Webブラウジング実験環境統制システムの実装と待機画面の表現が離脱に及ぼす影響の調査

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May 14, 24

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

Webブラウジング実験環境統制システムの実装と 待機画面の表現が離脱に及ぼす影響の調査 三山貴也 中村聡史 (明治大学) 山中祥太 (LINEヤフー株式会社) 1

2.

背景 Webにおけるユーザ体験 • Webページを表示するとき、読み込みによる待機時間が発生 ストレス モチベーションの低下 ページから離脱 進捗インジケータによってユーザの体感時間を短縮 スロバー (スピナー) プログレスバー 2

3.

関連研究 進捗インジケータと体感時間 • スロバーの回転速度と大きさが体感時間に影響 [大島ら 2020] • プログレスバーのアニメーションの加速度を変更することで、 速度を速く知覚 [Kurokiら 2015] • プログレスバーの周辺に視覚刺激を提示することで、 体感時間を短縮 [松井ら 2019] 大島寛斗, 小松孝徳, 山田誠二, “ユーザの待ち時間に影響を及ぼすスロバーの構成要素の探究,” 人工知能学会全国大会論文集 第34回全国大会, vol.JSAI2020, p.3J5OS9b02, Jun.2020. Y. Kuroki, and M. Ishihara, “Manipulating Animation Speed of Progress Bars to Shorten Time Perception,” HCI International 2015 - Posters’ Extended Abstracts, pp.670-673, Los Angeles, California, USA, Aug.2015. 松井啓司, 中村聡史, 鈴木智絵, 山中祥太, “周辺視野への視覚刺激提示によるプログレスバーの主観的な待機時間短縮手法,” 情報処理学会研究報告(HCI), vol.2019-HCI-181, no.25, pp.1-6, Jan.2019. 3

4.

関連研究 これまでの研究 [HCS 2023年9月] • Webページの読み込み中に表示する進捗インジケータの種類が ユーザの離脱に及ぼす影響の調査 三山貴也, 小川剣二郎, 青木柊八, 中村瞭汰, 中村聡史, 山中祥太, “周辺視野への視覚刺激の提示が読み込み中のページ離脱率に及ぼす影響,” 信学技報 ヒューマン コミュニケーション基礎研究会(HCS), vol.123, no.188, pp.35-40, Sep.2023. 4

5.

背景 Web上での実験 クラウドソーシングなどを利用することで、 大規模なサンプルを入手できる 実験環境によってディスプレイサイズ ・ 解像度が異なるため、 表示サイズを統制することが難しい ex) 体感時間は視覚刺激の大きさに影響を受ける 5

6.

背景 環境による表示の違い 6

7.

関連研究 Web実験における環境統制手法 [Liら 2020] • ディスプレイ解像度 (1mmあたりのピクセル数) をもとに、刺激サイズを統制 • カードの画像と実物のクレジットカードの大きさを一致させるタスク Q. Li, S. J. Joo, J. D. Yeatman, and K. Reinecke, “Controlling for Participants’ Viewing Distance in Large-Scale, Psychophysical Online Experiments Using a Virtual Chinrest,” Scientific reports, vol.10, no.1, pp.1-11, Jan.2020. 7

8.

関連研究 Web実験のための環境構築ツール (jsPsych) ブラウザベース実験の開発を支援するJavaScriptフレームワーク • 独自のプラグインを作成できる J. R. De Leeuw, “jsPsych: A JavaScript library for creating behavioral experiments in a web browser,” Behavior Research Methods, vol.47, pp.1-12, 2015. 8

9.

背景 Webブラウジング実験における環境統制 ブラウザ自体のサイズ (ウインドウサイズ) を含めた統制 • 履歴、ブックマーク、タブなど、様々なページ遷移方法 • 動画視聴、Web閲覧など、無関係な作業 ブラウジング実験のための環境統制が必要 9

10.

Webブラウジング実験環境統制システム ブラウザを模したインタフェース上でブラウジング • 刺激サイズに加えて、ブラウザ自体のサイズを統制 インタフェース上でのブラウザ操作によって、ページ遷移方法を統制 フルスクリーン表示によって、無関係な作業を制限 10

11.

Webブラウジング実験環境統制システム 全画面領域 ブラウザ領域 11

12.

Webブラウジング実験環境統制システム 12

13.

実験 実験目的 • Webブラウジング実験環境統制システムの動作を検証 • Webページの読み込み中に表示する進捗インジケータが 離脱に及ぼす影響を調査 13

14.

実験 実験概要 • ページ遷移しながら情報探索を行い、ページ読み込み中における 離脱率と離脱タイミングを調査 • 読み込み中の待機画面によって、離脱行動が変化するか調査 • 実装したシステムを用いて、クラウドソーシングで大規模に実験 14

15.

実験 実験中のページ遷移 ページ一覧画面 読み込み中の待機画面 各ページの内容 離脱 15

16.

実験 読み込み中の待機画面 スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 1名の実験参加者につき、読み込み中の待機画面は1種類に限定 16

17.

関連研究 これまでの研究 [HCS 2023年9月] • 用意したページ数が少なく、代替ページの閲覧が難しい • 読み込み時間がランダムな秒数のため、長い読み込み時間に慣れる 十分な離脱行動を観測できていない 三山貴也, 小川剣二郎, 青木柊八, 中村瞭汰, 中村聡史, 山中祥太, “周辺視野への視覚刺激の提示が読み込み中のページ離脱率に及ぼす影響,” 信学技報 ヒューマン コミュニケーション基礎研究会(HCS), vol.123, no.188, pp.35-40, Sep.2023. 17

18.

