文献03_Allexsaht-Snider, M., Vazquez Dominguez, M., Buxton, C., & Karsli, E. (2017). Figured worlds of immigrant fathers, sons, and daughters in steps to college through science bilingual family workshops 日本語要約

363 Views

August 11, 24

スライド概要

広島大学 外国人児童生徒教育課程デザイン論(南浦担当 2024)の授業資料です

profile-image

教育方法学・教科教育学という「一般的な教育」と,外国人児童生徒教育学という「特別な教育」をどちらも行っています。 このどちらもを同時に行う研究室は,日本の中ではほとんどありません。その結果,大学を含む多くの教育の場でこの両者は別々のものになってしまっています。

Docswellを使いましょう

(ダウンロード不可)

関連スライド

各ページのテキスト
1.

広島大学 外国人児童・生徒の教育課程デザイン論(南浦担当 2024) IMMIGRANT FAMILY×SCIENCE WORKSHOPS M242980 辻若乃 M240058 杉本若菜 Allexsaht-Snider, M., Vazquez Dominguez, M., Buxton, C., & Karsli, E. (2017). Figured worlds of immigrant fathers, sons, and daughters in steps to college through science bilingual family workshops, Gender & Education , pp.1-17. 発表資料は,広島大学「外国人児童・生徒の教育課程デザイン論」(南浦担当)受講生の許可を得てこのサイトで紹 介をしています。(あくまで論文そのものではなく,その要約資料です。教育的価値・資料的価値として公開してい ますので,引用などは必ず原著にあたり,ここのものを転載・引用することはお控えください)

2.

論文紹介 -Title 『Figured worlds of immigrant fathers, sons, and daughters in steps to college through science bilingual family workshops』 -Journal Name Gender and Education -Publication Year 2020

3.

著者紹介 筆頭著者 Martha Allexsaht-Snider ジョージア大学教育理論実践学部准教授。米国のラテン 系コミュニティやメキシコの田舎など、様々な環境にお ける家族、学校、コミュニティの交流、数学と科学教育 における専門能力開発と公平性について研究している。 他3人 Max Vazquez Dominguez Cory Buxton Elif Karsli

4.

論文の概要 ラテン系移民の父親とその息子・娘が参加した科学バイリンガル家族ワーク ショップにおける経験を調査。 「模式世界理論」に基づく調査結果によって、父親と子どもたちが大学やキャ リアの道を追求するために科学学習にどのように取り組み、一緒にアイデン ティティを形成したかを示した論文

5.

発表の流れ 1.研究の背景 2.方法と理論 3.ワークショップの内容 4.ワークショップから得られた示唆 5.議題

6.

1.研究の背景(p.311-313) <国家的・世界的な目標> STEM (科学、技術、工学、数学)分野の労働人口を拡大・多様化させる 世界中で科学的リテラシーを広める STEM分野における学生の学業成績とキャリア志向を促進する親の役割に対する 期待が高まっている (Litow2008,Sjaastad,2012)(NSTA2009,Redding2000)

7.

(参考)STEM教育とは 科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、 数学(Mathematics)の4つの教育分野を総称した言葉 Science:実験や観察からその事象に対して法則性を見い出すこと Technology:発生した事象において最適な条件や仕組みを見付けること Engineering:仕組みをデザインしたり、多くの人に役立つものづくりをしたりすること Mathematics:数量を論理的に表し使いこなすこと STEM教育は、上記の4つの分野を総合的に学び、将来的に科学技術 の発展に役立つ人材を育てることを目標にしている。 引用:プログラミング教育コラムhttps://wonder.litalico.jp/news/column2107-2/

8.

1.研究の背景(p.311-313) <親と子のキャリアに関する先行研究> ・子どもの特定の学校科目やキャリアプランへの興味に影響を与える母親の役割 は研究されている (Aunola他2013、Harackiewicz他2012) ⇔父親の役割に焦点を当てた研究はごくわずか ・STEM分野のキャリアにおける女性の割合の低さに関する研究には長い歴史が ある→STEM分野のパイプラインで子どもをサポートする母親と父親の役割は不 明 ・移民の親だけではなく、さまざまな社会経済的背景をもつ親も、STEM系の大 学や職業機会を追究するために必要な準備や情報を求めている (Chrispeel2007) さまざまな背景をもつ両親が子どもの学業やSTEM分野のキャリアの軌跡におい てどのような役割を果たしているのかを理解する必要がある!!

