全文 - 位置情報ゲーム「Ingress」を用いた自治体での観光振興の取り組み―神奈川県横須賀市と東京都中野区の事例研究によるモデル構築― 内田悠貴

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October 01, 18

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Ingressを用いた自治体での観光振興の取り組みについて、神奈川県横須賀市と東京都中野区にインタビューを行い、それに基づいてIngressを用いた自治体での観光振興の取り組みについて求められる要素をまとめたモデル図を作成しました。
執筆時期は2017年です。
論文掲載note:
https://note.com/ruindig/m/mef101a2f8bc6
RuinDig/YukiUchida-graduation-thesis - GitHub
https://github.com/RuinDig/YukiUchida-graduation-thesis
論文概要ページ(Google Scholar向けメタデータ設定済み)
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各ページのテキスト
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位置情報ゲーム「Ingress」を用いた自治体での観光 振興の取り組み ―神奈川県横須賀市と東京都中野区の事例研究によ るモデル構築― 東洋大学 国際地域学部国際地域学科 国際地域専攻 卒業論文(2018 年 7 月提出) 1810140082 内田 悠貴 (指導教員:久松佳彰教授)

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国際地域学科国際地域専攻卒業論文(2018 年 7 月提出用)要旨 指導教員:久松佳彰教授 位置情報ゲーム「Ingress」を用いた自治体での観光振興の 取り組み ―神奈川県横須賀市と東京都中野区の事例研究によるモデル構築― 1810140082 内田悠貴 <論文構成> 第1章 はじめに 第2章 Ingress について 第3章 先行文献研究 第4章 研究方法 第5章 研究結果 1.SNS 投稿の検索・調査結果 2.横須賀市へのインタビュー 3.中野区へのインタビュー 第6章 結論 参考文献 <論文要旨> 本論文のテーマは、神奈川県横須賀市と東京都中野区でのスマートフォンアプリケーシ ョン「Ingress(イングレス)」を用いた観光振興の取り組みにおいて、なぜ Ingress を導入し たのか、また、積極的に取り組みを進めている横須賀市と現在は取り組みを行っていない中 野区、双方の間に差が生じる要因は何かを研究した。研究に際して、2017 年 11 月に神奈川 県横須賀市と東京都中野区に対して、それぞれインタビューを行った。その際、共通して質 問した項目は「なぜ自治体の観光振興に Ingress を導入したか」 、 「観光振興においてどのよ うな場合に Ingress が効力を発揮するのか、Ingress が効力を発揮する条件は何か」、 「イベ ントやキャンペーン成功の鍵は何か」などであり、個別に、横須賀市には「Niantic 社の介 入の有無によるイベントの盛況度合いに差はあったのか」などを、中野区には「今現在 Ingress を用いた観光振興の取り組みを行っていない理由は何か」を質問した。 まず、 「なぜ自治体の観光振興に Ingress を導入したのか」という質問においては、横須 賀市は「取り組み開始当初、Ingress そのものが無料であったことや、取り組み開始以前か らプレイしていること」 、中野区は「石巻や横須賀でのイベントを参考に取り組みを開始し た」が回答であった。 「観光振興においてどのような場合に Ingress が効力を発揮するのか、 Ingress が効力を発揮する条件は何か」という質問では、横須賀市からは「著名な方やメデ ィアを巻き込んで企画する、予算がない中でも、どのような可能性があるか探す、作品への リスペクトや作品への愛」が、中野区からは「地域にやる気を持ったプレイヤーがいること、

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自治体の主要産業が観光であること、観光スポットが適度に散らばっていること」が回答で あった。 「イベントやキャンペーン成功の鍵は何か」という質問では、横須賀市からは「【模 索・発見・企画】を行政が行い、 【発展・継続】を地元事業者の自発的な動きによって実行 され、 【波及】として、ファンコミュニティの形成がされること」が、中野区からは「Ingress× 健康、Ingress×地域活性化など、Ingress と何かを掛け合わせること、Ingress に限らず、 イベントやキャンペーンに付加価値や魅力を持たせること、事前の情報発信をすること」と いう回答が得られた。 横須賀市に対する「Niantic 社の介入の有無によるイベントの盛況度合いに差はあったの か」という個別の質問では、2015 年 10 月 31 日のミッションデイ横須賀(1866 人)と 2016 年 4 月 30 日の咸臨丸フェスティバルウォーク×Yokosuka Ingress(総来場者数 1836 人、一 般参加者 1461 人、Ingress 参加者 375 人)を挙げ、Niantic 社の介入の有無によるイベント の盛況度合いに差があったことがわかった。 中野区に対する「今現在 Ingress を用いた観光振興の取り組みを行っていない理由は何 か」という個別の質問では、 「当初、石巻や横須賀で活用したイベントが開催されており、 中野区の地域特性を活かしやすい取り組みだと感じていたが、公式イベントでの有料チケ ット販売などのマネタイズ面や地域トラブルなどの新聞記事での表出があること。また、住 宅都市である中野区では、商業地域のすぐ隣に住宅街があり、住宅街を避けてイベントする ことの困難さや歩きスマホなどネガティブな要素も多いため、大きなイベントは難しいと 考えている」という回答を得た。また、横須賀市からは、マネタイズ面の表面化について、 「チケット販売は個人のコレクター心を満たすだけのものであったため、取り組み当初か らの姿勢は変わっていない」という回答が得られた。 これらより、横須賀市と中野区における Ingress を用いた観光振興の取り組みに差が生 じている要因は地方自治体のマネタイズ面への姿勢と都市の性格であると結論付けた。ま た、横須賀市と中野区へのインタビューを基に、Ingress を用いた観光振興の取り組みに求 められる要素を以下のモデル図に示した。 <キーワード> Ingress(イングレス)、 位置情報ゲーム、横須 賀市、中野区、観光振興 モデル図 A Ingress を用いた自治体での観光振興の要素モデル図

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目次 第1章 はじめに .......................................................................................................1 第2章 Ingress について ..........................................................................................1 第3章 先行文献研究 ............................................................................................. 12 1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム 「Ingress」の活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木 村智之、2015 年) ..................................................................................................... 12 2. 先行文献研究:地域活性化における Ingress の可能性(岩手県庁 Ingress 活用研 究会報告、2015 年) .................................................................................................. 14 3. 先行文献研究:携帯位置情報ゲームと観光体験―ゲーミング・ツーリズムの実 態と展望―(天野景太、2010 年) ............................................................................... 17 4. 先行文献研究:観光周遊支援ゲームのこれから(倉田陽平、2013 年) .............. 21 5. 先行文献研究:位置情報ゲームコンテンツによる地域活性化 京都・大阪・和 歌山の事例から(渡辺武尊、猿渡隆文、中道武司、菊池大輔、2013 年) ................ 27 6. 先行文献研究:スマートデバイス向けアプリケーションとゲーミフィケーショ ンによる地域活性化の可能性(田畑恒平、2016 年) ................................................. 30 7. 先行文献研究:岩手県庁ゲームノミクス研究会中間報告書(岩手県庁ゲームノミ クス研究会、2016 年) .............................................................................................. 33 8. 先行文献研究:Web と実世界とをつなぐ宝探しゲーム「ジオキャッシング」の 普及と地域振興への応用可能性(倉田陽平・池田拓生、2011 年) ........................... 39 9. 先行文献研究:ジオキャッシング:無名の人々がゲームを通じて発掘・拡張す る観光価値(倉田陽平、2012 年) .............................................................................. 41 10. 先行文献研究:ジオキャッシング:現実世界に埋め込まれたゲームとその観光 的要素(倉田陽平、2012 年)...................................................................................... 43 11. 先行文献研究:位置ゲームと観光振興―イングレスを例として―(宮武清志、 2015 年) .................................................................................................................... 46 12. 先行文献研究:観光ネクストステージ スマホのゲーム Ingress(イングレス)を 観光に活かす 岩手県庁 Ingress 活用研究会の活動から(保和衛、2015 年) ........... 49 13. 先行文献研究:位置情報ゲーム「Ingress」を用いた観光振興の可能性の研究― 横須賀市を事例として―(山田浩義・志摩憲寿、2016 年) ....................................... 51 i

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14. 先行文献研究:スマホアプリ活用による地域活性化 INGRESS を活用した観 光振興・地域振興の可能性(千野正章・高橋謙洋・渡辺和樹、2015 年) ................ 53 第4章 研究方法 .................................................................................................... 68 第5章 研究結果 .................................................................................................... 69 1. SNS 投稿の検索・調査結果 ............................................................................... 69 2. 横須賀市へのインタビュー ................................................................................ 70 3. 中野区へのインタビュー.................................................................................... 77 第6章 結論............................................................................................................ 79 参考文献 ................................................................................................................... 81 ii

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第1章 はじめに 私は日常の中でスマートフォンアプリケーション「Ingress(イングレス)」をプレイし ている。Ingress をプレイする中で、日経トレンディ 2015 年 7 月号『僻地に人を動か したのは「ゲーム」と「産業革命遺産」』という記事を読み、ゲームの要素を別の領域 に応用して社会課題の解決を目指す「ゲーミフィケーション」という言葉を知った。位 置情報ゲームや「ゲーミフィケーション」は Ingress がリリースされる以前から存在す るが、同記事中の”(ゲーミフィケーションの)象徴的な事例はなかなか出てこなかったが、 「イングレスはゲーミフィケーションの魅力的な概念を体現する作品になっている」1” とあることや、電通報の『 「京都のインスピレーションがイングレスを生んだ」――開発 者が語るジオメディアの本質~Niantic アジア統括本部長川島優志氏』に”文化庁メディ ア芸術祭でゲームの専門家である審査委員に「ゲーミフィケーションという言葉が生ま れてからいろいろなものが出てきたけど、今まで結局成功していなかった。イングレス は最初の成功例だ」というようなコメントを頂き、すごくうれしかったです。(川島氏)2” とあることから、Ingress をはじめとする位置情報ゲームによるゲーミフィケーション の可能性あるいは効果を当初は主題とした。後に、自治体における Ingress を用いた観 光振興の取り組みに関する事例研究へ主題を変更する。 第2章 Ingress について ① スマートフォンアプリケーション「Ingress(イングレス)」とは、2016 年 7 月にリ リースされたスマートフォンアプリケーション「PokémonGO(ポケモン GO)」を開 発・運営する Niantic, Inc.(Niantic 社)が 2012 年 11 月に招待制テストプレイを Android にて開始し、2013 年 12 月に Android 版アプリを正式リリース、2014 年 7 月に iOS 版アプリを正式リリースした位置情報ゲームである。 プレイヤー3は、XM(エキゾチックマター)と呼ばれる架空の物質の使い方を巡っ て対立する、青(Resistance/レジスタンス)と緑(Enlightened/エンライテンド)の 2 つの陣営のどちらかに所属する。プレイヤーは外に出て、世界各地を歩き、各地に 存在している「ポータル」を訪れて様々なアクションを起こす。アプリ内の拠点と なる要素の「ポータル」同士をつないで、コントロールフィールドと呼ばれる三角 形のフィールドを形成して大きさを競うというのが概要である。 日経トレンディ 2015 年 7 月号『僻地に人を動かしたのは「ゲーム」と「産業革命遺 産」 』、日経 BP 社、pp.26-27。 2 電通報(2015 年 11 月 16 日)『 「京都のインスピレーションがイングレスを生んだ」―― 開発者が語るジオメディアの本質~Niantic アジア統括本部長川島優志氏』、 https://dentsu-ho.com/articles/3335, 2017 年 12 月 10 日参照。 3 Ingress において、プレイヤーは「エージェント」と呼ばれているが、本論文において は出典を除いて表記を「プレイヤー」に統一している。 1 1

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② ポータルは、寺社仏閣、城跡をはじめとする歴史的建築物や公園、市役所などの公 共建築、芸術作品などの人工物、その地域特有の場所などが基本である。 基本的に、ポータルはプレイヤーが申請して、Niantic 社によって一定の基準4に 基づいて審査・承認されて Ingress のゲーム画面上に現れる。ポータルの申請件数 が数百万件に上り、2015 年 9 月に新規申請が止まった5が、2017 年 9 月からは限 定的に再開された6。 図 1 左:東京都内における Ingress のポータルとコントロールフィールドの一例 右:ポータルを選択した際のメニュー (出典:共に筆者作成) Ingress においては、アプリケーション内においてプレイヤーの様々な行動が実績と して反映される仕組みがあり、以下の図 2 のように、プレイ開始からこれまでいくつの 未訪問のポータルを訪れてハック7したか、図 3 のようにプレイ開始からこれまでどれ くらいの距離を歩いたのかなどの実績がある。 Ingress、 『Ingress ヘルプ』内「ポータル候補の基準」、 https://support.ingress.com/hc/ja/articles/207343987, 2017 年 12 月 12 日参照。 5 ケータイ Watch(2016 年 11 月 22 日)『ナイアンティック川島氏に「Ingress」の新ポ ータル審査機能を聞く』、https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/interview/1031205.html, 2017 年 12 月 10 日参照。 6 Masashi Kawashima at Google+: “Finally, we could reactivate portal submission. It's time to move! 遂に新規ポータル申請が再開されました。”, Retrieved from: https://plus.google.com/+MasashiKawashima/posts/3ZdXEJs83Ka, posted on September 26th, 2017, last accessed on December 12th, 2017. 7 ハック(Hack):半径 40m 以内の距離でポータルに近づいて画面上にある目的のポータル をタッチして、メニューに表示される「Hack」ボタンを押すことで様々なアイテムを入手 する行動。出典: 『 【MMMMORPG】Ingress 攻略(wiki 風味)【大規模社会実験】』内の項 目「HACK」 、http://ingressjp.blogspot.jp/p/hack.html, 2017 年 12 月 11 日参照。 2 4

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図 2 Ingress での実績:Explorer (出典:筆者作成) 図 3 Ingress での実績:Trekker (出典:筆者作成) ③ Ingress がもたらす影響というのは、アプリケーション内に留まらず、現実世界の 社会にも様々な影響を与える。 最初に挙げるのは、以下に示されるリアルイベントの数々である。 3

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図 4 XM Anomaly: AegisNova Tokyo 2016.7.16 出典:Masashi Kawashima at Google+ : “[English follows]エージェントの皆さん、 Ingress 史上最大のイベント、Aegis Nova Tokyo に参加してくれて、本当にありがと うございました。”, Retrieved from: https://plus.google.com/+MasashiKawashima/posts/3roEC1R7z8h, posted on July 19th, 2016, last accessed on December 10th, 2017. 図 5 XM Anomaly: Shonin Kyoto 2015.3.28 出典:John Hanke at Google+ : “Overflow crowd at #Shonin Kyoto. #Ingress”, Retrieved from: https://plus.google.com/+JohnHanke/posts/ddQrpLAdru2, posted on March 28th, 2015, last accessed on December 10th, 2017. 4

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図 6 ミッションデイ熊本 2016.12.11 出典:Ingress Japan at Google+ : “2016 年を締めくくる Mission Day 熊本と埼玉六宿、 たくさんのご参加ありがとうございました!”, Retrieved from: https://plus.google.com/+Ingressjapan/posts/2UGDFbJy3SP, posted on December 21st, 2016, last accessed on December 10th, 2017. 5

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図 7 InitioTohokuMission 女川 MeetUp 2016.4.24 出典:[たかはしまさき] at Google+ : “Initio Tohoku Mission 女川、終了しました!た くさんの Agent の皆様にお越しいただきました。ありがとうございました!”, Retrieved from: https://plus.google.com/110483659806940758964/posts/EKCxXJxD8HE, posted on April 24th, 2016, last accessed on December 10th, 2017. 6

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図 8 Ingress First Saturday 左:青森県、右:大阪府にて 出典(左):[Gardice Res.(Lv15)] at Google+ : “#ingressFS First Saturday in Aomori 2015.05.02 Res : 22 Persons APGain : 2147751 Enl : 18 Persons APGain : 1692034”, Retrieved from: https://plus.google.com/+ShinjiOokawaGardiceforIngress/posts/VAvGNpwQoz2, posted on May 2nd, 2015, last accessed on December 10th, 2017. 出典(右):[morisato swingwings(もりさと・swingwings)] at Google+ : “朝刊でーす!”, Retrieved from: https://plus.google.com/105254180335391099064/posts/DzybErJeHJi, posted on October 6th, 2015, last accessed on December 10th, 2017. 表 1 Ingress イベントの種類とその企画の中心、および参加者数 (出典:筆者作成) Ingress において、開催されるリアルイベントは主に表 1 に挙げた 3 種類であり、企 画の中心となるのは各種イベントで異なる。 7

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(1)アノマリー(Anomaly):アノマリーは日本でこれまで 11 回開催された8。Niantic 社 が主催して、基本的に開催地を選定する段階から開催地の自治体への交渉、当日の開催 と運営を担当する。日本全国からプレイヤーが訪れる。内容は、Niantic 社によって指 定された特定のエリア内において指定されたルールに基づいて青(Resistance/レジスタ ンス)と緑(Enlightened/エンライテンド)の 2 つの陣営が得点を競うものである。 参加するプレイヤーは無料または有料のチケットを取得すると参加の証として以下 のようなメダルを受け取れる。 図 9 XM Anomaly Shonin のメダル (出典:筆者作成) 図 10 XM Anomaly Aegis Nova のメダル (出典:筆者作成) (2)ミッションデイ(Mission Day):ミッションデイは日本では今日までに 31 ヶ所で開 催された9。日本国内では基本的に、地域のプレイヤーが内容を企画して、自治体に企画 を持ち込む。自治体との連携が確立した後、Niantic 社にミッションデイを開催したい 旨を申請するという過程を経ながら、開催に至る。日本全国からプレイヤーが訪れる。 Ingress, “Prior Ingress Anomaly Events”, https://www.ingress.com/events/archives_xm.html, last accessed on December 10th, 2017. 9 Ingress, “Mission Day”, https://www.ingress.com/events/archives_md.html, last accessed on December 10th, 2017. 8 8

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主催者側が各所に設定した「ミッション」10を参加するプレイヤーが複数ヶ所を巡るこ とで、「ミッションメダル」(図 11)の獲得に加えて、実績として「ミッションデイメダ ル」(図 12)も獲得することができる。 図 11 ミッションメダルの例 (出典:筆者作成) 図 12 ミッションデイメダル:プレイ開始からこれまでのミッションデイへの参加回 数をカウントする。(出典:筆者作成) 10 ミッション(Mission):指定された複数のポータルを巡り、ハックなどの指定された行 動を行うミニゲーム。全てクリアすると図 11 のようなミッションメダルが獲得できる。 ミッション 1 つにつき獲得できるミッションメダルは 1 つ。 出典:岡安学著、Niantic, Inc.監修(2016 年)『INGRESS を一生遊ぶ!』内、「Ingress 基 本用語集」 、宝島社、pp.8。 9

