アルツハイマー病の病態と予防に関する最新知識

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October 11, 26

スライド概要

第37回日本老年医学会東海地方会特別講演で使用したスライドです.

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岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

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1.

アルツハイマー病の 病態と予防に関する最新知識 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野

2.

COI開示 筆頭発表者名: 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 演題発表に関連し、開示すべきCOI 関係にある企業などとして、 ①顧問: ②株保有・利益: ③特許使用料: ④講演料: ⑤原稿料: ⑥受託研究・共同研究費: ⑦奨学寄付金: ⑧寄付講座所属: ⑨贈答品などの報酬: 株式会社OhGooD(代表取締役社長) なし なし 第一三共株式会社 なし ノバルティス (PSPに対するNIO752試験 PI) なし なし なし

3.

はじめに アルツハイマー病に関して私が知りたいこと ① アミロイドβ,タウ,ミクログリアの役割はなにか?主役は? ② 感染,血管因子,グリンファティックシステムは病態にいかに 関与するのか? ③ 今後の治療・予防の方向性は?

4.

3大病理変化に対する疑問 J Neurol Sci. 2007;257(1-2):23-30. 脳アミロイドアンギオパチ― タウ・神経細胞内 Aβ・神経細胞外 Aβ・血管 疑問 なぜAβは細胞外で,タウは細胞内にある? なぜ血管にもAβがある?

5.

①アミロイドβ,タウの役割はなにか? 予想外の生理的作用

6.

アミロイドβの役割はなにか? • 2019年,AβはGABAB受容体1aのリガンド として作用し,シナプス伝達と可塑性を 調節することが報告された. • 2018年,ヘルペスウイルスへの防御作用 も報告されていた. Science. 2019 Jan 11;363(6423):eaao4827.

7.

アミロイドβは脳における自然免疫分子として働き, ヘルペスウイルスを捕捉して神経を守る役割を持つ Neuron. 2018 Jul 11;99(1):56-63. HSV1およびHHV6をAβを含む培養液と反応させると,数分以内にウイルス表面からAβ 線維が形成され,時間の経過とともに複数のウイルス粒子が線維によって連結される. 最終的にはウイルスは線維状Aβの凝集体の中に封じ込められ,物理的に隔離される.

8.

タウの役割は? • 神経細胞の微小管を安定化する. • タウはそのレールに結合して,形を保ち, 軸索輸送が正常に行われるよう支える. • しかし多くの核蛋白やシナプス関連蛋白 にも結合することが分かってきた. • ヘルペスウイルスへの防御作用もある.

9.

神経細胞内でリン酸化されたタウはHSV-1に結合し, 抗ウイルス活性を発揮する Nature Neuroscience.2025. PMID: 41408481. • 精製したHSV-1カプシド(ウイルスの核酸 を囲むタンパク質の殻)とリン酸化タウを 一緒に培養すると,リン酸化タウがウイル ス粒子の表面に直接結合する. • そこを足場として凝集し,線維状構造を 形成する. • そしてウイルス感染性を中和する能力を 持つことが示された.

10.

HSV-1感染に対しリン酸化タウは神経細胞を保護している Cell Rep. 2024 Dec 26:115109.(doi.org/10.1016/j.celrep.2024.115109) HSV-1再活性化 → cGAS-STING-TBK1経路 → タウのリン酸化 → ICP27を抑制 (ウイルス増殖と宿主応答の回避に必須) → HSV-1タンパク質発現の抑制 → 神経細胞保護 皮肉なことにタウリン酸化はAD発症に繋がる

11.

HSV-1再活性化は脳にとって重大な脅威であり, このため,細胞内外2段階の防御機能が備わっているのでは!? HSV-1細胞外 HSV-1細胞内

12.

脳血管のAβ沈着もウイルス感染が 関与しているかもしれないと検索してみると・・・ J Infect Dis. 2020 Mar 16;221(7):1088-1097. • CAA患者剖検脳にて,VZVgE(エンベ ロープ表面に存在する主要糖タンパク) とAβが,同じ血管内で共局在している • 2症例の剖検の探索的研究であるが, VZV感染が血管壁にAβを誘導する 可能性を示唆する.

