long COVIDと認知機能障害

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March 15, 24

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3月16日兵庫県保険医協会の講演のスライドです.

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岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

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各ページのテキスト
1.

COVID-19 後遺症としての認知機能障害 -病態機序と治療の展望- 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野

2.

COI 開示 発表者:下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 演題発表に関連し,明示すべきCOI関係にある企業などは ありません.

3.

Long COVIDの基礎知識

4.

Long COVID WHOによる定義 A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, Oct. 6, 2021(https://bit.ly/3GdixCb) • SARS-CoV-2感染の可能性が高い,または 確定した既往歴のある人が,発症から通常 3ヵ月後に,少なくとも2ヵ月間持続する症状 を持ち,他の診断では説明できない場合に 生じる.

5.

Long COVIDに関する用語 JAMA. Aug 3, 2022 (doi.org/10.1001/jama.2022.1 4089) 用語 意義 使用される領域 post-COVID-19 condition(PCC) ウイルスの直接的・間 臨床現場,医療制度 接的な影響による病気 への負担の評価, を とらえる広義の用語 サーベイランス postacute ウイルスの直接的影響 臨床現場 sequelae of SARS(例:neuro-PASC) により病気をとらえる CoV-2 infection (PASC) 狭義の用語

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20歳代にピークがあり, 働き盛りにかけて多く,女性優位 女性 JAMA doi: 10.1001/jama.2022.18931 男性

7.

Long COVIDの3分類と頻度 JAMA doi: 10.1001/jama.2022.18931 10カ国で進行中のコホート 研究(1906人の感染者と1052 人の入院患者). 3万7262件の市中感染と 9540件の入院患者に関する 公表データ, 130万件の感染に関するICD コード化された医療記録デー タを追加. 呼吸障害 疲労 認知障害 60.4% 51.0% 35.4%

8.

PASC スコアができた (13項目,カットオフ値12) RECOVER研究 米国85の施設において COVID-19の既往がある 8646人と未感染者1118人 を登録し,有意差を認める 13症状を決定. → 重み付けを行い,点数 をつけスコアを作成. Tanayott T et al. JAMA. May 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.8823 Log odds ratio スコア 嗅覚・味覚障害 0.766 8 労作後倦怠感 0.674 7 慢性咳嗽 0.438 4 ブレインフォグ 0.325 3 口渇 0.255 3 動悸 0.238 2 胸痛 0.233 2 疲労 0.148 1 性欲・性能力減退 0.126 1 めまい 0.121 1 胃腸症状 0.085 1 運動異常症 0.072 1 脱毛 0.049 0

9.

ブレインフォグは単一の症状ではない McWhirter L et al. What is brain fog? J Neurol Neurosurg Psychiat 2023;94:321-325. ③ 英国の掲示板型ソー シャルニュースサイト Redditから「brain fog」を 含む投稿で,一人称で 自分の症状を書いた 141件を解析. 中身を確認することが 大切! ② ①

10.

後遺症は COVID-19 だけではない Nat Med. 2022 May;28(5):911-923. • さまざまなウイルスが後遺症をきたす. Post-acute infection syndromeという 概念が提唱されている. • 後遺症も,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労 症候群(ME/CFS)のように類似する.

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Long COVIDのトピックス 1.バイオマーカー 2.経時変化

12.

診断バイオマーカーとしての 血清コルチゾールの半減 Nature. 2023 Nov;623(7985):139-148. Long COVID 患者99名を含む215名の横断研究 HPA axisの障害?

13.

診断バイオマーカーとしての IFN-γの同定 末梢血単核球からの IFNγ放出 Kurishna BA et al. Sci Adv. 2024 Feb 23;10(8):eadi9379. Long COVIDにおける 持続的な上昇と 回復による低下

14.

