114 Views
December 04, 25
スライド概要
動物園や水族館では複数の個体が同時に展示されることが多く,来訪者の観察は全体を眺めるにとどまりやすい.特にペンギンは数十羽単位で飼育されることが一般的であり,一部の施設では個体名を付けて一覧掲示を行うなど,個体に着目した観察を促す工夫がなされている.個体識別することがその個体への共感につながることは示されているものの,実際に観察中の個体と掲示情報を結びつけるのは容易ではない.そこで我々はこれまで,腹部模様を描画して個体を検索できるシステムを提案し,その有用性を検証してきた.本研究では,実環境におけるシステムの効果を検証するため,都市型水族館で一般来訪者を対象とした実証実験を実施した.また実験にあたり,新たに個体情報を一覧できる図鑑機能と観察履歴を保存できるアルバム機能を追加した.実験の結果,個体名を用いた会話や模様の違いへの気づき,展示前での滞在時間の増加が確認され,主体的な観察や動物への関心を高める有効性が示唆された.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
ペンさく:描いて探すことで深まるペンギン観察手法と 水族館来訪者を対象とした実証実験 2025.12.3-5|WISS2025|定山渓ビューホテル 中川由貴 中村聡史 (明治大学) 芦刈治将 板東恵理子 與倉陵太 渡邉果南 岩永七海 (サンシャイン水族館)
テント!
背景 03 動物園・水族館は4つの役割を担う 娯楽 • 来訪者は教育的な体験を求めている [1][2] • 動物園への訪問が保全知識や自己効力感, 行動意欲の向上につながる [3][4] 教育 研究 • 動物園体験が自然とのつながりを促進する [5] 保全 [1] Villarroya, A. et al. Social Perception of Zoos and Aquariums: What We Know and How We Know It. Animals, 14(24), 3671 (2024). [2] Ballantyne, R. et al. Conservation learning in wildlife tourism settings: Lessons from research in zoos and aquariums. Environ. Educ. Res., 13(3), 367–383 (2007). [3] Clayton, S. et al. Public Support for Biodiversity After a Zoo Visit: Environmental Concern, Conservation Knowledge, and Self-Efficacy. Curator, 60(1), 87–100 (2017). [4] McNally, X. et al. A meta-analysis of the effect of visiting zoos and aquariums on visitors’ conservation knowledge, beliefs, and behavior. Conserv. Biol., 39(1), e14237 (2025). [5] Bruni, C. M. et al. The value of zoo experiences for connecting people with nature. Visitor Stud., 11(2), 139–150 (2008).
背景 04 展示の効果 • 参加型や自然に近い展示は来訪者の関心向上につながる [6][7] • インタラクティブな展示が学習効果と認識を向上させる [8] • 楽しさ・喜びが記憶や学習効果を高める [9] 来訪者の関心を惹きつけ,展示の効果を高める工夫が重要 [6] Fernandez, E. J. et al. Animal–visitor interactions in the modern zoo: Conflicts and interventions. Appl. Anim. Behav. Sci., 120(1–2), 1–8 (2009). [7] Miller, L. J. Visitor reaction to pacing behavior: Influence on perception of animal care and support for zoos. Zoo Biol., 31(2), 242–248 (2012). [8] Godinez, A. M. & Fernandez, E. J. What is the zoo experience? How zoos impact visitors’ behaviors, perceptions, and conservation efforts. Front. Psychol., 10, 1746 (2019). [9] Lucardie, D. The impact of fun and enjoyment on adult learning. Procedia-Soc. Behav. Sci., 142, 439–446 (2014).