13.

小括1 • Aβ,タウには生理的役割がある. • Aβ,タウは神経細胞の内外,および血管で,ウイルスに対する防御因子 として機能している可能性がある. • これらのタンパクを抗体療法や核酸医薬による治療標的とする場合, その生理的役割を阻害しないことが重要となる.

14.

②ウイルス感染は認知症に関与するか? • ヘルペスウイルス科ウイルス • SARS-CoV-2ウイルス

15.

英国UK Biobank(49万5896人)の解析は 種々のウイルス感染症が認知症リスクになることを示した Nat Aging. 2024 Sep;4(9):1263-1278. ヒトヘルペス ウイルス科 上気道 下気道 • 感染症ごとに特定の部位に 脳体積の減少が生じる • その脳体積の減少は認知症 リスクと関連する

16.

ヘルペスウイルス科ウイルスは生涯にわたり 宿主に潜伏感染し,神経系に感染する特徴を持つ 亜科 ウイルス名(HHV) 主な疾患 神経関連疾患 アルファ HSV-1 口唇ヘルペス ヘルペス脳炎 HSV-2 性器ヘルペス Mollaret髄膜炎 VZV 水痘・帯状疱疹 VZV脳炎,脳梗塞 サイトメガロ 先天性感染 CMV脳炎 HHV-6 突発性発疹 HHV-6関連脳炎 ベータ ガンマ EBウイルス 伝染性単核球症 HHV-8 カポジ肉腫 CNSリンパ腫 多発性硬化症 免疫不全者で 神経合併症 重篤な感染であれば脳炎となる 軽症~中等症の場合でも神経炎症を来すのではないか?

17.

帯状疱疹ウイルス(VZV)と認知症に関する スコーピングレビューを行った

18.

眼部・中枢神経 VZV 感染は認知症発症リスクを高める 脳神経と中枢神経感染は罹患1年以内の 認知症リスクが高い 眼部,中枢神経,複雑感染者は 単純感染者よりも認知症リスクが高い Schmidt SAJ, et al. Neurology. 2022;99(7):e660-e668. 眼部帯状疱疹の認知症リスク Tsai MC, et al. 2017 韓国 HR 2.97 (95% CI: 1.90–4.67) Weinmann S, et al.2024 アメリカ HR 0.99 (95%CI 0.93-1.05) Shin E, et al. Alzheimers Res Ther. 2024;16(1):57.

19.

COVID-19感染1年後のアルツハイマー病の リスクはハザード比 2.03と高い 米国退役軍人省データベース COVID-19患者 15万4068人 健常対照 563万8795人 歴史的対照 585万9621人 12ヵ月後におけるハザード比 全神経学的後遺症 1.42 認知・記憶障害 1.77 アルツハイマー病 2.03 e4/4 11.2, 高血圧 1.97,頭部外傷 1.5, DM 1.3-1.6 Nat Med 2022;28:2406–2415

20.

COVID19はアルツハイマー病,パーキンソン病の 発症リスクを上げる 6ヶ月 Lancet Neurol. 2024;23:562-563. (3つの研究をまとめたもの) 6~12ヶ月後の相対 危険度はADで3程度. 入院と外来でほとんど 変わらない. 12ヶ月 PDも外来患者で相対 危険度が2.5程度.

21.

UKバイオバンクのCOVID-19罹患者の検討 Nat Med. 2025 Jan 30. (doi.org/10.1038/s41591-024-03426-4) • UKバイオバンク1252名(対照626名) • 感染者では認知機能スコアが有意に低下した(P = 0.029). • この程度は,加齢4年分,およびApoE遺伝子ε4ヘテロ接合の影響に匹敵した. 血漿

22.

感染が認知症を来す病態はなにか? (おそらく単一の病態ではない) ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 Nat Rev Microbiol 2023; 21: 133–146 ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

23.

60日以上の持続感染の頻度は0.1〜0.5% (1000人から200人に1人) Nature 2024; 626, 1094–1101 • 英国の検討 • 持続感染の大部分(82%)で ウイルス量が高値,低値, 高値とリバウンドしていた (ウイルス複製を意味する).

