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January 23, 25
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
CN学会 星空観察における 視力の差が会話に与える影響に 関する調査:仮想環境での実験 飯田空 (明治大学4年) 中村聡史(明治大学)
背景 星空観察は知識の共有や会話を楽しむ人気アクティビティ • 星や星座についての説明や感想などが会話される 問題 自分が説明したい星や星座の位置を伝えられないことがある 観察者間の違いによる影響 • 視力差による星空の見え方の違い • 星座の形などの知識の差による星座の捉え方,説明の仕方の違い 1
背景 視力差が星空観察の会話に与える影響 視力差により星空の見え方が異なる,これによる見ている星のズレ ここでは相手の星空の見え方は確認することができない お互いにズレが生じていることに気づかず会話が進行する どの星について話しているのかわからなくなる,その話題が途切れる より円滑な会話をするためには 観察者間の視力の違いを情報支援により補完し 見ている星を一致させることが重要 2
背景 星空観察における見ている星を一致させるための手法 星空観察支援アプリ:StarWalk2,スカイガイドなど 画面を見ることで星や星座について認識を揃えることが容易 レーザポインタの使用 星を指すことで互いに星の位置を確認することができる Vito Technology: Star Walk2, https://starwalk.space/ja. (参照 2024-05-31). Fifth Star Labs: Sky Guide, https://www.fifthstarlabs.com/. (参照 2024-05-31). 3
背景 星空観察における見ている星を一致させるための手法 星空観察支援アプリ:StarWalk2,スカイガイドなど 画面を見ることで星や星座について認識を揃えることが容易 スマホの画面を見ることで暗い星が見えるまで時間がかかる レーザポインタの使用 星を指すことで互いに星の位置を確認することができる 他グループがいた際に迷惑となることがあり使用できる状況が限られる 視覚に関する情報を利用しない支援手法が必要 Vito Technology: Star Walk2, https://starwalk.space/ja. (参照 2024-05-31). Fifth Star Labs: Sky Guide, https://www.fifthstarlabs.com/. (参照 2024-05-31). 4
背景 聴覚に着目した支援手法 • 音声対話エージェントの介入により会話内容から観察者間の見ている星のズレを推定 • 星や星座の認識を観察者同士で一致させること目指す 観察者A あの山のてっぺんら辺にある星あるじゃん 観察者B うん 観察者A その右斜め上にもっと明るい星あるのわかる? 観察者B ...うん?,たぶんあれかな 観察者A そう,多分それ,でその明るい星を横にずーと行くと3つの星で三角形あるじゃん 観察者B え?三角形..どんくらいの大きさだ,てか3つも星ある? 観察者A 観察者B 5
背景 聴覚に着目した支援手法 • 音声対話エージェントの介入により会話内容から観察者間の見ている星のズレを推定 • 星や星座の認識を観察者同士で一致させること目指す 観察者A あの山のてっぺんら辺にある星あるじゃん 観察者B うん 観察者A その右斜め上にもっと明るい星あるのわかる? 観察者B ...うん?,たぶんあれかな 観察者A そう,多分それ,でその明るい星を横にずーと行くと3つの星で三角形あるじゃん 観察者B え?三角形..どんくらいの大きさだ,てか3つも星ある? 出力例 観察者Bとのズレがあるか も,この星を起点に説明し た方が良いよ 観察者A システム ズレを推定 もうすこし上向いて, 特徴的な星の配置 視界中の一番明る 明るさ,角度など着目点 い星に注目 について 観察者B 6
