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February 20, 21
スライド概要
大学の情報系学部学科の初年次における必修のプログラミング教育では,数十名から数百名の学生を一度に指導する必要がある.さらに,初めてプログラミングを習う初学者から,プログラミングをやったことがある経験者までを対象とした講義を行う必要があるため,各講師は趣向を凝らしている. しかし,COVID-19の影響により大学のプログラミング教育がオンライン講義で行われるようになってきた.プログラミングのオンライン講義を行うことは容易ではなく,学生がタイピングを行う様子や顔色が対面講義に比べて見にくくなることで理解しているのかの確認ができないことや,オンライン通話特有の会話のしにくさによって指導がスムーズにできないことなど,大きな障壁がたくさんある.そこで,本研究では,大学初年次におけるプログラミングのオンライン講義の際に生じる最も重大な2つの問題点に着目した. 対面講義では,講師が学生の表情や手が動いているかどうかなどから苦手な学生を把握でき,個別の指導や対応を行うことが可能であったが,オンライン講義では,どの学生が苦手かを把握することが困難になった上に,オンライン上での指導には限度があるため適した指導が出来ず,大きな問題となる.ここで,初学者がプログラミング学習においてつまずく点は様々であるが,これまでの数年にわたるプログラミング教育の経験から,タイピングの技量と基本的命令の理解が不足していることが観察されていた.タイピングの技量不足については,タイピング速度の遅さや,プログラミングに利用される英単語,カッコやセミコロンなど特殊文字の入力に抵抗があることが妨げとなっていた.タイピング練習を行うためのタイピングゲームもあるが,多くは英単語を入力の対象としているため,プログラミング特有のタイピング練習には時間がかかってしまう.また,基本的命令を理解せずに学びを進めてしまうと,新しい命令や複雑な使い方を行うときに学習を止めてしまう.さらに,使いたい命令を思い出せないときに調べる手間が生じるため,学習の妨げになっていた.そこで,講師の指導が行き届かない問題を解決するためにプログラミングのタイピング練習を行うことでプログラミングが苦手な学生を減らせると考えた.そのために,学生のタイピングの技量と基本的な命令の理解が不足していることに着目し,プログラムの逐次的な実行などによってプログラムの動作を把握しつつ,自身や他者と競いながらタイピング速度を上げつつプログラムを学ぶ,プログラムタイピングシステムtyping.runを提案および実装する.本システムを演習型プログラミング講義にて,講義前までの課題として11回ある講義ごとに複数回学生に取り組むことを課した運用の結果,学生118名によって88,293回分のタイピングが行われた.その分析より,タイピング速度にばらつきがなくなっていることや全体的なタイピング速度が向上していることから学生のタイピング技量の底上げが出来ていることを明らかにした.また,アンケート結果より,システムを繰り返し使用することで基本的命令の定着が可能であることが示唆された. 次に,プログラミング教育では学生の質問に対応するTA(ティーチングアシスタント)が必要不可欠である.しかし,学生の人数や質問数に対してTAの人数が十分でないことも多く,講義を円滑に進めることの妨げになっている.また,学生が手を上げた順番を考慮しながらTAが対応する必要があることに加えて,TAが学生の質問を解決できずに時間がかかったり精神的な負担がかかったりするといった問題もあった.さらに,学生がTAに対して些細な質問をして良いのかという不安や,質問している様子が恥ずかしいなど積極性を出せない問題があった.このような対面講義でもあった,質問したい学生とTAの間のコミュニケーションに生じる問題は,オンライン講義になったことで,より大きな問題となっているといえる.学生の積極性を考慮すること,TAの精神的な負担を軽減すること,そして質問順番の管理を適切に行うことが重要である.そこで本研究では,学生がTAに直接質問をするのではなくシステムに対して質問を行い,TAはシステムに投稿された質問を事前に確認をし,対応可能な場合に学生の呼び出しを行う,オンラインTA質疑システムaskTAを提案および実装する.本システムを実際の演習型プログラミングのオンライン講義で計1600分運用した結果,61名の学生から367回もの質問を受け付けた.学生が質問を投稿してからTAが対応を開始するまでの時間とTAが指導をしていた時間を求めたところ,多くの場合,1分以内にTAが対応を開始し,20分以内には指導を終了していたことが分かった.また,学生とTAの双方のアンケート結果より,提案手法の効果が確認でき,肯定的な意見が多く集まった.オンライン講義において,質問したい学生とTAとのコミュニケーションを学生の積極性とTAの精神的な負担,質問順番の管理に着目して,円滑にすることができた. 最後に,2つの提案手法の総合的な考察と, COVID-19の状況下で学生にどのような影響を与えたかの考察を行い,本研究の運用からは明らかになっていない制限と今後のオンライン講義でのプログラミング教育や対面講義について,本手法がもたらす可能性やプログラミング以外の講義への応用について述べる.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
