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May 24, 26
スライド概要
第67回日本神経学会学術大会において,岐阜大学の医学生が発表時に使用したスライドです.
◆カハールの神経描画が現代神経学に及ぼした影響についての検討
◆カハールのニューロン説と芸術的手法
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授
StO-06-6 カハールの神経描画が 現代神経学に及ぼした 影響について 岐阜大学医学部医学科4年 伊藤颯汰・岸田隼典・矢部峻毅 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 下畑享良
StO-06-6 日本神経学会 COI開示 筆頭発表者名:岸田隼典 所属:岐阜大学医学部医学科 演題発表に関連して、開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
StO-06-6 サンティアゴ・ラモン・イ・カハールとは? • 「神経科学の父」と称されるスペインの 神経解剖学者 • 彼の描いた図譜は、今なお教科書に 採用されるほどの正確性を誇る • 1906年、ノーベル生理学・医学賞を受賞 https://biomedes.es/biografia/ramon-y-cajal-santiago/
StO-06-6 研究のきっかけ • カハールの著書『Advice For A Young Investigator (若き研究者への助言)』の翻訳プロジェクトを医学部 3年生の課題として行っている • 100年以上前の「手書きの描画」が、現代の最先端 神経科学においてどれほど影響を与え、発展したのか という疑問を持った
目的と方法 StO-06-6 • 目的: カハールが考えた神経ネットワークに関する理論を 明らかにし、その考えが現代神経学に及ぼした影響を明ら かにする • 方法: 検索した論文やカハールに関する二次資料を用いた
カハールの技術と観察眼 StO-06-6 • ゴルジ染色法の改良: 銀染色を 重ねることで、一部の神経細胞を 黒く浮き立たせる技術を見出した • 観察の極致: 顕微鏡下の像を ただ写すのではなく、複数の焦点 を合成し、細胞の「本質」を抽出 して描画した https://ameblo.jp/psymiki1109/entry-12320223167.html 小脳のプルキンエ細胞
カハールは視覚的思考を行った • 単なる記録ではない: 描画は 「観察」と「仮説形成」を往復する 思考プロセスそのもの • 機能の推論: 構造の精密な描写から、 神経信号が流れる方向を予見した (図に矢印が記載されている) 海馬の神経回路の図 Wikipediaより引用 StO-06-6
StO-06-6 カハール以前はゴルジの網状説が主流だった ゴルジは神経系を連続体として捉え、 一つの連続した網のような構造をなす. 網目状に神経は繋がって機能している → 網状説
StO-06-6 これに対し,カハールは神経系を 「連続体」ではなく「結合体」と考えた 個々のニューロンが接続されて 機能している → ニューロン説
カハールのニューロン説は 現代科学において発展する StO-06-6 • シナプスと発達: 樹状突起スパインの発見など、後の シナプス生理学の基礎となった • コネクトミクスの源流: 神経回路の全容解明を目指す現代の 研究スタイルは、カハールの描画思想の延長線上にある
StO-06-6 • 神経細胞の樹状突起の表面に存在 する,小さな棘状の突起であり, 興奮性シナプスの主要な受け手と なる微小構造. • 2個の隣接した海馬神経細胞の図 黄色ボックス内には、樹状突起が 緑色で示されている https://bsi.riken.jp/bsi-news/bsinews28/no28/special.html
StO-06-6 Sci Rep 8, 3545 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-21753-8
コネクトミクスへの発展 StO-06-6 • コネクトミクスは、脳の全神経細胞(ニューロン)とシナプス のつながり方を作成・解明する研究分野である • 脳全体を網羅的に可視化し、神経疾患のメカニズム解明、AIへ の応用、脳の機能理解を目的としている
StO-06-6 2007年,個々の神経細胞を標識する技術が開発された Brainbow法 Creリコンビナーゼという酵素が DNA上のlox配列をランダムに組 み換えることで,各ニューロン は異なる蛍光タンパク質の組み 合わせを持つようになり,結果 として多彩な色で標識される. Nature. 2007;450(7166):56-62. ←マウスの脳の海馬
2013年,電子顕微鏡で1つ1つの 細胞を追う研究が始まった StO-06-6 • ショウジョウバエ視覚系の連続 切片の電子顕微鏡写真に現れた 細胞。 • スケッチし、輪郭や特徴を写し 取ることでコネクトームを理解 する。 Nature. 2013 Aug 8;500(7461):175-81.
2024年,2010年代後半から進められてきた MICrONS Projectの結果が発表される StO-06-6 Nature. 2025 Apr;640(8058):435-447. コネクトームを超高解像度で 解析し「脳がどのように情報 を処理しているのか」を理解 しようとする米国の巨大研究 プロジェクト
2024年,成体ショウジョウバエの StO-06-6 完全コネクトームが実現した AIと電子顕微鏡画像を用いて,約14万個の神経細胞と5,000万以上のシナプス結合を含む成体ショウジョウバエ 脳の完全なコネクトームが初めて作成された.Nature. 2024 Oct;634(8032):210-219.
結論 StO-06-6 • カハールが提唱したニューロン説と,精緻な観察に基づく視覚的思考は,脳の 構造理解に革命をもたらし,神経系を個々のニューロンが連結するネットワー クとして捉える新しい視点を確立した. • この考えは,シナプス研究やコネクトミクスへと発展し,現代神経科学の基盤 となった.カハールの思想は,脳を『見える科学』として探究する姿勢ととも に,今日の神経学・脳科学においてもなお重要な指針となり続けている.
