jus研究会:医療とオープンソースソフトウェア

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October 19, 24

スライド概要

SDG3「すべての人に健康と福祉を」を達成するため、OSSの利用が進められてきました。
多くの医療用OSSがDigital Public Goodsとして認められて世界中で活用が進められています。
一方でソフトウェア規制の問題もあります。OSSのレガシー化に伴う問題も最近では出てきております。
これらについて紹介します。

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1970年生まれ。マイコン少年として育ち、1995年に医師免許取得。以後、血液内科で修練すると同時にインターネット、情報システムに興味を持ち医療情報学の研究を始める。 医療分野のオープンソースソフトウェア、医療情報標準規格について研究、医療DX教育にも携わってきた。

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

jus研究会: 医療とオープ ンソースソフトウェア 小林慎治(こばやししんじ) 医療オープンソースソフトウェア協議会

2.

Agenda • デジタルヘルスとオープンソースソフトウェア • WHOのデジタルヘルス戦略 • Digital Public Goodsとしての医療オープンソースソフトウェア • 医療情報標準化 • 医療DXにおける課題とオープンソースソフトウェア • 医療におけるソフトウェア規制 • VistA Crisis

3.

自己紹介 • • • • • • • • • • • • 1970年 (第1回大阪万博の年)佐賀県にて出生 1980年頃よりマイコンブームに乗っかる 1989年九州大学医学部入学 1995年九州大学医学部卒業・医師免許取得、第一内 科入局 1998年Smalltalk事件 2001年九州大学大学院・医療情報学やってみる 2003年未踏ソフトウェア創造事業採択 2004年第1回医療オープンソースソフトウェア協議会 セミナー開催(MOSS1) 2005年博士(医学)取得 2006年千早病院医療情報企画科長 2009年より研究職 2014年より国際医療情報学会 Open Source Working group副議長、議長 主要業績: 査読付き論文51報 資格: 医師免許 総合内科専門医 第2種情報処理技術者 第1種情報処理技術者 情報セキュリティアドミニストレータ 博士(医学) 臨床現場から管理運営、国内外の公衆衛 生行政までフルスタックで対応できるエ ンジニア

4.

https://note.com/skoba

5.

デジタルヘルスとは • 医療の現場から公衆衛生行政など広く使われている情報通信技 術の総称 • eHealthや医療ITなどと呼ばれていたもの。 • たぶん、医療DXとかそういうのも。 • 電子カルテなどの医療用ソフトウェア。 • 保険医療行政や公衆衛生にかかわるソフトウェアシステム、技術 • ヘルステック(IT使って医療に貢献するような主体としたベンチャー スタートアップ界隈) • SaMD(Software as Medical Devices) • 高血圧治療アプリ • 不眠治療アプリ

6.

WHO(World Health Organization)とデ ジタルヘルス • SDG3を達成するためには医療 資源の効率よく分配する必要が ある。 • 低中所得国でのUniversal health coverageの達成のためにはデジタ ルインフラの整備が必要 • エビデンスに基づいた保健医療 政策の推進 • 各国の実情に合わせてデジタル ヘルスの実装を進める方針 • 一律にデジタル化すればいいとい うことではない。

7.

Digital implementation investment guide (DIIG): quick deployment guide 豊富な図と解説でデジタルヘルスの上流工 程がわかりやすく簡単に解説されている https://www.who.int/publications/i/item/9789240056572

8.

デジタルヘルスにおけるOSSへの期待 • 低コストで良質なソフトウェアの導入 • 初期コストは抑えることができる。 • 「生存権は交渉不可能な人権であり、貧困を理由に取り上げられては ならない」 – Luis Falcon, GNU Health開発者 • ベンダーロックイン、データロックインの回避 • 「機能的には商用ソフトウェアを使っていて問題はなかった。しかし、 自分たちのデータを自由に使うようにしたかった」-Hamish Fraser, OpenMRS開発者 • 医療情報規格標準化 • 医療情報規格の標準化と普及は難しい。 • OSSによる各種プロトコルの実装がインターネットの普及に役立った ように医療においてもOSSの活用に期待されている。

9.

https://data.who.int/dashboards/covid19/cases?n=c

10.

https://github.com/WorldHealthOrganization

11.

Digital Public Good

12.

Digital Public Goodsのデジタルヘルス

13.

