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December 29, 23
スライド概要
データ可視化イベント Data Visualization Japan Meetup 2023
https://datavizjp-2023.peatix.com/view
https://www.youtube.com/watch?v=2PGWbmkXvcA
LT発表スライド
#GIS #地図学 ウィングフィールドは、パーソナル ブランドとして GIS、IT をはじめとした技術情報や趣味に関する情報発信をしています。 WINGFIELD since1995 https://www.wingfield.gr.jp/
羽田 康祐 © Kohsuke Hada
自己紹介 羽田 康祐(はだ こうすけ) @kohsuke_hada www.wingfield.gr.jp • Geospatial Communicator / 日本地図学会 常任委員 / GIS上級技術者 • アウトドア好き雪山も登ったり滑ったりしていました • 好きな地図投影法は 「パース・クインカンシャル図法」(正角図法) © Kohsuke Hada パース・クインカンシャル図法
最近メルカトル図法を解説す るメディアが増えてきました © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada ゴール平射図法
© Kohsuke Hada ミラー図
© Kohsuke Hada 正方形図法(正距円筒図法 )
?! © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada 心射円筒図法
??!! © Kohsuke Hada
もうお気づきですよね? © Kohsuke Hada
ゴール平射図法 正方形図法 (正距円筒図法 ) これらはすべてメルカトル図法 ではありません ミラー図法 © Kohsuke Hada 心射円筒図法
メルカトル図法 © Kohsuke Hada
間違った図法でメルカトル図 法を解説するメディアが多い © Kohsuke Hada
グラフィック素材には図法の 名前まで示されていない場合 が多い © Kohsuke Hada
メルカトル図法 グラフィック素材ではグリーンランド忘れられがち © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada https://twitter.com/kohsuke_hada/status/1561388344126631937
メルカトル図法 • 現在のベルギー出身のゲラル ドゥス・メルカトルが1569年に 出版した世界地図に用いた • 地図上のどこでも航程線 (rhumbline;等角航路*)が 直線で描ける唯一の地図投影法 • 航海用「海図」の地図投影法と して現在も使用されている • 「航空図」には正距方位図法が使 われているという説明は間違い • https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mercator_1569.png https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gerardus_Mercator.jpg 20世紀終盤に学術分野で地図学用語が審議され、「等角図法」「等角航路」は廃止するように定められたが、高校地理の教科 書では「等角図法」は「正角図法」に置き換えられた一方、「航程線」は現在でも「等角航路」として説明されている。 © Kohsuke Hada
メルカトル図法の特徴 正角図法 • 地図上のどこでも角度が正しい • (狭い範囲で)形が正しい 同じ角度 元の円 円筒図法 • 経線が平行 (地図上で真北の方向が一定) • 方位が正しい訳ではない 円筒図法=正角図法ではない © Kohsuke Hada 違う角度
その他の正角図法 • パース・クインカンシャル図法 • 特異点を除いて円の形状を維持 している →正角図法 • 赤い円 • 地球上で正確に半径1,000kmの 円を描いたもの © Kohsuke Hada
ところで © Kohsuke Hada
データビジュアライゼーショ ンの仕事で航海してますか? © Kohsuke Hada
航海はしないですよね 人生では後悔しているかもしれません © Kohsuke Hada
メルカトル図法の短所 面積が正しくない • 特に高緯度ほど顕著に面積が誇張される • 地球儀と比較して縮尺が正しくない * • 世界地図のような小縮尺の分布図には適さない * 縮尺を計算する基準となる緯度(基準縮尺)を変更すれば、その緯度における縮尺は正しいといえるが、 一般的に基準縮尺は赤道が設定されているため、高緯度ほど縮尺の誤差は大きくなる。 方位が正しくない • 「方位」と「角度」は似て非なるもの • 方位が一定なのは南北方向のみ • 緯線は方位を測る基準の線ではない(小円) © Kohsuke Hada
なぜメルカトル図法で 視覚化してはダメなのか? © Kohsuke Hada
分布の様子を誤解させてしまうから 点の分布では、密度が小さく なると、実際より少ない印象 を与える 地球儀 © Kohsuke Hada 塗り分け図(コロプレス図)では、 面積が大きいほど数量が多い印象を 与える メルカトル図法
メルカトル図法で 描かれた、国別新 型コロナ感染者数 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
