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December 07, 24
スライド概要
日本リスク学会第17回年次大会で発表したスライドです。
健康の社会的決定要因が注目されている。 福島原発事故でも、国・東電と被災者の間の非対称的な力関係、社会からの孤立など、健康の社会的決定要因は放射線被曝と同様、心臓病など身体の病の原因になる。相互作用で放射線の影響を増悪させる可能性もある。しかし、放射線の影響と比べ社会的決定要因は注目されにくく、対策が遅れている。なぜ見逃されてしまうのか。このような視点から、現在のリスク論の限界と可能性について議論したい。
日本リスク学会 第37回年次大会 2024年11月16日 リスク論の限界と可能性─福島原発事故を例に =なぜ健康の社会的決定要因は見逃されてしまうのか= 伊藤浩志 福島市在住の独立研究者(学術博士) 専門領域: 脳神経科学/ストレス科学/リスク論/科学技術社会論 [email protected]
本日の発表内容 ü 健康の社会的決定要因(健康格差)について ü 福島原発事故における社会的決定要因 ü なぜ福島原発事故では社会的決定要因が注目されないのか ─ リスク論の限界 ─ ü どうしたら被災者の健康リスクを正当に評価できるのか ─ リスク論の可能性 ─
本題に入る前に 福島原発事故の健康影響というと 放射性物質に目が行きがちだが その前に… 人が病気になるメカニズムを知る必要がある でないと 放射線の低線量被ばくが 病気にどのように関わっているのか分からない
健康の社会的決定要因 u WHO報告書: 世界のすべての国において、社会の格差勾配に従って人々の健康状態は悪化して いる (CSDH 2008) u 厚生労働省が「健康日本 21」の方針を転換 第1次(2000年~2012年):健康実現は「一人ひとりが主体的に取り組む課題」 第2次(2013年~2022年):個人の努力の任せず、「健康格差の縮小」を目指すと宣言 第3次(2024年~2035年):「社会環境の質の向上」が、格差縮小のために重要と指摘 ※ 第2次で健康格差縮小せず、 第3次報告書では、新型コロナウイルス感染症で格差拡大を懸念
健康の社会的決定要因 u WHO報告書: 世界のすべての国において、社会の格差勾配に従って人々の健康状態は悪化して いる (CSDH 2008) u 厚生労働省が「健康日本 21」の方針を転換 第1次(2000年~2012年):健康実現は「一人ひとりが主体的に取り組む課題」 第2次(2013年~2022年):個人の努力の任せず、「健康格差の縮小」を目指すと宣言 第3次(2024年~2035年):「社会環境の質の向上」が、格差縮小のために重要と指摘 ※ 第2次で健康格差縮小せず、 第3次報告書では、新型コロナウイルス感染症で格差拡大を懸念
生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024)
生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024)
生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024) • • 生活習慣病の目の前にある原因:生活習慣 →生活習慣で説明しきれるリスク要因は1/3以下(Lantz PM et al. 1998) 背後にある根本原因:社会の病(慢性炎症反応による老化の加速)
COVID-19:典型例としてのニューヨーク市 行政区別死亡率 サブウェイ・マップ(ニューヨーク市の地下鉄) ・マンハッタン・ミッドタウンからサウスブロンクス地区 まで乗車すると、 →平均寿命が約10年短くなる。 →乗車時間1分ごとに寿命が6ヶ月短くなる。 ブ ロ ン ク ス 人種/エスニシティ別死亡率 所得別死亡率 富 裕 層 の 多 い 地 区 最 貧 地 区 マ ン ハ ッ タ ン ア ジ ア 系 黒 人 白 人 ヒ ス パ ニ ッ ク ・ ラ テ ン 系 グラフのデータは同市保健局の集計(2020年11月16日現在)
病気に対する考え方を、180度変える必要あり ü ストレッサーの種類が多いほど、病気になりやすく、重篤化しやすい • • シンデミック : 病原体/栄養不良/暴力/社会経済格差などの相互作用 →うつ病/糖尿病/心臓病などを併発、病状増悪 (Singer M et al., 2017) アロスタティックロード:子ども時代の過酷体験、種類(虐待/差別/貧困/親の死…)が 多い人ほど、 →炎症関連遺伝子の発現数↑ (Slavich GM & Cole SW, 2013) →がん/心臓病/糖尿病のリスク↑ (Hughes K et al., 2017; Lin L et al., 2021) →うつ病と心臓病を併発しやすい (Palmer ER et al., 2024) ü コロナ禍で、世界のトップジャーナルが公衆衛生対策の抜本的改革を提言 • 「 COVID-19 はパンデミックではない(シンデミックだ)」 (Lancet. Vol 396 October 17, 2020) 重篤化因子は生活習慣病(原文: non-communicable disease) →生活習慣病の原因である貧困/格差を解消しない限り、流行は止められない (ロックダウン/緊急事態宣言は必要なかった) Nature / New England Journal of Medicine / JAMA が同様の見解示す ※ 拙著でも提案: 『なぜ社会は分断するのか』(2021)