オンライン時代でのプログラミング 初年次教育を円滑にする手法と実践 明治大学大学院 中村聡史研究室 又吉康綱 2021/02/12 面接試問
背景 • 大学の初年次必修のプログラミング教育では, 1 0 0 人以上の学生 初学者から経験者までに一斉に教える必要がある • 学生ごとにコンピュータの操作やタイピングに対する慣れなど, 苦手なことが多様である
背景 • 各教員は講義に工夫を凝らしている • 例 : 講 義 資 料 / 予 習 の た め の ド リル / 制 作 物 発 表 会
背景:新型コロナウイルスの影響 CO V I D-19 の影響で,オンライン講義が増加 S NS上では講義の形式やツール, TA業務のやり方 が多く模索されていた 対面講義 学 生 を 俯 瞰 的 に 見 れ て, 密 な コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 T A が 隣 に行 き , P C を 直 接 覗 き な がら や 指 差 し しな が ら の 指 導可 →不可能になった オンライン講義 学 生 と 蜜 な コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ン が 取り づ ら い 学 生 は T A と も チ ャ ッ ト や通 話 で の 指 導に な っ た
背景:オンライン時代の主な問題点 問題1: 講師やTAの指導に限界がある • 表 情 や 手 元 の 操 作 が 見え ず , 苦 手 な学 生 を 把 握 ・指 導 す る こ とが 困 難 → 学 生 全 体 を 底 上 げ をす る こ と で ,苦 手 に な る 学生 を 減 ら す 問題2: 学生がTAに質問するハードルが上がる • Z o o m の 質 問 部 屋な ど , 入 室 する 勇 気 や D M す る 勇気 が 必 要 と なる → 些 細 な こ と で も 学 生が 質 問 出 来 るよ う に ハ ー ドル を 下 げ る
背景:オンライン時代の主な問題点 問題1: 講師やTAの指導に限界がある • 表 情 や 手 元 の 操 作 が 見え ず , 苦 手 な学 生 を 把 握 ・指 導 す る こ とが 困 難 → 学 生 全 体 を 底 上 げ をす る こ と で ,苦 手 に な る 学生 を 減 ら す 問題2: 学生がTAに質問するハードルが上がる • Z o o m の 質 問 部 屋な ど , 入 室 する 勇 気 や D M す る 勇気 が 必 要 と なる → 些 細 な こ と で も 学 生が 質 問 出 来 るよ う に ハ ー ドル を 下 げ る
問題1:学生の底上げのために
タイピング技量 と 基本的な命令の理解
• プログラミングのタイピング
• ア ル フ ァ ベ ッ ト を 含 む英 単 語
void setup size background ...
• カ ッ コ や セ ミ コ ロ ン など の 特 殊 記 号 { } ( ) , ; : | | & & % ! = “ ”
→ タ イ ピ ン グ 速 度 が 遅い と 学 習 ス ピー ド も 遅 く なる
• 基本的な命令の理解
• 学 び 始 め は 命 令 数 は 少な い が , 繰 り返 し 配 列 関 数 ク ラ ス 等 , 増 え る
→ ひ と つ で も 理 解 し てい な い と , 考え た り , 毎 回検 索 し た り する 手 間 が
生 じ る た め 学 習 ス ピー ド が 遅 く なる
手法1 : 目的 プログラミングを用いたタイピング練習で,基本命令 の定着を目指すタイピングシステムの実装と実践
関連研究1 C言語を用いてタイピング練習した が,プログラミングの習得や成績と の相関は見られなかった [ 中田 2 0 1 3 ] →週1回のタイピングでの結果 継続的なタイピング練習を行う
手法1:提案手法 理解を促す仕組み • 入力不要のコメント • 1 行 ご と の 逐 次実 行 練習したくなる仕組み • 内 発 的 動 機 づ け : 自 己 ベ ス ト を 目 指せ る よ う な スコ ア 計 算 • 外 発 的 動 機 づ け : ス コア を 同 級 生 と比 較 で き る ラン キ ン グ 掲 示
手法1: typing.run デモ動画
手法1:typing.run
