【プレスリリース原稿】近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい ~18種類の「大翔」、14種類の「結愛」~(Ogihara, 2021, HSSC)

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February 26, 23

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本稿は、東京理科大学ウェブサイトに2021年7月6日付で掲載されたプレスリリース(https://www.tus.ac.jp/today/archive/20210705_2485.html)を電子ファイル形式にしたもので、内容は同一です。

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青山学院大学 教育人間科学部 心理学科 個人ウェブサイト:https://sites.google.com/site/yujiogiharaweb/home Google Scholar:https://scholar.google.co.jp/citations?user=QOX4MokAAAAJ&hl=ja&oi=ao

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東京理科大学 プレスリリース 1 / 5 近年の新生児の名前を初見で正しく読むことは難しい ~18 種類の「大翔」、14 種類の「結愛」~ 1 発表者 荻原祐二(東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部 嘱託助教) <筆頭著者 兼 責任著者> ※ 著者には開示すべき利益相反はありません。 研究の要旨とポイント ・ 2004 年から 2018 年に生まれた新生児の名前を対象に、各表記の読みの種類数とその割合に ついて分析しました。 ・ 分析の結果、例えば、男の子で一般的な表記である「大翔」には 18 種類、女の子で一般的な 表記である「結愛」には 14 種類の読みが少なくとも存在することが明らかになりました。 ・ 近年の新生児の名前は、一般的な表記であっても、個性的なものも含めた多くの読みがある ため、日本語を母国語とする人でも、正しく(命名者によって与えられた通りに)初見で読む のは難しいことが示されました。 ・ 本研究結果は、日本だけでなく、東アジアや東南アジアを含めた漢字文化圏における、名前 の特徴や名づけの習慣の理解に貢献します。 概要 東京理科大学教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部の荻原祐二助教は、2004 年から 2018 年 に生まれた新生児の名前を分析し、近年の新生児の名前は、一般的な表記であっても多くの読み が存在するため、命名者に与えられた通りに初見で読むのは難しいことを示しました(図 1)。 近年の日本人の名前は、日本語を母国語とする人でも正しく読むのは難しいことが指摘されて いました。しかし、特徴的な名前を例示するのみで、正しく読むことがどの程度難しいのか、ど のように難しいのかについては十分に検討されていませんでした。そこで本研究では、2004 年か ら 2018 年に生まれた新生児の名前約 8,000 件を分析し、各表記の読みの種類数とその割合を算出 し、新生児の名前を正しく読むことがどの程度難しいのかを組織的かつ実証的に検討しました。 その結果、例えば、 「大翔」には 18 種類、 「結愛」には 14 種類の読みが少なくとも存在するこ とが明らかになりました。その読みは、発音や長さ、意味がそれぞれ大きく異なっていました。 また、それぞれの漢字がもつ一般的な読みをするだけではなく、本来その漢字にない読みが当て られていたり、表記として存在し意味やイメージを豊かにしていても発音されないといった、個 性的な名づけが行われていることも示されました。 本研究は、日本語を母国語とする人であっても、初見で正しく名前を読むのは難しいことを、 本稿は、東京理科大学ウェブサイトに 2021 年 7 月 6 日付で掲載されたプレスリリース (https://www.tus.ac.jp/today/archive/20210705_2485.html)を電子ファイル形式にしたもので、内 容は同一です。 1 🄫 2022 荻原祐二

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東京理科大学 プレスリリース 2 / 5 実際の名前データを用いて示しました。この知見は、日本だけでなく、東アジアや東南アジアを 含めた漢字文化圏における、名前の特徴や名づけの習慣の理解に貢献します。 本研究成果 は、 2021 年 6 月 21 日に国際学 術雑誌 『Humanities and Social Sciences Communications』電子版(https://doi.org/10.1057/s41599-021-00810-0)に掲載されました。 ひろと? はると? やまと? だいと? ひろき? はるま? まさと? たいと? 「大翔」 他の可能性も たいし たいが だいき たいしょう だいしょう つばさ そら おうが たいせい たいぞう Ogihara (2021). HSSC. 図 1 研究結果の概要 研究の背景 日本人の名前は、個性的な表記だけでなく、一般的な表記であっても、正しく(命名者によっ て与えられた通りに)初見で読むのは難しいことが指摘されてきました。しかし、特徴的な読み の具体例の紹介のみにとどまっていることが多く、実際の名前データを用いて、組織的かつ実証 的に検討されていませんでした。そのため、日本人の名前を初見で正しく読むことの難しさの程 度や、どういった点で難しいのかは十分に明らかではありませんでした。特に、日本語を母国語 としない人にとって、日本で名前を正しく読むことがどの程度難しいのか理解することは困難で した。 この難しさを検証することは、日本だけでなく、東アジアや東南アジアなどの漢字文化圏にお ける名前の特徴や名づけの習慣の理解を深めることに貢献します。そこで本研究では、日本にお ける実際の名前データを分析し、日本人の名前を正しく読むことの難しさを組織的かつ実証的に 検討しました。 🄫 2022 荻原祐二

