デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が観察学習時の観察力に及ぼす影響の調査

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が 観察学習時の観察力に及ぼす影響の調査 明治大学 総合数理学部3年 江森柊哉 津田 紗宮良 宮崎 勇輝 小林 沙利 中川由貴 中村 聡史(明治大学) 掛 晃幸(株式会社ワコム)

2.

背景 デジタルデバイスによる手書きの広がり 教育現場でのデジタル化が進んでいる 筆圧表現がないデバイスの配布 チャレンジパッド3 Apple Pencil (USB-C) それらを使用することによる学習上の影響はないのか 2

3.

先行研究 割り算の筆算において,筆圧による濃淡表現がない場合 正答率が下がることを明らかにした[小林ら,2022] 図形問題において,筆圧による濃淡表現がない場合 初見問題の正答率が低くなることを明らかにした [宮崎ら,2023] 解法を学習した図形問題において,筆圧による濃淡表現がな い場合,説明の正確性,理解度の低下が示唆された [津田ら,2025] 小林沙利,植木里帆,関口祐豊,中村聡史,掛晃幸,石丸築,“デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が筆算の正答率に及ぼす影響” ,情報処理学会研究報告,No.C-5-5,pp.1-8,2022. 宮崎勇輝,小林沙利,中村聡史,掛晃幸,“デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が図形問題の解答に及ぼす影響の調査” ,情報処理学会研究報告, No. B-1-6 , pp. 1–8 ,2023. 津田紗宮良,宮崎勇輝,小林沙利,中川由貴,中村聡史,掛晃幸, “デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が算数問題の理解に及ぼす影響の調査” ,情報処理学会研究報告, No. 28 , pp. 1–8 ,2025. 3

4.

先行研究 割り算の筆算において,筆圧による濃淡表現がない場合 正答率が下がることを明らかにした[小林ら,2022] これまでは算数や数学に着目 図形問題において,筆圧による濃淡表現がない場合 初見問題の正答率が低くなることを明らかにした [宮崎ら,2023] その他の学習については十分に 解法を学習した図形問題において,筆圧による濃淡表現がな い場合,説明の正確性,理解度の低下が示唆された 明らかになっていない [津田ら,2025] 4

5.

着想 どのような時に濃淡を使うか 絵を描くときに濃淡がないと困る 絵を描く+学習 観察学習におけるスケッチに着目 5

6.

着想 筆圧による濃淡表現によって表面の 質感(テクスチャ)や構造をより細かく描写できる可能性 濃淡があることによって満足のいく スケッチができる可能性 6

7.

目的 デジタル手書きにおける濃淡表現の有無が 観察学習時の観察力に及ぼす影響を調査 7

8.

仮説 H1 筆圧によって線の濃淡が変わらない場合には変わる場合に比べ, 観察対象のテクスチャや構造への理解度,自己効力感が低下する H2 筆圧が多様な変化幅を見せる学習者は対象をより詳細に観察している 8

9.

実験 タブレットとペンを用いて対象を観察しながらスケッチする 筆圧表現あり群と筆圧表現なし群で検証 実験協力者 大学生・大学院生40名 各群20名ずつ 9

10.

実験 観察対象の選定 • 個人のスケッチ能力や集中力による差が大きくならない • 構造が複雑すぎず,かつ短時間で全体像を描ける • 質感や色に違いが見られるため濃淡表現が用いられる可能性 中学校理科の火成岩の観察に着目 10

11.

実験 火成岩 観察対象とする火成岩 一般的な学習で用いられる6種類(火山岩3種類,深成岩3種類) ペアとした2種類を比較し,顕微鏡で観察 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 1:花崗岩,2:閃緑岩,3:斑れい岩 4:流紋岩,5:安山岩,6:玄武岩 顕微鏡で拡大した画像 11

12.

実験 スケッチの例 筆圧あり条件 筆圧なし条件 12

13.

実験手順 事前知識確認テスト 操作方法確認のスケッチ(3分) 本番のスケッチ(15分) 観察力チェックテスト 自己効力感アンケート 13

14.

