【おねがい】この資料は,広島大学大学院 人間社会科学研究科 2023年度 2ターム「外国人児童・生徒の教育課程デザイン特論」(南浦涼介担当)の授業 で行ったが受講大学院生たちの発表資料です。 Grace Onchwari, Jared Keengwe (2019). Handbook of Research on Engaging Immigrant Families and Promoting Academic Success for English Language Learners , IGI GLOBAL の研究ハンドブックのいくつかの章を選んで発表したものです。 教育的価値,資料的価値としてウェブでの掲載を行っておりますが,いわゆる「論文」ではありませんので,論文等への引用や掲載は固くお断りいたします。 また,分析対象の著作権は著 作者,資料文書の著作権は発表者に記しますので,無断転載はご遠慮ください。 質問については,広島大学南浦研究室(http://minamiura-lab.com)までお願いいたします。 18 Preparing In-Service Teachers to Work With Linguistically and Culturally Diverse Youth: Lessons Learned and Challenges Ahead ——言語的・文化的に多様な青少年と働くための 現職教師の準備: 教訓と今後の課題—— 発表日:2023/07/07 発表者:●元,●●雨,●井 1
発表構成 1. 筆者紹介 2. 対象書籍について(簡潔に) 3. 対象書籍における本章の位置付け 4. 本章の構成 5. 要約 6. どのような論点争点があるのか? 7. 日本においてそうした論点争点はどのように存在するか? 8. 参考文献 2
本書について Handbook of Research on Engaging Immigrant Families and Promoting Academic Success for English Language Learners :移民家族の参画と英語学習者の学業成功促進に関する研究ハンドブック • 教師の専門能力開発モデル、評価方法、指導戦略、保護者の参画戦略な どを活用し、地域社会と教育者が、移民や英語学習者の学業成功を促進 する社会的・学問的条件を作り出す方法を開発するための革新的な研究 を集めたもの • トピック(内容):バイリンガル学習者、家族参画、教師育成などのト ピックに焦点を当てながら、 • 対象:本書は幼児教育、小学校、中学校、幼稚園から高校、中等教育学 校の教師、学校管理者、教員、学識経験者、研究者にとって理想的な内 容となっている。 編者:Grace Onchwari, Jared Keengwe 3
本章の筆者について Lourdes Cardozo-Gaibisso, • 所属(執筆当時はジョージア大学) ミシシッピ州立大学 英語学科TESOL(Teaching English to Other Language Learner)および言語学助教授 • 専門 体系的機能言語学、マイノリティ集団のための科学リテ ラシー、文化的・言語的に持続可能な教育法、TESOL • 研究関心 多言語を話す移民・移住青少年とその家族、地域社会に とってより公平な科学関連の学習機会を開発すること • そのほかの所属 • 世界銀行のラテンアメリカ・カリブ海地域における教員養 成プログラムの教育コンサルタント(2018-2019) • 国連教育科学文化機関国際教育計画研究所(IIEPUNESCO)の教員政策のカリキュラム開発スペシャリス ト(2020) https://www.ssrc.msstate.edu/ directory/lcardozogaibisso 4
本章の筆者について Ruth Harman • 所属:アメリカ合衆国ジョージア大学准教授 • 第2言語としての英語教育(TESOL)・言語学 • 関心 学校改革と移民排斥の風潮の中で、初級バイリン ガル学習者のリテラシーと言語の発達をどのよう に支援するのが最善か • 研究 • クリティカル・パフォーマティブ教育学、クリティカ ル談話分析、教育・分析資源としての体系的機能言語 学などを研究 →社会的不公平に挑戦するためのツールとして、これ らのアプローチを使用 • アート・ベースの参加型研究に、地元のバイリンガル の生徒とESOL教師とともに積極的に取り組んでいる。 https://www.ruthharman.com/ 5
