医療DXのためのGAPSフレームワーク

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May 14, 24

スライド概要

医療分野でのDXは単にデジタルソリューションを導入するだけではなく、ガバナンスやマネジメントなどの重層的な課題に取り組む必要があります。GAPSフレームワークは医療に限らずDXで有用なフレームワークですのでここで紹介します。
Noteで医療DXについて連載していますのでそちらもご覧ください。
https://note.com/skoba/m/m72b3eb59388c

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1970年生まれ。マイコン少年として育ち、1995年に医師免許取得。以後、血液内科で修練すると同時にインターネット、情報システムに興味を持ち医療情報学の研究を始める。 医療分野のオープンソースソフトウェア、医療情報標準規格について研究、医療DX教育にも携わってきた。

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各ページのテキスト
1.

医療DXのためのGAPSフ レームワーク 小林慎治

2.

概要 • ヘルスケア領域での情報化、デジタルトランスフォーメーショ ンとは • GAPSを考えよう、GAPSを埋めよう • Governance • Architecture • Program management • Standard and interoperability • まとめ

3.

電子化、情報化、IT化 • 電子化 • コンピューターを導入して紙文書を電子媒体に置き換えること。 • 情報化 • 情報システムを導入して「情報化社会」に対応すること • IT(情報技術)化 • 情報技術を取り入れていくこと 情報過多で苦しむ人のイラスト https://www.irasutoya.com/2014/09/blog-post_2.html

4.

よくある「IT化/情報化」 報告書にはんこ押して 報告書にサインして スキャンして FAXで送信 PDFを作成して 提出完了 メールに添付して送付 印刷して保管

5.

医療分野でのIT化 JAHIS オーダエントリ・電子カルテシステム導入調査報告 -2022年調査- https://www.jahis.jp/action/id=57?contents_type=23

6.

オーダリングシステム導入後満足度調査 効率について(5段階評価) 3% 6% 11% 非常に良くなった 34% 18% 良くなった 変化なし 悪くなった 非常に悪くなった 無回答 28% 小林慎治、中小病院に適応した情報戦略の検討,共済医報 2008;57(2): 92-94

7.

オーダリングシステム導入前後の人件費の推移 (超過勤務分) 0 H17.1 2,000,000 4,000,000 6,000,000 医師 技師 円 H17.4 看護師 H17.7 事務 H17.10 調理等 H18.1 H18.4 一次導入 H18.7 H18.10 二次導入,7:1看護 H19.1 H19.4 H19.7 医師異動 小林慎治、中小病院に適応した情報戦略の検討,共済医報 2008;57(2): 92-94

8.

Death by a thousands of Clicks • Death by a thousands of clicks: Where Electronic Health Records Went Wrong, Fortune and Keiser Health News, March 18, 2019 https://khn.org/news/death-by-a-thousand-clicks/

9.

https://www.nytimes.com/2020/07/13/upshot/coronavirus-response-fax-machines.html

10.

デジタルトランスフォーメーション(DX) とは • 定義 • 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を 活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモ デルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文 化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること • 目的 • DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者 が抑えるべき事項を明確にすること 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドラ イン)」2018年, https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html

11.

経済産業省、DX推進ガイドライン 経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドラ イン)」2018年, https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html

12.

DXとは はんこ押して FAXで送信 報告書提出 電子認証 情報システムで報告書作成・提出 データ利用

13.

ヘルスケア領域のDXで期待されること 業務改善 情報共有 データ活用 ・効率改善 ・医療安全 ・地域医療ネットワーク ・診療連携、データ連係 ・経営改善・政策立案 ・医学研究、臨床試験

14.

ヘルスケア領域のDXは難しい • 内部統制上の問題 • 背景となる法制度、 現場の運用、組織 間連携に複雑な ルールが存在する。 • 各部門の独立性が 高く、利害調整が 困難。 • 情報部門は診療報 酬を稼げないため 投資効果が見えづ らく地位も低い。 • 経営部門の関心が 低い。 • システム構成の問題 • 構成すべき情報シス テムが多岐にわたる。 旧式のシステムを維 持する必要もある。 • 技術的に多様なシス テムを組み合わせる 必要がある。 • 各部門の業務を把握 し、関連するシステ ムの役割を把握する ことも難しい • 人材の問題 • 医療部門、行政部門、 ITのすべてに対応で きる複合的高度人材 が少ない。 • DX人材を育成するシ ステムも不十分であ る。 • キャリアパスが限ら れる。 • ITだけではなく、ガ バナンスやマネジメ ントスキルも要求さ れる。

15.

DXとその背景 • 業務改善 • 業務手順が煩雑であり効率化したい • 安全管理 • 機械的チェックによる安全性の向上 • 情報活用 • 情報をデジタル化して診療連携やデータ分析などに役に立てたい

16.