病気に対する考え方を、180度変える必要あり ü ストレッサーの種類が多いほど、病気になりやすく、重篤化しやすい • • シンデミック : 病原体/栄養不良/暴力/社会経済格差などの相互作用 →うつ病/糖尿病/心臓病などを併発、病状増悪 (Singer M et al., 2017) アロスタティックロード:子ども時代の過酷体験、種類(虐待/差別/貧困/親の死…)が 多い人ほど、 →炎症関連遺伝子の発現数↑ (Slavich GM & Cole SW, 2013) →がん/心臓病/糖尿病のリスク↑ (Hughes K et al., 2017; Lin L et al., 2021) →うつ病と心臓病を併発しやすい (Palmer ER et al., 2024) ü コロナ禍で、世界のトップジャーナルが公衆衛生対策の抜本的改革を提言 • 「 COVID-19 はパンデミックではない(シンデミックだ)」 (Lancet. Vol 396 October 17, 2020) 重篤化因子は生活習慣病(原文: non-communicable disease) →生活習慣病の原因である貧困/格差を解消しない限り、流行は止められない (ロックダウン/緊急事態宣言は必要なかった) Nature / New England Journal of Medicine / JAMA が同様の見解示す ※ 拙著でも提案: 『なぜ社会は分断するのか』(2021)
以上を踏まえて 福島原発事故における 健康の社会的決定要因について検証する
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) 世の中の関心(被ばくによる鼻血/小児甲状腺がん)より 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など 命に関わる重大な健康リスク →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) 死亡率0.3%の小児甲状腺がんより (Bosma HR et al., 1998) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ 命に関わる重大な健康リスク(糖尿病/心臓病/うつ病) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 世の中の関心(トリチウム/放射性炭素などの放射性物質)より 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル 受け身の状態/風評被害は、命に関わる重大な健康リスク →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 例:糖尿病の死亡リスクは、放射線被ばくによる死亡リスクの約40倍の可能性あり M et al., 2017) (Hull AM et al., 2002; Neria (Murakami Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)
「社会の病」と放射線被ばくの相互作用 ü 放射線 も、電離作用で水分子をイオン化、ラジカル発生、炎症性サイトカイン ↑ (ICRP Publication 118, 2011) 3.11から13年間、そして、これからもずっと、 自分の力が及ばない、社会から排除された状態に置かれ続ける→サイトカイン↑ 放射線被ばく→サイトカイン↑ ↓ シンデミック : さまざまな疾患リスクが上昇
3.11以降の議論 健康リスクといえば、放射線被ばく なぜ、社会的決定要因は置き去りにされたのだろうか
根本的な原因は 安心安全二元論にある
安心と安全の一般的な捉え方 • 安心:主観的なリスク認知の問題 →客観的な科学的事実とは異なる →あやふやな心の問題 / 市民の感じ方の問題 • 安全:客観的なリスクアセスメントの問題 →科学は、リスクを物質に還元し、定量化できる →専門家は、リスクを正しく理解可能
安心と安全の一般的な捉え方 • 安心:主観的なリスク認知の問題 →客観的な科学的事実とは異なる →あやふやな心の問題 / 市民の感じ方の問題 • 安全:客観的なリスクアセスメントの問題 →科学は、リスクを物質に還元し、定量化できる →専門家は、リスクを正しく理解可能 • 科学を正しく理解できさえすれば、「過剰」な不安/風評被害 は、払拭できる
安心と安全の一般的な捉え方 • 安心:主観的なリスク認知の問題 →客観的な科学的事実とは異なる →あやふやな心の問題 / 市民の感じ方の問題 • 安全:客観的なリスクアセスメントの問題 →科学は、リスクを物質に還元し、定量化できる →専門家は、リスクを正しく理解可能 • 科学を正しく理解できさえすれば、「過剰」な不安/風評被害 は、払拭できる • 主観的な一般市民のリスク認知を、客観的なリスクレベルに 近づけるリスクコミュニケーションが必要
安心安全二元論を大前提とすることで 社会の病はリスク評価の対象から除外された 1) 放射線量は物質に還元し定量できる →科学的リスク評価 = 安全の対象 2) 社会の病(人と人との間にある病)は物質に還元し定量できない →客観的なリスク評価の対象から外される →社会の病に対する不安=こころ(リスク認知)の問題とされ、「過剰」と解釈 →リスクコミュニケーションの対象として扱われる ※ 国を批判する側も同様 大前提は安心安全二元論 →国は被ばく影響を過小評価していると批判、放射性物質の毒性を強調 →一方、被災者の不安は「権利の問題」としてリスク評価の対象から除外
安心安全二元論を大前提とすることで 社会の病はリスク評価の対象から除外された 1) 放射線量は物質に還元し定量できる →科学的リスク評価 = 安全の対象 2) 社会の病(人と人との間にある病)は物質に還元し定量できない →客観的なリスク評価の対象から外される →社会の病に対する不安=こころ(リスク認知)の問題とされ、「過剰」と解釈 →リスクコミュニケーションの対象として扱われる ※ 国を批判する側も同様 大前提は安心安全二元論 →国は被ばく影響を過小評価していると批判、放射性物質の毒性を強調 →一方、被災者の不安は「権利の問題」としてリスク評価の対象から除外
