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November 22, 19
スライド概要
第105回全国図書館大会三重大会第1分科会公共図書館(2)の基調講演のスライドです。
1977年茨城県生まれ|皇學館大学文学部国文学科准教授・図書館司書課程|つくば→スロベニア→伊勢|図書館情報学(文学館・文学散歩・文学アーカイブ・ウィキペディアタウン・学生協働・読書会)|ビブリオバトル普及委員会代表理事(二代目)済|知的資源イニシアティブLibrary of the Year選考委員長|伊勢河崎一箱古本市
第105回全国図書館大会三重大会 第1分科会 公共図書館(2)基調報告 本をあるだけ、 すべて 2019年11月22日(金) 三重県総合文化センター中ホール 持ち時間 20分 皇學館大学文学部国文学科 准教授 岡野 裕行
私の基調報告のスライドは 分科会が終了した後に、 SlideShareで公開します。 https://www.slideshare.net/hiroyukiokano
自己紹介 ●1977年 ●2000年 ●2003年 ●2006年 ●2011年 ●2013年 ●2015年 茨城県生まれ 図書館情報大学図書館情報学部図書館情報学科 卒業 図書館情報大学大学院情報メディア研究科 情報メディア専攻博士前期課程 修了 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 図書館情報メディア専攻博士後期課程 修了 博士(学術) スロヴェニア共和国リュブリャナ大学文学部 アジア・アフリカ研究科日本研究講座 専任講師(2007年まで) 皇學館大学文学部国文学科 助教(図書館司書課程担当) ビブリオバトル普及委員会 普及委員 知的資源イニシアティブ(IRI)Library of the Year 選考委員 ビブリオバトル普及委員会 理事 兼 東海地区代表 皇學館大学文学部国文学科 准教授(図書館司書課程担当) ビブリオバトル普及委員会 代表理事 (ビブリオバトル・シンポジウムやBibliobattle of the Yearの開催に関わる) ●2016年 ●2019年 皇學館大学附属図書館ふみくら倶楽部 顧問(学生協働団体) 知的資源イニシアティブ(IRI)Library of the Year 担当理事
黒い文字たちが白い紙の上に整列しています 静かです 音はしません あなたの目は文字に沿って動いていきます あなたの指が紙をめくります そよ風があなたの頬を撫でています でもあなたはそれに気づきません あなたは本を読んでいます 椅子の上のあなたのお尻がかすかに汗ばんでいます
昨日の夕方傘を忘れたあなたは仕事帰りに 駅前の本屋さんで雨宿りしました そのときその本があなたにウインクしたのです いや本当にそうとしか思えなかったのです どんな本かも分からずに手にとって カバーを見て扉を開けて著者の写真を見て それだけでレジに行きました 自分の勘だけを信じて
今あなたはもうもしかすると この世からふらふらと抜け出しているのかもしれない 見たことのない光景がひろがっています 会ったことのない人に会っています 経験したことのない気持ちに溺れています 聞いたこともない音が聞こえてきます そして自分とはまったく違う考えが いつの間にか自分の考えとハグしているのに気づきます
ふと我に返ったあなたは もう冷めてしまったミントティに口をつけます そして思います いまこの瞬間この地球という星の上で いったい何人の女や男が子どもや老人が 紙の上の文字を読んでいるのだろう 右から左へ左から右へ上から下へ(ときに斜めに) 似ても似つかないさまざまな形の文字を 窓辺で木陰で病床でカフェで図書室で なんて不思議…あなたは思わず微笑みます 違う文字が違う言葉が違う声が違う意味でさえ 私たちの魂で同じひとつの生きる力になっていく
しばらく目を木々の緑に遊ばせて あなたはふたたび次のページへと旅立ちます
谷川俊太郎「読むこと」 アンドレ・ケルテス『読む時間』(創元社、2013年)巻頭詩 ※「ブックピクニック2018」のなかで実施したビブリオバトルで紹介し、 チャンプ本を取った本です。
1.読書とは 和田敦彦著『読書の歴史を問う:書物と読者の近代』 笠間書院、2014年
