第16回横幹連合コンファレンスの発表資料(2025年12月13日@金沢工業大学)

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December 21, 25

スライド概要

「イノベーションの創出」https://www.amazon.co.jp/dp/4771038805 の第3章を担当した関係の発表です。日本ロボット学会の推薦で担当したので肩書きが日本ロボット学会になってますが、特に断りをいれてません。学会手伝ってなくてごめんなさい(いちおう欧文誌のシニアエディターはやってる)。

補足: p.15の「MCL」はリーグでMCLが発明されたわけじゃないです。(表記も「MCLの応用」になってます。)

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

ロボット学とイノベーション 学問と技術チャレンジが導く社会への技術の浸透 日本ロボット学会・ 千葉工業大学未来ロボティクス学科 上田隆一

2.

日本ロボット学会(RSJ) • 1983年1月28日設立 • 会員数: 3,647人(2024年。個人会員数) • 主な活動 • 学会誌: 和文、英文(IF2.0) • 学術講演会 • セミナー • 専門委員会、ワーキンググループ(活発) • 昨年は子育てに関する話題が盛り上がって 少し参加しました 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 2

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登壇者: 上田隆一 • 富山県小矢部市出身 • 千葉工業大学先進工学部未来ロボティクス学科教授 • 仕事1: 執筆 もう 一冊 執筆 中 • 仕事2: 研究 • ロボットの自律移動、認識技術 ロボット学会学会誌 論文賞(2024) 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 3

4.

今日の話: ロボットと自動車の自動運転 技術がどうやってひろがっていったか • ↓2020年代の状況 • どれくらい年月がかかっているか 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 4

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自動運転の技術史(大雑把なもの) • 自動運転に使われる技術の歴史 • 2020年代: 言語を使った認識や制御が可能に • 人工ニューラルネットワーク(特にTransformer)の進化 • これ自体も歴史は古い • 2010年代: 物体認識などでの革新 • 機械学習、人工ニューラルネットワーク • GPU • 2000年代: センサの性能向上 + 位置情報の扱いで技術革新 • 確率ロボティクス • レーザースキャナ(LiDAR) 2025/12/13 今回の話 第16回横幹連合コンファレンス (まだまだ続く) 5

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さらに過去の話 • 1990年代: PCの性能向上 • 1980年代: 国内で移動ロボットの研究が盛んに • 1970年代: 現在のような移動ロボットの原型 • 1960年代: カルマンフィルタの発明(アポロ計画)、現代制御理論 • 1950年代: 動的計画法(強化学習の基礎理論)、情報理論、古典制御理論 • 1940年代: 軍事技術の発展 • 1930年代: チューリングマシン ・・・ • 1700年代: ベイズの定理 確認: イノベーションという話が出た ら過去も見ないといけない 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 6

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本題に入る前に • イノベーションはなかなか起こらないが 簡単に止まる(書籍に書いたことの補足) • ベイズ的な手法 • 統計学の権威が否定→100年以上地下に潜る • 日本における自動運転・ロボティクス(その他の多くの研究) • 2000年代に○○ショックで全部止まる • かなりの芽が摘まれて今に至る • (若手と話をして研究を止めてしまわないかとビクビクする日々) 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 7

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本題: ロボットの競技会、実験会 • 一般に「ロボコン」と呼ばれるもの • 様々な理由、複合的な理由で開かれる • 研究目的、教育目的、娯楽・営利・宣伝、テレビの尺埋め • 研究者が開催するロボコン・実験会 同じものだと思って 話をするとすごく 嫌がられることも • RSJも協賛 • (変なしがらみがなければ)研究を促進したい • 勝敗を避けるものもある(コンテストではなく実験会) • なんで促進できるか(できない場合もある) • 尖った研究者を解くべき問題に導く・問題を見つけてもらう 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 8

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RoboCup(Robot Soccer World Cup) • ロボットサッカーの世界大会 • 2025年の大会: 40カ国2000人の参加者 • 1997年に第1回大会 • 1993年ごろから構想[浅田2025] • 立ち上げの中心: 阪大の浅田先生、 ソニーの北野さん、電総研の松原先生 • どんな大会か: 自律ロボットに サッカーをさせる • 自律: 自分でセンシングして自分で 判断して自分で動く • ※ほかの種目もあるけど話を単純化します 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 2006年ブレーメン大会 (4足ロボットリーグ) 9

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サッカーと当時のロボット • サッカーさせるのは難しい • センサー(カメラ): 高画質のものは 大きなCCDカメラしかない • PC(CPU) • Pentium 2~4くらいの頃 • 内部周波数 < 1GHz • シングルコア • オープンソース(ハード) • ほぼなし • 基本自前でなんでも作る • (工場の用途以外では)お金にならない 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 10

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そのような中でのRoboCupの立ち上げ • 正直、個人技ばかりの私には想像がつきませんが・・・ • 各キーパーソンの考えは本人の執筆物などを参考のこと • ひとつ分かること • 当時の研究者に「将来がこうなる/こうあるべきだ」 という勘のようなものが頭にできていた • 発起人だけでなく世界各国の研究者が呼応できて国際大会に • 時代としては早すぎるが、おそらく研究者の本能 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 11