メルカトル図法は全部ダメ なの? © Kohsuke Hada
“低緯度ほど” “狭い範囲ほど” 問題ない • 地図の北端と南端の緯度差が少ないこと*1 • 標準緯線を地図の中心の緯度に設定すれば 縮尺の値やスケールバーの長さも正しく示せる 緯度 拡大率 90 北端 標準緯線 南端 地図の範囲 (図幅) *1 北半球と身は観半球をまたがない場合に限る、 ただし赤道付近の低緯度はその限りではない。 © Kohsuke Hada ∞ 緯度 拡大率 60 緯度 拡大率 2 25 1.1034 89 57.2987 55 1.7434 20 1.0642 85 11.4737 50 1.5557 15 1.0353 80 5.7588 45 1.4142 10 1.0154 75 3.8637 40 1.3054 5 1.0038 70 2.9238 35 1.2208 0 65 2.3662 30 1.1547 1 拡大率=1÷cos(緯度) *2 *2 地球を完全な球と仮定した場合 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
緯度経度の座標をそのまま表示すると 高緯度ほど形が歪む 【メルカトル図法】 Web マップでよく利用 【正方形図法】 緯度1度と経度1度が等距離で直交 札幌市の例 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
世界地図の分布図に適した 地図投影法 © Kohsuke Hada
世界が丸いことをイメージし やすい世界地図 ナチュラルアース図法 正角でも正積でもないがそれぞれの歪みが少ない 2008年作成 © Kohsuke Hada
世界が丸いことをイメージし やすい世界地図 イコールアース図法 正積図法 2018年作成 © Kohsuke Hada
イコールアース 図法で描かれた、 国別新型コロナ 感染者数 * * 絶対値の塗り分けに は別の誤解を与える 問題があります。 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 参考
他にも地図投影法は たくさんあります 地図投影法 https://www.wingfield.gr.jp/demos/map-projections/ © Kohsuke Hada
もうひとつ、 © Kohsuke Hada
世界の中心に、哀をさけぶ 「たすけてください」 © Kohsuke Hada
ロシアが分断 緯度経度座標をそのまま表示 正方形図法 © Kohsuke Hada
ベーリング海峡で分断 ベーリング海峡で分断 正方形図法 東経11度を中心に表示 © Kohsuke Hada
大西洋で分断 日本で馴染む世界地図の中心 正方形図法 東経150度を中心に表示 © Kohsuke Hada
ソフトウェアの進歩で簡単に 分布図が作れるようになった © Kohsuke Hada
イコールアース 図法(太平洋中 心)で描かれた、 国別新型コロナ 感染者数 * * 絶対値の塗り分けに は別の誤解を与える 問題があります。 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 参考
まとめ メルカトル図法 ”ではない” 地図に騙されない 目的と縮尺・範囲に応じて適切な地図投影法を選択 目的によってさまざま 世界 小縮尺 大陸 ランベルト正角円錐図法 アルベルス正積円錐図法 など 国 地方 メルカトル図法(標準緯度調整) 横メルカトル図法 など 都道府県 街区 大縮尺 日本人にとって世界地図は太平洋中心の方が馴染みやすい 地理情報システム(GIS)ソフトウェアの普及で地図がつくりやすくなったが、地図の知識は必要 © Kohsuke Hada
主題図を知るための 入門書 • 2021年 ベレ出版 • データビジュアライゼーション (情報の可視化)の方にも向けた本 • 主題図 • 地図投影法 • 地理情報システム(GIS) © Kohsuke Hada
主題図を知るための 入門書 • 『Mapping for a Sustainable World -持続可能な社会のための地図作成-』 https://digitallibrary.un.org/record/3898826 • 国際連合と国際地図学協会の共著 • 2024年日本地図学会により翻訳版を 無償で配布予定 © Kohsuke Hada
参考資料 ありがとうございました • 世界地図は世界を大きく見せる メルカトル図法に関する誤解の全て 地理の雑学ゆっくり解説 https://www.youtube.com/watch?v=DoXWJS9u-Uo • 正角図法を正角に理解する https://www.wingfield.gr.jp/archives/10049 • 「Web メルカトル(ウェブメルカトル)」の由来と真相 https://www.wingfield.gr.jp/archives/4294 • 野村正七(1974)『指導のための地図の理解』中共出版 https://amzn.to/3RztIvI • 政春尋志(2011)『地図投影法-地理空間情報の技法』朝倉書店 https://amzn.to/47bPg7l • 羽田康祐(2021)『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』 ベレ出版 https://www.wingfield.gr.jp/archives/12018 © Kohsuke Hada