9.

(参考) Career trajectories(キャリアの軌跡)とは 個人が時間の経過とともにキャリアで進む道筋や進展のこと 初心者のポジションから上級の役職や特定の分野での専門家 まで、個々のプロフェッショナルな旅路を形成するさまざまな段階、選 択、経験を包括している。 教育、スキルの開発、職の機会、昇進、産業の需要の変化、そして個人 のキャリア目標などの要因によって大きく異なることがある

10.

1.研究の背景(p.311-313) <移民とその影響に関する先行研究> 【ジョージア州の例】 ・移民学生の増加率が全米をはるかに上回っている ジョージア州の全人口:18%増加(2000年~2010年) →ヒスパニック系人口:移民、国内移住、出生率の組み合わせによって96%増加 ・少なくとも片親が外国籍である子どもの割合 1990年 75,000人(子ども全体の5%)→2000年 222,000人(子ども全体の11%) → 2015年 501,000人(子ども全体の20%)

11.

1.研究の背景(p.311-313) ・2015~2016年度、米国の公立K-12の教室においてラテン系、アフリカ系アメリカ人、 アジア系アメリカ人の児童生徒数が初めて非ヒスパニック系=白人児童生徒数を上 回った ※K-12(K12)=幼稚園の年長~高等学校を卒業するまでの13年間の教育期間 ・1950年代以降、米国の公立学校の児童生徒数の大多数が低所得世帯の出身 ⇒所得格差 多くの移民の親は、家族の経済的地位の向上に役立つような教育的なキャリアの道を こどもに歩んでほしいという願望を持ち続けている

12.

1.研究の背景(p.311-313) <子のキャリア×父親の像に関する先行研究> 初期の研究 ラテン系の父親は、不在で権威的、伝統的な性別役割意識に従って家族の責任を 区別するというステレオタイプで描写されている(Mirande1991) 最近ではステレオタイプに意義を唱える研究が多い ・ラテン系の父親は子どもの世話の責任を共有する(Hofferth・Anderson2003) ・ラテン系の父親は子どもの教育や職業への意欲にさまざまな方法で投資する (Behnke・Piercy.2003)

13.

2.理論と方法(p.313-314) <現代の社会科学研究> 父と息子(娘)の関係は社会文化的な実践(例:子育て)が行われる文化的文脈の観 点から解釈される ⇔そのような研究は、彼らのアイデンティティが、私たちが関与する活動を通じて 地域的および関係的にどのように構築されているのか、その過程について十分に述 べていない Hollandら(1998)は、個人が自分自身や他人の経験や活動を理解する際にアイデン ティティがどのように形成され、再形成されるかに着目するために模式世界理論を 開発

14.

2.理論と方法 ~Figured world perspectiveとは~ Figured world perspective=模式世界理論 人と実際の行動と達成しようとしている目標の3点の関係性を私たちがどのよう に解釈し、 (暗黙的または明示的)にラベル付けするか→模式世界理論的・ラ ベル的に世界を捉える事の観点 模式世界理論の枠組みで考えると、このような教師は学生たちの世界を、彼らの リテラシー実践との関係性の中で理解しようとしていると言える(Dagenais, Day, and Toohey 2006)

15.

2.理論と方法 ~Figured world perspectiveとは~ (例)教師が学習者のリテラシー(読み書きに関わる)行動を解釈するとき 教師がもつリテラシー(読み書き能力)のアイデンティティによって、学生のリテラシー 発達を支援するものとしても、妨げるものとしても解釈し得る。 (「新興の二言語リテラシー習得者」or 「読みに苦しむ者」) ※新興の二言語リテラシー習得者=母国語と第二言語の両方でリテラシー能力を発展させ ている過程にある個人 成長の過程? 読み書きに 苦しんでいる?

16.

2.理論と方法~アイデンティティとは~ 本論文におけるアイデンティティの定義 (模式世界理論化世界理論の観点からいうと) 概念的に考察、物質的に実行され、時間、場所、相互作用に基づいて常に関係的に 進化し、移り変わる自己理解 (Urrieta,2007) ※概念的に考察=内面的な自己認識 物質的に実行=外面的な行動を通じた表現 模式世界理論は、人々を固定された役割(例:ガリ勉かオタクか)に割り当てる固定ア イデンティティの概念ではない! ⇔活動とパフォーマンスに焦点を当てることで、人々は常に時間や文脈を超えてお互 いがどのように関連するかを考え直していると想定している

17.

