pitching_mechanics_qiita_#1

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November 07, 25

スライド概要

Qiita記事「投球の力学メカニズム」(https://qiita.com/skill-vis)をスライドにまとめました.

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スポーツ工学,バイオメカニクス,SkillVis

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各ページのテキスト
1.

 物理で解き明かす投球のメカニズム 投球のメカニズムは物理で明らかにできる 1.ボールが回転する本当の理由 Qiita記事「投球の力学メカニズム(1)〜(6)」を解説 参照: https://qiita.com/skill-vis 本日のゴール: バックスピンが"自然に"生まれるわけを理解 ボールも振り子 回転するきっかけは力の最大化 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 1

2.

投球の不思議 親指の離脱がボールの回転やリリースを促す? 指で押すから,ボールは回転する? 親指の離脱 親指を離すだけで回る,リリースする? 回転軸はどのように定まる? 身体の"振り"とボールの回転はどうつながる? Scientific Reports, 15, Article number: 9514 (2025), T. Ymaguchi et al. Impact of slip distance between fingertips and ball on baseball pitching performance under different friction conditions 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 2

3.

リリース前になにが起きている?:回転制御フェーズ 回転制御フェーズとは 約140km/hのストレートの例 「回転力を与え始める〜回転が始まる〜リリース」の一瞬 (約15〜20ms) この間に球速+回転数が一気に伸びる(〜30km/h増、〜 2000rpm達成):ほぼ制御が困難 回転制御フェーズ 力の向きの変化と転がりの両立がカギ ヒント トルク発生前に飛翔方向と回転はほぼ決まっている.バックスピン は,すでに力学的な準備が整った「結果」にすぎない. 良い投球は,トルク発生前の準備が大切 バックスピンフェーズ リリース トップスピンの勢いを 殺すフェーズ スピン開始=母指離脱 トルク発生 ボールの移動と回転制御が困難 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 3 ボールの挙動は,ト ルク発生前に定まる

4.

理解の第一歩:ボールも振り子と思え! ポイント: 力の作用点 加速中,ボールが手を押す.「力の作用点=接触点」と考える 力の作用点=接触点 ボールを,接触点からぶら下がる「振り子」と考える 親指 ボールが手を押す メモ ボールの回転は,スピン回転が起きているとき接触点が1箇所なの で,そこを回転軸と考えた振り子とみなせる. 手とボールの一体化 手+腕 = 振り子 ボール=振り子 肩 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 4

5.

振り子の加速原理:根元側は反対方向へ加速する ポイント: 反対方向 振り子の回転運動:先端と根本の加速度は反対向き 力の作用点 根元側を投球方向に加速すると,先端(ボール)は後方に加速 根元側 根本側:前方(=投球方向)加速=バックスピン,後方加速 =トップスピン 先端側 メモ 根元側を,加速させたい振り子の方向(順方向)と反対方向へ加速す ることで振り子が順方向へ加速する. 順方向 先端側は根元側の加速方向と反対側に加速する 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 5

6.

ターニングポイント:投球方向に押す力の最大化 ポイント: 回転制御フェーズ 力最大化前 投球方向の力:減少 投球方向の力:増加 投球方向の力 振り子の重心は,前向きの勢い(重心の運動の勢い)による力 投球方向の力 と,(投球方向の力による)後ろ向きの力の引っ張り合い 力最大化前:後ろ向きの力が発生するが,ボールと手が一体化 (手がストッパー) ボールが手を押す 回転制御フェーズ:投球方向の力が減少し,ボールの前向きの 勢いが優勢となり,バックスピン開始 メモ バックスピン発生 手がストッパー 加速中,ボールが手に張り付くため、ボールは手の中に収まったまま. ボールは親指から離れない. ボールの前向きの勢いが優勢 親指を離したり,指でボールを能動的に押すから回転するのではない. 加速中,ボールが手に張り付く 投球方向の力の最大化以降に,スピンは「自然に」発生する. 投球方向の力の大きさの変化によって,スピンが自然に発生 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 6

7.

