数学の基礎計算におけるミス防止のためのハイライト手法の比較検討

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December 15, 22

スライド概要

正負の数や文字式の計算といった基礎計算は,数学学習の基盤となる.しかしこれらの計算は,算数から数学へ移行する際の概念の違いや計算ルールの覚えが曖昧なことにより計算ミスが絶えない.我々はこの問題に着目し,計算中の数式の特定箇所へハイライトをすることで計算ミスを減らすシステムを提案及び実装してきた.また実験により数学記号へのハイライトが計算間違いを低減することが示唆されたが,どういったハイライトが適切かについて検討が不十分であった.そこで本研究では,計算においてどのようなハイライト手法が効果的であるかを調査するため,6種類のハイライト法を用いて,すでに計算された数式の正誤を判定する実験を行い,適切なハイライト手法について検討を行った.実験の結果,正負の数の計算ではかっこに色付けする手法が優れていることが示唆された.また文字式の計算では,複数のハイライト手法を組み合わせて同時に提示すると混乱を招く可能性が示唆された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

C-5-3 数学の基礎計算におけるミス防⽌のための ハイライト⼿法の⽐較検討 明治⼤学 植⽊⾥帆、中村聡史 2022.12.16.Fri

2.

背景 数学において基礎計算でミスをすることは致命的︕︕ 正負の数、⽂字式の計算 • 基礎計算は中学校・⾼校数学の基盤となる • 基礎計算での計算ミスを早い段階で修正しないと 今後の学習に影響を及ぼす

3.

背景 • テスト最初の計算問題でミスをする • ⽂章題で⽴式はできるのに計算ミスで点を落とす もったいないミスが多い

4.

背景 ⼀度計算ができるようになっても 期間が空いてしまったり 新しいことを覚えていくうちに 計算ルールを忘れてしまったりすることもある

5.

⽬的 システムで計算ミスを防⽌したい!

6.

数式って複雑 • 数字 • 数学記号 • 符号 • 演算記号 • x,yなどの⽂字 • ⻑い式になればなるほど複雑化する

7.

シンタックスハイライト • テキストの可読性を向上させるもの (例)プログラムのコードに⾊がつく拡張機能

8.

関連研究 • シンタックスハイライトありとシンタックスハイライトなしの コードについてタスクを⽤意し,被験者内で⽐較した • タスク完了時間が⼤幅に短縮 • この効果がプログラミングの経験の増加とともに弱まる [Advait, 2015] • プログラムの読みやすさと理解に対する⾊の影響を調査 • ⾊による強調がされている⽅がプログラムの理解をしやすいことを 明らかにした [Gerard, 1986]

9.

仮説 • テキストの可読性を向上させるもの (例)プログラムのコードに⾊がつく拡張機能 数式にもハイライトすることで可読性が向上し 計算ミスが減るのではないか

10.

過去の研究・HCI196 • 「=」「+」「-」「×」「÷」のような 数学記号へハイライトするプロトタイプシステムを作った • 中学⽣数名と理系⼤学⽣数名に利⽤してもらった 植木里帆, 中村聡史. 中学基礎計算の途中計算を促進する記号ハイライト手法の提案, 情報処理学会 研究報告 HCI, vol.2022-HCI196, no. 4, pp. 1-8, 2022

11.

過去の研究・HCI196 【問題点】 • 数式認識精度が不⼗分 • 数学記号への⾊付与が計算ミス防⽌に及ぼす影響は明らかにな らなかった 植木里帆, 中村聡史. 中学基礎計算の途中計算を促進する記号ハイライト手法の提案, 情報処理学会 研究報告 HCI, vol.2022-HCI196, no. 4, pp. 1-8, 2022

12.