本書の構成と担当章の位置 1. オンライン上におけるダイバシティの教育─教師教育者の見方 11. 神話を打ち砕く─低所得ラテン系移民の親の関与 2. 言語学習者の子どもたちとその家族によりよくはたらきかける ための心構え 12. 学校における移民の子どもたちとともにはたらく─教師の実 践スキル 3. 障害を持つ子どもの教育の改善に関する法と言語的文化的に多 様な子どもたちを支えていくこと 13. 移民の子どもたちが進学およびキャリアをえがくことの支 援 4. バイリンガリズムに向かうための障壁 14. 豊かな言語発達を育む─英語学習者の深い学びと喜びの教室 5. 授業実践における言語学習者に対する資源的な捉え方と欠落的 な捉え方 15. 韓国語母語教室における韓国語教師と韓国語の子どもの言 語使用状況 6. 英語のみに熟達するバイリンガルと母語を学びながら新たな言 語を学ぶバイリンガルの子どもたちの口頭言語と読書の関係性 16. 文化的な関係性のある教育・学習の枠組みの中での英語学 習者の成功を高めていく 7. オールイングリッシュな教室における同伴者のいない子どもの 現実とニーズの捉え方 17. 人間的であり,言語的であることに応える教育のありかた 8. アメリカのアジア系移民のコミュニティの中でバイリンガリズ ムとバイリテラシーを育みながら市民参加をめざすこと 9. 多様なバイリンガルの子どもたちを理解する 10. 図書館で課題を越えていく─ラティーノに対する欠落的な捉え方 をゆさぶる 18.言語的文化的に多様な子どもたちとともに ある教員養成 19. 都市部の学校における難民の保護者による子どものいじめ の実態に関する認識 20. 難民の教育: NPOの役割 6
本章の構成 松元,趙,岡井 • 序章 • 言語的・文化的に持続可能な教育法: それが何であり、なぜ重要なのか • 社会・政治的文脈の中の教師教育 • 教師教育課程における多様性 • 多文化言語教育 :すべての教師のために準備すること • 教師のプロフェッショナル・ラーニング:未開拓のニッチ? • 文化的持続性のあるTPL介入の文化的文脈と状況的文脈 • Lisell-Bフレームワーク: 複数のシナリオ、複数の機会 • 大学進学へのステップファミリーワークショップ • ティーチャー・インスティテュートとスチューデント・サマー・アカデミー • 学生たちのライティングワークショップを探る • 示唆と今後の課題 • 重要概念の定義 7
用語の定義(ページ) • Culturally and Linguistically Diverse Youth(文化的・言語的に多様な青少年) : 学校では、家庭文化や言語習慣が支配的なグループと異なる中高生 • Emergent Bilingual Learners (EBLs): 支配的な言語を学んでいるにもかかわら ず、母国語をすでに習得している生徒のこと。2つの言語資源を組み合わせることで、 より豊かで完全なレパートリーを身につけることができる。 • Ideological Reflection(イデオロギー的省察): 特定の社会で個人が信奉してい る価値観や信念の核心部分について考察する能力。民族性、権力、社会構造など、長 年の信念や構成要素に疑問を投げかけ、挑戦する可能性を意味する。 • Literacies(リテラシー): 読むこと、書くこと、そして視覚的表現などの非伝統的 な表現方法を通じて、自己を批判的に表現する能力。 • Multilingual Teaching Practices(多言語教育の実践) : 言語だけでなく、生徒の言語的・文化的レパートリー全体を活用するための実践を 含む。 • Teacher Professional Learning(TPL)(教師の専門的な学習) : 教師が教室や学校の内外で受けることができる学習経験。これには、非伝統的な専 門能力開発活動も含まれる。 8
序章 ① TPLが必要とされる背景 学校現場の状況は多様化・複雑化している ・・・そこで起こる課題に対して・・・ 教師にとって、教室での教師の実践が生徒の学びの達成の鍵を握ってくる(だから教師の実践の 変化・向上が重要である)ということが意識されるようになる そのような背景において 教師の専門的学習(以下TPL)が教師の実践の変化・向上の重要な要素になる (TPLが学校現場の多様化・複雑化に対応するためには) 学校内外の多くの関係者が、参加型で文脈に沿った長きに渡って持続可能な学習体験を一緒につ くりあげていくことが必要とされる
