡間で有意差があった
実験結果:筆跡ごとの比較 筆跡ごとの偏差値の平均 筆跡間で有意差があった 手書き 可読性 A B C D 0.14 0.68 -0.32 1.05
実験結果:類似性ごとの比較 3種類の類似性を用いて比較 ①複数の筆跡比較による類似性 ②筆跡の特徴からみた客観的な類似性 ③自己評価の類似性
実験結果:類似性ごとの比較 3種類の類似性を用いて比較 ①複数の筆跡比較による類似性 →人の主観的な類似度 ②筆跡の特徴からみた客観的な類似性 →コサイン類似度 ③自己評価の類似性 →自身の筆跡と似ている筆跡の選択結果 「親しみがある/親しみがない」の評価
実験結果:類似性ごとの比較 類似度の分け方 ・人の主観的な類似度 高群:人の主観的な類似度 ≥ 0.7 中群:0.7 >人の主観的な類似度≥ 0 低群:人の主観的な類似度 = 0 ・コサイン類似度 高群:コサイン類似度 ≥ 0.6 中群:0.6 >コサイン類似度≥ −0.6 低群:−0.6 > コサイン類似度
実験結果:類似度ごとの比較 類似度の高さごとの偏差値の平均 類似度が高いほど偏差値が高くなっている 高群 中群 低群 人の主観的な類似度 52.39 49.93 45.88 コサイン類似度 51.02 50.29 44.89
実験結果:類似度ごとの比較 類似度の分け方 自己評価の類似度 指定あり群:筆跡比較で筆跡A~Dを選択 親しみあり群:「親しみがある」と評価 親しみなし群:「親しみがない」と評価 →類似度と偏差値に関連なし 指定あり群 親しみあり群 親しみなし群 自己評価の類似度 50.37 48.05 51.95
考察 ・最も読みにくい筆跡において記憶成績が 高くなった →非流暢性効果と一致する ・類似性が高いほど記憶成績が高くなった →仮説と反対の結果
関連研究 Oppenheimerら[2011] 流暢性の低い文字が逆説的に記憶成績を 向上させる効果(=非流暢性効果) →読みにくさという認知負荷が記憶に影響
関連研究 Oppenheimerら[2011] 流暢性の低い文字が逆説的に記憶成績を 向上させる効果(=非流暢性効果) →読みにくさという認知負荷が記憶に影響 自筆文字・自筆文字に類似した文字の 認知負荷が低下していない可能性 →自筆文字での記憶効果について検証
考察 ・最も読みにくい手書きDでは,記憶成績が 最も高くなった →非流暢性効果と一致する ・2番目に読みにくい手書きAでは,記憶成績が 最も低くなった
考察 ・2番目に読みにくい手書きAでは,記憶成績が 最も低くなった →手書きAは文字間の幅が大きい レイアウトの影響
類似評価方法の問題 今回用いた類似度評価 ・複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 →主観的な類似度評価 ・評価指標対を用いた筆跡の特徴による類似度 評価方法 →客観的な類似度評価
類似評価方法の問題 実験参加者数を増やす場合 ・複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 →実験参加者が増えると全試行やり直し 人数が増えるほど類似評価が困難 ・評価指標対を用いた筆跡の特徴による類似度 評価方法 →増えた実験参加者だけ特徴評価を行う
類似評価方法の問題 実験参加者数を増やす場合 ・複数の筆跡を並べて比較する類似度評価 →実験参加者が増えると全試行やり直し 人数が増えるほど類似評価が困難 筆跡比較による人の主観的な類似性を表せる 評価指標対を検討
評価指標対の検討 評価指標対間の相関 ・相関の高い評価指標対 読みやすい/読みにくい ① 整っている/くずれている 角ばっている/丸い ② かたい/やわらかい 男性的/女性的 ③ かわいい/かわいくない
評価指標対の検討 6個の評価指標対での主成分分析 ・第一主成分と第二主成分でのプロット クラスタ分類できていない
評価指標対の検討 6個の評価指標対での主成分分析 ・第一主成分と第二主成分でのプロット 評価指標対を減らして検討 クラスタ分類できていない
評価指標対の検討 4個の評価指標対での主成分分析 4つの評価指標対 ・のびのびした/こぢんまりした ・読みやすい/読みにくい ・弱々しい/力強い ・暗い/明るい
考察 ・評価指標対を用いて人の主観的な類似性を 表せる可能性が示唆された →今回用いた評価指標対ではクラスタを完全に 分離させることはできなかった ・人の主観的な類似性を表すのに評価指標対が 不足している可能性
今後の課題と展望 ・自筆文字の記憶容易性が不明 →自筆文字を加えた特徴記憶実験を行う ・記憶成績が最も低い文字は文字間の幅が広い →レイアウトの影響を調査 ・複数筆跡の比較は大人数では困難 →人の主観的な類似性を表せる評価指標対の 検討 記憶しやすい要因を採用したノートの実現
まとめ 背景 ・どのような文字が記憶しやすいのかの調査 目的 ・自筆文字との類似性が記憶に及ぼす影響の検証 実験 ・4つの特徴の異なる筆跡による記憶効果の比較 結果 ・類似性が高いほど記憶成績が高くなる傾向が 示唆された