メカニズムの詳細 回転制御フェーズ ポイント(難しい場合は読み飛ばしてください): 力最大化前 投球方向の力:増加 投球方向の力:減少 ft→ <latexit sha1_base64="nzQQNbqhbmPSq/iAjclN+D7mob4=">AAACjHichVG7SgNBFD2u7/iK2gg2weCjCnclJEYRREEsfcUHKmF3nejivtidBDT4A7YWFmqhYCF+gB9g4w9Y+AliqWBj4c1mQVTUO8zMmTP33JnD1T3LDCTRY51S39DY1NzSGmtr7+jsinf3rARuyTdE3nAt11/TtUBYpiPy0pSWWPN8odm6JVb1vZnq/WpZ+IHpOsty3xNbtrbjmEXT0CRT65u6XSkeFuRwIZ6k1GhOVXPpBKUyWRrLZRlQGAk1AklEMe/Gb7GJbbgwUIINAQeSsQUNAY8NqCB4zG2hwpzPyAzvBQ4RY22JswRnaMzu8brDp42IdfhcrRmEaoNfsXj6rExgkB7oml7onm7oid5/rVUJa1T/ss+7XtMKr9B11Lf09q/K5l1i91P1h0Ln7L89SRQxFnox2ZsXMlWXRq1++eDkZWl8cbAyRJf0zP4u6JHu2KFTfjWuFsTiKWLcIPV7O36CldGUmkllFtLJqemoVS3oxwBGuB9ZTGEO88jzuzaOcYZzpVNJKxPKZC1VqYs0vfgSyuwH/I2TlA==</latexit> ft→ 力最大化前:トップスピン・モーメントが発生するが,ボール <latexit sha1_base64="nzQQNbqhbmPSq/iAjclN+D7mob4=">AAACjHichVG7SgNBFD2u7/iK2gg2weCjCnclJEYRREEsfcUHKmF3nejivtidBDT4A7YWFmqhYCF+gB9g4w9Y+AliqWBj4c1mQVTUO8zMmTP33JnD1T3LDCTRY51S39DY1NzSGmtr7+jsinf3rARuyTdE3nAt11/TtUBYpiPy0pSWWPN8odm6JVb1vZnq/WpZ+IHpOsty3xNbtrbjmEXT0CRT65u6XSkeFuRwIZ6k1GhOVXPpBKUyWRrLZRlQGAk1AklEMe/Gb7GJbbgwUIINAQeSsQUNAY8NqCB4zG2hwpzPyAzvBQ4RY22JswRnaMzu8brDp42IdfhcrRmEaoNfsXj6rExgkB7oml7onm7oid5/rVUJa1T/ss+7XtMKr9B11Lf09q/K5l1i91P1h0Ln7L89SRQxFnox2ZsXMlWXRq1++eDkZWl8cbAyRJf0zP4u6JHu2KFTfjWuFsTiKWLcIPV7O36CldGUmkllFtLJqemoVS3oxwBGuB9ZTGEO88jzuzaOcYZzpVNJKxPKZC1VqYs0vfgSyuwH/I2TlA==</latexit> と手が一体化(手がストッパー) 投球方向の力 回転方向成分=±0 投球方向の力 回転制御フェーズ:投球方向の力が減少するが,向心力は増加 fc→ fc→ <latexit sha1_base64="ZKRSgveycCRASMzln9YcPlS6bvI=">AAACjHichVG7SgNBFD2urxgfidoINsHgowqTEBJRBFEQyzxMomgIu+skLtkXu5tADP6ArYWFWihYiB/gB9j4Axb5BLGMYGPhzWZFRIx3mJl7z9xz7xyuZKqK7TDW6hP6BwaHhn0j/tGx8YlAcHIqbxs1S+Y52VANa1cSba4qOs85iqPyXdPioiapvCBVNzvvhTq3bMXQd5yGyYuaWNGVsiKLDkF7B5LWLJ+U5MVSMMwi8Vg8kYyFfjvRCHMtDM9SRvABBziEARk1aODQ4ZCvQoRNax9RMJiEFdEkzCJPcd85TuAnbo2yOGWIhFbprFC076E6xZ2atsuWqYtK2yJmCPPsmd2xNnti9+yFffxZq+nW6PylQbfU5XKzFDidyb7/y9LodnD0zerBkCi7tyYHZSy7WhTSZrpIR6XcrV8/Pm9nVzLzzQV2w15J3zVrsUdSqNff5Ns0z1zATwP6mkLobycfi0QTkUQ6Hl7f8EblwyzmsETzSGId20ghR301nOESV8KEEBdWhbVuqtDncabxw4StT/Akk48=</latexit> <latexit