手法1:運用 • 場所 : 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の 学部1 年生の必修授業 プログラミング演習1 • 公開 : 2020 年5月6日より公開し周知 デバッグ協力や使い方のサポート • 期間 : 2020 年6月22日から7月27日 運用参加者 • 履修者: 118 人 • タイピング回数: 88, 055 回
手法1 : 結果 区間ごとの平均CPM CP Mを時系列順に集計し,5 0分割ごとに求めた全員のCPM平均値 後半の難しい問題があるにも関わらず右肩上がりに上昇をしている →全体として期間後半に なるほどタイピングが 上達している
手法1 : 結果 標準偏差 問題ごとの標準偏差 後半につれて標準偏差が下がっている →上位層と下位層の CPMの差が縮まっており底上げが示唆
運用結果1 : アンケート t y pi n g. r u n 実施前後によるタイピング得意に関する評価値の差 45 40 40 35 30 27 26 25 20 15 11 10 5 6 0 0 0 -4 -3 -2 1 0 -1 0 1 2 評価値の差(Q2-Q1) 1 段階以上あがった人は, 79名/ 111名中≒約71% →多くの学生がタイピングが得意になったと感じてる 3 4
運用結果1:アンケート自由記述 • ポジティブな意見(63件) 「 タ イ ピ ン グ が 早 く なっ た 」 「 ブ ライ ン ド タ ッ チや 文 法 理 解 が深 く で き た 」 「 1 行 ご と に 実行 が よ か っ た」 「 コ メ ン トが わ か り や すか っ た 」 • ネガティブな意見(42件) 「 タ イ ピ ン グ 速 い = プ ロ グ ラ ム 出来 る と 思 っ た」 「 タ イ プ に気 を 取 ら れ た」 「 や っ て も ラ ン キ ン グが 上 が ら な かっ た 」 「 タ イプ が 遅 い 人 には 不 利 だ 」
手法1 : まとめ プログラミングのタイピング練習をすることで , タイピング速度向上 と基本命令の理解と定着を支援する typi ng. r u n を提案し運用した • 苦手な層の底上げが示唆され,全体的な速度成長が確認できた • アンケートでもポジティブな意見が多かった 今後 • 対面講義でも運用し違いを明らかにする必要がある • P y t hon 版やp5. j s 版などの多言語での運用 • 2 0 2 1年度に日本大学への typi n g. r u n 導入が確定! 又吉 康綱, 中村 聡史. typing.run: 初学者のプログラミング学習を支援するプログラムタイピングシステムの提案と実践, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2020-HCI-189, No.1, pp.1-8, 2020. 2020年度学生奨励賞受賞
背景:オンライン時代の主な問題点 問題1: 講師やTAの指導に限界がある • 表 情 や 手 元 の 操 作 が 見え ず , 苦 手 な学 生 を 把 握 ・指 導 す る こ とが 困 難 → 学 生 全 体 を 底 上 げ をす る こ と で ,苦 手 に な る 学生 を 減 ら す 問題2: 学生がTAに質問するハードルが上がる • Z o o m の 質 問 部 屋な ど , 入 室 する 勇 気 や D M す る 勇気 が 必 要 と なる → 些 細 な こ と で も 学 生が 質 問 出 来 るよ う に ハ ー ドル を 下 げ る
背景:対面講義であった問題 深刻なTAの人数不足 TA 1 人が複数の学生を指導 (FMSの場合:学生120名/ TA10 名) 学生側に起こる問題 • 初歩的な質問をするのが恥ずかしい TA 側に起こる問題 • 学生に質問されたことが解決できずに困る 共通の問題 • 学生の質問順番をTAが飛ばしてしまう
手法2 : 目的 TAへの質問のハードルを下げ,TAの精神的負荷低下, 順番待ちを円滑にするシステムの実装と実践
関連研究2 • 操作やエラーログからつまずいてる学生を発見する [ 市村ら 2 0 1 3 ] • 編集履歴から学生の苦手に応じたフィードバック [ 藤原ら 2 0 1 8 ] • 進捗状況からサポートが必要な学生を把握する [ 井垣ら 2 0 1 3] • 模範解答と比較することでリアルタイムに把握する [ 加藤ら 2 0 1 4 ] →対面講義での学生とTAを支援する提案 オンライン上で,プログラミング演習中の 学生とTAをリアルタイムに支援するシステム
今までの対話フロー 1 . 挙 手 ( 質 問 依頼 ) 学生 2.向かう 3.質問応答 TA
設計指針 : 対話フロー 学生 5.質問応答 1.質問投稿 TA 2.質問チェック 3.回答できそうなら 質問回答開始 4.質問順番通知 システム