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(3)ファーストサタデー(First Saturday):ファーストサタデーは日本でこれまでに 60 回以上開催された11。地域のプレイヤーが企画・会場の選定・開催を全て担うが、アノ マリーに比べると規模は小規模である。参加者は開催地域のプレイヤーが中心。主に初 心者育成などのプレイヤーによる企画が行われる。 (4)Initio Tohoku Mission:東日本大震災から 5 年が経過し、少しでも多くの人に東北 を訪ねるきっかけを作ることをテーマに Niantic 社が 2016 年 4 月中旬から 2016 年 5 月末の期間限定で、岩手県・宮城県・福島県の沿岸部エリア限定でポータル申請を再開 したものである。女川 MeetUp は宮城県女川町で 2016 年 4 月 24 日に開催され、同日 に岩手県陸前高田市、福島県相馬市、福島県いわき市でも MeetUp が開催された12。 こうしたリアルイベントの数々が人の動きやプレイヤーコミュニティの形成に影響 を及ぼしている。 ④さらに、Ingress は、ビジネスや自治体の観光振興にも影響をもたらしている。 ビジネス面において、Ingress では今日まで複数の企業とパートナーシップやコラボ レーションの取り組みを進めてきた(表 2)。特に、パートナーシップの面においては、 図 13 のように、パートナーシップを結んだ企業の店舗などをポータルとすることによ る広告収入モデルが設定されている。 Fev Games, “IngressFS Archives”, https://fevgames.net/category/ingress/ingressfs/, last accessed on December 10th, 2017. 12 Ingress Japan at Google+: “東北沿岸部でポータル申請を期間限定で復活、記念イベン トを 4/24(日)に開催します”, Retrieved from: https://plus.google.com/+Ingressjapan/posts/h5LB3mZKgS7, posted on March 30th, 2016, last accessed on December 10th, 2017. 10 11

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表 2 Ingress におけるパートナーシップやコラボレーションを実施してきた企業・組 織・ブランドとの例 (出典:筆者作成)13 図 13 Ingress における広告収入モデル (出典:筆者作成) 図 13 内の記述の出典: Cnet Japan(2016 年 3 月 21 日)『Ingress は「究極のネイティブアド」--ナイアンティ ック社長の村井氏』 、https://japan.cnet.com/article/35078185/, 2017 年 12 月 12 日参 照。 13 その他、コラボレーションを行ってきた企業については以下を参照。 [ihara kairi(desire3)] at Google+: “Ingress スポンサーとか PokemonGO スポンサーとか Niantic 提携企業一覧”, Retrieved from: https://plus.google.com/+iharakairi/posts/Ep7mf9qJpKq, posted on March 14th, 2016, last accessed on December 18th, 2017. 11

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HR ナビ by リクルート(2016 年 2 月 23 日)『射幸心あおらない–Ingress が描く「究極 のネイティブアド」とは』 、http://hrnabi.com/2016/02/23/10394/, 2017 年 12 月 12 日 参照。 自治体の観光振興においては、岩手県と神奈川県横須賀市が Ingress を用いた観光振 興の取り組みを 2014 年からいち早く実施している。岩手県では「岩手県庁 Ingress 活 用研究会(後の岩手県庁ゲームノミクス研究会)」が職員有志によって立ち上げられ、後 述の報告書を発表するなど積極的に活動し14、神奈川県横須賀市でも特設のホームペー ジ制作15や Ingress プレイヤーに向けた猿島航路割引を実施するなど積極的に活動して いる。 第3章 先行文献研究 先行文献研究においては、Ingress に限らず、他の位置情報ゲームを用いた観光振興 の取り組みについての研究や自治体から発表された報告書を取り上げた。 1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム「Ingress」の 活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之、2015 年) <先行研究内容> 市域をひとつのミュージアムと見立て、電気的・市民的ネットワークによって、市民 が主体的に生きたミュージアムに関わる必要があり、ICT 技術の活用も重要な要素であ る。神奈川工科大学白井研究室と相模原市立博物館は博物館ネットワーク事業「相模原 どこでも博物館」を協働で実現すべく、「みんなでつくる相模原『知的探求散策アルバ ム』」として推進してきた。 本先行研究は、アンケート調査で明らかになった「中高生に加えて、18 歳〜39 歳と いった若者世代の来館者が他の世代と比べて少ない」という結果に対して、特に「博物 に興味がない市民」に対して、Ingress を用いて、新しい来館者層に向けて行った、web サイト開発、デジタルサイネージシステム開発、ワークショップイベントの実施を通し たフィールドミュージアムの新しい展開手法と結果についての報告である。 Ingress 内で起きている出来事は非 Ingress プレイヤーに知る方法が無いなど、ゲー ムのみでは解決できない部分が課題として挙げられるが、ゲームの外部にこの課題を解 岩手県庁ゲームノミクス研究会は 2017 年 3 月末をもって活動を終了している。岩手県 庁ホームページ内の岩手県庁ゲームノミクス研究会のページを参照。 岩手県庁ゲームノミクス研究会(旧岩手県庁 Ingress 活用研究会): http://pref.iwate.jp/kouchoukouhou/031399.html, 最終更新日:2017 年 3 月 31 日、参照 日:2017 年 12 月 10 日。 15 観光情報サイト「ここはヨコスカ」 、『STRATEGY BASE FOR INGRESS IN YOKOSUKA』 、http://www.cocoyoko.net/ingress/, 2017 年 12 月 12 日参照。 12 14

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決する ICT サービスを展開することでフィールドミュージアムの開発が可能になると 考えた。具体的には、 「Web サイト開発」、 「デジタルサイネージ開発」、 「ワークショッ プイベントの実施」といった 3 手法による補完を試みた。 (1) Web サイト開発 オープンソースのコンテンツマネジメントシステムである WordPress を用い て、 『部活動のような』というコンセプトでサイトサービス名「相模 Ingress 部」 の設計を行った。また、ブログに用いる写真から EXIF 情報(撮影した画像に記録 される、撮影日時や機種、GPS などのデータ)を取得し、地図生成を行うプラグイ ンを開発した。 コンテンツ展開のワークフローは、①「相模 Ingress 部」の投稿者 A が Twitter に新しく発生したポータルの情報を投稿する。②博物担当スタッフである投稿者 B がキーワード・学術情報などの付加、地図の自動生成、学芸員の監修を経て Web サイトのコンテンツとして投稿する。③自動投稿が設定されている Twitter、 Google+などの SNS へも投稿される。④Ingress プレイヤーは Twitter や Google+ の投稿を閲覧し、⑤非 Ingress プレイヤーは Web サイトのコンテンツに付与した キーワードの検索などから Web サイトにアクセスする。 Twitter での反響:2014 年 11 月 13 日から 2015 年 1 月 20 日の 68 日間におい て、主に地域の Ingress の投稿 490 件行い、13.7 万回の表示回数を得た。 (2) デジタルサイネージ開発 実際に相模原市立博物館に来訪するにも関わらず、フィールドミュージアムの 活動を知らない層に向けたアプローチとして、無料で利用できるクラウドストレ ージサービスである Dropbox と Windows の壁紙機能を組み合わせたデジタルサ イネージシステムを開発した。 (3) ワークショップイベントの実施 Ingress プレイヤーにおいて、ゲームにしか興味がない層を市立博物館に来館 させる事を目的に、2015 年 1 月 4 日に Ingress を用いた街歩きイベント「ふちの べ Ingress 初詣」を企画し、21 名が参加した。参加者からは、Web フォームを用 いて作成した事前アンケートとイベント後アンケートを取得した。 取得したアンケートから、博物館へ初めて来館した参加者が 38%いたことが分 かった。一方で「月 1 回以上」など、本イベント以外でも博物館に来館していた ことを意味する回答もあったことから、本イベントはこれまで博物館に来なかっ た層を来館させるだけの新たな価値を創出することができ、イベント以外でも博 物館に来館している層との橋渡しを実現したと考えられる。特筆すべき点として、 この参加者が、2015 年 2 月 7 日の「春よ来い!相模原 Ingress 豆まき!」が開催 される上で中心的役割を担い、同時に Niantic, Inc.公認の初心者向けイベント 「First Saturday」の開催地にもなり、自主的な Ingress プレイヤーの運営によ り開催され、63 名が参加した。 13

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<論文を受けて> 相模原市立博物館へ若者世代の来館者が少ないというアンケート結果由来する地域 社会課題の発見が、Ingress プレイヤーによる自主的な運営によるイベントの開催を展 開するという新たな価値を生み出したという点で、Ingress の活用が、ゲームの要素を 別の領域に応用して社会課題の解決を目指す"ゲーミフィケーション"を実現したと考 えられる。 2. 先行文献研究:地域活性化における Ingress の可能性(岩手県庁 Ingress 活用研究会 報告、2015 年) <先行研究内容> この報告書は、2014 年度に岩手県の職員有志による自主的活動として調査研究を実 施したテーマ「Ingress の活用」について、活動経過、実績、知見などをまとめたもの である。よって、岩手県が公式に進める観光政策などと調整や整合を図っているもので はなく、必ずしもそれらとは一致しないことが予めことわられている。 Ingress は Niantic, Inc.が提供する陣取りゲームで、 ・ 青または緑の 2 つの陣営のいずれかに所属して、 「ポータル」と呼ばれるスポッ トを占拠して自陣のエリアを拡大していく。 ・ ポータルは現実の世界における名所旧跡などが主に登録される。つまり、それ は観光スポットである。 ・ ゲームを進めるためには、ポータルのすぐ側まで赴いて端末を操作する必要が ある。 ・ 全世界共通で遊ばれ、2016 年 1 月現在でダウンロード数は 1400 万を超えたと 発表されている。 これらを基に、 「岩手県内の観光地などをポータルにすることによって、ゲームプレ イヤーや一般観光客にとって、岩手を訪れる楽しみが増え、また、より多くの観光地を 訪れてもらうことができるのではないか?」という仮説を立てた。 研究会は 2014 年 9 月に発足し、14 名で活動し、2014 年度には 2 件のイベントを開 催した。 連携のために必要なこととして、 ① プレイ効率を考えればポータル数が多い都市部向きのゲーム。地方エリアほど捗 らない面がある。 ② 一方では、ポータルにまつわる物語の面白さやポータルに行き着くまでのチャレ ンジ性など、地方エリアでも魅力を創出できる可能性がある。 ③ そのためにも、まずはポータルが無ければ何も始まらない(テレビが無ければ放送 番組も意味がない)。 ④ ポータルの存在を念頭に、 「自分達の地域でなら、プレイヤーにどのように遊んで もらえるか、どのようにゲーム+α の興味を持ってもらうか」という視点が必要。 14

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これまで、 『ポータル探して盛岡街歩き』(2014.11.9)と『ポータル大量発生感謝!ハ ック&キャンドル in 盛岡』(2015.2.14)という 2 つのイベントが開催され、得られたも のとして以下の 6 項目を挙げている。 ① 自分達の地域への興味 ガイド付きの街歩きは、参加者の人気が最も高い。 ② ミッション機能の有用性 「地元の面白そうなミッション」への関心は高い。一方、ゲーム内の記述など だけで地域の魅力を分かってもらうには限界があり、イベントに合わせてガイ ドブックなどを用意するなどの仕掛けは効果がある(ガイドブック単体でも面 白い観光資料になり得る)。 ③ 地元店舗などとのコラボ 企画商品が売れるなど一定のメリットありと思われるが今後なお検証が必要か。 ④ 地元イベントとのコラボ PR 効果の面でコラボはメリットありと思われるが、地元のイベント側のほう に明確な効果があったかどうかは不透明。 ⑤ 地元プレイヤーとのコラボ プレイヤーによる独自企画、地元イベントにちなんだミッションなどが含まれ、 こちらの集客効果には非常に大きいものがある。 ⑥ 実施そのものが話題 活動期間における他地域での動き(情報)と反響: ・ 横須賀市商業観光課:HP 整備、ミッション紹介、無人島誘客など ・ 東京都中野区:活用研究会の開催 ・ 陸前高田市:たかた Ingress 研究会発足 ・ 取材および記事掲載実績:ネットメディア(32 件)を中心に、新聞、経済誌など から 50 件を超える他、個人ブログや SNS での紹介記事多数 先述した仮説に対する答えとして、以下の 5 つが挙げられた。 ① 「観光」の創造性の拡張 ② 地域の再発見 ③ 官民協働の促進 ④ 新たな情報発信、O2O(online to offline) ⑤ 地元への経済効果については未知数 【岩手で取り組むなら】として、以下の 5 つが挙がった。 ① ミッション機能の活用 ミッションは決められたポータルを巡回して、完遂するとメダルが得られる、 言わば「クエスト」 。地域の再発見、復興の現場見学・震災学習を絡めた内陸部 から沿岸部へのドライブミッション、ストーリー性を持った旅などを地元から プレイヤーに提案できる。 ② 宿泊施設や飲食店などとのコラボレーション事例と可能性 15

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・ ある程度限られたエリアでの集客面での有効性と商業との親和性がある。 ・ 事例: 「らら・いわて ハック&キャンドル参加者向け店内商品 5%OFF」 ・ 可能性: 「材木町よ市」 、 「盛岡駅前開運 100 縁商店街」などの取り組みとの相乗 効果〜プレイ特典や電源の提供、飲食店との win-win な関係作り ③ 地元イベントとの連携 ・ 「若者文化祭」 、 「いしがきミュージックフェス」など、文化・サブカルチャー との融和 ・ 「食」をキーワードとする県内各地でのイベントとの連携 ④ 公共交通機関との連携 都市循環バス「でんでんむし」は使える。鉄道は駅をポータルとすることでの 活用。 (可能性:三陸鉄道などとの協働で、沿岸域に南北の観光動線を作る。) ⑤ サブカルチャー分野での岩手ファンの拡大 あまちゃんで盛り上がった、サブカルチャー分野での岩手ブランドをさらに Ingress で拡張していける。 【さらなる活用のための課題】として挙がったのは以下の 3 つ。 ① ゲーム自体のハードルの高さ ② プレイヤー以外の人達の理解とプレイヤーマナー 活用において連携したい人や団体が、Ingress を知らず理解が得られない、と いうケースにどう対応するか。また、イベントでは、スマホを覗きこむ集団 があちこちにいる、といった光景も普段の街の雰囲気とは異なり、歩きスマ ホなどプレイヤーのマナーによっては地元の人たちと間で思わぬトラブルを 招く恐れもあることに留意する必要がある。 ③ セグメント広報戦略 Ingress プレイヤーというセグメント化された層に対し「岩手県」が浸透し て、ネット社会において一定の知名度、ブランドを構築できたと思われるが、 そこには「意外性」の要素もあるのではないか。ニコニコ生放送による情報 発信を最初の例として、今後も、今回のような特定層へのダイレクト発信チ ャンネルができていく可能性があるが、これをどう活かしていくのか、さら なる試行錯誤が求められる。 Ingress を活用する上での【リスク】として以下の 4 つが挙がった。 ① Niantic 社の土俵を使わせてもらっている ゲームの管理運営方法は全て Niantic 社が決めるもの。今後の運営方針の転 換(たとえば有料化、ルールの大幅な変更)、商業主義の導入(行政が加担する のか、との批判が出る可能性)などの状況の変化が起こる可能性がある。ポー タルやミッションを申請しても、こちらの思惑どおり通るとは限らない。 ② あくまでプレイヤーが主役 プレイヤーは純粋にゲームを楽しむ。観光などには全く興味ない人も。プレ 16

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イヤーの主体性を損なうような関与、介入にならないよう、上手く協働して いくことが必要。 ③ ブームで終わる可能性 アプリのゲームの寿命はせいぜい 3 年と言われる。このゲームがごく普通の 観光客層まで受け入れられるか、また、どこまでなら地域の人たちに理解し てもらえるかをよく見極めて戦略や行動計画を立て、見直す心構えが必要。 あまり経済面の効果に期待しすぎるのは禁物。 ④ インターネット上の情報の流通特性 良い評価だけでなく悪い評価もインターネットを通じて瞬時に伝わる。この ことも常に意識しておく必要がある。 <報告書を受けて> イベント開催する上で、 「イベントを開催したい」という単純な動機では不足してい て、その地域が抱える課題やプレイヤーコミュニティの理解を得られなければイベント を開催するには至らない面もある。 3. 先行文献研究:携帯位置情報ゲームと観光体験―ゲーミング・ツーリズムの実態と 展望―(天野景太、2010 年) <先行研究内容> 1.概要 『コロニーな生活☆PLUS』(以下、 「コロプラ」と表記)という携帯電話端末で遊べる コンピューター・ゲームがある。コロプラは、携帯電話端末に搭載された GPS(Global Positioning System)機能を利用して、ゲームのプレイヤーが長い距離を移動したり、地 球上の特定の地点に到達することで、よりゲームを有利に進めることができたり、ゲー ム内のストーリーに進展がみられたりする「携帯位置情報ゲーム」の嚆矢である。この コロプラに代表される携帯位置情報ゲームの普及をきっかけとして、携帯位置情報ゲー ムをプレイすることと、観光経験とを結びつけて楽しめるような旅行の形態が模索・実 践され始めている。 コロプラにおけるゲームのルールでは、長い距離を移動すればするほど、ゲーム内の 仮想通貨(プラ)が貯まる。すなわち、現実世界において遠方を目的地にして長距離を移 動するようになれば、より多くの仮想通貨を「稼ぐ」ことができる。また、プレイヤー が特定の観光地に到達したり、特定の店舗で土産品を購入したりすると貰えるカードに 記載された番号を入力すると、ゲーム内でも珍しい土産品を仮想通貨で購入することが できるようになる。これが、ゲームのプレイヤーが旅行を実行する際のインセンティブ になる。 このような潮流は、これまでインドアの経験と考えられていたコンピューター・ゲー ムで遊ぶという行為と、相反するアウトドアの経験と考えられていた旅行という行為と 17