24.

持続感染によるウイルス検出の頻度の高い臓器 Lancet Infect Dis. 2024;24:845-855. 感染後約1ヵ月,2ヵ月,4ヵ月 残存手術検体,胃内視鏡検体,血液検体

25.

COVID-19感染後,他のウイルスが再活性化する 患者は47.9%(急性期40日以内) • 米国のCOVID-19患者1154名を,最長1年間に わたり検討したmulti-omics解析. • ウイルス再活性化がCOVID-19の重症度と関連 した. • 再活性化のタイミングはウイルスごとに明確に 異なっていた. • 再活性化に伴ってCXCL10,CXCL11,IL-18など 炎症関連分子が増加した. • このようなヒトvirome全体の乱れは 「dysvirosis」と名付けられた. Nat Med. 2025;31:797-806.

26.

ウイルス再活性化は,進行中の炎症を増幅し, すでに存在する神経変性プロセスを加速させる!? Nat Med. 2025;31:797-806.

27.

小括2 • 神経向性ウイルス感染(COVID-19,HSV-1,VZVなど)はAD発症の リスクを上昇させる. • 感染後,脳脊髄液ではAD様の変化が起きているが,これはもともと 存在したAD病理が,ウイルス再活性化による神経炎症(ミクログリア 活性化)により増強した可能性がある.

28.

③ミクログリアの役割はなにか? • がん関連遺伝子の体細胞変異 • 選択圧

29.

ADは遺伝子変異を持ったミクログリアが選択的に増えていく ことで,炎症が持続し進行する疾患である可能性が示された. Huang AY,et al.Cell.2026.PMID:42019491. • Boston Children‘s Hospitalなどの研究グループは,311例のヒト脳を超高深度シーケンス 解析し,AD脳でがん遺伝子変異が増加することを示した(TET2,DNMT3A,ASXL1など). • これらの変異は神経細胞ではなく主にミクログリア様細胞に存在し,単なる偶発変異で はなく,増殖優位性を持つクローンとして拡大していた. • Aβやタウによる慢性炎症環境が「選択圧」となり,炎症や増殖に強い変異ミクログリア が優勢化して,神経障害を促進すると考えられた. 注.がん遺伝子変異クローン拡大とがん化は異なる. 悪性形質転換(malignant transformation)が生じて,はじめてがん化する. がん遺伝子変異クローン拡大は炎症や組織障害などを来す.

30.

「選択圧」によるクローン拡大 ① 加齢に伴ってがん関連遺伝子の体細胞変異の 蓄積が生じる. ② Aβやタウによる慢性炎症環境が「選択圧」として 働き,よく増殖し,炎症に強く反応するような変異 ミクログリアが増加する(クローン拡大). ③ これらの細胞は炎症性・増殖性の状態(DAM; disease-associated microglia)へ移行し,神経 細胞に障害を与える. Huang AY,et al.Cell.2026.PMID:42019491. DAM

31.

加齢によるがん遺伝子変異の蓄積は アルツハイマー病とがんの共通原理かもしれない 正常な組織(食道や皮膚など)に,高齢になるとがん遺伝子変異を持つ細胞が多数を占めるようになる Science. 2018 Nov 23;362(6417):911-917. こちらが 主役!

32.

多くの因子がミクログリア・クローン拡大の 選択圧として作用している可能性がある Huang AY,et al.Cell.2026.PMID:42019491. ADの本態 =ミクログリアの クローン拡大 選択圧=慢性炎症環境 加齢が最大の 危険因子 DAM • • • • • アミロイドβ,タウ 感染(サイトカイン) 酸化ストレス マイクロ・ナノプラスチック PM2.5

33.

マイクロ・ナノプラスチックは 認知症患者脳で増加している Nat Med. 2025 Apr;31(4):1114-1119.

34.

