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April 11, 24
スライド概要
投資の世界における生成AI ~可能性と脅威~
水田孝信
本発表資料は所属組織の公式見解を表すものではありません.
すべては個人的見解であります.
公益社団法人 日本証券アナリスト協会 講演会 講演日(2024年4月12日) 投資の世界における生成AI ~可能性と脅威~ https://www.saa.or.jp/seminar/news/pdf/240412.pdf スパークス・アセット・マネジメント株式会社 運用調査本部 ファンドマネージャー 兼 上席研究員 水田孝信 mizutata[at]gmail.com @takanobu_mizuta (twitter) https://mizutatakanobu.com 本発表資料はスパークス・アセット・マネジメント株式会社の公式見解を表すものではありません. すべては個人的見解であります. この資料はこちらにあります: https://mizutatakanobu.com/2024saa.pdf 1
自己紹介 2000年 気象大学校卒業 2002年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程修了 研究内容:宇宙空間プラズマのコンピュータシミュレーション 2004年 同専攻博士課程を中退 同年 スパークス・アセット・マネジメントに入社 2006年 クオンツ・アナリスト → 2010年より ファンド・マネージャー 2009年 人工知能学会などで研究発表を始める 2011年 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻博士課程 社会人をしながら在籍 指導教官:和泉潔先生 研究内容:人工市場を用いた金融規制のシミュレーション 2014年9月修了: 博士(工学) 2017年度より 上席研究員兼務 現在:上記の学術研究、資産運用業界全般の調査・レポート、ファンドの管理的なマネージャー、 株式市場やポートフォリの定量的分析(のためのシステム開発・運用) 2007年 日本証券アナリスト協会検定会員 2014年度から2022年度まで 東京大学公共政策大学院 非常勤講師 2016年度より 人工知能学会 金融情報学研究会幹事 2022・2023年度は主査 2019年より IEEE CIS Computational Finance and Economics Technical Committee メンバー 2024・2025年 Chair 2
著作物や資料:もしご興味あればご覧下さい 本業の調査:AIや高速取引や資産運用業界についてのレポート 学術研究:人工市場による市場制度の設計 https://www.sparx.co.jp/report/special/ (主なレポート) 2023/10/23 株式投資で気候変動を考慮することに賛否があるのはなぜか?[概要編] 2023/8/3 投資の世界における生成AI https://www.sparx.co.jp/report/detail/1144.html 2023/6/6 関東大震災から100年~今同じことが起きたら株式取引は継続されるか? 2022/12/15 新技術の悪い影響とそれを乗り越えてきた金融市場 2022/10/7 学術研究力に直結する大学の資産運用 2022/6/28 ROEと資本コスト:その企業の価値はいくらか 2022/4/7 世界的な株式の決済期間短縮化:T+1への統一が進むか? 2021/11/15 金融市場の制度設計に使われ始めた人工市場 2021/9/8 金融市場で使われている人工知能 2021/8/16 続・市場は効率的なのか?実験市場や人工市場での検討 2021/4/12 "フラッシュ・クラッシュ・トレーダー"と呼ばれた男はフラッシュ・クラッシュとは あまり関係なかった:高頻度取引との知られざる戦い 2020/12/22 市場は効率的なのか?検証できない仮説の検証に費やした50年 2020/9/15 なぜそれらは不公正取引として禁止されたのか? 2020/8/4 人工知能が不公正取引を行ったら誰の責任か? 2020/7/3 お金とは何か?-古代の石貨から暗号資産まで2020/1/24 国際資本の舵を取ってしまったグローバルインデックス算出会社 2019/9/18 アセット・オーナーが行っている投資: "悪環境期に耐える"と"ユニバーサル・オーナー" 2019/7/8 社会の役にたっている"空売り“ 2019/4/3 高頻度取引(3回シリーズ第1回):高頻度取引とは何か? 2018/5/21 なぜ株式市場は存在するのか? 2018/3/2 パッシブファンドの新たなる論点「水平株式保有」 2018/2/16 アクティブファンドが超えてはいけない規模 2016/12/2 良いアクティブ運用とは? -対ベンチマーク運用の衰退と ハイリーアクティブ運用の再起- 一般向け記事(SBI金融経済研究所への寄稿) 人工市場:金融市場のコンピュータ・シミュレーション https://sbiferi.co.jp/review/report_review_2024Mar.html .pdf https://sbiferi.co.jp/assets/pdf/review/review_202403_vol5_06.pdf 教科書的な本 高安美佐子ほか,マルチエージェントによる金融市場の シミュレーション, コロナ社, 2020,和泉潔,水田孝信, 第5章「エージェントモデルによる金融市場の制度設計」 https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339028225/ 私がよくお話を依頼されるテーマの包括的な資料 金融業界における人工知能、高速取引、人工市場による市場制度の設計 説明資料 https://mizutatakanobu.com/2024.pdf Youtube https://youtu.be/iw35lKAMicQ 3
【宣伝】 人工知能学会 金融情報学研究会 (SIG-FIN) https://sigfin.org 年2回(10月ごろと3月ごろ)東京都内&オンラインで開催 誰でも聴講可 ← 人工知能学会の会員でなくてもよい 参加費:1,000円 聴講:学者よりも実務家が多い メーリングリスト登録ページ https://groups.google.com/g/jsai-fin/about ✓ 機械学習やテキストマイニングの技術を金融実務に応用する研究多い ✓ 人工市場シミュレーションの研究もよく発表されている 本日のお話はここや人工知能学会などで見聞きしたことが中心 (私の研究の話は(おまけ)にて) 和泉先生のブックマーク(人工知能学会誌):人工知能の金融応用に関する研究会、国際的な学会、ツール類やデータなど https://www.ai-gakkai.or.jp/resource/my-bookmark/my-bookmark_vol37-no1/ 4
証券アナリストジャーナル 2月号 非常に良くまとまっている ・ これまでの技術的な発展経緯、どんなことができそうか ・ ビジネスに生かすために組織はどうあるべきか → なるべく話がかぶらないようにします 5
中の人ではないからこそできる忖度なくかつ仕組みを十分理解したうえでの解説 資産運用業界(仕事) 人工知能(学術) ボトムアップ リサーチ による投資 機械学習 ディープラーニング 生成AI (私) ↑を定量分析 で補佐 AIによる 投資 (私) エージェント・ シミュレーション (人工市場) 私は生成AIのど真ん中の人ではないが周辺の人:ビジネス上も研究上も生成AIは関係ない しかし、今日のように生成AIについてよく聞かれるので勉強している 生成AIの中の人ではなく周辺だからこそ、ポジショントークでない、忖度のない、かつ仕組みを十分理解したうえでの (すくなくとも現在の技術での)可能性と脅威の解説ができると思います “すごい”とも”すごくない”とも言わなくて良い立場だけど、少し詳しい 特に、脅威に関しては適切に話せる人が少ないのでは 6
