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July 14, 20
スライド概要
2020/6/20に開催された Unity道場 教育スペシャル[虎の巻]の講演スライドです。
講師:三上 浩司(東京工科大学)
リアルタイム3Dコンテンツを制作・運用するための世界的にリードするプラットフォームである「Unity」の日本国内における販売、サポート、コミュニティ活動、研究開発、教育支援を行っています。ゲーム開発者からアーティスト、建築家、自動車デザイナー、映画製作者など、さまざまなクリエイターがUnityを使い想像力を発揮しています。
4年制大学の教育・研究におけるUnityの活用 2020.6.20 三上 浩司 東京工科大学 メディア学部 教授 東京工科大学 バイオ・情報メディア研究科 教授
自己紹介 三上 浩司 博士(政策・メディア) • 東京工科大学 メディア学部 教授, • 東京工科大学大学院 バイオ・情報メディア研究科 教授 専門分野 日商岩井での担当案件 「X-BAND」 • アニメ,ゲーム,CGの制作技術研究開発 • 3DCGを利用したアニメ的表現,アニメ表現のゲームへの応用 • プレイヤ分析を使用したゲームデザインや動的レベルデザイン 社会活動(学会・業界) • 芸術科学会(前会長),日本デジタルゲーム学会(理事・編集委員長) • 情報処理学会 デジタルコンテンツクリエーション研究会 運営委員 • CEDEC 運営委員会委員(AC,Int,ペラコン担当) 職歴 • 日商岩井株式会社(現:双日)メディア事業部(現:ITX) • 株式会社エムケイ 株式会社エムケイでの担当作品 2 「太平洋の覇望」
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Unity導入により享受できたメリット • プロと同じ開発環境の体験 – 実践的な環境での制作経験が積める – 開発事例が多くフォーラムなどにより技術情報が充実 • 産学連携や国際的な協業において共通の環境構築が容易 – 言語は異なってもツールが同じという安心感 Global Game Jam • 最新事例の作品・研究への利用 – 作品や研究の最新事例が比較的容易に再現可能 • 研究アイデアの迅速な実装 – 提案手法やアルゴリズムをより早く実装し評価できる Playing Bauhaus (ドイツのハルツ大学とのプロジェクト) 4
Key Topic • どんなツールを使うかではなく,どのような人材を生み出すかが重要 – 制作プロジェクトならどの開発環境を使うかよりも,どんなゲームを作るかが重要 • 企画に適したゲームエンジンの自主的な選択 – 生み出す人材像のために適した環境を経験をデザインすることが重要 • 時にはエンジンを使わない選択もあり得る • そのうえで2010年から導入した本学のUnityの活用についてお話しします 5
初期(2010年ごろ)のUnity作品 • 約3か月の演習授業 • Unity習得のために独自 のテキストを用意 https://www.youtube.com/watch?v=QWPkMR5AXpY&t=78s 6
Global Game Jam 2011 • プロ,アマチュア問わずゲーム開発者が参加するハッカソン – 2020年は全世界118か国,934会場,約5万人にまで拡大 • 48時間でテーマに沿ったゲームを作るうえで開発環境の構築は重要 – Unityは容易に参加者全員が同一の環境を整えることが可能 • プロと学生が同じ開発環境を利用してゲームを開発する稀有な機会の誕生 Global Game Jam 2011 東京工科大学会場の様子 7
大学でゲーム教育を 始めるにあたって(2003年)
2003年の教育スタート時のゲーム制作教育 • 専門学校での教育事例が豊富 – 専門士(高度専門士)の資格を得る認定校とその他 – 開発人材の育成機関として機能している – 同じ法人の日本工学院専門学校(蒲田・八王子)にもゲーム系の学科が存在 • 姉妹校の専門学校で教育している分野を,工科系の4年制大学で教育する からには明確な差別化と特徴が必要 ※大学での教育事例は現在でもそれほど多くない ・新規学部の設置認可が難しい ・既存教員からの理解が得られにくい ・現在はゲームの名がつく「学科」や「コース」が少数ある 9