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を両立させる試みであると言え、その意味では画期的であるかもしれない。本先行研究 は、このような旅行形態を「ゲーミング・ツーリズム」と名付け、その展開過程を整理 した上で、論考を加えることを目的としている。 2.ゲーミング・ツーリズムの定義と史的展開 2.1 ゲーミング・ツーリズムの定義 本先行研究の筆者は、 「ゲーミング・ツーリズム」を、 〈ゲーム(ボードゲームやビデオ ゲームなど)のように特定のルール及び目的を設定して、設定されたルールに従って行 動が決定(制約)される旅行の総体〉と定義したいとしている。 ルールとしては、例えば、予算を制限する、特定の地点を通過する、特定の宿泊場所 に宿泊する、旅行中に次の目的地をランダムに決める、特定の土産品を購入してコレク ションする、など様々なものが想定される。ゲーミング・ツーリズムでは、旅行者の自 発的欲求によって積極的にルールを課し、ルールを遵守する行為自体に楽しみを見出し て行くことが、他の旅行と異なる大きな特徴である。 ルールや目的の設定主体は、①旅行者が自ら設定するケース、②誰かが初めに設定し たルール・目的が、多くの他者の目に留まり、広く普及したものであるケース、③旅行 業者や地域の交通事業者、地域の観光協会などが設定主体となるケース、がある。 2.2 ゲーミング・ツーリズムの史的展開 平安時代末期から行われていた「千社詣」では、全国 1000 の寺社に参詣することを 目的とし、参詣の証拠に祈願内容を記した千社札を奉納した。 明治〜昭和戦前期においては、各地の観光地に絵葉書や記念スタンプが登場し、コレ クションする旅行者も現れたが、その行為にゲーム性が見出され、楽しみ方が大衆に浸 透するまでには至っていない。 戦後、マス・ツーリズムの急速な進展に伴い、多くの大衆が旅行するようになった。 その中で、新たな形態のゲーミング・ツーリズムの潮流を作り上げたのは、鉄道趣味者 らによる鉄道旅行であろう。1950 年代〜1970 年代に主要幹線と地方のローカル線を含 む鉄道網が充実し、目的地までの到着ルートや切符の発券バリエーションなどが多様化 した。国鉄では、全国の主要駅に統一規格のスタンプを設置、専用のスタンプノートに 押印した数に応じて景品を贈呈するなどした。 1990 年代には、テレビのバラエティー番組の企画として、タレントがゲーミング・ ツーリズムを実践する様子を放映するものが登場した。1996 年以降、日本テレビの『電 波少年』内の企画「猿岩石 ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」や、同年以降、北海道 テレビの『水曜どうでしょう』内の企画「サイコロの旅」などが放映された。 2.3 ゲーミング・ツーリズムのバリエーション 第一に、制約遵守型:旅行中に一定の制約を加え、その制約の中でいかに効率的に、 あるいは楽しく行動できるかを追求するタイプ。予算・交通機関・ルート・目的地・通 過地点の制約などがある。事例としては、 『最長切符鉄道の旅』、 『サイコロの旅』など。 第二に、コレクション型:各地の特定の土産品やスタンプを収集する、特定の場所を 踏破するなど、各地に散らばる様々なアイテムやノルマをクリアしていき、最終的な目 18

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標として、それらを出来るだけ多く集めることやこなすことが目指されるものである。 事例としては、郵便局における『旅行貯金』、 【ご当地グッズ収集】など。 第三に、複合型:制約遵守型とコレクション型を組み合わせたルール・目的を設定し て行われるものである。事例としては、【スタンプラリー】や【ミステリーツアー】が ある。 3.携帯位置情報ゲームにみるゲーミング・ツーリズムの新展開 3.2 携帯位置情報ゲームと観光経験 コロプラや『ケータイ国盗り合戦』を用いた地域限定の土産品販売やイベントの実施 は 2009 年後半頃から見られるようになった。これらは携帯位置情報ゲームの運営会社 と地元観光業者や鉄道事業者などとのタイアップ企画としてユーザーに提供されてい る。 第一に、位置情報登録やゲーム内レアアイテムの入手をインセンティブとした旅程や 旅行形態の提案を行うキャンペーン。コロプラと東京地下鉄のタイアップ「東京再発 見!食べ尽くし位置ゲーの旅」(2010 年 4 月〜10 月)では、東京メトロの所定の駅に到 達し、位置情報を登録し、複数の駅を巡ってゲーム内において特定の食材を入手し、指 定された駅で位置情報登録をして料理(仮想アイテム)を完成させる、といったもの。 第二に、携帯位置情報ゲームの攻略をテーマとした旅行商品の販売。例えば、前述の コロプラのルール・目的に準拠して、遠方へのバスツアーを実施することで移動距離を 稼ぎ、各観光地においてゲーム内のレアアイテムやスタンプコレクションにつながる土 産品を購入することや観光施設に入場することを主要な行程とし、著名な観光資源を巡 るなどするパッケージツアーである。JTB では、2010 年初旬以降、 「コロ旅」と称して いち早くコロプラとのタイアップによる旅行商品を複数販売し、若年層を中心に多くの 参加者を獲得した。 3.3 携帯位置情報ゲームを用いたゲーミング・ツーリズムの特色 第一に、ゲーム目標達成の進捗・成果の記録という側面―従来型においてスコアブッ クに相当するのはスタンプ帳やシリーズ物の土産品であったりする。それらは旅行中の 記帳や購入を繰り返すことで独立に増強される。鉄道全路線完乗などにおいては、他者 による証明が残るわけではなく、自分で乗車した路線を事後的にマークして記録するし かない。携帯位置情報ゲームでは、スコアブックへの記帳は事後的ではなく、位置情報 を登録した瞬間にリアルタイムで行われ、即座にゲームの進行過程に反映される。距離 の移動は GPS に基づき算出され、機械的に計測されたデータとして証明され、観光行 動の反映として入手したアイテムは、ゲームの進行において実行的な効能を果たすもの である。 第二に、他のプレイヤーとのコミュニケーションの広がりやスタイルについてである が、従来型では、基本的に旅行者としての自己完結的な世界の営みである。目標達成は 自己の欲求を満たすことが第一義的である。旅行後にコミュニティの内部で、塗り潰さ れた鉄道路線図を見せ合う、ご当地グッズを交換し合うことは考えられるが、他社との 競争といった要素は薄い。ゲーミング・ツーリズムの実践報告が、ブログや動画共有サ 19

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イトを通じて多くのネットサーファーに共有され、人気のブログや動画には閲覧者から のコメントが寄せられる。ここでは、情報の送り手と受け手という構図が明確に存在し、 その間におけるコミュニケーションが成立している。しかし、携帯位置情報ゲームを用 いたゲーミング・ツーリズムの場合、ゲームのアプリケーション自体に、ゲームのプレ イを題材として他のユーザーとコミュニケーションを楽しむためのサポートツールが パッケージとして提供されている単独行動が基本であるものの、旅行中の感覚の他者と の共有や、成果のシェアリングがリアルタイムに可能であり、この意味でユーザー同士 のコミュニケーションという場面において、プレイヤーは情報の送り手と受け手の立場 の両方を同時に併せ持つことになる。 第三に、ゲームのルール・目標に関してであるが、従来型では、基本的にルール・目 標は固定的である。しかし、携帯位置情報ゲームの場合、コロプラの場合はコロニーを 育てる、ケータイ国盗り合戦の場合は天下を統一する、というマクロなルールは固定的 だが、ミクロなルール(ゲーム中のミッション・イベント・アイテムなど)は事後的に多 様に設定できるため、楽しみ方は固定的ではない。例えば、コロプラにおけるレアアイ テムの入手方法も、東京地下鉄とのタイアップでは地下鉄の駅巡りとなり、栃木県日光 市の煎餅店「石田屋」などの個人商店とのタイアップでは、位置登録と同時に、プラス チック製のカード(コロカ)を配布し、現実世界におけるコレクションの楽しみも併せて 提供されている。 4.まとめと展望 以上のように、携帯位置情報ゲームを用いたゲーミング・ツーリズムは、従来型の現 実空間上だけで完結するゲームのルール・目的を組み入れた旅行では為し得ないような 経験の提供が、ビデオゲームにおける仮想空間上の土地やキャラクターを育てる楽しみ という要素、デジタル技術を用いたユーザー同士のナラティブ・コミュニケーションの 要素、そして現実世界での観光経験の要素という 3 つの位相が複合的に連関を持ったも のであることによって可能になっている。この意味で、これまでの千社詣以来の伝統を 持つ日本のゲーミング・ツーリズムの歴史を第 1 世代のゲーミング・ツーリズムと考え ると、第 2 世代のゲーミング・ツーリズムの台頭と位置付けても良いだろう。今後も現 実空間と仮想空間の連関の在り方が模索されながら、様々な第 2 世代のゲーミング・ツ ーリズムの形式が登場してくることが期待され、ひいてはそれが、観光経験の在り方そ れ自体の変化を促し、様々なニュー・ツーリズムのひな型へと展開しうるものになるか もしれない。 <論文を受けて> Ingress においては、ゲーミング・ツーリズムのルールや目的を設定する主体は旅行 者が自ら設定するケースとミッションデイなどのイベントにおける主催者が設定する ケースが挙げられる。Ingress における旅行中の自身の行動は様々な指標で数値化され ていて、リアルタイムに反映される。成果のシェアリングもリアルタイムに可能である。 Ingress におけるマクロなルールはレベルを上げることであり、この先行研究で述べ 20

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られていることと同様に、ミクロなルールは事後的に多様に設定できる。例えば、2017 年 3 月 19 日に大阪府堺市で開催されたミッションデイ堺では、現実世界におけるコレ クションの楽しみも併せて提供するものとして特徴的なデザインが描かれた硬質な紙 製のカード(BIO カード)が配布された16。 4. 先行文献研究:観光周遊支援ゲームのこれから(倉田陽平、2013 年) <先行研究内容> (1) 概要 スマートフォンの爆発的普及に伴い、全国各地で人々の観光周遊に役立つスマートフ ォンゲームが登場している。本先行研究ではそれら「観光周遊支援ゲーム」の 7 事例を 概観し、これらに対する学生の関心調査も踏まえて、ターゲティング、適切なゲームジ ャンル、動機付けの手法、位置判定技術、コンテンツ制作の協働化、存在感の演出、ゲ ーム観光後の行動誘発、観光地のデータ取得など、今後の観光周遊支援ゲームの企画・ 設計において考慮すべき要素について議論する。 (2) はじめに スタンプラリーからご当地ゲームアプリに至るまで、「実際にある場所」を題材とし たゲームは数多く提案されてきた。これらは以下の 4 つに大別できる。 ① ある場所の認知向上に役立つもの。例えば、肥薩おれんじ鉄道を題材にした「お れんじ鉄道で行こう」や有田市公認のみかん農場経営ゲーム「AR-ARIDA」が 挙げられる。 ② ある場所への人々の誘客に役立つもの。例えば、位置ゲーの代表格である「コ ロニーな生活」では、ゲーム内のアイテムがもらえるカードを特定の店舗で発 行し、誘客を図っている。 ③ ある場所来訪後、その内部における周遊の役に立つことを狙うもの。観光地で 行われるスタンプラリーや謎解き/宝探しゲームはこれにあたる。 ④ 特に場所への寄与はなく、単純にそこをゲームの舞台・モチーフとして利用し たもの。 本先行研究は、③のうち、観光地や観光関連施設を対象としたものを観光周遊支援ゲ ームと呼び、焦点を当てる。観光周遊をゲーム仕立てにするメリットはいくつか考えら れる。まず、観光資源に付加価値を与えて訪問価値を高めることができる。また、通常 の観光より滞在時間を延長させ、より多くの消費を誘発させることができる。そして何 より、通常の観光では気づかれにくい魅力的な観光資源を参加者に体験させることがで き、これが上手く行けば、参加者による再訪や好意的なクチコミ発信も期待できる。 [MissionDay 堺] at Google+ : “当日 3/19、さかい利晶の杜 MissionDay 堺受付にお 越しくださった方”, Retrieved from: https://plus.google.com/116607892278137841073/posts/Lt3EvwZvTRm, posted on March 17th, 2017, last accessed on December 11th, 2017. 21 16

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もっとも、現実空間のあちこちにゲーム要素を配置し、管理・更新していくには、大 変な手間が必要になる。そこで、ゲーム要素を仮想化すれば、そのような手間は回避で きて、さらに、スマートフォンの利用によって、動画や音声を活用したり、現実空間と ゲーム要素の双方向性を上手く高めたりすることで、より印象深い体験を利用者に与え ることができる。 (3) 観光周遊支援ゲームの事例 観光周遊支援ゲームはスタンプラリーに始まって多種多様な事例があるが、ここでは 電子端末を活用した近年の事例を 7 つ紹介する。 事例 1:ミッション in 佐久島 アートハンター このゲームは、愛知県の佐久島の島内に散在する現代アート作品を「宝箱」と見立て、 宝探し形式でアート作品を周遊させるものである。 事例 2:京都妖怪絵巻 このゲームは、 「妖怪討伐士見習い」として、京都市内各地にいる妖怪を退治してま わるものである。退治したい妖怪を選び、ヒントを得てクイズに正解することでアイテ ムが与えられ、妖怪退治戦へ移る。これを繰り返して京都各地の寺社旧跡 7 箇所を巡る こととなる。 事例 3:メネフネアドベンチャートレイル このゲームは、オアフ島にある Aulani, A Disney Resort&Spa で提供されているア トラクションの 1 つである。スマートフォンに似た電子端末を借り、画面上の指令に沿 ってホテルの中庭やロビーを探索し、そこに隠された秘密を解き明かして行くというも のである。 事例 4:ときめき がまごおり このゲームは、愛知県蒲郡市を舞台に、男性キャラクターとのバーチャルデートを楽 しむものである。3 人のキャラクターがそれぞれグルメ、遊び・体験、パワースポット を担当。 事例 5:BRICK STORY 江別まち歩きシリアスゲーム このゲームは、 「同じ中学校の写真部に所属していた男女 3 人が 4 年ぶりに再会し、 かつて写真撮影に訪れた思い出の場所を巡りながら、もう一人の仲間について記憶をた ぐり寄せていく」というストーリーのもと、北海道江別市内の観光スポットを巡るノベ ルゲーム(小説を読み進めていくかのように進行するゲーム)である。 事例 6:ジオキャッシング ジオキャッシングは全世界規模で楽しまれている投稿型宝探しゲームである。宝箱は 公園や路上など現実世界のあちこちにゲリラ的に隠されており、その数は国内に 1 万 6 千個あまり、全世界では 217 万個に及ぶ(2013 年 8 月 9 日現在)。来訪者に楽しんでも らおうという配慮が宝箱投稿者に働くためか、宝箱の多くは何らかの見所周辺に設置さ れる傾向にある。 事例 7:未完成ガイドブック 網走市の旅行プランコンペディションで提案されたこのゲームアイデア(未実装)は、 22

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「海岸に打ち上げられた記憶喪失者として、記憶を取り戻すために旅をする」という設 定のもと、虫食い状態のガイドブックの空欄に発見や気分を書き込んだり、写真を貼っ たりしながら、記憶探しの旅をするというものである。 (4) 観光周遊支援ゲームへの関心 本先行研究では、観光周遊支援ゲームの企画に役立つヒントを得るため、主要ターゲ ットと考えられる若者層を対象に、上記各ゲームに対する関心度合いを調査した。 被験者は首都大学東京の教養科目「自然・文化ツーリズム入門」を受講した大学生 124 名である。 表 3 学生の観光周遊支援ゲームへの関心度(5 段階評価) 全体 ゲーム名 平均値 標準偏差 アートハンター 3.24 1.01 京都妖怪絵巻 3.22 1.11 メネフネアドベンチャー 3.93 1.03 ときめきがまごおり 3.08 1.30 BRICK STORY 3.44 1.10 ジオキャッシング 4.18 1.02 未完成ガイドブック 3.95 0.91 観測度数 124 性別 ゲーム名 男性平均 女性平均 P値 アートハンター 3.09 3.47 0.056 京都妖怪絵巻 3.07 3.47 0.084 メネフネアドベンチャー 3.89 4.00 0.519 ときめきがまごおり 2.92 3.41 0.052 BRICK STORY 3.42 3.44 0.986 ジオキャッシング 3.95 4.60 0.000 未完成ガイドブック 3.70 4.36 0.000 観測度数 75 45 理文別 ゲーム名 理系平均 文系平均 P値 アートハンター 3.38 3.07 0.049 23

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京都妖怪絵巻 3.18 3.27 0.553 メネフネアドベンチャー 3.97 3.88 0.596 ときめきがまごおり 2.98 3.23 0.272 BRICK STORY 3.35 3.53 0.349 ジオキャッシング 4.18 4.19 0.736 未完成ガイドブック 3.95 3.96 0.936 観測度数 66 56 ゲーム関与度別 ゲーム名 ゲームをしない群の平均 ヘビーゲーマー群の平均 P値 アートハンター 3.18 3.33 0.533 京都妖怪絵巻 3.16 3.18 0.895 メネフネアドベンチ 3.94 4.09 0.656 ャー ときめきがまごおり 3.00 3.44 0.116 BRICK STORY 3.52 3.45 0.736 ジオキャッシング 4.29 4.09 0.328 未完成ガイドブック 4.07 3.76 0.125 観測度数 51 33 ※ヘビーゲーマー群は、スマートフォンゲームを月に 11 日以上プレイする者によって 構成される。 ※P 値は、マンホイットニーの U 検定によって算出された二群の差の有意確率を示す ものである。 表 3 は被験者全体、および男女別・理分別・スマートフォンゲーム関与度別に関心度 平均値を示したものである。学生の関心が最も高かったのはジオキャッシングで、とき めきがまごおりは多くの場合で関心度平均値が最低であるとともに、標準偏差も最大で あった。このことから、ときめきがまごおりは人によって関心が二分されるゲームだと わかる。 男女別では、女性の方が男性よりもほとんどのゲームにおいて関心を示し、うちジオ キャッシング、未完成ガイドブックの 2 つではその差が有意となった。その他、スタン プラリー経験の有無、宝探し/謎解きゲーム参加経験の有無に応じた各ゲームへの関心 度合いの違いについても調べたが、差はほぼ見られなかった。 以上のことから、次の示唆を得た。 ・ジオキャッシングやアートハンターの様に、地図を頼りに冒険するゲームは男性向け と思われたが、データを見る限り女性にも受けが良い。 ・文系の学生には歴史的要素のある京都妖怪絵巻や文学的要素のある BRICK STORY 24

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が好まれると予想していたが、実際にはあまり差がなかった。 ・ゲームをしない層は未完成ガイドブックやジオキャッシングの様な、参加自由度の高 いゲームに対し高い興味を示す。 ・スタンプラリーなどの昔ながらの観光周遊支援ゲームへの参加経験の有無は、電子端 末を使った観光周遊支援ゲームへの興味には影響を及ぼさない。 続いて、同じデータから主成分分析を行い、二次元の主成分プロットを作成した(図 表省略)。これより、第一主成分(寄与率 36.4%)は一般的な関心の持たれやすさ、第二主 成分(寄与率 18.0%)は大人向けか否かを示す軸だと解釈でき、このような観点のもとで 観光周遊支援ゲームは評価される可能性が示唆される。 以上の分析から、ゲームの性格に応じて関心を引く層が異なることが明らかになった。 従って、観光周遊支援ゲームを企画する際には、そこの観光地に呼び込みたいターゲッ トは誰かを考え、それに即した性格のゲームを考える必要性があると言えるだろう。 (5)観光周遊支援ゲームの企画・設計に際し考えるべきこと (4)では観光周遊支援ゲームの企画の際の「ターゲティング」の重要性が導き出され、 この他にも観光周遊支援ゲームの企画・設計の際に考慮すべき事項はいくつも考えられ るという。本項では過去の事例を踏まえながら、順に紹介している。 (5.1)ゲームジャンル 任天堂のサイトでは、過去発売された幾多のゲームが「アクション、アドベンチャー、 スポーツ、シミュレーション、シューティング、ロールプレイング、パズル、テーブル、 音楽、レース、格闘、コミュニケーション、学習/トレーニング、実用、その他」の 16 ジャンルに分類されている。この中で観光周遊支援ゲームに適用できそうなジャンルは どれなのかという考察を述べる。 地理・歴史・文化・自然などを現場で学びながら楽しむようなクイズゲームが考えら れる点から、学習/トレーニングというジャンルはすぐに観光周遊に適用できそうだ。 アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームも、物語や冒険の進行と共に次々と 舞台が移り変わるという点で、観光周遊に親和性が高そうだ。 テーブルゲームというジャンルも、そのインドアな響きとは裏腹に、観光周遊との親 和性が高そうだ。広島市の広探ゲーム、鹿児島与論町のヨロン島・リアル人生ゲーム島 のように、スゴロクや人生ゲームを実際の街で展開し、偶然性の魅力を持った観光周遊 を支援している事例もある。 また、シュミレーションゲーム中の恋愛・育成シュミレーションゲームというジャン ルも観光に応用できる可能性が高い。仮想の恋人や仮想のペットとの旅行など、魅力的 なキャラクターの力によって周遊を動機づける仕掛けが考えられるからである。ただし、 このジャンルは、(4)で見たように、関心を持つ層が限定される恐れが否めない。 一方、アクション・シューティング・音楽ゲーム・レースゲームの様に、素早い動作 やゲーム画面への意識集中を要するゲームは、事故防止や日中の屋外の日差し、騒音を 考えると、観光周遊と親和性が低い恐れがある。 (5.2)動機付けのメカニズム 25