過去の研究・HCI196 • ⾊付与により途中式量が増減する例が⾒られた • 「⾊数の多さから⾃分の書いた計算式が⾒えづらく感じた」 という意⾒も 植木里帆, 中村聡史. 中学基礎計算の途中計算を促進する記号ハイライト手法の提案, 情報処理学会 研究報告 HCI, vol.2022-HCI196, no. 4, pp. 1-8, 2022

13.

過去の研究・HCI196 「⾊数の多さから⾃分の書いた計算式が⾒えづらく感じた」 という意⾒も 数式への適切なハイライト⼿法についての検討が不⼗分 視認性の問題が浮上

14.

今回の⽬的 システムを改良するにあたり、 まずは最適なハイライト法を調査する︕︕

15.

ハイライトについて考慮すべき点 • 視認性について • 複数のハイライト法を組み合わせても良いのか • 何⾊まで使っていいのか • どうやってハイライトするか • ⽂字⾊変え/太⽂字/マーカー/下線 • 何をハイライトするか • 数学記号/かっこ/⽂字式 • 間違え⽅によって最適なハイライト法があるのか • 計算順序のミスなら数学記号、まとまり意識ならマーカー

16.

ハイライトについて考慮すべき点 • 視認性について • 複数のハイライト法を組み合わせても良いのか • 何⾊まで使っていいのか • どうやってハイライトするか • ⽂字⾊変え/太⽂字/マーカー/下線 • 何をハイライトするか • 数学記号/かっこ/⽂字式 • 間違え⽅によって最適なハイライト法があるのか • 計算順序のミスなら数学記号、まとまり意識ならマーカー

17.

ハイライトについて考慮すべき点 • 視認性について • 複数のハイライト法を組み合わせても良いのか • 何⾊まで使っていいのか • どうやってハイライトするか • ⽂字⾊変え/太⽂字/マーカー/下線 • 何をハイライトするか • 数学記号/かっこ/⽂字式 • 間違え⽅によって最適なハイライト法があるのか • 計算順序のミスなら数学記号、まとまり意識ならマーカー

18.

ハイライトについて考慮すべき点 • 視認性について • 複数のハイライト法を組み合わせても良いのか • 何⾊まで使っていいのか • どうやってハイライトするか • ⽂字⾊変え/太⽂字/マーカー/下線 • 何をハイライトするか • 数学記号/かっこ/⽂字式 • 間違え⽅によって最適なハイライト法があるのか • 計算順序のミスなら数学記号、まとまり意識ならマーカー これらを考慮し条件選定へ

19.

条件選定(正負の数) Baseline条件 B-color条件 負の概念による計算ミス、計算順序のミス B:かっこ L:同類項 B-marker条件

20.

条件選定(正負の数) Baseline条件 B-color条件 B:かっこ L:同類項 B-marker条件 ⽂字⾊を変えるより⽂字の背景⾊を変える⽅が⽬⽴つ[⼤久保ら、2015]

21.

条件選定(⽂字式の計算) Baseline条件 L-color条件 B-color条件 B:かっこ L:同類項 B-marker条件 Mix条件 (B-marker & L-underline)

22.

条件選定(⽂字式の計算) Baseline条件 B-color条件 B:かっこ L:同類項 B-marker条件 かっこを⽬⽴たせることで 分配法則などのミスを防ぐ L-color条件 Mix条件 (B-marker & L-underline)

23.

条件選定(⽂字式の計算) B:かっこ L:同類項 同類項を同じ⾊にすることで まとめやすくする Baseline条件 L-color条件 B-color条件 B-marker条件 Mix条件 (B-marker & L-underline)

24.

実験概要 すでに最後まで計算された計算問題の正誤を判定する実験 明治⼤学に通う理系⼤学⽣または⼤学院⽣の29名 システムの対象は中学⽣や数学を苦⼿とする⼈も含むが 本実験は視認性の調査であるため理系⼤学⽣でもよいと判断した

25.

実験概要(システム画⾯)

26.

実験概要(システム画⾯) 正誤 どこから 間違えてるか

27.