背景 複数個体の展示による俯瞰した観察 • 個々の動物への関心は生まれにくい • 観察学習効果の低下 05
背景 06 バンドによる識別 複数個体の展示による俯瞰した観察 • 個々の動物への関心は生まれにくい • 観察学習効果の低下 個体紹介
背景 07 バンドによる識別 複数個体の展示による俯瞰した観察 • 個々の動物への関心は生まれにくい • 観察学習効果の低下 個体を識別することがその個体の 共感や保全行動につながる [10] [10] Smith, P., Mann, J. and Marsh, A.: Empathy for wildlife: The importance of the individual, Ambio, Vol. 53, No. 9, pp. 1269–1280 (2024). 個体紹介
ペンさく 腹部模様を 描画 描画から 検索 Nakagawa, Y. and Nakamura, S.: A Drawing-type Observation and Retrieval Method Focusing on the Abdominal Pattern of Penguins, Proceedings of the 35th Australian Computer-Human Interaction Conference, OzCHI ’23, p. 24–32 (2024).
ペンさく 腹部模様を 描画 描画から 検索
ペンさく 大学生を対象とした利用実験 • 個体への関心の高まり • 特徴の認識や記憶に影響する可能性 ▲ 参加者が大学生に限られていた ▲ 実環境での検証ができていなかった
システム設計 11 オレライム 水族館との連携 • 水族館から提供された全個体データをもとに 描画データセットを構築 • すべての個体の検索・参照を可能に 男の子。 誕生日は1999年2月25日。 ペアはダイスケ。 草原のペンギン。
システム設計 実証実験に向けた機能追加 図 鑑 ア ル バ ム 飼育されているすべてのペンギンを 一覧形式で閲覧 描画・検索したペンギンを記録し, 振り返りや思い出に 12
システム設計 実証実験に向けた機能追加 図 鑑 ア ル バ ム 飼育されているすべてのペンギンを 一覧形式で閲覧 描画・検索したペンギンを記録し, 振り返りや思い出に 13
実証実験 池 袋 ・ サ ン シ ャ イ ン 水 族 館 で の 実 証 14
結果・考察 行動メモ分析 • 期間中 167組 270名がシステムにアクセス • 1端末を複数人で共有しながら利用する例が多い • 子連れの家族・常連の方の利用者が多い 15
結果・考察 行動メモ分析|コミュニケーション促進 • 個体名を用いた会話の発生 • 同行者と検索結果を見せ合いながら話す様子 単なる鑑賞にとどまらず,個体を主とした交流が生まれるきっかけに あ、ぽてとだ!かわいい〜。 オレライム点が多いな!笑 16
結果・考察 行動メモ分析|個体に着目した深い観察行動 • 個体ごとの違いの気づき • 個体間の関係性など多様な視点からの観察 おなかに点がついてるんだ!模様が違うの知らなかった〜 似たような柄の子がいる ペアのペンギンも見つけた! 17
結果・考察 滞在時間の増加 • ペンさく利用者は展示前の滞在時間が増加 親に諭されるまで夢中で使い続ける子供も 主体的な観察体験やペンギンへの興味関心の高まり これ見てると時間経っちゃう 18
結果・考察 行動メモ分析|興味・親しみの形成 • 個体情報を自分ごとにして親近感を示す • 再来して覚えた個体を探す様子 名前と個体が結びつくことでより関係性のある存在として認識 パパと誕生日近いね! のんちゃんはどこにいったかな 19
結果・考察 描画データ例 個体を観察せず自由に描画 描画に基づく模様の描画 20
結果・考察 描画データ例 個体を観察せず自由に描画 描画に基づく模様の描画 余白にコメントを書く発展的な使い方 21
今後 課題・今後の展望 掲示を読むものの 検索精度が低く ペンギンの動きで アクセスしない人 正解がわからない 観察しづらい 長期・複数施設 での実証実験 UIの改善 検索アルゴリズム システム側で 外国語対応 の改善 ある程度補完 ログデータを 活用した詳細な分析 22
今後 サンシャイン水族館・掛川花鳥園での追加実験 23
今後 サンシャイン水族館・掛川花鳥園での追加実験 24
まとめ 背景|水族館における個体に着目した観察の必要性 提案| ペンギンの模様を描画・検索する観察システム 実験|サンシャイン水族館で来訪者が利用する様子を観察 結果|会話促進や深い観察行動,興味関心の形成に効果 今後|長期・複数施設でのログデータを活用した実証実験