本日のお話 生成AIはホワイトカラーの仕事効率化に大いに活躍し、仕事の仕方は大きく変わるだろう 実際私も:機械翻訳(DeepL)を良く使っています:自分が書いた英語が意図通りの日本語に戻るか確認 しかし、投資そのものでは活躍の場は限られ、むしろ相場操縦などに使われる脅威の方が大きい 本講演はシリーズ第1回ということもあり、まず生成AIの仕組みを解説し、 どのようなことに使えるか自力で見つけられるようにする そして、投資関連でどう使え、どう脅威となりえるかの例示を行う もし時間があれば私の研究分である人工市場シミュレーションの紹介も行う 参考スライドも多く含んでます -> 適宜飛ばしながら説明します (1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 7
(1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 8
人工知能学会の定義 人工知能研究 人工知能(AI)とは知能のある機械のことです.しかし,実際のAIの研究ではこのような 機械を作る研究は行われていません.AIは,本当に知能のある機械である強いAIと,知 能があるようにも見える機械,つまり,人間の知的な活動の一部と同じようなことをす る弱いAIとがあります.AI研究のほとんどはこの弱いAIで,図のような研究分野があり ます. 強いAI そもそも”理解”とは何か、といった 哲学的な論争が行われている 信原幸弘「強いAI」国際哲学研究, 別冊13, 2020 https://doi.org/10.34428/00011545 人工知能学会ホームページ https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIresearch.html AI(人工知能) ≒ 古典的統計学以外の計算機での演算手法全般 SFに出てくる”人工知能”とはかけ離れている 所詮は”コンピュータ”、”計算機”。コンピュータから別のものになったわけではない 人工“知能”と言うが、“知能”そのものを獲得したわけではない “知能”があるかのように誤解されるものを目指しているだけ 9
AIは人間にどうやって囲碁で勝ったか?機械学習の超ザックリな仕組みの説明 どうやって囲碁をさしているか?誤解を恐れずに、簡単に言えば、、、 (説明を簡単にするために簡略化していますが、当然、 もっとさまざまな工夫がなされています。) ここに打つのはどうか? 圧勝 自分同士で 何度も対戦 圧勝でも ない ここに打つ 違う手を 検討 おびただしい回数繰り返せば、かなりのケースを網羅できる 人間だと5,000年かかる → 私だって5,000年あればトップ棋士に勝てる 単純な作業を高速で繰り返すことができるのがAIの長所 10
もうちょっと詳しく(1/2) 入力データ (石の場所) ←重み 30年くらい前に発明されたニューラルネットワークを例に説明します 実際にはこれが非常に入り組んでもっと高度に工夫された ディープラーニング、トランスフォーマー、などとよばれるものが使われています 生成AIも これが高度に 結合されもの! (隠れ層) 入力データ×重み を全部足して、丸める ←重み ←重み ←重み ←重み 出力値 隠れ層結果×重み を全部足して、丸める ←答え(負け) ←出力値 出力値が答えと合うように うまく重みを調節 http://web.archive.org/web/20170824142808/http://stevenmiller888.github.io/mind-how-to-build-a-neural-network/ バックプロパゲーション AIの世界では これを“学習” とよぶ 人間の感覚ではこれで何を学習したのか? と言いたくなりますが、、、、 11
もうちょっと詳しく(2/2) 入力データ (石の場所) ←重み (隠れ層) 入力データ×重み を全部足して、丸める ←重み ←重み ←重み ←重み 出力値 隠れ層結果×重み を全部足して、丸める ←答え(負け) ←出力値 近づいた!!これを繰り返す この局面ではどこにおけば勝率が高いか自動的に発見 http://web.archive.org/web/20170824142808/http://stevenmiller888.github.io/mind-how-to-build-a-neural-network/ 12
囲碁は超細分化すれば簡単な作業に落とし込める 囲碁は、 ・ ルール、盤の大きさがあらかじめ決まっている ・ 繰り返し同じことが起こる・試せる 囲碁の打ち手は、頭が悪くても、おびただしい回数繰り 返せば、かなりのケースを網羅できる 人間より本質的に頭がよくなったわけではない 過去データのパターン分類・分析⇔新しいものを創造できない 人間は対局経験数のわりに異様に強い 囲碁というゲームを作り出したりは出来ない AIは、人間にとって有用な道具である 人間より頭は悪いが、 飽きずに、大量に、速く、 データを処理できる 1人で繰り返し練習できる 取り扱う範囲があらかじめ限定 繰り返し同じことが起きる安定性 13
Chat GPT(Generative Pre-trained Transformer) 登録すればだれでも使えます(GPT-3.5)。有料版もあり(GPT-4)。 登録にはgoogle accountやMicrosoft accountも使えます。 https://chat.openai.com/ https://apps.apple.com/jp/app/chatgpt/id6448311069 スマホアプリ版もあり (類似品に注意) 14
すごいですね、、、 15
過剰な期待はやめましょう 16
生成AIもいろいろあります、、、 Claude 3 DALL-E Sora LLM-jp 17
Chat GPTの仕組み 生成AIの例としてChat GPT(Generative Pre-trained Transformer)の仕組みを説明するが、 基本は先に述べたニューラルネットワーク。これをいかに工夫して組み合わせ、大規模にするか、 という仕方で発展。驚くかもしれないが、囲碁も翻訳も作曲も絵画を描くこともチャットも、 仕組みは大きくは変わらない。チャットの場合、翻訳とほぼ同じ。 仕組みの工夫よりもモデルの大規模化、使うデータの量を大きくしたら、 ある規模・量を超えたところで途端に精度が向上した。 仕組みはむしろ人間からな離れていっており、すべてにおいて人間に追いついたり 追い越したりはまずあり得ない。しかし、仕組みが違うからこそ、分野によっては、AIが人間を凌駕し、 逆にAIが人間に全く追いつけない分野ももあるだろう。 人間とは全く異なった長所短所をもった「道具」と考えるべき。 人類は、鳥の真似をして羽ばたいても飛べなかったが、プロペラという生き物にはないものを使って 飛べるようになった。今でも人類は鳥のようには飛べないが、鳥より速く飛べる。 AIも、人間と同じことができるようにはならないが、人間を超える分野は多く出てくるだろう。 18
哲学者からの観点 人間と生成AIが全く異なることの解説 言語学からの観点 鈴木貴之 (東京大学大学院総合文化研究) 人工知能学会誌 折田 奈甫(早稲田大学理工学術院) https://www.ai-gakkai.or.jp/resource/my-bookmark/my-bookmark_vol38-no2/ 鳥みたいなものは作れるのでは? あまり害のない生物が1種類増える感じ https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230620/pol/00m/010/005000c 脳科学からの観点 2023年度 人工知能学会全国大会 会長講演 津本周作「機械に知能を与えるということはどういうことなのか?」 人工知能学会の今の会長は、医師で神経内科の勤務経験があり、かつ、AIを研究 AIは人間の脳のうち特に前頭葉部分を実現できていない 前頭葉の障害の1つに遂行機能障害というものがあり、状況に応じた価値判断をしての 優先順位付け、臨機応変な対応、手順を1つ1つ言われなくても行動、などができなくなる これはまさにAIができないこと https://www.youtube.com/live/jtzKQ7aOMJ4?feature=share (1時間10分くらいから講演が始まります) 19