実験概要(詳細) • ハイライトは8条件各10問ずつ • それぞれ正解5問・不正解5問 • ランダムな順序で出題 • 16問で1セット、計5セットの出題形式 • 回答にかかった時間のデータを取得

28.

実験結果(正答率) 正負の数の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 ⽂字式の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 Baseline 0.940 0.940 0.940 Baseline 0.932 0.981 0.955 B-color 0.965 0.972 0.968 B-color 0.941 0.992 0.967 B-marker 0.928 0.935 0.932 B-marker 0.926 0.991 0.956 L-color 0.948 1.000 0.972 Mix 0.957 0.952 0.955

29.

実験結果(正答率) 正負の数の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 ⽂字式の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 Baseline 0.940 0.940 0.940 Baseline 0.932 0.981 0.955 B-color 0.965 0.972 0.968 B-color 0.941 0.992 0.967 B-marker 0.928 0.935 0.932 B-marker 0.926 0.991 0.956 L-color 0.948 1.000 0.972 Mix 0.957 0.952 0.955 B-color条件の正答率が最も⾼い

30.

実験結果(正答率) 正負の数の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 ⽂字式の計算における条件ごとの正答率 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 全体の 正答率 Baseline 0.940 0.940 0.940 Baseline 0.932 0.981 0.955 B-color 0.965 0.972 0.968 B-color 0.941 0.992 0.967 B-marker 0.928 0.935 0.932 B-marker 0.926 0.991 0.956 L-color 0.948 1.000 0.972 Mix 0.957 0.952 0.955 B-color条件とL-color条件の 正答率が⾼いが⼤差はない

31.

実験結果(回答時間) 18000 16000 14000 平均回答時間[ms] 12000 10000 8000 正負の数 6000 ⽂字式 4000 2000 0 Baseline B-color B-marker Baseline B-color 条件別平均回答時間 B-marker L-color Mix

32.

実験結果(回答時間) 正答率と同じような傾向 18000 16000 3 1 2 14000 平均回答時間[ms] 12000 10000 8000 正負の数 6000 ⽂字式 4000 2000 0 Baseline B-color B-marker Baseline B-color 条件別平均回答時間 B-marker L-color Mix

33.

実験結果(回答時間) 18000 16000 2 1 3 4 5 14000 平均回答時間[ms] 12000 10000 正負の数 8000 正答率と異なる傾向 ⽂字式 6000 4000 2000 0 Baseline B-color B-marker Baseline B-color 条件別平均回答時間 B-marker L-color Mix

34.

考察 • 定期考査や受験では問題を早く正確に解く⽅がいい︕︕ • 符号や計算順序など計算中の留意すべき点を瞬時に 認識するスキルは必要不可⽋ 平均回答時間は短く、正答率は⾼い⽅がいい!

35.

考察(正負の数) • 正答率と平均回答時間の結果からB-color条件が 最も良いことがわかった 18000 16000 Baseline B-color 0.940 0.965 0.940 0.972 全体の 正答率 0.940 0.968 1 2 14000 12000 平均回答時間[ms] 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 3 10000 8000 6000 4000 2000 0.935 0.932 ix 0.928 M B-marker Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Lco lo r 0

36.

考察(正負の数) • Baseline条件とB-marker条件に差がなかったのはなぜか 18000 16000 Baseline B-color 0.940 0.965 0.940 0.972 全体の 正答率 0.940 0.968 1 2 14000 12000 平均回答時間[ms] 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 3 10000 8000 6000 4000 2000 0.935 0.932 ix 0.928 M B-marker Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Lco lo r 0

37.

考察(正負の数) • 誘⽬性の⾼いマーカーの条件はマーカー外の間違えを 気付きにくくした可能性がある • 数式へのハイライトに慣れていないため ⻑期利⽤すればマーカーが有効になる可能性も考えられる 12番不正解提⽰ 28番不正解提⽰

38.