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ゲームという行為は参加者の自主性に基づくものであり、逆にゲームの強制はゲーム をつまらないものへと変えてしまう。観光周遊支援ゲームにおいても、参加者の意識に 「強制的に回らされている」という感覚が生まれれば、ゲームは途端につまらないもの となるだろう。 そこで、参加者に自己主導感を感じさせる工夫の1つとして、宝探し、妖怪退治、思 い出の地巡りなどの「世界観・物語の提供」があり、ゲーミフィケーションで用いられ るノウハウの 1 つである。 世界観や物語の提供以外にも、ゲーミフィケーションで使われる動機付けノウハウと して次のようなものを挙げる。 ・オンボーディング:人々を気楽に参加させ、やりながらルールを徐々に体得させる。 ・スコアや順位の可視化:参加者に定量的な評価軸を示し、それに即した行動を促す。 ・ミッションやゴールの提示:参加者に目標を与え、誘導する。 ・バッジやレベル:参加者に目標達成度合いを認定して、更なる意欲向上をもたらす。 ・競争:参加者の競争意識を高め、熱中させる。 ・ソーシャル:参加者同士の連帯感を高め、離脱しにくくする。 ・やりこみ要素:ゲームをやればやるほど楽しめる上級者向けの要素を用意する。 ・逆転要素:新参者は必ずしも不利ではなく、かつ上級者も油断がならない状況を用意 する。 (5.3)位置判定技術とその応用 (5.4)コンテンツの作成と拡張 (5.5)存在感の演出 電子端末を用いた観光周遊支援ゲームはスタンプラリーとは異なり、チェックポイン トなどが現実世界に露出しないため、ゲームの存在が気づかれにくい。そのため、積極 的な宣伝はもちろん、チェックポイントやゲーム要素を現実世界に配置するか、ゲーム 参加者の行為や成果をあえて目につくものにすることで参加者以外にゲームの存在を 気づかせるように仕掛けるのも一計である。 (5.6)ゲーム観光後の行動の誘発 面白い観光周遊支援ゲームを提供しても、クリアしたきりになるのではもったいない。 ゲーム参加者にはその地域のファンになってもらい、クチコミ発信・再訪・物産購入な どを促したい。そのためにもゲームを通じてその地域の魅力に気づかせることが重要で ある。例えば、ゲーム中にユニークな記念写真を撮らせるミッションがあれば旅行後の 良い土産話のタネとなる。 一方、ゲーム参加者に再訪行動や物産購入を促すには、ゲーム中の業績を称え、何ら かの特典を付与するのも一計である。 (5.7)データ取得 観光周遊支援ゲームには「観光客の周遊の役に立つ」という表の目的に加え、「利用 者からデータを収集する」という裏の目的も成立しうる。しかし、利用者の行動はゲー ムによって影響を受けているため、一般の観光客の行動について言及することはリスク 26

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を伴う。そこで、周りの状況をレポートさせるゲーム内のミッションなどから、スマー トフォンを環境センシングデバイスとみなして、利用者の行動に代わり、「利用者周囲 の状況」についてデータを収集することを考える。 (6)おわりに 以上述べてきたように、観光周遊支援ゲームの企画・支援にあたっては検討すべき事 項が様々あり、またその分だけ可能性も大きく広がっていると言える。ゲーミフィケー ションの醍醐味の1つは、面倒なことを楽しみへ変えられる可能性である。よって、 「混 雑」や「予想外の悪天候」など「観光において面倒なこと」という観点からゲームデザ インを考え始めるのも良いかもしれない。 5. 先行文献研究:位置情報ゲームコンテンツによる地域活性化 京都・大阪・和歌山の 事例から(渡辺武尊、猿渡隆文、中道武司、菊池大輔、2013 年) <先行研究内容> (1)緒言 位置情報ゲームの草分けと言えるコロプラ(コロニーな生活プラス)などで利用され る位置情報と地域のリアル店舗での連携企画は地域で新たな観光需要を喚起している。 このような事例はまだ数が少ないが、各地域にはさらに多くの需要があると思われる。 しかしコロプラなどの大手のゲームと連携するだけでなく、予算や需要に合わせた位置 情報コンテンツも求められているのではなかろうか。そこで、本先行研究では位置情報 ゲームを各地域ごとにカスタマイズし、地域のイベントなどで利用しやすいようにした プログラムの開発と、実際に運用を行うことにした。 (2)位置情報コンテンツと地域活性化を巡る状況 昨今の歴史ブームにより、改めて地域に注目が集まっている。この歴史ブームの特徴 は 20 歳代〜30 歳代という若年層が流行の担い手であることが特筆される。この世代の 歴史への関心の契機は歴史ゲームやアニメであることが多く、情報機器の操作に長けて いる。これはそれまでの歴史好きの中心であった中高年とは大きく異なる。それまで地 域の歴史コンテンツは中高年層をターゲットにしていたため、若年層へのマーケティン グはなされていない場合が多い。 その中で、位置情報コンテンツはチェックインを記録することを主体とした、いわば スタンプ的な要素が強い。しかし、それをゲームにすることで継続性が生まれ、ゲーム からリアルな旅行や、旅行先での購買行動につながっている。 その代表であるコロプラは各地域を巡って位置情報によるスタンプを集め、地域のバ ーチャルなお土産を集めるゲームになっている。お土産はバーチャルに留まらず、リア ルな店舗で、ゲームユーザーへの限定土産などを販売するなどの連携企画もある。これ によって地域でも無名であった店舗が急激に集客した事例もある。 (3)企画プロセス 研究室にあたるデジタルハリウッド大学院ラボでは学生の関心が地域情報コンテン 27

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ツに集約していたこと、また学生の居住地域が和歌山や大阪南部に集中していたことか ら、和歌山と大阪南部を扱う地域コンテンツを作成することになった。 利用するコンテンツとして考えたのは以下の 3 つである。 ・GPS による位置取得 ・位置情報に基づいたコンテンツ表示 ・AR 技術の利用 またコンテンツとしては以下の 4 つを考えた。 ・地域ゆかりの歴史人物 ・歴史人物を利用したクイズとゲーム ・ゆるキャラ・戦隊物と連携 ・AR を利用した歴史人物などの表示 (4)運用の方向性 4.1 京都での運用 京都では 2 月 3 日に節分行事として「節分おばけ」がある。仮装をして四方の神社詣 りをし、鬼を追い払い厄落としをするというヴェネチアなどヨーロッパのカーニバルと ハロウィンを足したようなイベントである。長らく廃れていたが 2002 年より復活させ る取り組みを筆者や京都の旅館組合などを含めた何人かで行ってきた。ここでは参加者 に仮装で周辺の観光スポットを歩いてもらい、その地域ゆかりの人物を知ってもらうこ とで地域の魅力再発見という方向に誘導することにした。 4.2 和歌山での運用 本来このコンテンツ全体は、和歌山のコンテンツとして企画したのだが、2 月 3 日の 節分が時期的に先になってしまったため、京都節分の事例を元に再カスタマイズを行い 実装する予定である。 (5)コンテンツ概要 コンテンツは、スマートフォンで GPS 機能により位置情報を取得し、位置情報を元 にゆかりの人物が登場し、そのゆかりの人物によるゲームが展開される。ゲームはゆか りの人物が敵役と味方役に分かれ、敵役を封印するということでクリアできる簡単なゲ ームである。ゲームのヒントとして、地域ゆかりのクイズなどが出題され、人物ゆかり のアイテムで敵役を封印していく。またヒントを AR 技術により表示することも想定し ている。 5.1 京都でのコンテンツ 節分おばけ行事を行っている団体の開催地域に合わせて企画したため、5 つの地域コン テンツからなるものとなっている。 ① 三条地域 三条商店街中心の京都精華大学真下研究室の開催地域。味方役は明智光秀、敵役は織 田信長である。本能寺跡に近いことなどから明智光秀が味方役となった。 ② 東山地域 味方役には広く知られる人物を、敵役には鬼に関わる人物を挙げた。味方役は坂本龍馬、 28

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敵役は小野篁である。 ③ 宮津天橋立地域 酒呑童子で知られる大江山の鬼伝説に近いことから、味方役は源頼光、敵役は大江山の 鬼である。 ④ 鞍馬貴船地域 叡山電車でのおばけ電車企画があるため用意した。味方役は牛若丸、敵役は鞍馬のカラ ス天狗である。 ⑤ 島原地域 味方役は安倍晴明、敵役は鬼である。節分行事が鬼を追い払うことが基本のため、敵役 には鬼を類推できるようなキャラクターを用いている。 具体的な利用方法は、節分おばけ参加者が仮装で各地域を巡るが、その行く先々で GPS による位置取得により、その地域の謎を解く形で進められる。 その地域や人物に因んだクイズを解くことで、アイテムを出現させ、そのアイテムを 適切な位置に実装することで、敵を封印することができる。封印することでクリアでき るのだが、封印までの所要時間の短さを競うゲームになっている。 このランキングを発表し、上位の者にイベントの商品を贈呈するなどを行うことで、 ゲームへの参加者を増やすことが出来るとしていて、今回は地域対抗もでき、地域ごと の特典を競うこともできるようになっている。 (6)HTML5 によるコンテンツ制作について ネイティブアプリを作成するより半分のコストで実現が可能であると同時に、アプリ の審査などの過程を省略することができる。 (7)和歌山の事例と今後の展望 全国各地にはひこにゃんやくまモンのような所謂ゆるキャラが多く作られているが、 人気が出るキャラクターの一方で、あまり活用されずに消えていくキャラクターもいる。 このシステムを用いて、各地の埋もれたゆるキャラなどを掘り起こして、活用できれ ばと考えている。和歌山には、空海や真田幸村など歴史上の人物や和歌山に関わる人物 が多い。その中にはゆるキャラになっている人物もいる。 その 1 つに、文武天皇の后になった藤原宮子が和歌山県御坊の海女の出身であったと いう宮子姫伝説に基づいて作られたゆるキャラ「みやこひめ」がある。本先行研究は、 今後はこのみやこひめを中心に和歌山のゆるキャラを取り上げたカスタマイズを行い、 実証実験を行っていく予定である。 また将来的な展望になるが、AR 技術(Augmented Reality 拡張現実と訳される)を利 用し、ゆるキャラをその地域でスマホカメラから出現させる試みを行いたい。しかし AR 技術はまだまだコストがかかるシステムであり、これをどう解決していくかが課題とな っている。 (8)結語 このように GPS 機能による位置情報ゲームコンテンツを地域イベントで利用した事 例の紹介を行ってきた。これを各地域でキャラクターを入れ替えるだけで使えるシステ 29

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ムとして提供する。これは地域の行事などでこのコンテンツを利用することによって地 域の再発見につながり、観光など地域活性化につながることを目指すコンテンツである。 以上の、京都節分おばけ祭や和歌山でのイベント導入事例から、低予算で導入できる モバイルによる地域活性化コンテンツとして利用されることを期待している。 6. 先行文献研究:スマートデバイス向けアプリケーションとゲーミフィケーションに よる地域活性化の可能性(田畑恒平、2016 年) <先行研究内容> 1. 検討背景 スマートデバイスの急激な普及に伴い、スマートデバイスならではの AR などの機能 を活用したアプリケーションを開発することによって、大きな話題を呼び地域活性化に つなげている事例も少なくないという。ここでは地域活性化におけるスマートデバイス 向けアプリケーションの取り組みと効果を、岩手県及び神奈川県箱根町の事例を通じて 概観しつつ、地域活性化におけるスマートデバイス向けアプリケーション技術を使った 活用の取り組み及びその課題について論を進めている。 2. 地域活性化に寄与するスマートデバイス向けアプリケーション 表 4 に示した各地域において提供・運用されているスマートデバイス向けアプリケー ションの多くは地方自治体や地域団体(観光協会など)が開発(もしくはアプリケーショ ン製作会社に開発依頼)し、自身の管理の下で運用公開しているものである。 表 4 自治体・地方公共団体が制作または提供するスマートデバイス向けアプリケーショ ンの分類 種類 内容 観光 地域観光情報紹介、地図情報表示、ナビゲーション 行政サービス系 ゴミ分類、災害避難情報、行政情報、地域コミュニティなど エンタテインメン 地域をモチーフにしたゲーム、ゆるキャラなどを活用した ト系 AR アプリなど これらの分類を具体的なアプリケーションとその特徴で見ている。例えば、観光系ア プリケーションとしては埼玉県所沢市の「トコトコマップ」、長崎県佐世保・平戸・西 海エリアの「ウェルカモメ」などの標準的な地域観光情報紹介アプリケーションなどが ある。他では、大阪市、岡山県倉敷美観地区、蒲郡市、丹波市でも取り組みがある。 一方、行政サービス系アプリケーションは、ゴミの分類や災害時の避難誘導など実生 活に直結したアプリケーションが多く、インターフェースや機能も観光系アプリケーシ ョンと比較すると、落ち着いたものが多い傾向があるとしている。その大部分はゴミの 分別や避難経路など行政が一方的に発信する生活情報を提供するものであり、「住民参 加型」アプリケーションが少ないことである。「住民参加型」アプリケーションの代表 例として挙げられるのが、千葉市が展開する「ちばレポ」であろう。このアプリケーシ ョンは、市民が千葉市の行政に対して道路の補修など改善を要求したい箇所の写真と 30

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GPS による位置情報をアプリケーションを通じて千葉市に通報し、千葉市はその情報 を活用して課題解決に向けて具体的なアクションを起こすという仕組みである。大きな 市域を抱える自治体では従来から細かいところまで行政サービスが行き届かない問題 が指摘されていたが、住民発信によって行政の対応を促進して無駄な動きを抑えること に成功した事例であると言える。 エンタテイメント系アプリケーションについてであるが、自治体が主体のエンタテイ メント系アプリケーション開発は難しいと言わざるを得ない。そうした中で、観光・特 産品 PR に特化した和歌山県有田市の有田みかんの栽培を体験できるシュミレーショ ンゲーム「AR-ARIDA」が特徴的であろう。このアプリケーションは、有田みかんのゆ るキャラ「あり太くん」と"有田みかん大使"であるお笑い芸人「ハリセンボン」が力を 合わせて有田みかんを栽培するリアル体験シュミレーションゲームであり、地域の特産 品である「有田みかん」を PR することに特化したアプリケーションとなっている。 このように、自治体が展開するアプリケーションが様々な側面において活動を支える 役割を担っていることは明らかである。しかし、アプリケーションのダウンロード数は 上がっても、 恒常的に使っているユーザーの数に大きな変化が見られない「AR-ARIDA」 のように、利活用の実態においては不十分な面があると言わざるを得ない。 4.ゲームアプリケーション「Ingress」を活用した取り組み 4.1.ゲームアプリケーション「Ingress」とは 「Ingress」とは、Google の社内スタートアップとして始まり、現在は Google およ び Alphabet から独立した Niantic, Inc.が提供する無料のスマートデバイス向けアプリ ケーションである。プレイヤーは青又は緑のいずれかの陣営に属し、「ポータル」と呼 ばれるスポットを占拠して自陣のエリアを拡大していく。ポータルは現実の世界におけ る名所旧跡などが登録される。ゲームを進めるためにはポータルのすぐそばまで赴いて 端末を操作する必要があるということがあり、そのため「外出する、歩き回るゲーム」 とも言われる。 4.2.「Ingress」の特徴 「Ingress」の特徴は、現実世界に存在する建造物やモニュメントなどに割り当てら れたポータルと呼ばれるスポットを確保するために、実際にその場所を訪れなくてはな らないということにある。 4.3.「Ingress」が地域活性化につながる理由 「Ingress」が地域活性化につながる理由としては大きく 2 つの点が挙げられる。ま ず 1 点目は、ポータルの登録である。ポータルは前述にもあるように「地域の目印」的 なスポットに設定される。従って、プレイヤー達は、そのポータルを目指して現実的に 移動してくるのである。こうしたことから、ポータルを核にプレイヤーたちの歩き回り が起こり、周辺地域や商店などでの購買に結び付くなど活性化につながると考えられて いる。2 点目はそのプレイヤーの多さによるイベントでの集客と活性化である。日本で も多くのプレイヤーが参加していることや各地域で行われているイベントへの集客が 順調に伸びていることから、スマートデバイス上で楽しむだけのゲームの枠にとらわれ 31

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ない集客力を持っていることが明らかになっている。 4.4.「Ingress」を活用した取り組み事例(岩手県) 岩手県では、2014 年 9 月に、県庁内の有志職員により Ingress を新しい PR ツール として観光振興、地域活性化、情報発信の強化などを進めることの可能性、有効性につ いて調査検討を行う「岩手県庁 Ingress 活用研究会」を発足して取り組みを開始した。 まず手始めに行ったことは、盛岡市内のポータルの充実である。これは Ingress のプレ イヤーを岩手県に呼び込むためには、まずは盛岡市内を Ingress のプレイに快適な環境 にすることが大事であるいう考えが基になっている。そこで盛岡市内にポータルを大幅 に増やすことを目的に、ポータル候補地の探索と申請を行う活動「ポータル探して盛岡 街歩き」を 2014 年 11 月 9 日に実施した(54 名参加)。 こうした Ingress を活用した取り組みは盛岡市のみならず岩手県の各市に波及し始 めており、まずは話題作りや PR ネタとしての実績を上げ始めている。 5.AR を活用したゲーミフィケーションの取り組み 神奈川県箱根町「箱根補完計画 AR スタンプラリー」 5.2.概要 2014 年 12 月 1 日から 2015 年 3 月 31 日まで、神奈川県箱根町の観光スポットを中 心とした特定の地点で、スマートデバイスの画面に「新世紀エヴァンゲリオン」のキャ ラクターが出現するインバウンド観光誘致イベント「箱根補完計画 AR スタンプラリ ー」を実施、AR スタンプラリーとしては世界最大規模の取り組みである。開催期間中 には、スタンプラリーのチェックポイントが 100 カ所以上、AR コンテンツが出現する スポットが 50 カ所以上設置し、AR 出現スポットではエヴァンゲリオンのキャラクタ ーを表示した AR コンテンツをスマートデバイス上に再現する。したがって、参加者は 用意されたコースに沿って AR 出現スポットを巡ることで、キャラクターに出会うこと ができ、AR 再現を目的とした回遊が生まれる形となっている。 5.3.使用されている技術 5.4.関係団体 5.5.取り組みのポイント スタンプラリー自体においては,単なるスタンプラリーではなく、スタンプラリーに スコアをつけて競争させる要素を取り入れ、フォトコンテストなども実施している。ま た、早朝のスタンプ取得や写真撮影など参加者の行動によって規定のスコアに「レアポ イント」などのゲーミフィケーション的要素を付加させている。更に Facebook や LINE などソーシャルメディアとも連動し、情報交換を促す仕組みを付加することで、個人間 の情報伝達による口コミ効果を狙っている。このように多くのゲーミフィケーションの 要素を多く含みかつ、人気コンテンツという組み合わせによって、顧客の満足感を最大 限に引き出し、また訪れてみよう、参加してみようというロイヤリティ化を図ることに 成功した事例であると言えよう。 さらに、実際の回遊観光コースは箱根町観光協会が厳選し、箱根の歴史・文化に触れ られる 5 コースと美術館めぐりや公共交通機関で行くなど目的別 6 コースを用意して 32