医療分野のオープンソースソフトウェア 名称 概要 採用技術 ライセンス GNU Health* 電子カルテ、地理情報 Odoo(旧OpenERP), Python GPL 3.0 DHIS2* 医療情報管理システム Java, JavaEE, Javascript BSD-3clause OpenMRS* HIV、結核管理から始まった電 子カルテ Java, JavaEE MPL 2.0 openIMIS* 医療保険管理システム Python, Django, GraphQL AGPL 3.0 X-Road* エストニアの医療情報交換基盤 Java, JavaEE, Blockchain MIT OpenEMR 電子カルテ、割と老舗 GPL 3.0 OpenVista 米国退役軍人病院グループの電 M言語 子カルテ。 Apache 2.0 OpenDolphin 日本で開発された電子カルテ GPL 2/3 PHP, PostgreSQL Java, JavaEE *はDigital Public Goodsと認定されたもの

14.

医療OSS採用状況 • 国境なき医師団(MSF) • 2017年MSF傘下病院での連絡体制強化のためDHIS2を全面的に導入。 • AeHIN(Asia eHealth Information Network) • アジア開発銀行、WHOの支援の下で発足。ASEAN8カ国を中心にアジ ア、アフリカなどの低中所得国のデジタルヘルスを推進する団体 • 2018年にDHIS2とOpenHIEの導入と宣言する • Vietnum, Sri Lanka, Lao PDR, • ネパール • openIMISのシェアが70%をしめる • エストニア • X-Roadを医療を含めた行政のプラットフォームとして使用

15.

https://www.gnuhealth.org/

16.

Luis Falcon, OSC Tokyo 2014, Fall

18.

GNU Health Con, Las Palmas, Spain https://www.lanzaworld.com/ca nary-islands-generalinformation/

21.

Richard M Stallman, GNU Health Con 2015

22.

https://dhis2.org/

23.

DHIS2, Annual Conference, 2022

24.

Prof. Jørn Braa, Oslo University

25.

https://doi.org/10.1055/s-0042-1742508

26.

openIMIS https://openimis.org/

27.

openIMIS in Nepal • ネパールでは、2017年に国民皆保 険制度が導入され、97%の地域で 医療保険が使えるようになった。 • タンザニアとカメルーンで実績を 上げつつあったopenIMISの導入 がドイツのNGOであるGIZの支援 の元で進められた。 • 2023年にはネパールの国民保険の 70%がopenIMISで処理されてい る。 https://openimis.org/nepal-health-insurance

28.

デジタルヘルスとOSSまとめ(中間) • SDG3:すべての人に健康と福祉を • WHOはSDG3達成のため低中所得国に対してに戦略的なデジタルヘル スの導入策を進めている。 • OSSの利用は安価で効率の良いデジタルヘルスソリューションとして 期待されている。 • DHIS2は国境なき医師団の基盤情報システム。 • GNU Healthはスペイン語圏を中心に世界で普及。 • openIMISはネパールでシェア約70%。 • Digital Public Goods (DPG) デジタル公共善(財)として • SDG3についてのオープンソースソフトウェアが多くDPGとして認め られている

29.

医療情報標準規格の開発と実装 • HL7 FHIR以前(2013年以前) • HL7規格に準拠したソフトウェアを開発するためにはHL7協会に入会 して仕様書を入手した上で、製品として認証してもらう必要があった。 • OSSでの実装は日本ではゆるされないというのが公式見解であった。 • HL7 FHIR以後(2013年以後) • 仕様はCC0で公開され、HL7協会会員でなくても仕様策定や実装がで きるようになった。 • 日本でもなし崩しにOSSでの実装がゆるされた • ISO 13606/openEHR • オープンコミュニティで仕様策定からISO規格の上程まで行っている。

30.

政策としての医療情報標準化 2002年 • 保険医療分野における情報化 にむけてのグランドデザイン • 電子カルテの普及 • 医療に役に立つ • レセプト電算化 • 標準化 • セキュリティ 2022年 • 持続可能な社会保障制度の構 築 • 全国医療情報プラットフォーム • マイナンバーカード保険証 • 電子カルテの標準化等 • 診療報酬改定DX • サイバーセキュリティ

31.