Long COVIDのなりやすさを規定する さまざまな因子の判明 遺伝学 的要因 転写因子FOXP4 (Forkhead box protein P4) medRxiv. July 01, 2023. T細胞における抗原特異的 反応や,肺分泌上皮細胞の 再生に関与 Long COVID 臨床 症候 頭痛の既往,頻脈,疲労,神経認知・ 神経過敏性の症状,呼吸困難 Lancet preprint: http://dx.doi.org/ 10.2139/ssrn.4505315 免疫学 的要因 急性期におけるウイルス感染の程度とそれに 伴う宿主免疫応答 medRxiv. July 16, 2023. SARS-CoV-2抗原特異的メモリーT細胞の 不十分な活性化 Sci Rep 13, 11071 (2023)

15.

オミクロン株感染の90日後,18.2%が Long COVIDの診断基準を満たす medRxiv 2023.08.06.23293706 • 2022年7月~8月にオーストラリアで実施されたオミクロン株感染者 11,697人(94.0%が3回以上ワクチン接種)の90日後の追跡調査 • Long COVIDの基準を満たしたのは18.2% • 疲労(70.6%),brain fog(59.6%),記憶障害・混乱(32.5%) • 17.9%が就労/就学困難 • 予測因子:女性,50~69歳,既往症,ワクチン接種回数が少ない

16.

本邦(広島)における罹患後症状の 経時的変化 Ballouz T et al. BMJ 2023;381:e074425 Bowe B et al. Nat Med. 21 August 2023 78.4 47.6 31.0 34.6 10.8 6.8 • 危険因子:年齢,女性,糖尿病,デルタ株期間中の感染,喫煙. • 日常生活に支障をきたす症状が3ヵ月以上持続したのは12.6%.

17.

6ヶ月で改善しない患者の多くは 2年間症状が持続する Ballouz T et al. BMJ 2023;381:e074425 Bowe B et al. Nat Med. 21 August 2023

18.

約半数は2年経過しても回復しない 回復しにくい危険因子が存在する 疲 労 Hartung TJ et al. eClinicalMedicine. 2024 Feb 3;69:102456. 認知機能障害 回復しない頻度 54% 43% 危険因子 高度の抑うつ,頭痛 男性,高齢,12年間未満の教育歴

19.

今後,呼吸器疾患から神経疾患としての側面が重要になる COVID-19 と認知症 臨床研究 画像・病理研究 病態研究 治療研究

20.

注目される臨床研究

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感染1年後のアルツハイマー病の リスクはハザード比 2.03と高い 米国退役軍人省データベース COVID-19患者 15万4068人 健常対照 563万8795人 歴史的対照 585万9621人 12ヵ月後におけるハザード比 全神経学的後遺症 1.42 認知・記憶障害 1.77 アルツハイマー病 2.03 4/4 11.2, 高血圧 1.97,頭部外傷 1.5, DM 1.3-1.6 Nat Med. 2022 Sep 22. (doi.org/10.1038/s41591-02202001-z)

22.

感染群の認知機能は非感染群より 3年間のすべて時点で低下する EMQテストの増悪 (13項目の記憶に関する質問票) N Engl J Med. 2024 Feb 29; 390(9):863-865. ノルウェー11.2万人の検討 (5.7万人が陽性) 年齢,ワクチン接種,既往症などの 交絡因子を調整

23.

1年後も脳損傷が持続している Research 05 Jan, 2024 https://doi.org/10.21203/rs.3. rs-3818580/v1 血清Nfl-L(軸索損傷) GFAP(アストロサイト損傷) COVID-19患者および neuro-COVID患者で上昇 タウ neuro-COVID患者で上昇 急性期から1年が経過しても, 神経合併症のない患者でさ え,神経細胞・アストロサイト の障害が持続している.

24.

180件の研究が対象になった COVID-19罹患後認知症候群のScoping Review Eur J Neurol. 2023 Aug 4. (doi.org/10.1111/ene.16027) 疲労,不安,うつの合併が多い 前向性 記憶障害 注意・遂行 障害 精神運動遅延 喚語困難 ブレインフォグ その他の 言語障害 その他の 認知障害

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認知症をきたしやすい患者は? 1.高齢者 2.急性期が重篤/長期持続 3.持続的な嗅覚障害 4.初期の変異株

26.