PM2.5曝露はADの進行を 悪化させる(剖検602例の検討) JAMA Neurol. 2025 Sep 8:e253316. PM2.5曝露が1㎥あたり1μg増加するごとにAD神経病理変化(老人斑・神経原線維変化) のオッズ比は1.19と上昇し,臨床的にもCDR-SBスコアが平均0.48ポイント悪化した. PM2.5曝露の影響が主に AD病理に集中していること αSyn TDP43 が示唆される.

35.

ミクログリアが「Aβ処理型」から「抗原提示型」へ Nat Med. 2026 Jun 4. doi: 10.1038/s41591-026-04393-8. 遷移することが発症に重要 • 80歳代剖検脳24例と100歳以上剖検脳20例の上前頭回を対象に, 空間トランスクリプトーム解析,単核RNA-seq,高解像度空間RNA解析, 免疫染色を組み合わせ,Aβ,リン酸化タウ,細胞変性,遺伝子発現の 関係を解析した. • Aβ蓄積量そのものよりも,リン酸化タウ病理と神経細胞障害への接続 が,認知症発症をよく説明していた. • ミクログリアは,初期にはAβ処理型の防御的応答を示すが,病態進行 に伴い抗原提示型・炎症性状態へ移行し,この転換がAβからタウ病理 への進展と認知症発症,またはレジリエンスを分ける鍵である可能性 が示された(=臨界点の存在). 抗原提示型ミクログリア

36.

小括3 • ADの本態はミクログリアのクローン拡大に伴う 炎症性・増殖性状態であるという仮説が本年, Cell誌に報告され注目を集めている. • Aβやタウ,種々の危険因子はミクログアリアに 対する選択圧として働いている可能性がある. • がん関連遺伝子の体細胞変異の蓄積が,ADや がん,老化に関わっている可能性がある.

37.

④血管因子は関与するか? 血管病としてのアルツハイマー病

38.

脳アミロイドアンギオパチーは想像以上に多い N Engl J Med. 2026;394(18):1836-1845. • 病理的には,CAAは想像以上に頻度が高い. 中等度以上のCAAは一般高齢者の約23%, 軽症~中等症 CAA AD患者の約48%に存在する. • しかし,すべてが出血を起こすわけではなく, 「病理としてのCAA」と「臨床症候性CAA」の間に は大きなギャップがある. • かつ単にAβが血管に沈着するだけでなく,血管 破壊性疾患となることを認識する必要がある. 高度CAA double barrel 血管壁断裂 同心円状分離 構造崩壊

39.

アルツハイマー病の脳の血管を正確に 評価できるようになった Alzheimers Dement. 2025 Jun;21(6):e70254. 脳血管の2次元データによる限界 → 脳の透明化技術と3次元顕微鏡による解決

40.

ヒト剖検脳(透明化):CAAでは,脳内の健康な血管網が著しく破壊され,細動脈は太く,硬く,歪んでいる Lectinは血管内皮の糖鎖に結合するため,血管を可視化できる Alzheimers Dement. 2025 Jun;21(6):e70254.

41.

Aβリング(青)が形成され ると,血管平滑筋(赤)は 欠損する Alzheimers Dement. 2025 Jun;21(6):e70254.

42.

Aβの沈着は血管平滑筋を障害し, 血管径の拡大や不整化をもたらす 血管構築の破綻で(微小)出血が生じる. Alzheimers Dement. 2025 Jun;21(6):e70254.

43.

ApoEε4からフィブロネクチンを介して 血液脳関門破綻にいたるカスケードが同定される Nat Aging.2026;6:1901–1927. ApoEε4は,細胞外マトリックス 蛋白フィブロネクチン1 (fibronectin 1:FN1)の 「gliovascular interface(アストロ サイト-血管界面)」への蓄積を 介して,BBBの破綻を招く. ADを「神経細胞だけの病気」では なく,「脳血管を含む脳内環境 全体の恒常性が崩れる病気」と 考えるべき.

44.

微小出血がある症例では タウとは関係なく脳萎縮が生じてくる Neurology. 2026 Jan 13;106(1):e214453. ADは単一の病気ではなく,「タウ主導型」と「血管主導型」に分かれる!

45.