厚生労働省標準(HELICS標準) No 規格提案名 実装率/活 用率(%) 採択日 No 規格提案名 実装率/活 用率(%) 採択日 HS001 医薬品HOTコードマスター 49.5/21.0 2003/05/23 HS026 57.8/40.9 2016/02/19 HS005 ICD10対応標準病名マスター 92.0/86.6 2004/12/28 SS-MIX2ストレージ仕様書および構築ガイ ドライン HS007 患者診療情報提供書及び電子診療データ 提供書 8.6/5.9 2007/03/16 HS027 処方・注射オーダ標準用法規格 23.9/14.5 2016/09/09 HS028 7.8/6.2 2016/04/13 HS008 診療情報提供書(電子紹介状) 8.6/5.9 2008/09/01 ISO 22077-1:2022保健医療情報-医用波形 フォーマット-パート1:基本規格(MFER) HS009 IHE統合プロファイル「可搬型医用画 像」およびその運用指針 14.8/12.4 2008/12/01 HS030 データ入力用書式取得・提出に関する仕様 (RFD) 2.8/0.9 2019/05/09 HS011 医療におけるデジタル画像と通信 (DICOM) 22.6/20.4 2010/01/25 HS031 地域医療連携における情報連携基盤技術仕 様(IHE) 17.7/13.4 2017/02/10 HS012 JAHIS臨床検査データ交換規約(HL7 V2) 34.9/18.0 2010/02/10 HS032 HL7 CDAに基づく退院時サマリー規約 8.3/5.9 2019/06/20 HS013 標準歯科病名マスター 51.8/36.3 2010/09/20 HS033 標準歯式コード仕様 21.0/12.4 2018/10/02 HS014 臨床検査マスター 28.5/15.6 2011/01/31 HS034 口腔診査情報標準コード仕様 2019/12/19 HS016 JAHIS放射線データ交換規約 32.0/16.9 2011/09/29 HS035 医療放射線被ばく管理統合プロファイル 2020/05/7 HS017 HIS, RIS, PACS, モダリティ間予約, 会計, 照射録情報連携指針(JJ1017指針) 22.0/13.4 2011/12/16 HS036 処方情報HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS037 健康診断結果報告書HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS022 JAHIS処方データ交換規約(HL7 V2) 31.4/18.0 2014/12/16 HS038 診療情報提供書HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS024 看護実践用語標準マスター 32.8/22.3 2016/02/12 HS039 退院時サマリーHL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 実装率/活用採用率は厚労省「日本における医療情報システムの標準化に係わる実態調査研究報告」2019年より病院でのデー タを抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000685906.pdf

35.

医療情報標準規格とOSSまとめ • 医療情報標準規格はいわゆる「業界団体」の合議によって決め られる「伽藍」型の規格であったが、HL7 FHIRの登場により 「バザール」型の規格開発と実装が取り入れられつつある。 • 日本でも医療情報標準規格開発担当者の世代交代が進んだこと もあり、GitHubを中心にTest drivenでCI/CDをベースとした 標準規格開発が進められている。

36.

https://github.com/skoba/mml

37.

現在の課題と対応 ・規制とソフトウェア ・Vista Crisis ・(高齢化問題)

38.

医療におけるソフトウェア規制 • 薬機法:医薬品・医療機器の公正な流通のための法律 • 医薬品や医療機器の安全性を認証して、正しく流通させるための法律。 • ヘルステックが最初にぶつかる壁。 • プログラム医療機器 • 2015年に薬事法が改正され、医療用ソフトウェアも人体への影響に応じて管 理対象と指定される。 • それまでハードウェアの付属品とされていたため、ソフトウェアのバージョンアップ を行うためにハードウェアを含めて認定を取り直す必要があった。 • 管理対象(クラス2以上) • 医療用画像処理ソフトウェア • SaMD (Software as Medical Device) • 2010年米国FDAが医療画像ソフトウェアを医療機器認証の対象としたことに 対応して国内でも制度が整えられた。

39.

OsiriX • 2004年にOsman Ratibらによ り開発され公開された医療画像 処理(PACS)ソフトウェア • 市販のPACSと同等の性能を持ち ながらOSSであることから低コス トで導入できることで注目される。 • FDA認証のための費用をまかな うため、現在はOsiriX MDとし てほぼ商用ソフトウェアとなっ た • OSS版のOsiriXからforkした Horosは寄付金を集めてFDA認 証をとろうとしている。

40.

