コンテキストに応じたデジタル時計の部分強調表示による行動変容手法

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March 18, 25

スライド概要

デジタル時計は日常の中で頻繁に目にするが,時計を見ていても,忙しい時や何かに没頭しているときは,つい時間が過ぎてしまうことは珍しくない.ここで,デジタル時計には「時」「分」「秒」の情報が同時に表示されていることが多いが,全ての情報が必要な場面は少なく,実際にはコンテキストによって注目すべき要素が異なると考えられる.そこで本研究では,何かに没頭している状況における時間への意識を向上させることを目的とし,コンテキストに応じて注目すべき単位を大きくすることでその部分に意識を向けさせる手法を提案する.実験では,協力者にパズルに取り組んでもらい時間への意識が薄れる状況を作り出したうえで,あらかじめ指定した複数のタイミングで瞬時に行えるミッションをこなしてもらった.その際に,コンテキストに応じて表示が変化する時計と表示が変化しない時計を提示し,ユーザの行動変容を調査した.その結果,ミッションを行った時間において提案手法によって数秒遅れるケースが減少する傾向が確認され,さらに時計を見る回数が少ない場合でも,通常表示群に比べて指定時刻に遅れにくくなる傾向があることが示唆された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

コンテキストに応じたデジタル時計の 部分強調表示による行動変容手法 明治大学 重松龍之介 中村聡史

2.

背景 時間を意識しながら行動している 起床してから家を出るまで • 持ち物の準備 • 朝食 • 身支度 時計を見ながら意識的な時間管理が求められる 1

3.

背景 時間を意識しながら行動している 起床してから家を出るまで 時計を確認しながら行動していても • 持ち物の準備 時間管理がうまくいかないことがある • 朝食 • 身支度 時計を見ながら意識的な時間管理が求められる 2

4.

背景 ◆朝の準備でメイク 出発時刻を意識しながら 複数の工程をこなす必要がある 気づいた時には出発時刻を過ぎてしまった メイクフローチャートの例 3

5.

背景 作業に集中すると時間の認識が低下する[Ehret ら 2020] ↓ • 時刻を表面的に確認するだけ • 記憶に残らず何度も時計を見る 時刻を印象付ける仕組みが求められる Ehret, S., Roth, S., Zimmermann, S. U., Selter, A. and Thomaschke, R.: Feeling time in nature: The influence of directed and undirected attention on time awareness, Applied Cognitive Psychology, Vol. 34, pp. 737–746 (2020). 4

6.

背景 アラームやタイマー 目指す手法 目標の時刻までの時間 目標の時刻になってから 普段時計を見る動作の中で 自然と時刻を認識させる 強制的に気づかせる 目標の時刻 5

7.

背景 コンテキストによって注目する部分は異なる 試験開始までの時間を確認する時 「時」 残り時間を確認する時 「分」 試験終了直前で時間を確認する時 「秒」 6

8.

目的 作業に没頭していて時刻への意識が薄れている状況でも 普段の時計を見る動作の中で自然と時刻を認識させることで • 時間の遅れをなくす • 表面的な時刻の確認を防ぐ 7

9.

提案手法 ① コンテキスト認識 ② 部分的にサイズを変えて強調表示 8

10.

提案手法 強調表示一覧 背景 通常表示 分を強調 秒を強調 分と秒の強調① 分と秒の強調② 分と秒の強調③ 9

11.

仮説 提案手法を用いて時間管理を行うことで, 時計への意識が薄い状況でも,変化のない時計に比べて 指定時刻までの意識の変化 ✓ 指定時刻に遅れなくなる 表面的な時刻の確認の減少 ✓ 時計を見る回数が減少する 10

12.

実験の目的 没頭状態で提案手法の時計を用いて時間管理を行い • 指定時刻の遅れ • 時計を見る回数 への影響を検証 実験の流れ 1. 没頭を促す作業(タスク)に長時間取り組む 2. 短時間で完了する作業(ミッション)を指定時刻に行う 11

13.

実験 没頭を促す作業(タスク) タスク内容 2人1組でパズル 実験時間 実験風景 2時間程度 実験協力者 通常表示群(常に一定):10名 強調表示群(提案手法):10名 12

14.