ChatGPTを分かりやすく解説した動画 分かりやすい 一般向け解説動画 (8分くらい) https://youtu.be/44Bl1ZwShxI 黒橋禎夫先生の解説 コンピュータによる言語処理を専門 短時間で正しく仕組みを解説(19分) https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 黒橋先生の説明があまりにも完成度が高いので、ここからしばらくこの発表のスライドを拝借します 20 20
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 ネット上にある文章を大量にかき集めてきて、文章の次に来る可能性が高い 単語を出力する → Chat GPTも基本的にこれです 21
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 ニューラルネットワークで”学習”できるように数値化します→囲碁と同じになる 22
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 順伝搬型ニューラル ネットワーク(NN) 再帰型NN(RNN) 予測された 次の単語を示す数値 めっちゃでかい ニューラルネットワーク (NN) ものすごい量の 入力データ 学習結果をもう一度 入力に入れる 23
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 出力した単語をまた入力する 次々と次の単語を予測し出力する 24
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 (attentionやこの後のtransformerの説明は省略しますが) この仕組みで高精度な翻訳ができるようになった 25
機械翻訳技術:生成AIの先駆け 以前の方法 DeepLが人気 文章をなるべく文章として分析 人間に似たアプローチ https://www.deepl.com/ ニュース記事や専門的な文献など堅く書かれた文章のなな め読みや、自分が書いた英語が誤解なく通じるかどうかの確 認などには十分使える 機械翻訳から最も恩恵を受けているのは翻訳家 ・日→英は結果が流暢すぎて私には間違いが分からない ・英→日は間違いが分かり使える(特に自分で書いた英) ・機械翻訳は分からないところは翻訳しない傾向あり 最近の方法 文章としての分析をあきらめ、 単語をベクトル(数値)にして 何も考えずに統計的に処理する (囲碁と同じ解き方) →飛躍的精度の向上! (2017年ごろ) 人間とは全く異なる アプローチ https://doi.org/10.11517/jjsai.34.4_437 須藤克仁, “ニューラル機械翻訳の進展 ─系列変換モデルの進化とその応用─”, 人工知能(人工知能学会学会誌), 2019年7月号 26
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 Generative: 生成的 Pre-trained: “学習”を済ませてあるモデル Transformer: NNをめっちゃうまい具合に大規模に組み合わせる組み合わせ方の1つ だったら、会話の続きも出力するのでは? 27
https://arxiv.org/abs/2206.07682 このような統計的に次の単語を当てることで精度が出るのか? → 規模を大きくしたら(必然的にその分”学習”データも多く必要になる) あるところから急に精度が上がった!:多くの研究者が驚いた では、なぜデータ量を増やすと精度が上がるのか?誰にも分かりません。 28
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 驚きの瞬間!! 29
https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 パラメータ数:重みなどの数 十分な”学習”には これの10倍くらいはデータ必要 その後人の手で大量の”学習”を行う(強化学習):人力 → 多額を費やしたとの説も (ハードや電気代も半端ない。アルゴリズムが公開されても他社が追いつけない理由の1つ) 30
強化学習のイメージ(あくまでイメージです、GTP-4) Goodボタンの効果は不明 31
生成AIの可能性と問題点 画像生成や作曲なども基本的にはChatGPTと同じような仕組み 何かを理解して生成している訳ではなく、ニューラルネットワークを駆使して統計的に 一番ありそうなものを大量のデータの中から探し出して組み合わせているだけ やっていることは従来からある(広い意味での)「検索&コピペ」を非常にうまく行うもの しかし一方で、東ロボ君ポロジェクトで明らかになったように、「検索&コピペ」すらもできない人間が多く存在し、 かつ、「検索&コピペ」だけで遂行できる仕事は意外なほど多い 問題は、ただの「検索&コピペ」であることを知らずにこれに頼り、 とんでもない間違いを放置する場合が続出しそうなこと 「検索&コピペ」の精度が高いため、間違いにまったく気づけない 2018, 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」 https://str.toyokeizai.net/books/9784492762394/ 生成AIが普及し生成AIが作ったものがネット上にあふれると、これが「検索」対象になり、これが間違っていても正しいもの として「コピペ」するため、間違いが加速する可能性すらある「データ汚染」(これを防ぐためかChatGPTは最新のデータを学習させていない) 生成AIの間違いを見つけるのは人間しかできない ますます高い能力が求められる(機械翻訳を使いこなしているのは翻訳家) 人間ができなかったことができるようになったわけではない、まだ存在しないものを新たに生み出せない。 人間が過去やったことをもう一度繰り返すことができる。人間にはまねできないほどの速さで。 能力がある人が繰り返し行う面倒な仕事や、能力がない人にやらせる仕事が生成AIの得意分野 32
(1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 33
生成AIが得意なこと・できること https://edx.nii.ac.jp/lecture/20230303-04 (1)プログラミング プログラミングって、けっこう、検索と コピペでですよね? プログラムが組めなかった人が簡単な プログラムなら作れるようになる しかし、もっとも恩恵にあずかるのは スキルのあるプログラマーが 短時間で大量にコードをかけるように なる 知らない言語で書かなくてはならなく なった時など強力な補助ツールとなる 34
不必要に謙虚でゲームなど作れないというが、”ソースコードの例を提 示してくれ”と言えば、ほぼ完成形を出してくれる プログラムかける人なら使いこなせると思う (翻訳家がAI翻訳使いこなしているのと同じ) 的確に指示すれば修正もしてくれる (プログラム組めない人には的確な指示は難しいかも) 35
