20240501確率ロボティクス入門第1回

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May 01, 24

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1.

確率ロボティクス入門 第1回 千葉工業大学 上田隆一 2024年5月1日 @中部大学

2.

ロボットに使う数学 • 分かりやすい • 線形代数 • 関節の動き、移動量の計算 • 微積分 • 速度、加速度の計算 • 分かりにくい • 確率・統計(?) 2023年5月10日 「確率ロボティクス」 ってどういうこと? ロボットフロンティア@中部大学 2

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(いわゆる)古典制御 • 揺れ始めたものを止める • なにか目標に沿って ものを走らせる • 例: ライントレースなど https://youtu.be/VJ0JILWo_vw https://youtu.be/pymH8rO3GoQ ※注意: ライントレース自体はおそらく現代制御も使う • 制御対象(以後ロボット)のずれを 機構やセンサによる計測でそっと戻す 確率・統計は用いられない 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 https://youtu.be/3UgktZoH9lk 3

4.

古典制御の限界 • 目標から離れられない • 少しのずれだけ修正 • 大きくずれたあきらめる • ラインから離れられない ※注意: ライントレースのすごさは 別のところにある。現代制御も使う(2回目) • ロボットという文脈: 自律性が低い • 周囲とのずれしか気にしない https://youtu.be/GMARnhCvN44 • 突然だけど鳩はすごい • 「目標」(巣)からの離れ方が大きい • 離れるには • ロボットが自分の位置(あるいは状態)を把握しないといけない 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 4

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いわゆる現代制御 • 限界を突破するために制御対象の状態を考える • 状態: 自律ロボットなら自身の位置や姿勢、速度や角速度 • 伝統的にはベクトル𝒙𝒙 = (𝑥𝑥, 𝑦𝑦, … )として • 扱われる問題 • 最適制御: 目的の状態に効率よく移行する方法 • 状態推定: センサの値から状態を推定 Y ここに 行きたい 私はここ にいる X 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 5

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最適制御 • 状態方程式で制御系を表す • 右の式: 𝒙𝒙𝑡𝑡−1 の状態で𝒖𝒖𝑡𝑡 という力や変化量を 与えたら状態が𝒙𝒙𝑡𝑡 に (移動ロボットの場合で考えてみましょう) • ℇ𝑡𝑡 だけ誤差が混入(微小・ガウス分布) 線形(離散時間) 非線形(離散時間) • 汎関数を最大(最小)にするように各時刻の𝒖𝒖𝑡𝑡 を決める • 𝐽𝐽 = ∑𝑇𝑇𝑡𝑡=0 𝑔𝑔( 𝒙𝒙𝑡𝑡−1 , 𝒙𝒙𝑡𝑡 , 𝒖𝒖𝑡𝑡 ) • 𝑇𝑇: タスクの終わりの時間(固定でなくてよい) • 𝑔𝑔: 評価関数 • 時間を最短にしたい場合: 𝑔𝑔 ≡ −1 • エネルギーを最小にしたい場合: 𝑔𝑔 = 𝒖𝒖𝑡𝑡 の大きさに対するペナルティー 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 6

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状態推定 • 状態方程式の他に観測方程式を考える • 𝒙𝒙𝑡𝑡 で𝑗𝑗番目のセンサを使ったら 𝒛𝒛𝑡𝑡 という計測値が得られるという意味 • 状態方程式で求めた𝒙𝒙𝑡𝑡 は誤差を含む • 𝒛𝒛𝑡𝑡 が得られやすそうな方向に𝒙𝒙𝑡𝑡 を ずらして修正 • どうやって? (移動ロボットの場合で考察してみましょう) 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 線形(離散時間) 非線形(離散時間) 7

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余談: 生き物の状態(位置)推定 • 位置の把握に関係する脳の部位や神経細胞が存在 • 場所の座標や移動量, 特徴に反応する神経細胞 (2014 年ノーベル生理学医学賞) • 他,ランドマークの記憶や 時系列情報の記憶など 様々な役割を持つ細胞 場所細胞[O’keefe71] ボーダー細胞[Solstad08] 2023年5月10日 格子細胞[Moser05] 場所細胞: Stuartlayton at English Wikipedia, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Boundary_cell.png. 格子細胞: Khardcastle, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Autocorrelation_image.jpg. ボーダー細胞: Tom Hartley, Colin Lever, Sarah Stewart, CC BY-SA, via Wikimedia Commons, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Boundary_cell.png ロボットフロンティア@中部大学 8

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(標準的な)現代制御の問題 • ℇの問題 • 思ってたのと違う動き • 思ってたのと違うセンサ値、観測 • 「微小で平均すればゼロ」という前提で話が進む • ほんとかな? • そうでない場合はないか?→たくさんある • 移動ロボットの場合は? 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 9

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雑音にさらされるロボット • 特にゴールキーパーに注目 • 鼻先の単眼カメラで周囲を観測 • 様々な問題行動 • いない(ゴールに戻れなくなった) • ゴールをくるくる • 位置が前 or 横すぎ なんでこんなに手こずって いるのだろうか? https://youtu.be/7FZyurrHgHQ 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 10

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手こずる理由(状態推定について) • 雑音が大きい • 足が滑る • カメラが低解像度で揺れる • 観測機会が少ない https://youtu.be/sNJ3wK433Us • 一度間違うと間違え続ける 平均で考えていては対応できない 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 11