sha1_base64="ZKRSgveycCRASMzln9YcPlS6bvI=">AAACjHichVG7SgNBFD2urxgfidoINsHgowqTEBJRBFEQyzxMomgIu+skLtkXu5tADP6ArYWFWihYiB/gB9j4Axb5BLGMYGPhzWZFRIx3mJl7z9xz7xyuZKqK7TDW6hP6BwaHhn0j/tGx8YlAcHIqbxs1S+Y52VANa1cSba4qOs85iqPyXdPioiapvCBVNzvvhTq3bMXQd5yGyYuaWNGVsiKLDkF7B5LWLJ+U5MVSMMwi8Vg8kYyFfjvRCHMtDM9SRvABBziEARk1aODQ4ZCvQoRNax9RMJiEFdEkzCJPcd85TuAnbo2yOGWIhFbprFC076E6xZ2atsuWqYtK2yJmCPPsmd2xNnti9+yFffxZq+nW6PylQbfU5XKzFDidyb7/y9LodnD0zerBkCi7tyYHZSy7WhTSZrpIR6XcrV8/Pm9nVzLzzQV2w15J3zVrsUdSqNff5Ns0z1zATwP6mkLobycfi0QTkUQ6Hl7f8EblwyzmsETzSGId20ghR301nOESV8KEEBdWhbVuqtDncabxw4StT/Akk48=</latexit> 回転制御フェーズ:投球方向の力が減少により,バックスピン 成分が優位に バックスピン発生 メモ 加速中,ボールが手に張り付くため、ボールは手の中に収まったまま. 手がストッパー ボールは親指から離れない. 親指を離したり,指でボールを能動的に押すから回転するのではない. 向心力 向心力 ft→ < fc→ ft→ = fc→ 投球方向の力の最大化以降に,スピンは「自然に」発生する. <latexit sha1_base64="LK4ubSpjemuNURH9W5SfmoPXb1o=">AAAC7HichVFNS9xQFD2mX3a0dVo3BTehg9qFDHfiMKPiQurGpV+jwswwJOmbMZgvkjcDGvIHXAsuxIUFBekP6A/oppsuu/AnlC6n0I2F3mQipRXtDck779x77s3hGr5thZLoakh58PDR4yfDT3Mjo8+ej+VfvNwKvW5giprp2V6wY+ihsC1X1KQlbbHjB0J3DFtsG3vLSX67J4LQ8txNue+LpqN3XKttmbpkqpXvRI20ST3oGM2IiuVyaVabnaFidW5eqyaA0ogbhhO145acjv9VaOVKVZu5BWJ1Uc1E5nTcyhduEuptUMqmFJDFqpf/iAbewYOJLhwIuJCMbegI+amjBILPXBMRcwEjK80LxMixtstVgit0Zvf42+FbPWNdvic9w1Rt8hSb34CVKibpK11Snz7TB/pG13f2itIeyb/s82kMtMJvjR2+2vj5X5XDp8TuH9U9CoOr7/ck0cZc6sVib37KJC7NQf/ewXF/Y2F9Mpqi9/Sd/Z3RFX1ih27vh3m+JtZPkOMF3WxBvRtsacVSpVhZKxeW3marGsYEXuMN76OKJaxgFTWe+wV9XOOX4ipHyolyOihVhjLNOP4K5eI3qtiySw==</latexit> <latexit sha1_base64="fLCVaJageMwydX2C1RsHPxHjZwE=">AAAC7HichVFNS9xQFD2mX3a0dVo3BTehg9qFDHfiMKOCIHXj0q9RYWYYkvTNGMwXyZsBDfkDrgUX4sKCgvQH9Ad0002XXfgTSpdT6MZCbzKR0or2huSdd+499+ZwDd+2Qkl0NaQ8ePjo8ZPhp7mR0WfPx/IvXm6FXjcwRc30bC/YMfRQ2JYratKSttjxA6E7hi22jb3lJL/dE0Foee6m3PdF09E7rtW2TF0y1cp3okbapB50jGZExXK5NKvNzlCxOjevVRNAacQNw4nacUtOx/8qtHKlqs3cArG6qGYiczpu5Qs3CfU2KGVTCshi1ct/RAPv4MFEFw4EXEjGNnSE/NRRAsFnromIuYCRleYFYuRY2+UqwRU6s3v87fCtnrEu35OeYao2eYrNb8BKFZP0lS6pT5/pA32j6zt7RWmP5F/2+TQGWuG3xg5fbfz8r8rhU2L3j+oehcHV93uSaGMu9WKxNz9lEpfmoH/v4Li/sbA+GU3Re/rO/s7oij6xQ7f3wzxfE+snyPGCbrag3g22tGKpUqyslQtLb7NVDWMCr/GG91HFElawihrP/YI+rvFLcZUj5UQ5HZQqQ5lmHH+FcvEbrQOyTA==</latexit> 投球方向の力の大きさの変化によって,スピンが自然に発生 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 7