東京工科大学が目指した人材 • 基本は「制作経験」と「基礎技術力」+「学士力」 – ゲーム教育が始まる以前のコンテンツ教育系教育から一貫 – 今のニーズへの対応以上に,将来のニーズを生み出す人材 • 開発力や技術的知識を持ち,ロジカルな思考ができる将来のプロデューサ/ ディレクタ – 大学の理工系カリキュラムをマスターし,制作プロセスを理解し,開発経験も持つゼネラリスト • 新たな表現や技術を生み出せる,イノベーティブなアーティスト,エンジニア – 新しい制作手法や技術を取り入れて,開発現場に変革を与えられる人材 – 制作経験を有し,国際会議レベルの研究開発ができる人材 10
実現するうえでの課題 • 制作経験を積ませることのむずかしさ – ゲームは総合芸術であり総合技術,そのすべてを個人が高めるのは困難である – 大学は主に半期ごとの講義や演習 – ゲーム専門の学部でないため必修化が難しい • 研究開発スキルを高めることと制作経験の両立のむずかしさ – チームでの作業による制作経験と個人の研究開発力向上 – 実践的な開発環境(プロと同等の環境)での制作経験 当初はカリキュラムの工夫により対応 2010年頃よりUnityをはじめとしたゲームエンジン恩恵を得る 11
カリキュラムの工夫 • 1年次から参加できるゼミ形式の「プロジェクト演習」の枠組みを利用 – 希望者のみが1年次から3年次まで継続して参加できる演習でゲーム開発教育を実施 – プロデュース,ゲームデザイン,プログラミング,グラフィック,サウンドのどれかを自分の専門 性として選択し追求 • 2年次後期(または3年次前期)にもゲーム演習「メディア専門演習」を設置 – あとから興味を持った学生でも制作経験を積める • 制作主体は3年次まで,4年次ではR&D主体の「卒業研究」 – 4年次の卒業研究で学会発表レベルの水準のR&Dを目標 – 大学院へ進学しゲーム分野の修士,博士の輩出を目論む 12
ゲーム教育のフレームワークとコンセプト 1年 導入教育 演習 2年 基礎演習 3年 4年 メディア専門演習 卒業研究 プログラミング プロジェクト演習(1年から3年までの一貫教育) 基礎教養科目 講義 専門教育 TGS GGJ ゲーム系講義 • 3Dプログラミングスキル,R&Dを重視 ゲームエンジンを使うことが目的にならないように配慮 目指す人材像としてはむしろゲームエンジンを作れる人材 • 短期開発プロジェクトや海外の大学とのプロジェクトは,共通の環境になりやすいUnityを利用 • 長期の開発プロジェクトでは各チームで企画に適した開発環境(ゲームエンジン含む)を選択 13
開発環境(教育環境) 当初(2004年) 2010年以降 現在 プロジェクト演習 ・1年~3年 (3年間) 2D(DX Lib他),FK 1年次にゲーム志望者全員を対象に 1年次にゲーム志望者全員を対象 (独自開発のC++ FKで3Dプログラミング(C++) にFKで3Dプログラミング(C#) ベースの3Dライブラ 2年次以降Unity,UDK,FKなど,企 2年次以降Unity,Unreal Engine, リ),XNAなど. 画に適した環境を学生が選択 FKなど,企画に適した環境を学生 が選択 メディア専門演習 ・2,3年(半期) 2D主体 (RPGツクール) Unity(ゲーム制作), 一部FK(3Dプログラミング演習) Unity(ゲーム制作) 講義科目 ・2,3年(半期) ツールの使用はなし Unity,UDK Unity,Unreal Engine 研究開発 ・3年後期,4年, 修士・博士課程 FK(OpenGL, DirectX) FK(Cg,GLSL,OpenCL,VR/ARや S3Dにも対応),Unity ,UDKほか FK,Unity,Unreal Engineほか 14
授業の例(プロジェクト演習)
プロジェクト演習(1) • 1年生から3年生を対象にした選抜制の長期演習 – 導入期(1年次) • 前期:コンピュータを使わない「ゲーム」のデザインと開発 • 後期:すべての学生がC#で3Dのゲームを作る – 訓練期(2年次~3年次前期に合同開催,4年生,院生も参加) • チームを結成しオリジナルの作品を作る(3年の夏にTGSに出展) – ゲームプロジェクトの開発環境の選択は自由 – チームの規模は自由,ゲームジャンルは挑戦的なものを推奨 – 基本的に自発的に学習(教員はスーパーバイズ) – 再確認・挑戦期(3年後期) • 獲得した開発スキルを活かし,海外の大学との共同開発やプロとのゲームジャムで,訓練期の失敗の リベンジや新たな挑戦 ハードルを高く設定しているが,必修ではなく,卒業に必要な単位では ないので,失敗しても糧になっても学業上のダメージはない 16