安心安全二元論を大前提とすることで 社会の病はリスク評価の対象から除外された 1) 放射線量は物質に還元し定量できる →科学的リスク評価 = 安全の対象 2) 社会の病(人と人との間にある病)は物質に還元し定量できない →客観的なリスク評価の対象から外される →社会の病に対する不安=こころ(リスク認知)の問題とされ、「過剰」と解釈 →リスクコミュニケーションの対象として扱われる ※ 国を批判する側も同様 大前提は安心安全二元論 →国は被ばく影響を過小評価していると批判、放射性物質の毒性を強調 →一方、被災者の不安は「権利の問題」としてリスク評価の対象から除外
安心安全二元論を大前提とすることで 社会の病はリスク評価の対象から除外された 1) 放射線量は物質に還元し定量できる →科学的リスク評価 = 安全の対象 2) 社会の病(人と人との間にある病)は物質に還元し定量できない →客観的なリスク評価の対象から外される →社会の病に対する不安=こころ(リスク認知)の問題とされ、「過剰」と解釈 →リスクコミュニケーションの対象として扱われる ※ 国を批判する側も同様 大前提は安心安全二元論 →国は被ばく影響を過小評価していると批判、放射性物質の毒性を強調 →一方、被災者の不安は「権利の問題」としてリスク評価の対象から除外 科学論争の陰で 社会の病(孤立感/屈辱感/怒り)は「過剰」な不安扱い 理解されないことによる不安/憤り/孤立 →健康リスクの社会的決定要因の増悪
リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない
リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • ・低収入層 (年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 新型コロナ感染で重篤化しやすい • ・不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない 不信感強いのは、差別されているから →強い不安には合理性がある • (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない
リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • ・低収入層 (年収400万円未満)/低学歴層(非大卒) で強い不安 日本でも、 新型コロナ感染で重篤化しやすい • ・不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない 新型コロナワクチン拒否者 不信感強いのは、差別されているから →強い不安には合理性がある • (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) 社会経済弱者に多い 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない
リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安とは言い切れない
リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安とは言い切れない 主観的なリスク認知(安心)は、 単に「こころ」の問題ではなく 客観的なリスク(安全)の問題と密接に関わっていた
提案: 情動の特性を活かしたリスクアセスメント 現在のリスクアセスメント 危 険 感情(主観):被災者の過度な不安 ⇒ リスクコミュニケーションによる不安解消 理性(客観):リスクの特定/分析/判定 課題: 社会の現状を所与とすることで、社会の病を不可視化 ⇒ 心理社会的ストレスによる不安感/健康リスクの増大
提案: 情動の特性を活かしたリスクアセスメント 現在のリスクアセスメント 危 険 感情(主観):被災者の過度な不安 ⇒ リスクコミュニケーションによる不安解消 理性(客観):リスクの特定/分析/判定 課題: 社会の現状を所与とすることで、社会の病を不可視化 ⇒ 心理社会的ストレスによる不安感/健康リスクの増大 情動の特性を活かしたリスクアセスメント 危 険 情動(無意識的):被災者によるリスク認知 = 大まかなリスクの特定 理性(意識的):被災者の情動反応(不安)を尊重したリスクの特定 1) 物理的なリスク ⇒ 従来の自然科学的なリスクの分析/判定 2) 社会的なリスク ⇒ 社会疫学的(人文社会科学的)なリスクの分析/判定
提案: 情動の特性を活かしたリスクアセスメント 現在のリスクアセスメント 危 険 感情(主観):被災者の過度な不安 ⇒ リスクコミュニケーションによる不安解消 理性(客観):リスクの特定/分析/判定 課題: 社会の現状を所与とすることで、社会の病を不可視化 ⇒ 心理社会的ストレスによる不安感/健康リスクの増大 情動の特性を活かしたリスクアセスメント 危 険 見 逃 さ れ て い る 情動(無意識的):被災者によるリスク認知 = 大まかなリスクの特定 理性(意識的):被災者の情動反応(不安)を尊重したリスクの特定 1) 物理的なリスク ⇒ 従来の自然科学的なリスクの分析/判定 2) 社会的なリスク ⇒ 社会疫学的(人文社会科学的)なリスクの分析/判定
まとめ 放射性物質ばかり見てないで 健康リスクの社会的決定要因 に目を向けてください 被ばくより重大なリスク=社会的決定要因の削減が 効果的な放射線防護策にもなる (炎症反応であることに変わりないから)
ご清聴ありがとうございました 駆け足の説明で分かりにくかったかもしれません 興味を持たれた方は、ご連絡ください [email protected] なお、詳細は以下の拙著にまとめてあります 『なぜ社会は分断するのか ─情動の脳科学から見たコミュニケーション不全』 (2021年3月11日刊, 専修大学出版局)