背景 聴覚に着目した支援手法 • 音声対話エージェントの介入により会話内容から観察者間の見ている星のズレを推定 • 星や星座の認識を観察者同士で一致させること目指す 実現のために 観察者A あの山のてっぺんら辺にある星あるじゃん 観察者B うん 観察者A その右斜め上にもっと明るい星あるのわかる? 観察者B ...うん?,たぶんあれかな 観察者A そう,多分それ,でその明るい星を横にずーと行くと3つの星で三角形あるじゃん 観察者B え?三角形..どんくらいの大きさだ,てか3つも星ある? 星空観察における会話からズレが生じているか どうかを推定可能か調査が必要 出力例 観察者Bとのズレがあるか も,この星を起点に説明し た方が良いよ 観察者A システム ズレを推定 もうすこし上向いて, 特徴的な星の配置 視界中の一番明る 明るさ,角度など着目点 い星に注目 について 観察者B 7
関連研究 星空観察における観察者の注視点を用いた星座の共同学習環境システムの提案 星空を見ている観察者間で相手の視線位置を共有可能なシステムの開発 Ohamaら(2012) 待ち合わせ場所のすり合わせの円滑さに着目した会話実験及び調査 円滑ではない会話の特徴として 同じ対象についての繰り返し説明が多い,キーワード(建物,橋,看板)の種類が少ない 古市ら(2022) Ohama, M. and Soga, M.: Collaborative Constellation Learning Environment with Sharing Learners’ Gazing Points in the Real Night Sky, 2012 IEEE Fourth International Conference On Digital Game And Intelligent Toy Enhanced Learning, IEEE, pp. 123–125 (2012). 古市冴佳,中村聡史: 待ち合わせ場所の伝達内容が理解 に与える影響: Apple 社の Look Around 機能を用いた検 証,技術 報告,情報処理学会 (2022). 8
目的 星空観察において視力の差が会話に どのような影響を与えるのか調査し 会話からズレが推定可能か検討する 仮説 視力差がある環境での会話の方が視力差がない環境に比べて • 会話の中の「え?」の数が増加する • 2人の参加者間での発話間隔が長くなる • 疲労度の主観アンケート結果が高くなる 9
実験:システム 実際の野外環境で実験することが難しい 2人が同じ星空について見え方が異なる環境を仮想環境で再現 システム設定 • 半球上に500個程度の星を配置 • 目印となるランドマークの設置(月,惑星,山) オリジナルの星空・星座を作成 • 星空4種類,星座14種類 星座例(こねこ座) 10
実験:システム 同じ星空に対して視力レベル3段階を作成(良い,普通,悪い) • それぞれ異なる程度のブラー処理を行った 良い 普通 悪い 11
実験:設計 実験タスク • 実験協力者2人である星座を会話しながら認識を一致させる課題を行う 伝達役 • 星座の位置や特徴を口頭で説明する 理解役 • 伝達役の説明を聞いて星座を特定する • 会話タスク後に星座の形や位置を理解できているかの簡易テストを行う 12
実験:設計 会話ペアでの視力差条件について • 実験参加者2人1組のペアの視力の組み合わせ 視力差なし条件:(良い,良い),(普通,普通),(悪い,悪い) 視力差あり条件:(良い,普通),(普通,悪い) • 実験で行う条件回数 視力差なし条件:15回,視力差あり条件:15回 合計14つの星座はそれぞれの条件で最低1回づつ会話される 13
実験:手順 会話ごとのアンケート • 円滑なやりとり • 相手の言っていることの理解 • 2人で星座の認識を一致 • 疲労度 実験後アンケート 時間条件:10分 • 伝達役の時に説明の工夫 • 理解役の時の理解の工夫 • 実験を通しての感想 14
実験:実験協力者 互いに面識のある大学生及び大学院生8名(男性4名,女性4名) 参加条件:裸眼,コンタクト,メガネの状態で視力が0.7以上(日常で乱視影響なし) 2〜3回ペアを組み会話タスクを行った 1つのペアでは3or4回の会話タスク行い,1人辺り合計6〜10回の会話タスクに参加 会話タスク条件 • 同じ人とペアを組まない • 同じ星空・星座を経験しない 15
結果:視力差条件・役割ごとのアンケート結果 視力差なし条件の方が円滑に行えたと回答 16
結果:視力差条件・役割ごとのアンケート結果 視力差あり条件の方が 相手の発言で難しい箇所が多かったと回答 17
結果:視力差条件・役割ごとのアンケート結果 視力差なし条件の方が2人で星座の認識が一致したと回答 18
