文献01_Buxton, C. A., Allexsaht-Snider, M., Rodríguez, Y. H ., Aghasaleh, R. Cardozo-Gaibisso, L., and Kirmaci, M. (2017). A Design-Based Model of Teacher Professional Learning in the LISELL-B Project. 日本語要約

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August 11, 24

スライド概要

広島大学 外国人児童・生徒の教育課程デザイン論(南浦担当 2024)の授業資料です

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教育方法学・教科教育学という「一般的な教育」と,外国人児童生徒教育学という「特別な教育」をどちらも行っています。 このどちらもを同時に行う研究室は,日本の中ではほとんどありません。その結果,大学を含む多くの教育の場でこの両者は別々のものになってしまっています。

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各ページのテキスト
1.

広島大学 外国人児童・生徒の教育課程デザイン論(南浦担当 2024) Buxton, C. A., Allexsaht-Snider, M., Rodríguez, Y. H ., Aghasaleh, R. Cardozo-Gaibisso, L., and Kirmaci, M. (2017). A Design-Based Model of Teacher Professional Learning in the LISELL-B Project. Oliveira, A. W. and Weinburgh, M. H.(Eds). Science Teacher Preparation in Content-Based Second Language Acquisition, (pp.215-234). Cham: Springer International Publishing. 発表資料は,受講生の許可を得てこのサイトで紹介をしています。(あくまで論文そのものではなく,その要約資料です。教育的価値・資料的 価値として公開していますので,引用などは必ず原著にあたり,ここのものを転載・引用することはお控えください) A Design-Based Model of Teacher Professional Learning in the LISELL-B Project LISELL-Bプロジェクトにおける教師の専門的学習のデザインベースモデル 木村祐実 三浦宏貴 ●●●●

2.

著者紹介 • Cory Buxton(コーリー・バクストン) (前回講義での検討論文と同著者) ・オレゴン州立大学教育学部教授 同大学で科学教育を専門とする ・NASA⇒グアテマラでの米国平和部隊活動⇒科学教育の道へ (研究領域) ・科学教育、移民・バイリンガル初学者、多様な主体 (その他の著者) Martha Allexsaht-Snider , Yainitza Hernández Rodríguez , Rouhollah Aghasaleh , Lourdes Cardozo-Gaibisso , and Mehtap Kirmaci

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論文の構成 1. はじめに 2.LISELL-B教育モデルの設計と進化 (LISELL-B教育モデルの6つの実践例) 3.LISSEL-Bプロフェッショナル・ラーニング・フレームワークの デザインと進化 (LISSEL-B教育モデル関係者の専門的学習の5つの例) 4.効果の実施と改善 ~LISELL-B教育モデルとプロフェッショナル・ラーニング・ フレームワークの複数回の反復を通して~

4.

1.はじめに ~LISSEL-Bプロジェクトとは~ ・誰を対象とするのか? →中高の理科とESOL(=非英語母語話者)の教師、バイリンガルの 生徒、その生徒の家族 ・どのようなスキルを育成するのか? →STEMの学問的・職業的進路に進むために必要な学習スキルや学問 的コミュニケーション能力

5.

1.はじめに ~LISELL-Bプロジェクトとは~ ・どのような規模で実施されているのか? →ジョージア州の2つの学区にある10校(中学校5校、高校5校)の 研究チーム (約50人の教師、約4000人の生徒、100人のラテン系家族による共 同パートナーシップ) 地域密着型 共同課題解決モデル

6.

1.はじめに ~LISELL-Bプロジェクトとは~ ・どのような背景の地域で実施されているのか? →実施される学区は人口動態が急速に変化している米国南東部の地域の 一つ。 以前は多くの生徒が英語を第一言語としており、バイリンガル学習者を 指導した経験や交流がなかった。 メキシコ、中米、南米からのラテン系移民が増え、クラスの約半数が移 民生徒を占めている。多くの移民生徒はスペイン語母語話者だが、スペ イン語以外を母語とするバイリンガル学習者もいる。

7.

1.はじめに ~LISELL-Bプロジェクトとは~ ※Emergent bilingual learnersとは「英語を第2言語として学んでいる 生徒」を指す。 他にもEnglish language learners(ELLs), English learners(ELs), Limited English proficient(LEP)という呼称があるが、英語を学んで いる間、母国語を維持し、強化すべき資源であるという事実を強調する ために、この呼称を用いている。

8.

