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September 06, 26
スライド概要
第24回日本神経理学療法学会学術大会(グランキューブ大阪)の特別講演で使用したスライドです.
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授
神経症候学の成立と発展: 機能性神経障害をめぐって 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
COI 開示 筆頭発表者:下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 本発表に関連し,明示すべきCOI関係にある企業などはありません.
講演の目的 • 「神経症候学の成立と発展」に関する講演依頼を松田淳子 大会長,佐藤剛介先生よりいただいた. • 神経症候学の成立において,シャルコーとその弟子が取り組 んだヒステリー研究(現在の機能性神経障害)は,大きな貢献 を果たした. • 本講演の前半で,シャルコーとその弟子(とくに三浦謹之助) について,後半では機能性神経障害の現状とリハビリテー ションの重要性について議論したい.
Ⅰ.シャルコーと弟子,ヒステリー研究
シャルコー シャルコー ツアー 三浦 謹之助
私は医学生に神経学の歴史を紹介している • 神経症候に出てくる人名(エポニム)の多さは 医学生が脳神経内科に苦手意識をもつ原因と なることを知った. • このため,神経学を築いた偉人や歴史を意識 して講義で教えることを心がけてきた. • 神経学の歴史を学ぶことは大切であり, 愉しみにもなる. 1969 1977
学生の受けが良かったお墓参りシリーズ ロンベルグ先生のお墓参り(2016.6 ベルリン) 名古屋大学高橋昭名誉教授のご論文「ベルリンの医学史跡瞥見(現代医学 1994;42;371-380)」を地図の代わりにして,Moritz Heinrich Romberg(1795 –1873) 先生のお墓参りをした.
シャルコー先生のお墓参り(2019.9 パリ) スタンダールやドガ, ベルリオーズなど 著名人も眠るモンマ ルトル墓地を訪れた. シャルコー家の墓地 は祠型で,お参りをし てから中に入ると 先生の名前を見つけ ることができた.
シャルコー先生を訪ねて(2019.9) サルペトリエールでの臨床講義 (Une leçon clinique à la Salpêtrière, Brouillet 1887) 火曜講義の様子. ヒステリーの女王「マリー・ヴィットマン」を 支えるバビンスキー パリ第5大学(パリ・デカルト大学) 医学史博物館
シャルコーに関心を持つようになる 演者所有
パンデミック禍において シャルコー先生を本格的に意識する(2021~) • パンデミック禍,新型コロナワクチン接種開始後に, 機能性神経障害の患者を多数経験するようになった. • シャルコーが普仏戦争後(1870-1871)に増加した ヒステリー患者にどのように向き合ったのかを知り たいと思った. Jean-Martin Charcot(1825-1893)
シャルコー先生は興味ある神経疾患に取り組み, 最後にヒステリーに出会った 1861 振戦麻痺(paralysie agitante) 1861~1883 脊髄の系統的構造の整理 1862 進行性歩行失調症/脊髄癆(tabes dorsalis) 1868 脊髄癆性関節症(Charcot関節症) 1868 多発性硬化症 1868 筋萎縮性側索硬化症 1875~1893 脳の局在論 1882~1885 失語症研究 1885 チックおよびジル・ド・ラ・トゥレット症候群,舞踏病,アテトーゼ,失立失歩 1886 特異な進行性筋萎縮症の一型(CMT病) 1870年~1893 ヒステリーおよびてんかんの研究
シャルコー学派はヒステリーの神経症候を見出した 筒状の視野狭窄(tubular visual field) 身体の正中での痛覚障害(midline-splitting of sensory loss) 1880年代にCharcotが最初に記載した. Babinskiが初めて臨床徴候として記載した.
シャルコー学派はヒステリーの神経症候を見出した “blépharospasme hystérique” (Charcotが1887年に記載) Leg-dragging gait (Touretteが1888年に記載) 器質的疾患
シャルコーの弟子たちはヒステリーを鑑別可能な 器質性神経障害の神経症候を見出した Babinski徴候(1896) シャルコー没後3年
さまざまなさまざまな病的反射の誘発法が開発される 画像検査のできない時代に種々の神経症候が見出された. (神経症候学の歴史) 下畑享良 神経症候学note
シャルコーの弟子の業績を勉強する中で, 日本人留学生 三浦勤之助の存在を知った. • 三浦謹之助は内科学者であり,特に神経学の 分野で大きな功績を残した. • 1890年からドイツやフランスに留学し,パリでは シャルコーに師事した. 三浦勤之助(1864-1950) • 当時,シャルコー67歳,謹之助28歳. 弟子として 学んだ期間は8ヶ月に満たなかったものの, 謹之助はシャルコーを生涯の師として仰いだ. その理由を知りたくて私は三浦について勉強した.