序章 ② TPLの効果と取り組みの現状 (TPLの効果) 言語・文化的に多様な生徒に対する教育と学習の質を高めることができる (Burns & Darling-Hammond, 2014) ⇨ 教師の知識は社会正義の観点からだけでなく生徒の学習という観点でも重要 しかし、 TPLは現場において十分に取り組まれていない 移民の若者に対する政策も十分でない ・・・一回限りのワークショップ/「deficit」の視点/同化政策・・・ 10
序章 ③ 明らかにしたいこと どのような「TPL」が、EBLs(Emergent Bilingual Learners)に最適であり、教員の実 践と信念に持続的な変化をもたらすことができるのか (調査の内容) ・入職前の教師と現職教師に対するTPLにおける現在の課題 ・NSFモデルがどのように教師のバイリンガルな生徒との学習のニーズに応えたか ・新しい学習モデルの提案 11
言語的・文化的に持続可能な教育法 ー「言語的・文化的に持続可能な教育法」 とは何かー ◯「教室に独自の言語と文化を持ち込む移民の生徒に焦点を当てた」教育 ◯ 言語・文化的背景に適切な教育 「生徒の学業的成功を助けること」「生徒が文化的熟練度を高めること」「生徒が既存の社会構造を疑 うことを助けること」が重要である(Ladson-Billings 1995) ◯「民族的に多様な生徒の文化的特徴、経験、視点を、より効果的に教えるための導管として用いる こと」(Gay 2001) ーなぜ重要なのかー ◯多様な言語・文化的背景をもつ子どもの実態を規範言語・文化に対する「不足」として見る ことを乗り越える必要がある ◯文化的に多様な生徒が教室にもたらす強み、彼らの文化を活用するアプローチによって集団に多様 性の認識を伝染させることができる
社会・政治的文脈の中の教師教育 「言語的・文化的に持続可能な教育法」⇨ 教師の多様性に関する知識・TPLの課題 (課題①:教師の視点) 教室という空間、時間を超えて社会正義に焦点を当てた説得力のある議論の必要性 (Valdés and Castellón 2011より) ・教師は、教師としての実践に焦点を当てるのではなく、生徒が誰であるかを見ることに焦点を当て るべきである ・教師が多様な集団としての生徒に注目し、「彼らの背景、コミュニティ、歴史、文化に る」ことが重要 精通す *言語・文化的背景を維持可能な教育は教室の中だけにとどまらず、より広い社会的な文脈に位置づく
社会的・政治的文脈の中の教師教育 「言語的・文化的に持続可能な教育法」⇨ 教師の多様性に関する知識・TPLの課題 (課題②:教師教育の規範性) (Gorski 2009より) 多くの教師教育のシラバスでは、文化的に多様な人々を「他文化other cultures」あるいは「共同文 化co-cultures.」と呼んでいる。 (このような言葉がもたらす影響) ・「ヘゲモニーの維持に役立ち、ヘゲモニー規範と異なるアイデンティティやイデオロギーに否定的 な価値を付ける」 ・規範的でない集団を均質化する傾向がある。 (多様な背景を持つ生徒を、彼らは異なる背景を持つにも関わらず、規範に対して「不足」している という特徴で一括りにする。) 14
社会的・政治的文脈の中の教師教育 代表的・規範的な言語による個別性、多様性の捨象 (Lenski, Crumpler, Stallworth and Crawford 2005より) ・教師教育課程の個別のコースの効果は限定的である。 ・それよりもすべての教師教育者や入職前の教師(教員志望学生)が、自分のコースや教育現場 における文化的な前提や先入観を疑い、反省することが大切である 15
教師教育課程における多様性の問題 教師教育者、あるいはそこでの教師教育課程が、入職前の教師や現職の教師の職 業上のあり方に大きく影響を与える より差し迫った課題のほうに重きが置かれている現状 (学級経営、試験の実施) 変化が必要 教師教育課程において、言語・文化的多様性の意識を育むことが大切 (多文化教育、教室のなかにある多様性への意識) (具体的にどう変化を加えるか) ◎言語・文化的に多様な背景をもつ学生や教師を招きいれることで、現職前教師教育課程を多 様化する ◎白人的価値観が支配的な既存の教師の条件に、多文化平等の問題に対する意識を加えること (Sleeter 2001) 16
