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March 17, 25
スライド概要
漫画においてキャラクタの顔や名前を記憶することは,物語を理解するうえで重要である.しかし,連載漫画では更新間隔の長さや読者が複数作品を並行して読むことにより,物語や登場キャラクタを忘れてしまいがちである.我々はこれまでの研究において,登場キャラクタに関する記憶テストを実施し,漫画内要素の出現箇所や割合が覚えやすさに影響することを明らかにした.そこで本研究では,漫画内要素と読書方法からキャラクタの記憶容易性を評価し,それに基づいた読書時のクイズ提示による記憶支援手法の提案および有用性について検証した.結果として,一部の読者や作品におけるキャラクタの記憶に良い影響を与えることが確認された.また,本手法をキャラクタが登場しない場面での振り返りの他に,登場場面でキャラクタを確認しながらクイズに回答する記憶定着のための利用を組み合わせることでより記憶を向上させることが示唆された.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
漫画キャラクタの記憶容易性に 基づくクイズ型記憶支援手法の実現と検証 櫻井翼 中村聡史 (明治大学)
研究概要 目的: 漫画キャラクタを覚えるための記憶手法の実現 ⚫ キャラクタの記憶度合いに関する基礎調査(CC9 2023) ⚫ クイズを用いた漫画キャラクタの記憶支援手法の提案 ⚫ 提案手法の有用性についての検証 2
クイズ型記憶支援手法 3
背景 ⚫ 連載漫画は週・月単位,単行本は数ヶ月~数年の更新頻度 ⚫ 複数作品を同時に読み進めることも 読書に空白期間が生まれ, 物語や登場キャラクタを忘れてしまう 4
背景 キャラクタを覚えていないことが読書体験に与える影響 ⚫ 文脈や因果関係が把握しづらく,物語が断片的に ⚫ 長期連載では,再開時の理解が難しくなる ➔ キャラクタを覚えることは物語の没入感・理解のために重要 5
背景 漫画を読んでいるときに名前が出てきたシーンで キャラクタの顔が浮かばないことがある ➔ 漫画の見返し,読み直し,インターネットでの検索が必要に この前会った ○○さんが… 6
背景 漫画の見返しや読み直し ➔ 見直すべき箇所を探すのが難しい 振り返りが手間で,離脱の原因となる インターネットでの検索 ➔ ネタバレを受けてしまう可能性 7
関連研究(コンテンツの理解支援) ⚫ 物語の登場人物を把握しやすくするシステムの提案 [謝ら 2017] 絵文字付与,初登場シーンへのジャンプ機能などを実装 ⚫ キャラクタの関係図構築 [神代ら 2008][Murakamiら 2018] 謝涵,西田健志, 物語の登場人物を把握しやすくするシステムの提案,研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション (HCI), Vol. 2017, No. 14, pp. 1–5 (2017). 神代大輔,高村大也,奥村学, 物語テキストにおけるキャラクタ関係図自動構築,言語処理学会第 14 回年次大会発表論文集, Vol. 14, pp. 380–383 (2008). Murakami, H., Nagaoka, Y. and Kyogoku, R., Creating character networks from comics using frames and words in balloons, 2018 7th International Congress on Advanced Applied Informatics, IEEE, pp. 1–6 (2018). 8
関連研究(コンテンツの理解支援) ⚫ 物語の登場人物を把握しやすくするシステムの提案 [謝ら 2017] 絵文字付与,初登場シーンへのジャンプ機能などを実装 ⚫ キャラクタの関係図構築 [神代ら 2008][Murakamiら 2018] 実装コスト高,読書の中断が必要 謝涵,西田健志, 物語の登場人物を把握しやすくするシステムの提案,研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション (HCI), Vol. 2017, No. 14, pp. 1–5 (2017). 神代大輔,高村大也,奥村学, 物語テキストにおけるキャラクタ関係図自動構築,言語処理学会第 14 回年次大会発表論文集, Vol. 14, pp. 380–383 (2008). Murakami, H., Nagaoka, Y. and Kyogoku, R., Creating character networks from comics using frames and words in balloons, 2018 7th International Congress on Advanced Applied Informatics, IEEE, pp. 1–6 (2018). 9
目的 漫画キャラクタを覚えるための記憶手法の実現 手法の実現には... 1. 正しく覚えられるキャラクタと覚えられないキャラクタ間で どのような違いがあるかを明らかにする必要 2. 日常的な読書体験に介入可能な 認知負荷への影響が小さい記憶支援手法の確立 10
キャラクタの記憶度合いについて調査(CC9 2023) キャラクタに関する記憶テスト ⚫ 名前から顔を思い浮かべられるか ⚫ 正誤は自己申告 Q2 Q1 櫻井翼, 中村聡史, “漫画内キャラクタの覚えやすさに関する基礎調査, “第9回コミック工学研究会, pp. 65-72, Mar.2023. 11
