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July 08, 26
スライド概要
オンライン心理学実験において視覚刺激のサイズを厳密に統制するための新たな方法を提案した研究のスライドです。この資料は, 「注意と認知」研究会第23回合宿研究会で発表に使用したスライドの一部を修正したものです。本研究は以下の論文として出版されています。
Muto, H. (2025). A ruler-based technique to rigorously control the size of visual stimuli for online psychological experiments. The Japanese Journal of Cognitive Psychology, 23(1), 57-66. https://doi.org/10.5265/jcogpsy.2415
大阪公立大学で教育と研究をしています。人が事物を認識する仕組みの解明を目指す知覚・認知心理学とその科学的方法(統計学,実験法など)に広く関心があります。
背景 提案手法 シミュ 実装実験 1/35 考察 2025年3月10日 (公開日:2026年7月8日) 「注意と認知」研究会 第23回合宿研究会 (予稿:No.18) オンライン実験において視覚刺激の物理サイズを 厳密に統制する手法の提案と検証 武藤 拓之 (Hiroyuki Muto) 大阪公立大学大学院現代システム科学研究科 ← この論文の話です。 Muto, H. (2025). A ruler-based technique to rigorously control the size of visual stimuli for online psychological experiments. The Japanese Journal of Cognitive Psychology, 23(1), 57-66. https://doi.org/10.5265/jcogpsy.2415 ※本資料公開にあたりスライドの一部を修正した。
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 背景 2/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 3/35 考察 オンライン実験による視覚研究の難しさ ◼ オンライン実験の需要の増大 ⚫ オンライン実験の長所と短所はさまざまな文献で議論されている。 (e.g., Birnbaum, 2004; Gosling & Mason, 2015; Kuraut et al, 2004; 黒木, 2020; 眞嶋, 2019; Stewart et al., 2017; Woods et al., 2015) ⚫ 多様なサンプルを効率よく集められる → 一般化可能性の向上と研究コストの低減 独立変数 ⚫ ただし,環境要因の統制は困難 • 効果量の希薄化(i.e., 検出力の低下) 従属変数 調整 ノイズ 環境要因 • 特に視覚研究では刺激サイズや観察距離などの観察条件が影響 オンライン実験の強みを生かしつつ 視覚刺激のサイズを統制できれば, 研究の幅を広げられる!
背景 提案手法 シミュ 実装実験 4/35 考察 先行研究 ◼ Li et al. (2020) の仮想顎台 (virtual chinrest) 1. カード課題 2. 盲点課題 𝑥 [px] •参加者自身のクレジットカード (幅85.60 mm) をスクリーンに当てさせてサイズを調整させる。 •これにより,mm:px比を計算できる。 調整された長さ [px] 𝑥 mm:px比 𝑏= 85.60 カードの横幅 [mm] 刺激の物理サイズを統制できる 𝑤 [px] (物理長は𝑤/𝑏[mm]) •左目だけで注視点を注視させ,動く赤い ドットが消えた位置 (盲点) を報告させる。 •これにより,観察距離を推定できる。 注視点と消失位置の距離 [mm] 観察距離 [mm] 𝑑መ = 𝑤/𝑏 tan 13.5° 盲点の水平偏心度 観察距離を統制できる
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 5/35 仮想顎台の問題点 ◼ 調整が参加者の裁量に委ねられている → 努力の最小限化 (satisficing) を客観的に見抜けない e.g., 記憶に基づく方略,当て推量 手元にカードないけど, だいたいこんなもんだろう。 ◼ サイズ調整の基準が1つ (カードの幅) しかない → 反復できないため,推定精度が不十分 これらの問題を解決し,より厳密に刺激サイズを統制したい!
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 本研究の目的 仮想顎台のカード課題よりも,負担は増えるが 厳密にmm:px比を推定できる手続きを提案 (“ruler-based technique”) その推定精度と実行可能性 (feasibility) を検証 • シミュレーションによる推定誤差の推定 • 実装実験による実行可能性の検証 6/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 提案手法 デモ: https://mutopsy.net/demo/demo_stimulus-size-calibrator_jpn/ 7/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 8/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 9/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 10/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 11/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 12/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 13/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 14/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 提案手法 ◼ Ruler-based technique ⚫ 以下の3つのフェーズから成る 1. 調整フェーズ 2. テストフェーズ 3. スクリーンサイズ確認フェーズ 15/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 提案手法:1. 調整フェーズ 1. 調整フェーズ ⚫ 線分を定規て測らせる。 (メジャーを使ってもいい) ⚫ mm単位で3回繰り返す ⚫ 線分の長さはランダム ⚫ 1回目:175─275 px ⚫ 2回目:50─150 px ⚫ 3回目:300─400 px 必ず「3回目>1回目>2回目」 → 前の回答で入力範囲を制約 → 入力ミスを抑制できる! ⚫ 3回分の入力値をもとに px:mm比を推定する。 16/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 17/35 考察 px:mm比の推定方法 参加者の 測定値 [mm] 提示された 線分の長さ [px] 𝑦𝑖 = 𝑏𝑥𝑖 + 𝑒𝑖 mm:px比 残差 ◼ 調整フェーズが終わると,以下の値 (最小二乗解) が内部で計算される。 σ3𝑖=1 𝑥𝑖 𝑦𝑖 ← たとえば10 cmの刺激を提示したいときは, ⚫ mm:px比: 𝑏 = 3 σ𝑖=1 𝑥𝑖2 プログラム上で10/𝑏 [px] の長さで表示すればよい。 ⚫ 残差分散: 𝑣𝑒Ƹ = σ3 𝑖=1 𝑦𝑖 −𝑏𝑥𝑖 3 2 .