実験手順 岩石の知識を調査 事前知識確認テスト 操作方法確認のスケッチ(3分) 本番のスケッチ(15分) 観察力チェックテスト 自己効力感アンケート 14

15.

実験手順 事前知識確認テスト 操作方法確認のスケッチ(3分) 画面操作,顕微鏡の操作を確認 本番のスケッチ(15分) 観察力チェックテスト 自己効力感アンケート 15

16.

実験手順 事前知識確認テスト 操作方法確認のスケッチ(3分) 本番のスケッチ(15分) 1人2回行う 観察力チェックテスト 自己効力感アンケート 16

17.

実験手順 知識確認テスト 操作方法確認のスケッチ(3分) 本番のスケッチ(15分) 観察力チェックテスト 自己効力感を測定 自己効力感アンケート 17

18.

実験 観察力の測定 観察力チェックテスト テクスチャに関する問題10問,構造に関する問題5問 岩石ごとに割り振られた番号を当てはめて回答 正答は回答の順序により判定 18

19.

実験 観察力の測定 問題 観察した岩石の粒は,全体としてどのくらいの大きさか (非常に小さい/小さい/中くらい/大きい/非常に大きい) 2 1 1 正解データ(非常に小さい/小さい/中くらい/大きい/非常に大きい) 2 1 正解(非常に小さい/小さい/中くらい/大きい/非常に大きい) 1 2 2 不正解(非常に小さい/小さい/中くらい/大きい/非常に大きい) 19

20.

実験 自己効力感の測定 自己効力感アンケートを実施 全10問,それぞれの質問に対して5段階で回答 岩石の特徴を交えた設問 ex Q1 岩石の細かい粒の大きさの違いを自分でスケッチで表現できると思う スケッチに対する設問 ex Q8 スケッチを早く描く・ある程度時間制約があっても質を保てると思う 20

21.

結果 除外対象 除外対象 事前知識によって観察力チェックテストを解いた可能性がある人 事前知識確認テストにおいて7/11以上の点数であった人を除外 筆圧なし条件において1名が除外対象 分析対象 筆圧あり条件 筆圧なし条件 20名 19名 21

22.

結果 観察力チェックテストの得点 筆圧あり条件と筆圧なし条件で総合得点に差は見られなかった 筆圧あり条件では筆圧なし条件と比較し構造に関する点数が高かった * 80 得点率 [%] 得点率 60 40 20 60 40 20 0 0 テクスチャ 筆圧あり 筆圧なし 総合得点 筆圧あり 構造 筆圧なし テクスチャと構造に分けた得点 22

23.

結果 自己効力感 筆圧あり条件と筆圧なし条件で自己効力感に差は見られなかった 筆圧あり条件では時間が足りなかった可能性 30 5 4 得点 得点 20 3 2 10 1 0 0 1 筆圧あり 筆圧なし 自己効力感の総合得点 2 3 4 筆圧あり 5 6 7 8 9 10 筆圧なし 自己効力感アンケート設問別得点 23

24.

結果 自己効力感 筆圧あり条件と筆圧なし条件で自己効力感に差は見られなかった 筆圧あり条件では時間が足りなかった可能性 Q8 「スケッチを早く描く・ある程度時間制約があっても質を保てると思う」 30 5 4 得点 得点 20 3 2 10 1 0 0 1 筆圧あり 筆圧なし 自己効力感の総合得点 2 3 4 筆圧あり 5 6 7 8 9 10 筆圧なし 自己効力感アンケート設問別得点 24

25.

結果 H1の検証結果 H1 筆圧によって線の濃淡が変わらない場合には変わる場合に比べ, 観察対象のテクスチャや構造への理解度,自己効力感が低下する 構造に関しては筆圧あり条件の方が得点が高いが, それ以外に差は見られなかった 25

26.

結果 筆圧の変化幅と観察力 チェックテストの得点率,スケッチ時間,ストローク数から検証 筆圧の変化幅が大きい参加者はストローク数が多い 筆圧の変化幅と得点率,スケッチ時間,ストローク数との関係 筆圧の変化幅 大きい(N=20) 小さい(N=19) 合計得点の得点率(%) 56.7 55.3 スケッチ時間の平均 800.4 793.3 ストローク数の平均 1514.5* 957.8* 筆圧の変化幅と観察力の関係 26

27.