2.LISELL-B教育モデルの設計と進化 (LISELL-B教育モデルの6つの例)

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LISELL-B教育モデルの6つの例 • 6つの実践の目的は? →生徒が科学の言葉(非常に馴染みのない言語)を用いて、自 然界の経験を文脈化し解釈できるようになること • 実践の対象は? →中高生(特に多くの生徒が初めて体系的に科学の言語に触れ る時期である小学校から中学校への移行期は重要性が高い)

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Practice① 仮説、観察、および根拠の調整 • Practice①の目的は? →生徒が観察と根拠を用いて仮説を評価する方法を説明できるよ うになること • 話せるようになる科学的な表現 → 「_____の観察に基づき、_____という理由でその根拠は私の 仮説を支持します。」

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Practice② 公平な実験を設計するための変数の制御 • Practice②の目的は? →生徒が独立変数と従属変数を設定し、その他の変数を統制して公平 な実験を設計すること • 話せるようになる科学的な表現 → 「私の調査の結果として観察する従属変数は_____であり、その理 由は_____です。」 • Practice②の特徴は? →公平な実験を設計する際に、正確な科学的コミュニケーションが大 事であるという点を強調していること

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Practice③ 因果関係の説明 • Practice③の目的は? →生徒が特定の科学内容に関連する行動、反応、出来事、または条件を特 定し、それが特定の結果を引き起こすまたは生み出すことを学ぶこと • 話せるようになる科学的な表現 → 「___が起こったとき、効果は___であり、その理由は___だからです。」 • Practice③の特徴は? →このLISELL-Bの科学調査言語の実践がNGSS (→アメリカの新学習指 導要領)の中心的な特徴である、根拠に基づいた議論の実践の基礎でもあ るということ

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Practice④ モデルを用いた説明や実験 • Practice④の目的は? →生徒が様々な概念モデルを学び、自分の考えの理解や説明に役立て たり、仮説を検証するために用いたりすること • 話せるようになる科学的な表現 → 「私のモデルは、___と___の間の関係を示しています。」 • Practice④の特徴は? →概念的理解を深めることができる一方で、協力して意味を共有する ために生徒が利用できる重要な言語的足場としても役立つ

14.

Practice⑤ 文脈で一般的な学術語彙を使用する • Practice⑤の目的は? →生徒が一般的な学習語彙に習熟すること • 話せるようになる表現 →一般的な学術語彙(例:indicate、feature) • Practice⑤の特徴は? →LISELL-Bプロジェクトでは、Coxheadの学術語リストを出発点とし、 プロジェクトに対する教師からのフィードバックや生徒との作業経験に基 づいて継続的に修正を加えていること ※特に、英語とスペイン語で同根語である多数の一般学術語彙を強調し、 家庭の言語資源を科学学習のリソースとして使用することに焦点化

15.

Practice⑥ 科学の言語を自分のものにする • Practice⑥の目的は? →生徒が科学独自の言語構造を学習することで、自分自身の科学的思考に対する 信頼性を高め、科学的思考を正確で簡潔に伝達できるようにすること • 話せるようになる科学的な表現 →文法的メタファー、専門用語、密な節の詰め込み、主題からテーマへの構造な どの言語的特徴 • Practice⑥の特徴は? →科学の言語を明示的に分解することで、特にバイリンガル学習者が科学的アイ デアをよりよく理解し、伝えるのに役立たせている →生徒は学術的な科学言語を日常言語に、またその逆に翻訳する双方向の書き直 しを練習すること

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3.LISSEL-Bプロフェッショナル・ラーニング ・フレームワークのデザインと進化 (LISSEL-B教育モデル関係者の専門的学習の5つの例)

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LISELL-Bプロフェッショナル・ラーニング・ フレームワークの開発 <目的> ・教師がLISELL-B教育モデルに関する科学言語を探究するための 複数の方法を提供する。 ・教師と生徒にとってより有意義な実践とするために修正・適応する プロジェクトスタッフを支援する。 ・以上の働きかけが日々の実践にどのように組み込まれるか検討する。 異なる関係者が共にLISELL-B教育モデルに取り組むための 5つのContext(具体的文脈)

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Context① Summer Teacher Institute ○大学のキャンパスで毎年開催される4日間の夏期ワークショップで、 教師がLISELL-B教育モデルについての共通理解を深め、学校での実 践のための教材を共同開発する。 →教育モデルの理論的な考え方と、実践的な支援と計画の両方の内容を 扱う。 +多くの教師は、バイオテクノロジーの専門の研究室を訪問し、STEM 研究者たちの仕事や、そのキャリアの過程について知る。

20.