1.読書とは 読書という概念 ①たどりつくプロセス ●書物が時間、空間を移動して読者にたどりつくプロセスのこと。 ②理解するプロセス ●たどりついたその書物を読者が読み、理解していく読者の内なる プロセスのこと。 ※和田敦彦著『読書の歴史を問う:書物と読者の近代』笠間書院、2014年
1.読書とは 読書という概念(追加) ①たどりつくプロセス ●書物が時間、空間を移動して読者にたどりつくプロセスのこと。 ②理解するプロセス ●たどりついたその書物を読者が読み、理解していく読者の内なる プロセスのこと。 ③解き放つプロセス(岡野による追加) ●自分のなかに溜め込まれた読書体験で得たものを記録に残したり、 語りかけることによって他者に伝えたりするプロセスのこと。 ●自分の手元にある書物を、何らかの方法で他者に渡していく プロセスのこと。
2.読者とは 書物の移動と読者との新たな関係 ●書物の移動は、書物が読者と新たな関係をもつ契機であり、 あるいはそれを失う契機である。 ●したがって、書物の移動こそが、読者の歴史を考える上で 大きな意味を持つのである。 ●ある蔵書の歴史は、それらがいつ、どれだけ購入されたか ということとともに、どこから購入され、なぜ、どこに いったのか、という移動先や移動元との関係で捉える 必要がある。 ●それによって新たな読者が生まれ、あるいは消えていく 読書の歴史を見出していくことができる。 ※和田敦彦著『読書の歴史を問う:書物と読者の近代』笠間書院、2014年
2.読者とは 書物を動かす人 ①書物の視点に立ち、その書物があちこちを移動し続ける という観点から見れば、書物を手にしている人の存在は、 書物を移動させる仲介者/運搬者になる。 ●人は生きている限られた時間のなかで、幾度となく書物の場所を 動かし続けている。 ②人は書物の読み手であると同時に、書物を新しい場所に 移動させる人/ほかの誰かに書物を届ける人でもある。 ●書物を乗り手にたとえるならば、人のほうが車の役割になる。 ●人の寿命よりも書物の寿命のほうが長い。車を乗り換えながら、 書物は次々に新しい持ち主のもとに移動する。
2.読者とは 本があったらなにをする? ①人と本との関係を言い表す形は多種多様である。 ●本を探す ●本を売る ●本を作る ●本を書く ●本を捲る ●本を見る ●本を選ぶ ●本を隠す ●本を見せる ●本が現れる ●本を届ける ●本を見つける ●本に傍線を引く ●本を読み上げる ●本に書き込みをする ●本を貸す ●本を取る ●本を聴く ●本を運ぶ ●本を撮る ●本を買う ●本を伝える ●本に溺れる ●本を借りる ●本を並べる ●本に埋もれる ●本に没頭する ●本に夢中になる ●本に言葉を添える ②読書という概念には、人と本との付き合い方の多様性が 表現されている。 ●「本をあるだけ、すべて」私はどうしたいのかが問われている。
3.何かについて語ること/本から離れていく言葉 ビブリオバトルによる言語化 ①各自の個人的な読書体験を言語化し、共有化できる状態へと 変換していくということは、そこで生み出された言葉が自らの手を離れて 他者のもとへと届くようになり、そこからさらに別の人たちへと波及して いくという可能性を含むことでもある。 ②誰かが言語化した読書体験の物語を受取り、そこに自分の 読書体験を重ねあわせ、また別の誰かのためにその読書体験を伝えていく こともできる。 ※岡野裕行「ビブリオバトルを通して読書について考える」『情報の科学と技術』 vol.66、no.10、2016、p.513-517. https://doi.org/10.18919/jkg.66.10̲513
3.何かについて語ること/本から離れていく言葉 Library of the Yearによる言語化 ①外部評価による事業の承認をする。 ②外部評価による優秀性の評価をする。 ③「良い」取り組みを言語化する。 ④「良い」図書館の存在を公に周知する。 ⑤人々の知識の再生産を促す。 ⑥図書館活動におけるノウハウを共有する。 ⑦図書館のPR活動に寄与する。 ⑧人々に「良い」図書館を探す動機づけを促す。 ⑨「良い」図書館を目指すきっかけを与える。 ⑩「良い」図書館について考えるきっかけを与える。 ※岡野裕行「「良い図書館」を「良い」と言い続ける未来のこと」 『ライブラリー・リソース・ガイド』no.13、2015、p.15-54.