(2)ホワイトカラー雑務全般 Microsoft 365 Copilot: AIをAIとわざわざ言わない、普通の時代に https://adoption.microsoft.com/ja-jp/copilot/ ・Wordでは書き始めが難しいドキュメント作成もドラフトを用意してくれる ・Excelではデータから傾向を分析してくれたりグラフなどのビジュアルデータを数秒で作成 ・PowerPointでは良いビジュアルのプレゼンテーションファイルを作成 ・Outlookではメールの文面を自動生成 ・Teamsではビデオ会議の議事録から要点を抽出 ・もちろん機械翻訳も!! 生成AIの得意分野 投資においても、 ・ 翻訳&要約は非常に使える → 文章の分類や評価、リコメンドもできる オンラインミーティングで リアルタイムに発言内容 の要約を表示 Copilot(副操縦士):副操縦士は操縦士と同じことができるのでこの名称は操縦士をバカにしているという意見もあるが、、。 補佐はするけど人間にとって代わることはできないことを意味している 旅客機の操縦は昔5人くらいでやっていたが2人まで減らせた パイロットは引き続き必要だけど、そのパイロットの作業を効率化し飛躍的にこなせる仕事量が増える AIのホワイトカラーでの活躍は、そういう活躍であると暗示している 36
(3)絵画作成、作曲、小説執筆など芸術全般 これまでにない全く新しい作品を生み出すのは無理だが、これまでの作品からありそうなものを作るのは得意 芸術作品にもいろいろあり、学校の校歌や宣伝用の漫画、バナー広告の画像など、このレベルで十分なものはむしろ多い ただし、理解して作成している訳ではないことに注意 人間:ラーメンを手づかみすると熱いのではしで食べる AI:めんのようなものが口の近くに来ると、別の物体がある絵が多い https://twitter.com/ririvavas/status/1582677889409232896 https://twitter.com/clown000/status/1594233962691710977 ラーメンは熱い、食べ物である、といったことを理解したのではなく ラーメン&はしが同時に出てくるデータ(絵)が増えたことにより改善された 37
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OpenAI開発の動画生成AI: Sora https://openai.com/sora 所見では不自然な部分が発見できないくらいの動画を プロンプトのみで生成 4~5回見ると、多くの継ぎはぎが見え、このままでは商用は無理 しかし、動画作成能力がある人なら、商用レベルまで修正可能? 素人の場合、プレゼンの一コマに使うくらいの使用ならこのままでも 耐えられるか? Prompt: “Beautiful, snowy Tokyo city is bustling. The camera moves through the bustling city street, following several people enjoying the beautiful snowy weather and shopping at nearby stalls. Gorgeous sakura petals are flying through the wind along with snowflakes.” (DeepL訳) プロンプト: “美しく、雪の降る東京の街が賑わっている。美しい雪景 色を楽しみ、近くの屋台で買い物をする何人かの人々を追いながら、 カメラはにぎやかな街の通りを移動する。華やかな桜の花びらが雪の 結晶と一緒に風に舞っている。” https://twitter.com/OpenAI/status/1758192957386342435 39
画像生成AI(Stable Diffusion)を用いた脳デコーディング 2023年7月号のニュートンに ChatGPT特集あり。画像生成AIの話もあり、 その中で脳デコーディングが紹介されていた https://www.newtonpress.co.jp/newton/back/bk_2023/bk_202307.html fMRI(磁気共鳴機能画像法, functional magnetic resonance imaging)で読み取った脳の状態のデータを入力値として、画像生成 AIでその人が見ている画像を再現する。 上の画像が実際に見ている画像、下の画像が見ている人の脳をfMRIで 測定しそのデータから生成AIが作った画像。 (解説はやや強気な感じだが、 人手による強化学習の解説は 一般人向けにここまで解説したものは 少ないので良い) https://doi.org/10.1101/2022.11.18.517004 40
音楽、映画、画像などの芸術作品の作成が得意。この分野は革命が起きるだろう ただし著作権が認められるか、侵害してないかなど法的に複雑な議論が進行中で、 落ち着くまでは商用利用は慎重にならざるを得ない(というかやめておいた方が良い) もろもろの法務コストを考えると、人間に書いてもらった方が安いという意見も 2024年2月29日 文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第7回) 解説記事 https://www.itmedia.co.jp/aiplus/articles/2403/04/news043.html https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/ 41
(4)宿題や課題レポート 生成AIは、致命的な間違いを含む危険性があるが、その間違いは非常に見つけにくく、 とても無難で、ありそうなものを生成する。先生が気づかなければその後どこにも出ることがなく、 あとで間違いが発見されて問題になることもない。また、新規性が高い文章を書く必要がなく、 無難な文章で事足りる。そのため、使う人の能力が低くても問題にならない数少ない領域で ある。つまり、宿題や課題レポートは、「学生が楽をするという観点では」、生成AIがもっとも活 躍する領域であることは間違いない。 当然、教育業界では大問題となっている。 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240330/k10014407321000.html 42
https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20240306-OYT1I50080/ 43
生成AIでできないこと・問題点 (1)データにないことは間違える・作れない 「検索&コピペ」を組み合わせているので、当然検索にかからないことは対応できない これまでに全くない新しい芸術作品も生み出せないだろう 文章内で話が完結し、文章内に答えが書いてある問いが苦手 「知らない」という状態自体が分からない。「正しい」「間違っている」という概念自体が存在しない。 存在していないものや世界を新たに作ったりはできない 44
「知らない」という状態が分からない https://twitter.com/fladdict/status/1651862861097095168 45
データがあっても表記が難しいものは解釈ミスすることもある レオナルド・ダビンチ作 最後の晩餐の人の配置を説明した文章は生成AIが間違いやすい事例 https://firenzeguide.net/saigonobansan/ 国立情報学研究所オープンハウス 鈴木久美「Bing対話型検索とGPTモデル」 https://www.nii.ac.jp/event/openhouse/2023/ https://youtu.be/KbGbvoG1pTA 46
(2)データ上にある好ましくないバイアスもそのまま引き継ぐ 人間に潜むバイアスもデータとして取り込んでいるようだ → 客観性という機械の良さを失っている 手作業でひとつひとつ”学習”させている このようなバイアスは 採用面接やお金の貸付の審査などで 大問題となる バイアスのない世界という存在しない世界を作れない 47
