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May 14, 22
スライド概要
Seminar in Orthodontics(2020)から、マウスピース型矯正(インビザライン)による過蓋咬合のクリンチェックの処方箋についての報告である。
矯正歯科の海外最新論文をPubMedから紹介します。特にマウスピース型矯正(インビザライン)論文中心にお届けします。
マウスピース型矯正論文紹介 Mechanical considerations for deep-bite correction with aligners Neal D. Kravitz, Mazyar Moshiri, Jonathan Nicozisis, and Shawn Miller Seminars in Orthodontics, Vol 26, No 3, 2020: pp 134138 紹介者:矯正歯科海外論文紹介サイト https://kyousei-kaigaironbun.com
Introduction アライナーによる過蓋咬合の矯正治療は矯正医にとってバイオメカニック的な挑戦である。 特に下顎切歯の圧下は最も正確性に欠ける動きの一つである。 アライナーは、咬合保護やブラケット破損の回避などの利点はあるが、 バイオメカニック的な欠点や課題がある。 本レビューでは、 矯正医がアライナーを用いた過蓋咬合の治療を臨床的に成功させることを目的として、 バーチャル・ケースのセットアップ、アッタチメントのデザイン、 エラスティック、バイトランプの使用について、新しい「最善の方法」を議論する。
Virtual case setup 下顎骨のアーチが小さい、顎後退症の人は、過蓋咬合や急峻なスピーの湾曲が発生しやすい。 ⇒切歯は対合歯や軟組織に接触するまで萌出し、下顎第二大臼歯は上顎第二大臼歯に接触するまで 萌出している状態である。 したがって、 過蓋咬合の矯正には、通常このプロセスを逆転させスピーの湾曲を平坦化する必要がある⁶⁾。 ①スマイルの調和と上顎切歯の位置を維持するために下顎切歯と犬歯は圧下する⁷⁾ ②クリンチェックで下顎の逆スピーのフォースベクトルをシミュレーションする必要がある(図1)。 ⇒「下顎第二大臼歯を0.5mm、小臼歯と第一大臼歯を1.0mm、犬歯を1.5mm、切歯を2.0mm挺出 し、後方接触を強くしたオープンバイトとする。」という処方箋を記載。 ③下顎後方歯が過度に舌側傾斜しているため、ウイルソン曲線が急になることがあるので、 デジタル模型を後方から見ることで確認できる。 ⇒下顎小臼歯と大臼歯に5度立てると、ウイルソン曲線が平坦になり、過蓋咬合を矯正するため の「結果的な」挺出が形成される
Figure 1. 下顎逆スピー曲線のメカニズム Kravitz et al.(2020)より
Figure 2. 過蓋咬合患者のクリン・チェックの指示書 Kravitz et al.(2020)より
Resultant (relative) versus absolute movements 結果的(相対的)圧下や挺出は垂直面における絶対的な圧下や挺出とは異なる。 この結果的な頬/舌側の歯冠傾斜は、インビザラインで最も正確な動きであり¹⁾、垂直方法の変化を 実現する。切歯の唇側傾斜は咬合挙上のための相対的な圧下となり、切歯の舌側傾斜は被蓋を深める ための相対的な挺出となる⁸⁾。 下顎骨のスページングを伴う過蓋咬合の治療は特に難しい。 ⇒このような症例には大幅なオーバーエンジニアリングや、上顎アライナーと下顎固定装置の ハイブリッドが有効な場合がある。 過蓋咬合の矯正における考慮が必要な歯の動き (1)頬側傾斜による下顎臼歯部の挺出(ウイルソン曲線を平坦にする) (2)唇側傾斜による下顎切歯の圧下(スピー曲線を平坦にする)。 Glaserによると、これらの動きを予測可能な「フリーライト」と呼び、特定のアッタチメントを 必要としないことが多い(図3)⁸⁾。
Figure 3. Kravitz et al.(2020)より
