そろそろ電子カルテ1.0の話をしよう

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May 14, 24

スライド概要

Seagaia meeting 2019で講演した内容です。
「電子カルテというのは医療版ダイナブックである」というのが私の考えで、いまだに実現できているとはいえません。しかし、それを目指すことでイノベーションが生み出されると思います。
 「電子カルテ」という言葉は1990年代より使われてきていますが改めてその内容について検討して定義しました。
個人的にはSociety n.0とかInternet n.0などの表現は無意味に感じており、「次世代型」電子カルテという言葉を20年前くらいから聞き続けて飽きてきています。
いつ来るかわからない、次世代を待つより今求められるものを作りませんか?電子カルテは今あるものがすべてですか?したり顔で、「こんなもんだよ」と言っているあなたも、20年前、30年前は熱く夢を語っていたのではないですか?
そんな思いをぶちまけた講演でした。

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医療分野でのオープンソースソフトウェア活動を行ってきました。 医療DXについてのセミナーなども開催してきており、研究者としての実績を積んできました。 医療分野のDXは難しいところもありますが、なるだけわかりやすくなるようにつとめています。 Slideshareから徐々に移行しつつあります。

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各ページのテキスト
1.

そろそろ電子カルテ 1.0 の話をしよう 小林慎治 京都大学 EHR 共同研究講座 MedXML コンソーシアム

2.

Agenda ● ● 電子カルテの現状 – Death by thousand of clicks – 紙カルテ 2.0? 電子カルテ 1.0 にむけて – 必要な仕様はなにか?

3.

Death by a Thousand Clicks ● ● ● Death by a Thousand Clicks: Where Electronic Health Records Went Wrong, Fortune and Kaiser Health News Obama 政権で始められた Meaningful Use で、 2008 年に普及率 4% だった電子カルテが 2018 年時点で 96% の病院で採用された。 しかし、電子カルテ自体のできが悪いことで医療事故も起きており医 師への負担も増えている。 – 1 回の ER 勤務で医師は 4000 回マウスをクリックする – 検査データが伝わらずに医療事故の原因となる – 90% の病院が接続されておらず連携は紙と FAX http://fortune.com/longform/medicalrecords

4.

EHR の定義 ● EMR = 電子カルテ、 EHR = 複数医療機関のデータをまとめたリポジトリ – 数年前まで北米と日本で普及していた定義 (NAHIT 2008) – 最近、北米でも EHR を電子カルテという意味で使用 ● ● John Halamka 氏も最近の講演、論文では EHR を電子カルテの文 脈にも使用している。 EHR の定義、分類 (ISO TR20514) – Standalone EHR - いわゆる電子カルテ – Shared EHR – 地域で診療データを共有 – Integrated EHR - 生涯にわたる健康情報を集積

5.

紙カルテ 2.0 ● 電子的に「清書された紙カルテ」 – ● ● 「真正性、見読性、保存性」の三要件を満たしている 伝票ベースで行われてきたレセプト処理、検査オーダなどを処 理することができる 基本的にスタンドアローンで動作し相互運用性に乏しい – システム間連携 – データの二次利用・活用は人的労力により可能ではある が、機械処理には向かない。

6.

電子化のメリットとは何か?

7.

電子カルテ 1.0 とは Alan Kay and the prototype of Dynabook, pt. 5, https://www.flickr.com/photos/8399025@N07/3010032738/

8.

ダイナブック ● ● 「ダイナミックメディアを扱うことができる本のようなデバイ ス」 – 人間の思考能力を高める存在 – 子供でもプログラム可能 暫定ダイナブック – Xerox Alto, Smalltalk – のちに Apple Lisa, Macintosh, MS Windows などへと発展 – iPhone, iPad など今でもダイナブックに向けての挑戦が進め られている。

9.

電子カルテ 1.0 ● 医療版ダイナブック ● 診療を支援する – 「頭が良くなる」電子カルテ ● ● 医療従事者でもプログラム可能 – 定形作業は誰でも自動化できる ● – ● 診断支援、治療ガイドライン提示、ワークフロー最適化 RPA ガイドライン自動取り込み データはすべて患者に集約される – 医療機関横断的に情報を提示することが可能である。

10.

遠くにいくためには目印が必要 足摺岬灯台−土佐清水市 HP より

11.

診療支援 ● 理想の UI/UX とは – スループット最大であること ● – 診察 1 回あたりの時間、打鍵数、クリック数が測定でき ること どんな UI にもなれることは可能だが、遅いシステムに順応 することは不可能。 ● 治療ガイドライン提示、関連文献の提示、 Cochrane 参照 ● 業務手順の最適化支援

12.

紙カルテ 2.0(not integrated) ○○ 病院小児科 カルテ記載 文書管理 検体検査 生理検査 画像検査 入院予約 京都太郎 8歳男性 既往歴: 2011 年 10 月 19 日インフルエンザ罹患、 1 週 間当院 NICU 入院

13.

電子カルテ 1.0(Integrated) ○○ 病院小児科 カルテ記載 文書管理 検体検査 生理検査 画像検査 入院予約 京都太郎 8歳男性 既往歴: 2010 年 4 月 20 日出生。 38W 自然分娩、 APGAR9 (○ ○市民病院・産科) 2010 年 5 月 20 日 HBV ワクチン接種(▲▲小児科) 2011 年 10 月 19 日インフルエンザ罹患、 1 週間入院 (当院) 2012 年 9 月 10 日 HiB ワクチン接種(□□保健所)

14.

ケアプログラミングの可能性 ● ● ガイドライン – 更新頻度と量が専門医が習得できる能力を超えつつある。 – 機械処理できる形で提供されれば、専門医以外にも先端医 療の知識が利用できるようになる 定形業務の構築 – RPA – 省力化、効率化

15.

電子カルテ 1.0 のために ● 「電子カルテリセット論」 – ● 現状の問題点の分析や評価もなく、新しい展望もなしにシステ ムを構築してもまた同じものができてしまう 電子カルテはこんなものだと思っていないか – パッケージ化の努力は企業が収益を上げる意味では正しい – 機能改良とカスタマイズの切り分け – 足元の問題を解決していくのも大事 – 遠くも見ていこう

16.

Seagaia meeting 1995

17.

Seagaia meeting 1996

18.

Seagaia meeting 1997

19.

Seagaia meeting 1997

20.

Seagaia meeting 1997

21.

Seagaia meeting 1997

22.

Seagaia meeting 1999

23.

まとめ ● ● ● ● 電子カルテ 1.0 とは「医療版ダイナブック」である。 電子化のメリットを活かすべく、今の紙カルテ 2.0 を電子カル テ 1.0 に近づけていく努力を継続していかなければならない。 Seagaia meeting の初期の志、 1990 年代の構想を実現に近づ けることは電子カルテ 1.0 への道筋の一つである。 来年は Seagaia meeting 25 周年である。