実験 実験条件 • 閲覧可能なページは50ページ • 読み込み時間は75%の確率で1s、25%の確率で5s~10s 通常時は1sで、突発的に5s以上となる状況設定 ページの読み込みが長い場合は離脱して、 代替ページを閲覧する状況を再現 18

19.

実験 実験条件 • クレジットカードを用いたサイズ調整を行うと、ブラウザを模した インタフェースの横幅が24cmに統制される 24cm 19

20.

結果 実験参加者 • Yahoo!クラウドソーシングにおいて、275名が実験を完了 • 実験システムにアクセスしてから実験開始前の脱落が210件 • そのうち124件はサイズ調整を行っていない 20

21.

結果 実験環境統制について サイズ調整結果の分布 サイズ調整回数の分布 スケール : サイズ調整用カード画像の初期サイズに対するサイズ調整結果の比率 サイズ調整を1回も行っていない実験参加者が多くみられる 21

22.

結果 実験環境統制について • 実験参加者をサイズ調整群 (調整回数が5回以上) とサイズ未調整群 に分けてページ滞在時間を分析 ページ滞在時間 人数 アクセス数 平均 標準偏差 サイズ調整群 218 2487 6.05s 8.09s サイズ未調整群 57 680 4.21s 6.65s サイズ未調整群ではページ滞在時間が短い傾向 22

23.

考察 実験環境統制について サイズ調整結果の分布 サイズ調整回数の分布 調整結果と調整回数が一定範囲に分布しているため、 多くの実験参加者は環境統制ができた可能性が高い 23

24.

考察 実験環境統制について サイズ調整回数の分布 実験開始前の脱落が210件、 そのうち124件はサイズ未調整 クレジットカードを用いたサイズ調整は負荷の高い作業 24

25.

考察 実験環境統制について 平均ページ滞在時間 サイズ調整群 サイズ未調整群 6.05s 4.21s 指示を守らない参加者は比較的雑にページ遷移を行う可能性 25

26.

結果 離脱について • 以下の参加者を除外して、190名を対象に分析 • サイズ未調整群の57名 • 実験中のアクセス数が5未満の26名 • 離脱数が20以上の2名 26

27.

結果 離脱率について 5s~10sの読み込み時間における離脱率 スロバー (75名) プログレスバー (64名) プログレスバー+視覚刺激 (51名) アクセス数 離脱数 離脱率 アクセス数 離脱数 離脱率 アクセス数 離脱数 離脱率 389 97 24.94% 291 14 4.81% 210 11 5.24% スロバー条件では、プログレスバー条件に比べて離脱率が高い プログレスバー条件とプログレスバー+視覚刺激条件では大きな差はない 27

28.

結果 離脱タイミングについて 離脱タイミングの分布 (スロバー条件) ページの読み込み時間が7秒のとき 読み込み開始から5秒で離脱 7 5 28

29.

結果 離脱タイミングについて 各条件における離脱タイミングの分布 スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 スロバー条件では、離脱タイミングが分散している 読み込み完了まで残りわずかでの離脱もみられる 29

30.

結果 離脱タイミングについて 各条件における離脱タイミングの分布 スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 プログレスバー条件では、離脱タイミングが早い傾向 読み込み開始から3秒以内の離脱が多い 30

31.

考察 離脱について 離脱タイミングの分布 (スロバー) 各条件におけるページ離脱率 スロバー 24.94% プログレスバー プログレスバー +視覚刺激 4.81% 5.24% スロバーでは処理の進捗状況が可視化されておらず、 読み込み時間を予測できないため離脱が発生しやすい 31

32.

考察 離脱について 各条件における離脱タイミングの分布 スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 実験で用いたプログレスバーが一定速度で進み、 読み込み時間を予測できるため離脱が発生しにくい 32

33.

結果と考察 実験設計 • これまでの研究と比較して多くの離脱行動を観測できた • 用意するページ数を増やして代替ページを多く提供 • 突発的に長い読み込みが発生する状況設定 ページの読み込みが長い場合は離脱して、 代替ページを閲覧する状況を再現できた 33

34.

今後の展望 実験環境統制システムをベースとして 他者が実験を実施できるように改良 • Web上での様々な実験を環境統制をしつつ実施可能とする • どのような機能があると使いやすいかご意見をいただければ幸いです • 速度変化や途中停止などの動きを含むような 実環境に近いインジケータを用いた実験 34

35.

まとめ 背景 : Web上での実験では環境統制の問題が存在 Webページの読み込み中に離脱が発生 目的 : Web実験環境統制システムの実現 読み込み中に表示する進捗インジケータが離脱に及ぼす影響を調査 実験 : Web実験環境統制システムを用いてクラウドソーシングを利用して実験 スロバーとプログレスバーについて離脱行動を比較 結果 : 環境統制作業を行わない参加者が存在 スロバー条件はプログレスバー条件に比べて離脱率が高い 考察 : 環境統制作業の有無によって参加者を分類できる可能性 読み込み時間を予測できるかどうかが離脱に影響 35