非ITの宿泊業なのに、なぜDXを推進できるのか？

非ITの宿泊業なのに、なぜDXを推進で きるのか？ 株式会社星野リゾート 情報システムグループ 藤井 崇介

藤井 崇介 星野リゾート 情報システムグループ エンジニアチームリーダ @ZooBonta ・SIerとして10年働いたのち、18年に中途採用で入社。 ・入社後は1人からエンジニア組織を立ち上げ、内製化を促進 ・アジャイル大好き／双子の父 Hoshino Resorts Inc. 2

星野リゾートって何？ Hoshino Resorts Inc. 3

世間のイメージ Hoshino Resorts Inc. 4

世間のイメージ Hoshino Resorts Inc. 5

って何？ 全国50施設のリゾート・温泉旅館・ホテルのオペレーションを担っ ている総合リゾート運営会社です。 星野リゾートでは、宿泊に対する多様なニーズに合わせて、全国 のホテル・旅館を5つのブランド＋その他に分類に分けて運営して いる。 星のや ：独創的なテーマで紡ぐ、圧倒的非日常 界 ：心地よい和にこだわった上質な小規模温泉旅館 リゾナーレ：洗練されたデザインと豊富なアクティビティをそなえる西洋型リゾート OMO ：旅のテンションを上げ街を楽しみ尽くす観光客のためのホテル BEB ：居酒屋以上 旅未満みんなでルーズに過ごすホテル 1914年創業、長野県軽井沢に最初の旅館を開業し、今年で 108年を迎えました。 Hoshino Resorts Inc. 代表 星野佳路 6

情報システムグループ 2015年時点ではわずか4名とパートナーメインの体制でした。DXを実現するには自 前化しかないという信念のもと、現場からの異動組、中途キャリア採用を積極的に 行ってきたことで、今では総勢45名近くの社内でも有数のビックチームとなりました。メ ンバーは軽井沢・東京・大阪を拠点に活動中です。 3年前からはエンジニアの採用も積極的に行い、システムの内製化を積極的に進め ています。 現在は開発・改善・インフラ構築・運用・開業支援など、広く多くのタスクを自ら行っ ています。そこにはミックスチームだから成せる高いミッションへの遂行力があります。 様々な社内からの要求はもちろん、ホスピタリティを追求する新たな価値の創造を目 指し、日々迫りくる課題に挑み続けています。

星野リゾートの成長戦略 Hoshino Resorts Inc. 8

コモディティ化との闘い コモディティ化とは、似ている商品やサービスが大量に誕生し、 質による差別化が困難になる状態 清潔 安全・安心 おいしい料理 9

戦略とは何か、 競争市場の中で、真似されにくい 独自の姿を確立し、 それを維持する方法 10

何故、コモディティ化を避ける必要があるか？ 1. 顧客の奪い合いが発生し、価格競争に巻き込まれる 2. 価格競争に巻き込まれると、疲弊し、投資する余裕がなくなる 3. 市場が縮小すると、一気に消えてしまう Hoshino Resorts Inc. 11

独自の組織文化 Hoshino Resorts Inc. 13

特徴的な組織文化 ◼フラットな組織文化（≠組織構造） ◼組織や立場を超えて話し合う ◼お互いを尊重して意見を出し合う →コミュニケーションを重視している 高い勉強代 だったね ◼失敗を許容する文化 ◼成果ではなく、行動に評価の重きを置く ◼挑戦した結果の失敗であれば、チャンスは何度もくる Hoshino Resorts Inc. 14

責任者を立候補で決める ◼立候補プレゼン ◼施設や部署の責任者を立候補 者から決める ◼2年目以上なら誰でも立候補でき る ◼プレゼンは誰でも聞ける Hoshino Resorts Inc. 15

現地に委譲した魅力の造成 ◼魅力会議 ◼スタッフが、地域の農産物や伝統 工芸の魅力を作る ◼経営陣もコメントするが、最終判 断は現地が決める 苔ガールステイ Hoshino Resorts Inc. 16

現地に委譲した魅力の造成 ◼魅力会議 ◼スタッフが、地域の農産物や伝統 工芸の魅力を作る ◼経営陣もコメントするが、最終判 断は現地が決める スーパーマーケットガイド Hoshino Resorts Inc. 17

マルチタスク（多能工） ◼マルチタスク導入の経緯 ◼専業にしてしまうと、労働の空き時間ができる ◼労働意欲の低下や生産性の低下を引き起こしていた スキルアップ 顧客接点の増加 スタッフが行う業務 朝 食 準 備 朝 食 サ ー ビ ス チ ェ ッ ク ア ウ ト 客 室 清 掃 チ ェ ッ ク イ ン 夕 食 サ ー ビ ス 気づきの蓄積 新たな提案機会 顧客満足度向上 マルチなスキル Hoshino Resorts Inc. 18