DXとその背景 • 業務改善 • 業務手順が煩雑であり効率化したい • 非効率な業務をそのままITで再現するとさらに非効率となる。 • 安全管理 • 機械的チェックによる安全性の向上 • ヒューマンエラーはどのタイミングでも起こりうる • 情報活用 • 情報をデジタル化して診療連携やデータ分析などに役に立てたい • データが標準化されておらず連携できない。データは機微情報であり セキュリティ要件が高度である

17.

情報の流れ 伝える 使う

18.

情報ギャップ 伝わらない 使えない

19.

GAPS を考えよう。

20.

GAPSとは? • Governance • 組織管理、統制、経営 • Architecture • 技術構成 • People and program management • 計画運営 • Standards and interoperability • 標準,相互運用性

22.

Governance 組織管理、統制

23.

Governance(組織統制)とは • 定義 • 組織内外の利害関係を調整し、組織の価値を高めるよう方針を定めること。 • 資産評価 • 組織が所有する資産を評価し、組織にとっての優先順位を設定する。 • 目標設定 • 組織として達成すべき課題を明確にする。 • 目標達成までの客観的な評価基準を定め、事業の継続性を担保する。 • コンプライアンス • 上記の目標や評価項目が法令の範囲であり、既存の政策や組織のポリシーにも矛盾 しないこと。 • ステークホルダーに対して実施するDXの内容とその意図について明確に説明するこ と。 • 制度設計 • チームを組織し、上記の内容について周知し目標達成までのチェック体制を整える。

24.

情報・技術ガバナンス(組織統制) I&Tガバナンスとは,その業務に関連するすべての関係者を組織するため のフレームワークである. どのような便益があるのか •I & Tを導入する目標は何か. •I & T投資に必要となる費用とその効果について明確に説明できるか. リスク最適化 •法令順守,実績管理,セキュリティポリシー リソースの最適化 •人,モノ,カネの最適化 •情報資産、情報技術資産の評価、管理

25.

「はだかの王様」 ITわからないから適当に やっといて。 なんでそんなにお金が掛か るの? それじゃ仕事にならない. そんなことしなきゃいけな いの? 現場が言うならしょうがな いよ.ITでどうにかしてよ. ガバナンス不良は 組織にダメージを 与える事故につな がる。 情報セキュリティ 事故の責任を取る のは組織の長であ る。

26.

Governance確立のために 情報システムの構築にはその投資についての重要な決定を積み重ねる必要がある. • 関係者の中で重要な人物は誰か • 職責上のキーマン、集団でのキーマン • 情報システムに関する業務の責任主体は経営陣であることを認識させる。 • 決断する(しない)ことでどのような責任が発生するかを知らせる. • 関係者が決定するために十分な情報を与えられているかどうか確認する. • 関係者すべてにガバナンス体制について周知する. • 産業界で実績のあるフレームワークを採用する. • ガバナンスフレームワーク(COBITなど)についてのこれまでの経験や実績について学び,よいも のは取り入れていく. • 定期的に会合を持ち,関係者のニーズやギャップ,決定プロセスについて理解を深め,そのギャッ プを埋めるための解決法を提案する

27.

Architecture 技術構成,設計

28.

Architecture(技術構成,設計) • 情報システムは,多くの技術的コンポーネントによって構成される。 • システムを構成する技術は経年劣化し、維持コストが負債となる。 • 採用する技術がどのように関係者にとって役に立つのかを示すような設計図(あ るいは工程表、計画)を示す必要がある. • 関係者にどのようなものが構築されようとしているのかを理解してもらい,どのように 便利になるあるいは不便になるのかを知ってもらう. • 「関係者と共有するための計画,工程表」は当然ながらガバナンス体制より承認 をる必要がある. • 計画や工程表,設計図には「誰」が「何」を構築しようとしていて,「いくら」 費用が掛かるのかを関係者に分かるように示さなければならない. • TOGAF(The Open Group Architecture Framework)なども参考にする。

29.

その技術は何を解決しますか?

30.

ハンマーしか持っていなければ、全てが 釘に見える(アブラハム・マズロー) Image from https://stlong.files.wordpress.com/2011/06/hammer_nail.jpg

31.

よりよいArchitectureを目指して • 業務改善の本質は技術以外であることも多い. • ガバナンスやマネジメントの問題を技術だけで解決するのは難しい. • ただし、技術的な解決は圧倒的な生産性にもつながりうる。 • 技術評価基準 • 実績、コスト、効率、第三者の意見 • 代替となる技術はあるか. • 技術上の問題点は何か? • 技術構成以外の問題点は何か? • 人的資源,運営,法令 • その技術を採用することで発生する問題はあるか?あればどのよう な問題か? • 利害関係の調整

32.

