自身のみが聴取可能な音楽によるプレゼンテーション支援手法

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February 19, 20

スライド概要

プレゼンテーションは情報伝達や発表者と聴衆を繋ぐコミュニケーションの手段として,社会のあらゆる場面で用いられている.近年では,スライド作成ソフトウェアが普及し,特別な技術を必要とせず誰でも図や文章を自由自在に操り,スライド資料を作成できるようになった.そのため,誰でも様々な情報を聴衆に提示しながら本格的なプレゼンテーションを行うことができる.しかし,行われるプレゼンテーションの数が増えたことにより,聴衆にとっては情報過多となる問題が発生している.例えば,ある学会では1日に10数件のプレゼンテーションが行われており,これらすべてのプレゼンテーションを聴き続けることは容易ではない.その一方で,発表者にとっては自分が行うプレゼンテーションは1件のみであり,少しでも多くの聴衆に話を聞いてもらい,興味を持ってもらいたいと思うことは必然である.そこで重要となるのが話の内容をどれだけ上手く伝えられるかというプレゼンテーションスキルである.どれだけ話の内容が興味深いものであっても,それをただ淡々と述べるだけのような,聴衆のことを意識しない話し方では聴衆に不満を与えかねず,話の内容にも悪印象を抱かれかねない.聴衆に良い印象を残すためにも,簡潔に伝わりやすいプレゼンテーションを行うことが重要である.
そこで,発表者は伝わりやすいプレゼンテーションを行うために様々な準備に取り組むことになる.ここでは資料の精査や発表の練習といったものが一般的で,これらは繰り返し取り組むことで十分な効果が期待できる.しかし,これらは主に発表前に取り組むものであり,発表中に起こりうる様々な事態に対して不十分な点がある.その1つにまず緊張があげられる.緊張は発表者の冷静さを奪い,話す内容を忘れてしまうことや,緊張している様子が聴衆に伝わってしまうといった悪影響が予想される.本番の回数を重ねることで緊張は徐々になくなっていくものであるが,初心者には避けづらい事態の1つである.また,発表中の適切な声の大きさについては,会場に実際に行かなければ把握できないため,練習時のものでは会場に行き渡らせるには不十分な可能性がある.さらに,長時間のプレゼンテーションでは疲れにより声が小さくなることも考えられる.その他,広い会場で自分だけが話すという特殊な環境から,発表者は間を詰めて話してしまい,その結果プレゼンテーションのテンポが速くなってしまうことがある.本論文ではプレゼンテーションに悪影響を及ぼす要素として,この緊張することと声が小さくなること,テンポが速くなることの3つに着目し,これらの影響を可能な限り小さくし,伝わりやすいプレゼンテーションを行うための発表中の支援について考える.
そこで,伝わりやすいプレゼンテーションを行うための支援手法として発表中の音楽聴取に着目する.音楽聴取が人間に与える影響は多々知られており,それらを応用することで上記の3つの悪影響に対応できる可能性がある.まず緊張については,音楽療法で知られるような音楽のリラックス効果をプレゼンテーション中の発表者に適用することで,緩和できる可能性がある.次に声の大きさについては,雑音下で行われた人間の発話は聞き取りやすいものになるという現象で知られるロンバード効果を用いる.プレゼンテーション中の発表者に音楽を聴かせることでこのロンバード効果を誘引できれば,発話を聞き取りやすいものにし,声の大きさの向上も期待できる.最後にテンポに関しては,音で人間のパーソナルテンポを引き込む現象を用いて,適切なテンポの音楽を聴かせることで,テンポを聞き取りやすいものに維持することができると考えられる.また,Xperia Ear Duoのような遮音性の無いイヤフォンを用いることで,外の音を遮断せずに発表者のみが音楽を聴くことができる.
以上の点を踏まえて,本論文ではプレゼンテーション中の発表者に音楽を聴かせることで,上記の悪影響を受けずに伝わりやすいプレゼンテーションを行うための支援手法を提案し,それぞれの悪影響について実験を行い,本手法の有用性を検証した.
まず緊張について調査した実験では,音楽に穏やかな曲調のジャズミュージックを用い,これを聴きながら行ったプレゼンテーションは,聴かずに行ったプレゼンテーションのときよりも感じる緊張が有意に低くなることがアンケート調査により明らかになった.また,プレゼンテーションが不得意な人にとっては話しやすさが向上する傾向も示唆された.
次に声の大きさに関して調査した実験では,15分の比較的長めのプレゼンテーションを行ってもらい,音楽にはプレゼンテーションの尺と同じクラシック音楽のボレロを用いた.この実験の結果,後半に盛り上がるボレロの曲調に合わせて声の大きさが向上することが確認された.
最後にテンポに関する実験では,BPM100,80,60の3種類の音楽を用いて聴衆による客観評価と話速度の2つの観点から音楽聴取の影響を調査したところ,BPM60の音楽を聴取したときにプレゼンテーション序盤において,聴衆にとって適切なテンポに制御可能である傾向が示唆された.
以上の3つの実験結果より,プレゼンテーション中の音楽聴取により緊張・声の大きさの低下・テンポの加速の3つの悪影響を低減できる可能性が示され,提案手法の有用性が示唆された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