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いる。日帰りや短期旅行では全コースを終了させることは難しく、延泊やリピートして も参加したくなるような仕掛けで、コンテンツだけに頼らない箱根の魅力を中心に置い た丁寧な形が取られている。 6.結び このようにゲームアプリケーション「Ingress」、人気コンテンツ「新世紀エヴァンゲ リオン」による地域活性化の取り組みが行われているが、そこでは課題も浮き彫りにな ってきている。 「Ingress」のプラットフォームはあくまでも Niantic 社が握っており 1 つの会社の経営方針によって、その存在が左右されてしまう点やゲームアプリケーショ ンとしての寿命、陳腐化など様々なリスクを内包していることにも留意する必要がある。 更に箱根ではイベント実施時期の来訪者の集中とそれに伴う交通渋滞などの環境の悪 化など課題が残されている。また、他の地域へ拡大していくにあたって、スマートデバ イス向けアプリケーションとゲーミフィケーションの要素を活用した取り組みにおい て「他の地域と如何に差別化を図れるか。」という点が重要になってくる。各地がそれ ぞれの地域資産に根差したコンテンツを開発し、それをゲーミフィケーションの手法で プレイヤーに伝えていくことによってより深い地域とのエンゲージメントを得るのと 同時に、どの様な形で地域の経済や文化の発展にプレイヤーを巻き込んでいくのかとい う点について、今後一層の開発が必要であろう。 <論文を受けて> 神奈川県箱根町での取り組みから、位置情報ゲームを用いたイベントには、延泊やリ ピートしても参加したくなるような仕掛けで、コンテンツだけに頼らない地域の魅力を 中心に置いた丁寧な形が求められる場合があると考えた。 7. 先行文献研究:岩手県庁ゲームノミクス研究会中間報告書(岩手県庁ゲームノミクス 研究会、2016 年) 【岩手県庁ゲームノミクス研究会が 2016 年に発表した中間報告書について、「ゲーム とのコラボレーション指針の提案について」という項目を中心にまとめる。】 <先行研究内容> 1.検討の背景 現状として、Ingress による観光振興などの取り組みや「ゲーム×岩手県」のコラボ企 画の事例が存在することからゲーム業界において岩手県が有名であるとしている。一方 で、コラボの観点やノウハウの共有に課題があるとしていて、各所属のコラボの観点・ 進め方がある中での県としての取り扱いがバラバラにならないよう、「共通の指針」の ようなものがあると良いのでは、としている。 2.検討の方向性 具体の検討項目として、 ① 自治体などのゲームとのコラボ状況の確認 33

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② 自治体などのゲームとのコラボの目的、意義の調査 ③ これまで実施してきた取り組みの確認 ④ ゲームとコラボする必要性 ⑤ ゲームとコラボするための売り込み 以上の 5 つを挙げている。 検討①:自治体のゲームとのコラボ状況 ・戦国 BASARA×山梨県甲府市 ・パズル&ドラゴンズ×富山県高岡市 その他、防災・生活情報など多数の自治体提供アプリがあるとしている。 検討①:企業のゲームとのコラボ状況 ・モンスターストライク×ローソン ・Ingress×ローソン ・戦国 BASARA×京浜急行電鉄 ゲーム会社はゲームの認知度向上とプレイヤーの拡大、コラボ企業は集客効果と売り上 げの拡大、というように双方にメリットがあるとしている。 検討②:自治体への調査 ・ゲームの活用やコラボレーション事例について調査を実施 ・調査対象:43 都道府県(宮城・栃木・茨城県を除く) ・調査項目 (1)事例について―①事例の有無、②事例の詳細、③取り組み体制、④きっかけ、⑤目的、 ⑥効果、⑦課題 (2)庁内組織(所管部局、職員の自主研究グループについて)―①庁内組織や取り組みの有 無、②詳細、③目的、④効果、⑤課題、⑥今後の設置予定及び理由 ・回答数 32/43(回答率 74%) ・調査結果 ① 事例の有無 事例「有」が 13/43(30%)と、思ったほど多くなかった(市町村の取り組みの方が活発 な可能性あり)。 Ingress の取り組みが複数県あり、 「岩手県の取り組みを参考にしたい」との声もあっ た(岩手県の Ingress の取り組みが多くのメディアに掲載された影響か?)。 ② 目的 全国共通で、ゲームの特性を活かした新規層の開拓、誘客促進、魅力発信や認知度向 上が大半で、ゲーミフィケーションを活用したオープンデータの収集や利活用、中心市 街地の活性化といった意見もあった。 ③ きっかけ 多くが企業からの提案で、行政が主導するケースは少なかった。 ④ 効果 新規層の開拓、誘客や販売促進、情報発信に効果的として、高評価だった。 34

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⑤ 課題 まずはプレイしてもらうことが必要であり、ゲームをプレイしてもらうための認知度 向上が課題である。自治体の負担ありの場合は費用対効果による。 ⑥ 庁内組織の設置 庁内組織の設置は 4 県のみで、コラボレーションの推進とまでは言えないが、代表と なる窓口を設置しているケースがあった。 ・調査結果を踏まえた考察 ① 多くが企業からの提案であり、積極的にゲームを活用しようとまでは至っていない。 逆に、今がチャンスとも言える ② 企業は行政とのコラボに何を求めているのか?行政からメリットなどを示せれば、 マッチングが増えるのではないか? ③ 新規層の開拓、誘客促進や県 PR など、自治体側の評価は高いが、企業側はどのよ うな効果を期待しているのだろうか? ④ コラボレーションの課題はあるが、自治体側が改善すべき点はないか? 検討②:企業への調査 ・都道府県調査の結果を踏まえ、企業側へ調査を実施 ・調査対象 岩手県とコラボレーションを行う(株)モバイルファクトリー取締役 宮井秀卓氏にイン タビュー ・調査項目 ①きっかけ、②目的、③期待した効果、実際の効果、④不安だった点、⑤自治体に改善 が必要な点、⑥課題 ・調査結果 ① きっかけ 行政へのオファーはハードルが高く、どこに連絡したら良いかわからない。また、代 表に連絡しても、担当まで辿り着けるかわからない。 ② 目的 行政とのコラボによりゲームへの信頼性が高まり、普段ゲームをしない方々に知って もらうきっかけになる。 ゲームプレイヤーへの新たな価値の提供ができ、ゲームへの信頼性が高まり、他企業・ 他自治体が興味を持つきっかけにもなる。 ③ 効果 メディア戦略の拡張によるゲームプレイヤーの満足度向上と普段取り上げられるジ ャンル外へのメディアへの露出。 ④ 不安 最初のアプローチが最大の壁であるが、以降はスムーズに行える。 ⑤ 自治体側の改善点 地元のトレンド、イベントなどと掛け合わせた情報発信や、地元企業との連携、協力、 35

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他自治体への情報発信、つながりの拡大などもっと広がりを見せてほしい。 ⑥ 課題 コンテンツの充実に向けた素材の提供やゲーム内で完結せず、体験する場、流通の場 の提供が求められる。 ・調査結果を踏まえた考察 ① 代表窓口の明示など、企業がアプローチしやすい環境づくりが効果的で、 「岩手県庁 ゲームノミクス研究会」 、 「会長・保和衛」の露出効果大 ② ゲームの特性を生かしたプレイヤーへの新たな価値の提供、満足度の向上に加え、 「行政」という信頼性も強みに ③ 異ジャンルのメディアへの露出は双方にとってプラスに ④ 地元のトレンド、キャラクター、イベントなどと掛け合わせ、情報発信に広がりを 【調査結果を踏まえた今後の取り組みの方向性】 ・他自治体に先行して取り組むこと。行政からの仕掛けは今がチャンス。 ・win-win の関係を目指すことで、互いにメリットを享受する。 ・地元のトレンド、キャラクターなどを大いに活用する上で、地域資源は大きな武器で ある。 ・メディア戦略を意識する。異ジャンルへの情報発信は効果大。 検討③:これまで実施してきた取り組み ・(株)サイバーエージェントとのコラボ企画(2013.4〜2015.3) 【天下統一クロニクル×岩手県】 愛着のある都道府県に所属し、全国を巡りながら、個性豊かな隊士(カード)を手に入れ、 他の都道府県と合戦などを行いつつ、天下統一(ランクアップ)を目指すゲーム。 ・(株)モバイルファクトリーとのコラボ企画(2015.12〜) 【ステーションメモリーズ!×岩手県(三陸鉄道・IGR いわて銀河鉄道)】 GPS 機能を利用して探索した最寄りの鉄道駅を仮想所有し、奪い合うゲーム。日々の 行動を記録できる機能もあり、旅行記代わりにもなるもの。 検討④:ゲームとコラボする必要性 ・多くの人がスマホを持つようになった。通信環境の向上により、いつでもどこでも、 ネット上の情報にアクセス可能。スマホでの情報発信は大きな拡散力を持つツールとな っており、岩手県のイメージアップ、知名度アップを行うツールとしてスマホ&ゲーム を活用する。 ・若者を呼び込むツールとしてのゲーム。地方創生、若者活躍支援の取組として、県内 外の若者の興味を引き、若者が岩手に集い、そして活動する環境をゲームを通じて構築 して、交流人口を拡大する。 ・地元企業や専門学校などクリエイターの育成。ゲームを楽しむユーザーとしてだけで はなく、ゲームを開発するクリエイターやプログラマーを育成し、雇用の拡大、地域お こしなどを仕組み、定住人口を拡大する。 ・ゲームによる学習効果。地域の知識を深める、社会問題を学習するツールとして、ゲ 36

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ームを活用する。(例)SIM2030、Ingress を通じた地域の名所旧跡巡り 検討⑤:ゲームとコラボするための売り込み ・ポイント① 行政課題の解決のために、ゲームを活用した取組をしているとを広く PR する。 ▷Ingress 研究会、ゲームノミクス研究会 ▷既にコラボしているゲーム会社との事例紹介 ・ポイント② 岩手県及びコラボ企業のメリットを明確にして話を進める。 ▷県側:イメージアップ、観光地・県産品の紹介、ゆるキャラの知名度アップなど ▷コラボ企業側:岩手県とのコラボによるゲームの知名度アップ、メディア露出 ・ポイント③ 岩手県側の支援方法の具体的提示 ▷企業誘致として、ゲーム会社を岩手移転した際の優遇措置 ▷地元大学・専門学校生の就職あっせん ▷ゲーム開発支援 ▷県イベントや施設などを活用したゲームの PR 【コラボ企画】 ▷観光地、県産品、キャラクターなどのコンテンツ素材の提供 ▷県政広報などを活用した情報発信 ▷地元大学、専門学校、地元企業との協力体制の構築支援 〈検討①〜⑤を踏まえたゲームとのコラボレーション指針(案)〉 (1)代表窓口を設定し、積極的に情報発信する。窓口へのコンタクトがなければ何事も始 まらない。 (2)ゲームの特性を理解し、目的や効果を明確にすることと、目指すもの、求めているも のを共有して進める。 (3)県としてできることを明確にすることで、どういう取組が可能かの判断材料になる。 (4)メディア戦略は念入りに行うことで、新たなジャンルの開拓につながる。 (5)県として一体的に取り組むことで、部局間連携など、コラボの効果を最大限高める。 コラボ検討(案)―第 1 段階 第 1 段階―実施中の取り組みを強化 (例)ステーションメモリーズ!×岩手県(三陸鉄道・IGR いわて銀河鉄道):更なる誘客促 進、ユーザーの満足度向上を目指し、来年度以降も取組を継続する場合の方向性を、前 掲の指針により検討。 ・指針 1 代表窓口を設定し、積極的に情報発信をする。当研究会をきっかけとしてコ ラボが実現。来年度以降も同様の体制を継続するメリットあり。 ・指針 2 ゲームの特性を理解し、目的や効果を明確にする。位置情報ゲームの特性を より活用し、他自治体との共同コラボにより、プレイヤーの満足度向上、誘客促進につ なげる。 37

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▷近隣の県と共同で、東北全体を周遊するコース ▷ゲームとのコラボに積極的な各地の都道府県に声をかけ、日本全国を巡るコース など ・指針 3 県としてできることを明確にする。特に、上記のようなコラボを行うに際し ては、県が他自治体・団体との調整役となることで、より円滑なコラボ推進が可能に。 ・指針 4 メディア戦略は念入りに行う。今年度と同様に、各種広報ツールを活用した 情報発信は、双方に効果大。共同コラボなどの新たな取組を加えた情報発信は、県の PR としても効果大。 ・指針 5 県として一体的に取り組む。今年度と同様に、各部局が連携した取組により、 効果的なコラボを実現。 コラボ検討(案)―第 2 段階 第 2 段階―得たノウハウを他のゲームにも応用 (例)Ingress: 「ステーションメモリーズ!」と同様、他県とコラボしたミッション設定、 イベント開催の実施。「Ingress」では既に前例あり(横須賀市との遠距離ミッション設 定)。 ▷更なる遠距離ミッション例 1.次回以降の国体県とコラボ、Ingress でもバトンをつなげる 2.被災各県の沿岸部を巡り、復興の状況を体感してもらうなど ▷コラボ自治体と「連携協定」を締結。更なる展開へ。 コラボ検討(案)―第 3 段階 第 3 段階―コラボの更なる展開 ・第 1 段階、第 2 段階で出来た自治体間のつながりを活かし、ゲームをより積極的に活 用した自治体 PR を実施 (例)各自治体においてゲームを開発。即売会などのイベントに共同出展して頒布する、 ゲームをテーマにしたイベントの開催など。 ▷各県の代表がゲームで競う、ゲーム版国体 ▷ゲーム・サブカルチャーに係るトップ会談(参考:岩手、鳥取、徳島県による「怪フォ ーラム」) 結びに ・岩手県では、観光や地域振興の取組の一環として、ゲームとコラボレーションした取 組を実施してきた。 ・県政の重要課題である「ふるさと振興」にも、ゲームの力が大きな効果をもたらして くれると感じている。 <報告書を受けて> コラボレーションにおいて企業からの提案が多く、また、コラボレーションするパー トナーが位置情報ゲームに限らないことは新たな発見であった。 企業からの提案が多いとあったが、横須賀市の Ingress を活用した取り組みは、市職 員からのボトムアップで始まったため、数少ない行政からの提案なのではないだろうか。 38

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8. 先行文献研究:Web と実世界とをつなぐ宝探しゲーム「ジオキャッシング」の普及 と地域振興への応用可能性(倉田陽平・池田拓生、2011 年) <先行研究内容> 0. 概要 ジオキャッシングはインターネット上の掲示板と GPS を利用したハイテク版宝探し ゲームであり、全世界で 150 万人以上の参加者がいると言われる。このゲームにおい て「宝箱」は参加者自らが現実世界のどこかにひっそりと隠すが、その際に他の参加者 に紹介したい場所に設置しようとする傾向があるため、穴場的な名所を広く知らせしめ、 かつその名所に冒険的魅力を付加する効果が期待される。本先行研究では、ジオキャッ シング公式サイトから収集したデータをもとに、日本において近年、ジオキャッシング が指数関数的な成長を遂げている現状を明らかにする。また、このようなジオキャッシ ングを地域振興に取り入れようとする式根島の事例を紹介し、ジオキャッシングの観光 地域振興への応用可能性と課題点について議論している。 1. はじめに GPS を搭載した携帯電話やスマートフォンの普及によって、位置情報を使った様々 なゲーム(位置ゲー)が登場してきた。その中では、例えば和歌山県北山村へ多数の来客 を持たした『コロニーな生活☆PLUS』のように、過疎地へ人を呼び込むコンテンツと して機能しているものもある。 ジオキャッシングは、インターネット上の掲示板と GPS を利用した「ハイテク版宝 探しゲーム」である。2011 年 11 月現在、全世界で 150 万個超の「キャッシュ」と呼ば れる宝箱の情報が登録されている。 ジオキャッシングが通常の地域型ゲームと大きく異なるのは、ゲームが不特定多数の 参加者によって作られるという点である。ジオキャッシングでは参加者の側が自ら相互 に楽しむためにゲーム要素(キャッシュ)を設置する。このため、上手く行けば地域にお いて自律的にゲームが進化し続ける可能性がある。 またジオキャッシングにおいて、キャッシュは参加者が他人に紹介したいと思うよう な風光明媚な、あるいは何らかのゆかりのある場所に設置される傾向がある。このため、 個々のキャッシュには、地域の隠れた観光名所を広く知らせしめる効果と、その名所に 「宝探し」という冒険的価値を付加する効果とが期待できる。 2. 文献の中のジオキャッシング ジオキャッシングの急速な広がりを受け、「なぜ人はジオキャッシングを行うのか」 という疑問に対する研究が行われてきた。例として、Chavez らのミネソタ州のジオキ ャッシング愛好家たちにアンケートを行い、彼らの動機を統計的に分析した事例を挙げ る。その結果、 「森林風景を楽しむ」 「運動をする」 「新しいことを経験する」 「自然を経 験する」 「技術や能力を試す」 「リクリエーションへの参加」 「健康を感じる」 「自然に接 近する」 「チャレンジする」 「地域の自然史を学ぶ」といった動機について大多数の愛好 39