考察(⽂字式) • L-color条件の正答率は最も⾼かったが平均回答時間は2番⽬に遅い • B-color条件の正答率は2番⽬に⾼く、平均回答時間は最も短い 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 18000 全体の 正答率 16000 14000 Baseline B-color B-marker 0.932 0.941 0.926 0.981 0.992 0.991 0.955 0.967 0.956 平均回答時間[ms] 12000 10000 8000 6000 4000 2000 1.000 0.972 Mix 0.957 0.952 0.955 ix 0.948 M L-color Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Lco lo r 0

39.

考察(⽂字式) • 総合的にはB-color条件の⽅が良いことが⽰唆された • B-color条件はBaseline条件と正答率・平均回答時間ともに ⼤きな差はなく⼀概に良い⼿法とは⾔えない 条件 正解提⽰の 不正解提⽰ 正答率 の正答率 18000 全体の 正答率 16000 14000 Baseline B-color B-marker 0.932 0.941 0.926 0.981 0.992 0.991 0.955 0.967 0.956 平均回答時間[ms] 12000 10000 8000 6000 4000 2000 1.000 0.972 Mix 0.957 0.952 0.955 ix 0.948 M L-color Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Ba se lin e Bco lo r Bm ar ke r Lco lo r 0

40.

考察(⽂字式) • 唯⼀2種類のハイライト⼿法を組み合わせたMix条件の 正答率は最も低く、平均回答時間は最も⻑かった • アンケートには 「波線とハイライトが両⽅付いて いるものは少し⾒づらく感じた」 という意⾒があった

41.

考察(⽂字式) • 唯⼀2種類のハイライト⼿法を組み合わせたMix条件の 正答率は最も低く、平均回答時間は最も⻑かった • アンケートには 「波線とハイライトが両⽅付いて いるものは少し⾒づらく感じた」 という意⾒があった 注⽬すべき箇所が多くなってしまい混乱を招いた可能性がある

42.

考察(⽂字式) • 唯⼀2種類のハイライト⼿法を組み合わせたMix条件の正答率は最も 低く、平均回答時間は最も⻑い • アンケートには「波線とハイライトが両⽅付いているものは少し⾒ 今後、アンダーライン⼿法のみや づらく感じた」という意⾒が その他の複数ハイライト⼿法の組み合わせを⽤いて 実験を⾏う予定 複数のハイライト⼿法を組み合わせることにより注⽬すべき箇所に誘導されるが、 その箇所が多くなってしまい混乱を招いた可能性がある

43.

考察(課題) • 実験協⼒者は数学に慣れ親しんだ理系⼤学⽣及び⼤学院⽣であった • 中学⽣や数学に触れる機会が減少した⽂系の⼈に実験を実施した 場合は、異なった結果が得られる可能性がある • 間違え⽅の想定ができないため、全体的に正答率が下がる • ハイライト効果が⼤きく出る

44.

考察(課題) • ⾊については複数⾊を⽤いてのランダム提⽰であったため、 相応しい⾊に関する調査ができなかった • アンケートから「濃い⾊(⾚など)の時は問題が⾒にくかった」 「括弧の部分やラインマーカの⾊が毎回違っていて途中からそっち が気になってしまった」という意⾒がみられた • 適切な⾊については今後の研究において調査を⾏う予定

45.

まとめ 背景︓基礎計算⼤事なのに計算ミスをしてしまう ⼤⽬的︓計算ミス防⽌システムの作成 今回の⽬的︓最適な数式ハイライト⼿法の調査 実験︓8種類の条件で正誤判定 結果・考察︓ 正負の数ではB-color条件が優れている可能性 ⽂字式の計算ではMix条件のように複数⼿法の組み合わせは良くない可能性 今後︓中⾼⽣や理系以外の⼈を対象とした同様の実験予定 ⾊に関する詳細な視認性調査や計算中におけるハイライト⼿法の効果の 検証をしていく予定