CAAによる脳血管の変化も 数十年単位で進行する N Engl J Med. 2026;394(18):1836-1845. • 遺伝性CAA(APP遺伝子変異変異)では,最初の脳出血の30〜40年前から脳内Aβ沈着 が始まり,20〜30年前には脳血管反応性低下が出現し,10〜15年前には白質障害が 検出される.最終段階として,微小出血や皮質表在性ヘモジデリン沈着が現れる. • つまりCAAは,症候出現以前に非常に長い前臨床期を持つ疾患である. • では,この長い前臨床期でAβ蓄積により脳血流は低下するのか?

46.

認知機能正常の未発症者の 脳血流はAβ蓄積でむしろ増加する 皮質の健全性 Journal of Neurochemistry. 2025;169:e70241. 発症前からのAβ除去は 本当に有益か見極めが必要 ①抗ウイルス作用 ②血流保持作用 脳血流 ただしどこかのタイミングで, Aβが病的に転じる,あるいは 防御的役割が破綻するという 可能性がある

47.

小括4 • 血管へのAβの蓄積で,血管平滑筋の置換に伴う血管不整が生じる. • 微小出血がある血管病変が高度な症例では,タウとは無関係に, 脳萎縮が生じていることから,ADの2つの病型として, 「タウ主導型」 と「血管主導型」が提唱された. • 認知機能が正常な時期ではAβ蓄積と脳血流は正の相関をしている.

48.

⑤グリンファティックシステムは いかに関与するか? 脳内リンパ系の最新理解と臨床応用

49.

睡眠障害はアミロイドβの蓄積を 促進し,認知機能低下を招く Kang et al. Science 326, 1005-1007, 2009

50.

ノンレム期における脳脊髄液の流入 Science. 2019;366:628-631 ノンレムN3 脳波(徐波) →脳動脈収縮(血液流出) →脳圧低下 →脳脊髄液(青)流入して 脳圧を保つ 1サイクル=約20秒 加速度ニューロイメージングを用いたfMRI画像

51.

Glymphatic systemでは 動脈がポンプの役目をする Sci Transl Med. 2012 Aug 15;4(147):147ra111. 動脈周囲腔の脳脊髄液が, 拍動ポンプにより押し出され, 細胞間の間質液の流れが 老廃物を排出するシステム 血管が破綻するとこのシステム が上手く働かなくなる可能性 Glymphatic system (2012)

52.

出口である髄膜リンパ管が見つかる Nature. 2015 Jul 16;523(7560):337-41. 髄膜リンパ管 (緑) 2015年に米国バージニア大学のグループに よって,脳と全身免疫をつなぐ出口として, 髄膜リンパ管が見つかった. 髄膜内にリンパ管が存在し,静脈洞に沿って 走行し,頸部リンパ節へ排出することが示さ れた.

53.

髄膜リンパ管は静脈洞に沿って 走行する 上矢状静脈洞に沿う Nature. 2015 Jul 16;523(7560):337-41.

54.

Glymphatic systemの可視化 早い移流(advection)と拡散(diffusion)がある Science Advances.2026;12:eaee4926. Science Advances.2026;12:eaeb0404.

55.

髄膜リンパ管の障害はミクログリア活性化を来す Cell. 2025 May 15;188(10):2705-2719.e23. 髄膜リンパ管機能障害→ミクログリア活性化 →IL-6過剰発現→抑制性シナプスの減少 →記憶障害などの行動異常 髄膜リンパ管はミクログリアと協調しながら, 神経の興奮と抑制のバランスを保ち,記憶に 大きな影響を与えている

56.

頸部リンパ節を郭清しても大丈夫か? 頸部リンパ節の解剖学的位置 郭清術によるリンパ節除去 Neuron. 2026. doi:10.1016/j.neuron.2026.09.005. 両側郭清群では片側郭清群よりも 側脳室側頭角の拡大速度が速い (海馬の萎縮をもたらす可能性)

57.

脳リンパ系は病的タンパクを排出のみならず,代謝老廃物を除去し, シナプスやミトコンドリアの機能を保つ役割もある Neuron. 2026. doi:10.1016/j.neuron.2026.09.005. リンパ排液の急激な遮断 → 代謝老廃物の停滞 → 酸化ストレス → タンパクの酸化修飾 → シナプス・ミトコンドリアタンパクの微小凝集 → シナプスのタンパク恒常性の破綻

58.