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RoboCupの標榜したこと • 「西暦2050年までに、サッカーの世界チャンピオンチームに勝 てる、自律移動のヒューマノイドロボットのチームを作る」 • アポロ計画に倣った • 月に行くだけでなく、それに付随する研究開発に期待 • 例: カルマンフィルタ[Kalman1960] • 私の主観 • 2025年現在: いけそうな気がする • 当時(2000年頃): ええ・・・ほんと? • 右: 2000年の練習試合 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 12

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早すぎる例: 4足ロボットリーグ • 講師の所属したリーグ • AIBOを使う(さっきの動画は貴重なプロトタイプ) ERS-1100(競技用ERS-110) • ハードのメンテナンスから解放される一方、 制約が大きい(改造禁止) • CPU周波数: 50MHz • DRAM容量: 16MB ERS-210 • 「主記憶装置に、大容量16MBメモリーを内蔵」 • カメラの画素数: 88x72 • もっと大きくできたようだが計算が追い付かず サッカーなんかできるのか? 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 88x72の画像 ERS-7 13

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早すぎるとどうなったか→研究が進んだ • 通常の研究: • カメラの画素数が足りないです→いいの買って取り換えよう 4足リーグ: できない →工夫するしかない • 成熟した分野: • ロボットでなんか競技やるぞ • →俺はいいや(打算) • →大学の宣伝にコスパいい(打算) 当時のRoboCup: 一流どころ がみんな応用に飢えている 数十人(当初)~数百人の研究者が (時には取材で笑われながら)ソフトウェアの工夫に集中 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 14

15.

4足リーグの成果の例(研究) • MCL(Monte Carlo localization) [Fox1999] [Dellaert1999]の応用 • MCL: ロボットが自身で位置を計測 (自己位置推定)する方法 • 自分の分身(数百~)をシミュレーション して妥当な分身の位置を出力 • MCLの作者もリーグに所属 • 実はカルマンフィルタの後継アルゴリズム (アポロ計画の再現?) 今はさまざまな手法があるが、 研究者が希望を持った事例として最重要 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス MCL+修論のアルゴリズムで動作する ゴールキーパー[上田2003] 15

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RoboCupの成果(人) • 1日中ロボットを動かしていた研究者が世界的に大量に錬成された • ロボットを動かすのにそこまで時間を割く研究者は少ない • 研究者+職人エンジニア=最強 • 自国や大きなtech企業で中心となる研究者に • 自身の場合→翻訳(2008年) • SNSが未成熟+国内の研究がこれまで強すぎたので 最新の研究が国内に入り込みずらい • どう考えても自分の研究より翻訳のほうが重要 • 私自身というより環境と経験がそう判断させる 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 16

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その後の流れ • RoboCup • @Homeリーグ(家事のリーグ)でロボットがさまざまな仕事 • DARPAグランド・チャレンジ(2000年代後半) • 砂漠(その後市街地)で自律の乗用車を走らせる • 自己位置推定+地図生成 • RoboCupと同様の効果で自動運転の 研究者が世界中に • 現在の自動運転の研究の流れができる • 残念ながら日本からは参加なし (大変すぎる・不景気) 地図の例(千葉工大の津田沼 キャンパス。6ヘクタール) 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 17

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国内のうごき: 移動ロボットの自律走行 • 国内にあわせた動き • 自動車は実験するところがない • 筑波大油田研の自律ロボット研究の歴史・強み • 油田研からの動き • 測域センサ(≒2次元LiDAR)の共同開発(2004年) • レーザーで周囲の障害物を正確に計測可能に • 小型・安価(今までのはとにかくでかくて高い) • 実験会の開催(つくばチャレンジ。2007年にプレプレ大会) • 移動ロボットを屋外で自律走行させる実験会 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス を読んでて くれていたらしい 18

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つくばチャレンジ • 記録の伸び • 2007年: 100m、2008年: 450m+、2009年: 1km・・・ • 千葉工大チーム(林原研究室)も2016年に完走(2km) • 重要: 人の育成 • 2024年度参加者: 570人 • 今後効いてくるはず 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 19

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最近の話題: 模倣学習・VLA (vision-language-action model) • 人工ニューラルネットワークによる高度なロボット制御の実現 • ここ3年くらいに急速に(動作の例) • GPTのようなものと組み合わせることで言語も理解 • 確率論が非常に重要な役割 • RoboCupと人工ニューラルネットワーク • 当初から利用の試みられていたが用途は限定的(2000年代) • このころから研究者がGoogleなどの企業に→現在につながる • 2010年代に画像処理でまず実用 • これからはロボットサッカーのように速く動くものへの適用が進むと予想 →「2050年までに・・・」の実現? • つくばチャレンジにも? 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 20

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まとめ • ロボットの技術チャレンジ • 重要な役割 • 技術革新や実用に向けての試用 • 人の育成 • 釘刺し: ただし適切な難易度や未来の問題の先取りがないと 視野の狭い人しか育たない可能性も • 今回の発表とイノベーション • おそらく目立った事例については、 常に背景を考えてほしいという自身の思い(怨念?)が出ている 2025/12/13 第16回横幹連合コンファレンス 21