3.何かについて語ること/本から離れていく言葉 ピエール・バイヤール著『読んでいない本について 堂々と語る方法』筑摩書房、2016年
3.何かについて語ること/本から離れていく言葉 本について語ることは創造的な作業 ●われわれは、本を読みはじめる瞬間から、いや読む前から、 われわれのうちで、また他人とともに、本について語り はじめる。 ●そしてそのあとわれわれが相手にするのは、 現実の本ではなく、これらの言説や意見なのである。 ●現実の本は遠くに追いやられ、永遠に仮定的なものと なるのだ。 ※ピエール・バイヤール著『読んでいない本について堂々と語る方法』 筑摩書房、2016年
3.何かについて語ること/本から離れていく言葉 読書の制約/読書を妨げるもの ①本について語るためには、さまざまな制約がある。 ●現物の本が入手できない。 ●本を読む習慣がない。 ●本を語る時間がない。 ●本について語る相手がいない。 ●どんな本があるのかを知らない。 ●どんな本があるのかを知るきっかけがない。 ②読書を妨げるものに対し、それらを乗り越える手段を 模索していく。 ●私たちは本について、いつ、どこで、誰と、何について、 どのように語れるだろうか。 ●そのためには、どういった仕組みが必要となるだろうか。
4.読書をする自分の姿をパブリック化する 田中元子著『マイパブリックとグランドレベル: 今日からはじめるまちづくり』晶文社、2017年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する 公共的である状況 ①マイパブリックとは「自分でつくる公共」のこと。 ②パブリックとは公共空間でも公共施設でもなく、 「公共的である状況」を指す言葉。 ③「公共的である状況」には、以下のような性質がある。 ●共有性:第三者との接触可能性がある ●実践性:第三者にとって「自分の居場所」である ●関係性:第三者どうしが互いの存在を許容し合える ※田中元子著『マイパブリックとグランドレベル: 今日からはじめるまちづくり』晶文社、2017年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する グランドレベルとは ①時間と同様に、あまねくひとに平等に与えられたもの。 ●地面に立つことだけは、社会との接点を持つひとなら、 ほぼ誰もが毎日体験すること。 ②よのなかに多様な社会像、まち像があるなかで、 他者との共通項としてのイメージを見いだせる場所。 ●人々は同じ地平に立っているが、どこに向かって何を見ながら 生きているかはひとそれぞれであり、それぞれの中に、 それぞれの社会像やまち像がつくられる。 ※田中元子著『マイパブリックとグランドレベル: 今日からはじめるまちづくり』晶文社、2017年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する グランドレベルにマイパブリックを仕込む ①からまりしろ ●ひととグランドレベルが出会う。 ●空間や建築物に周辺の環境とからまることができる「のりしろ」を つくること。 ②かかわりしろ ●ひととまちがグランドレベルで一体化する。 ●まちのモノやひとに対し、自分自身が能動的な行為を起こすことができ、 さらに継続的に応答できること。 ③つながりしろ ●グランドレベルに面的な一体感をつくる。 ●グランドレベルの施設や空間とまちとの間に中間領域をつくること。 ※田中元子著『マイパブリックとグランドレベル: 今日からはじめるまちづくり』晶文社、2017年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する 良いグランドレベルの条件 ①風景として美しいこと。 ②ずっといたくなる感覚に包まれること。 ③多様なひとの存在が許されている空気感に満ちていること。 ※田中元子著『マイパブリックとグランドレベル: 今日からはじめるまちづくり』晶文社、2017年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する 笹尾和宏著『PUBLIC HACK:私的に自由にまちを使う』 学芸出版社、2019年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する パブリックハック ①公共空間において、個人それぞれが生活行為として 自然体で自分の好きなように過ごせる状態であること。 ②好きなことをしていても、他人からとやかく言われない 公共空間であること。 ※笹尾和宏著『PUBLIC HACK:私的に自由にまちを使う』 学芸出版社、2019年