2.理論と方法(p.313-314) 模式世界理論では、個人が構造的および制度的な制約の中で、自己を再形成する能 力の限界を認識している =人は力や特権、社会的地位の違いによってある世界には決してアクセスできない かもしれないが、ある時ある活動を通じて他の世界に限定的にアクセスできるかも しれないし、他の世界で日常的に中心的な役割を果たしているかもしれない ➨私たちは社会的な相互作用を利用して自分が他者との関係の中でどのような存在 であるかを把握している。模式世界理論はこの過程の複雑さを説明するためのレン ズとして機能している!!

18.

2.理論と方法~ワークショップの概要~ ~ワークショップの概要~ 過去8年間にわたって移民の父親と息子(娘)が「Steps to College (STC) through Science」のバイリンガル家族ワークショップで行った会話を聞きながら「模式世 界理論」という概念を用いて、父親と子どもたちが自分がどんな人間であるかを相 手や自分自身に語りあった。そして、彼らが科学を学び、中等教育や大学教育進学 の可能性を追求するための目標を立てながらアイデンティティの創造を行った。 ~RQ~ 「正式な学校環境と非公式な教育空間の不公平と可能性の中で、またそれらに抵抗 しながら、移民である父親とその子どもたちが自分たちのアイデンティティを作り 上げていく中で、私たちは移民である父親とその子どもたちから何を学んだのだろ うか?」

19.

3.ワークショップの内容 開催年:2009年から 開催場所:大学、専門学校、その他の高等教育機関 対象者:中等学生(メキシコ、中央アメリカ、南アメリカ) 家族、教師 力を入れていること:・科学教育と学習の改善 ・学生のバイオテクノロジーに関する科学的な会 話や文章作成等を支援するための教授戦略の開発

20.

3.ワークショップの内容 各ワークショップは、家族と教師が小グループで協力し、 3つのバイリンガル(スペイン語と英語)のアクティビティステーションを回る 形式 ➀科学的な問題解決を促進し、科学的探求の言語と実践を使用する科学調査をリ ードするSTCスタッフによるセッション

21.

3.ワークショップの内容 ➁科学学習で使用される学術的な言語を探求する活動を促進するSTCスタッフによ るセッション 成功した大学生や過去のプロジェクト参加者などがゲストスピーカーとして招か れ、家族の学業成功における家族のサポートの役割について議論し、家族は自分た ちの興味、アイデア、心配事を表明する機会を得る ➂科学研究室の訪問を含むセッション 親、学生、教師が実験室で行われている作業を体験し、現在の革新的な研究につい て知識を得て、実験室で働いている人々の教育経歴について学ぶ (各ワークショップは共同での食事と、学生、親、教師、研究者による非公式な会 話=リラックスした雰囲気でのくだけた会話で終わる)

22.

3.ワークショップの内容 ・毎年の最終ワークショップでは、家族はバイリンガルのプロトコルを使って親子 インタビューに参加し、科学、言語学習、科学のキャリアパスウェイに関する一年 間の経験を振り返ることが支援された ※キャリアパスウェイ 個人が職業的に進む道筋や経路、特定の職業やキャリアに向かって進むための計画 やステップ ・このプロジェクトの8年間で、約200件の家族インタビューが行われた (そのうち63家族が研究の一環として参加することに同意)

23.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ ・さまざまなインタビュー方法と形式を検討し、最終的に研究者が直接インタビ ューに関与しない家族向けゲーム方式を考案 ⇒親子インタビュー活動 ・親子はカードを引き、質問をスペイン語または英語で読むことを選択して質問 を決める。親と子が交代で質問し合う ・質問内容は科学への関心や、子どもの学業と科学の学習に関する家族の目標に ついて、親と子が一緒に話すように意図されている

24.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ 質問は6つのカテゴリー (1)親/子の科学に関する実験 科学に関連する仕事をしている 人を知っていますか? (2)科学の実践に関する考え (3)科学の言語に関する考え 将来大学に進学するには中学校で何 をする必要があると思いますか? (4)高等教育に関する親/子の知識 (5)学業の成功のためのリソースと障壁 (6)STCワークショップに関する一般的な感想

