PSPにおけるタウ修飾療法

1.9K Views

May 12, 24

スライド概要

5月11日 Tokai Neurology Summit 2024での講演に使用したスライドです.

profile-image

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

パーキンソン病の鑑別診断として の 進行性核上性麻痺 ータウに対する抗体療法の現状ー 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野 下畑 享良

2.

イントロダクション

3.

タウオパチーの種類と タウを標的とした治療 Primary Secondary MAPT遺伝子変異 Aβ(AD) IgLON5 Ab PSP,CBD,Pick病 発現誘導 ミスフォール Tau gain of function ディング 伝播 クリアランス/ オートファジー ストレイン ニューロン(±グリア)障害 核酸医薬(ASOなど) 小分子薬 免疫療法 抗酸化 抗炎症 ミトコンドリア

4.

2つの免疫療法 利点 欠点 能動免疫療法 (ワクチン) 受動免疫療法 (抗体療法) • 安価 • 特定エピトープを標的とした 疾患ステージに特化した 治療の可能性 • 可逆的な免疫反応 • 不可逆的な免疫反応 (副反応)の可能性 • 高価 • 定期的投与を要する • 抗イディオタイプ反応や それに伴う副作用(*) *効果減弱,アレルギー反応,免疫複合体形成

5.

受動免疫療法 タウ抗体のエピトープ ①タウ(5つのドメイン) ②ミスフォールドしたタウ ③リン酸化タウ ④オリゴマー化したタウ Prion-like domain Microtubule-binding domain N-terminal Mid-domain C-terminal

6.

タウ抗体療法はおそらく容易ではない タウ アミロイドβ 細胞内局在 細胞内 細胞外 構造 複雑 6つのアイソフォーム リン酸化 単純 アミノ酸数 352~441 40, 42 分子量 45~65 kDa 4.5 kDa タウは細胞内に存在し,複雑で,サイズが大きいため, Aβよりも難しい標的である.

7.

タウ抗体は細胞内・細胞外の両方の コンパートメントで作用することが求められる ミクログリア Congdon EE, et al. Nar Rev Neurol. 2023;19:715-736 細胞外クリアランス エンドサイトーシス タウ凝集体封じ込め ミクログリアの貪食 →タウの拡散・伝播 の抑制 細胞内クリアランス プロテアソーム系, エンドソーム・リソ ソーム系,オート ファゴソームによる 分解・隔離 ★ 抗体はエンドサイトーシスにより神経細胞に内在化することができる

8.

臨床試験 の現状 失敗の 原因 もうひとつ の仮説 Primary tauopahyで,ADのようにアミロイドβの影響を受けない 進行性核上性麻痺(PSP)について議論したい.

9.

PSPにおけるタウに対する免疫療法 名称 製薬企業 ステージ 抗体 ABBV-8E12 (Tilavonemab) AbbVie/C2N Phase 2 抗体 BIIB092 (Gosuranemab) Biogen Phase 2 抗体 UCB0107 (Bepranemab) UCB Biopharma Phase 2 ワクチン AADvac-1 Axon Neuroscience Phase 1 ワクチン ACI-35 AC Immune/Janssen Phase 1

10.

ABBV-8E12(Tilavonemab) 多施設第1相/第2相試験 安全性に問題はなし. 脳脊髄液/血漿比は0.2~0.4%(移行性は低い). 第2相 月1回静注 330症例. 主要評価項目 開始52週後の PSPRSと安全性. 2019年7月 打ち切り中止 West T et al. J Prev Alzheimers Dis. 4:236-241, 2017

11.

主要評価項目 52週後のPSPRS変化において有意差なし 最も多かった有害事象は 転倒であった. 重篤な有害事象が発生し た割合は,各群間でほぼ 同等であった. Höglinger GU, et al. Lancet Neurol. 2021;20:182-192.

12.

Tilavonemabはリン酸化タウの減少や 分布変化をもたらさなかった. 67歳 87歳 未治療の10名と比較して, 治験に参加した2名の 病理所見においてTufted astrocyte (上段)および microgliosis, astrogliosis (下段)に明らかな差は 認めなかった. Koga S, et al. Lancet Neurol. 2021;20:786-787.

13.

開始時からのスコアの変化 BIIB092(Gosuranemab)第2相試験 PSPRSの差(52週)-0.2(P=0.85) BIIB092 偽薬 Dam T et al. Nat Med 27;1451–7, 2021

14.

臨床試験 の現状 失敗の 原因 もうひとつ の仮説

15.

結果をどう考えるか?(治療薬と対象) ① 対象がPSP-RSであり,より早期の症例で検討すべきだった. ② タウの凝集や,疾患ごとに異なるコンフォーメーション(ストレ イン)が影響した可能性がある. ③ 2つの抗体はともにN末端に対する抗体であり,凝集に関わる domainを認識する抗体が望ましかった. ④ 十分な量の抗体が脳内に入っていなかった可能性がある. Boxer AL et al. MDS SIC Blog, Jan 2020 Höglinger GU, et al. Lancet Neurol. 2021;20:182-192.

16.

効果にはストレイン(立体構造)の違いが関与? → One polymorph, One disease 仮説 Nature. 2020 Apr;580(7802):283-287. 抗体の結合親和性に影響する可能性

17.

PSP/GGT/AGDの タウフィラメント構造の決定 Nature. 2021 ;598(7880):359-363. • PSPのタウフィラメントは,新しい 3層構造をしていた. • GGTはPSPに類似していた. • AGD,Aging-related tau astrogliopathy,MAPT変異は CBDの4層構造に類似していた.