博士や看護師はニュートラルにとらえているが、裁縫が得意なのは女性であるというバイアスがあるようだ 48
道徳の教え方の違い:人間と生成AI 人間 人は生まれながらに平等 その人の属性で能力を決め つけてはいけない 生成AI 裁縫が得意なのは女性だとか言ってはならない 博士といえばおそらく男性だろうとか言ってはならない 運転がうまいのはおそらく男性だとか言ってはならない ・ ・ ・ ・ とてつもない労力に違いない 49
(3)人類の脅威となる使い方もある AIによる脅威1:ディープフェイク ダーウィン・ジャーナル ディープフェイクとは?偽動画の例や仕組み・作り方・危険性などをまとめて紹介 (2019) https://darwin-journal.com/deep_fake !!偽物です!! https://youtu.be/cQ54GDm1eL0 ディープフェイクは実際に世論の操作に使われている 50
!!偽物です!! 51
生成AIの精度の高さは日常でも感じるようになってきた NHKに聞く「人間のアナがいるのにAIがニュースを読む」理由 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2212/16/news141.html 生成AIが作成した合成音声によるニュース放送 ほとんど違和感はない え、どっち? 伊藤園CMの「AIタレント」がSNSで話題 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2310/19/news136.html https://youtu.be/DEoG1NCdmdY 生成AIで作成されたタレントが出演するCM 52
ディープフェイクを見破る技術も発展してきている 「フェイクから身を守るには?―創るAI vs 守るAI」越前 功 - 国立情報学研究所 2023年度 市民講座 第4回 https://event.nii.ac.jp/event/7990/module/web_page/223966/0 53
AIによる脅威2:攻撃手段の作成 通常の武器の作成方法、犯罪のやり方などはもちろん、大量のフェイクニュースの作成、 そして、最も得意なのは瞬時にコンピュータウイルスを作ること。 これらを出力しないように手作業で修正を施して規制しているが、 それらをうまくかいくぐる質問(プロンプト)を生み出す人や、 SQLインジェクションのようなAI作成者が意図していないコードを実行させる プロンプトインジェクションという手法まで存在する。まさにイタチごっこ https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2023/05/special/20230519/ 54
(サイバー攻撃から守る側も生成AIが使われている) https://ai.iisec.ac.jp/sig-sec /jsai-sig-sec2023/invitedtalk_2023_1-pdf/ 生成AI同士がサイバー空間で戦いあう、いたちごっこが始まる 55
(米軍はドローンなど自律型AI兵器の集団の中に人間の兵士”も”混ざっている部隊を検討) https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2023.AGI-025_02 指揮もAIに任せることを検討 ← 敵は寝返りさせるAIを研究するだろう https://ja.wikipedia.org/wiki/RQ-170_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)#%E9%B9%B5%E7%8D%B2 56
AIによる脅威3:監視 健康診断と称して顔や声のデータを取られ、 行動履歴データから(政府にとっての)危険性をランキング 監視カメラで監視する、という世界 監視カメラで特定の人種を瞬時に判別し追跡 同じ技術 防犯カメラの解析で犯人を素早く特定、迷子の子を探す https://www.shinchosha.co.jp/book/507261/ 57
規制は必須 規制に関しての議論は、自動車が発明されたころに似ている。もう馬車の時代には戻ら ず、使わないという世界はないが、走ってはいけない場所を決め、信号機を設置し、ルー ルを作って、安全にし、人類にとってなくてはならないものになった。しかし、今でも日本だ けでも年間2千人以上の方が自動車事故で亡くなっており、負の側面を減らす努力は いまだに続けられている。AIもこのような経緯をたどるだろう。 AIの法規制の議論をまとめた法学系の博士論文 AIの利活用における刑法上の諸問題 : 利用者と製造者の刑事責任を中心に https://doi.org/10.34382/00018588 AIトレーダーが勝手に不正取引を行った場合の法的な議論も載ってます 私の研究も引用いただきました:引用された研究 人工知能は相場操縦という不正な取引を勝手に行うか?-遺伝的アルゴリズムが人工市場シミュレーションで学習する場合https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2020.FIN-025_82 あのG7でも国際的な生成AIの規制に関して議論された 生成AIのルール、年内に見解 G7閣僚級「広島プロセス」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19A0F0Z10C23A5000000/ 58
生成AIは今後どう発展するか? GPTは自然言語処理の技術において画期的な発明があったわけではな い(小さい改善はあるが)。むしろ、仕組みは単純化し、ますます人間から は離れていった。これまでとの違いは圧倒的な入力データ量。入力データ 量がある量を超えたとき突如、いろいろな種類の応答ができるようになっ た。この、データ量があれば、わりとしょぼい方法でもよい結果が出せると 解釈すれば、方法の改善により更なる発展が期待できるが、方法は関 係なくデータ量で結果が決まると解釈すれば、データ量はこれ以上増やす のが難しいところまで来ているので、今後の発展は絶望的である、という 2つの解釈がある。 59
明確に存在する技術の壁 先の本が出た1969年は、 過去20年で商業用 ジェットエンジンなどの技術 革新により、羽田ーロサン ゼルスが60時間から1 0時間に短縮されるなど旅 客機の急進歩の時代だっ た。当時の人々は50年 後の今も10時間のままだ と想像しえないだろう。 1903年 ライト兄弟初飛行 1963年 (+60年) ボーイング727 2023年 (+60年) ほとんど変わってない https://ja.wikipedia.org/wiki/旅客機 技術というものは急速に発展する時期と、壁(音速の壁)にぶつかって停滞する時期がある 生成AIはデータ量の限界により限界に達しつつあるという説もある 60
新技術評価のジレンマ 顕著な事例: 1960年代の超音速旅客機の議論 1969年、NHKに依頼されて宇宙航空学が専門(ただし超音 速旅客機は専門でない)学者が書いた本 序盤:なぜ超音速旅客機の開発が遅れているのか? 終盤:「いや、これ全然無理でしょ」を遠まわしに その領域プレーヤー(特にビジネスでの) 一番詳しい ⇔ 客観的な情報一番出さない 周辺のプレーヤー 勉強すれば一番客観的な情報出せる ⇔ 通常は勉強するインセンティブない SSTの科学―超音速旅客機 (NHKブックス) 1969 https://www.amazon.co.jp/dp/4140011025 61
(もっと本格的に勉強したい方に、、、、) http://llm-jp.nii.ac.jp/ 大規模言語モデル(LLM)を専門としている学術的研究者が集まった勉強会 最先端を知るのに良い日本語の資料が集まっている (いやそこまでガチではなくて、、、、) 過去のイベントの 動画も豊富にあります https://www.nii.ac.jp/event/ 62
