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October 17, 23
スライド概要
名古屋大学で実施している地域公共交通コーディネーター・プロデューサー養成プロジェクトにおける、東京大学の伊藤昌毅の発表資料です。
井原雄人(早稲田大学)先生の講義の副担当として、ITの専門家としての話題提供を行いました。
http://orient.genv.nagoya-u.ac.jp/kyoso.htm
伊藤昌毅 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 准教授。ITによる交通の高度化を研究しています。標準的なバス情報フォーマット広め隊/日本バス情報協会
2023年10月16日 名古屋大学 地域公共交通コーディネーター・プロデューサー養成プロジェクト リレーレクチャー第1回 ふつうに考えるITシステムの導入を 交通にあてはめてみる 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 伊藤昌毅
ほんとうにこれでいいのか?
前提: • メニューから選ぶ – 業者が提案するアプリやシステムを並べ、良さそうなものを導入す る • 欲しいもの・必要なものを思い描く – システムへの要望を主体的に取りまとめ発信 – たまたま既存アプリと近ければそれを採用
ITはこの30年、様々な業務領域に浸透してきた 1995 Windows 95 インターネット 1999 iモード登場 2000年問題 2ちゃんねる 2005-6 YouTube Facebook Twitter 2007 iPhone発表 2010 Uber開始 2011 LIne開始 2016 マイナンバー カード 2022 ChatGPT
ITを「作らせる」技術も発展 • ITの浸透によって社会の様々な領域でITシステムを使うことに – そもそも軍事領域、国家レベルで導入が始まり、1960年代の国鉄(みどりの窓 口)は世界的にも最先端事例 • 「どうしたら望ましいシステムを作れるか」の技術も発展 – プログラマ、IT専門家ではない人にとっての方法論
IPAは500ページのマニュアル を無料公開 • ユーザ企業の経営層、担当者などを想定 • ノウハウを暗黙知に留めない努力 https://www.ipa.go.jp/publish/tn20191220.html
あなたはどの立場ですか? 作る人 使う人 使わない人
プロデューサー: 作らせる人! 作る人 作らせる人 選ぶ人 使う人 使わない人
現代のモビリティにおいてITは「作る」対象 • 車両や付帯設備 – 旧来のコア技術 – 今は洗練されており、存在するモノを選定すればいい(自動運転を除く) • 人事マネジメント – 労働集約型産業において、労働争議などが頻発した時代におけるコア技術 • ダイヤや路線 – 従来は交通事業者が考えてくれた – 今は「プロデューサー」が必要 • IT – 公共交通の成長・発展の原動力 – 発展途上でありながらサービスの品質に直結するため十分な関与が必須
作らせる人に必須の技能 • 業務を理解し「作る人」が分かるように説明する技術 – 曖昧さなく業務の詳細を理解し、その理由や背景なども含めて説明出来ることが 重要 – 現場の工夫や勘でうまくやっていることも説明出来るように • プロジェクト関係者と調整して合意させる技術 – 場合によっては現在の業務を変えさせることも辞さない • ITそのものの専門知識は要らない! – プログラミングは出来なくていい。「どう説明したら通じるか」という部分に専 門スキルがある
IT産業の多重構造の中でより良いものを より安く作るためには? • 伝言ゲームが複雑になるほど、コストも掛かり、品質も下がる – プロデューサーはIT企業と公共交通事業者の中間に位置する • ほんとうに「通訳」を挟んだらいいのか? – むしろ自分がIT企業が理解出来る言葉を話せるようになるべきでは? 伝言ゲーム コスト 伝言ゲーム コスト 伝言ゲーム コスト 伝言ゲーム コスト 伝言ゲーム コスト
地域公共交通プロデューサーになるなら、 ITのプロデューサーにもなる必要が!
実際には…
補助金駆動型の交通IT、という実状 • 実際には、キーワード主導で国交省の助成・補助金が事業化さ れている – 細かい要件があり、やれる人、やれることは限られる • IT企業: – 補助金の要件を満たすような(≠利用者や地域に役立つような)サービスや製品 を開発し自治体などに売り込む • 自治体: – 補助金を狙った売り込みを受けることになる – ITサービスをまず自分で考え、企画するというマインドを失う • そもそも自治体はITの内製能力を長期的に失ってきている
• x https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu//tsukuro/shien/pdf/R4/R4hosei_zentai.pdf
例: 日本版MaaS推進・支援事業 • 1 応募主体 都道府県若しくは市町村 (以下「地方公共団体」 という。)、地方公共団 体と連携した民間事業者 又はこれらを構成員とす る協議会 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000208.html
ITの特性に全く合わない投資 • 数百万円のアプリを量産してなにが残る? 国交省○○ 事業 自治体A アプリ企業 A 自治体B アプリ企業 B 自治体C アプリ企業 C 自治体D アプリ企業 D https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000469.html
IT製品: ひとつ作るのはとても大変、コピーは一瞬 (限界費用ゼロ) • 普通のIT企業はひとつシステムを作り、可能な限りたくさんの 相手から収入を得る – 例: Windowsは年収数千万円のプログラマを数百〜数千人集めて開発し、全世 界の何億台のコンピュータにコピーして販売 • 数十個のアプリを別々に作るとしたら、低品質、その場限りの ものを適当に作るしかない – 産業として残らないから技術が進歩しない
ITの特性を引き出すためには 国交省○○ 事業 自治体A アプリ企業 A 自治体B アプリ企業 A 自治体C アプリ企業 A 自治体D アプリ企業 A 同じアプリ・システムを ちょっとだけ変えて販売
標準化: 「作らせる」こととITの特性を 両立させるキーワード
ITの品質向上や継続性を高めるために • 複数の都市、エリア、事業者のシステムを共通化 – 様々なユーザから収入を得るため、投資が可能 – 様々なユーザの要求に触れることで機能が向上 • 産業として継続出来る • 「コンビニ」の仕組みに近いかも – 店舗の形、ITシステムなどは共通。発注パターンを変えて地域特性に対応 • これを実現するためには、本質的な要望を突き付けられる複数の ユーザが継続的にシステムを育てる必要
課題 • 発注者のスキルセット:「作らせる」人になれているか? – 業務知識を理解、記述出来ているか • 補助金行政とのミスマッチ – IT産業に適した市場を作れているか? – 公的事業として産業を作る必要 • IT産業からの熱意 – 引っ張りだこのITの人が、敢えて交通に関わろうとするか?