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December 21, 25
スライド概要
第35回リベラルアーツ研究会で使用したスライドです.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授
第35回 医学生のための リベラルアーツ研究会 「知の巨人」立花隆氏からの若い みなさんに向けてのアドバイスに 耳を傾け,実践してみよう! 岐阜大学 脳神経内科学分野 下畑 享良
私が大きな影響を受けた人物 • 1983年,高校2年生であった私は, 両親に勧められ「宇宙からの帰還」 を読み,夢中になって読む. • 1986年,大学生の私は「脳死」, その後「脳死再論」を読み圧倒され 本格的に立花隆の知的作業法に 関心を持つようになる.
私が20歳以降影響を受けた本 1986 1988 1984 1984
進路に迷ったときに出会った本(1993) 1987年度ノーベル生理学・医学賞 利根川 進 博士との共著. 「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」
利根川博士の言葉で 研究テーマを変え留学を決意した 一人の科学者の,一生の研究 時間なんてごく限られている. 研究テーマなんてごまんとある. ちょっと面白いなという程度で テーマを選んでいたら,本当に 大切なことをやるひまがない うちに一生が終わってしまうん ですよ. 脳梗塞治療に取り組むため スタンフォード大学脳外科Gary Steinberg教授のもとに留学した. 自分の教授としての理想像.
利根川博士の印象的な 若手研究者への言葉 科学者として,若い時に本当に大切なのは, 本当に重要なものを重要と判断できるジャッジ メント能力を身につけること.若いときにそれを 身につけなかった人が,多いから,どうでも いいことをやっているのに,なにか重要なこと をやっているつもりで,一生を終わるサイエン ティストが多いわけです.
立花隆の人生① 1. 原点:幼少期の引き揚げ体験(1940年〜) 長崎市生まれ,父親の仕事の関係で2歳で中国・ 北京へ移住.5歳で敗戦を迎え,北京から日本へ 戻る「引き揚げ」を経験.過酷な移動と,本来の“ 放浪癖”が結びつき,多様な世界への好奇心を 育む原点となった. 2. 10代:圧倒的な多読乱読(1950年〜) 教師であった父の影響で本に囲まれて育つ. 文学から科学まで,ジャンルを問わず読み漁った この時期に「この世の中にある何かを読みつくす 調べつくす」という強い知識欲が形成された.
立花隆の人生② 3. 大学時代:広い視野の獲得(1959年〜) 東京大学に入学.学生運動に参加するも,次第に 距離を置くようになった.ヨーロッパ各国を巡り, 各国の若者が建設的な議論を交わす姿にショック を受け,後のジャーナリストとしての広い視野に つながる. 4. キャリアの変遷と代表的な仕事 フリーライターへ(1964年〜): 大学卒業後,文藝 春秋に入社したが2年余りで退社.その後,東大哲 学科に再入学しながらフリーライターとして活動を 開始した. 田中角栄研究(1974年): 公開資料を徹底的に分 析する手法で「田中角栄研究」を発表.田中内閣を 退陣に追い込み,その名を全国に知らしめた.
立花隆の人生③ 人間と死への探求(1981年〜): その後は政治だけでなく,「宇宙からの帰還」 (宇宙飛行士への取材)や「臨死体験」など,科学 や哲学の領域へ取材対象を広げ,「人間とは何か」 「死とは何か」を問い続けた. 5. 晩年:自らの死と向き合う(2009年〜) 膀胱がんを宣告された後も,自身の病気や死を テーマに取材・発信を行った.死をタブー視せず, 自然なプロセスとして見つめ直す姿勢を最後まで 貫いた.
「調べて書く」教育者としての立花隆 • 東京大学の若き学生を鼓舞し,立花ゼミを 作り,彼らに「二十歳のころ」を書かせた. • 教養学部で主催していた「調べて書く」ゼミ ナールの成果を書籍化したもの. • インタビューし,有名無名,いろいろな人の 二十歳前後のことが書いてある. • 「二十歳のころはほんとうに何をやってもい いんだ.なにもしないのが一番の問題なん だ」ということが分かる.