(1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 63
仕組みを理解したらできることも分かる AIの理解をしたので、自力でどんなことができそうか、出来なさそうか分かると思います とはいえ、いくつか例示していこうと思います 既存のAIと生成AI 金融分野においてはすでに(生成AIでない)既存のAIが活躍中 金融では間違えるという欠点がある生成AIよりも既存AIの方が活躍しやすい しかし、生成AIはプログラミングスキルがあまり必要ないため、 多くの人が日常業務でAIを使うようになる、という意味では生成AIが活躍するだろう 64
金融業界での高度な事例:業績要因文の抽出 (ブートストラップ法) https://doi.org/10.1527/tjsai.30.172 自動で 増やす 企業web などより 手がかり表現 (いくつか手入力) 意味は分からなくても業績要因文を抽出・分析できる 65
統合報告書に得点を付ける 決算説明会での説明の客観性を判定 https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2023.FIN-031_55 AIが統合報告書の文章に得点を付ける AIに好まれる統合報告書の書き方の追求 ロジカルにハッキリ書くという意味で悪くはない 統合報告書の得点向上の文章を提示 https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2023.FIN-031_68 AIが決算説明会を聞いて判断する世界 AI好みの話し方も研究され始めるか? 生成AIが金融系の試験問題を解けるか? https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2023.FIN-031_75 AIが判定する点数が高くなる文章を提案 実際には行っていないことが文章として出てきた場 合は、企業が行うべき行動を示したと言える AIが高評価する文章を提示するAI:AIが読みAIが書く時代に https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2023.FIN-032_28 証券アナリスト試験のサンプル問題も 解けるか試されている:8割程度正解!(4択) 66
新聞記事の自動作成 https://www.nikkei.com/article/DGXLRST0444423R30C17A7000000/ 日経新聞 決算サマリー https://pr.nikkei.com/qreports-ai/ 機械が記事を書き、その記事を機械が記事を読み込んで、 数値化したら要約したりする時代はもうすでに来ている AIが読みやすい公表資料とは? 67
失敗例 元の文章が容赦なければ 容赦ない記事になってしまう 新聞記事に“ふさわしくない” ⇔ そのあたりが機械には 理解できない 68
執行アルゴリズム取引の強化 注文を”小分けにして”さばく仕事を 機械化したものが執行アルゴリズムです 機関投資家 電話 A社 1万株 買い アルゴリズムで 証券会社 アルゴリズム A社 100株 99円 買い A社 100株 98円 買い A社 100株 99円 買い : 自動発注 取引所 69
AIを使ったアルゴリズム取引事例1(1/2) 2017/4/13 日本銀行コンファレンス https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170412c.htm/ https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00386896 価格が大きく動くのを直前に知りたい 急いで買う、ゆっくり買う、を切り替えたい 70
AIを使ったアルゴリズム取引事例1(2/2) 2017/4/13 日本銀行コンファレンス https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170412c.htm/ とはいえ、、、 アルゴリズムは日中の 短期間の予測のみ 金融市場の価格時系列は ”斉一性原理”が成立していない 自然科学のような普遍的な法則はない 水田孝信 「市場は効率的なのか?検証できない仮説の検証に費やした50年」, 2020, スパークス・アセット・マネジメント https://www.sparx.co.jp/report/special/3118.html 重要な情報は注文板の状況 文章理解が必要がない 市場予測の中では、 AIが得意な分野 71
どういう仕組みか?(1/2) ニューラルネットワークを例に説明します 実際にはこれが非常に入り組んでもっと高度に工夫された ディープラーニングが使われています 入力データ (注文板情報など) ←重み (隠れ層) 入力データ×重み を全部足して、丸める ←重み ←重み ←重み ←重み 出力値 隠れ層結果×重み を全部足して、丸める ←答え(下落) ←出力値 出力値が答えと合うように うまく重みを調節 http://web.archive.org/web/20170824142808/http://stevenmiller888.github.io/mind-how-to-build-a-neural-network/ 72
どういう仕組みか?(2/2) 入力データ (注文板情報など) ←重み (隠れ層) 入力データ×重み を全部足して、丸める ←重み ←重み ←重み ←重み 出力値 隠れ層結果×重み を全部足して、丸める ←答え(下落) ←出力値 近づいた!!これを繰り返す どの注文板情報が騰落とどのように関係しているか自動的に発見 http://web.archive.org/web/20170824142808/http://stevenmiller888.github.io/mind-how-to-build-a-neural-network/ 73
(おまけ1) 人工知能を使ったファンドがあるとよく言われますが、、 従来からのクオンツファンドが行っているファクターへの投資に “加える”という感じがほとんど ゼロから人工知能の学習結果だけで投資することは皆無 (クオンツ:金融市場を定量分析する人たち) 多数のファクターを 合成するのが普通 (元からある) ファクターへの 投資戦略 AI ファクターの追加 AI 売買リスト 2017/4/13 日本銀行コンファレンス でも言及あり タイミングや組 み合わせなどの 出力や修正 (その後の売買の執行方法は 通常のファンドと同じ) https://www.boj.or.jp/paym/forum/rel170412c.htm 最近の研究: 阿部真也、中川慧、“グローバル株式市場における深層学習を用いたマルチファクター運用の実証分析”、 第33回人工知能学会全国大会、2019年 https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2019.0_4Rin135 74
(おまけ2) 市場の上がる下るをあてるアルゴリズムもあるにはある 公表 日本銀行ホームページ 頻繁に公表の 有無を確認 時間 公表文章の 取得 アルゴリズム 分析結果に基づいて 自動発注 為替市場 2015年~2017年ごろに日本銀行金融決定会合の結果発表後、 即座に為替取引をする投資戦略が流行った 日本銀行 金融研究所「金融政策アナウンスメントとアルゴリズム取引:ウェブページへのアクセス情報を用いた検証」, 2018 https://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/japanese/18-J-11.html 75