Context② Summer Student Academy ○研修後、教師は参加者となる学生を学校から推薦し、以下の二つの目的に沿って行う。 <Summer Student Academyの目的> (1)バイリンガルの初級学習者である学生に、次の学年で経験することになる具体的 な科学の授業内容の一部を予習させ、より充実した科学教育を提供すること。 (2)教員に学年度のプレッシャーや制約を受けずに、教員研修会で学んだ新しい教育 実践をダイナミックに探究するための専門的学習の場を提供すること。 →同僚と協働したり、生徒と一緒にアイデアを試したりすることで、教師は実践の レパートリーを増やし、LISELL-Bの実践に関する自信をつけることができる。

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Context③ “Grand Rounds”授業観察とオンラインログ 研究授業 <“Grand Rounds”授業観察> ○授業観察プロジェクトに参加している複数の教師が、プロジェクト スタッフと一緒に一人の教師の授業を参観し、授業や生徒の取り組み について対話する。 →プロジェクトに参加し始めたばかりの教師が、プロジェクトの実践を 自分の授業に取り入れる自信をつけることができる。

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Context③ “Grand Rounds”授業観察とオンラインログ <オンラインログ> ○プロジェクトに参加する教師は2週間ごとにオンラインログに記入し、 授業実践について報告する。 ○定期的に自身のログデータと同じ学年や科学分野で働いている他の教 師のログデータを確認し、話し合う。 →自身の実践を自己評価し、改善方法を考えることができる。

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Context④ 「科学を通した大学へのステップ」 バイリンガルファミリーワークショップ ○プロジェクトの教師が各校のバイリンガル学習者のグループ(教師が指名)と その生徒の家族と一緒に、土曜日のワークショップに参加。 <ワークショップの3つのセッション> (1)LISELL-Bのスタッフが科学調査を指導するセッション (2)LISELL-Bのスタッフが学問的な言葉を探究する活動を支援し、大学合格者や 元プロジェクト参加者などのゲストスピーカーが、学業成就のための家族支援 について話し合うセッション (3)開催地の大学、専門機関等が情報や在校生の声を共有するセッション +各ワークショップの最後には食事を共にし、非公式な会話が交わされる。

24.

Context⑤ 生徒の作文を探究するための教師ワークショップ ○土曜日に行われるワークショップで、教師はプロジェクトスタッフとともに、 生徒の回答を分析する。 <午前> ・教師はプロジェクトスタッフと一緒に、LISELL-Bの教科項目に対する生徒の 記述回答を採点し、話し合う。 ・話し合うなかで、英語を母国語とする生徒やバイリンガル学習者が回答文を通 してどのように表現しているのかを検討する。 <午後> ・教師は生徒の回答に見られた長所と短所を活かして、授業や調査の方法につい て話し合う。

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4.効果の実施と改善 ~LISELL-B教育モデルとプロフェッショナル・ラーニング・ フレームワークの複数回の反復を通して~

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教訓1 初級バイリンガル学習者は十分な言語的な支援や構造化されたタスク、有意義な目的が与 えられた場合、英語の習熟度に関係なく読んだり、考えたり、話したり、書いたり、科学を一 緒にしたりすることのメリットを享受できる。 LISELL-Bプロジェクトの指針: 全生徒が英語の習熟度やこれまでの教育の経験に関わらず科学の学習に取り組むことがで きること。また、教師もこの実現を目標とすること。 過去 初級バイリンガル学習者は学年に合っ た内容の学習から外され、集中的な英 語の授業を受けてきた 学習内容や、内容に特有の教科の学習 言語から取り残されてきた。 今 標準化によって初級バイリンガルの学習 者を一般の授業に入れる取組み 不十分な支援体制

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言語ブースターの進化と役割 研究の初期の試み:LISELL launching paragraphの開発 ・研究チームと教師チームによって書かれた1~2段落の短く関心の高い文章 ・生徒が読み、パートナーと話し合う。2~3のディスカッションのための質問 ・言語活動を促進。しかし、授業の最初や最後の単体の活動ととらえられた ・教えられている科学のトピックや特定の分野との結びつき × 今 短い読み物を言語ブースターと呼ぶ。 ・形式を変更。授業や基準との関連性をより明確に。 ・ディスカッションのための質問を含む。 ・生徒がペアで科学について一緒に読み、考え、話し、書くことを求める。 ・関連する内容分野の基準との結びつき 〇 ・理解を助ける画像 ・短い文章、画像、重要な概念を説明する概念カードや語彙カード→バイリンガル学習者の助け