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東京理科大学 プレスリリース 3 / 5 研究結果の詳細 2004 年から 2018 年に生まれた新生児の名前 7,779 件(男子:3,762 件、女子:4,017 件)を分析 しました。これらの名前は、明治安田生命保険相互会社が契約の際に使用したものであることか ら、実際に存在します。まず、各年の人気のある表記ランキングをもとに、近年一般的な表記を 男女それぞれ 4 種類(男子: 「大翔」、 「陽翔」 、 「翔」、 「颯」、女子: 「結愛」、 「陽菜」 、 「愛」、 「杏」) 選びました。そして、これらの表記の読みを全て網羅的に調査し、それぞれの表記の読み方の種 類数と、その割合を算出しました。 その結果、調査した全ての表記で、読みの種類が非常に多いことがわかりました。例えば、 「大 翔」という表記を持つ新生児は 435 人おり、その読みは 18 種類ありました(図 2) 。そして、そ の読みは、発音や長さ、意味がそれぞれ大きく異なっていました。同様に、 「結愛」という表記を 持つ新生児は 259 人おり、その読みは 14 種類ありました(図 3)。さらに、漢字一文字の名前で も「颯」は 52 人で 7 種類、 「杏」は 125 人で 5 種類の読み方がありました。これらの数値は、あ くまで今回分析したデータから得られたものであり、より多くの読み方が存在する可能性が高い と考えられます。 ひろと 51.72% (225) はると 15.17% (66) やまと 13.33% (58) だいと 5.98% (26) たいが 4.83% (21) まさと 2.30% (10) たいと 1.84% (8) つばさ 1.61% (7) だいき 0.46% (2) おうが 0.46% (2) そら 0.46% (2) たいしょう 0.46% (2) だいしょう 0.23% (1) はるま 0.23% (1) ひろき 0.23% (1) たいせい 0.23% (1) たいし 0.23% (1) たいぞう 0.23% (1) 0 10 20 30 40 50 60 図 2 「大翔」の読みとその割合 (数値は 435 人全体に占める割合を、括弧内の数値は絶対数を示す) 🄫 2022 荻原祐二

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東京理科大学 プレスリリース 4 / 5 ゆあ 61.78% (160) ゆいな 9.27% (24) ゆな 7.34% (19) ゆめ 6.95% (18) ゆうあ 6.56% (17) ゆい 3.86% (10) ゆいあ 0.77% (2) ゆうか 0.77% (2) ゆうな 0.77% (2) めいあ 0.39% (1) ゆうみ 0.39% (1) ゆなり 0.39% (1) ゆの 0.39% (1) ゆら 0.39% (1) 0 10 20 30 40 50 60 70 図 3 「結愛」の読みとその割合 (数値は 259 人全体に占める割合を、括弧内の数値は絶対数を示す) 日本人の名前を読むのが難しい理由のひとつとして、名前に使用できる漢字の読みに制限がな く、漢字の一般的な読みや名のりに加えて、自由に読みを与えられる点が挙げられます。これは、 日本と同じように名前に漢字を用いている一方で、ほとんどの漢字が決まった読み方をする中国 とは異なります。また、文字と音が一対一で対応しているアルファベットのような表音文字を用 いる言語圏(英語、スペイン語、ドイツ語など)とも異なります。漢字の読みには多くの選択肢 があることが、名前を正しく読むことを難しくしています。 例えば、「大翔」は「つばさ」とも読まれていました。「大」にも「翔」にも「つばさ」という 読みは正式にはありません。ここには、ふたつの読みのパターンが含まれています。まず、 「翔」 が持つ「羽ばたく」 「飛ぶ」という意味から「つばさ」と読んでおり、漢字の意味やイメージから 連想される読みを与えるパターンが見られます。そして、 「大」という漢字が与えられていますが、 発音されず、 「大きく羽ばたく」というイメージを付け加えており、漢字は加えられているが、イ メージや意味のみを加えて、読まれないパターンが見られます。 また、漢字の一般的な読みを短縮するパターンも頻繁に見られました。例えば、 「大翔」は「た いし」と読まれていました。「大」には「たい」という読みがあり、「翔」は「しょう」という読 みがあります。その「しょう」を「し」と省略し、「たい」と組み合わせていました。 他にも、漢字が持つ意味を外国語(英語、ラテン語、フランス語など)にして読む場合も確認 できました。その例として、 「結愛(ゆら)」があります。 「結」は一般的な読みである「ゆ(う)」 から来ている一方、 「愛」は一般的には「ら」とは読まれず、 「愛」が英語で Love(らぶ)を意味 🄫 2022 荻原祐二

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東京理科大学 プレスリリース 5 / 5 するため、 「ぶ」を省略し「ら」として用いられている可能性があります。名前の個性的な読み方 については、こちらの論文(荻原, 2015; https://doi.org/10.4189/shes.13.177)とこちらの論文(Ogihara, 2021; https://doi.org/10.3389/fcomm.2021.631907)をご覧ください。 本研究は、新生児に与えられた全ての名前を分析している訳ではないため、読みの種類数やそ の割合は、母集団の数値を厳密に反映しているとは言えません。今回の研究の目的は、近年の日 本人の名前を正しく読むのは難しいことを実証的に示すことであり、読みの種類をすべて集める ことではないため、今回の目的は十分に果たされたと言えます。 論文情報 雑誌名:Humanities and Social Sciences Communications 論文タイトル:I know the name well, but cannot read it correctly: Difficulties in reading recent Japanese names 著者:Yuji Ogihara DOI:10.1057/s41599-021-00810-0 論文リンク:https://doi.org/10.1057/s41599-021-00810-0 ※ オープンアクセスですので、どなたでもお読み頂けます。適切な方法に従っていれば、図表 の掲載も可能です。 ※ 記事や番組等において紹介して頂く際には、論文情報の説明や論文へのリンクを可能な限り 掲載して頂くことができますと大変幸いです。 🄫 2022 荻原祐二