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 提案手法:2. テストフェーズ 2. テストフェーズ ⚫ 線分を定規て測らせる。 (メジャーを使ってもいい) ⚫ 見かけ上は調整フェーズと同じ。 ⚫ 50─100 mmの範囲で ランダムに長さが決まる。 → 測定値とのズレを評価できる。 ⚫ テストフェーズの回答は, キャリブレーションの正否判定に使う。 18/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 19/35 考察 キャリブレーションの通過基準 ◼ 以下の基準をひとつでも満たさなかったら調整フェーズをやり直し 1. 推定された𝑏が0─1 [mm/px] の範囲内 • 本手法を実施した未刊行のデータ (Muto & Kambara, in prep.; N = 392) では, 𝑏は0.15─0.44の範囲であった。 2. テストフェーズの測定誤差が±1 mm以内 3. 残差分散が1以下 ※これらの基準は研究目的に応じて変更可能
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 20/35 提案手法:3. スクリーンサイズ確認フェーズ 3. スクリーンサイズ確認フェーズ ⚫ 画面上の左上と右下に表示される長方形をクリックさせる。 ⚫ 研究で必要なスクリーンサイズが確保できていないと通過できない。 ⚫ リクルートの時点でスクリーンサイズの要件を伝えておくことが前提。
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 21/35 提案手法まとめ ◼ Ruler-based technique ⚫ 以下の3つのフェーズから成る 1. 調整フェーズ 2. テストフェーズ 3. スクリーンサイズ確認フェーズ 参加者の負担はカード課題よりも大きいが, キャリブレーションの精度が高く,統制の成功を研究者が確信できると期待
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 推定誤差の シミュレーション 22/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 23/35 考察 推定精度の評価 ◼ 提案手法はmm:pxをどの程度の精度で推定できるか? ⚫ 提案した通過基準がどのくらいの誤差を許容するか, シミュレーションで評価可能 ⚫ 実際の参加者よりも測定が「雑な」仮想の参加者が 基準を通過したときの推定値と真値を比較 → 推定誤差の上界 (upper bound) のひとつを推定 i.e., 実際の推定誤差はこれよりも小さいと期待される 提示された線分の長さ[px] 参加者の測定値[mm] 𝑦𝑖 = 𝑏𝑥𝑖 + 𝑒𝑖 mm:px比の真値 ~ Uniform 0.15,0.45 残差 ~ Normal 𝜇 = 0, 𝜎 = 3 未刊行論文のデータから推定した mm:px比のレンジで真値を設定 ±3 mmのも測定誤差を示す 「雑な」参加者をシミュレート ※残差に十分広い一様分布を仮定したとき推定誤差は理論上最大となるが,現実との乖離が大きいため目的にはそぐわない。
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 シミュレーションの結果 10,000回のシミュレーションのうち基準を通過した151,912回分の推定誤差 基準を通過した仮想の参加者の推定誤差は 0.007 mm/pxであった。 → 提案手法の推定誤差は高々±0.007 mm/px (i.e., 1000 pxで提示したときの誤差が±7 mm以内) 24/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 実装実験 25/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 実験の目的と方法 ◼ 実装実験の目的 ⚫ 提案手法が現実的に実行可能かを検証 ⚫ 所要時間やキャリブレーションの通過に要する試行回数などを記述 ◼ 方法 ※事前登録:https://doi.org/10.17605/osf.io/kxn4r ⚫ クラウドワークスで100名の参加者をリクルート (24─50歳,女性40名) • サンプルサイズはヒューリスティックに基づいて決定 ⚫ 2024年11月7日10:52に開始し12:34に完了 ⚫ 提案手法によるキャリブレーションを行わせた後で, 横83 mm×縦27 mmの長方形の横幅と縦幅を測定させた。 (本発表では長方形の測定結果の報告は割愛) 26/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 27/35 考察 通過に要した試行数と所要時間 何回の試行で通過したか どのくらい時間を要したか 1回で通過した人たちの 所要時間 • 1回目で通過:84% • 2回目で通過:12% • 中央値:103秒 • 半数以上が2分以内 ほとんどの人が1回目の試行で数分以内に手続きを完了できた
