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November 26, 25
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
芸術系職種における固定姿勢緩和に向けた 腹圧による機能切り替え手法とその検証 成瀬詩織,中村聡史 (明治大学) 1
背景 長時間の座位作業が及ぼす影響 イラスト制作やデスクワークにおいて,長時間同じ姿勢で作業 を続けることは身体に負担を与える →座位での作業は1日の活動時間の6割以上を占める →腰痛や肩・背中の慢性的な痛み,足組みによる骨盤の歪みなどを引き起こす 平成25年 国民健康・栄養調査報告 第73表,https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h25-houkoku.pdf,2025年6月15日アクセス. 厚生労働省「座位行動」https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf,2025年6月15日アクセス. 2
関連研究 不良姿勢を警告するアラームによる注意喚起 [Matuskaら 2020] →アラームだけでは持続的な行動変容を促すのに不十分 オフィスワーカーに対する定期的な通知型介入 [Donathら 2015] →集中を妨げる可能性や通知の煩わしさの考慮が必要 Matuska, S., Madlenakova, L., Murgas, M., Sveda, M., & Olejár, M., "A Smart System for Sitting Posture Detection Based on Force Sensors and Mobile Application", arXiv preprint, arXiv:2209.10806, 2022. Lars Donath , Oliver Faude, Yannick Schefer, Ralf Roth and Lukas Zahner “Repetitive Daily Point of Choice Prompts and Occupational Sit-Stand Transfers, Concentration and Neuromuscular Performance in Office Workers: An RCT “, International Journal of Environmental Research and Public Health, 12(4), 4340–4353. 3
目的 デスクワークや創作活動を中断せずに,長時間無意識に固定 されてしまう体勢を定期的に動かすよう促したい 長時間の座位作業における身体的負担を軽減 + 作業効率や集中力の維持に貢献する 身体連動型の自然なUI操作環境を実現 4
なぜ腹圧に着目したのか 横隔膜と腹部筋の活動により腹圧を高めることで,体幹の安定性 が向上することが示されている [Hodgesら 2000] → 腹部に定期的に力を入れることは,姿勢の改善や 体勢の崩れに対する防止につながる Hodges, P. and Gandevia, S.: Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm, Journal of Applied Physiology, Vol. 89, No. 3, pp. 967–976 (2000). 5
腹圧をかける動作を入力操作として利用 腹圧を入力操作として利用 イラスト制作中,デスクワーク中に自然に行われる ショートカット操作(Undo・Redo,保存など)に割り当てる ことで腹圧をかける操作を適度に頻発させ, 「姿勢維持 × 作業効率化」を同時に実現できるのではないか? 6
提案手法 感圧センサ システムイメージ図 感圧センサ部装着図 7
提案手法 センサを腹部に装着し,腹圧の変化から得られるアナログ 入力値をArduino経由で取得しインタフェース入力として扱う 腹圧をかける 連動する ペンと消しゴムの切り替え 8
システム使用時の様子 9
実験① 腹圧入力の精度検証 本システムにおいて腹圧による入力が有用であるか精度を検証する • 実験協力者は大学生10名 • 一人あたり計200回の腹圧操作試行 • 提示方法はPC画面に「Press」「Relax」を順に表示し,実験協力者は画面 の指示に従って操作を行う 表示画面の様子 10
実験① 腹圧入力の精度検証 本システムにおいて腹圧による入力が有用であるか精度を検証する • 実験協力者は大学生10名 • 一人あたり計200回の腹圧操作試行 • 提示方法はPC画面に「Press」「Relax」を順に表示し,実験協力者は画面 の指示に従って操作を行う 表示画面の様子 11
実験① 腹圧入力の精度検証 本システムにおいて腹圧による入力が有用であるか精度を検証する • 実験協力者は大学生10名 • 一人あたり計200回の腹圧操作試行 • 提示方法はPC画面に「Press」「Relax」を順に表示し,実験協力者は画面 の指示に従って操作を行う 表示画面の様子 12
実験① 腹圧入力の精度検証 閾値設定の方法 ①キャリブレーションして個人差に対応した閾値を設定する 𝜃 = 𝑟𝑚 + 𝜏 ( 𝑝𝑚 − 𝑟𝑚 ) pm :Press 区間の平均 rm :Relax 区間の平均 τ :0.1〜0.7 を 0.02 刻みでグリッドサーチ → F1 スコア最大 となる τ を採用 ② 𝜃 = 30 として閾値を固定する 13
結果と考察① 腹圧入力の精度検証 推定Press,Relax:画面に表示された「Press」「Relax」 実際Press,Relax:実際に行っていた「Press」「Relax」の操作状態 キャリブレーションは K=1,2,3,4,5段階で分析し, ここでは特に最適と見られる K=3 の結果を表示 固定閾値 𝜃 = 30 での混同行列 混同行列(K = 3) 推定Press 推定Relax 推定Press 推定Relax 実際Press 964 6 実際Press 994 6 実際Relax 21 949 実際Relax 30 970 14