深頸部リンパ管を静脈へ吻合する手術 Nature NEWS FEATURE 12 August 2026 • 中国で急速に普及し,数百の病院で施行された. • 一部の症例では,術後数日で認知機能や歩行の 劇的改善が報告されている. • 100例超の研究でも認知・ADL改善が報告されたが, 平均的な効果は軽度. • 「数日で効く」ことはAβやtauの除去だけでは説明し にくく,作用機序は未解明. 効果の持続性も不明. • 現在,韓国・米国でも臨床試験が進行中である. • 前向き比較試験による検証が必要である.

59.

小括5 • グリンファティックシステムの改善は,ADの治療・予防の標的となる. • 脳内の老廃物のリンパ系への排泄は,動脈の拍動が駆動力となるため, Aβによる血管構造の破綻は認知機能低下を引き起こす可能性がある. 演者作成

60.

⑥今後の治療・予防の方向性は? ワクチン,アミロイドβ抗体,多様化するアプローチ

61.

組み換えワクチンで認知症発症リスクが 約51%低下する • 米国カリフォルニア州の組換え帯状疱疹ワク チン(RZV;Shingrix)の効果を検討した大規模 コホート研究.対象は65歳以上の約33万人. • 結果として,RZVを2回接種した群では,認知 症発症リスクが約51%低下し,ハザード比は 0.49(95%信頼区間0.46–0.51)と強い関連が 示された. • 累積発症率が非接種群10.64%に対し,接種 群5.67%と明確に低下した. Rayens et al. Nat Commun. 2026 Feb 9;17(1):2056.

62.

大規模コホート研究では 接種によりハザード比で11〜51%低下する 研究 年 Tang et al. (Vaccine) 2025 後ろ向きコホート 4,502,678名 組換えワクチン 最大6年 (RZV) 2回接種:HR 0.68(32%減少) 1回接種:HR 0.89(11%減少) 2025 後ろ向きコホート 1億人超 生ワクチン 複数年 組換えワクチン 組換えワクチン複数回接種で 最大の効果 生ワクチンは経時的に減弱 組換えワクチン 最大4.5年 (RZV) 2回接種:aHR 0.49(51%減少) Tdap比較:aHR 0.73(27%減少) Polisky et al. (Nature Med) デザイン Rayens et al. 2026 マッチドコホート (Nature Commun) 対象者数 329,000名 ワクチン種類 追跡期間 認知症リスク減少効果 • 組換えワクチン(RZV)の2回接種が最も強い効果を示す(32~51%減少). • 組換えワクチンの効果は年齢・人種間で一貫,しかし女性で明らかに強い傾向あり. • 生ワクチンの効果は時間とともに減弱する可能性がある(Polisky et al. 2025).

63.

アルツハイマー病は性差のある疾患である 1. 女性は男性よりアルツハイマー病の罹患率・生涯リスクが約2倍高く,進行も速いこと が最大の性差である. Lancet. 2020;396(10250):565-582. Human Brain Mapping. 2022;43(1):500-542. 2. 女性で帯状疱疹ワクチンによる予防効果が高い(ただしランダム化比較試験なし). Nature. 2025;641(8062):438-446. Nature Communications. 2026;17(1):2056. BMC Neurology. 2026 3. 男性にアンドロゲン抑制療法を行うと,認知症・アルツハイマー病の発症リスクが 有意に上昇する(メタ解析複数) J Urol 2021;205(1):60-67. J Clin Oncol 2017;35(2):201-207.

64.

APOE4ホモマウスの神経炎症は メスとオスで大きく異なる Neuron.2026;114:2566-2586.e11. 帯状疱疹ワクチンによる 神経炎症抑制 免疫療法は男女で効果が 異なる可能性が高いことを認識すべき 男性ホルモンによる保護効果 アンドロゲン抑制療法

65.