1. ナイーブさと賢さを同時に持て 2. ニッチを発見せよ 3. 自分の欲求と能力を知るべし 4. 価値体系が自分を作る 5. 世俗的な成功を求めるな 6. 生き方の美学を知れ 7. バックグラウンドを踏まえてものを見よ 8. 人生の残り時間を意識せよ 9. 走って走って走り続けよ 二十歳の生き方 10箇条+α 平成21年東京大学の文化祭「駒場祭」 での立花ゼミ講演より 10. 失敗は必ず起こる.それを隠さず,それに負けない強さを持て α.人から見られているという意識を持て β.他人を恐れるな γ.フロンティアへ飛び出せ
「調べて書く」5つの鉄則 • 1996年から東京大学教養学部で「立花隆ゼミ」を開講し,学生に「知的生産の 技術」を教え込んだ.私は以後,この方法を身につけようとした. 取材前の「飽和入力」 「相手よりも詳しくなるまで調べろ」 相手が「こいつはよく知っているな」と思って初めて,本音や 未公開の事実を語ってくれる. インタビューは「格闘技」 「聞きたいことの『核心』へ最短距離で迫れ」 である 論理的に質問を組み立て,相手の思考を揺さぶるような質問 をぶつける. 書く前の「コンテ(構成 案)」が命 「設計図なしに家を建てるな」 素材をカード化して並べ替え,論理の流れが完璧になるまでパ ズルをする. ファクト(事実)への執着 「テープ起こしをサボるな.記憶を信じるな」 曖昧な表現を避け,数字,固有名詞,日時などの「固い事実」 文章を固めることで,説得力が生まれる. 「読ませる」ための工夫 「中学生でもわかるように書け」 専門用語を振り回さず,平易な言葉で説明すること.自分が完 全に理解していないことは,平易な言葉にはできない.
猫にこだわる理由 『ジェネラリストの時代』 • 犬(スペシャリスト):主人(組織や上司)に忠実. 「番犬」や「牧羊犬」のように,与えられた特定の 役割(専門分野)をこなす.視野が狭く決められ た範囲で生きる. • 猫(ジェネラリスト):主人に媚びない.組織に縛 られない.家や町のなかをパトロールし全体像を 把握する.好奇心のままに行動する.専門家で はないが,生きる知恵を総合的に持つ. • 「これからの複雑な時代には,専門の穴に閉じこ もる『犬』ではなく,世界全体を見渡せる『猫』の ような知性が必要だ」と考えた. • 媚びない生き方に共感.かつあらゆる分野を 横断する究極の「猫型人間」でありたいと願った 「猫ビル」は立花隆の 元仕事場
「知の巨人」が残したことば (若いみなさん向け)
①「青春漂流」から • 自分の生き方を模索している間が青春なのである.それは人に よって短くもあれば,長くもある. • 恥なしの青春,失敗なしの青春など,青春の名に値しない. • 直線コースだけが人生ではない.回り道の中にこそ,その人独自 の『味』が生まれる. • 若いうちの苦労は買ってでもせよと言うが,それは精神的な筋肉 をつけるためだ. • 人生における最大の悔恨は,自分が生きたいように自分の人生 を生きなかった時に生じる. • 自分の生きる場所を見つけるまでは,徹底的に迷えばいい.
②「「知」のソフトウェア」から • どうすれば良い質問ができるかというと,一に 準備,二に創造力である. • 本を読んでいてわからないことに出会ったら, すぐに自分の頭の悪さに責を帰さないで, 著者の頭が悪いか,著者の説明の仕方が 悪いのではないかと疑ってみる. • いい文章が書けるようになりたければ,できる だけ良い文章を,できるだけたくさん読むこと である.
③「ぼくはこんな本を読んできた」から • 教養とは単なる知識の寄せ集めではない. 自分の頭で考え,判断するための「座標軸」 を持つことだ. • 若いときは,何をさしおいても本を読む時間 をつくれ. • 本は,金を出して買え.身銭を切った痛みが ないと,知識は身につかない. • 自分の水準に合わないものは無理して読むな
④「いつか必ず死ぬのに なぜ君は生きるのか」から • 人にものを問うということを,あまり安易に考えて はいけない.人にものを問うときには,必ず,その ことにおいて自分も問われているのである. • 問題を考える時には,正しく問題を設定しないと, 無用の問題,考える意味がない問題に頭が取ら れてしまうから注意する. • 本を読むときには,懐疑心を忘れるな.
⑤立花隆の最終講義 • 数年以内に君たちは人生最大の失敗をするで しょう. • 若いときに犯す大失敗の原因でいちばん多い のは「思い込み」だということです.「それはこう に決まっている」と,君たちがほとんど公理同然 に思い込んで,その真偽を疑ってもみない中に 誤りの原因がひそんでいることがいちばん多い
次回の課題図書 私が若い頃,最も影響を 受けた本シリーズの2冊目. 大学1年生で読みました. 戦前に書かれた子どもたち に向けて書かれた哲学書で あり,道徳の書です.