武漢で60歳以上の入院患者の 認知症のリスクは上昇する JAMA Neurol. March 8, 2022 (doi.org/10.1001/jamaneuro l.2022.0461) • 感染後生存者1438名と対照438名の 12ヵ月後の認知機能を評価した. • 認知症の有病率 12.4%. • 重症例ではTelephone Interview of Cognitive Status-40スコアが非重症 例および対照よりも低かった. 対照 非重症 重症

27.

入院患者の認知機能障害を予測する2 つの 血液バイオマーカー(フィブリノゲンとD-ダイマー) Nat Med (2023). https://doi.org/10.1038/s41591-023-02525-y フィブリノゲン 炎症物質としての直接作用 過凝固状態の影響 D-ダイマー 脳や肺血管の微小血栓

28.

ノルウェーの自宅療養の軽症者でも 6ヶ月後の記憶障害は多い 全年齢 (247名) 何らかの 症状 55% 呼吸困難 15% 味覚・ 嗅覚障害 27% 記憶障害 18% 疲労 30% Nature. June 23, 2021 (doi.org/10.1038/s41591-02101433-3)

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ノルウェーの自宅療養の軽症者でも 6ヶ月後の記憶障害は多い Nature. June 23, 2021 (doi.org/10.1038/s41591-02101433-3) 全年齢 (247名) 0-15歳 (16名) 16-30歳 (61名) 31-45歳 (58名) 46-60歳 (67名) 60歳以上 (45名) 何らかの 症状 55% 13% 52% 59% 61% 60% 呼吸困難 15% 0% 13% 17% 18% 18% 味覚・ 嗅覚障害 27% 13% 28% 34% 28% 20% 記憶障害 18% 未評価 11% 16% 22% 24% 疲労 30% 未評価 21% 31% 33% 36% 高齢は危険因子だが,若い世代でも記憶障害も生じうる.

30.

軽症感染の18-60歳において 4人に1人が視空間認知障害を呈する Mol Psychiatry. 2023 Feb;28(2):553-563. • ブラジル軽症感染者(回復後4ヶ月以降)の高次脳機能を検討. 健常者と比較し,レイ複雑図形検査異常が顕著に多い(26%対6%) → 視空間認知再構成機能や視覚記憶機能の障害 • これらは白質体積と糖代謝と逆相関,血液炎症マーカーと相関.

31.

持続的な嗅覚障害は 認知症の予測因子である AAIC 2022 (Alzheimer’s Association International Conference) • アルゼンチンにてMHRより成人766名(55〜95歳)を抽出し, 1年間,前向きに追跡した(感染者88.4%,対照11.6%). • 持続的嗅覚障害は感染者の40%であったが,3か月過ぎて 持続する場合,認知機能障害がおよそ1.5倍高くなること が示された.

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症状の持続期間と変異株の種類が 認知機能低下に影響する N Engl J Med. 2024 Feb 29; 390(9):806-818. 英国11.3万人の検討 武漢αδο IQ低下の程度 非感染群と比較し, 線形回帰モデル 非感染 <4週 傾向スコアマッチ分析 4-12週 12週以内 改善せず 症状改善 -3 症状改善せず -6 ICU入室 -9 再感染 -2

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小括1 • COVID-19はアルツハイマー病のリスクを 2倍程度 上昇させ,そのリスクは1年以上持続する. • 認知症を来しやすい要因として,高齢者,重症感染, 持続的嗅覚障害,初期の変異株が報告されている. • 軽症感染でも(気が付かないだけで)高次脳機能に 影響が生じている可能性がある→感染を避けるべき.

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注目される画像・病理研究

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感染4か月半後,とくに高齢者で 眼窩前頭皮質などの萎縮が生じている. Nature march 7, 2022 (doi.org/10.1038/s41586 -022-04569-5) • UK Biobankに登録された51~81歳で, 感染前後の頭部MRI検査を比較した • 感染者401名と対照384名. (i) 対照 眼窩前頭皮質*,および海馬傍回の 灰白質厚および組織コントラストの 大幅な減少 (ii) 全脳サイズの大幅な減少 (iii) 対照より顕著な認知機能低下 感染者 (iv) これらの変化は,入院患者15名を 除いても確認された. *味覚・嗅覚を含む感覚,情動,意思決定,ストレス耐性

36.