Charcot 生誕200年記念シンポジウム(パリ.サルペトリエール病院) 2025年7月4日 2人の師弟関係や,日本 はフランスの神経学に 大きな影響を受けたこと を講演した.
シャルコー シャルコー ツアー 三浦 謹之助
1. Charcot library @ICM Institute for Brain and Spinal Cord
Paralysie agitante (1851-1852) パーキンソン病に関する書籍
Tuesday lessons(火曜講義)初版 (1887-1888)
Statuette de femme atteinte de la maladie de Parkinson (La Parkinsonienne) (Paul Richer, 1895)
2. シャルコーゆかりの場所をめぐるツアー 新旧の建物が融合した病院内の景観 精神疾患患者の独房 (オフィスとして使用中) シャルコーがレジデントとして 勤務した場所
火曜講義が行われた場所
ラ・サルペトリエール病院 礼拝堂 1656年,ルイ14世は建築家リベラル・ブリュアンに命じて, 硝石製造所(火薬工場)のあった場所に病院を建てさせた.
礼拝堂の壁面
シャルコーの生家
シャルコー シャルコー ツアー 三浦 謹之助
67歳のシャルコーは 28歳の謹之助に優しく接した 三浦義彰.千葉医学76:265-271, 2000 • 謹之助は名士達が集うシャルコー邸の晩餐会に招かれ,ワインの貯蔵法やパーティの メニューづくりの仕方まで教わった. • 朝,病院への道の途中でシャルコーの馬車に乗ることを 勧められた際,「もうすぐですから」と遠慮しても「構内は 広いから」と同乗させた.謹之助はこの話をするたびに 目を潤ませるのが常であったそうである.
謹之助からみたシャルコーの人柄 三浦義彰.千葉医学76:265-271, 2000 「本当に偉い人というのは態度や物言いが やさしくて,誰にでも親切なものだ.シャル コーもパストゥールもドイツの教授たちの ように辺幅を飾らないよ.そして言うことが 順序だっていて,無駄なことを言わないね」 Jean-Martin Charcot (1825-1893) Louis Pasteur (1822-1895)
シャルコーの診察方法 三浦義彰.臨床神経33:1255-1258,1993 「総てシャルコー先生は物を観察することに重きを置く,目で 観察する.その観察にも初め大体のことを見て,それから 細かいところに入る.例え,顕微鏡の標本を見る場合にも, 初め拡大の弱いので見て,標本の全体を見,それから全部 的に拡大してみると言う.このことは,ドイツの病理解剖学 者のウェルヒョー先生も同じでありました」 Rudolf Ludwig Karl Virchow (1821ー1902)
火曜講義の準備のしかた 「患者を講堂に連れてきて聴衆に見せるまでに毎日自分の 部屋に呼んで弟子と共に之を研究して,少なくも二週間は 診たものであります.私は幸いにしてこの時に部屋で立会う ことのお許しを得まして,始終一緒に診ました.そういう風に して宅に帰ってからは文献を調べて,そうしてまた明日来て 患者に就て調べられると言う風にして,それから初めて講堂 で講義をされたのですから,その言われることは自然に文章 を成していました」
帰国後,謹之助は ヒステリー研究を続けた 江口重幸.「シャルコー(勉誠出版.2007)」 • 「上肢のヒステリー性単麻痺の三例(Archives de Neurologie. 1893)」 Miura K. Sur trois cas de monoplégia brachiale hystériques. Archives de neurologie. xxv (75):321-356. 1893 • 1885年から1890年までのフランスで報告された28例に,謹之助が診た3例を加え てまとめた論文.Pierre Janet の医学博士学位申請論文にも引用されている. • 各症例の特徴や,静電気や握力計を用いて心理的効果を狙った治療経過などが 記載されていた.シャルコーのヒステリー理論の核心部分を最も継承しようとした のは勤之助だったのかもしれない.