多文化言語教育:すべての教師を対象にした準備 専門的な知見をもった教師(ESOL、特別支援教育者)のみが言語・文化的に多様な教育に携わ ること、それを生み出す専門教育課程では、ますます多様性が広がりつつある現状に不適切 (どうすればいいか) ・すべての教師が言語・文化的に多様な生徒と関わる準備をしなければならない ・教師教育プログラムを専門分化して対応すればいいという認識の見直し、教師教育プログラム自体の再認 識の必要がある (Lucas 2011) (懸念点とそれへの対応) 教師教育者自身が言語・文化的に多様な子どもに関する知識や技術をもっていなければならない ーもしそのような知識や技術を主導できない状況ならば、どのように教師教育の変容が可能かー 「教師教育者が文化的・言語的多様性に関するトレーニングを受けるだけでなく、自分たちが教える教師教 育プログラムを批判的・反省的に分析するトレーニングを受けることで、このことが実現できる」 (Gort and colleagues 2011) 17
これまでのまとめ 多様な言語・文化的背景を維持する教育を行うために ー現状の制度的な方針や実践では不十分ー 「多様性」や「多文化」などの言葉を付け加える、 専門分野を制度上追加するだけでは解決しない ー現職教師の均質的な特性が多様な集団と関わる際の障壁になるー そこで 「教師教育プログラム」の概念を長期的に再構築する努力が必要 そのために教師教育者は現職の教師の専門的学習の向上に力を注ぐことができる ・・・(次節以降)教師の専門的学習の可能性はなにか、限界はどこにあるのか・・・ 18
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? 本節で提案すること+教師教育の問題状況 • 現職教師の専門的学習イニシアティブの可能性……教育者間の反省的な対話を開くた めの豊かな空間となり得る →そのためには,現状において,教師の専門能力開発における標準的な実践として受け 入れられている特徴を疑い、修正する必要がある 現状のTPLプログラムの課題は? Darling-Hammond and McLaughlin (1995) :TPLプログラムの限界を指摘 • プログラムを開発する際に,教師の意見やアイデアを取り入れていない • TPLを実施する上で,(プログラムが各学校や教師の実践に)文脈化されていなかった り,限られた時間しか用意されてない • 大学や学校の関係者間の協力が不十分 ↔政府によるプログラムへの投資は,教育・学習への影響や不足を正しく評価 しないまま続く 19
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? 【本節で探究する問い】 ①文献はTPLをどのように概念化しているのか?/②共通理解はあるか? • 教師に対して(❌教師とともに) 経済的な要因、生徒の成績、 学校の説明責任など、様々な 要因が絡み合って生まれた • (通常失敗するというエビデンスがあるのに)比較的短期間に行われる (スライド17も参照) • 学校内のコーチか,専門家と/または大学の研究者によって仲介されるオフィシャルな形式 先行研究・文献上の記述による表現の具体は… • TPLの目的:教師の内省、指導方法の変更、またはその両方を通じて教室の実践を修正するこ とで生徒の学習を改善すること → そこでは,教師はあくまで「教師が初期教師教育で得た知識を更新し、発展させ、広げること、 そして新しいスキルや専門的理解を提供することを目指す(McKenzie & Santiago, 2005, pp.121-122 )」 存在で,自分で取り組みを考えたり主導したりすることはない 20
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? 【課題①】:トップダウンのアプローチからいかに脱却するか? • 文献:教師が介入(intervention)に関与していると感じるほど、介入を評価し適切化する傾向 ↔トップダウンのアプローチの場合,教師はその対応を受け入れにくくなる • 教師の主体性の重要性を支持する研究 (Rivard & Gueye, 2016; Styslinger, Clary, & Oglan, 2015; Watson, 2013). (Gross, 2010; Konza & Michael, 2010; Patterson, et al, 2010) • Buxton(2015)「enactmentsの多重性を伴う教師の関与」という概念を提案 enactments: 教師が自分の理解や獲得した戦略を,新しい文脈(=自分の教室)に移す際に 選択をする • Thibodeau,(2008): 「職務に組み込まれたアプローチ」(p. 54) ……8人の教師によるリテラシー研究会を教師コミュニティを組織し、参加 =教師が自分たちで,ニーズに合わせてグループの構成や運営を決める →所有感と支配感をget→互いに、そして互いの生徒に対する責任感へ 【課題②】教現職教員の教育・学習をいかに理解してTPLをデザインするか? (教師の学習理論の言及×…教員養成と現職教員の学びを同一視していないか?) 