眼窩前頭皮質では組織損傷と 主にアストロサイトに感染を認める Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Aug 30;119(35):e2200960119 (doi.org/10.1073/pnas.22 00960119) • ワシントン大学の報告. COVID-19で死亡した26人から採取 した眼窩前頭領域*の脳組織で, 5人に組織傷害を認め, 全例でウイ ルス遺伝物質を認めた. • 全細胞の37%がスパイク蛋白陽性, 特にアストロサイトに多かった.

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マカクザルの感染実験で老齢ザルでは 感染が嗅球から眼窩前頭皮質に及ぶ Cell Reports. Oct 12, 2022 (doi.org/10.1016/j.celrep. 2022.111573) 若年 老齢 高解像度顕微鏡

38.

感染実験はヒトACE2を発現マウスか サルが必要 いたるところに感染し,スパイクタンパクが認められる おもに神経細胞の細胞質でウイルス複製は生じる 軸索輸送を介してウイルスが伝播し,軸索は断片化する

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嗅覚伝導路の異常信号は パンデミック当初から報告されていた① 25歳放射線技師,無嗅症発症1日後のMRI所見 ウイルスの嗅球と直回への侵入 JAMA Neurol. May 29, 2020 (doi:10.1001/jamaneurol.2020.2125)

40.

嗅覚伝導路の異常信号は パンデミック当初から報告されていた② 96歳女性 発熱と全身けいれんにて入 院.入院2日前から,嗅覚 消失,意識障害,行動異常. 造影効果なし FLAIR DWI ADC 1.直回 2.前帯状回 3.第一前頭回極部 4.梨状皮質 5.扁桃体 6.前部海馬 Neurology 2021, 96; e645-e646

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オミクロン株の感染では 嗅覚障害は認めないが・・・・ Nat Commun 14, 4485 (2023). (doi.org/10.1038/s41467-02340228-7) ハムスターにナノルシフェラーゼ発現SARS-CoV-2ウイルスを 感染させ,4日めに評価,ウイルスの脳での発現を確認. 嗅球腹側における集積.嗅覚障害は生じないものの, 神経侵襲性は武漢株を含めた他の変異株と変わっていない.

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SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 ウイルス感染後神経炎症が生じ, J Neuroinflammation 20, 179 (2023). 感染30日でピークに達する (doi.org/10.1186/s12974-023-02857-z) デルタ株に感染させたアカゲザル4頭を 18-kDa translocator protein(TSPO)PET で評価した. TSPOは神経炎症のマーカー (ミトコンドリア外膜に存在) 感染後2日目からサルの脳全体でトレー サーの取り込みが増加し,感染後30日 目までで約2倍に増加した(N=4). 海馬と大脳皮質では,ミクログリア, アストロサイト,内皮細胞でTSPOが 発現が認められた.

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SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 ヒトPASCでも脳内の幅広い領域で bioRxiv. October 20, 2023. 神経炎症が生じている. (doi.org/10.1101/2023.10.19.563117) • 神経炎症のマーカーである[11C]PBR28 PET神経画像(TSPO結合性リガンド) を用いて12人のPASC患者と43人の健常対照者を比較. • 中~前帯状皮質,脳梁,視床,大脳基底核,脳室境界部など幅広い脳領域で, 神経炎症が有意に増加

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Brain fog には 血液脳関門破綻が関与する BBB破綻マーカー S100B アストロサイト由来蛋白の血中への漏出 Nat Neurosci. 2024 Feb 22. (doi.org/10.1038/s41593-024-01576-9)

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軽症感染患者の脳では 変化は生じているのか? Neurology. 2022 Dec 16:10.1212/WNL.0000000000201682. • 難治性てんかんに対する焦点切除術目的に 入院した症例 • 入院中に院内感染.発熱・呼吸器症状のみで 改善(中枢神経症状なし) • 感染後17日目に予定していた焦点切除術を 施行.切除した脳を調べたところ・・・

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軽症感染でも脳の微小血管に 炎症が生じていた! Neurology. 2022 Dec 16:10.1212/WNL.0000000000201682. 血管炎が神経後遺症の発現に関与している?

