14K Views
February 09, 24
スライド概要
すべてはプラトンにはじまる。「国家」「ティマイオス」で、浮世離れした絶対的な神を考える一方、それがこの浮世を作ったのはなぜかを考えるため、プラトンは全然ちがう話をする。その「異世界性」「この世性」の対立が現代まで続く。このよの存在を正当化するため、それは神さまが善をあふれ出させた、という主張が出た。だから世界は神さま性で充満している。でもその濃淡の差で、被創造物には階級/段階がある。これが「段階性の原理」。さらに、それらが途切れると、すき間ができて充満できない。だからすべては連続しているという「連続性の原理」が出てきた。この原理がその後二千年の西洋思想を支配する。
特になし
『存在の大いなる連鎖』 第2講:ギリシャ哲学におけ る観念の創成:三つの原理 アーサー・O・ラヴジョイ をもとに 山形浩生が作成 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 1
本書で扱う観念は「異世界性」と「この世 性」のせめぎあいから生じた。 • 異世界性:この世とは隔絶した完璧な神さまの世界! • 神さまは完璧で永遠で全能で最高で、あらゆる「善」の頂点で、「一者」で 「最高叡智」で「第一動因」で云々。 • だから神さまの世界は、ぼくたちのいるこんな卑しい世界とはまったく無縁 で、自足していて、肉体なんかない観念/思惟/イデアの世界なんだ! • この世性:神さまはこの世があってこそ輝く至高存在 • 「善」も「至高」も相対的なものじゃん。卑しいぼくたちの存在のピラミッ ドがあるからこそ、その頂点にいる神さまが輝くんだよ! • (その他いろんな屁理屈あり) • この両者のバトルが、2000年以上の西洋形而上学と神学を支配する クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 2
「充満性」「連続性」「段階性」 • 「この世性」を維持しつつ、神さまがスーパー偉いという「異 世界性」を温存しようと、この第2講の題名に出てくる三つの 原理が登場: • 充満性:宇宙は叡智/神の善等々で、満ち満ちている! • 段階性:存在にはどの尺度で見ても、高い方から低い方へのグ ラデーションがある • 連続性:充満しているから、すべての存在は定性的にも定量的 にも連続しているよ!だって連続してないと、すき間ができて 充満しないじゃん! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 3
(第2講の話はホントこれだけ) • あとは、プラトン対話編に書かれた主張はプラトン自身のものかと いう議論が延々紹介され、さらに各種の議論が細かく、各種の引用 を交えて提示されているだけ。 • なぜこんな変な話に西洋人が2000年もこだわったのかはわからない。 • だから普通の人はここまででいい (つーか、ここまでの話も「それ を知ってどうする」という話ではある) • が、興味あればもう少し詳しくしたので続きをどうぞ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 4
異世界/この世はどっちもプラトン発 • 『国家』と『ティマイオス』にどっちも出てくる。 • 特にあとのほうの、神秘主義的な部分にそれが顕著。 • そういう部分をプレイダウンしてプラトンを合理化したがる一派も大 きいが (リッターとか)、苦しいと思うなあ。 • プラトンとしても、高尚で気高いイデアのイデアのイデアをいろいろ 考えつつ、それでこのいまいる世界の存在がまったく説明できないと いうのには不満だったんでしょうねえ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 5
異世界性:神は完璧だからこの世なんか不要! • 神さまは人間と隔絶した想像も理解も絶するすげえ存在!!それが真の世界よ!! • 神の世界は、完全無欠の純粋観念のイデアが、完成形で永遠に時間からも逃れてうろついてる光の 世界なんだ! • 神さまはその中でも、イデアのイデアである最高の「善」なんだ! • この世なんて、出来損ないだ! ぼくたちは洞窟の中で、そのすごい世界から発する光のつくる影を 見てるだけなんだぜ。 • 神は完結してるから、自分以外に何も必要としない。ぼくたちの崇拝も信仰も善行もいらないん だ! この世界もいらない! • (言っとくけど、こんなことを「信じてる」という連中はみんな、口先だけのペテン師だ からね!これが真の世界と言う連中だってこの現実世界を本気で否定なんかできないん だからね!) • でもそれなら……この不完全で時間も限られてるこの世界を、神さまはなぜ作ったの? クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 6
この世性:不完全なこの世も必要なんだ! • 神さまは「善」ってことはケチじゃないよね。だから何でもくれるんだ。 それどころか完璧すぎて、その性質上どんどんあふれて下々の存在に善と か叡智とかいろんなもの与えるんだよ! • 神は完全ってことは、あらゆる可能性を網羅するってことだろ。つまり完 全でないものも実現しないと。不完全な世界こそ神の完全さを示すんだ! • 神さまが直接こんな卑しい世界を作ったんじゃなくて、かなり完璧だけど 一段劣る、魂とか理性を作ったんだ。そいつらがデミウルゴスとしてこの 世を作ったんだよ (だから神さまは直接タッチしてないんだよ) • この世は、未完成だけど完成しようと頑張ってる発展途上の世界なんだよ。 完璧になるんだけど、まだなってないだけ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 7
