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January 17, 25
スライド概要
病院向けに、看護研究を初めて行う看護師さんを対象に行った看護研究研修の資料の一部です。
ななーる訪問看護デベロップメントセンターでは、現場の看護師さんの研究支援や勉強会、研究相談を実施しています。
ご依頼やご相談はセンターHPまで:https://www.nana-dc.jp/
訪問看護・在宅看護の研究施設「ななーる訪問看護デベロップメントセンター」のセンター長。「研究と実践をつなぐ」がミッション。 研究テーマ:神経難病支援、訪問看護データベース研究 etc
臨床現場で,なぜ研究? 看護研究研修会 ななーる訪問看護デベロップメントセンター センター長 石川武雅
アウトライン • 臨床現場で,なぜ研究? • 臨床現場で行われた研究 • 看護研究を行う意味とは • 研究結果を伝えるには
臨床現場で,なぜ研究?
看護師の仕事って大変…… 勤務前後の疲労変化(日勤) 勤務前後の疲労変化(深夜) 4 4 3.5 3.5 3 3 2.5 2.5 2 2 1.5 1.5 1 1 0.5 0.5 0 0 ねむけ感 不安定感 不快感 だるさ感 ぼやけ感 勤務前 勤務後 ねむけ感 不安定感 不快感 だるさ感 ぼやけ感 勤務前 勤務後 渡辺八重子ら(2016)「看護業務の勤務帯別労働負担と疲労に関する研究」
看護師の仕事って大変…… 研究する暇なんてない…… 三村あかねら(2004)「看護業務量の実態調査」
現場があるから研究がある “Whatever you do, you can only learn in the field.” どんな仕事をするにせよ、 実際に学ぶことができるのは現場においてのみである。 —フローレンス・ナイチンゲール 研究疑問は臨床疑問から生まれる
現場だからこそ研究ができる
臨床現場で行われた研究
不眠を訴える入院患者への足浴の効果 • 臨床疑問(CQ) 「足浴でよく眠れそうな感覚はある ……それって本当?」 • リサーチクエスチョン(RQ) 「不眠を訴える入院患者に対して、足浴が睡眠の質を高める もしくは不眠の改善に効果があるのか」 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
不眠を訴える入院患者への足浴の効果 不眠を訴える患者10名を対象 就寝前の不安感,睡眠感,入眠・起床時刻 心拍数,自律神経活動指標 を計測して比較 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
不眠を訴える入院患者への足浴の効果 高いほど 睡眠感が良い 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
不眠を訴える入院患者への足浴の効果 自律神経活動指標の推移(LF/HF) 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
不眠を訴える入院患者への足浴の効果 結論 足浴を行うことで…… 副交感神経優位となり,主観的な睡眠感が改善する 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討 • 入院患者で真菌はよくおこる失禁関連皮膚炎 スキンケアが大事とは言われるが,なかなか減らない • CQ 「どういう患者でリスクが高いのか分かれば 集中的にケアをすることで真菌症予防できるのでは?」 • RQ 「入院患者が真菌症を発症する要因はなんなのか」 西本由美ら(2022)「A病院の入院患者における皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討」
皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討 n = 413 n = 302 n = 111 西本由美ら(2022)「A病院の入院患者における皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討」
皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討 ※多変量ロジスティック回帰分析 西本由美ら(2022)「A病院の入院患者における皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討」
皮膚表在性真菌感染症の発生リスク要因の検討 結論 入院患者で 「おむつ使用」「下痢」「経管栄養」「抗生剤使用」「感染症」が ある人は、真菌症のリスクが高い可能性があり,ほかの患者と 比較して注意して観察する必要がある 古島智恵ら(2009)「不眠を訴える入院患者の足浴の効果」
訪問看護―最初が肝心 • 訪問看護師……退院した患者を受け入れる 退院直後の2週間は頻回な訪問が可能(特別訪問看護指示書に基づく) • 退院患者の諸々を整え、スムーズな在宅生活の導入と維持を目指す • 訪問看護師にとって最初の2週間は勝負の時 しかし、「それって本当に効果があるのか?(CQ)」 • (RQ)訪問看護開始後2週間の訪問回数とその後の入院・施設入所との関連は?
訪問看護―最初が肝心 • これまでに訪問看護を受け、終了した高齢者446名を対象 • 「最初の2週間に何回訪問したか」と「最後どうなったか」の関連を調査 • 訪問看護回数が1回増加すると 入院・施設入所のオッズが7%低下した (オッズ比: 0.93 (95%CI: 0.89-0.97)) • 結論 訪問看護開始後2週間の訪問看護回数が その後の入院・施設入所を低下させる 石川武雅ら(2025, in press)「訪問看護記録を後方視的調査による訪問看護開始2週間の訪問回数と入院・施設入所の発生の関連の検証」
看護研究を行う意味とは
研究が看護を変える 生食ロック VS へパロック 末梢ルートはヘパリンロックの必要がある? 173名の入院患者で実験 両者の有害事象発生率に有意差(統計的に意味のある差)はなかった 末梢ルートのロックを生食ロックで行うことが主流になるきっかけとなった Craig F et al. (1991)「The lysosomal degradation of heparan sulphate : a comparative study of the physical and catalytic properties of the heparan sulphate degradative enzymes」
研究が看護を変える ALS × 褥瘡 • ALS (筋萎縮性側索硬化症) で生じない症状 4大陰性症状……眼球運動障害、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡 • とある病院のWOCナース 「ALSでも褥瘡ができている……」 過去の入院患者中の褥瘡発生率を調査 • 41例中2例(約5%)で褥瘡発生していた
研究が看護を変える ALS × 褥瘡 • ALS診療ガイドラインにも引用される 日本で唯一のALSにおける褥瘡の報告 「ALSでも褥瘡は起きうる」という認識に変わった ALS診療ガイドライン2013 Hayashi T et al. (2007)「Pressure ulcers in ALS patients on admission at a university hospital in Japan」
研究結果を伝えるには
論文が伝えたいことは…… • 論文の書き方 形式に沿って,長々と理屈っぽく書かないといけない • しかし,よく読むと 伝えたいことは1-2文 • 良い研究(論文)は 伝えたいメッセージが明確
研究が伝えるメッセージ:これまでの例 足浴を行うことで副交感神経優位となり,主観的な睡眠感が改善する 入院患者で「おむつ使用」「下痢」「経管栄養」「抗生剤使用」「感染症」がある人は、真菌症のリスクが高い 可能性があり,ほかの患者と比較して注意して観察する必要がある 訪問看護開始後2週間の訪問看護回数が,その後の入院・施設入所を低下させる ヘパリンロックと生食ロックで,有害事象の発生に差はない ALSでも,褥瘡は発生し得る
どうメッセージを伝えるか 背景 メッセージが どれほど重要か 納得させる 方法 メッセージを 支える証拠を どのように集め たのか説明する 結果 メッセージを 裏付ける事実を 示す 考察 結果が示す意味を 掘り下げ、 メッセージを明確に メ ッ セ ー ジ
Take Home Messages • 現場こそ研究の種の宝庫 • 看護研究は,看護実践を変え得る • 自分の研究を通して伝えたいメッセージは? 「メッセージを伝える」ことを意識して,自分の研究をアピール