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小括2 • 高齢者では感染後,眼窩前頭皮質の萎縮や機能障害 が生じうる. • 嗅球から眼窩前頭皮質までの嗅覚伝導路にウイルス 感染や炎症の伝播が生じる可能性がある. • ヒトにおいても感染後,神経炎症や血液脳関門破綻, 微小血管炎が生じうることが示された.

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注目される病態研究

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6つの病態が複雑に関与する ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 Nat Rev Microbiol. 2023 Jan 13:1–14. (doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2) ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

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6つの病態が複雑に関与する ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 Nat Rev Microbiol. 2023 Jan 13:1–14. (doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2) ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

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②ウイルス再活性化 EBウイルス再活性化と疲労 EBV再活性化を示唆する 血清学的証拠(早期抗 原拡散IgG陽性)は疲労 と強く関連(OR = 2.12) J Clin Invest. 2023 Feb 1;133(3):e163669

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⑥脳幹・迷走神経の機能障害 迷走神経障害に伴う症状と検査異常 横隔膜曲線の扁平化(47%対6%対14%,p=0.007) 食道蠕動運動の低下(34%対0%対21%,p=0.020) 胃食道逆流(34% vs 19% vs 7%,p=0.130) 食道裂孔ヘルニア(25%対0% 対7%,p=0.050) Lancet preprint. https://ssrn.com/abstr act=4479598 頻脈 咳嗽 下痢 腹痛等

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異なる病態を結びつけるメカニズムの発見 ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

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セロトニンの欠乏! Cell. Oct 16, 2023. (doi.org/10.1016/j.cell.2023.09.013)

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諸悪の根源 持続感染 ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 Nat Rev Microbiol. 2023 Jan 13:1–14. (doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2) ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

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①持続感染説の端緒 ウイルススパイク蛋白が感染1年後の血漿に認められる 急性COVIDのみ 26名 Clin Infect Dis. 2023 Feb 8;76(3):e487-e490. Long COVID 37名 月 S1サブユニット 月 スパイク蛋白(S) 月 ヌクレオカプシド(N) 驚くべきことに,SARS-CoV-2陽性診断から数ヶ月後でも,PASC患者のほぼ65%で S,S1,Nのいずれかが検出された(Sは60%で検出)

57.

持続感染の頻度は1000人から200人に1人 Nature (2024). 21 Feb, 2024 (0.1〜0.5%) (doi.org/10.1038/s41586-024-07029-4) 60日 • ウイルスRNAが30日間以上 持続して検出される381人 (うち54人は60日間以上). • 大部分(82%)でウイルス量 が高値,低値,また高値と リバウンドしていた(ウイル ス複製を意味する).

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Viral reservoir さまざまな臓器におけるウイルスの検出 鼻咽頭ぬぐい液PCR陰性 ≠ ウイルス消失

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腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間 SARS-CoV-2ウイルスを保持する 回腸 大腸 Endosc Int Open. 2024 Jan 5; 12(1):E11-E22. 上部消化管内視鏡による 生検を受けた166例 下部消化管内視鏡による 生検を受けた83例. ヌクレオカプシド蛋白に 対する免疫染色陽性の 頻度 上部 37.34% 下部 16.87%

60.

脳を含む非呼吸器系臓器での 持続感染と複製 Nature 612, 758–763 (2022). 症状発現2週間の間に非呼吸器系臓器 (心筋,リンパ節,坐骨神経,眼組織, 中枢神経)でウイルスの複製が確認さ れ,症状発現後230日目でもウイルス 複製が確認された. 培養細胞を用いて,13日目の視床か ら複製能を持つSARS-CoV-2ウイル スを回収した.同ウイルスはヒト脳に 感染したのち複製する能力を有する ことが立証された.

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SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 推定される脳への直接の 感染ルートは少なくとも4つ! Front Neurol. 2021 Jan 20;11:573095 第4のルート,頭蓋骨・髄膜ルートが注目されている.