25.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ 2012年から2015年にかけて実施されたインタビュー 分析対象者:11人の父親とその子どもたち(息子9人、娘2人) <参加者概要>

26.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ 分析結果から分かったこと (1)父親と子どもは、自分たちが科学者として行動し、話していると認識してい る (2)父親と子どもたちは、大学進学の障壁を克服し、バイリンガルであることの 価値を認める手段を特定している

27.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ ワークショップでは、父親と子どもが自らを科学者として位置づけ、科学調査へ の参加、科学研究室の訪問、家族の会話を行った ⇒学校内外で科学に親子で共通の関心をもつことにつながった科学の学習と子ど もの教育的・職業的願望の追求との直接的なつながりを発見した 他の家族 科学に関わる仕事をしている 人を知っていますか? その仕事に科学はどのように 関係していますか? はい。父は建設業で働いており 仕事をするタイミングや天候を 測って、把握しています。 シンティア

28.

3.ワークショップの内容~インタビュー内容~ 元々、科学に関連した学問や職業上の願望を追究するために乗り越えなければなら ない経済的障壁や反移民政策の障壁を現実的に認識 ⇒目標を達成するためのリソースとして教師、学校スタッフ、高等教育機関からの サポートを意識できるように ⇒英語とスペイン語のバイリンガルスキルなど、学生が科学の研究や職業の追求で 活用できる独自のリソースも認識できるように ロレンソ 父が知っているスペイン語は私の成功を 促進すると思う。 両方の言語をもつことは、物事を説明し たり理解したりする上でとても役立つ! 全員がバイリンガルであれば、よりよい 仕事に就くのも簡単になる!

29.

4.ワークショップから得られた示唆(概要) <ワークショップ中の家族の会話からの知見> 父親と子どもが科学の主体的な学び手として、科学の言語を使用する能力をもつ人 々として、子どものために科学に関連した大学やキャリアの道を検討している家族 として、対話しながら共にアイデンティティを形成していた ⇒移民の親とその子どもたちとの将来の研究や、米国および世界中で増加している 移民人口とのSTEM家族関与プログラムへの示唆

30.

4.ワークショップから得られた示唆 <3つの重要な示唆> ➀親子インタビュー活動に対するアプローチ ・移民の親が子どもたちのアイデンティティの形成にどのような影響を 与えているかを本当に理解するためには、様々な方法で交流している親子の様子を 見たり聞いたりすることが重要 ・父親と子どもが科学学習の内容や、その学びが学業や科学関連のキャリアとどの ように関連しているかを一緒に振り返る時間と空間は、研究の目的だけでなく、父 親が子どもの科学への興味を促し、子どもが父親から聞いたことや学んだことを認 識するためにも必要不可欠

31.

4.ワークショップから得られた示唆 <3つの重要な示唆> ➁模式世界理論の意義 「模式世界理論」が、父親と子どもが一緒になって科学学習に関わり、科学関連のキ ャリアを検討する中で、アイデンティティをどのように形成しているかを理解するた めの独特な概念ツールを提供した

32.

4.ワークショップから得られた示唆 <3つの重要な示唆> ➂多様な教育場面での応用 ・ワークショップから得られた示唆は、世界中の他の家族参加の文脈における移民の 親と子どもに関する研究のモデルとしても機能する ・世界的に移民が増加している現状において、青少年とその家族が多様な職業と 大学への進路につながる学術的アイデンティティを形成するための新たな方法を体現 ・教育者が移民家族、教師、高等教育機関の教員、そして研究者を結集する革新的 な対話の場を促進するのに役立つ ⇒このような対話の場は、子どもたちのための希望を提供すると同時に、青少年や 移民家族に対する反移民的な言説や慣行の抑圧という現実にも対応できる

33.

5.議題 ➀本論文では“本人と家族が一丸”となってキャリア形成をしている印象であるが、 日本のキャリア教育は“自分自身が何になりたいか”という個に焦点を当てている 印象がある。 ⇒日本という国の文脈で、外国人児童生徒のキャリア形成をサポートするとき、現 実的にどの程度参考にできるのか? ➁本論文は「キャリア教育」ではなく「職業教育」や「進学支援」に近い研究にも 思える。 ⇒「働く」「学ぶ」という概念が変わりつつある今、本当の意味で外国人児童生徒 の社会的自立を支援するには何が必要か?

34.

参考:特別支援教育学特論の講義資料(学生作成)