People and program management 計画運営

33.

People and program management(計 画運営) • 計画全体を関係者に示すことで,各自に割りふられる業務を明確にし,最終的に 構築されるものが何であるかを受け入れてもらえるようにする. • しかしながら,関係者が見たこともないような医療情報システムの導入や運営に ついて事前に理解してもらうのは難しく、定着までに継続した説明と臨機応変な 対応が求められる。 • 以下の2つの方法は提案できる. • 1) 小さいところから始める.計画運営について演習することができる内部グ ループを作って,実際に活動をして学習していく. (PRINCE2方式.時間 がかかり,ミスも発生しうる) • 2) 実績があり認定されたプロジェクト管理組織に運営を委託する.(早いが お金がかかる) • この2つの方法は同時に進めることも可能である.

35.

「イヤイヤぼうや」 情報システム導入前 忙しい。 ITなんてわからないからそ ちらでやっておいて. 自分の仕事じゃない。 資料は渡すからこれを元に やっておいて。 情報システム導入後 きいていない。 説明をきちんと受けてい れば認めなかった。 これじゃ仕事にならない カネの無駄だ。 元のほうがよかった.

36.

「サイレントキラー」 会議では決して意見を述べな い. むしろほめてくれたりする. 便利になりそうですよね。 早く使ってみたいです. (ま,実際には使わんけど.) 運用段階になって、システム 運用を消極的に拒絶するボイ コットなどの手段に訴えてく る

37.

より多くの関係者に参加を促す. • 当事者意識を持っていただく. よりよいPeople and program management (計 画運営)のため に • 部署間の調整が必要であればガバナンス組織や経営部門に 力を借りる. • 運営がうまくいくことで,関係者にメリットがあることを 示す. • 運営のために負担が増えるユーザーにも配慮する. 属人的な要素はできるだけ排除していく. • 「詳しい人」を作らない. • マニュアルやメモを整備する. 運営資源の確保 • ヒト・モノ・カネ

38.

Standards and Interoperability 標準と相互運用性

39.

Standards and Interoperability(標準と相互 運用性) • 今現在においても,厚生労働省が所掌する業務を遂行するに十分な標準規格はな い. • 情報システムにおいて、導入・運用計画,工程表,技術構成についての全体図が 整備され,その運用がうまくいってはじめて,設計図の一部としての「標準」を 活用することができる. • 各システムがデータをやりとりするためには共通して参照できる手順書が必要で あり、それが「標準」である。 • 医学の進歩や医療の変化に伴い、標準もまた継続的にコストをかけて開発してい く必要がある。 • 標準の開発やその実装には社会的コストが必要である以上、第三者による技術的 評価や医学的妥当性の検証が必要であり、標準についてのさまざまな情報が公開 されていることが望ましい。

40.

医療情報標準規格 交換プロトコル メッセージ形式 IHE HL7 MML ISO 13606 openEH R 臨床情報モデル SNOMEDCT 用語 ICD-10 厚生労働省マスタ

41.

ハンマーしか持っていなければ、全てが 釘に見える(アブラハム・マズロー) Image from https://stlong.files.wordpress.com/2011/06/hammer_nail.jpg

42.

「笑顔のセールスマン」 システム間の隙間を埋めて さしあげますよ 標準なのでコストはかかり ません. 全てのシステムに対応でき ますよ 標準の開発や導入 にはコストと時間 がかかる。 全てのシステムに 網羅的に適応でき る標準はなく、目 的に応じて使い分 ける必要がある。

43.

標準は手段であって目的ではない • 標準を採用することがゴールとなってはいけない. Standard and interoperability を活用するた めに 確立された保健医療標準など一つもない • 保健医療が発展し,変革している状況であり標準もそれに応じて育 てていく必要がある. 標準には適応できる対象と範囲がある • 日本で普及しているとされるSS-MIXやIHEにも適応と限界があり, 導入にはその範囲を見極める必要がある. 標準を導入するコストは決して安いものではない. • 標準を導入するコストが高く導入するメリットが低いことも多い • しかし,未来に向けての投資は必要である.

44.

まとめ • GAPSフレームワークを通じて現存する情報ギャップを把握するこ とは系統的な問題解決に役に立つ. • G: 保健医療情報システムは複雑であり,ガバナンスを確立すること が必要である. • A: ガバナンス体制において最も重要な責務は,技術導入計画(工程 表)を関係者に周知することである. • P: 計画(工程表)が示されることで関係者は技術構成の中で割りふ られた部分を構築して,よりよく計画運営を行うことができるよう になる. • S: 情報を活用するためには標準を採用しなくてはならない.