62.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 スパイク蛋白は頭蓋骨骨髄から bioRxiv April 5, 2023. 脳内に到達する (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604)

63.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 ヒト頭蓋骨骨髄から検出される bioRxiv April 5, 2023. スパイク蛋白 (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) • 過去にCOVID-19に罹患し死亡したドイツ人の60%に回復後長い 時間を経て頭蓋骨におけるスパイク蛋白の蓄積が確認された.

64.

軽症呼吸器感染でもサイトカインが 脳の障害をもたらす(間接経路) Cell. June 16, 2022 doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.008 マウス・ヒト軽度の呼吸器感染 ケモカインCCL11(エオタキシン)を含む 若年マウスに老齢マウスの血漿を暴露させると 認知機能障害をきたす(Nature 477, 90–94, 2011) 神経炎症

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軽症呼吸器感染でもサイトカインが 脳の障害をもたらす(間接経路) Cell. June 16, 2022 doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.008 マウス・ヒト軽度の呼吸器感染 ケモカインCCL11(エオタキシン)を含む 若年マウスに老齢マウスの血漿を暴露させると 認知機能障害をきたす(Nature 477, 90–94, 2011) 神経炎症 神経機能回路障害 認知機能障害 ブレインフォグ 髄鞘化の障害 神経新生の障害

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ウイルス持続感染による認知障害の機序 1. スパイク蛋白による神経毒性 2. 既存のアルツハイマー病病理の促進 3. ペルオキシソーム生合成因子の減少 4. 脳細胞融合(Syncytia) 5. ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ニューロン の感染・細胞死 → 脳の病的老化

67.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 頭蓋骨骨髄に注入したスパイク蛋白は bioRxiv April 5, 2023. 28日目の神経細胞死をもたらす (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) コントロール SARS-CoV2 S1 神経細胞死 インフルエンザHA

68.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 頭蓋骨骨髄に注入したスパイク蛋白は bioRxiv April 5, 2023. 3日目にアミロイドβ産生をもたらす(doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) コントロール SARS-CoV2 S1 インフルエンザHA

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アルツハイマー病病理変化を 神経炎症が促進する可能性がある Transl Neurodegener. 2022 Sep 11;11(1):40 ACE2受容体への結合と発現抑制 アストロ サイト 活性化 ミクログリア 活性化 ほかにも ApoE4アリルが神経 炎症を増強する ADの海馬・側頭葉で Angiotensin II Ang II type 1 R Aβ,タウ凝集 炎症性サイトカイン (IL1β,IL6,TNF) Angiotensin-(1-7) Mas receptor ACE2発現が増加し, ウイルスとの結合を 増強する等,指摘さ 神経変性 れている. Brain Sci. 2022;12:1405

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感染は神経炎症とペルオキシソーム 生合成因子の減少を招く • SARS-CoV-2が脳に暴露すると,感染が 制御されるにもかかわらず,強固な神経 炎症が誘導される. • 炎症性サイトカインの増加 • ペルオキシソーム生合成因子の減少 • その結果,酸化的ストレス,インターフェ ロン産生,脂肪酸のβ酸化の障害が生じ, 神経障害につながる. Ann Neurol. 2023 May 15. doi: 10.1002/ana.26679.

71.

ウイルスが脳細胞の融合をもたらし 機能不全を来たす Sci Adv. 2023 Jun 9;9(23):eadg2248. doi: 10.1126/sciadv.adg2248 ウイルス性fusogen(融合物質) → 脳細胞の不可逆的な融合 (Syncytiaとよばれる巨大細胞) → 神経細胞コミュニケーション不全

72.

ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ニューロンの eBioMedicine. Sep 12, 2023 感染・細胞死 (doi.org/10.1016/j.ebiom.2023.104784) GnRHニューロン喪失:病的老化による認知機能障害に関連する (視床下部)

73.

小括3 • 認知症を含む神経後遺症の機序として,ウイルスの 持続感染が重要視されている. • ほぼ全身の臓器にウイルススパイク蛋白が存在しうる. • 持続感染が認知機能障害を引き起こす種々の機序に ついても解明されつつある.

74.