4.読書をする自分の姿をパブリック化する まちの自由度の高さが生み出す効果 ①個人の満足感がまちの風景に滲みだす。 ②シビックプライド(まちへの愛着)を育む。 ③自然な触れあいに遭遇する。 ④人々の振る舞いがその場所に惹きつける。 ⑤やりたいという思いが賑わいを継続させる。 ※笹尾和宏著『PUBLIC HACK:私的に自由にまちを使う』 学芸出版社、2019年
5.本に出会うリテラシーを誰かのために 柴野京子著『書棚と平台:出版流通というメディア』 弘文堂、2009年
5.本に出会うリテラシーを誰かのために 本に出会うリテラシー ●ブロガーや個人書店経営主がもっているリテラシー、 すなわち「本に出会うリテラシー」は、よりアクセスしやすい 場所に開示されることによって、リテラシーをもたない人、 失ってしまった人に提供することができる。 ●それを産業システムとしてとりこんでしまわずに個人として 外在させながら、リテラシーの開示が可能となる装置を 不定形のネットワークとして設定することはできないだろうか。 ●そこで産業側にすべきことがあるとすれば、読書家の延長のような エキスパートを育成することではなく、開放的なネットワークを 実現し、サポートするプロフェッショナルを育てることだろう。 ●こうしたプロフェッショナルは、書店と同じく人員の流動化が進む 公共図書館、学校図書館においても求められるであろうし、 新しい中間組織がプロデュースに参加することも考えうる。 ※柴野京子『書棚と平台:出版流通というメディア』弘文堂、2009年
5.本に出会うリテラシーを誰かのために 誰かのための「本に出会うリテラシー」 ①「本に出会うリテラシー」をどこかの誰かに届けるための 仕組みをつくりだす。 ●本に出会う機会/本について語る機会を、どこかの誰かのために 意識的につくりだす。 ●本に関わる空間は、地域社会のなかにみんなでつくりだせる。 ②私的かつ自由にまちのさまざまな空間をつかいながら、 「本に出会うリテラシー」を誰かのためにつかってみる。 ●「パブリック」な空間は、自らの手でつくったりつかったりできる。
ブックピクニックとは どのような 「公共的である状況」 であり 「本に出会うリテラシー」 を提供していたのか
↑ここまでは研究者としての報告 基調報告 おまけ ↓ここからは大学教員としての報告
6.大学図書館の学生協働団体が地域のなかに出てみた 学生を中心に据えた学生協働のあり方 ①大学図書館における学生協働は、学生が主役の活動であること。 ●誰と協働関係を結ぶのかは学生自身が決定する。 ②学生協働の取り組みを効果的に進めるに、大学図書館という空間の 制約から解放する視点を持つこと。 ●いつ・どこで協働をするのかは学生自身が決定する。 ③学生が大学図書館で得た学びの成果を、 学外において応用する方法を探ること。 ●どのような協働をするのかは学生自身が決定する。 ④学生自身が自らの学びとなる協働関係をデザインできるように、 大学図書館職員や大学教員がそのための環境整備に動くこと。 ※岡野裕行「大学図書館における学生協働とは何か」『情報メディア研究』 vol.18、no.1、2019、p.29-40.
6.大学図書館の学生協働団体が地域のなかに出てみた 岡野裕行「大学図書館における学生協働とは何か」 『情報メディア研究』vol.18、no.1、2019、p.29-40. https://doi.org/10.11304/jims.18.29
ふみくら倶楽部が ブックピクニックで 見てきたものとは