StO-06-7 カハールのニューロン説と 芸術的手法 岐阜大学医学部医学科4年 関谷陸叶 西堀翔太 八木麻衣 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 下畑享良
StO-06-7 日本神経学会 COI開示 筆頭発表者名:八木麻衣 所属:岐阜大学医学部医学科4年 演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはありません.
StO-06-7 カハールとは? • 「近代神経科学の父」 • スペインの神経解剖学者・ 病理学者 • 「ニューロン説」を確立し, ノーベル生理学・医学賞受賞 • 緻密なスケッチで評判 • 後世の芸術にも影響を与える サンティアゴ・ラモン・イ・カハール (1852-1938)
StO-06-7 目的 翻訳プロジェクトの中で,以下の2点に関心を持った. ① カハールの芸術的感性と描画技法が科学的発見に 果たした役割 ② カハールの芸術的感性が現代芸術に与える影響 ADVICE FOR A YOUNG INVESTIGATOR ©️1999 Massachusetts Institute of Technology
StO-06-7 結果①芸術的感性と描画技法 • ゴルジ染色法を用いて,独立した神経細胞と 構造を精密で無駄のないスケッチで可視化した. • 観察対象を単なる生物学的構造ではなく,生命の 秩序を可視化した「自然の芸術作品」として捉えて いた. The Beautiful Brain: The Drawings of Santiago Ramon y Cajal ヒトの小脳由来のプルキンエ細胞
StO-06-7 カハールの芸術的感性を 表す言葉が残されている 私の注意は,繊細で優雅な形をした細胞, 魂の神秘的な蝶を追い求めた. その羽ばたきはいつの日か,精神の秘密 を明らかにするかもしれません. ヒト 大脳皮質中間層の ニューロン The Beautiful Brain: The Drawings of Santiago Ramon y Cajal
StO-06-7 動的分極の法則への寄与 • 彼の芸術的感性は「動的分極の法則(Law of Dynamic Polarization)」の提唱にもつながった. • 神経細胞内における情報の伝達には「一定の 方向性」があるという,近代神経科学の基礎と なった原則で,図には「樹状突起→ 細胞体→ 軸索」という矢印の流れが示されている.
StO-06-7 シュルレアリスムへの影響 • カハールはスケッチという手段を用いて,脳の構造 の美しい秩序を世に知らしめ,数多くの芸術家を魅 了し,影響を与えた. • 無駄のない一発書きの描画スタイル,ときに美しい 色分けを取り入れた洗礼されたスケッチは,現代の スケッチの基盤形成にも寄与した. • さらに1920年代の芸術運動の1つである,シュルレア リスム(超現実主義)に影響を与えたと言われている. The Beautiful Brain: The Drawings of Santiago Ramon y Cajal
カハールの影響を受けた芸術家 • StO-06-7 カハールがシュルレアリスムに与えた影響として知ら れているのは Salvador Dalí(ダリ),Federico García Lorca(ロルカ),Luis Buñuel(ブニュエル),André Breton(ブルトン),Leonora Carrington(カリントン)で ある. • 右図の「産毛(鳥肌)の開始」(Inaugural Gooseflesh) 1928年はカハールとの関連が最も直接的な影響が確 認されている作品である. Inaugural Gooseflesh /Salvador Dali (1928)
結果②カハールの芸術的感性が 現代芸術に与える影響 StO-06-7 • Dawn Hunterは,カハールの芸術的なスケッチ に影響を受けた現代芸術家の代表. • カハールのスケッチからヒントを得た画風でカ ハールの肖像画やポートフォリオ,自身のオリ ジナルの作品を表現し高い評価を得ているとと もに,彼の芸術的なスケッチの意義を後世に伝 えている. Dawn・Hunter サウスカロライナ大学 芸術科学部 准教授
StO-06-7 Dawn・Hunterの作品 カハールの人生の追体験 アストロサイトのイメージを織 り交ぜた植物 Plein Air painting completed at Cajal's Birthplace home, acrylic and ink on paper/Dawn・Hunter Man, Sunflower, and Nuclei Nests /Dawn・Hunter
Dawn・Hunterの作品 カハールの描画技法の再現 ドーンハンターアート ® |カハール・インベントリ・ポートフォ リオ |カハールの小脳のイラスト StO-06-7 カハールの描いた哺乳類小脳の図解 The Beautiful Brain: The Drawings of Santiago Ramon y Cajal
StO-06-7 Dawn・Hunterの作品 カハールの描画と現代芸術の融合 Landscape ideation sketch of Ayerbe,Spain Two Pyramidals/Greg Dunn ドーン・ハンターの描いた風景画 グレッグ・ダン氏の描いた墨絵 カハールの描いたヒトの大脳皮質中間層のニューロン The Beautiful Brain: The Drawings of Santiago Ramon y Cajal カハールが世界に広めたニューロンの美しい秩序は、現代の脳神経学者のみならず, 芸術家たちにも,一種の潜在的なアイディアとしての影響を与えている. 科学と芸術の融合的探究の原点として再評価
StO-06-7 カハール刺繍プロジェクト • 2020年,カハール研究所 創立100周を記念して行 われたプロジェクト. • 6カ国75名以上の参加者 が集い,カハールのス ケッチの刺繍作品を完成 させた. カハールの絵を基に作られた刺繍 Lancet Neurol. 19, 979, 2020(doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30348-3)
StO-06-7 結論 • 彼の美しい神経細胞スケッチはシュルレアリスム(超現実主義) に影響を与えていた. • 彼の発見したニューロンの美しい世界は現代芸術にも影響を 与え続けており,科学と芸術の融合的探究の原点として再評価 されている.