Long COVIDの性差研究 medRxiv. March 02, 2024. doi: https://doi.org/10.1101/2024.02.29.24303568

75.

女性のほうが症状の負荷が重く, 症状も多臓器にわたる 女性優位 脱毛 男性優位 性機能障害 記憶障害,嗅覚・味覚障害も女性優位

76.

Long COVIDの男女で免疫反応が異なっている 女性(図) 疲弊したT細胞↑,サイトカイン産生T細胞↑,ヘルペス族に対する抗体↑ (ウイルス再活性化) 男性 NK細胞↑,単球・樹状細胞↓,IL-8・TGF-β↑

77.

女性ではテストステロン低下が Long COVIDを最もよく予測できる

78.

男性ではエストラジオールン低下が Long COVIDを最もよく予測できる

79.

Long COVIDでは H-P-O axis の調節異常が生じている GnRHニューロン脱落 テストステロン↓ エストラジオール↓ コルチゾール↓

80.

小括4 • Long COVIDには性差があり,女性で症状が重く, 多臓器にわたる. • 男女で免疫反応にも差がある. • 女性ではテストステロン低下が,男性ではエストラジ オール低下が long COVIDを予見し,その背景には H-P-O axisの障害が関与している.

81.

ウイルス RNA/蛋白 の持続 脳細胞の融合 (Syncytia) サイトカイン 放出とミクロ グリア活性化 視床下部下垂体 反応低下 コルチゾール 分泌低下 血管内皮炎症 血小板凝集 微小血栓形成 Dysbiosis トリプトファン 吸収不全 迷走神経不全 N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):858-860

82.

注目される治療研究

83.

Long COVIDに対する 臨床試験 Nature. 2022 Aug;608(7922): 258260(doi.org/10.1038/d41586-02202140-w)に一部追加改変 • COVID-19ワクチン◯ • 抗ウイルス剤△ (モルヌピラビル,ニルマトルビル+リトナビル,レムデシビル) • ラパマイシン,メトホルミン◯ • 抗うつ剤(ボルチオキセチン) ◯ • コルヒチン,ステロイド(コルチゾール) • 抗ヒスタミン薬(ファモチジン,ロラタジン) • RSLV-132(RNase-Fc fusion protein;血中を循環するRNAを除去) • 抗凝固薬カクテル • 高圧酸素療法 ※いずれの医薬品も現時点ではlong COVIDに対しては適応外

84.

動物実験でワクチンは脳における ウイルス複製と障害を抑制する Nat Neurosci. 2023 Jan 9. doi: 10.1038/s41593-022-01242-y ワクチンは脳を守る 可能性がある

85.

PASC は感染前の ワクチンにより減少する Tanayott T et al. JAMA. May 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.8823 Watanabe A et al. Vaccine. 2023 Mar 10;41(11):1783-1790. Nayyerabadi et al. Int J Infect Dis. 2023 Sep 15:S1201-9712(23)00720-8. RECOVER研究 ↓ 感染前ワクチン により減少する ↓ ↑ 再感染により 増加する ↑ Acute :感染から30日以内にPASC出現 Postacute :感染から30日以降にPASC出現 感染後の接種の効果は乏しく,54.4%の患者には効果がないというメタ解析も報告された.

86.

PASC は感染前の ワクチンにより減少する BMJ. 2023 Nov 22;383:e076990. (doi.org/10.1136/bmj-2023-076990) ワクチン接種はPCCリスクを 低下させる(調整ハザード比 0.42,95%CI 0.38~0.46) ワクチン接種による抑制効果 は58%. 1回,2回,3回以上接種の 効果は,21%,59%,73%. Ann Epidemiol. 2024 Feb 19:S1047-2797(24)00031-0も 同様の結果(43~58%の抑制)

87.

medRxiv November 05, 2022. (doi.org/10.1101/2022.11.03.22281 783) 抗ウイルス薬の効果 重症化のリスク因子が少なくとも1つあり,診断後30日間生存した患者を特定した. 陽性反応後5日以内にニルマトレルビル(パクスロビド®)を内服した9217人と, 対照4万7123人の評価を90日後に行った. 認知機能障害 も抑制された 0 0.5 1.0 ※ニルマトレルビル単剤は国内未承認 ※現時点ではニルマトレルビル/リトナビルは long COVIDに対して適応外

88.