実験 指定時刻に行う作業(ミッション) 時計 ミッション内容 • 20分おき(1人あたり5回) • 指定したものを触る • ペアで時間と内容が異なる ミッション例: 13:29:00から20分おきに電話を触る ティッシュ箱 電話 13

15.

実験 表示変化の基準 • 「分」と「秒」に注目するコンテキストのみ • ミッション直前で表示を変化させる • タスクに没頭しているかどうか ➢ 時計を見る回数が少ない →没頭 ➢ 時計を見る回数が多い →非没頭 14

16.

実験 強調表示(〜3分前) 13:26:00 13:29:00 通常表示 非没頭時 分を強調 没頭時 ミ ッ シ ョ ン 15

17.

実験 強調表示(3分前〜1分後) 13:26:00 13:28:00 13:29:00 13:30:00 秒を強調 分を強調 非没頭時 秒に応じた分と秒の強調 没頭時 01秒〜20秒 21秒〜40秒 41秒〜60秒 16

18.

結果 指定時刻からの遅延時間 ミッションの指定時刻と実際に取り組んだ時間が どの程度離れていたか 20 ミ ッ 15 シ ョ 10 ン の 5 件 数 0 0-2 3-5 6-8 9-11 12-14 15-17 18-20 21-23 24-26 27-29 31+ 指定時刻から遅れた時間(秒) 17

19.

結果 指定時刻からの遅延時間 通常表示 • 3秒未満に行った人が多い • 緩やかに減少している 20 ミ ッ 15 シ ョ 10 ン の 5 件 数 0 0-2 3-5 6-8 9-11 12-14 15-17 18-20 21-23 24-26 27-29 31+ 指定時刻から遅れた時間(秒) 18

20.

結果 指定時刻からの遅延時間 強調表示 • 3秒未満に行った人が通常表示の1.5倍 • 3秒以上は急激に減少している 20 ミ ッ 15 シ ョ 10 ン の 5 件 数 0 0-2 3-5 6-8 9-11 12-14 15-17 18-20 21-23 24-26 27-29 31+ 指定時刻から遅れた時間(秒) 19

21.

結果 指定時刻からの遅延時間 強調表示は数秒遅れる人が少なく, 指定時刻通りにミッションを行えていた 20 ミ ッ 15 シ ョ 10 ン の 5 件 数 0 0-2 3-5 6-8 9-11 12-14 15-17 18-20 21-23 24-26 27-29 31+ 指定時刻から遅れた時間(秒) 20

22.

結果 時計を見た回数 有意な差は見られなかった 時 計 を 見 た 回 数 時計の配置場所による影響が見られた 通常表示 強調表示 21

23.

結果 時計を見た回数と遅延時間の関係 180 遅 延 時 間 の 平 均 160 140 120 時計を見た回数が多い 100 80 60 →遅延時間が短くなる 40 20 (秒) 0 0 20 40 60 80 100 120 時計を見た回数(回) 通常表示 強調表示 22

24.

結果 時計を見た回数と遅延時間の関係 180 遅 延 時 間 の 平 均 160 通常表示 140 120 遅延時間が長い 100 80 60 強調表示 40 20 (秒) 0 0 20 40 60 80 100 120 遅延時間が短い 時計を見た回数(回) 通常表示 強調表示 23

25.

考察 ➢ 指定時刻からの遅延時間 • 強調表示群では数秒遅れることが少ない • 指定時刻より前の時間から意識できていた ➢ 時計を見た回数 • 手法間に大きな差は見られなかった • 強い意識づけの効果はなかった • 時計の配置場所など,他の影響もあった可能性がある 24

26.

考察 ➢ 時計を見た回数と遅延時間の関係 強調表示群では時計を見た回数が少なくても,遅延時間が短い • 少ない回数の中で適切な時刻認識が促された • 時刻確認による作業の妨げを減らし, 適切な時間管理を行える 25

27.

展望 • 様々なコンテキストの自動認識システムの実装 • それぞれに適した強調表示の提案 • より日常的な場面での実験 26

28.

まとめ 背景 没頭時は時計を見ても時間を超過しやすい コンテキストで注視する時計の部分が変わる 提案手法 コンテキストに応じて部分的に強調するデジタル時計 実験 パズル中,提案手法を用いて指定時刻にミッションを実施 結果 強調表示により,時計を見た回数が少なくても遅延時間が短かった 展望 コンテキストの自動検出システムを用いてより日常的な場面での利用 27