結果:所要時間 視力差条件ごとの認識一致するまでの所要時間 (秒) 条件ごとの会話が各15会話=合計30会話 全30回分の実験データを分析対象 認識一致所要時間 • 2人で星座の認識が一致するまでの時間 600 500 所 400 要 時 300 間 200 視力差なし条件の平均時間:345秒 視力差あり条件の平均時間:465秒 100 0 視力差なし条件 視力差あり条件 視力差あり条件の方が 認識一致所要時間が長い 19
結果:会話分析準備 応答時間 • 伝達役と理解役の発話間隔を算出 • Pyannote.audioのspeaker-diarization-3.1モデルを使用 「え?」の頻度 • 「え?」を会話における情報の不整合性の表れと定義,冨樫ら(2001) • 「え?」を会話における相手の言っていること理解できない場合の特徴として分析 • 接続詞としての役割をしている「え?」を除外 冨樫純一: 「え?」と「は?」の談話機能,Kokugogaku: studies in the Japanese language, Vol. 52, No. 1, pp. 80–81 (2001). 20
結果:応答時間 伝達役と理解役の発話間隔 視力差なし条件 合計交代回数:861回 発話間隔平均:0.87秒 視力差あり条件 合計交代回数:885回 発話間隔平均:0.98秒 視力差あり条件の方が発話間隔が長い 21
結果:「え?」の数 認識一致所要時間までの発話における「え?」の数を求める • 全30会話分のデータを対象 • 星座の形や位置を説明する会話のみに限定 視力差なし条件:40個 視力差あり条件:61個 視力差あり条件の方が「え?」の数が多い 22
考察:簡易テストの会話結果の関係 理解役に対しての簡易テストの採点 採点基準(2点満点) • 星座を構成する星をすべて識別できている(1点) • 星と星を結んだ線が元の星座の形とある程度一致している(1点) 視力差なし条件:1.6点 視力差あり条件:1.3点 視力差あり条件の方が視力差なし条件よりも星座の伝達が難しい 伝達役と理解役の認識している星座のズレ具合も大きくなると言える 23
考察:ズレの推定方法 観察者間に星座認識のズレがあるほど「え?」の数が多くなる 「え?」が発声される発話 より以前の発話内容の特徴を明らかにすることで ズレの推定が可能になると考えられる 24
考察:視力レベル「良い」の主観アンケート結果 質問:相手の発言で理解が難しいところがあったか 視力差なし条件の視力レベル「良い」 相手の発言の理解の難しさ:「普通」「悪い」よりも高い結果 多くの星をはっきり視認できることが影響していると考えられる 実際に... 星がとても見える環境である特定の星や星座を見つけることが難しい 相手に星座の位置や形を伝えることが難しい 25
今後の展望 • 会話内のキーワードや特徴的なパターンの分析 • 観察者間の知識差による星座の見方,説明の特徴についての調査 • 星が見えすぎることによる星座伝達難易度やズレに関する調査 26
今後の展望 • 会話からズレを検出する手法の実現可能性の考察 • 音声支援システムの具体的な提案手法の検討 観察者A あの山のてっぺんら辺にある星あるじゃん 観察者B うん 観察者A その右斜め上にもっと明るい星あるのわかる? 観察者B ...うん?,たぶんあれかな 観察者A そう,多分それ,でその明るい星を横にずーと行くと3つの星で三角形あるじゃん 観察者B え?三角形..どんくらいの大きさだ,てか3つも星ある? 観察者Bとのズレに対して この星を起点に説明した方 が良いよ 観察者A システム ズレを推定 特徴的な星の配置 明るさ,角度など着目点 について 観察者B 27
まとめ 背景:星空観察でお互いに見ている星を一致させることは難しい要因として視力差に見え方が考えれる. 会話をより円滑にするためにはそういった違いを補完することが重要 目的:星空観察における会話で視力の差が会話にどのような影響を与えるのか調査し 会話から見ている対象のズレが推定可能か検討する 実験:2人で星空観察可能な環境を再現し,視力差を設けた星座探索タスクを行った 結果:視力差あり条件の方が視力差なし条件よりも「え?」の数が多くなること 発話間隔が長くなることを明らかにした 考察:会話から見ている星のズレを推定可能かどうか考察した 展望:知識差や星座難易度に関する調査を行い,音声支援システムの実現を目指す 28