教員養成課程と現職教員の学習プログラムを不用意に並列化,延長線上のものとみなす =教師の再教育が目的になっている(Bansilal, Goba, Webb, James & Khuzwayo, 2012) 21
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? 【問い②】TPLの介入を実施・研究する人々が、言語、文化、リテラシーの役割 についてどのように議論しているか?(教室におけるリテラシーの役割とその構 築方法について教師はどのようなメッセージを受け取っているのだろうか?) 1. リテラシー:道具的 2. リテラシー:分野固有のもの ……それぞれのテーマには、知識を理解し伝えるために読み手と書き手が守 るべき一連の規範がある 3. 探究としてのリテラシー:単なる読み書きだけではなく,新しい視点の獲得 や,積極的な理解を追求する 4. イデオロギーとしてのリテラシー ……リテラシーをイデオロギー的かつ批判的にとらえ、支配的なリテラシー を人種差別的な構造として位置付ける 22
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? 【問い②】TPLの介入を実施・研究する人々が、言語、文化、リテラシーの役割 についてどのように議論しているか?(教室におけるリテラシーの役割とその構 築方法について教師はどのようなメッセージを受け取っているのだろうか?) 1. リテラシー:道具的 2. リテラシー:分野固有のもの ……それぞれのテーマには、知識を理解し伝えるために読み手と書き手が守 るべき一連の規範がある 3. 探究としてのリテラシー:単なる読み書きだけではなく,新しい視点の獲得 や,積極的な理解を追求する 4. イデオロギーとしてのリテラシー ……リテラシーをイデオロギー的かつ批判的にとらえ、支配的なリテラシー を人種差別的な構造として位置付ける 23
現職教師のプロフェッショナル・ラーニング :未開拓のニッチ? (リテラシー④の概念から捉えるTPL) 【筆者の主張】TPLの介入は、単に教師がリテラシー教育について学ぶ機会ではなく、言語、 文化、リテラシーの役割をイデオロギー的に考察する強力な場となるかも! • Gross (2010)は、リテラシーを通じて、学生は文化的・政治的ヘゲモニーによって支えられている 既存の学問的障害に挑戦する可能性を持っていると主張している。 批判的 なリテ ラシー の研究 • トルバート(2015) マイノリティのリテラシーと言語実践=学問的価値が低く、学問を学ぶための潜在的な障壁とされる →人種差別的な言語観を再現する教師は、意図せずしてマイノリティの生徒の学習機会を阻害する (原因:マイノリティの生徒と白人の中流階級の生徒に対する期待の差) • Watson(2013):2つのリテラシーパラダイムの提案 ①自律的パラダイム(autonomous paradigm ):「どこでも同じである普遍的な技術スキル」 ②リテラシー=イデオロギー的なもの:コミュニティ内の社会的・政治的文脈に埋め込まれている 批判的なリテラシー論の共通点:リテラシー、言語、文化を恣意的な構成要素である だけでなく、マイノリティに対する人種的抑圧や隔離の潜在的な道具として分析する (Flores & Rosa, 2015) →【重要視点】リテラシーに関するこれら4つの異なるビジョンや解釈がどのように 共存し、国内および世界各地のTPLを導いているか? 24