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手こずる理由(制御について) • 右のような状況でバックすると守備位置は どうなる? • 平均からの小さなズレで結果に大きな違い ゴール キーパー ここにいると 考えている 前のスライドからも言えるが、 とにかく平均で考えていてはダメ 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 実際には ここにいる 12

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反論:センサが精緻なら良い • ロボカップ以降にロボットもセンサも進化 • しかし、環境は20年前も今も雑多 • 下図: 高精度なレーザースキャナが晒される雑音の例 ロボットの地図 にはない物体 引用元: 上田研つくば チャレンジ2021本走行の動画 2023年5月10日 次ページにもう1例 ロボットフロンティア@中部大学 13

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動きが予想から 大きくズレる ロボットが 点字ブロックで 激しく振動 レーザが地面に 引用元: 前ページと同じ ハードを良くしても環境の複雑さには 今のところ太刀打ちできない 2023年5月10日 太刀打ちできても鳩より 頭がいいわけではない ロボットフロンティア@中部大学 14

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たとえ誤差がなくても • センサには利用できない状況がある • うまく組み合わせる必要がある • 超絶に正確なセンサがあったとして、 指示された道を外れずに動く ロボットは賢い? • ルート上のドアが閉まっていたら止まるかも • 道を外れたら何もできないかも • 観測しなければならないものが急に増える • センサで観測できない障害物があると頓死 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 センシングできない状況 カメラ 暗い場所 屋内、森林、 GNSS ビル街 ガラス、野原、 レーザー 人ごみ 砂利道、人間が持 オドメータ ち上げて移動 役に立つけど賢くはない (工場のロボットに近い) 15

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余談:生物の賢さ • 感覚器が発達しているほど活動範囲が広い • ただし脳と筋肉もバランスよく発達 • 脳が想定する範囲を超えると頓死 • 例1: ミミズ 定置網(農水省のサイトから) • 例2: ブリ • 遠くが見える • 接触センサーしか持たない • ミミズより脳も筋肉も発達 ブリは定置網 • 危険→のたうちまわるだけ から出られない • 定置網から出られない • 空間という概念はたぶんない • GNSSのアンテナを • 横紋筋を持たない(必要ない) つけてもたぶん無理 • 路上に死す 良いセンサを積んだだけのロボット →ミミズより少しマシな程度の知能 2023年5月10日 ※注意: ミミズにも すごいところはある ロボットフロンティア@中部大学 16

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どうすればブリや鳩を超えられるのか? 2つの異なる研究のアプローチ • 学習に賭けてみる • 人工ニューラルネットワーク • その他機械学習 学習器に確率を計算する構造が出現 • 状態方程式、観測方程式を拡張 して制御理論をアップデート →確率ロボティクス • これからやります 例: サポートベクターマシン→変分推論 結局は一緒で状態推定でも制御でも確率が重要 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 17

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余談:統計も重要 • 脊椎動物の行動は論理的ではない • 人間にいじめられた動物 →優しい人からも逃げる • 飛行機がどういう原理で飛ぶか知らない →毎日飛んでるから乗る • 真面目に考えると時間がもったいない(ことが大多数) • 我々は日々、雰囲気と直感で生きている • 就活も雰囲気(周りや先輩を見たり直感で考える) いい加減だが統計的な発想とも言える (知能の正体?) 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 まともには扱ってないが 余談でいろいろ書いた 18

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さらに余談:自由エネルギー原理 • フリストンが2006年に提唱した脳の情報理論 • (大雑把に言うと)脳のやってることは確率の計算 • 認識: 変分推論 • 行動: サプライズ最小化 • サプライズ: ベイズの定理の分母の小ささ 次回やります 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 19

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確率ロボティクス • 世間では自己位置推定やSLAMのイメージ • 実際:状態方程式、観測方程式を次の式で扱う制御理論 • 𝑝𝑝は「確率分布」を表す • 状態𝒙𝒙𝑡𝑡 も確率分布で表される(1つに決めつけない) • 𝒙𝒙𝑡𝑡 ~𝑏𝑏𝑡𝑡 (𝒙𝒙) なんか難しそうなのでぼんやり理解していきましょう (これも確率ロボティクス的なアプローチ) 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 20

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確率分布 • 未来のこと、分からないことを占うもの • 起こることを1つに決めないで何が何割で起こるか(=確率)示す • 起こることが無限にある場合は密度で示す • 密度: 積分したら確率になる値 確率 Y 1/6 高密度 1 2 3 4 5 6 (普通の)サイコロの例 2023年5月10日 このへん にいそう 𝑥𝑥 低密度 X (向きを考えないときの) ロボットの位置の例 ロボットフロンティア@中部大学 21

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状態を確率分布で考えるメリット • 決めつけないでよい • センサが信頼できない/情報を送ってこない場合 →「ここらへん」と表現可能 • ロボットに「分からない」 を分からせることが可能 • 行動を思いとどまらせる • 真の賢さ? ゴール このまま下がる とぶつかる! 自著「詳解確率ロボティクス」より転載 2023年5月17日 ロボットフロンティア@中部大学 22

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まとめ • 従来の基本的な制御理論の限界 • 未来や観測の不確かさを誤差程度にしか考えない • 確率ロボティクス • 確率分布を陽に表記することで不確かさに正面から取り組む • 分かってないことを分かってないとして扱う • 制御理論の延長線上にある • 知能を考える上での道具の1つ • 残る問題 • どうやって状態の確率分布を求めるの?→続きは次回 2023年5月10日 ロボットフロンティア@中部大学 23