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画像→ 2段落程度の文章→ ディスカッション×2→

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言語的に豊かな(Language-Rich) 科学調査キットの進化と役割 研究の初期の試み:理解とコミュニケーションの両方をサポートする教材の開発 →LESELLモデルと呼ばれる一連の授業の開発 ・教師の講習会やバイリンガルの家族向けワークショップで使用するための科学調査 ・授業で使えるような教材も提供 ・どんな授業でも活用できる枠組みを提供するもの 今 ・教師をサポートする重要な方法という考え。(科学の言語と学習内容両方の習得のための) ・学習への参加をサポートするための複数のリソースが提供される。 (概念カードや役割カード、興味の高いトピック、画像など) ・英語とスペイン語のバイリンガル教材も開発中

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教訓2 英語母語話者の教師は初級バイリンガル学習者が母国語を科学学習の教材として使えるよ うに助けながら、学習者の英語習得をサポートできる。 LESELL-Bプロヘクトの2つ目の基本的な前提 →英語と同様に学習者の母語の維持、発達、使用を促進すること。 ・生徒の複数の言語を意味を構築するための別々のコードとみなすのではなく、言語資源の 集合体は生徒が単独やグループ、教師との相互作用の中で使用でき、または指導すべきで あるというトランスランゲージングの視点を採用して教師を支援したい。

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バイリンガルの家族のための科学ワークショップ 〇内容 家族と教師のグループが3種類の活動を交互で行い、その後、昼食をとる。 〇目的 保護者と生徒が科学の文脈で一緒に交流する機会を提供すること。 →会話を通して学習や職業、成績が良いことで得られる機会に対する意識の高まりを期待。 教師は生徒や家族をサポートし、つながりを深めた。 ワークショップにおける教師の変容 ・理解できない言語(スペイン語など)の話に参加するのに苦労。 →L2での学習に集中し続けることがいかに疲れるか実感 →バイリンガルの生徒への共感の深まり →母語の使用をサポートすることに新たに取り組んだ。 (ex) スペイン語学習クラスの組織

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バイリンガル構成的応答評価の役割 LISELL-Bプロジェクトのもう一つの目標 ・初期バイリンガルの生徒が科学的思考を発達させ、科学言語を通してコミュニケーションをと ることを理解し、測定するより確かな方法を開発すること。 →バイリンガル構成応答アセスメントの開発。 科学的実践の理解度を科学調査のシナリオに沿って記述させるもの。 この評価を用いた結果 ・科学的思考を説明するための言語を習得するには長い道のりがあることが判明。 ・教師は、バイリンガルの生徒が書いた文章を見たり話したりするための時間と仕組みが与え られると、生徒のアイデアなどを肯定的に評価した。 ・ワークショップ(例④)やワークショップ(例⑤)に参加した教師 →初級バイリンガル学習者が学んで成長していくこと、母語を強みとして活用できることの流 動性や実用性を理解。

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教訓(成果)について ・生徒が学問に関わるのに必要な言語能力をすでに持っているか、活動に参加するうちに習 得できるのかという仮定に疑問を投げかけた。 →科学言語を明確に教え、実践する必要性を指摘。 ・現在は初級バイリンガルの学習者はある程度の英語力をつけるまで学年相応の授業に入 れない →既存の言語を活用し、全ての生徒が科学の言語、アカデミックな英語、母語の言語スキル を身に付けるようにしなければならない。 ・LISELL-Bプロジェクトは、専門的な教師教育の中で、実践しながら修正を加えていくことが大 切であることを示した。 ・研究者だけでなく、学校現場の教師も協力して、プロジェクトを設計したことも重要。

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論点 ・様々な文化的・言語的背景がある中で、母語を生かしながら学習内 容を理解していくには、どうすればいいのか? ※本論文ではスペイン語母語話者が多かったが、日本における多様な母語話者が 一緒に学ぶ際はどうしたらいいのか? ・日本における外国人児童生徒支援の現状(LISELL-Bのような教材 開発の視点から)について、教師としてどのような支援ができるか。 ・日本における外国人児童生徒支援において、大学と教育現場はどう 連携していくべきか?(教材開発、共同プロジェクト、研修)