文化的持続性のあるTPL介入の文化的文脈と状況的文脈 【これ以降のセクションの中心的な問い】 :私たち(研究者)の教師との協働において、文化の文脈、そして状況の文脈とは? それを明らかにするために必要なのは…… • 目的:教師の専門的な学習のための新しいパラダイムの例として役立つような TPL介入の理論的・実践的な基盤を探る • 実践・研究の前提:TPLの設計において教師や教師教育者と協力する際、言語 教育と学習の概念化において、「文脈とテキストの仮想/現実の干渉の動的性 質」を認識する • 方法:文化の文脈をマクロなレベルで、アメリカ南東部で制定されている包括 的な言説の実践とパターン、特に多言語・多文化の多様な若者とその言語・学 習レパートリーに焦点を当てて分析する (ex)アメリカ南東部:移民政策が厳しくなっている →バイリンガルの若者……英語が期待される言語かつ,人種差別がすべての有色人種のコミュニティに とって共通の経験となるような学校制度の中にいる 25
文化的持続性のあるTPL介入の文化的文脈と状況的文脈 • 筆者らが提案する介入のモデルの具体Language-rich Inquiry Science with English Language Learning through Biotechnology Project(LISELL-B) • NSF(National Science Foundation)の資金提供プロジェクト • 対象:科学とESOLの教師 • 内容:2領域によって構成される ① TPL&K-12領域:生徒の文章分析ワークショップ、家族ワークショッ プ、サマーインスティチュート、教師が運営する学生アカデミーなど 複数の専門的学習活動に参加する ② Design-Based Implementation Research領域:研究チームがモデル の変更といくつかの反復テストを目的としてデータ分析を行う 以降の節 プログラムの分析:教師が多様な環境で,異なる方法論による様々な学習体験をし、同僚・ 生徒・家族の交流が文化的・言語的に持続可能な実践を展開する上で重要な役割を果たすこ とを明らかに 26
LISELL-B TPLフレームワーク: 複数のシナリオ、複数の機会 • LISELL-B TPLモデルは、教師の学習は、複数の学習シナリオと相互作用によって、ELLs、彼 らの文化や言語、そして彼らの学習を促進するために家族が果たす役割について、教師が深く 理解するための共同構築された努力であるという考えに基づいて作られている。 • 「Steps to College Family Workshops」大学進学へのステップファミリーワークショップ • 「Exploring Student Writing Workshops」学生たちのライティングワークショップを探る • 「Student Summer Academy」スチューデント・サマー・アカデミー • 「Teacher Institute」ティーチャー・インスティテュート 27
LISELL-B TPLフレームワーク: 複数のシナリオ、複数の機会 「Steps to College Family Workshops」大学進学へのステップファミリーワークショップ • 文化資本 (Bourdieu, 1973) • 教室内外の関係構築の可能性に基づく教育モデルであり、参加者がさまざまな役割を探求 し、実行する可能性が与えれている(Lewis,2001) • 両親と生徒が、言語、科学、学術、文化といった異なる分野の専門家としての役割を交渉、 文化的・言語的資本の豊かさと交換を見出す。 重要な要素 • 知識と権力を参加者の間で自由に分配することで、誰もが互いに学ぶことが でき、参加者それぞれがエージェンシープロモーターになる。 • 知識が検証され、親、教師、生徒が互いに協力する中で、自分たちを気にか ける学習者として位置づける。 • ラテン系の大学生を集め、生徒や保護者に様々な情報を提供し、子どもたち のモデルとなるようにする。 • 生徒の母国語を正当化する。 「deficit」から脱却→能動的な主体として認識する 28
LISELL-B TPLフレームワーク: 複数のシナリオ、複数の機会 ティーチャー・インスティテュートとスチューデント・サマー・アカデミー 学校の制約から外れた安全な空間で、教師が計画を立て実践し、考察する機会を提供。 一週間 仲間の内省と情報に基づく 創造性のための空間も提供 2週間連続 100人以上の生徒を迎え 準備してきたことをすべて実践 29
LISELL-B TPLフレームワーク: 複数のシナリオ、複数の機会 学生たちのライティングワークショップを探る • EBLの文章表現について分析、議論、考察することに重点を置く。 • EBLsに焦点を当てることで、多くの教師が思考の転換を経験し、生徒に対する 「deficit」の位置づけを認識し、変化させる 多言語表現を問題視するのではなく 長所として捉える 30