手法2:ask TA
手法2:ask TA
運用2 • 場所 : 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科の 学部1 年必修 プログラミング演習Ⅰ( 2020 年6-7月全12講義) • 人数 : 学生1 1 1名 / TA 9 名 ( うち1 名は主著) • 授業ツール : R e mo Co nf er ence h t t ps: // r emo. co / 1 クラスあたり( 60 名ほど) 学生 : 4 人1 組15グループ TA : 3 ~4 人 演習時間にaskTA を8回 運用
結果2 • 総質問回数 3 6 7 回 • 1 回以上質問した人数 6 1 名 ( 学生の55%)
結果2 : 利用状況 学生がTAを待った時間( 分) • 1分以内(180件/49%) • 5分以内(288件/78%) TA が質問に対応した時間( 分) • 5分以内(103件/28%) • 20分以内(302件/82%) 極端に長時間は,休憩時間などの中断時間も含む
結果2 : ステータス遷移の可視化
結果2 : ステータス遷移の可視化 学生キャンセル TA 保留 TA 対応終了 TA 対応開始 学生質問投稿 時間 線が長くて傾きが緩やかなほど,ステータス変化の経過時間が長い
結果2 : ステータス遷移の可視化 TA1人=1色 3 . T A 対応終了 質問が集中した時間帯や T A の忙しさがわかる 2 . T A 対応開始 少ない待ちで長時間,指導していることがわかる 1 . 学生質問投稿
問題2 : 結果 学生アンケート 運用終了後に5段階評価式( -2~2) アンケートに回答( 54名) 質問項目 Q1 使った満足度はどうですか Q2 「TAに質問すること」に対する抵抗感が減りましたか Q3 プログラミングの授業で今後も使用したいですか 平均 1.58 0.91 1.66 自由記述 • 「オンライン質問しにくい不安が解消された」 「実行できるのが助かった」「共有が良かった 」 • 「概要を書くのが難しかった」「初めて使うときに戸惑った」
問題2 : 結果 TAアンケート 運用終了後に5段階評価式( -2~2) アンケートに回答( TA8名) 質問項目 Q4 使った満足度はどうですか Q5 プログラミングの授業で今後も使用したいですか 平均 1.25 1.63 自由記述 • 「待ち状況の一覧表示が良かった」 • 「対面授業よりも見えやすく俯瞰できエラーを見つけやすい」 • 「自分が理解していない問題の質問は飛ばせた」 • 「継続して同じ学生をみれない」「質問内容がわからない」
副次的な効果 R e m o が 1 7 0 分 ダ ウン し て も 問 題な く T A 業 務 が 続行 で き た ( 5 1 件 の 質 問 ) 質問内容を俯瞰的に講師が確認でき, 全体向けのヒントを掲示できた
手法2:まとめ オンライン上での学生と TAの質問ハードルを下げるために, 学生の質問しにくさ /TAの精神的負担/順番待ち に着目し, 質問をシステムに投稿する askTA を実装し,運用した アンケート結果や自由記述で良好な結果が得られた • 精 神 的 負 担 を 下 げ れ てい る こ と が 示唆 さ れ た • 提 案 手 法 に 対 す る ポ ジテ ィ ブ な 自 由記 述 が 多 く 得ら れ た 今後 • 対面講義や演習以外の講義に導入することによる効果の検証 又吉康綱, 中村聡史. askTA : 消極的な受講生でも質問可能なオンライン演習講義支援システム, 第28回インタラクティブ システムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS 2020), 2020.最優秀発表賞(一般)受賞
まとめ オ ン ラ イ ン 時 代 の プ ログ ラ ミ ン グ 初年 次 教 育 に 潜在 す る 主 な 問題 点 「 講 師 や T A の 指 導 に 限 界が あ る 」 「 学生 が T A に 質 問 する ハ ー ド ル が上 が る 」 を 解 決 す る 手 法 を t y p i n g . r u n / a s k T A と し て そ れぞ れ 提 案 学 生 1 2 0 人 の オ ン ラ イ ン プロ グ ラ ミ ン グ演 習 講 義 で 実際 に 運 用 • 学生の全体的な基礎タイピングと理解の底上げ及び定着が可能 • 質問ハードルを下げ, TAの精神的負荷軽減,円滑な運用が可能 業績 Yasutsuna Matayoshi, Satoshi Nakamura. Abstract Thinking Description System for Programming Education Facilitation, HCII 2020, No.LNCS 12206, pp.76-92, 2020.(他 修士8件/学士8件)