背景 提案手法 シミュ 実装実験 28/35 考察 推定値の分布 mm:pxの推定値の分布 • 0.15─0.46 [mm/px]の範囲 • 以前のデータの範囲とほぼ一致 (0.15─0.44 [mm/px]) 残差分散の分布 • 0.00─0.92の範囲 • 研究によってはカットオフ値を より厳しくしてもよい?(e.g., 0.6) 提案手法を使用・改善する際の参考となる記述統計量を示した
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 長方形の測定結果 ※縦幅を839 mmと答えた1名分のデータ(入力ミス?)は図示していない。 ⚫ 52人が正しく83 × 27 mmと回答 ⚫ ±1 mm以内の誤差を許容すると86人が正しく回答 ⚫ 9人は横幅のみ正答,4人は縦幅のみ正答 • 縦横比が一致しないことは考えにくいため,片方は入力ミスと思われる。 • 27 mmと答えるべきなのに17 mmと答えるといった, 目盛りの読み間違いと思われるエラーが大半 想定した通りのサイズで提示できていると考えられる。 (エラーは測定ミスまたは入力ミスで説明可能) 29/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 考察 30/35
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 31/35 Ruler-based techniqueの強み 1. 刺激サイズの統制の正否を客観的に確証できる ⚫ 不正確に回答すると通過基準を満たせない 2. 努力の最小限化を抑制できる ⚫ 線分の長さがランダムに決まるため, 記憶に基づく方略や当て推量などが使えない。 3. 推定精度が高い ⚫ 調整フェーズで測定を3回繰り返すため, 1回きりの測定よりも推定誤差が小さくなることが期待できる。 高精度で客観的に確証可能な方法で刺激サイズを統制可能
背景 提案手法 シミュ 実装実験 32/35 考察 視角の統制への貢献 ◼ 網膜像の大きさ (視角) の統制にも役立つ ⚫ 提案手法を用いれば刺激の物理サイズ[mm]を厳密に統制可能 → 観察距離の統制手法と組み合わせれば視角も統制可能 ⚫ 観察距離の統制手法: • 仮想顎台の盲点課題 (Li et al., 2020) 視角 • 身長やディスプレイの種類を尋ねる簡便法 (Brascamp, 2021) ⚫ 仮想顎台はmm:px比を二度使う → mm:pxの推定精度が重要 視角に鋭敏な視覚現象のオンライン実験にも貢献 (ただし,観察距離の推定結果の信頼性については別途考慮する必要がある。)
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 33/35 提案手法の柔軟性 ◼ 研究目的に応じて手続きを柔軟に変更できる ⚫ 参加者の負担を軽減したい → 通過基準を緩める,調整フェーズを1~2試行にする ⚫ スマートフォンでの実験に利用したい → 線分のピクセル幅をスマートフォンの解像度に合わせる ◼ mm:px比の推定精度を上げたい場合 ⚫ 通過基準を厳しくする ⚫ 調整フェーズの測定回数を増やす ⚫ 提示する線分のピクセル長をより長くする (回帰の性質より,残差が等分散のとき,xが大きいほど傾きの推定精度が上がる) 手続きが単純なため,実験目的に合わせてに柔軟に適応可能
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 34/35 限界 ◼ カードを用いた方法よりも時間と負担を要する ⚫ 数分で完了するとはいえ,実験の目的によっては 精度を犠牲にしたり,カード法を用いたりした方がよいこともありうる。 ◼ 物差しの目盛りが想定の単位と異なっていても通過できる ⚫ JIS規格でない誤差の大きい物差しや, 異なる単位の物差しを使ったかどうかは見抜けない。 (通過基準のbの範囲を調整することで対応可能な場合も)
背景 提案手法 シミュ 実装実験 考察 35/35 まとめ ◼ Ruler-Based Technique ⚫ 刺激の物理サイズを十分な精度で統制するためのシンプルな手続き ⚫ 統制の正否を客観的に評価可能で, mm:px比の推定誤差は高々±0.007 mm/px ◼ 論文 (デモ&lab.js用のコンポーネントとマニュアルも利用可能) ⚫ Muto, H. (2025). A ruler-based technique to rigorously control the size of visual stimuli for online psychological experiments. The Japanese Journal of Cognitive Psychology, 23(1), 57-66. https://doi.org/10.5265/jcogpsy.2415 ◼ さまざまな実験で実装済み ⚫ いくつかは投稿中。 • 本研究は日本学術振興会科学研究費若手研究[21K13750],基盤研究 (C) [21K02989],基盤研究 (B) [24K00481] の助成を受けた。 • 本手法の動作環境の確認に協力してくださった橋本拓磨氏 (大阪公立大学) に感謝申し上げます。