Attachments-1 アタッチメントは、アライナーの浮き上がりや保持力の低下を最小限に抑え、記載されている動作 のアンカレッジとして機能する。 下顎逆スピー湾曲の場合 ・アタッチメントは下顎の挺出歯に設置する 1mm以上の下顎切歯 の圧下が必要な場合 ・下顎犬歯を除き、圧下する歯にアッタチメントは不要である ドーム型G5、G7 ・臼歯部に装着することが出来る。 ・G5は小臼歯用、G7は大臼歯用に指定されているが、デザインの違いはない (図4)。 HBA ・下顎犬歯のアタッチメントとしても推奨されている。 ・矯正医はHBAが幅4mm、厚さ1.25mmで、レッジなしで歯冠に歯肉側に角度を つけるようにオーダーする。 ・アタッチメントの斜角面を歯肉に向けることで舌側歯冠傾斜に対して垂直方向 に力が働く。アタッチメントの歯肉側のアンダーカットをなくすことで、脱離の 可能性を最小限に抑えることが出来る。 ・これらのステップは、 Clinical Preferencesセクションにデフォルトとして 書き込むか、クリンチェックに手動で実行する。
Figure 4. Kravitz et al.(2020)より
Attachments-2 過蓋咬合の治療のアンカレッジはソフトウエアの優先順位が最も低いため、クリンチェックに おいてG5/G7またはHBAの指示が必要である。 歯根の回転が5度を ・より小型の最適アッタチメントの装着が必要である。 超える場合 根尖や回転 ・著しい過蓋咬合の治療後のリファインメントで対応する必要がある。 ・HBAを歯冠に対して斜めに回転させ「サッシ(sash)」のような向きにすることも できる10)。 ・これにより、小臼歯を挺出しながら、あるいは前歯の圧下をサポートしながら、 根尖と回転を同時に作用させることが出来る(図5)。 後方歯および 下顎前歯部 ・咬合を妨げることなく、アライナーのフォースレベルが最も強くなるように、 出来るだけ切縁または歯冠方向に移動させる必要がある。 ・しかし、エラスティックやバイトランプなどの補助具の使用により、 アッタチメントの形状や位置が異なる場合がある。
Figure 5. Kravitz et al.(2020)より
Supporting auxiliaries ◆エラスティック ・上顎犬歯のアライナーのスリットから下顎第一大臼歯のボタンに接続されることが多いが、 上顎犬歯のフックから下顎第一大臼歯のボタンに接続されることもある。 ・臼歯部では、ゴムが直接歯に引っ張られるため、ボタンが好ましいとされている。 ・上顎犬歯の圧下やアンカレッジが必要な場合は、アライナーの前方圧下力を消さないように フックを第一小臼歯に設置する必要がある。その際、下顎のボタンは第二大臼歯に設置する。 ◆バイト・ランプ ・下顎前歯を圧下させ、後方歯を離開させその挺出を可能にするために有効である。短頭型の 患者によく用いられる。 ・一般的に上顎切歯4本の舌側表面に位置する。上顎前歯圧下をさせたい(例えばⅡ級2類など) 場合はバイト・ランプを犬歯に移動させる必要がある。 ⇒これは、バイトランプが上顎切歯の長軸方向にかかる圧力を減少させるためである。 ・バイトランプは、アライナーが切歯の舌側面に接触する面積を減少させ、望ましい切歯の圧下に 利用できる表面積を減少させる。⇒バイト・ランプはトルクの発現を制限する(図6)。
Figure 6. Kravitz et al.(2020)より
Conclusion ・アライナーの過蓋咬合の矯正治療の効果を高めるために、矯正医は逆スピー湾曲の 指示を出すべきである。 具体的には、後方歯の挺出と前歯の圧下を行い、その結果、オーバーコレクション をすることで前歯部の開咬をシミュレートする。 ・インビザラインのG5/G7、あるいはHBAは挺出する歯に設置すべきである。 Ⅱ級ゴムとバイトランプは追加のサポートをする。 ・クリンチェック・ソフトウエアは最終的な歯の位置の予測ではなく、矯正力の 視覚的な表現として使用することが重要である。
References.
記事監修 Dr. 堀井和宏 (Kazuhiro Horii) 日本矯正歯科学会 臨床指導医(旧専門医)・ 認定医 日本舌側矯正歯科学会 American Association of Orthodontists 〒520-0832 滋賀県大津市粟津町4-7 https://www.horii-kyousei.com