注目の臨床試験の開始 PaxLC clinical trial ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05668091 A Decentralized, Randomized Phase 2 Efficacy and Safety Study of Nirmatrelvir/Ritonavir in Adults With Long COVID. 第2相 1:1無作為化二重盲検試験 非入院の重症long COVID成人100名 Paxlovid(nirmatrelvir/ritonavir)を15日間と placebo/ ritonavir を比較 5日間でなく,15 日間使用する理由は, reservoirのウイルスの除去を目指すため. 2024年1月終了予定. ※現時点ではニルマトレルビル/リトナビルはlong COVIDに対して適応外

89.

RECOVER-VITAL RECOVER-Neuro https://trials.recovercovid.org/documents/ RECOVER-VITAL%20Protocol%20V3.0.pdf https://trials.recovercovid.org/documents/ RECOVER-NEURO%20Protocol%20V2.0.pdf 米国 NIH 主導の PASC 治療研究 ① RECOVER-VITAL ウイルスの除去や炎症抑制の効果の検証 Paxlovid(より長期の25日間群を追加) ② RECOVER-NEURO 認知機能障害の改善しうる治療手段の検討 a. インターネットを介した脳トレ(BrainHQ) b. インターネットを介した脳トレ(PASC-Cognitive Recovery) c.経頭蓋直流電気刺激(tDCS) ③ 準備中 RECOVER-SLEEP,RECOVER-AUTONOMIC

90.

感染後の抗ウイルス薬の効果は ないか,あってもわずか JAMA Intern Med. Oct 23, 2023. (doi.org/10.1001/jamainternmed.2023.5099) Ann Intern Med. 2023 Oct 31. (doi.org/10.7326/M23-1394) • 米国の外来高齢者を対象として,ニルマトルビル(パクスロビド®)と モルヌピラビル(ラゲブリオ® )が,long COVIDの発症を抑制するか 検討したところ,効果はあるものの,絶対リスク減少率は2.7%, 0.8%(ハザード比0.87,0.92)と僅少だった. • ニルマトルビル(パクスロビド® )が,long COVID発症を抑制するか 米国退役軍人において検討したところ,静脈血栓塞栓症および 肺塞栓症の複合リスクの低下(サブハザード比,0.65)を除き, ほとんどのPCC症状の罹患率は低下しなかった.

91.

発症7日以内のメトホルミン内服は Long COVID発症を抑制する Lancet June 08, 2023 https://doi.org/10.1016/S147 3-3099(23)00299-2 米国の報告.発症7日未満の肥満傾向または肥満成人. 累積発生率(300日):メトホルミン群6.3%,偽薬群10.4% 発症7日以内開始 HR 0.59.3日以内開始 0.37. メトホルミン:mTOR阻害(ミトコンドリア機能回復),抗炎症・酸化ストレス ※メトホルミンは現時点ではlong COVIDに対しては適応外 偽薬群562人 メトホルミン群564人 14日間(500→1500mg漸増)

92.

ボルチオキセチンは 認知機能を改善する Brain, 2023;, awad377 (doi.org/10.1093/brain/awad 377) ボルチオキセチン セロトニン(5-HT)の再取り込み阻害 作用と5-HT1A受容体刺激作用, 5-HT1B受容体部分的刺激作用, 偽薬 5-HT3,5-HT1D,および5-HT7 受容体拮抗作用など. ベースラインのCRPで調整すると ボルチオキセチン DSST(数字符号置換検査)スコアの 改善が認められ(p = 0.045),うつ症 状(p<0.001),HRQoL(p<0.001)も 改善した.

93.

小括5 • 持続感染による脳への障害を考慮すると,ワクチン 接種によってCOVID-19を予防することが大切である. • 治療戦略として,抗ウイルス薬の長期間投与や,ミトコ ンドリア機能の回復が有効であるかが注目されている. • COVID-19から脳を守ることを啓発する必要がある. ご清聴,ありがとうございました!