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February 11, 23
スライド概要
滋賀県立総合病院がん診療セミナー 2023/1/26
滋賀県立総合病院 化学療法センター 腫瘍内科医
滋賀県立総合病院がん診療セミナー 2023/1/26 大腸癌の化学療法は何のためにあるのか 滋賀県立総合病院 消化器内科 後藤知之
大腸癌の抗がん剤治療には大きく2つの目的がある 手術後の再発を予防するための治療(術後化学療法) 切除手術後に体内に残った「目に見えないがん細胞」をやっつけて 再発予防を目指して行う抗がん剤治療 がんの進行を遅らせて延命するための治療(緩和的化学療法) 得られる治療効果と副作用や体力的負担との「バランス」を保ち 寿命の延長や症状の緩和を目指すための抗がん剤治療
抗がん剤治療を何のために行うのかを知ることが大切 • 抗がん剤治療をはじめる前に、目指すべきゴール(何のためにその治療があるのか) を見極めることが大切です。 • そのゴールの認識を、主治医だけでなく、看護師や薬剤師など医療チームで共有し、 また治療を受ける本人にも理解してもらう必要があります。 • 目指すゴールの認識があいまいだと、効果の乏しい治療を行ってしまったり、副作用 が起こったときに「攻めるのか守るのか」の判断がぐらついてしまいます。
手術後の再発を予防するための治療 (術後化学療法)
手術後の再発を予防するための治療(術後化学療法) • さまざまな治療が進歩しても、大腸癌の治療の中心は手術です。 手術で大腸癌を切除した場合にも、体内のどこかに目に見えないミクロながん細胞が 残っていて、これが将来の再発の原因となります。こういった目に見えないがん細胞 の生き残りを抗がん剤でやっつけるための治療が術後化学療法(補助化学療法)です。 • 主にステージIIIで大腸癌手術を受けた方が対象になりますが、ステージIIでもリスク が高い方(腫瘍が大きかったり、腸閉塞を来していたりする方)にも行うことがあり ます。 • 大腸癌全体では17%程度、ステージIIIに限れば30%程度の再発率があります。 この再発をできるだけ減らすのが術後化学療法が目指すべきゴールです。
術後化学療法はどのような治療が行われますか • 手術の4〜6週間後頃、手術の傷が治ってきて体力も十分回復していれば術後化学療 法を開始します。 • 一般的には約6ヶ月の治療を行いますが、最近は再発リスクがそれほど高くない場合 は半分の約3ヶ月で終えても効果に遜色はないというデータも出てきています。 FOLFOX療法 XELOX療法 カペシタビン療法 使う薬剤 5-FU(2日間の持続静注) レボホリナート(点滴) オキサリプラチン(点滴) カペシタビン(内服) オキサリプラチン(内服) カペシタビン(内服) 中心静脈ポート 必要 不要(あっても良い) 不要 通院間隔 2週間に1度 ×12回 3週間に1度 ×8回 3週間に1度 ×8回
大腸癌の術後化学療法の効果はどれくらい? • ステージIIIでは手術後に約30%の方が再発すると言われていますが、術後化学療法を 行うとその再発を2割程度下げることができます(100人中23〜24人程度が再発) 手術のみ 再発あり 再発なし 手術+ 術後化学療法 術後化学療法での改善幅=術後化学療法の恩恵を受ける群
大腸癌の術後化学療法を受けるデメリットは何ですか? • 化学療法による副作用が出現する • 白血球減少・悪心嘔吐・皮膚障害(手足症候群) • 末梢神経障害などのように化学療法終了後も長期間(人によっては生涯)残存することもある • 化学療法を行わなくても再発しない7割の人にとっては、 (結果的に)必要のない治療になってしまう • 行わなくてもよかった無駄打ち・過剰治療となる • ただし、手術終了時点では自分が7割に入るかどうかは 当然ながら患者本人にも主治医にもわからない! 手術+ 術後化学療法 再発あり 受けたのに再発した! 再発なし せっかく副作用のある治療をしたのに 結果的には必要なかった!