導入期における工夫 • ユーザーから作り手へのシフト (1年次前期) – 早い段階で体験によるマインドシフト – プレゼンテーションを重視 • ユーザとしての視点やクライアントの視点での相互評価 – コンピュータは基本的に使わない • すべての学生が3Dプログラミング(1年次後期) 新しいトランプを使ったゲームの開発 (1年前期) – 演習を通じて3Dの簡単なゲームを作る – ゲームエンジンを知る前にプログラミングを知る – ゲームは最終的にはプログラムによって統合,表現されるため,すべてのパートの学生が原理 を知ることが大事 – プログラム志望の学生はここから特化 – 技術系志望でなくても卒業研究などで実装するケースも多い 17
実際に利用されている開発環境 • 開発環境 – 学生は企画に合わせて開発環境を自主選択 • Microsoft Visual Studio,FK(独自ツール) • ゲームエンジン (Unity, Unreal Engine…) • Maya, 3dsMAX, Motion Builder, Adobe製品,Vicon8i Motion Capturing System • TGS向けのゲームでの使用状況 2007 2008 2009 3 3 1 3D 1 3 5 4 6 4 FK 1 1 5 3 4 3 2D XNA 2 2010 2011 2013 2014 2015 2016 2017 2018 1 2019 2020 1 1 3 5 4 5 4 4 4 3 5 4 5 4 5 5 2 UE 2 Unity 他 2012 1 3 3 1 2 1 18
卒業研究・大学院
教育の集大成 • ゲーム開発における問題発見と問題解決 – 学部3年までの制作経験を土台にテーマを設定 • 国内外の学会で発表 – 海外 • Siggraph,Siggraph Asia – 国内 博士卒 Fernandez Henry君 (SIGGRAPH2016) • 情報処理学会(EC,DCC),芸術科学会,日本デジタルゲーム学会 • 独自の手法やアルゴリズムの実装にUnityを利用 博士卒 遠藤雅伸君 (NICOGRAPH International 2017) 20
FULCutter(切り抜く感覚の提示) • 物体を切り抜く力覚を提示するVRデバイスの開発 – Unityには多彩なデバイスの制御事例が多い 古堅耕太朗,兼松祥央,三上浩司 「材質の違いを考慮した切り抜いた感覚を与える力覚フィードバックデバイ ス」(インタラクティブ発表),インタラクション2020 21
浮遊感を与えるゲームデバイスの研究 • コントローラー操作に応じてドローンを制御し ユーザーに浮遊感を呈示する研究 • ユーザーのゲーム体験を拡張 小黒由樹,兼松祥央,三上浩司「OGRone:マルチローターを用いた浮遊感覚提示デバイス の開発」映像表現・芸術科学フォーラム(ポスター発表),2019.3.12 22
自動生成:身体特徴に応じたキャラクタ自動生成 • キャラクタの外見に応じて移動速度や体力値を 適切に設定する自動生成技術 猪巻美香,兼松祥央,三上浩司,ゲームキャラクターの⾃動⽣成における⾝体的特徴を考慮した能⼒値 の⾃動設定,日本デジタルゲーム学会第9回年次大会,2019.3
性格を考慮した群衆シミュレーション • 5因子モデルによる性格を考慮した 群衆シミュレーション • 日本版NEO-PI-Rによる5因子を群衆キャラクタの 性格として付与 井田真,三上浩司,脅威からの避難時における性格を考慮した群衆シミュレーション (映像表現・芸術科学フォーラム 2018 (Expressive Japan))2018.3
まとめ • Unity導入の教育上のメリット – – – – 機能を生かしたことによる作品の質の向上 産業界と同じツールを利用する体験の質の向上 Game Jamなどのイベントでプロと交流する機会が増えた 海外の大学との共同プロジェクトがスムーズになった • 導入の上での工夫 – 目指す人材像に合致するための方策 • ツールを利用することが目的化しないように(極力最初からは使わない) • 使う場合は目的や作品,制作意図を重視 • 特にエンジニア,プログラマにはエンジンそのものを生み出せるよう先鋭化 – 研究実証のツールとして活用 • 研究のコアである手法やアルゴリズムが重要であり,より早く実装できるツールは歓迎 • ゲームエンジンが使える学生にとっては研究が進めやすく,結果として研究が高度化した 25
Fin @mkmtut 26
ご質問,お問い合わせ 三上 浩司 Koji Mikami ゲームカリキュラム講師陣 渡辺大地(PG/FK),安原広和(GD),伊藤彰教(SND), 川島基展(VA/UDK),山田龍明(PD/Unity3D)ほか [email protected] Twitter:@mkmtut Blog:http://mkmlab.net/ 27