8.

回転制御フェーズのおさらい ポイント: トルク発生 スピン開始=母指離脱 トップスピンの勢い を殺すフェーズ 回転力発生:ボールに作用する力最大 力最大 バックスピンフェーズ トルク最大 バックスピン開始:ボールに作用するトルク最大 減少 回転制御フェーズ:回転力発生〜リリース メモ 生 ク発 トル ボールリリースのきっかけは,ボールに作用する力の最大化. その後減少することで,バックスピンは自然に始まる. 最大化すればよいだけ.手先を止める必要はない. スピンのきっかけは,スピン開始の約10ms前に始まっている. ボールに作用する力とトルク 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 8 リリース

9.

ボールは指の上を「転がる」 ポイント: 示指と中指 回転制御フェーズでは,ボールは指先の上を"転がる" 投球方向の力 力の作用点(押す代表点)は,絶対座標系ではほぼ一定 転がす 「転がり」だからこそ,球速と回転数を同時に伸ばせる 摩擦力 メモ 回転制御フェーズはわずか15〜20msの一瞬.その間に,指上で少しで ボールの移動と回転 も「転がり」続けることで,ボールを押し続けられる. 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 9 力の作用点

10.

ボールに作用する力と力の作用点の変化(動画リンクあり) 回転制御フェーズ:力の作用点の位置はあまり変化せず,ボールは指先の上を「転がる」 ボールに作用する力(青:太実線)とトルク(三角形の面積) 投球方向の力(破線) 投球方向の力(破線) 投球方向 向 方 球 投 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 10 真横から見た力とスピントルク 右斜め後方から見た力とスピントルク

11.

抜け? ポイント: 転がりだすと制御困難だが,速度が40km/hも増加する 適切な作用点 少しでも長く転がり続けることで,ボールをより加速できる 作用点のずれ 抜け:力の作用点(押す代表点)が,適切でないと,押し続 けられない メモ 作用点がずれることで「抜け」が発生 作用点の位置がそれると,いわゆる抜けが発生する. 抜けにより,力の伝達が短くなり,方向もずれてしまう. 抜けは「力の作用点」の位置でわかる. 投球方向 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 11

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ポイント1:振り子による制御 「母指(親指)を離す→回転開始」は正しくない 回転制御フェーズ 指で能動的にボールを押すことで回転するわけではない 加速期 力の作用点 力の作用点 母指離脱は結果であって,原因ではない なぜ,このような制御方法? 母指 手関節まわりの筋力がボールを加速するには弱すぎる. 母指 身体から指先に伝わる力が動力源だから ボールが手を押す メモ 振り子の自然な回転 加速中,ボールが手に張り付くため,ボールは手の中に収まったま ま.ボールは親指から離れない.力の向きが変わると自然に離れる. 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 12 手とボールの一体化

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ポイント2:ボールの制御はトルク発生前に定まる 方向は大きく変更できない ボールという振り子の制御では,転がりがいったん始まると受 動的.この回転制御フェーズにボールの制御は困難 力の作用点(押す代表点)が適切な位置になるように,その 前の準備が大切 適切な位置(作用点)と方向に押すことで,目的の方向 〜30km/h増、〜2000rpm増 にボールが飛翔する リリース スピン開始 トルク発生 回転制御フェーズ メモ 転がりフェーズ この間の制御は困難 40km/hも増加する間に,ボールは転がっている.適切な作用点に力が 作用しないと,転がり制御において,力とトルクをボールへ伝へ続け ることができない. 適切な位置(作用点)で,適 切な方向に押す必要がある. 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 13 回転制御フェーズ前:適切な ボールを押す位置(作用点) と方向の準備を行うフェーズ

14.

まとめ バックスピンは「親指を離す」からではなく力の向きの変化で始まる 次の一歩:腕も振り子 バックスピンは,振り子の自然な回転 ボールの回転は,ボールを振り子とみなし,接触点 (作用点)の運動で制御される ボールの移動と回転の本質は回転制御フェーズの「転がり」 作用点の運動は,腕を振り子とみなし,肩関節の 並進運動で制御される 力の作用点が絶対座標で移動しないことで「転がる」 肩関節の運動は,体幹と下肢の運動で制御さ れ,地面反力のピークと肩関節は連動する 「転がり」で球速と回転数を同時に伸ばせる 腕の振り子の制御も,ボールと同じ原理 覚えておきたい 「ボールに作用する力」こそがボールの回転の本質.腕の振 り方によって,そのタイミングも含めて制御される. 投球の科学:ボールが回転する本当の理由 14