その他の取り組み 滞在体験というプロダクトに対して、 素早い意思決定 アジャイル開発のベースが存在していた。 明確な戦略 マチュアな価値観 Hoshino Resorts Inc. 19

アジャイル開発の歴史 Hoshino Resorts Inc. 20

Hoshino Resorts Inc. 2 1

業務の多くは自社開発システム 自社HP用 宿泊サイトエンジン 顧客満足度調査 可視化 オプション予約 レストラン予約 手配品管理 販売支援 予約担当向け Webマニュアル リピーターカルテ 滞在顧客情報管理 労働タスク記録 勤怠・人事 支払申請システム 法人/部門配賦 労働生産性 サービスチーム指標 可視化 Hoshino Resorts Inc. 22

システム開発がうまくいかなくなってきた原因 1. 技術の発展とともにシステムの複雑化 2. システム化する業務の増加 3. ビジネスの進化のスピード増加 4. 溜まり続けるシステムの負債 Hoshino Resorts Inc. 23

Hoshino Resorts Inc. 24

内製化には消極的 ◼ 消極的な理由 ◼ 企業の母体はリゾートの運営会社である ◼ エンジニアが自社の中にいるイメージが経営陣にはない ◼ システムは外部ベンダーに発注した方がよいという考えがあった 餅は餅屋だろ？？ 既成事実戦略 まずは１人増やして、成果を出す。 Hoshino Resorts Inc. 25

体制の見直しから 体制変更前 体制変更後 スクラム化 Hoshino Resorts Inc. 26

工夫したこと ◼ 要望の優先度は全体会議で決める ◼ スケジュールはすべてチームで決めて合意をとる ◼ 稼働の50%は、上がった要望以外の改善をする Hoshino Resorts Inc. 27

スクラムを取り入れた結果 1月あたりの問い合わせ 180件→60件 リリース頻度 週1回以上 スケジュール 計画通り 1年間かけて、8名のエンジニアを採用 Hoshino Resorts Inc. 28 https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00677/120400034/ より抜粋

• https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00677/120400034/

Hoshino Resorts Inc. 29

コロナ禍を支えた攻めのシステム開発 GoToキャンペーン対応 大浴場混雑可視化 1ヶ月でリリース 6週間でリリース ふるさと納税 結婚式新サービス 2ヶ月でリリース Hoshino Resorts Inc. 3ヶ月でリリース 30

大浴場の課題に対する情シスの提案 温泉旅館「界」など入浴施設を持つ施設が多くあり、三密の回避がニーズにあった 清掃のタイミング以外はスタッフが常駐していない・滞在中は常に利用できる ゲストのプライバシー考慮の為にカメラの使用は避けたい ゲストのお好みの時間で滞在中どの時間もリアルタイムに混雑を可視化したい Hoshino Resorts Inc. 31

大浴場混雑可視化の裏側 協力会社に 即日相談！ 急遽アイデア出し chatでメンバーに展開 立候補！ Hoshino Resorts Inc. 32

パートナー会社と一緒に開発 管理画面は kintone 。 保守機能の 追加も容易に ゲストが直接見る可 視化の仕組は自前で 星野リゾート自社開発 Docomo/ KDDI どちらも OK リモート ファーム 更新の実現 監視ログや チューニングに高いノ ウハウ Hoshino Resorts Inc. パートナー開発 旅館に溶け込む こだわりのデザイン 33

覚悟と確信で乗り切った初めてのIoT開発 必要なプロダクト 目的 ゲストの 三密回避 現地 責任の所在が 全社 経営陣 情シス ゴール 設置場所確認や取付は現地で得意なメンバーで対応 導入直後のエラー起因のゲストのクレーム対応は覚悟 必要なのは星野リゾートの滞在に新たな発想であること 正解がわからないことは導入後に改善すればよい 必達条件である納期を最優先する ミニマムの開発でリリース導入後の機能追加で育てる 大浴場の混雑を可視化し顧客のデバイスでリアルタイム に確認できる仕組みをサービスの一つとして提供する ニーズは明確で カタチがあることに意味がある Hoshino Resorts Inc. 制約の中で 生まれた ビジネス上必要という確信と どんな課題も乗り越える覚悟の元、 全員で乗り切った。 34

リリース後も改善し続ける 顧客満足度調査 モニタリング機能 Hoshino Resorts Inc. 人数調整機能 35

GoToトラベルキャンペーンの裏側 発表1ヶ月で受付開始 突然変更されるレギュレーション 予約以外にも、予算管理など、開発するも のがたくさん 突如停止に伴うキャンセル作業 Hoshino Resorts Inc. 36