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家から賛同が得られたという。また、ジオキャッシングの教育現場における活用、社会 人に対する教育的意義についての研究も見られるという。 3.5 日本における展開のプロセス 2000 年 5 月にアメリカ・オレゴン州でジオキャッシングが生まれた 9 ヶ月後の 2001 年 2 月 3 日、沖縄・真栄田岬に日本(東アジア)で最初のキャッシュが設置された。2008 年には iPhone が国内で発売となり、スマートフォンからジオキャッシングが楽しめる 時代が到来する。この年、日本国内のキャッシュ数は 1000 を越え、東京では 100 件超 の設置を記録したという。また、今までキャッシュの少なかった新潟・福岡・山梨に 30 を越えるキャッシュが大量設置される。そして 2011 年には日本国内の全都道府県にキ ャッシュが広がった。 4.地域振興への利用:式根島の例 年間 21000 人あまりの観光客を引きつけている。しかしながらその観光客は夏期に 集中しており、需要の平準化が課題となっていて、また、観光客総数の減少や高齢化・ 過疎化も島にとっての大きな課題となっている。 式根島にジオキャッシングが根付くのに大きな役割を果たしてきたのは、2009 年以 降、毎年開催されている CITO(Cache In, Trash Out)イベントである。これは、島外か ら参加したジオキャッシング愛好家と島の子供たちとが一緒になり、宝探しを楽しみな がら同時にゴミ拾いを行っていくというイベントである、このイベントは、ジオキャッ シング愛好家たちに式根島の名を知らしめるだけでなく、いくつかのメディアにも取り 上げられた。また、地域の子供たちの参加や清掃活動を絡めてイベントを実施すること により、島民のジオキャッシングへの理解が進み、愛好家たちが島内で堂々と宝探しを 楽しむ下地が形成された。 式根島にジオキャッシングを導入する利点の一つは,ジオキャッシングというシステ ムが「無人の観光ガイド」として機能する点である。現在 26 個あるキャッシュの多く は、島に点在する観光名所や絶景ポイントに設置されている。個々のキャッシュの情報 を得るため公式サイトのページを開くと、そこには設置場所の観光案内やこぼれ話、さ らに以前に訪れた人々の感想や耳より情報が投稿されており、非常に有益であるという。 またもう一つの利点は、各名所に「宝探し」という冒険要素が付加されることによっ て、来訪価値の向上と滞在時間の延長とが期待できる点である。式根島は半日で歩き回 れるほどの小さな島であるが、島に設置された 26 個のキャッシュ(2012 年 11 月末現 在)をすべて探索するには 1 泊 2 日ではとても足りない。 5.地域振興への応用に向けた課題点 式根島の例で見たように、ジオキャッシングは地域に人を呼び込むツールとして期待 できる。しかし、それが持続的な地域振興につながるかまでは保証できない。そもそも 観光資源の全くないところにキャッシュを設置し人を呼び込んでも、一過性で終わって しまう。また、有名観光地など既に人の多い地域では、ジオキャッシングを気兼ねなく 楽しむことができない。したがって、おそらくジオキャッシングによって地域振興に成 功する可能性があるのは「穴場的な観光地」ではないだろうか。なぜなら、参加者がキ 40

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ャッシュに導かれ、隠れた名所に出会うことができれば、そこでの発見の感動が他者へ のクチコミ発信、あるいはリピート行動へとつながると考えられるからである。 <論文を受けて> Ingress においては、 「穴場的な観光地が地域振興に成功する可能性」とは無関係かも しれない。ポータルの設置が同時に「その場所に観光資源がある」ことを示していると 捉えることができるからである。また、Ingress におけるポータルは現実世界に存在す る寺社仏閣・史跡・芸術作品などが基になっているため、設置以降ユーザー自身の管理 が必要なジオキャッシングのキャッシュに比べる(式根島では例外的に地元の商工会が 島外者の管理を代行)と、Ingress プレイヤー自身が特別にポータルを管理する必要性は ないため、プレイヤー全員がポータルを申請し、審査が通れば設置されるという申請に おける気軽さがある。 9. 先行文献研究:ジオキャッシング:無名の人々がゲームを通じて発掘・拡張する観 光価値(倉田陽平、2012 年) <先行研究内容> 1. 現実空間に重ねられたフィールド ジオキャッシングは一言で言うと、宝探しゲームの進化版である。ある参加者がどこ かにジオキャッシュと呼ばれる秘密の小箱を隠す。そしてその場所の情報をインターネ ット上の公式サイトに登録する。すると、その情報を見た他の参加者が現地を訪れ、そ の小箱を捜し出そうとする。隠し場所は、石垣の間、木の根元、パイプの中、植栽の中 など、実にさまざまだ。小箱のサイズはタッパーサイズのものから豆粒大のものまで 様々である。時には箱ではなく、木の根っこや岩石、スイッチボックスやポールなど、 何かに偽装していることもある。そして小箱の中には発見者の名を書き残すログシート が入っている。また、タッパーサイズのものであれば何か「宝」が入っている。 2. 遊び方 ジオキャッシングに興味を持ったら,まずは公式サイト Geocaching.com にアクセス してみよう。トップページの中程に検索窓があるので、そこに好きな地名を入れてみる (日本語可)。すると、その地域にあるキャッシュの一覧が表示される。引き続き「Map this location」というボタンを押せば、その地域にあるジオキャッシュが地図上に表示 されるはずだ。 地図上に表示された個々のジオキャッシュアイコンをクリックすると、簡単な説明が ポップアップで表示される。さらにそれをクリックすると、詳細な情報が別ウインドウ に表示される。この中には、宝探しのガイドに加えて、地理・歴史に関するちょっとし たうんちくや、その界隈の散策に役立つ情報が書かれていることが多い。 3. 宝箱のありか 本先行研究の筆者は「ジオキャッシュの設置者は、他人に紹介したいと思うような風 41

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光明媚な場所、あるいは何らかのゆかりのある場所を設置場所に選ぶ傾向にある」とい う O’Hara, K.の指摘から、もしこれが事実なのであれば、個々のジオキャッシュには 地域の隠れた観光名所を発掘し、広く知らせるような効果が期待できる、と述べている。 本先行研究では、このことを検証するため、日本国内のジオキャッシュ 1000 個を無 作為抽出し、それらがどのような場所に置かれているのかを調査した。 最も多かった設置場所は公園・緑地(20.5%)であった。出入りが自由で、公共性が高 く、なおかつ人目が少ないため、好まれているのだろう。 寺社仏閣(10.8%)、史跡・碑(10.3%)も人気の高い設置場所であった。これらは地域と ゆかりが深く、歴史や伝承を伴っている。それゆえ、これらのキャッシュの案内文中に は、ほとんどの場合で、そういった歴史や伝承の紹介が見られた。 観光の観点から言うと、どの場所が観光資源に該当するかを断定するのは難しいが、 先の寺社・仏閣(10.8%)、史跡・碑(10.3%)に加え、viewspot(3.5%)、自然景勝(3.4%)、 博物館などの見学施設(2.7%)、タワーや路上アートなどのモニュメント(2.3%)は観光資 源性が高いと考えられる。合計では 32.8%を占める。さらに、公園・緑地をはじめ他の カテゴリのものも、見所案内が記されているものが多数見られた。全体を通してみると、 78.0%のジオキャッシュがその案内文中に何らかの見所案内を含んでいた。このことか ら。多くの場合、ジオキャッシュの設置には、その場所を紹介する意図が含まれている ことがわかる。 本先行研究の時点では、日本国内におけるジオキャッシュの密度分布は、関東地方と 甲信越平野部・愛知県・大阪周辺、そして沖縄本島にジオキャッシュが多数分布してい ることがわかる。県別で見ると、1 位が愛知県(1850 個)、2 位が東京都(1497 個)、3 位 が神奈川県(883 個)であり、以下、千葉県(736 個)、沖縄県(734 個)、茨城県(567 個)、 大阪府(476 個) 、埼玉県(398 個)、栃木県(378 個)、京都府(286 個)と続く。 4. ジオキャッシングによる誘客 ゲームのしくみを利用して,ある行為へと人を動機づけることをゲーミフィケーショ ンと言う。例えば、航空会社は顧客が一年間に利用した距離や回数に応じてシルバーや ゴールドといった会員ステータスを提供している。これに刺激されて一部の人々は、ま るで RPG のレベル上げをするがごとく、空の旅に勤しんでいる。ゲーミフィケーショ ンは消費者のロイヤリティ維持・向上に有効な手段として注目を集め始めている。 観光におけるゲーミフィケーションは、スタンプラリーや謎解きゲームとして昔から 存在した。近年では、スマートフォンの普及に伴い、位置情報を使ったゲームが浸透し、 地域への誘客に貢献している事例が見られる。北米では実在店舗の常連ステータスを競 い合うというゲーム的 SNS「foursquare」が商業的な成功をおさめている。 伊豆諸島にある式根島(東京都新島村)では、ジオキャッシングによって観光客を誘客 しようという先駆的な試みが行われている。その中心にあるのは、島の商工会が毎年開 催している「CITO(Cache In, Trash Out)イベント」である。これは、来島したジオキ ャッシング愛好家と島の子供たちとが一緒になり、宝探しを楽しみながら同時にゴミ拾 いを行う、というイベントである。これにより、島の名が島外に広がり、愛好家によっ 42

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てジオキャッシュが島内に設置され、島民のジオキャッシングへの理解が進んだ。 島にジオキャッシングを導入する利点の一つは、ジオキャッシングというシステムが 「無人の観光ガイド」として機能する点である。すなわち利用者は自らジオキャッシュ 設置点を巡っていくことで、自動的に島の名所を巡ることとなる。もう 1 つの大きな利 点は、たとえば石碑や古井戸のように観光価値の乏しいものでも、そこに「宝探し」と いう冒険的魅力が加わることで、来訪価値が向上し、さらには来客の滞在時間の増加も 期待できるようになることである。 ジオキャッシングが他の観光誘客のためのゲームと異なるのは,ゲームが不特定多数 の参加者によって作られているという点である。ジオキャッシングでは,無名の参加者 がゲーム要素(ジオキャッシュ)を増加させ続けていく上に、ゲーム内容(ジオキャッシュ の隠し方)も日々進化を遂げている。 5. では、ジオキャッシングだけなのか? ジオキャッシングのようなゲームは、他にも無数に存在しているのかも知れない。例 えば、Ciste と呼ばれるフランス生まれの宝探しゲームが既に日本に上陸している。 確実に言えることは、位置センサーと通信機能を搭載したスマートフォンが普及した 今日、現実世界の上にゲームを重畳することは驚くほど簡単になっている、という現実 である。そして、ジオキャッシングはその現実の中で開花したゲームの一例に過ぎない。 別にゲームは 1 つだけでなくても構わない。今後、第二、第三のジオキャッシング的 なものが登場し、それぞれのゲームがそれぞれのコミュニティ構成員を魅了しながら、 結果としてより多くの人々が自宅やオフィスを飛び出し、各地を盛んに飛び回り、ゲー ムを通して各地の魅力を次々と発見する時代が来ることを本先行研究の筆者は願って 止まない。 10. 先行文献研究:ジオキャッシング:現実世界に埋め込まれたゲームとその観光的要 素(倉田陽平、2012 年) <先行研究内容> 1.現実世界がゲームフィールド ジオキャッシングは宝探しゲームの一種である。 宝探しゲームではあるが、情報機材が利用され、宝箱の情報が公式サイト上に掲載さ れ、それを見た参加者がスマートフォンを使って現地を探し回る。 そして、その規模が全世界に及び、2012 年 7 月末現在、全世界には 184 万個の宝箱 と、500 万人を超える参加者がいるとされている。 更に、ジオキャッシングは参加者の協調的創造活動によって発展を続けていて、ジオ キャッシングにおいて宝箱は参加者自身が設置する。そして宝箱毎に掲示板が与えられ、 参加者同士がコメントし、コンテンツが成長していく。 ジオキャッシングは 2000 年にアメリカで誕生し日本においては 2012 年 7 月末現在 で 12362 個の宝箱が存在している。 43

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このジオキャッシングというゲームは、観光と関わりがある。参加者は宝箱を意味の ある場所に設置することで、自然と各地域の名所がカバーされる傾向にある。従って、 宝探しをすることで自然と名所巡りができるゲームになっている。 近年のスマートフォンを利用した宝探しや謎解きゲームでの誘客は、コンテンツ制作 に多大な労力がかけられるが、ジオキャッシングにおいては参加者自身がコンテンツを 生み出すため、上手くファンを取り込むことで、地域において継続的なゲーム運営を実 現できる可能性がある。 2.どんなゲームか ジオキャッシングにおけるゲームの流れは、以下の通りである。 ① ある参加者が「ジオキャッシュ」と呼ばれる宝箱を隠す。隠し場所は、石垣の隙間 や木の根本、植栽の中など様々である。宝箱もタッパーから豆粒大もの、あるいは 岩石などに偽装したものなど多岐にわたる。 ② 宝箱を隠した設置者は、その場所の緯度経度や捜索難易度、捜索のヒント、周辺の 見所などを公式サイトに登録申請する。情報は審査の後に一般公開される。 ③ 参加者は現地を訪れ、捜索を楽しむ。見つけることができれば、中のシートに名前 を書き残せる。見つけられなくても捜索後に公式サイトを再訪し、コメントを書き 残すことが推奨されていて、設置者への励みや別の参加者に対するヒントに成り得 る。また、来訪時のエピソードや見所情報が蓄積されることで、1 つ 1 つの宝箱の 掲示板は充実したものになっていく。 3.どこに宝が隠されているのか 都道府県別では愛知県(1962 個)と突出していて、次いで東京都(1599 個)、神奈川県 (981 個)、千葉県(789 個)と続く。 「宝箱はむやみやたらと設置されるのではなく、設置者が紹介したいと思う風光明媚 な場所、あるいは何らかのゆかりのある場所が選ばれる傾向にある」という O’Hara, K. の指摘から、実際に本先行研究の筆者は、無作為抽出した日本国内の 1000 個の宝箱を 調べ、その 78%が何らかの見所案内情報を持っていると分析した。 宝箱は具体的にどのような場場所に設置されているのかというと、最も人気の高い設 置場所は公園・緑地(19%)であった。これらは公共性が高い空間で、捜索活動が人目に 付きにくいため、ゲームフィールドとして好まれているのだろう。また、寺社仏閣(11%)、 史跡・碑(10%)も人気の高い設置場所であった。これらは地域にゆかりが深く、歴史や 伝承を伴っているため、宝箱の設置に意味を持たせやすいためと考えられる。 宝箱の集客力はどれくらいかを見ると、平均 26.4 コメント(2012 年 5 月末現在)であ った。全ての参加者がコメントを書き込むわけではないため、実際はこれを上回る集客 実績があると予想される。 4.誰がどう遊んでいるのか 掲示板上に表れた参加者それぞれの宝箱設置数とコメント数を見たところ、大きな偏 りがあった。参加者の実態をより詳しく知るため、Facebook 上のグループ「ジオキャ ッシング・ジャパン」(メンバー数 415 名)において、Web アンケート調査を行った。ア 44

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ンケート依頼文は 2012 年 6 月 4 日に投稿し、以降 24 時間で 95 件の有効回答を得た。 ジオキャッシングと出会ったきっかけについて聞くと、「インターネットメディアで 知った」が最も多く(44%)、次いで「友人・知人による紹介」(24%)となった。 次に、どのような機会にジオキャッシングを楽しんでいるかについて聞くと、「ジオ キャッシングを目的とした日帰り旅行をする」と答えた者が 79%おり、日帰り旅行のつ いで(69%)や日帰り出張のついで(38%)に行う者よりも多かった。 「ジオキャッシングを 目的とした宿泊旅行をする」と答えた者も 39%いた。ジオキャッシングが確固たる余暇 アクティビティとして機能している様子が窺える。 また、利用デバイスについて聞いたところ、95 人中 82 人はスマートフォンを利用し ており、ハンディ GPS のように PC からデータをダウンロードする手間がなく、思い 立った時にゲームを楽しめる利便性がある。 5.なぜ彼らは宝探しをするのか 続いて、彼らがジオキャッシングを行う理由について調査した。海外既存研究事例を 踏まえ、16 の参加動機を挙げ、それぞれに対する同意度を 5 段階評価させた。 多くの回答者から同意を得られた項目は、 「見つけられた時の興奮・高揚感」(平均 4.6) と「地域の名所や穴場を知ることができるため」(平均 4.4)であった。後者はジオキャッ シングにおける観光的側面が参加者からも重要視されている。 6.ジオキャッシングによる観光地域振興の可能性 伊豆諸島の式根島では、商工会議所の有志を中心にジオキャッシングによる誘客が試 みられている。島には 26 個の宝箱が設置されており、そのほとんどは何らかの見所周 辺に立地している。 26 個の宝箱うち 21 個は来島者の手によって設置されたものである。島で開催される CITO(Cache In, Trash Out)という「ゴミ拾いをしながら宝探しを楽しむ」イベントが 2009 年から毎年開催されている。このイベントを機に来島者が宝箱を設置していった ため、現在の数となった。式根島では地元の有志が宝箱の管理を代行することで、来島 者は気兼ねなく宝箱を設置できる。また、イベントによって島民のジオキャッシングに 対する理解が深まり、愛好家が気持ちよくジオキャッシングできる雰囲気が醸成されて いるのも魅力の 1 つである。 7.ゲームの力で人を呼び込む ここまでジオキャッシングを紹介してきたが、最後にジオキャッシング、あるいはス タンプラリーやミステリーツアーのようなフィールドゲームを観光地が実施する意義 は 4 つ挙げられる。 ① 地域の有する観光資源を認知してもらう機会が増えるという利点―普段から足を運 ばない観光資源にゲーム上の必要性によって訪れることで予期せぬ発見の可能性。 ② 地域の観光資源に付加価値を与えることができる―石碑や古戦場のように一般客に は魅力がやや乏しい観光資源であっても、ゲームという付加価値が加わること、ゲ ームを通じて由縁を知ることによる来訪価値の向上。 ③ 観光客の再訪が期待できる―ゲームを通じてその地域を楽しみ直すことができる。 45

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④ 滞在時間の増加が期待できる―式根島は 1 日あれば徒歩で十分周れるが、26 個の宝 箱を捜索するには 2 日では足りないとされ、滞在時間が増加すれば、自然と消費額 の増加が期待できる。 ⑤ ゲームデザインによっては旅行者が地元の人と言葉を交わすきっかけを生み出せる かもしれない。 以上のように、ゲームの導入は観光地に大きな効果をもたらし得るが、ゲームの力だ けでの誘客ではコンテンツ作成に忙殺され、やがて疲弊してしまう可能性がある。これ を避けるためには、ゲームを通じて参加者が地域の魅力に気づくように仕向け、ゲーム 無しでもその土地に訪れたくなるような気持ちを喚起していかなければならない。 <論文を受けて> 横須賀市では、Ingress イベント「ミッションデイ横須賀」以降に様々な Ingress を 通じたキャンペーンを行っていて、リピーター獲得に積極的である様子が窺える。しか し、最終的には、ゲームに依らず再び横須賀を訪れてもらうことを目指しているのでは と考えられる。 11. 先行文献研究:位置ゲームと観光振興―イングレスを例として―(宮武清志、2015 年) <先行研究内容> 1.はじめに スマートフォンに代表されるように「どこでも・誰でも」インターネットにアクセス し必要な情報を得られる。観光行動を見ても、自家用車やレンタカーを利用した「ドラ イブ観光」が急増している。そのため、観光行動の自由が飛躍的に向上し、行ってみた いところであれば「いつでも・どこへ」でも行けるようになり、魅力的な地域情報を的 確に観光客へ届けることができれば、従来ではあまり訪れなかった場所でも観光客を誘 致できる可能性が出てきている。 本先行研究は、スマートフォンの普及と並行して利用者が増加している位置ゲームの 1 つである「イングレス」に着目し、その効果や同ゲーム利用者の地域への訪問を促す ための留意点や課題を明らかにすることを目的としている。 2.位置ゲームについて 位置ゲームとは携帯電話の位置登録情報を利用したゲームである。ゲームの内容は 様々で、スタンプラリー的なものから移動距離によって都市やコロニーが成長するシュ ミレーションゲームなど様々な種類の位置ゲームが提供されている。 位置ゲームは通常のビデオゲームと異なり、仮想空間のみでは完結せず、現実空間での 移動が不可欠となるため、外出機会の増加や特定の地域・施設などへの立ち寄りなど、 地域経済などに対する直接的な効果が見られる。また、移動手段である公共交通機関と のタイアップ企画などもみられるなど、今後も様々な活用方策が期待されている。 3.イングレスについて 46