24回のうち2回ヒステリーの講義を 行っている(1914:大正3年) 視神経結核による結核性髄膜炎 小脳橋角部腫瘍 左同名半盲および左片麻痺(神経膠腫を疑う脳腫瘍) 片麻痺および失語を伴う同名半盲 錯語(失語症の一型) 僧帽弁閉鎖不全による血栓塞栓症 脳橋部脳梗塞 多発性脳神経麻痺 神経梅毒および中枢性尿崩症 神経梅毒(進行麻痺) 筋萎縮性側索硬化症(球麻痺を伴う例) 脊髄内出血(脊髄出血) 筋ジストロフィー 眼性片頭痛(片頭痛に振戦を伴う) ヒステリー(強直性発作) テタニー(低カルシウム血症などによる) ハンチントン病またはシデナム舞踏病 ヒステリー(転換性発作および転換性失声) 痙性斜頸および慢性腎疾患 間欠性跛行 アジソン病 肝疾患の臨床診断 肝硬変 鍼治療に関する考察
2人の師弟関係を論文にまとめたので 宜しければご覧ください
Ⅱ.機能性神経障害の現状 機能性神経障害は,19世紀末のシャルコーの時代には神経学の花形であった. しかし20世紀には「器質性か心因性か」という二元論の狭間で衰退した. 21世紀になって陽性徴候と神経科学的病態理解を背景に,神経学の重要課題と して戻りつつある.
総論 分類と特徴 治療戦略
機能性神経障害 (functional neurological disorders;FND) • 不随意運動,けいれん発作,筋力低下,感覚障害など 多彩な症候を呈する. • さまざまな病名で呼ばれてきた.ヒステリー,心因性 疾患,解離性障害,転換性障害,身体化障害,身体 表現性障害,心気症など.
なぜ機能性神経障害と呼ぶようになったのか? • ヒステリーや心因性,偽性という用語は,診断として 不正確なだけでなく,患者に不利益を与える. • FNDは,心と身体のいずれが原因かを言及せず, 患者と共有しやすく,症状の回復にプラスになるため 使用されるようになった.
機能性神経障害において まず医療者が共有すべきこと 機能性神経障害(FND)は,かなりの苦痛と障害を伴う. 症状は偽りではない. Stone J, Burton C, Carson A. Recognising and explaining functional neurological disorder. BMJ. 2020 Oct 21;371:m3745. Prof. Jon Stone University of Edinburgh
FND患者さんの 心情を表す文章
診断の鉄則(パラダイムシフト) 1.除外診断によるべきではない ✕ rule-out diagnosis ○ rule-in diagnosis 2.神経症候(=陽性徴候)により診断すべきである
1.除外診断によるべきではない 全ての器質的疾患を除外するには膨大な検査が必要となる (e.g.頭部MRI,脊椎MRI,脳脊髄液検査,種々の神経生理検査など…) 症状の難治化を助長しかねない →①罹病期間が長くなるほどFNDは治癒しにくい ②訴訟や法的・経済的問題が生じる (e.g.長期療養による失職,誤診による難病指定,誤った治療)
2.神経症候により診断すべきである 歴史的に,Babinskiも器質性と機能性の麻痺を 神経症候から鑑別できると主張し,Babinski徴候 の発見に至った. Joseph Francois Felix Babinski (1857-1932)
総論 分類と特徴 FND各論 治療戦略
さまざまな機能性神経障害 ①機能性筋力低下 ⑨機能性顔面運動障害 ②機能性感覚障害 ⑩機能性チック様行動 ③機能性歩行障害 ⑪機能性姿勢保持障害 ④機能性発作 ⑫発持続性知覚性姿勢誘発めまい ⑤機能性視覚障害 ⑬機能性パーキンソニズム ⑥機能性振戦 ⑭機能性運動失調 ⑦機能性ミオクローヌス ⑮機能性認知障害 ⑧機能性ジストニア
さまざまな機能性神経障害 ①機能性筋力低下 ⑨機能性顔面運動障害 ②機能性感覚障害 ⑩機能性チック様行動 ③機能性歩行障害 ⑪機能性姿勢保持障害 ④機能性発作 ⑫発持続性知覚性姿勢誘発めまい ⑤機能性視覚障害 ⑬機能性パーキンソニズム ⑥機能性振戦 ⑭機能性運動失調 ⑦機能性ミオクローヌス ⑮機能性認知障害 ⑧機能性ジストニア
① 機能性筋力低下 Drift without pronation Barréの肢位を取った際,麻痺側が回内することなく低下すること
麻痺の手が日常動作のふとした瞬間に動く Weintraub 1977
Give-way weakness • MMTにおいて途中にカクカクッと力が抜ける. • ゆっくり,軽微な力から少しずつ力を加えるようにして行うと反対 方向の力を感じて分かりやすい. • ただし,重症筋無力症,自己免疫性脳炎,脱髄性ニューロパチー, 錐体路性の筋力低下,疼痛(特に関節痛)でも認める場合がある.