ONC Certificate • “Meaningful Use” • 2009年オバマ政権での医療制度改革の一環として、一定の基準の下で 意義のある(Meaningful Use)機能を実装した電子カルテの導入にイン センティブやペナルティを導入した。予算総額30兆円。 • ONC (Office of National Coordination for Health Information Technology) Certificates • Meaningful useに規定されているインセンティブを得るにはONCから 認証をとった電子カルテを導入する必要がある。 • 認証費用は数百万円から数千万円

41.

OpenEMR https://www.open-emr.org/

42.

https://www.open-emr.org/wiki/index.php/OpenEMR_Features

43.

GPL3, 4項 4. 一字一句忠実なコピーの伝達 あなたは、自分が受領した『プログラム』のソースコードと一字一句同じコピー であれ ば、いかなる媒体でも伝達することができる。ただしその場合、あなた はそれぞれのコ ピーにおいて、目立つように、かつ適切な形で、ふさわしい 『コピーライト』告知を掲載 しなければならない。すなわち、本許諾書と、下 記第7項に従い追加された非許可的条項 のすべてがそのコードに適用される旨の 告知を掲載し、あらゆる保証が存在しない旨の告 知をすべてそのまま保全し、 かつ『プログラム』の受領者すべてに、『プログラム』と いっしょにこの許諾 書のコピーを与えなければならない。 あなたは、自分が伝達するコピーのそれぞれに関していかなる価格を付けても 良いし、無 料で伝達しても構わない。また、報酬を取ってサポートや保証保護 (warranty protection)を提供しても良い。

44.

医療におけるソフトウェア規制のまとめ • 医療用ソフトウェアにも質と保証が求められる時代 • ソフトウェアがハードウェアの付属物ではなく、独立した存在として認めら れるようになったのは大きな進歩ではある。 • 現時点では医療用画像システムが管理対象となっているが、他の医療用ソフ トウェアまで規制の対象と広がることもありえる。 • 医師による「日曜大工」的な医療用ソフトウェアの開発は許されるか? • 認証を得るための体制整備 • 薬剤や医療機器と同じく、国単位の許認可であるためアメリカ、日本、EUな どそれぞれで認証をとる必要があり、そのたびに費用が発生する。 • ボランティアベースであることが多く、国際的な広がりを持つオープンソー スソフトウェアではなかなか認証を取得することが困難である。

45.

VistAと退役軍人病院 • Veterans Affairs Hospital(退役軍人病院) • 米国退役軍人省(VA; Veterans Affairs)保健局によって管轄される北 米最大の病院グループ • 152の中核病院と1400のクリニック • 1960年代より診療記録や臨床検査の電子化を開始。 • M言語(MUMPS)をベースとして電子カルテシステムを構築 • VistA • 1970年代から退役軍人病院で実用されてきた世界で最も歴史のある電 子カルテの一つ • オープンソースソフトウェアとして公開。 • WorldVistA, OpenVistA • インドやエジプトでも採用実績あり

46.

1st Open Source EHR Summit, Washington D.C, USA, 2011

48.

Prof. Seong K. Mun、MOSS11,京都、 2016年1月

49.

Medscape EHR Report 2016: Physicians Rate Top EHRs https://www.medscape.com/features/slideshow/public/ehr2016#page=8

50.

VistA crisis, 2017 https://www.hcinnovationgroup.com/cybersecurity/article/13028723/breaking-va-will-replace-vistawith-cerner-ehr-and-intends-to-create-integrated-platform

51.

Medscape EHR Report 2016: Physicians Rate Top EHRs https://www.medscape.com/features/slideshow/public/ehr2016#page=8

52.

https://www.oracle.com/news/announcement/blo g/veterans-deserve-better-than-vista-2023-02-03/ https://www.techtarget.com/searchhealthit/ne ws/366578278/VA-to-Use-Legacy-VistA-EHRfor-Up-to-10-Years-Amid-Paused-OracleCerner-EHRM

53.

“For the past few years, we’ve tried to fix this plane while flying it – and that hasn’t delivered the results that Veterans or our staff deserve,” (この数年、飛んでいる飛行機を修理 しようとした結果、退役軍人やスタッ フにふさわしい結果が得られなかっ た) https://digital.va.gov/ehr-modernization/news-releases/va-announces-reset-of-electronic-health-record-project/

54.

https://www.beckershospitalreview.com/ehrs/u-s-representative-calls-for-termination-of-oracle-cerner-va-contract.html

55.