全員の協力があってこそ達成した結果 • 販売戦略 • 情報収集 販売チーム • 継続的なリリース • 柔軟な変更対応 開発チーム • 受付フォームや申請の 自動化 • 開発業務の削減 • 要件検討 • プロダクトデザイン作成 • 優先度決め プロダクトオーナー ノーコードチーム 組織文化、多能工、権限移譲など Hoshino Resorts Inc. これまで培ってきた取組が大きく下支えした 37

現場出身者の活用 Hoshino Resorts Inc. 38

情報システムの組織の変化 プロダクト オーナー 現場出身者へほぼ現場出身者 のこだわり 企画 サービスチーム （現場） 出身者 投資判断 エンジニア ノーコード ツールによる アプリ開発 インフラ IoT 自前化 ほぼキャリア採用 全員現場出身者 ほぼ現場出身者 プロジェクト オーナー Team ノーコード・運 用・インフラ Team 13名 14名 リスク管理 導入支援 ソフトウェアエンジニア ITインフラ専任者 IT運用専任者 ビジネスコンサルタント 環境構築 25 開発 名 運営 サポート 3名 改善 エンジニア Team 15名 Hoshino Resorts Inc. 保守運用 ノーコード 開発 20 名 39

現場出身者が何故重要か？ ◼現場出身者を組織に入れる理由 ◼構想と実行を一体化するため ◼現場や経営陣などのステークホルダーを巻き込みやすい ◼組織文化への理解度が高く、外注では生み出せない共感力がある ◼ノーコード・ローコードで作成できるシステムが増えている ◼社内からの異動で優秀な人材を確保できる 能力を高める仕組みを作れば、メリットも大きい Hoshino Resorts Inc. 40

ノーコードの取り組み 開発パートナーでのインターン経験 社内講習会 ポータル Hoshino Resorts Inc. 異動2年目 kintone エバンジェリスト 41

社内伴走型サービスのリリース スタッフ主導のアプリ改善 Hoshino Resorts Inc. 42

プロダクトオーナーの取り組み 情報収集・シェア POスキルマップ整備と勉強 デザイン勉強会 Hoshino Resorts Inc. 43

生み出したプロダクト 宿泊予約関連 現地関連 温泉IoT 湯守 自動C/I たぶいん ギフト券販売管理 お出迎えIoT 門守 冷蔵庫IoT氷室守 Hoshino Resorts Inc. keeper 44

Hoshino Resorts Inc. 4 5

DX時代をどう生きる Hoshino Resorts Inc. 46

DXが叫ばれる背景 2025年の崖 IT人材不足の深刻化 2030年にIT人材は45万人が不足 2025年までにDXが進まなければ、 12兆円/年の経済損失が起きる Hoshino Resorts Inc. 47

星野リゾートにとってのDXとは 星野リゾートの独自の運営力 宿泊体験そのもの 経済産業省の DXの定義 マルチタスク/魅力創造/自社チャネル強化/RIET 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会 のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、 プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること フラットな組織文化 DXは目的ではなく手段である あらゆる企業活動がIT抜きでは成立しない現在、急激な変化前提のビジネス環境において、 企業が激しい変化に対応するために自ら変革（トランスフォーム）するには、変化前提のデジタル化能力を備えることは必然。 「デジタルで変革を起こす」ではなく、競争上の優位性を勝ち取るためには高いデジタル化能力が必要という認識。 Hoshino Resorts Inc. 48

全社員IT人材化 ◼ 構想と実行の分断を生まないために、現場がITを活 用することが重要 ◼ 育て上げた組織文化にアジャイル・スクラム開発は マッチしている ◼ ノーコードツール活用やプロダクトマネジメントなど、 現場の業務経験と組み合わせられる領域はある ◼ 高度な専門領域を支えるために、エンジニアは必要 経営とITの一体化につながった https://note.com/hoshino_technote/n/nfaffecfbea41 Hoshino Resorts Inc. 49

• https://note.com/hoshino_technote/n/nfaffecfbea41

目指しているのはScrum@Scaleの世界 ◼ 全プロジェクトでスクラムを取り組んでいる ◼ 組織をスケールしながら拡大している ◼ 現場も巻き込むのが目標 (参考) https://creators-note.chatwork.com/entry/2021/06/07/164722 Hoshino Resorts Inc. 50

IT企業でもなければ、DX推進部もない Hoshino Resorts Inc. 51

組織文化×アジャイル開発で、 お客様のためにプロダクトを生み出し続けます Hoshino Resorts Inc. 52

ありがとうございました https://www.hoshinoresorts.com/ Hoshino Resorts Inc. 53

• https://www.hoshinoresorts.com/