結果:記憶テスト(CC9 2023) 正確に覚えることができていたキャラクタ ➔ 読書終了直後で47.1%,3日後で32.9% 覚えられるキャラクタ 覚えられないキャラクタ 物語に直接関係している 物語に必要であるが主軸と外れている (先生・おともキャラ) (主人公と仲が良い,影響を与える) 漫画内要素が定期的に出現 漫画内要素に偏りがある 中盤で高く,終盤にかけて減少 12
結果:記憶テスト(CC9 2023) 正確に覚えることができていたキャラクタ ➔ 読書終了直後で47.1%,3日後で32.9% 覚えられるキャラクタ 覚えられないキャラクタ 物語に直接関係している 物語に必要であるが主軸と外れている (先生・おともキャラ) (主人公と仲が良い,影響を与える) 漫画内要素に偏りがある 中盤で高く,終盤にかけて減少 漫画内要素の出現箇所や 漫画内要素が定期的に出現 物語との関連性が覚えやすさに影響を与える傾向 13
漫画内要素と記憶度合い 名前が呼ばれたページと登場の有無 〇:名前が呼ばれたかつ,そのページで登場してる ×:名前が呼ばれたが,そのページでは登場してない 覚えられた キャラクタ 覚えられなかった キャラクタ 14
漫画内要素と記憶度合い 登場間隔が空く,名前のみが呼ばれている キャラクタの記憶支援の必要性 15
クイズ型記憶支援手法 読書中にセリフとしてキャラクタの名前が呼ばれる場面 でクイズを提示 ©うめ「東京トイボクシーズ」 16
提案手法の設計 クイズ提示方法 登場キャラクタの忘れやすさ指標に基づいて (名前が呼ばれている)セリフのハイライトの有無・濃さを決定 キャラクタの 忘れやすさ指標 = 漫画内要素 + 読書の仕方 各キャラクタの登場箇所・回数 名前が呼ばれた箇所・回数 前回登場してからのページ間隔 読書速度,空白期間, クイズ回答状況 17
提案手法の設計 クイズ内容 ⚫ 選択されたキャラクタに関するクイズ ⚫ 設問: 「キャラクタ名」に最も当てはまる内容は? ⚫ 選択肢: 作中の登場キャラクタに関する内容 ⚫ クイズに回答するのかはユーザの任意 19
実験 クイズの提示内容・提示タイミングが異なる条件で比較 ハイライトによるクイズ提示 読了後のクイズ提示 ©うめ「東京トイボクシーズ」 ©こざき亜衣「あさひなぐ」 20
実験 クイズの提示内容・提示タイミングが異なる条件で比較 ⚫ ハイライトによるクイズ提示(提案手法) ⚫ 読了後にランダムなキャラクタに関するクイズ提示 (ベースライン手法) 仮説 ⚫ 読書中に振り返り可能なクイズにより, キャラクタの記憶度合いが向上する(仮説1) ⚫ 読書中のクイズ提示は, 読書後に確認作業を行うよりも良い読書体験となる(仮説2) 21
実験方法 ⚫ スポーツジャンルの漫画(8作品) ⚫ 参加者内計画 ⚫ 読書後に記憶テスト(名前→顔),アンケートの実施 Q2 Q1 22
実験の流れ 各手法を用いて,3日間かけて漫画1巻分を読む 3日目の読了後,記憶テストを実施(1回目) 手法に関するアンケート回答 1週間後 記憶テストを実施(2回目) 23
実験結果(記憶テスト) 手法間での有意差はなし,中央値で提案手法>ベースライン 24
実験結果(記憶テスト) クイズで回答したキャラクタにおける記憶回答の割合 (括弧内:クイズで回答しなかったキャラクタの回答割合) 覚えられた キャラクタ クラスタ1 クラスタ2 覚えられなかった キャラクタ クラスタ3 ベースライン 提案手法 91.2% 83.3% (73.9%) (93.3%) 52.4% 47.6% (41.5%) (39.9%) 13.3% 17.1% (13.7%) (7.2%) 25
実験結果(記憶テスト) クイズで回答したキャラクタにおける記憶回答の割合 (括弧内:クイズで回答しなかったキャラクタの回答割合) 覚えられた キャラクタ クラスタ1 クラスタ2 覚えられなかった キャラクタ クラスタ3 ベースライン 提案手法 91.2% 83.3% (73.9%) (93.3%) 52.4% 47.6% (41.5%) (39.9%) 13.3% 17.1% (13.7%) (7.2%) 26
アンケート ⚫ 「自然さ」,「役立ち度」で大きな差はなし ⚫ 「頻度の適切さ」は,ベースライン>提案手法 (クイズ回答数:ベースライン(2.86問)<提案手法(7.25問)) 質問項目 ベースライン手法 提案手法 クイズは どの程度自然に取り組むことができましたか? 3.84 3.73 漫画の内容を覚えるのに役立ったと感じましたか? 3.75 3.71 クイズ提示の頻度は適切だと感じましたか? 4.03 3.60 ➔ 読書中のクイズ提示であっても大きな負荷とはならなかった 27
考察 ⚫ 読書中のクイズ提示(提案手法)によって, 一部の読者・作品ではキャラクタの記憶に良い影響を与えていた ⚫ 提案手法は記憶容易性の低いキャラクタの記憶定着を促進 ⚫ 読書中のクイズ提示自体の認知負荷は比較的小さい 28
制約・課題 ⚫ 記憶度合いに差がなかった読者もいるため, クイズ提示方法・クイズ内容に改善の余地あり ⚫ 他ジャンルの作品での検証, より長期間にわたる記憶度合いの影響 29
展望 ⚫ 物語の内容・キャラクタの特徴を考慮した クイズの自動生成手法の検討 ⚫ 他コンテンツ(小説,アニメ,RPGゲーム等)への適用可能性 について検証 30
まとめ 背景・目的 キャラクタの記憶度合い調査 読書に空白期間が生まれることで 物語や登場キャラクタを忘れてしまう 記憶テスト:名前から顔を思い浮かべられるか 漫画キャラクタを覚えるための 記憶支援手法の実現 ⚫ 登場間隔が空く ⚫ 名前のみが呼ばれている場面が多い クイズ型記憶支援手法 実験結果・考察 読書中にセリフとしてキャラクタの名前が 呼ばれる場面でクイズ提示 一部の読者・作品ではキャラクタの 記憶に良い影響 漫画内要素・読書の仕方で, ハイライトの有無・濃さを決定 物語の内容・キャラクタの特徴を考慮した クイズの自動生成手法の検討 結果:覚えられないキャラクタは,