金融庁:株価操縦を狙った書き込みをAIで探す 株価操縦の疑いのある書き込みを探す研究 https://sigfin.org/?SIG-FIN-015-03 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45654000U9A600C1EE9000/ 掲示板の書き込みの中から、通常ではありえないような異常な書き込みを探す → 株価操縦などの捜査の足がかりに 掲示板を使った仕手株筋が相次いで捕まったことと無関係ではない? 76
東証: 売買審査業務へのAIの導入(2018/3/19) プレスリリース https://www.jpx.co.jp/corporate/news-releases/0060/20180319-01.html 人工知能学会 金融情報学研究会(@東証ホール) 2018/3/20 招待講演資料 https://sigfin.org/?020 77
証券会社の不公正取引監視 警視庁のマネーロンダリング取締り https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1350990.html AIで相場操縦を見つける https://www.yomiuri.co.jp/national/20211025-OYT1T50124/ https://doi.org/10.1109/DASA53625.2021.9682322 78
(1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 79
生成AIが作るフェイクニュースによる相場操縦 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2305/23/news082.html 米国国防総省近くで爆発が起きたとする偽ニュース 米国株式が一時下落する騒ぎとなった 生成AIを使えば、偽ニュースやウソをSNSや掲示板へ、 自動的に、しかも大量に書き込むことができてしまう。 しかも、生成AIは正確性は劣るにしても、文章自体は 非常に自然であり、偽ニュース作りにはこれ以上にない 技術と言えるだろう。 例えば、一見有名経営者に見える人が記者会見を行っ ている偽の動画なども現れるかもしれない 一方で、普及した生成AIが作った画像や動画であれば、 それを検出する技術もあるので、この技術の発展には期待 https://www.yomiuri.co.jp/life/digilife/column/20230913-OYT1T50158/ 80
AIが勝手に不正取引をしたら法的責任は? (参考文献) 水田孝信 「人工知能が不公正取引を行ったら誰の責任か?」, 2020 スパークス・アセット・マネジメント https://www.sparx.co.jp/report/special/3071.html 人工知能は相場操縦という不正な取引を勝手に行うか? ―遺伝的アルゴリズムが人工市場シミュレーションで学習する場合― ○AIトレーダーが勝手に相場操縦をするかどうかをコンピュータシ ミュレーションで実験 → する場合があることが分かった ○ここでいう”勝手に”とは、AIトレーダーの作成者・使用者が、相 場操縦するつもりがなかったとしても、AIトレーダーが学習の中で、 相場操縦を最適な取引戦略として見つけ出し、実行すること ○現在の日本の法律では(アメリカでも同様)、AIトレーダーの 作成者・使用者が相場操縦を意図していない場合、刑事責任を問 えない ○このままだと、「AIが勝手にやった」と言い逃れする人が現れる ため、規制を強化する必要がある、と結論付けた 第4回金融資本市場のあり方に関する産官学フォーラム (2019/2/22)基調報告(3) 予稿 https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2020.0_2L5GS1305 プレゼン資料 https://mizutatakanobu.com/202006.pdf プレゼン動画 https://youtu.be/tqaeTA2MfDg http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/CMPP/forum/2019-02-22/ 日本銀行金融研究所「アルゴリズム・AIの利用を巡る法律問題研究会」報告書 (2018/9/11) https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/rel180911a.htm/ 81
eKYCを不正に突破 銀行口座の開設時などの本人確認をスマートフォンで完 結させるeKYC(electric Know Your Customer) 生成AIを使えば他人に成りすまして本人確認を突破さ れてしまう恐れがあるという研究報告 左が突破を試みている人を映したもの 右がそれをもとに生成AIが作り出したなりすまし動画 これをスマートフォンに見せて、本人確認しようとしている 川名のん他 (2021) 「Deepfakeを用いたe-KYCに対するなりすまし攻撃と対策の検討」 第35回 人工知能学会全国大会 https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2021.0_1F2GS10a02 82
銀行業界ですでに問題視されており対策も研究されているが、、、 https://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/japanese/24-J-05.html 実務的に決定的となる対策手法はまだ提示されていない 83
まとめ 1/2 ここでは、ChatGPTを例に、最近盛り上がりを見せている生成AIの仕組みを説明し、何ができて何ができないのかを 説明した。生成AIは何かを理解して生成している訳ではなく、ニューラルネットワークを駆使して統計的に一番ありそう なものを大量のデータの中から探し出して組み合わせているだけである。しかし、そのデータ量が莫大であり、そのデータ 量がある閾値を超えたとき出力の精度が飛躍的に向上した。 技術の進歩によりAIの仕組みはむしろ人間から離れていっており、すべてにおいて人間に追いついたり追い越したりは まずあり得ない。しかし、仕組みが違うからこそ、分野によっては、AIが人間を凌駕し、逆にAIが人間に全く追いつけな い分野もあるだろう。人間とは全く異なった長所短所をもった「道具」と考えるべきである。 人類は、鳥の真似をして羽ばたいても飛べなかったが、プロペラという生き物にはないものを使って飛べるようになった。 今でも人類は鳥のようには飛べないが、鳥より速く飛べる。AIも、人間と同じことができるようにはならないが、人間を超 える分野は多く出てくるだろう。 得意分野として、プログラミング、ホワイトカラーの雑務全般、絵画作成、作曲、小説執筆など芸術全般、宿題や課 題レポートをあげた。ただし、Microsoftが新サービスを”Copilot”と名付けているように、補佐はするけど人間にとって代 わることはできない、パイロットは引き続き必要だけど、そのパイロットの作業を効率化し飛躍的にこなせる仕事量が増え ることを示唆している。 苦手なことや問題点として、データにないことは間違える・作れない、データ上にある好ましくないバイアスもそのまま引 き継ぐ、人類の脅威となる使い方があることをあげる。「知らない」という状態が分かってないし、存在していないものや世 界を新たに作ったりはできない。 もう、生成AIがない世界には戻らない。負の側面は、自動車が発明された時のように、信号機を作り、走ってはいけな い場所を決めるなど、ルール作りで対応するであろう。 84