示唆と今後の課題 • LISELL-Bモデルの意義:TPLを教室での指導の観点からだけでなく、生徒の 母国語やこれまでの経験、家族との関係構築の役割と関連づける重要性を提起 • 筆者のモデルの特質 • 通常のトップダウンの専門家育成アプローチを解体 • 教師、ファシリテーター、家族、生徒、研究者が常に協力し、「多様な生徒集団のニーズに 対応するために使用できる知識とリソースを共同構築する」(Buxton、Kayumova、& Allexsaht-Snider, 2013, p. 9) • 筆者のTPLの理解 • 指導と学習に関する社会文化的な視点からのもの • 言語的・文化的に多様な生徒や教師のグループと関わる際に「歴史的、言語的、記号的、文 化的」(Lemke、2001、297ページ)な領域を認識することが含まれる →このような教師教育の再認識は、ダイナミックなK-12生徒の文化や言語の 認識と検証、そしてより多様な教師を採用するために必要なステップ である 31
どのような論点争点があるのか? 1. 子ども観:言語・文化的にマイノリティの子どもをどう見るのか? (deficit?↔すでに自文化・言語として持っている大事なものがある?) 2. 教師の多様性をどう保障するか? 3. 教師が多文化の子どもに対応するとき,指導法と母国語・母文化との関連をどう考 えるべきか?(内容として扱うのか?その他の方法が必要か?誰がそれを行うの か?)その関連付けはどのように作られていくか? 4. リテラシーとは何か?どう捉えるのか? (獲得する道具・知識ー探究ー批判) 5. 言語・文化的に多様な子どもを指導できる教師を育てられるような教員養成・研修 はどうあるべきか?(トップダウンーボトムアップ?教員養成=現職教育?) 6. 生徒の社会・文化資本の獲得や家族・言語だけでなく、探究も含む民族コミュニティの関係 性の構築をリテラシー教育と結びつけてどのように促すか?(同化?母言語・文化 の保存と活用?) 32
どのような論点争点があるのか? 1. 子ども観:言語・文化的にマイノリティの子どもをどう見るのか? (deficit?↔すでに自文化・言語として持っている大事なものがある?) 2. 教師の多様性をどう保障するか? 3. 教師が多文化の子どもに対応するとき,指導法と母国語・母文化との関連をどう考 えるべきか?(内容として扱うのか?その他の方法が必要か?誰がそれを行うの か?)その関連付けはどのように作られていくか? 4. リテラシーとは何か?どう捉えるのか? (獲得する道具ー知識ー探究ー批判?言語をイデオロギーと捉えるか否か?) 5. 言語・文化的に多様な子どもを指導できる教師を育てられるような教員養成・研修 はどうあるべきか?(トップダウンーボトムアップ?教員養成=現職教育?) 6. 生徒の社会・文化資本の獲得や家族・言語だけでなく、探究も含む民族コミュニティの関係 性の構築をリテラシー教育と結びつけてどのように促すか?(同化?母言語・文化 の保存と活用?) 33
日本においてそうした論点争点はどのように存在するか? 【発表者の中での結論】 • 大体の論点は,日本の中でも同じように現れてくるのではないか? 【違いそうな論点を挙げるとするなら?】 ②そもそも,日本では,日本国籍の人しか公立学校の教員にはなれない →教師の多様性を保障するとはどういうことか?どんな制度改革が必要か? ③アメリカ…… 教員全員がリテラシーに関わる指導も担う ↔日本だとさまざまな役割分担(言語支援・教科指導)がある =制度としても分業が要請されるし,教師の認識も分業的 →リテラシーをどう捉えるか?(教科指導や「通常」学級の教師はリテラシーの指導に 対してどう向き合うべきなのか?) ④マイノリティの子どもに対する学校を超えた支援と協働の場は,そもそも教師の間で どう作れるのか?(専門知の共創・共有の文化を作るところから?) しかも協働的な活動の中で,一方的な日本語指導・日本社会への適応を超えていくため には? 34
発表者の疑問 • 筆者らが提案したLISELL-Bのプログラムの特質がわからない ……日本のプログラムとの大きな差異・新規性は何か? • • • • • 期間? 参加者となる教師の属性? プログラムが対象とする子どもの属性? プログラムの運営形態? プログラムを貫くリテラシーや文化の概念・スタンス? 35