ハンセン病を正しく理解しよう!

1.2K Views

October 31, 24

スライド概要

教室の勉強会で使用したスライドです.

profile-image

岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

ハンセン病を正しく理解しよう! 下畑 享良 おもに国立感染症研究所のHPを参考に作成 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/468-leprosy-info.html

2.

ハンセン病とは 皮膚と末梢神経,眼を主な病変とする抗酸菌感染症 • 1873年に「らい菌(Mycobacterium leprae)」を発見したノルウェーの医師 Armauer Hansenの名前をとって,「ハンセン病」と呼ばれる. • 途上国を中心に患者がいる. • 我が国でかつて,「癩・らい(=病気でただれるの意)」などと呼称され, 差別的ニュアンスを含む病名で,差別・偏見を助長した歴史がある.

3.

ハンセン病をめぐる差別の歴史 厚労省作成パンフレット https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/01/dl/h0131-5i プロミン→リファンピシン→多剤併用療法

4.

私が当時のハンセン病をめぐる状況を学んだ小説 北條民雄(1914-1937) 徳島県出身の小説家 ハンセン病となり隔離生活を余儀なく されながら,自身の体験に基づく短編 小説「いのちの初夜」などを遺した. 川端康成が支援した. ハンセン病の診断を受けた主人公・ 尾田が,療養施設に入所した日と その夜に起きた出来事や感じたこと を描いた小説.

5.

https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=5GgIcVND9LI 国の隔離政策は差別を助長した.特効薬ができたあとも継続された 複数の YouTube 動画があるのでぜひ見て知ってください!

6.

国は政策の誤りを認めたが,差別や偏見は根強く残り, 今も元患者の多くが療養所で暮らしている https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211223/k10013400201000.html

7.

日本では毎年数名の新規患者の発生で,過去の病気になった 新規患者は減少,高齢化 沖縄県出身者が半数を占める 在日外国人患者はブラジルなどが多い 世界では年間約22万人の新規患者. インド,ブラジル,インドネシア,ナイジェリア, エチオピアなど. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/468-leprosy-info.html

8.

らい菌は感染力が弱く,かつ感染しても ハンセン病になることはほとんどない • 「らい菌」は感染力が弱く,非常にうつりにくい • 菌を多くもつ未治療患者からのヒト対ヒトの飛沫感染といわれている • 乳幼児期に長期間感染源に接触した場合,感染しうる • 末梢神経障害が出現するかどうかは免疫力,衛生状態,栄養などが関係 するが,現在の日本の衛生状態や生活環境では,「らい菌」に感染しても ハンセン病になることはほとんどない.

9.

• 31℃前後が増殖の至適温度のため皮膚を好んで侵す. • 末梢神経(シュワン細胞)に親和性があり,末梢神経障害をきたす. • 心・肺・肝などが侵されることは極めて稀で,死に至ることはほとんどない.

10.

ハンセン病の症状 宿主の反応によって多様な病変を示す • 自覚症状のない治りにくい皮疹 • 白斑,紅斑,環状紅斑,結節など多彩 • 皮疹にほぼ一致した知覚鈍麻や運動麻痺 (らい菌による末梢神経障害) • 手指の潰瘍,Charcot関節→防止が重要 • 毛根や汗腺の障害による脱毛や発汗低下 環状紅斑

11.

ハンセン病の末梢神経障害は 感染による直接的な神経損傷と免疫反応による障害により生じる • 低温環境下で繁殖するため,顔面,三叉,尺骨,腓骨神経など 表層の神経が障害を受ける(尺骨神経単独もあり) • 神経肥厚(大耳介神経,尺骨神経,橈骨神経,総腓骨神経など) のため絞扼性ニューロパチーを • 多発単神経炎が多い.上肢がしばしば侵される • 自律神経障害が顕著なこともある • 神経伝導検査:初期 脱髄型→進行期 軸索型 神経肥厚(大耳介神経)

12.

ハンセン病の診断 • WHOは、以下の3項目を一つ以上満たす場合をハンセン病と定義している − 明らかな知覚脱失を伴う,脱色素あるいは赤い皮疹(単発あるいは多発) − 末梢神経の障害で,知覚脱失を伴う明らかな末梢神経肥厚がある − 皮膚からの抗酸菌塗抹検査が陽性 • 日本では知覚症状を伴う皮疹,神経障害(知覚,運動,肥厚),らい菌(スメア検査, PCR検査,病理組織検査),病理組織の4項目を総合して診断している.

13.

ハンセン病の病型分類は菌数や免疫反応により行う 少菌型 皮膚スメア陰性もしくは皮疹が1~5個 類結核型 らい腫型 多菌型 皮膚スメア陽性もしくは皮疹が6個以上 Ridley-Jopling分類 発症初期のindeterminate[I群] 免疫応答の高いtuberculoid[TT]型 まったく反応しないlepromatous(LL)型 これらの中間型のB群 borderline tuberculoid[BT]型 mid-borderline[BB]型 borderline lepromatous[BL]型

14.

ハンセン病の病型分類は菌数や免疫反応により行う 細胞性免疫の強さで病型が変わる 類結核型 らい腫型

15.

少菌型 限局性病変 多菌型 広範な病変

16.

少菌型 多菌型 矢印は神経の枝 周囲の炎症所見 肉芽腫形成 Fite染色: らい菌の染色 Neurotherapeutics. 2021 Oct;18(4):2337-2350.

17.

矢印 シュワン細胞に感染したらい菌 点線矢印 脱神経が起きたシュワン細胞 矢印 点線矢印 らい菌 髄鞘の破壊 Neurotherapeutics. 2021 Oct;18(4):2337-2350.

18.

治療は多剤併用の抗菌療法が確立しているが 神経障害を防ぐには至っていない • 神経障害(神経炎,らい反応)を起こさず,らい菌 を生体から排除することが目的. • WHOの推奨する多剤併用抗菌薬を少菌型では 半年,多菌型では数年間内服する • 既に損傷した神経機能の回復は難しい. • 急性の神経炎には,コルチコステロイドが用いら れることが多い. • 外傷,Charcot関節,やけど防止の教育も重要 リファンピシン(RFP),サルファ剤(DDS), クロファジミン(CLF)

19.

Neurotherapeutics. 2021 Oct;18(4):2337-2350.

20.

らい反応(leprosy reaction)に伴う leprous late-onset neuropathy • 治療に関連して,らい菌の菌体成分に対する免疫反応が生じ,急速な末梢神経の障害 (疼痛,運動麻痺)や皮疹の再燃・新生,発熱等が起こる(らい反応). • らい反応では重い神経障害をきたし,後遺症を残すことがあるので早期の対処が必要. • Type1反応 細胞性免疫の上昇に伴うIV型アレルギー反応.境界反応ともいう. 皮膚症状と急性神経炎.治療は免疫抑制剤(ステロイドなど) • type2反応 菌由来の抗原が抗体と結合し沈着することで発生するIII型アレルギー反応. 多菌型に多い.高熱,急性神経炎.様々な部位での炎症.サリドマイドなど