まとめ 2/2 次に、金融業界、特に資産運用業界とその周辺でどのようにAIが使われているのかを紹介した。例として、文章の要 約・分析・作成、執行アルゴリズム取引の強化、不公正取引の検出を紹介した。人工市場による金融市場の設計に 関しては次の講義で簡単に紹介する。 金融におけるAIは、期待よりも懸念のほうがはるかに大きい。生成AIを使えば、偽ニュースやウソをSNSや掲示板へ、 自動的に、しかも大量に書き込むことができてしまう。しかも、生成AIは正確性は劣るにしても、文章自体は非常に自 然であり、偽ニュース作りにはこれ以上にない技術と言えるだろう。 実際に、米国国防総省近くで爆発が起きたとする偽ニュースが、爆発の偽画像とともにSNSなどで広がり、米国株式 が一時下落する騒ぎがあった。生成AIを使えば、偽の動画も作成可能なため、一見有名経営者に見える人が記者 会見を行っている偽の動画なども現れるだろう。生成AIは、相場操縦を行う強力な道具なのだ。一方で、普及した生 成AIが作った画像や動画であれば、それを検出する技術もあるので、この技術の発展に期待したい。 また、現在の法律の不備を突いて、「生成AIが勝手に書き込んだもので自分はそんなつもりはなかった」とAIのせいに して責任逃れする場合も出てくるかもしれない。AIが勝手にやったと主張されると、現在の法律では取り締まりが難しく なる可能性が指摘されているのだ。 さらに言えば、最近、銀行口座の開設時などの本人確認をスマートフォンで完結させる、eKYC(electric Know Your Customer)という技術が出てきたが、生成AIを使えば他人に成りすまして本人確認を突破されてしまう恐れが あるという研究報告もある。 85
(1)AIの仕組み:生成AIの仕組みも含めて (2)AIの得意・不得意および脅威・規制 (3)金融での応用 (4)金融での脅威 (おまけ)人工市場シミュレーション 一般向け記事(SBI金融経済研究所への寄稿) 人工市場:金融市場のコンピュータ・シミュレーション https://sbiferi.co.jp/review/report_review_2024Mar.html .pdf https://sbiferi.co.jp/assets/pdf/review/review_202403_vol5_06.pdf 86
人工市場モデルを用いたシミュレーションとは? (金融市場のエージェントシミュレーション) 計算機上に人工的に作られた架空の市場 エージェント(架空の投資家) + 価格決定メカニズム(架空の取引所) 注文 エージェント (投資家) 価格決定 メカニズム (取引所) 取引価格の 決定 実データが全く必要ない完全なコンピュータシミュレーション これまでに導入されたことがない金融市場の制度やルールも議論できる その純粋な影響を抽出できる 87
人工市場への期待!:既存の経済学は金融危機を取り扱えなかった! 金融市場は数式だけできれに表されるような単純なシステムではない バタフライ効果:蝶が羽ばたくという小さい動きがどのような影響を与えるかを正確に述べることは難しく、 台風を生み出すことさえ完全には否定できない 人工市場(エージェント・ベースド・モデルによる金融市場のコンピュータ・シミュレーション) に大きな期待!!:複雑系システムを複雑なまま取り扱える NATUREやSCIENCEに,人工市場に期待をかける記事 これまでの経済学ではリーマンショックを分析・対応できなかったという批判 → 人工市場(エージェント・ベースド・モデル)ならできることある・期待 標準的な経済学を否定し、 人工市場を絶賛 Farmer and Foley (2009), Nature https://www.nature.com/articles/460685a Battiston et al. (2016), Science https://science.sciencemag.org/content/351/6275/818 ECB総裁講演でも取り上げられる https://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2010/html/sp101118.en.html JPXワーキングペーパー 経済理論の終焉 金融危機はこうして起こる, 2019/1 https://www.panrolling.com/books/wb/wb273.html 東京証券取引所の親会社、日本取引所グループ(JPX)が発行 41本中、実に12本が人工市場を用いた研究(2023年末現在) https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/working-paper/index.html 88
呼値という制度変更の効果を人工市場でシミュレーション 計算機上に人工的に作られた架空の市場 95 94 取引所A 取引所B 92 91 呼値1円 90 呼値0.1円(10銭) 時刻 (時:分) 15:00 14:00 13:00 11:00 10:00 89 9:00 取引価格 93 エージェント (モデルされた投資家) 取引所A:初期売買代金シェア 90%、呼値大きい 取引所B:初期売買代金シェア 10%、呼値小さい 呼値に差があるとシェアが移り変わる 横軸は2年間 ⇔ 米国で起きた時間スケールただし、呼値の 絶対水準が小さいと、呼値に差があってもシェアを奪えない 取引所の制度設計に参考にされた(JPX WP v.2) https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/working-paper/index.html 89
自動取引の実験場:注文生成AIを人工市場に投入 World Agent :データの学習を行い現実的な注文データを生成 Experimental Agent:実験したい投資戦略をのせる この2体だけ:Experimentalがどのような成績になるか実験する アルゴリズム取引の戦略評価に使おうとしている 短い時間スケール(秒以下)なら注文状況(板の状況)に再現性ある ↑ 人間の手で行えないので機械化されている時間スケール まだまだ実用化までは遠い感じも進歩は早い 執行アルゴ(買い) 発動期間 成行注文の場合 青(LOBGAN)が提案手法 Coletta 2021 https://doi.org/10.1145/3490354.3494411 指値注文の場合 Coletta 2023 https://doi.org/10.1145/3604237.3626854 90
社会経済全体をモデル化した人工市場、人工社会 財政政策や金融政策、金融危機のメカニズムなどを 議論するため、社会経済全体をモデル化した人工 市場、人工社会、マクロ経済シミュレーターとも 例えば、この研究は、政府や企業、銀行などの各経 済主体の財務諸表の動きを簿記の仕訳から実装 これらの研究の発展により、金融政策がシミュレー ション結果を参考にしながら決められたり、国政選挙 では各政党が財政政策のシミュレーション結果を出 し合って論争をしたりする日は近いかもしれない 高島幸成、“ABMによるマクロ経済基本挙動再現の為のモデル構造に関する研究”、 博士論文、千葉工業大学大学院社会システム科学研究科、2013 http://id.nii.ac.jp/1196/00000044/ Kosei Takashima, Isao Yagi, “Model Building and Description Using the Agent-based Computational Economics Framework for Accounting”, Journal of Information Processing, Elsevier, 2024, https://doi.org/10.2197/ipsjjip.32.10 まだまだ研究者が少ない 前述までの金融市場だけのモデルに比べ需要はさらに大きいものの、困難も大きい モデルの規模が大きくなり、実務家が試したいことを試せるようになるまでの道のりが、さらに長い 91