水族館でのペンギン個体識別法の調査と腹部模様に着目した観察手法の比較検証

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September 03, 24

スライド概要

多くの水族館では,ペンギンを飼育する際にフリッパーバンドを用いて個体識別している.しかし, バンドはかなり小さいうえに,似通った色が使用されている場合も多く,一般の来園者が色を見分けるこ とは容易ではない.本研究ではまず,複数の水族館を訪問調査し,どのような識別が行われているのか, また色の識別性からバンドによる個体識別可能性を検討した.次に,我々がこれまでに提案してきた腹部 模様の描画による個体識別手法の有用性を検証するため,水族館にて我々の手法と,フリッパーバンドに よる名前検索システム(ぺんたごん)を用いた観察実験を実施し,比較を行った.実験の結果から,バン ドによる手法は色の判別が難しいもののエピソード記憶化できるものは記憶できること,また腹部模様に よる個体識別は多様なペンギンの記憶につながることや,個々のペンギンに対する関心が高まることが明 らかになった.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

水族館でのペンギン個体識別法の調査と 腹部模様に着目した観察手法の比較検証 2024.9.2-4|EC2024|北海道情報大学 中川由貴 中村聡史 明治大学 先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス専攻

2.

背景 動物園・水族館は多くの人が訪れるレジャー施設 小中学校の課外学習など教育的役割 や 動物福祉など社会的役割を担う 生き物の中でも ペンギン は人気が高く, 多くの人を惹きつける Q. 好きな動物・生き物を教えてください(1000人) 1.ペンギン 2.イルカ 3.パンダ 84 Nakagawa, Y., and Nakamura, S.. A Drawing-type Observation and Retrieval Method Focusing on the Abdominal Pattern of Penguins. OzCHI 2023. 2023. 59 44 4.犬 5.キリン 21 18 2

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背景 ペンギンは数十羽単位での展示で, 俯瞰した観察になってしまう ただ眺めているだけでは記憶や興味にはつながりづらい • 観察学習効果の低下 • 再訪に繋がらない 参照)https://co-trip.jp/post/116127/ 3

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水族館調査 ペンギンを飼育する水族館がどのような展示をしているか訪問調査 • 期間:2022/6/1 ~ 2024/6/3 • 施設数:18(国内 14, 海外 4) 17 /18施設がペンギンをバンドで個体識別 10 /18施設が個体に着目させる工夫 4

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水族館調査 フリッパーバンドの例 名前入りバンド カラーバンド ビーズの組み合わせ 5

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水族館調査 ペンギンのバンドの色と名前を一覧できる展示 掛川花鳥園 Sea Life Sydney 6

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水族館調査 バンドの色から個体を検索できる スマホシステム「ぺんたごん」 8

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水族館調査 個体識別の重要性 イルカを個体識別することがその個体に対する共感や, 保全行動への意欲を 向上させる [Smithら, 2024] 水族館におけるペンギンの個体識別が, ペンギンに対する感情的なつながりや 推しペンギンなどの特定の個体を追いかける楽しみにつながる可能性 Smith, P., Mann, J. and Marsh, A.: Empathy for wildlife: The importance of the individual, Ambio, pp. 1654–7209 (2024). 9

9.

水族館調査 10

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水族館調査 • バンドの視認性は展示環境やペンギンの動きに依存する • • バンドがペンギンの生存率や繁殖率に与える影響が懸念されている [Gauthier-Clercら, 2004] 11

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提案手法 腹部模様を 描画 描画から × 名前検索 Nakagawa, Y. and Nakamura, S.: A Drawing-type Observation and Retrieval Method Focusing on the Abdominal Pattern of Penguins, Proceedings of the 35th Australian Computer- Human Interaction Conference, OzCHI ’23, p. 24–32 (2024). 12

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システム • スマートフォン上で斑点を描画 • 類似度に基づいて推測されるペンギンを ランキング形式で提示 13

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関連研究 LINNÉ LENS スマホのカメラで生き物をかざすだけで 自動で認識し, 名前を表示するアプリ 能動性がなく記憶には残りづらい 参照)https://lens.linne.ai/ja/ 14

14.