結果 H2の検証結果 H2 筆圧が多様な変化幅を見せる学習者は対象をより詳細に観察している ストローク数に違いがみられたが,それ以外に差は見られなかった 27

28.

考察 色の識別に与える影響 筆圧あり条件では ・黒色の得点が高い ・見える色の種類に関する問題の点数が高い 火成岩の色別得点率 4.0 3.5 白色 黒色 57.0 55.8* 3.0 筆圧なし 58.9 2.5 得点 筆圧あり 52.2* 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 * p<0.05(筆圧ありと筆圧なしの間で有意差あり) 1 2 3 4 5 6 筆圧あり 7 8 9 10 11 12 13 14 15 筆圧なし 観察力チェックテスト問題別得点 28

29.

考察 色の識別に与える影響 筆圧あり条件では ・黒色の得点が高い ・見える色の種類に関する問題の点数が高い 問題7 見える色の種類は (1 種類/2 種類/3 種類/4 種類/それ以上) 火成岩の色別得点率 4.0 3.5 白色 黒色 57.0 55.8* 3.0 筆圧なし 58.9 2.5 得点 筆圧あり 52.2* 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 * p<0.05(筆圧ありと筆圧なしの間で有意差あり) 1 2 3 4 5 6 筆圧あり 7 8 9 10 11 12 13 14 15 筆圧なし 観察力チェックテスト問題別得点 29

30.

考察 スケッチ時間 筆圧あり条件の方が筆圧なし条件に比べ平均的に スケッチに取り組んだ時間が長く,制限時間の限り書いた人も多い /標準 /標準 スケッチ時間 [秒] /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 筆圧あり 筆圧なし スケッチへの取り組み時間 30

31.

考察 スケッチ時間と得点 筆圧あり条件の方が制限時間の限り書いた人の点数が高い 筆圧あり条件の方が得点率のばらつきが大きい /標準 スケッチ完成と未完成ごとの得点率 /標準 筆圧あり 制限時間以内(%) 制限時間の限り(%) 53.0 57.8* 筆圧なし 57.5 得点率 [%] /標準 52.6* /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 /標準 * p<0.05(筆圧ありと筆圧なしの間で有意差あり) 筆圧あり 筆圧なし 手法ごとの得点率分布 31

32.

考察 スケッチ時間と得点 筆圧あり条件の方が制限時間の限り書いた人の点数が高い 筆圧あり条件の方が得点率のばらつきが大きい 筆圧あり条件では一部の人の観察力が高い 筆圧あり条件ではスケッチへの取り組みが * p<0.05(筆圧ありと筆圧なしの間で有意差あり) 意欲的な学習者の観察力の向上を促す可能性 手法ごとの得点率 32

33.

考察 条件間のストローク量 筆圧なし条件では短いストロークが多い 筆圧あり条件では長いストロークが多い 筆圧あり条件では線を重ねることで 色の調節をしている可能性 ストローク数 5000 4000 3000 2000 1000 0 5 30 55 80 105 130 155 180 ストロークの長さ 同じ箇所を何度も見るため観察力の 向上につながる可能性 筆圧あり 筆圧なし 手法ごとのストロークの分布 33

34.

考察 条件間のストローク量 筆圧なし条件では短いストロークが多い 筆圧あり条件では長いストロークが多い 筆圧あり条件 筆圧なし条件 筆圧あり条件では線を重ねることで 色の調節をしている可能性 同じ箇所を何度も見るため観察力の 向上につながる可能性 34

35.

展望 • どのような特徴を持つ学習者に効果的か個人の中での影響を調査 • 小・中学生を対象に授業の一環としての調査 • 語学や暗記科目に与える影響の調査 35

36.

まとめ 背景:デジタル手書きにおいて筆圧の濃淡表現がない場合がある 目的:筆圧の有無が観察学習時の観察力に与える影響を調査する 手法:タブレットとペンを用いて岩石のスケッチを行う 結果:構造への理解が高く,取り組み時間が長くなった 展望:新たな科目への影響を調査 36