より再発リスクが高い人を拾い上げるための工夫 • より効果の大きい層に治療を効果的に行い、逆に効果が出にくい層に無駄な侵襲的な 治療を加えない • 手術後に各種遺伝子関連検査を実施する • すでに保険適用となっている検査として RAS遺伝子・BRAF遺伝子・MSI(マイクロサテライト不安定性)で より術後化学療法の恩恵を受けやすい層を拾い上げる • 血液中をただよう腫瘍由来DNAの断片(ctDNA)を用いて、 より再発しやすそうな人に強力な治療を行う一方で、再発しにくそうな人には術後化 学療法を行わないという最適化を目指す研究が進められている。
がんの進行を遅らせて延命するための治療 (緩和的化学療法)
進行がんや再発例での化学療法(緩和的化学療法) • がんが進行して手術ができなかったり、一度手術をしたあとの再発・転移例では、 抗がん剤によってがん細胞の増殖を抑えて延命効果や症状緩和を期待する治療が行わ れます。 • 対象となる方は肝臓や腎臓の働きが保たれていて、ある程度元気であること。 おおまかな目安として歩行や食事が十分可能で自分の身の周りのことができる方。 最重要なのは、本人が抗がん剤治療を受けることを希望していること。 • 残念ながら手術不能な段階ではほとんどの場合、抗がん剤治療はがんを縮小させたり 進行を遅らせることはできても完全にがんを治してしまう(根治)ことはできません。 延命効果は今では平均的な患者さんで2〜3年と言われています(個人差あり)。
進行がんや再発例での治療で気をつけることは? • できるだけ、それまでの生活に近い暮らしを送ることが治療の目標になります。 • 体力的に余裕がある局面では積極的な抗がん剤治療を行うことが可能です。 しかし衰弱した状態で日常生活を送ることが難しくなった場合には、無理に治療を続 けることはあまりおすすめしません。 • 高齢であるほど、また体力が低下している状態であるほど、抗がん剤治療の副作用は 出やすく、効果は低下します。事前によく相談し、治療を受けるかどうか決めること が重要です。 • ほとんどの抗がん剤治療は、入院ではなく通院で治療を受けることが可能です。 (別の言い方では、通院治療ができない全身状態では抗がん剤治療自体が難しい)
緩和的化学療法の限界を知ることも大切 • 抗がん剤治療は、最初の治療が最も効きやすく後半になるほど効果が落ちてきて、い つか治療を中止する時期が来ます。 各種臨床試験のデータ 一次治療 二次治療 三次治療 臨床試験での奏効率 (腫瘍が縮小する患者の割合) 50〜70% 10〜20% 10%以下 無増悪生存期間の中央値 (がんが悪化せず過ごせる期間) 8〜13ヶ月 4〜6ヶ月 2〜5ヶ月 大きく低下 • 抗がん剤治療に最善の効果を期待しながらも、「今の治療が効かなくなったらどうす るか」「抗がん剤治療を継続できなくなったときにどのように過ごしたいか」は、 抗がん剤治療ができなくなる前から考えはじめ、相談をしてゆくことが大切です。 (最善を願いながら、最悪に備えよ。最悪を想定して準備し、最善を願おう。)
まとめ
抗がん剤治療のゴールを知って上手に使おう • 大腸癌の抗がん剤治療には、大きくわけて「再発を抑えるための術後化学療法」と 「進行を遅らせるための緩和的化学療法」があり、目指すところは大きく違います。 • 目指すゴールに応じて、必要とする治療強度やどの程度まで体力に負担を掛けてよい かをよく相談する必要があります。 • 抗がん剤治療を何のために行うのか、どのような限界があるのかを知り、 その治療を行ったあとのことまで想定してどのような道を進んでゆくかを考えてゆく 必要があります。
当院の外来化学療法センターをご紹介します 外来棟2階 消化器系・血液・乳腺診察室に隣接 25床(ベッド10+チェア15) 6000〜7000件/年の抗がん剤治療を 外来化学療法センターで実施