Hoover’s sign (協働運動を利用した陽性徴候) 協働運動(Synergy)を構成する筋群の一部の筋だけ動かすことはできない 麻痺側の足首の下に 手を入れる! フロリダ大学Michael Okun教授
Stone J, et al. Handbook Clin Neurol. 2016 Brain Commun. 2026 Feb 3;8(1):fcag031. ② 機能性感覚障害 • 身体の正中 (有名だが多くはない) • 肩の付け根まで 機能性 身体正中での境界線(視床病変を除く) 器質性 • 鼠径部まで
③ 機能性歩行障害 出典失念
機能性歩行障害の特徴 • 転倒しない奇妙な歩行(bizarre gait) • 一歩ごとに両膝を大きく曲げる歩行 • 動作が極端に遅い(過度の徐行) • 全身の激しいふるえを伴う(しかし転倒しない) • camptocormiaなどの異常な姿勢 • うめき声やため息を伴う大げささ・疲労 • 心因性の失明や言語障害の合併
④ 機能性振戦 Neurology Blog June 13, 2023 安静時,姿勢時,運動時の いずれでも出現する 周波数や振幅が変化すること もヒントになる Attention↑ Distraction↓ ①運動課題による周波数と分布の変化 ②他の作業で振戦の減少・停止(distraction) ③対側の手足を急に動かしたときの振戦の一過性休止
Distractionの手技 • 検者による周波数を変化させた対側肢の指タップ(Entrainment:同調) • 数字の計算 • 舌を左右に動かしてもらう • 対側肢のBallistic movement(弾道運動) • 姿勢の調節
Entrainment の手技 Mov Disord Clin Pract 2023; 10: 1243-52.
⑤ 機能性ジストニア 自験例 固定ジストニア(fixed dystonia) 機能性ジストニア,大脳皮質基底核症候群,Stiff-limb syndrome,複合性局所疼痛症候群(CRPS)
機能性ジストニアの典型的パターン Handbook of Clinical Neurology. 139, 235-245, 2016 A) 物をつまむためのⅠ, Ⅱ指の機能は保たれる. B) ジストニアと同側の肩は 挙上し,対側の肩は低 下します. C) 足部ジストニアの典型 パターン D) 口唇と顎が偏位し, 同側の広頸筋の緊張を 認める.
“Whack‐a‐Mole” sign もぐらたたき徴候 Mov Disord Clin Pract. 29 September 2023 https://doi.org/10.1002/mdc3.13895 特異度は高いが(78%),感度は低い(52%)
FNDの神経症候に関する参考図書
総論 分類と特徴 治療戦略
避けねばならない誤診と医原性の害 下畑享良.機能性神経障害における臨床 倫理的問題.臨床神経 2026;66(1):1-6. FNDの診断に不慣れ,否定的な医師 不信感 診断の遅れ 不要な検査・処置 誤診 FNDへの治療介入の遅れ ダメージ 不要な薬剤 FNDの重症化 (不可逆的変化)
神経のエキスパートが行うべきことは多い! 1. 適切な問診をする 2. 診断を適切に伝える(認知行動療法につながる) 3. 1度の診察だけでなく,フォローする 4. 関連症状の治療をする 5. チーム医療を行う
1.適切な問診 ① 患者の訴えを拒否的態度でなく受け止め,洩らすことなく拾い上げる (よくある疾患です.理解できます.等) ② 「精神科的問題に関する質問」は少なくとも初診時には避ける (神経疾患として捉えてもらうほうが患者に有益) ③ 器質的疾患を認める場合も,FND の合併がありうることを意識する
2.診断を適切に伝える ①「機能性神経障害」などの明確な診断名をまず伝える ②診断の根拠(陽性徴候)について説明をする ③「脳からの命令が身体に届いていない」「ハードウェアではなく ソフトウェアの問題」等メカニズムの説明を行う ④症状は本物であり,患者が嘘をついている,演じているなどと考えて いないこと,患者に落ち度はないことを伝える 園生雅弘.臨床神経63: 135-144, 2023に追加
⑤患者数の多い疾患であることを伝える ⑥脳神経に器質的障害はなく,回復が望めること(可逆性)を強調する ⑦原因に立ち入る必要はない ⑧文書で説明する ⇒「回復の望める機能性疾患」という新しい認知を与える. これで生活・行動様式が変われば,それが「認知行動療法」になる. 園生雅弘.臨床神経63: 135-144, 2023に追加
認知行動療法(CBT) 回復の望める機能性疾患という認知を与える • 「ストレス反応」には4つの側面があり, 互いに影響を及ぼし合い悪循環を生み 出す. • CBTは4側面のうち,自分の意志でコント ロールできる「認知」と「行動」にアプロー チする心理療法により,ストレスとうまく 付き合っていくことを目指す. 新しい生活・行動様式を授ける
3.1度の診察でなく,フォローする ① 診断し告知をしただけでなく,次回の予約をする(継続して外来で診て もらっているということだけでも,患者の支えになる) ② 患者本人だけでなく,家族等とも面談をする ③ 毎回,何らかの目標を設定して取り組んでもらうことが経験的には良い (症状への認識を変え,喜びと達成感を得ることを支援する)
4.関連症状の治療をする • 6ヵ国から1048名が参加したオンライン調査. • 多くの患者は関連症状を呈していた (疲労93%,記憶障害81%,頭痛70%, 排尿障害45%). • 精神科的合併症も比較的多かった (うつ病43%,不安症51%,パニック障害 20%,PTSD 22%). • FND患者は苦痛を伴う複数の症状を併発す ることから,治療標的は少なからずある. Butler M, et al. Eur J Neurol. 2021;28:3591-3602.