18.

タウオパチーはフィラメントの構造に 2021 ;598(7880):359-363. 基づいて階層的に分類できる Nature. Nature. 2021 ;598(7880):264-265. AGD; argyrophilic grain disease, FBD; familial British dementia FDD; familial Danish dementia, PART; primary age-related tauopathy PCA; posterior cortical atrophy タウフィラメント構造は抗体の効果に影響を及ぼすか?

19.

2つの抗体は(抗原性が高いと 推測された)N末端を認識する Sandusky-Beltran LA, et al. Neuropharmacology. 2020;175:108104. 凝集蓄積後に時間の経過とともに, PHFのcoreから飛び出たN末(fuzzy coat)が切断消失する

20.

N,C末端抗体はいずれも失敗. Mid-domainに期待集まる. 伊東大輔.神経治療39:379-383, 2022 • タウ伝播には,microtubule binding domainを含むフラグメントが重要との preclinicalデータが集積している. • mid–domainに対する抗体が期待され,開発が進められている.

21.

期待された UCB0107(Bepranemab)試験は 中止になった

22.

タウ標的治療の開発状況 Nat Rev Neurol. 2023; 19(12):715-736. 脱リン酸化 免疫療法 凝集阻害 微小管安定化 アンチセンスオリゴ 脱グリコシル化

23.

N末端2つが失敗 Misfolded tau 1つ失敗 ⇓ MTB domain N末端 MTB domain N末端 P-tau 396/404 P-tau 422 P-tau 231 N末端 Mid-domain Misfolded tau Mid-domain1つ MTB domain 3つ ワクチン (べプラネマブを含む) リン酸化タウ4つ ワクチン2つ ワクチン P-tau 217 MTB domain サブクラス不明 P-tau 413

24.

抗体療法の成功のために何が必要か? アミロイドβ抗体療法から学ぶ Brain. 2023 Feb 17:awad049. AD 健常者 脳内アミロイドを大幅,かつ速やかに減少させ,さらに臨床効果が 検出されるのに十分な期間を継続させることが重要.

25.

タウ発現を最も速やかに抑制するアプローチ アンチセンスオリゴヌクレオチド MAPTRx髄注 脳脊髄液総タウ:用量依存的に低下させ, 60mg(4回投与)および 115mg(2回投与)群において,最終投与後24週でベースラインから の平均減少率が50%を超えた. Nat Med. 2023 Apr 24. doi: 10.1038/s41591-023-02326-3.

26.

臨床試験 の現状 失敗の 原因 もうひとつ の仮説

27.

抗体療法はやめるべきという意見 ① アミロイドになるタンパク質の多くは,進化的に保存され, 神経系で高発現していることから重要な機能を持つ.その 凝集はタウの機能喪失を意味する(Loss of function). ② 凝集性のない,あるいは低い可溶性ペプチドアナログを用い たタンパク質補充(レスキュー・メディスン)に舵を切るべき. ③ 今こそ,神経変性疾患のproteinopathy 仮説を否定すべき. Espay AJ, et al. Mov Disord Clin Pract. 07 August 2021

28.

Proteinopathy 仮説 vs. Proteinopenia 仮説 monomer↓ 取り組みがほとんど なされていない! Insoluble↑ もうこれ以上は 不要では? Espay AJ, et al. JAMA Neurol. 2022 Nov 28を改変

29.

AD における Proteinopenia 仮説 lecanemabの効果は Aβmonomer 増加のため? 脳脊髄液 Aβ 42↑ PETではAβは減少するが, 脳脊髄液Aβ 42は増加する Aducanumab, Lecanemab, Gantenerumab, Crenezumabの いずれも増加している. N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21. (Figure S5) J Alzheimers Dis. 2024 May 2. doi: 10.3233/JAD-240171.

30.

Interactome(相互作用の網羅的解析)が 示すタウの機能;単に微小管結合蛋白ではない! ① タウと相互作用する分子は微小管(tublin)を除き,246 種類もの 分子(!)が同定された(核タンパク~シナプトソーム形成). ② タウ遺伝子変異により結合が 低下する分子はほとんどがミト コンドリア内膜に存在する. さらに変異は酸化的リン酸化と エネルギー生成を悪化させた. Tracy TE, et al. Cell. 185;1-17, 2022

31.

タウオパチーでは核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex) に変化が生じている Brain Commun. 2022;5(1):fcac334. 核膜孔複合体成分であるnucleoporin 98の局在が ADに加え,FTLD,CBD,PSPでも誤局在している (細胞質にも認める).タウリン酸化と正の相関. 矢印 核 矢頭 細胞質

32.

演者の見解 2つの病態が同時に起きているのではないか? 脳虚血研究でしばしば標的分子の 2面性・2相性を経験した (例:VEGF/MMPs/ROS/HMGB1/TNF). 同様にタウにも2面性があるのでは? 凝集性の乏しい可溶性タウを補いつつ, 凝集タウを除去することが必要では? Espay AJ, et al. JAMA Neurol. 2022 Nov 28を改変

33.

結語 1. タウ抗体を用いた治療の成否に関わる要因として, 対象患者の病期,タウのストレイン,抗体が認識する エピトープが考えられる. 2. N/C末端抗体の臨床試験は失敗したが,新たな抗体 の有効性の検討が進行中である. 3. タウオパチーの病態はgain of toxic functionのみか, 再検証が求められている.