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「イングレス(Ingress)」は Niantic, Inc.が開発運営するスマートフォン向けのオンラ イン位置情報ゲームで、2013 年 12 月 15 日に正式運用を開始している。内容は全世界 を舞台に 2 つの陣営に別れてそれぞれが陣地を拡大するのが目的である。 プレイヤー数は明らかにされていないが、Niantic 社の発表によると、2017 年 11 月現 在、2000 万ダウンロードされていて、また日本国内での全国的なイングレスイベント の参加者だけで 5000 名規模であることからかなりの数の利用者があると推測される。 (2)イングレスの効果 イングレスに限らず「位置ゲーム」には以下のような共通した効果がある。 ①外出機会の増加 位置ゲームを進めるためのアイテムなどを獲得するために、実際にチェックポイント に赴く必要があるため、必然的に外出機会が多くなる。 ②健康増進効果 移動では、遠方の場合は自家用車や公共交通機関を利用することになるが、近隣地域 やチェックポイント周辺では徒歩あるいは自転車などを利用することになり、運動量の 増加による健康推進効果が期待できる。 ③新しい観光対象の創出 従来は観光対象として認知されていなかった施設や場所がチェックポイントなどに 認定されることにより、外出目的や観光対象として認定され、利用者の来訪頻度が増加 する。 ④地域の文化資源の認知 イングレスにおいて、現実世界の史跡や芸術作品、公園、郵便局などが登録されたゲ ーム内での拠点になる「ポータル」は、観光客や地域住民が当該地域の歴史・文化資源 を楽しみながら認知・学習することができる。また、「ポータル」と同じくイングレス の機能の一つである「ミッション」はポータルをテーマ毎にまとめた周遊ルートである ため、効率よく周遊できる。一方、地域側としては従来の街歩きマップなどと同じ効果 の情報媒体を格安で構築できるものである。ミッション数はポータル数や種類数にもよ るが、札幌市の場合 400 以上のミッションが登録されている(2015 年 9 月現在)。 ⑤地域における観光振興効果 後述するアンケート調査結果からも分かるように、ゲームを目的として地域を訪れる 利用者がいることから、来訪による地域経済効果が期待できる。 4.イングレスを活用した観光振興の取り組み例 イングレスに期待される様々な効果を地域振興に活かす取り組みが日本各地で進め られている。中でも岩手県は 2014 年 9 月スタートである。岩手県では盛岡市を始め、 陸前高田市、滝沢市、一関市でも取り組みが始まるなど地域的な広がりを見せている。 また神奈川県横須賀市も熱心に取り組みを進めている自治体の 1 つである。 47

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表 5 全国のイングレス活用取り組み事例 団体名 事業内容 岩手県、陸前高田市、 2014 年 9 月 25 日「岩手県庁 Ingress 研究会」を発足。十分 滝沢市、一関市 なポータルがないことを逆手に取り、第 1 回目のイベント をポータル申請イベントにした。 神奈川県横須賀市 ブロガー・プレイヤーと役所が連携して Ingress 観光促進事 業を立ち上げ。イベントでは連絡船の半額乗船券やオリジナ ルグッズなどのプレゼントを配布。 東京都中野区 2015 年 1 月 26 日「都市観光・地域活性化の可能性につい て考えるセミナー」を開催。 東京都 民間 NPO による「INGRESS WALK in 上野」ではミッシ ョン実施により寄付ができるイベントを実施。 神奈川県大和市 Ingress 特設サイト「YAMATO de Ingress」を開設。 徳島県 「Capture 88 in Tokushima」と題し、3 月 21 日に県内青 少年センターにて 200 名としたイベントを開催。 相模 Ingress 部 神奈川工科大学情報学部と市内博物館のタイアップによる 研究会活動 5.イングレス利用者の観光行動 本先行研究では、イングレス利用者の観光行動やニーズを把握するため以下のような 内容でウェブアンケートを実施した。 調査期間:2015 年 9 月 18 日~23 日(6 日間) 調査方法:Facebook 上のイングレスグループ 2 種類に対してアンケート票への URL を投稿し、ウェブアンケートへの協力を依頼 回収数:53 票 (1)回答者の属性 回答者は「40 歳代(34.0%)」が最も多く、 「30 歳代(24.5%)」、 「50 歳代(22.6%)」の壮 年層が多い。プレイヤーの経験値を示すレベルは 8 以上が 83%を占めており、大半が ゲームに熟練している者と言える。また居住地域は関東地方が半数を占めている。 ゲーム実施の頻度は「ほぼ毎日(73.6%)」が最も多く、またイングレスに関するイベ ントには 54.7%と過半数の回答者が参加経験を持っている。 (2)利用者の観光行動 ゲームを目的に日帰り旅行に出かけた経験については、 「たまにある(30.2%)」、 「よく ある(15.1%)」で約半数の回答者が経験ありと答えている。また宿泊旅行の経験では「た まにある(30.2%)」 、 「よくある(3.8%)」と 3 割程度が経験ありと答えている。 ゲームを目的に他地域へ出かける際に重視する項目について、5 段階評価してもらっ た。その結果ゲームに直接関係ある「ポータル(4.1pt)」が最も多く、 「ミッション(3.0pt)」 、 「イベント(2.9pt)」が続いている。 48

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またゲームを実施する上での環境整備に関する項目としては、 「名物の食べ物(3.8pt)」 、 「観光スポット(3.8pt)」が最も高く、「街並み(3.7pt)」、「自然環境(3.6pt)」、「自宅から のアクセス(3.5pt)」が続いていて、既述の「ミッション」、 「イベント」よりも重視され ていることが分かった。 こうしたことから、ゲームに直接関わる高奥に加えて、上述のような地域が具備すべ き環境を提供できることにより、一層集客力のある地域形成が期待できる。 6.今後の課題と展開方法 本先行研究で実施したアンケート調査は、イングレスの利用者の地域への来訪を促進 するための環境整備について検討を行うための基礎資料を得るために実施したが、回答 数が予定よりも少なく、他の関連ポータルサイトへの投稿などにより制度の向上を図っ ていく必要がある。さらに質問内容も基礎的なもので、本アンケート調査の結果を踏ま えた、詳細な調査が必要である。また、イングレス利用者や全国で取り組みを進めてい る団体などへのヒアリング調査なども実施し、地位域において取り組んでいく際の検討 課題や留意点を明らかにしていく必要がある。 本先行研究により地域における観光振興を図る上でイングレスを活用していくため のヒントがある程度明らかになったと考えるとしていて、今後は研究結果を踏まえた、 より効果的な取り組みを地域において進めていくことが期待されると述べられている。 いずれにしても「イングレス」のような大規模なオンラインデータベースシステムを 無料で利用でき、地域資源に関する情報発信を容易に且つ低いコストで構築できること から、今後はより多くの地域での活用が待たれるところである、と本先行研究は結んで いる。 12. 先行文献研究:観光ネクストステージ スマホのゲーム Ingress(イングレス)を観光 に活かす 岩手県庁 Ingress 活用研究会の活動から(保和衛、2015 年) <先行研究内容> 2014 年 9 月、 「岩手県が Ingress を観光に活用する」というニュースが大きく取り上 げられて以来、予想もしない反響があり、そのような中で「岩手県庁 Ingress 活用研究 会」は大きな成果を収めることができた。 もとより、研究会はゲームそのものを推奨する目的ではなく、観光振興や地域活性化 にどう活用するかがミッションであると述べられていて、本先行研究では活動を通じて 得た知見を紹介している。 1. 自分たちの地域をあらためて知る Ingress 最大の特徴は、ゲームにおいて「ポータル」と呼ばれる拠点のある場所に自 分自身が移動しないと遊べない、ということである。ポータルは一定の基準のもと神社 仏閣、歌碑や彫刻などのモニュメント、歴史的建造物が登録される。したがって基本的 にゲームを遊ぶことはポータルを訪ね歩くこと、すなわちそれは観光スポットを巡るこ とと同じ、と捉えることができる。これまで自分たちの地域の歴史文化を訪ね歩くこと 49

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は一部の愛好家の間に留まるものだったが、 Ingress はこれを一変させるものになった。 Ingress を通じた地域発見は観光資源のストックを増やし、それまで縁の無かった人た ちに開放されることになり、最大のメリットの 1 つであることに間違いないと述べてい る。 2. 売り出すものと方法を考える Ingress をプレイする人達は、ゲームの世界で実績を積みたいなどの欲求を持って遊 んでいる。必ずしも観光したいわけではない。その人たちに自分たちの地域に関心を持 ってもらい、魅力を感じてほしいと願う立場からは相応の知恵と工夫が求められる。 Ingress には、ゲーム内の機能として「ミッション」と呼ばれる、特定の決められた ポータルを巡るスタンプラリーのような遊び方が備わっている。研究会では、このミッ ション機能と組み合わせて、さらに深く盛岡の魅力や歴史文化をしって楽しく遊んでも らえるよう、独自のガイドブックを製作・提供している。神奈川県横須賀市と連携して 「岩手×横須賀 友情の架け橋ミッションを提供していて、過酷なミッションと評されつ つも、数十人が既にコンプリートしている。 ポータルが少ない地域でも、遊び方に魅力を感じればプレイヤーはやってくる。自分 たちの地域の何を、どう売り出すのか、よく考える必要がある。歓迎ムードの演出や現 実的なメリット供与(例えばプレイヤーへの商品の割引、特別なプレゼント)も良いが、 ゲームの世界を理解した上で、プレイヤーの心をくすぐる作戦(例えばイングレスの世 界観を表現した地元産原材料のお土産品)もある。いずれにしろ、主役であるプレイヤ ーに寄り添うことが重要であるとしている。 3. 地元連携の重要性とリスク 研究会では、もともと地元のイベントと Ingress の融合に腐心してきたが、関係者と の連携の中で、地元で活動しているプレイヤー団体(コミュニティ)との協力関係が重要 だ。これまで全く縁のなかった世界に飛び込むため、その世界にいる人たちに協力を求 めることが成功の第一条件である。研究会の場合は、2014 年 11 月の最初のイベント 「ポータル探して盛岡街歩き」が持ち上がった当初から、岩手県内で活動するコミュニ ティに協力を得て、以降も相談をしながら活動を進めることができた。また、盛岡で歴 史文化を研究している団体の支援を受けたこともありがたいものとなったという。 また、Ingress の管理運営は全て、開発元である Niantic, Inc.が行っていることで、 その経営方針やゲームの運営方針に左右されるため、明日突然終焉を迎えるかもしれな いというリスク、スマホなどのアプリということで、スマホを持たない人やゲームをし ない人には全く訴求力がないことに加えて、上手く行けばプレイヤー全てを岩手のファ ンにできる可能性がある一方、知らない人に協力を求める場合に苦労することなどのゲ ームならではの課題やリスクが挙げられる、と本先行研究では述べられている。 4. 研究会の改組で幅を広げる 2014 年度に発足した研究会は、2015 年 5 月に「岩手県庁ゲームノミクス研究会」に 替わった。これは、①イングレスで経験できた特定のゲームタイトルとのコラボレーシ ョンについて、さらに可能性を探っていきたい、②ゲームやゲームの考え方・構造を使 50

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った様々な仕組みが広まった今の世の中にあって、行政の業務や施策にそのような考え 方を活かす研究をしたい、と考えたためであり、脱イングレスではなく、幅を広げてい くということである、と本先行研究では述べられている。 <論文を受けて> ゲームの世界を理解し、かつプレイヤーに寄り添う形のコラボレーションが求められ ていて、決して単純なものではないことがわかり、これは Ingress あるいはその他ゲー ムタイトルに限ったことではないと考えた。各種イベントや取り組みの盛況度合いはプ レイヤーがいかに楽しめるかにかかっているとこれまで各種イベントに参加してきた 個人の経験から感じている。 13. 先行文献研究:位置情報ゲーム「Ingress」を用いた観光振興の可能性の研究―横須 賀市を事例として―(山田浩義・志摩憲寿、2016 年) <先行研究内容> 1. 研究の背景・目的・方法 位置情報ゲーム「Ingress」にはミッションと呼ばれるスタンプラリーのようなも のがあり、プレイヤーは決められた地点を巡り、報酬としてゲーム内でメダルを入 手できる。それにより、プレイヤーが新たな地域資源を発見する可能性を持ってい る。また、ミッションはプレイヤーが作成することができるとしている。 従来の位置情報を用いた観光振興に関する研究を見ると、行政によるシステム開 発や行政によるアクションという地域振興の方法・取り組みに着目した研究はある が、位置情報を用いた観光振興における観光者のアクションに着目した研究、特に 本先行研究で取り上げられる Ingress を扱ったものは必ずしも十分ではないという。 この問題意識の下、横須賀市へのインタビュー調査や関連資料を中心として同市 での Ingress を用いた取り組みの整理、横須賀市によって作成されたミッションの 達成者数と空間的広がりを分析している。 2. 横須賀市における Ingress を活用した観光振興の取り組み 横須賀市における代表的な観光振興には、ヴェルニー、ペリー、東郷平八郎など 歴史上の人物に由緒のある場所を巡る観光ルートに加え、近年では、横須賀市を舞 台としたアニメ「たまゆら」や「蒼き鋼のアルペジオ―アルス・ノヴァ―Cadenza」 とのコラボレーションを図り、これらの舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」のコ ンテンツマップの作成やスタンプラリーの実施、カレーとのコラボグルメがされて きたという。 横須賀市におけるIngressを活用した観光振興の取り組みには、こうしたサブカル チャー活用の流れもあった。直接的な契機は、市観光企画課の職員が2014年7月か らIngressを始め、職員らがプレイする中で、横須賀に来るプレイヤーを集客に利用 できるのではないかという機運が高まった。2014年12月にIngressを活用した集客 51

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事業の開始が発表され、特設サイトがオープンすると、2015年2月から11月にかけ て、偉人ミッションキャンペーンなどが立て続けに行われ、10月31日には最大規模 の公式イベント「ミッションデイ横須賀」が開催。さらにIngressを用いた観光振興 を行っている岩手県とのコラボレーションなど幅広く施策が展開された。 こうした取り組みの背景には、「Ingressを通じて横須賀を色々な角度から知って もらい、次回はIngressだけでなく家族やカップルと再訪していただけるように取り 組みをしていきたい」という狙いがあると述べている。 3. 横須賀市作成Ingressミッションの達成者数とその空間的広がり 3.1 ミッションの達成者数 全17ある横須賀市公式ミッション(YKSK)達成者数をみると、10月7日から12月2 日にかけて最も多かったものは三笠公園を巡るミッション(839人)、次いでドブ板通 りを巡るミッションが多かった(829人)、猿島を巡るミッション468人であった。ま た、岩手県と横須賀市を結ぶミッションの達成者数は69人であった。ミッションデ イ横須賀の際には、2000人の参加者が見られ、三笠公園・ヴェルニー公園・うみか ぜ公園・若松マーケットのそれぞれを巡る個々のミッション4つにおいて1200人を 越える達成者数であったという(2015年11月4日時点)。 3.2 ミッションの空間的広がり 横須賀市中央地区における市公式ミッションとIngressプレイヤー作成ミッショ ンそれぞれの開始点とポータル、ルートを見ると、横須賀市公式ミッションは横須 賀中央駅周辺、三笠公園、猿島、ドブ板通り、ヴェルニー公園を中心に市内の代表 的な観光地を巡るミッションが中心となっていることがわかると述べられている。 一方、プレイヤー作成ミッションは2015年12月2日までに86のミッションが作成 された。空間的広がりとして、プレイヤー作成のミッションの方が、横須賀中央駅 南部や沿岸武を中心に市の公式ミッションではカバーしきれなかった地域まで展開 されていることが明らかになったとしている。 4. まとめ これらの動向から、行政の立場として横須賀市が推薦したい地区のミッションを 作成することによってプレイヤーはその地域へ来訪していたが、プレイヤー作成ミ ッションは市が作成したものとは異なっていた。地域の魅力を提案することができ るのはIngressプレイヤー=観光者であることから、Ingress を通じた地域資源発掘 の可能性の高さに観光振興としての将来性を期待できるのではないかと考えられる だろう、と本先行研究は結んでいる。 <論文を受けて> 横須賀市が作成した市公式ミッションとプレイヤーが作成したミッションの空間的 広がりは、プレイヤーが作成したミッションは市の公式ミッションではカバーしきれな かった地域までの展開があった。2017年現在となっては、自治体の公式ミッションは少 なく、ミッションデイのイベントに際して作成されたミッションが最もその地域におけ 52

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る推薦したい地域・名所であることが窺える。よって、他の地域では、ミッションデイ のイベントのミッションとそれまでIngressプレイヤーによってその地域で作成された ミッションとの空間的広がりを比較することになるであろう。 14. 先行文献研究:スマホアプリ活用による地域活性化 INGRESS を活用した観光振 興・地域振興の可能性(千野正章・高橋謙洋・渡辺和樹、2015 年) <先行研究内容> 序論 研究の目的と手法 富士山を中心とした大きな観光地を有する山梨県において、観光業は大きな産業にな っていて、山梨県が 2012 年 3 月に策定した「やまなし観光振興計画」においても、観 光振興を図ることとしている。2018 年度の目標値は観光客入込客数 3110 万人や観光 消費額 3000 億円などとしている。 その目的を達成する達成するため、山梨県では無料で利用できる Wi-Fi スポットの整 備事業やおもてなし条例をはじめ、様々な事業が展開されている。 そうして、山梨県の観光振興には、ICT の活用が中核的な部分を占めていて、観光客 の多くがスマートフォンを所有していることを前提としている。 山梨総合研究所では、2014 年度に研究員数名が Ingress の情報をキャッチし、2015 年度に研究員の自主研究として位置づけ、Ingress を活用した観光振興の可能性を模索 した。本先行研究は、これらの活動を取りまとめ、特に自治体が Ingress を活用する際 の方法や内容などについて考察を加えたものとなっている。 表 6 山梨総合研究所における Ingress 関連業務と県内の Ingress イベント 時期 2014 年 10 月 取り組み 山梨総研の研究員が、ニュースで岩手県のIngressの情報をキ ャッチし、数名がIngressをインストール。 2014 年 12 月 山梨県庁内の Ingress プレイヤーを含む 4 名で勉強会を開始。 2015 年 1 月 公益財団法人キープ協会でIngress割引サービスを開始した ため、ヒアリング調査の実施。 2015 年 1 月 県内初の Ingress プレイヤー懇親会を企画。 2015 年 2 月 Ingress 初心者育成のための講習会をスタート。 2015 年 3 月 甲府市ストリート再生委員会で、Ingressを活用した街歩き イベントを実施し、参加者20名が集まった。 2015 年 4 月 山梨総研の自主研究テーマに選定。 2015 年 6 月 山梨万葉うたまつりでIngressイベントを開催(主催:山梨 市)。アンケート調査。 2015 年 7 月 Ingress イベント「ファーストサタデー」に向けた協議会発足。 2015 年 7 月 甲府駅前でイベント開催。 53