5.チーム医療を行う ① 主治医1人でうまくいかないときは,セラピスト,心理療法士,精神科医, ペインクリニック医,東洋医学医等にも適宜相談する. ② 院内勉強会や事例相談を行う. 当科とリハビリテーション科で合同勉強会を開催.非常に多くの質問 や提案 → この疾患に対する関心の高さと手応えを実感した
リハビリテーションは重要な治療の要 • 適切に診断を伝え,認知行動療法的アプリーチを行っても,改善が見られない 場合,リハビリテーションを併用する. • とくに機能性運動麻痺を呈する場合,有用である. • リハビリテーションの有効性を示すエビデンスが近年,蓄積しつつある. • リハビリテーションの方針は通常の器質性疾患に対するものとは異なることを 医療チームが共有する必要がある.
機能性運動障害に専門家による理学療法は有効 第3相無作為化比較試験(英国) Lancet Neurol. 2024:S1474-4422(24)00135-2. ・ 専門家による理学療法138人 ・ 地域の理学療法103人 主要評価項目: SF36の身体機能(12ヶ月後) → 有意差なし. しかし専門家群で,運動症状が改善したと自己評価 する者が多く(図),精神的健康の主観的尺度に オッズ比 2.3 おけるスコアも良好.
理解すべきFNDの病態: 予測符号化のエラーが関与する 「でも実際は動いている」 という情報が入らない 脳は「こうであるはずだ」という予測を常に生成し, 実際の感覚入力との誤差を最小化し続ける装置 ① 上位からの予測(トップダウン) 「腕に注意が向く」と さらに異常予測強化 ② 下位からの感覚入力(ボトムアップ) ③ 両者の差=予測誤差 を統合して知覚や運動を作る. しかしFNDでは予測が過剰に強い. 実際の身体入力が弱い. このため予測誤差が適切に更新されない. 「この腕は力が入らないはずだ」 身体への注意が異常予測をさらに強化. Hallett M, et al. Lancet Neurol 2022;21:537-550.
Hallett 徴候と過剰な予測 反射刺激(打鍵)が当たる前に生じる 予期的ミオクローヌス 「これから叩かれる」という視覚情報や予測 で運動が誘発される Prof. Mark Hallett, MD (1943–2025) Mov Disord. 2026 Feb 23. doi: 10.1002/mds.70213.
リハビリの柱は「症状を意識しない訓練」 • 「動かそう」と強く意識すると,脳は過剰に予測を立ててしまい,感覚とのずれが 拡大し,悪化する. • リハビリでは「動かそう」と意識せず,「どう意識しないか」を練習する. • 音やリズム,物体操作など外の目的に注意を向け,自動的な動作を誘発する. • 手の麻痺であれば「手を動かす」ではなく,「ボールを投げる」「風船を打つ」と 考える. • 少しでも動けたら「できた」と実感し,その成功体験を積み重ねること.
注意を症状からそらし,症状の軽減を図る → ぜひ同様の方法を考えていただきたい! 21歳女性 眼瞼開閉障害 口周囲のけいれん ジャグリングの導入 ビデオ・フィードバック による自己認識と症 状の制御 3週間後,症状消失 その後1年以上, 再発なし. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2024 Jun 28;14:29.
終わりに • FNDという古くて新しい疾患を通して,神経症候学の成立について 提示した. • FNDは非常に患者数の多い神経疾患であるが,正しい診断・診療が 行える医療機関は少なく,現状を変えていく必要がある. • 治療,とくにFNDのリハビリテーションの確立は大きな課題であり, ぜひエキスパートの先生方に参入していただきたい. • FNDの学際的研究会も発足したので,ともに議論できると素晴らしい.
2026年8月発足 宜しければご入会ください ご清聴,ありがとう ございました!