関連研究 能動性と興味・記憶 • ぬりえが大学生の 認知力の向上 に影響する [Holtら, 2019] • 能動的に話を聞くとその話題への 興味が増す [Funazakiら, 2022] • Holt, N. J., Furbert, L., and Sweetingham, E.. Cognitive and Affective Benefits of Coloring: Two Randomized Controlled Crossover Studies. Journal of the American Art Therapy Association, 2019, vol. 36, no. 4, p. 200-208. • Funazaki, F., and Nakamura, S.. A Method to Success of "Oshigatari" Recommendation Talk by Asking to Create Search Queries While Listening, Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systems, International Conference on Knowledge -Based and Intelligent Information & Engineering Systems. 2022, vol.207, p. 1812-1821. 15

15.

過去の研究 描画の 類似度評価 データセット 構築 OzCHI2023 AVI2024 描画収集システムを実装 腹部描画データセット構築 名前検索が可能か調査 検索精度の評価 16

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目的 ⚫ システムの水族館における利用可能性を議論 ⚫ システムを使った観察がペンギンの記憶に与える影響を調査 17

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実地実験 提案手法 比較手法 腹部模様を描画&検索 バンドの色で個体検索 18

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実験 実地実験 アンケート 記憶テスト 19

19.

実験 実地実験 アンケート 記憶テスト 場所:すみだ水族館 参加者:大学生9名 20

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実験 実地実験 アンケート 記憶テスト 1. ペンギンの名前の記憶に関する質問 • 描いたペンギンの名前 2. システムのユーザ評価に関する質問 • 5段階リッカート尺度 • 実験の感想(自由記述) 21

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実験 実地実験 アンケート 記憶テスト 実地実験の 6 日後に実施 記憶している範囲でペンギンの画像と名前を 線でつなぐタスク 22

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結果 提案手法 比較手法 システムの評価(平均) 3.56 3.88 記憶テスト正解人数 4名 3名 23

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結果 提案手法 比較手法 システムの評価(平均) 3.56 3.88 記憶テスト正解人数 4名 3名 3名とも「さくら」を記憶 → 同名の実験参加者の影響 24

24.

結果 比較手法にてバンドの色を記憶されたペンギン ペンギンの名前 バンドの色 記憶した人数 さくら ピンク・ピンク 4名 ローズ 赤 1名 フジ 紫 1名 バンドによる名前検索は, バンドの色と名前が紐づいている場合に 記憶に効果的である 25

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結果 提案手法 比較手法 検索したペンギンの数(平均) 11.0羽 34.1羽 検索での名前特定率(平均) 54.5% 41.9% システムのペンギン網羅率 63.5% 100.0% 個人間の検索重複率(平均) 9.3% 14.5% 26

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結果 提案手法 検索したペンギンの数(平均) 11.0羽 比較手法 34.1羽 27

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結果 提案手法 比較手法 検索での名前特定率(平均) 54.5% 41.9% システムのペンギン網羅率 63.5% 100.0% 28

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結果 提案手法 比較手法 検索での名前特定率(平均) 54.5% 41.9% システムのペンギン網羅率 63.5% 100.0% 検索してもそれが正しい名前か判断できない → 検索数に対して記憶に残りづらい 29

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結果 提案手法 個人間の検索重複率(平均) 9.3% 比較手法 14.5% 一度検索したペンギンが記憶に残りづらい 30

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考察 記憶への影響 • 提案手法は名前やバンドに制限を受けず, 様々なペンギンが記憶に残りやすい • 比較手法では3倍以上のペンギンが検索された一方, 記憶テストでは提案手法 の方がペンギンを記憶した人数が多い • FBより提案手法は個体の特徴の認識や個体への関心を高める可能性が示唆 能動的に描画し, ペンギンの特徴に着目したことが記憶につながる可能性 がある 32

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課題と展望 データセットの不足 実験データの数 ペンギンデータセットを サンシャイン水族館と協力し, 拡充・網羅し 一般の来館者を対象に 検索精度を向上 フィールド実験 33

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まとめ 背景 | 興味や記憶につながる生き物の観察支援が必要 提案 | ペンギンの模様をぬりえ・名前検索する観察システム 実験 | システムを使用した水族館での観察実験・記憶テスト 結果 | システムが多様なペンギンの記憶や関心につながる可能性 今後 | 検索精度を向上し, 水族館と協力して実証実験 34