自身のみが聴取可能な音楽による プレゼンテーション支援手法 徳久弘樹 先端数理科学研究科 先端メディアサイエンス専攻 中村研究室

2.

背景:プレゼンテーションの広がり • ツールの普及などにより, プレゼンテーション(以下プレゼン)が 広く行われている • 準備に取り組むことが一般的 • スライド作成や発表練習

3.

背景:プレゼンテーションの広がり • ツールの普及などにより, プレゼンテーション(以下プレゼン)が 広く行われている • 準備に取り組むことが一般的 • スライド作成や発表練習 • 本番中に起こりうる問題への対応が困難

4.

背景:本番中に起こりうる問題 • 緊張する • 声が小さくなる • テンポが速くなる

5.

背景:本番中に起こりうる問題 • 緊張する • 声が小さくなる • テンポが速くなる →情報が伝わり切らず、理解や共感も得られない

6.

背景:本番中に起こりうる問題 • 緊張する • 声が小さくなる • テンポが速くなる →情報が伝わり切らず、理解や共感も得られない 本番中の発表者に直接働きかける手段が必要

7.

背景:プレゼン支援に関する研究 プレゼン中の声や身体所作の情報をフィードバックし, 改善につなげる練習システム[栗原ら,2006]

8.

背景:プレゼン支援に関する研究 安静時の心拍フィードバックを用いた プレゼン中の緊張緩和[菅野ら,2019] 視覚フィードバック 聴覚フィードバック 触覚フィードバック

9.

音楽聴取について • 本番中のプレゼン支援として音楽聴取に着目 • 音楽聴取の影響 • リラックス効果[Walworth, 2003]→本番中の緊張を緩和できる? • ロンバード効果[Lane, 1971]→本番中の声を大きくできる? • 引き込み効果[長嶋, 2004]→本番中のテンポを制御できる?

10.

提案手法 発表者に自身のみが聴こえる音楽を提示し 伝わりやすいプレゼンになるように支援

11.

プレゼン中の音楽聴取 • 遮音性のないイヤフォンの流行 • 分割磁界供給型骨伝導による 常時装着音響デバイス[暦本 2018] • Xperia Ear Duo(2018 Sony)

12.

本手法の展望 • 発表者の状態に合わせて必要な音楽を提示

13.

本手法の展望 • 発表者の状態に合わせて必要な音楽を提示 • 声が小さくなった→声が大きくなるような音楽 • テンポが速くなった→テンポがゆっくりな音楽

14.

本手法の展望 • 発表者の状態に合わせて必要な音楽を提示 • 声が小さくなった→声が大きくなるような音楽 • テンポが速くなった→テンポがゆっくりな音楽 • この流れを自動化

15.

本手法の展望 発表者の状態に応じてリアルタイムで 適切な音楽を提示するシステムの完成 発表者の状態を検知

16.

本手法の展望 そもそも音楽で支援が可能か? 発表者の状態に応じてリアルタイムで 適切な音楽を提示するシステムの完成 発表者の状態を検知

17.

本手法の展望 そもそも音楽で支援が可能か? 発表者の状態に応じてリアルタイムで 適切な音楽を提示するシステムの完成 発表者の状態を検知 どんな音楽なら効果がある?

18.

実験

19.