結果と考察① 腹圧入力の精度検証 キャリブレーションにより定めた閾値と固定閾値の精度結果 閾値の設定とその精度(K = 3) 閾値θ 個々 30 全体精度 0.986 0.982 閾値を個々で設定した場合の精度は0.986, 閾値を θ = 30 に固定した場合の全体精度は0.982であり, どちらも高い識別性能を示した 15
結果と考察① 腹圧入力の精度検証 結果として,少数区間による初期キャリブレーションで 十分な性能が得られることが確認された 少数区間のキャリブレーションでも高精度(約98%以上)であり, 本システムを用いた腹圧による切替操作が実システムとして使用 可能であると考えられる 16
実験② 描画タスクを対象とした比較実験 実験①での精度結果を踏まえ,実システムとしての使用に有用で あると考え,実際の描画タスクを対象とした比較実験を行う • 実験協力者は大学生20名 • 同一の静止画像である植物のイラスト を描画時間に関する制限は設けず, 模写してもらう 17
実験② 描画タスクを対象とした比較実験 実験では全員に対して以下の2条件を実施 腹圧条件: 腹圧入力によってペン/消しゴム を切り替える 従来条件: タッチ操作によって同一の課題を 行う →各タスク終了後にNASA-TLXを用いたシステムの使用感に 対する調査を行った 18
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 腹圧による切替操作とペンによるタッチ操作いずれの条件においても 時間経過に伴い切替回数は減少傾向 19
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 腹圧UIと従来UIの比較結果 条件 平均時間[分] 切替回数 切替頻度[回/分] 腹圧UI 10.7 27.7 2.5 従来UI 10.6 25.4 2.3 腹圧UI使用時,約10.7分で約27.7回(約2.5回/分)切替 →腹圧入力は自然に定着し,描画作業でも安定して利用可能である 20
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 NASA-TLX による結果 総合スコア(全体負荷) 腹圧条件:平均 40.1 (SD = 17.7) 従来条件:平均 34.7 (SD = 14.4) t = −1.78,p = 0.09 → 有意差は見られず,全体的な負荷は ほぼ同程度 「身体的要求」 のみ有意差あり t = −5.05,p < .001 21
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 NASA-TLXによるシステム評価結果から 腹圧条件は従来条件よりも身体的負荷が高く,より身体を用いる インタフェースである →身体的負担はやや増加するが,知的負荷や集中度への影響は 従来操作と同程度 従来の操作感を保ちつつ,身体入力を取り入れることができる 22
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 主観評価によるアンケート回答結果(5段階評価) No. 質問項目 平均 標準偏差 Q1 腹圧でのツール切替は直感的に操作できたか 4.05 0.69 Q2 ツール切替はスムーズだったか 3.85 0.67 Q3 意図したタイミングで切り替えられたか 3.85 0.99 Q4 切替時に手を動かさないことで,より描画に集中できたか 3.50 1.00 Q5 作業が途切れずに続けられたと感じたか 3.50 1.05 Q6 腹圧操作は描画作業への集中を妨げたか 3.29 0.73 Q7 腹圧を意識するようになったか 4.25 0.91 Q8 身体的に疲労を感じたか 3.65 1.04 腹圧による切替が直感的に操作しやすく,腹圧に対する意識づけにも有用である 23
結果と考察② 描画タスクを対象とした比較実験 主観評価によるアンケート回答結果(5段階評価) No. 質問項目 平均 標準偏差 Q1 腹圧でのツール切替は直感的に操作できたか 4.05 0.69 Q2 ツール切替はスムーズだったか 3.85 0.67 Q3 意図したタイミングで切り替えられたか 3.85 0.99 Q4 切替時に手を動かさないことで,より描画に集中できたか 3.50 1.00 Q5 作業が途切れずに続けられたと感じたか 3.50 1.05 Q6 腹圧操作は描画作業への集中を妨げたか 3.29 0.73 Q7 腹圧を意識するようになったか 4.25 0.91 Q8 身体的に疲労を感じたか 3.65 1.04 平均値は中間的な結果となり,腹圧による集中度への影響は認められない 24
展望 • 腹圧だけでなく,足・首・体の傾きなど他の身体部位にも着目し, 身体的負担の軽減と作業効率の両立を目指したインターフェース 設計を進める • 長期的な運用実験を実施し,腹圧入力などの身体動作が体幹筋群の 活動姿勢保持に与える影響を明らかにする 25
まとめ • 背景:長時間の座位作業において体勢変化を促しつつ,集中力を保たせたい • 実験:プロトタイプシステムを用いた腹圧入力の精度検証 描画タスクを対象とした比較実験 • 結果:腹圧入力の精度検証において高い精度であることを明らかにした NASA-TLXでは,従来手法の使用感を保ちつつ,身体評価に対する負荷で 肯定的な結果が得られた • 展望:長期的な運用実験を通じて,腹圧入力をはじめとする身体動作が体幹筋群の活動 や姿勢保持に与える影響を明らかにする 26
腹圧入力インタフェースの応用可能性 利用者層 想定利用シーン 具体的な操作例 描画業務(芸術分野) デジタルペイントや3DCG制作 ペン/消しゴム切替,レイヤー操作, 拡大縮小など コードエディタでの開発作業 コード補完呼び出し,コードの保存, タブ切替,ビルド実行,デバック制 御 プログラマ(エンジニア) オフィスワーカ(事務作業) 学生 日本語・英数入力切替,文字変換, Excel・Word・PowerPoint操作 他ショートカット呼び出し,フォー マット切替,コピー&ペーストなど レポート・文書作成作業 Webページの翻訳モード切替,文字 変換,日本語・英数入力切替,スク ロール,コメント挿入など 27