バカな問題に思えるが、昔の人は必死だった • 形而上学や神学はこんな質問に答えようとした。 Q1: Q2: なぜこんな発展途上の世界がなければならないのか? この卑しい世界にどれだけのものがあるのか決める原理は? • 「そんなのわからないよ」「この世界は偶然できただけだよ」「世 界なんてもっといい加減なものだよ」で現代人なら片づける話。 • でも当時の人は世界をなんとか合理的なものとして理解したがった。 • 存在には理由があり、根拠があると信じたかったのだ クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 8
答え: すべて神さまの性質からの必然 • A1:神さまはきまぐれでこの世を作ったのではない。その性質から必然 的に作ったんだ! • 神さまは完全すぎて偉さ/叡智/命/にあふれてるので、自分以外のものにそれがどん どんあふれ出るのも当然/必然だろ? そうやって神さまはすべての源泉になってい るんだ! • A2:神さまはケチじゃないからあらゆるものを作った。それも、現存する あらゆるもの、ではすまない。考えられるあらゆるものを作ったはずだ! (でも、これはプラトン自身の洞窟のイドラを完全にひっくり返している。 もはや神は絶対的なものではなく、洞窟やその影があるからこそその偉い 性質を保証される、従属的なものになってるよね。) クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 9
充満性の原理:すべては (神に)満ちている • 神さまの作った世界には、神さま性が満ち満ちているはず。 だってすべて神さまが作ったのですもの。それに、無限にあふ れ出てくるのですもの。 • すきまがあったらそれは、神さまの能力の限界を示すことにな るだろ。そんな限界はないので、すき間はない! • よって宇宙は神さま、ひいてはその被創造物で充満している。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 10
段階性の原理 • 充満してても、やっぱ世の中同じじゃないよね。 • 天使、人間、動物、植物、無生物、有象無象と、物事には序列 /グラデーションってものがある。それぞれの中を見ても、さ らに序列があるのは明らかだよね。 • 神さまからの距離によって、神さまに近いえらいものから、神 さまから遠いダメなもの、という具合に、濃淡がある。これが 段階性の原理 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 11
連続性の原理 • 充満してすき間がないってことは、つまり途切れたりしちゃだ めだよね。 • いろんな区分があるけど、その中間もあるよね。動物と植物の 間には、どっちかわからない海面とかイソギンチャクとかいる じゃん。人と動物の間にはどっちつかずのサルもいる。 • だから定量的にも定性的にも、すべては連続していてとぎれな いんだよ! 何か尺度を使って万物を一列に並べるとまったく途 切れないんだよ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 12
アリストテレス:区分と連続 • アリストテレスも、この流れに二重の貢献をしている。 • アリストテレスはきっちりした分類学の祖と思われている。 • 一方で、「自然を実際見ると、そんなきれいに別れず、中間 的なものが結構あるよね」と言っている。 • ここから、アリストテレスはすべてが区分なく連続し ている、という連続の原理の始祖にもされた。 • さらに「一つの性質に注目すれば、万物をその性質の 濃淡で一列に並べて序列をつけられる!」という段階 性の原理の支えにもされた。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja サル 人 アウストラロピテ クスとかオリバー くんとか 「人」と「サル」が重なる。それが 一つだけあって、その範囲 (限界) は 両方の区分に共通。 もしそうならアリストテレス的には 人とサルは連続。 13
新プラトン主義も、これの壮大なこじつけ • 新プラトン主義の「流出説」はいまの充満の原理そのもの • 「悪」は「善」の欠如で、神さまはいろんな欠如状態も作れる んだぞ、と示すために様々な善の欠如状態を作った、とプロ ティノス。 • 連続性の原理も段階性の原理も明確に出ている。 • これだと、すべては無限の種類が必要になるが、プロティノス は無限が嫌いだったので「有限だけどそれ以上の数を考えるこ とはできない有限数」とかいう屁理屈をこねている。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 14
(訳していての感想) • 明らかに言われている内容は、プラトン以下。屁理屈とこじつけの連続。 • ラブジョイ自身も、それはわかっている。各種論者の変な主張をとってき て、それをおもしろがっている雰囲気さえある。 • その一方で「それは一種の比喩だよね」と片づけられず、むしろ多くの哲 学者は、それを本当に文字通りに受け取っていたのだ、というのも強調す る (リッターの合理的なプラトン解釈を延々と紹介して疑問視するのもそ のため) • なぜ昔の人はそこまでマジにこの説を解釈せねばならなかったの?世界が 理性的な場所だと思いたかったから、とは述べるが、それがこれしかな かったのか? これに対する答は……本書では結局説明されない 。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 15