実験 • 3種類の実験を実施 ①緊張緩和に関する実験 ②声の大きさに関する実験 ③テンポ制御に関する実験 • 音楽聴取の有無でプレゼンテーションを行ってもらう

20.

実験:使用した音楽 • 作業中に聴く音楽は好きでも嫌いでもない曲が最もふさわしい [Yakuraら, 2018] • 1つの実験内において聴取する音楽は全実験協力者で統一 • 比較的好みの差が生じにくいジャズやクラシックを採用

21.

①緊張緩和に関する実験 • 緊張を煽るために無人の教室でカメラにプレゼン • 実験協力者20名 • テーマは「働くことの意味」など • 音楽はジャズを採用 • プレゼン後のアンケートで 緊張度合いを回答

22.

①緊張緩和に関する実験 • 全体 • 音楽聴取で緊張が有意に低下する • 話やすさも音楽聴取で向上する傾向 • 個別 • 効果があったのはプレゼン経験が少ない、不得意な人が大半 • プレゼンが得意な人には効果が薄い • GN106で発表

23.

②声の大きさに関する実験 • 声の変化を見るため、15分のプレゼン • 発表済みの研究に関するもの • 音楽にはクラシックのボレロを採用 • 実験協力者12名 • マイクの音声で声の大きさを分析

24.

②声の大きさに関する実験 • 音楽聴取時に中盤から終盤で声量が増加傾向 • プレゼンの制限時間も守られやすく • 話しやすさは音楽聴取で低下 • 「研究の話と音楽が合わない」 • HCS2019で発表 質問内容 話しやすさ (音楽あり) 話しやすさ (音楽なし) 回答 人数 話しやすい,普通 5 話しにくい 7 話しやすい,普通 9 話しにくい 3

25.

③テンポ制御に関する実験 • 大学院入試を控えたFMSのB4の12名 • 受験で行う5分プレゼンを使用 • 三種類のテンポのジャズ音楽を聴きながら実験 • BPM100、BPM80、BPM60 • 音楽なしを含め、1人4回のプレゼン • 聴衆の7段階アンケートによる 客観評価

26.

③テンポ制御に関する実験 • 序盤テンポは音楽聴取時に遅く評価される傾向 • なかでもBPM60は最も遅く • 終盤テンポは音楽なしが最も遅く評価される傾向 • BPM60との差は小さい • GN109で発表 質問内容 音楽なし BPM100 BPM80 BPM60 序盤テンポ 4.31 4.21 4.13 3.89 終盤テンポ 4.27 4.69 4.40 4.30

27.

実験結果まとめ • プレゼン中に ①ジャズを聴くことで緊張が緩和 ②ボレロを聴くことで終盤に声が大きくなる ③BPM60のジャズを聴くことでテンポが遅く評価される傾向

28.

考察

29.

考察:実験全体を踏まえて • 3種類の悪影響に対して提案手法が有用である傾向

30.

考察:実験全体を踏まえて • 3種類の悪影響に対して提案手法が有用である傾向 • それぞれの効果を同時に適用できるか? • 本研究の議論では不明確 • 緊張緩和とテンポ制御ではどちらもジャズ音楽を用いているため、 同時適用できる可能性

31.

考察:実験全体を踏まえて • 「話しやすさ」について • プレゼン経験者は音楽聴取時の「話しやすさ」が低下する傾向 • 無音状態のプレゼンが当たり前であったから? • 音楽聴取状態のプレゼンに慣れることで解決できる可能性

32.

応用

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応用 発表者の状態をリアルタイムで検知する支援システム • プレゼンが不得意な人向け • 慣れないシチュエーションのプレゼン 2019年11月 ICEC2019(ペルー)で 音楽を聴きながら登壇発表

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応用 プレゼンのシナリオに合わせた音楽プレイリスト自動生成 • エンタメ性の高いプレゼンなど • 特定のタイミングで盛り上げるなど

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まとめ • 背景 • プレゼン本番中に適用できる対策アプローチが必要 • 提案 • プレゼン中の音楽聴取による支援手法 • 調査 • 緊張緩和,声の大きさの向上、プレゼン序盤のテンポ制御に有用性が示唆 • 応用 • リアルタイム支援システムや、シナリオに合わせたプレイリスト自動生成