VistA関連年表 • 1967年 マサチューセッツ総合病院でM言語(MUMPS)が開発される。 • 1970年代 退役軍人病院で電子カルテシステムの開発と運用が始まる。 • 2011年 第1回Open Source EHR Association (OSEHRA) Summit • 2016年 Mun教授、MOSS11(京都)にて講演。 • 2016年 VistAが内科医が選ぶ最高の電子カルテと評価される • 2017年 VAがVistAをCerner社の電子カルテに置き換えるとアナウンス • 2018年 VAとCerner社で電子カルテの近代化改修のために10年で160億ドルの契約を締結。 • 2020年 OSEHRA解散 • 2021年 Oracle、Cerner社を買収(約283億ドル) • 2023年 VAからプロジェクトの”reset”がアナウンスされる。契約停止? • 2024年 現在、正直「よくわからん」

56.

VistA内部コード https://github.com/WorldVistA/VistA-M/blob/master/Packages/General%20Medical%20Record%20%20Vitals/Routines/GMRVADM.m

57.

M言語 • MUMPS(Massachusetts general hospital Utility Multi-Programming System) • 1960年代にマサチューセッツ総合病院(ハーバードメディカルスクールの附属病院)で医療情報処 理用のアプリケーションを実行するために開発されたプログラミング言語とその環境。 • 実行環境に専用のデータベースシステムを内包。 • RDBMSが発明される前の時代なので当然NoSQL。BeforeSQLとも • 現在でも医療分野では人気があり、北米最大シェアのEpic社電子カルテはM言語を基盤技術として いる。 • 日本Mテクノロジー学会は今も活動中。(M言語に限らず医療一般について取り上げている) • プログラミング言語MUMPS JIS X 3011, 1995 • 現在の実行環境 • GT.M(M言語のOSS実装) • Caché (InterSystems社) • Power Query MのM言語とは関係がない。

58.

M言語文法 W ”HELLO, WORLD”! いわゆるHello, World。WはWriteの略で出力命令。!は改行を意味する S XYZ=”A” S ^XYZ=”A” 局所変数XYZに文字Aを代入(set)する。 グローバル変数XYZに文字Aを代入(set)する。 グローバル変数は自動的にディスクに記録される。 S ^XYZ(1,0,0)="1^0^PAYMENTS" S ^XYZ(”ABC”)="1^OUT^PAYMENTS" 階層型データ構造 I (A<B)&(B<C) S D=4 Q もし(If) A<B かつ B<Cなら、Dに4を代入する

59.

https://www.mta.gr.jp/

60.

レガシー化問題(OSSに限らないかも) • 最新技術だったものが10年、20年もたつと • J2EE/EJB, CORBA, S2Struts… • 新規技術を取り入れるにも… • 開発当初の盛り上がりはもうない。 • 新規実装と比べて機能そのままで、新しい技術を取り入れていくのは 困難な割にモチベーションがあがりにくい。 • 後方互換性というしがらみ。 • 切り捨ててしまうにも… • 捨ててしまえるものであれば捨てられるが、数十万、数百万行クラス のプロダクトとなると捨てようがない。

61.

VistAまとめ • VAは1960年代から内製していた電子カルテシステムVistAを オープンソースソフトウェアとして公開していた。 • VistAは高く評価され国際的に利用されているが、レガシー技術である M言語で記述されていることに批判もあった。 • VAは2017年にVistAから、Cerner社の電子カルテに移行する ことを決めたが6年後に頓挫。 • レガシーな内製ソフトウェアを既製のパッケージに移行するというあ りふれた問題の一つではある。 • レガシーなOSSを維持・刷新することは米国国防総省をもってしても 難しい。

62.

デジタルヘルスとOSSまとめ • Digital Public Goods, SDG3、すべての人に健康と福祉を • WHOは2000年代初頭より戦略的にデジタルヘルスの研究を始め、効率の良 い医療・福祉の提供のために戦略的普及を進めている。 • 低中所得国ではOSSの利用が積極的に進められている。 • 医療情報標準化 • 医療情報標準規格の開発手法として、OSSで広く用いられている手法が広 まってきており普及に貢献しつつある。 • 医療におけるソフトウェア規制 • OSSコミュニティでは対応が困難であり、新たなスキームを構築する必要が ある。 • VistA Crisis • レガシーなOSSをどのように維持すべきかはかなり難しい問題である。医療 分野のソフトウェアは長期に使われることが多いため、現在の最新技術でも 将来はレガシーになることを肝に銘じるべきであろう。