女性では閉経に伴う血液タンパク質の変化が, 脳の老化や将来の認知症リスクと関連する Nat Med. 2026 Sep 22. doi: 10.1038/s41591-026-04648-4. • 閉経に伴い,16種類のタンパクが増加する. • p-tau231や,アミロイドβの産生に関与するBACE1も 増加する. • これらのタンパクの増加にはエストロゲン減少,お よびFSH上昇も関与し,炎症やAD関連タンパク質の 変化に関与する可能性がある. AD シナプス機能 炎症 • これらの分子変化が強い女性ほど,認知機能低下 が速く,AD発症リスクも高い.

66.

アミロイドβ抗体への期待と懸念 • 適切な症例を選択して治療を行えば有益.しかし治療を避けるべき症例も存在する. ①高度の血管病変がすでにあり→抗体による血管壁の破壊,ミクログリア活性化 →BBB破綻→グリンファティック系への悪影響→Aβの蓄積→ 血管障害(悪循環) ②リン酸化タウ蓄積あり→ミクログリアの臨界点をすでに超えており無意味 • ARIAを来した症例のその後の認知機能を検証することが必要. • 血液バイオマーカーで,BBB破綻やリン酸化タウ蓄積を事前に評価する時代へ?

67.

レカネマブで p-タウは改善するが,神経・シナプス 関連タンパクは正常化せず,NfLも低下しない. Lancet Neurol.September 24,2026. 早期Alzheimer病197例にレカネマブを最長2年間投与し,130種類の血漿タンパクを縦断測定. バイオマーカー変化が,amyloid PET陰性化およびCDR-SBの変化とどう関連するかを検討した観察研究.

68.

レカネマブでは18か月以降に CDR-SBの悪化速度が増加する オープンラベル延長 (OLE)試験では,比較 すべき偽薬群がないが, 偽薬群さえ,歴史的コ ントロールより良い経過 を示している. 著者らは同じ試験のな かで18か月までの二重 盲検期と,18か月以降 のOLE期におけるCDRSBの「悪化の傾き」を 比較した. BMJ Neurol Open. 2026;8:e001649.

69.

2026年版アルツハイマー病治療薬パイプライン 多標的創薬への移行が始まっている Alzheimers Dement (N Y). 2026;12:e70251. アミロイドβの比率は低下 神経伝達物質受容体の比率は増加 ▽ 発症前のバイオマーカー陽性患者への 治療が増えてきている 本邦未承認薬情報を含む

70.

タウ,炎症・免疫,代謝異常,シナプス障害,血管障害 など多様な病態を標的とした創薬が拡大している Alzheimers Dement (N Y). 2026;12:e70251. ムスカリン性アセチルコリン受容体:6剤 セロトニン5-HT2A受容体:4剤 カンナビノイド受容体:4剤 ドパミン受容体:3剤

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血管障害を標的とする薬剤 Alzheimers Dement (N Y). 2026;12:e70251. • 全体の約2%(3薬剤)とまだ多くはないが,脳血管病としてのADに対するアプローチも 始まっている. ① Fasudil 脳血流改善を目的とした血管拡張薬(Rho kinase(ROCK)阻害薬) ② Losartan + amlodipine ARB+Ca拮抗薬併用療法.血管機能・脳血流改善を目指す. ③ Sirolimus mTOR阻害薬で,脳血流改善作用を期待してvascular categoryに分類されている.

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14修正因子で血管を守る 中年期 若年期 血管の健康や動脈硬化に関連する 要因が6つも含まれている!! ナノプラスチックや大気汚染など, 高齢期 社会的問題にも,予防原則に則り, 取り組む必要がある. NHK「きょうの健康」 最新!認知症予防 14のポイント 2024年10月3日

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小括6 • VZVワクチン接種により,認知症発症を低下できるという エビデンスが 蓄積されつつある. • 予防薬については多様な病態を標的とした創薬が急速に拡大している. • 予防は14因子を中心に行い,特に血管を守ることを意識する必要がある.

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本日(10月10日)発売! 一般の方向けに, 最新の認知症研究や 予防についてまとめた本. 患者さんへの説明用などに お使いください. ご清聴,ありがとうございました!!