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2015 年 8 月 「ファーストサタデー」準備。山梨県、甲府市の後援、甲府市 立甲府商業高校などの連携。 2015 年 9 月 「ファーストサタデー」開催(参加者約100名)。レベルアップ 総数世界トップ。アンケート調査。 2015 年 9 月 静岡県と山梨県の青プレイヤー合同でイベント開催。 2015 年 10 月 県内のある自治体における Ingress 活用を支援。 2015 年 11 月 甲府駅周辺に武田 24 将ミッション完成。 2016 年 1 月 関東圏内の献血センター と Ingress との提携事業「RED FACTION」開催。 2016 年 2 月 静岡県浜松市で開催された大規模 Ingress イベント「アノマ リー」に参加。 2016 年 3 月 第一章 自主研究研究成果会の開催。 Ingress とは この章では Ingress について解説を行うと共に、スマートフォンの GPS 機能を活用 したアプリケーションの調査を行った。GPS を活用するという観点からアプリは表 7 に整理されている。 表 7 GPS 活用アプリの整理 健康管理アプリ Lifelog(Sony 社)、 Runtastic GPS(Runtastic 社) 観光振興的要素が強いアプリ JAPAN2GO(ソフトバンク社)、 諏訪市まち歩きナビすわなび(諏訪市の公式 観光アプリ) ゲーム的要素が強いアプリ コロニーな生活(コロプラ社)、 ジオキャッシング(Groundspeak, Inc.)、 Ingress(Niantic, Inc.) 1-1 Ingress の特徴 1-1-1 Ingress の概要 Ingress は、Google 社の内部ベンチャー企業として立ち上がり現在 Google 社から独 立した Niantic, Inc.(Niantic 社)が提供するスマホ用ゲームアプリで、全世界で約 1400 万回以上ダウンロードされている。日本のダウンロード数は、アメリカに次いで 2 位と なっている。 ゲームの内容自体はいわゆる陣取りゲームで、青陣営と緑陣営に分かれてゲーム上の 3 つの拠点を三角形で囲み陣地を作り、その陣地内の人口数などを考慮して得られるポ イント(MU)を全世界で競っている。最大の特徴は、スマホの GPS 機能と連動している ことにあり、拠点の 40m 以内に近づかないと陣地化する操作ができないため、実際に 人が動くための理由となる。このため、既存の観光スポットのほか、地元の住民しか知 54

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らないような知られざる名所へ集客できる可能性を有していることから、Ingress を活 用した観光振興の取り組みが全国各地で始まっている。 1-1-2 ゲーム上の拠点(ポータル) このゲーム上の拠点をポータルと呼ぶ。Ingress を起動すると画面上に青や緑の炎の ようなものが見える。これがポータルである。Ingress では、このポータルを陣地化す るために様々な操作をすることがゲームの基本となる。ポータルを操作するためには、 ポータルの 40m 以内に近づく必要があり、ポータルをタッチすると操作画面が表示さ れる。この操作画面で様々な操作ができる。 新規ポータルの申請は、以前は Ingress プレイヤーであれば申請できたが、現在では 新規のポータル申請はできなくなっている。ポータルとしてふさわしい条件として Niantic 社から基準が示されている。 1-1-3 ミッション Ingress のプレイヤーが動く動機になるもののひとつに「ミッション」というものが ある。ミッションとは、Ingress 上のフットパスのことで、基本的には 6 個程度のポー タルをタッチ(ハック)するとクリアでき、そのミッションをクリアした証拠となるメダ ル(ミッションメダル)を取得できる。並ぶとひとつのデザインとなるミッションメダル はメダルアートやミッションアートと呼ばれ、一連のミッションはアートミッションや 連作ミッションと呼ばれる。 新規のミッションを設定したい場合は、一定レベル以上の Ingress プレイヤーであれ ば申請できる。連作ミッションをやるために移動する Ingress プレイヤーが多くいるた め、ミッションの活用でより多くの Ingress プレイヤーに来てもらうことが期待される。 1-1-4 Ingress とのコラボレーション事例 Ingress とコラボレーションしていく事例が見られる。日本国内では、ローソン、ア クサ生命保険、ソフトバンク、三菱東京 UFJ 銀行などが Ingress とのコラボレーショ ンを開始している。コラボレーションの成果については各社から公表されていないが、 Niantic 社から提供された動画によれば、アクサ生命保険との連携から 5 ヶ月で 500 万 以上の独自アイテム(AXA シールド)がゲーム内で仕様され、60 万人以上のプレイヤー が実際の支店を訪れたという。 表 8 Ingress とコラボレーションした企業一覧 企業名 ローソン 内容 ・全国のローソン店舗をポータル化。 開始時期 2014 年 11 月 ・ローソン店舗において Ingress アイテム付カフェカー ドを販売。 ・ローソン独自のアイテムがゲーム内に登場。 ア ク サ 生 アクサ生命独自のアイテムがゲーム内に登場。 2014 年 12 月 命保険 ソ フ ト バ ・全てのソフトバンク店舗がポータル化。 ンク ・ソフトバンク独自のアイテムがゲーム内に登場。 55 2015 年 6 月

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三 菱 東 京 ・全ての三菱東京 UFJ 銀行の店舗、ATM がポータル 2015 年 6 月 UFJ 銀行 化。 ・三菱東京 UFJ 銀行独自のアイテムがゲーム内に登場。 伊藤園 ・Ingress イベント(ファーストサタデー)への協賛。 2015 年 8 月 ・伊藤園災害対策自販機がポータル化。 ・伊藤園自販機にて Ingress アイテム付飲料の販売。 1-2 自治体との連携事例 Ingress プレイヤーが現実社会を動いていくゲーム特性に着目して、日本国内の様々 な自治体が Ingress との連携を始めている。岩手県や神奈川県横須賀市の他に、神奈川 県大和市、長野県松本市、東京都東村山市、高知県東部の 9 市町村があり、これらの活 動は主に観光促進を目的としたもので、新たな誘客を模索している様子が見て取れる。 自治体が Ingress を連携するためには、費用対効果が明らかになることや実施ノウハウ などが求められるがその 2 点が不明であることから、山梨県内のいくつかの自治体では 連携に向けた第一歩が踏み出せない状況にある。本先行研究ではその 2 点を明らかにし ていくことを目的としている。 表 9 Ingress と連携した主な自治体や商工会など 自治体名 岩手県 連携内容 言わずと知れた Ingress×自治体のパイオニア。県庁内で Ingress が流行ったことをきっかけに、2014 年 9 月 5 日 「岩手県庁 Ingress 活用研究会」が発足された。十分なポ ータルが生えていないという課題があったが、第一回目の イベントをポータル申請イベントにしたところ、Ingress の 運営元である Niantic, Inc.がこれに応じて同イベントで申 請されたポータルを優先処理したことがある。こうした取 り組みは NHK の「おはよう日本」でも取り上げられた。 神奈川県横須賀市 ブロガー・プレイヤーと役所が連携して Ingress 観光促進 事業を立ち上げた。現地プレイヤーだからこそわかる、横 須賀市内や無人島「猿島」を舞台としたおすすめコースを 案内している。ミッションデイなども実施している。 神奈川県大和市 Ingress のプレイヤーが活動しやすくなるような取り組み を進めることで、市の集客や PR につなげようしている。 また、このゲームは、歩くことを基本としていることから、 市民の健康増進にもつなげようとしている。 長野県松本市 2015 年 11 月に「イングレスで城下町松本を歩こう!」が 開催された。指定のミッションをクリアすることで、松本 城の普段は非公開となっている部分を観覧するツアーに参 加できるという、地域の名所を活かした企画となっていた。 56

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商工会などとも連携を行い、プレイヤーに対する割引サー ビスなどが提供された。 東京都東村山市 INGRESS in 東村山が組織され、映画「あん」のロケ地を Ingress で巡るイベントが開催された。 高知県東部の 9 市町村 高知県東部の 9 つの市町村が中心となって行っている観光 キャンペーン「高知家・まるごと東部博」でも Ingress が 活用され、東部博のミッションをクリアすると缶マグネッ トが貰えるようになっている。 1-3 Ingress イベントの規模感 Ingress と連携した事業展開を想定した場合、いくつかのステップがあり、それぞれ の段階に応じた規模感がある。まず、導入しやすく実施しやすいものとして Flash Farm(FF、フラッシュファーム)と呼ばれる数名のプレイヤーが集まって実施されるイ ベントが挙げられている。また特定のミッションを作成し、既存のプレイヤーを呼ぶミ ッションイベントや街歩きイベントも実施しやすいと述べていて、この段階のイベント は全国各地で開催されていて導入しやすいとも述べている。 その次の段階として、100 人程度の規模感で実施される初心者育成イベント、ファー ストサタデーが挙げられる。ファーストサタデーは毎月第一土曜日に実施されることか ら命名されたイベントで、世界中の都市で同時に開催され、特定の時間内にレベルアッ プした総数などを競っている。 ファーストサタデーは、順位を競うのではなく青陣営と緑陣営の懇親を深める意味も 持ち、ファーストサタデー開催によって、ともすれば対立意識をためやすい両陣営の意 思疎通が図られ、Ingress プレイヤーにとって過ごしやすい環境となる場合が多いよう である。 さらにその次のステップとして、1000 人 程度の参加者が見込めるミッションデイが 上げられる。ミッションデイは都市全体をひとつのフィールドとしてイベントが実施さ れることが特徴である。 街中に設定されたミッションのうち特定のミッションをクリアすることで、Ingress プレイヤーが求める実績メダル(Ingress プレイヤーのプロフィール画面の上部に並ぶ メダル)を取得することができるイベントである。ミッションデイへの参加回数により メダルの色が異なる仕組みが導入されており、ミッションデイに複数回参加するインセ ンティブが与えられている。 イベントの最終形はアノマリーと呼ばれる数千人が集まるイベントである。アノマリ ーの中には多くの Ingress 関連イベントが含まれ、多層的にイベントを楽しむことがで きる。アノマリーに参加することでそのアノマリー独自のアチーブメントメダルを得る ことができるため、プレイヤーにとっては参加するメリットは大きいとされる。 本先行研究では、Ingress イベントの導入としてミッションイベントや街歩きイベン トを実際に開催して参加者の意向などを調査したのち、ファーストサタデーを開催して 57

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イベントノウハウの蓄積や県内の Ingress プレイヤーとのネットワークの構築を図っ た。こうした取り組みによりミッションデイやアノマリー開催へとつながる可能性を開 いた。 第二章 2-1 イベントの実施と経済波及効果 甲府市・山梨市における Ingress イベントの開催と結果 2-1-1 甲府市の街歩きイベント Ingress を活用したイベントを展開するにあたり、確立が必要な事項が多くあり、そ れらの必要な事項は以下の表 10 の通り整理されている。これらの事項をクリアしてい くためまず 2015 年 3 月に甲府市において Ingress を活用した街歩きイベントを企画 し、2015 年 3 月 21 日(土)に甲府中心街の活性化イベントに連動して実施したという。 これまで山梨県内においては青陣営と緑陣営が協力して何かを行った事例がなかった が、本イベントの実施にあたり両陣営が協力し、以降のイベント展開の下準備的な位置 づけとなったという。またイベント自体は行政と関係したイベントの中で実施したため、 行政担当者に Ingress について周知することができて、新規プレイヤーへの教育方法や イベント自体の運営についてもノウハウを蓄積することができたとしている。準備期間 は約 1 か月であったという。 当日は、約 20 名が参加し、事前に作成したミッションを活用して甲府中心街を巡る ことができて、メディアの取材も入り Ingress の PR につながったという。 表 10 イベント展開に必要な事項 確立が必要な事項 内容 ①青陣営と緑陣営の協力体制・連携方法 イベントは両陣営で協力しないと実施で きないため、両陣営との協力体制・連携方 法を確立することが必要である。 ②行政との連携方法 イベントは行政と連携することでより効 果的になるため、行政との連携方法を確 立することが必要である。 ③イベント自体の運営ノウハウ 役割分担や周知方法にノウハウが必要で ある。 ④新規プレイヤーの育成ノウハウ 今後ゲームの裾野を広げるために新人育 成ノウハウが必要である。 2-1-2 山梨県のミッションイベント 前述の甲府市の街歩きイベントを経て、山梨市においてミッションイベントを開催し た。このイベントのきっかけは、山梨市の観光部局の担当者が 3 月に開催された甲府市 の街歩きイベントのことが掲載された記事を読んだことである。5 月末に山梨市の担当 者から弊財団にイベント実施の相談があり、2 週間という短い準備期間の中ではあった が実施した。このイベントの開催により確立を図った事項は以下の表 11 の通りである。 周知については、山梨市観光協会の Twitter や県内の Ingress プレイヤーの Google+を 58

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用いて行ったという。 このイベントは 2015 年 6 月 13 日に実施し、県内外から約 50 名の参加者があったと いう。イベントでは、山梨市万力公園内に設定されたミッションのうち特定のミッショ ンをクリアした者にオリジナルグッズを配布したという。またイベント参加者にアンケ ートを依頼したところ 44 名が回答したという。アンケートの概要については以下の表 12~表 17 に示されている。 表 11 確立が必要な事項 確立が必要な事項 内容 ①両陣営の協力方法 イベントは両陣営で協力しないと実施できないため、 両陣営の協力体制が必要である。 ②イベント運営ノウハウ 役割分担や周知方法にノウハウが必要である。 ③イベントの周知方法 Ingress を活用したイベントの実施にあたり活用す る。 ④アンケートによる参加者 今後イベントの費用対効果を算出するにあたり、 イベ 特性把握 表 12 ント参加者の特性把握が必要である。 アンケート結果の概要:居住地 カテゴリ N % 山梨市内 6 13.6% 山梨県内 28 63.6% 県外 10 22.7% 不明 0 0.0% サンプル数 44 100% 表 13 アンケート結果の概要:年齢 カテゴリ N % 10 代未満 2 4.5% 10 代 0 0.0% 20 代 7 15.9% 30 代 21 47.7% 40 代 12 27.3% 50 代 0 0.0% 60 代以上 0 0.0% 不明 2 4.5% サンプル数 44 100.0% 59

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表 14 アンケート結果の概要:性別 カテゴリ N % 男性 37 84.1% 女性 7 15.9% 言いたくない 0 0.0% 不明 0 0.0% サンプル数 44 100% 表 15 アンケート結果の概要:山梨市を知っていましたか カテゴリ N % 万力公園まで知っていた 29 65.9% 山梨市は知っていた 14 31.8% 知らなかった 1 2.3% 不明 0 0.0% サンプル数 44 100% 表 16 アンケート結果の概要:山梨市内に来たことがありますか カテゴリ N 万力公園に来たことがあ 28 % 63.6% る 山梨市内には来たことが 11 25.0% ある 来たことがない 5 11.4% 不明 0 0.0% サンプル数 44 100% カテゴリ N % 万葉うたまつりのついで 0 0.0% 表 17 来場目的 Ingress イベントに参加す 42 95.5% るため その他の目的 2 4.5% 不明 0 0.0% サンプル数 44 100% 2-1-3 甲府市の街歩きイベント・山梨市のミッションイベントから分かった事項 2015 年 3 月の甲府市街歩きイベント、2015 年 6 月の山梨市のミッションイベント から明らかになった事項は表 18 にまとめられている。Ingress を活用したイベントの 60

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実施可能性については、いくつかの条件が整えば実施が効率的に実施できるということ が明らかになったという。誘客効果については、これまで誘客の対象とすることが少な かった 30 代~40 代男性に対して効果的であるということが、周知については Google+ や Twitter の活用である程度の効果があり、県外からも誘客できることが分かったとい う。周知時期は山梨市の場合 1 週間前であったが、もっと早く周知してほしいという意 見が多かったという。これらのことから Ingress を活用した地域活性化の可能性は十分 あることが明らかとなった、と述べている。 表 18 イベントの効果などのまとめ 項目 イベント実施可能 実施に必要な条件・内容など ・自らがプレイヤーになることが必須。 ・地元プレイヤーとの協力必須。 ・行政内部にプレイヤーがいると企画が早い。 誘客効果あり ・30~40 代男性が多い。 ・県外からも誘客可能。 ・周知は Google+や Twitter で拡散可能。 Ingress を活用した地域活性化の可 ・上記の理由から地域活性化の可能性がある。 能性 2-2 First Saturday の開催と結果 街歩きイベント、ミッションイベントから Ingress を活用した地域活性化の可能性が 示されたことから、さらにイベントをステップアップし、世界規模でレベルアップ総数 を競うファーストサタデーを開催することにしたという。ファーストサタデー開催によ り、①プレイヤー間のさらに深い連携、②行政を含めた関係機関との連携の模索、③ア ンケート調査による経済波及効果の測定を行ったという。 2-2-1 イベントの概要 2015 年 7 月に県内の Ingress プレイヤーに声掛けを行い約 10 名のプレイヤーで準 備会を立ち上げた。準備会での会議で 2015 年 9 月 5 日(土)に甲府駅北口で開催するこ ととなった。 イベントの実施に当たってはプレイヤー間の交流促進に加えて、初心者を多く集めレ ベルアップ数においても世界トップを狙っていくことになった。また、数回の準備会に 加えて、Google ドキュメントなどの共有ツールを活用することで、タスクの洗い出し と役割分担などを進めていった。 会場については、甲府駅北口のよっちゃばれ広場と藤村記念館を予約することができ た。この会場を管理する特定非営利活動法人甲府駅北口まちづくり委員会との協議を進 める中で、ファーストサタデーに初心者を多く募りたい旨を伝えたところ、甲府商業高 校のソングリーダー部とのコラボレーションを提案された。甲府商業高校の担当教諭と 協議を重ねた結果、同校ソングリーダー部は技術的に非常に高いレベルにあるが、県内 で発表する場を求めていることから、ファーストサタデーのイベントの一つとしてソン 61

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グリーダー部による演奏を組み込む代わりに、ソングリーダー部員がファーストサタデ ーに参加することとなった。これにより約 20 名の初心者の参加を得ることができた。 なお、ソングリーダー部員に対しては、事前に Ingress のインストール作業、必要アイ テムの提供などを行う場を設定した。イベント実施に当たっては、山梨県および甲府市 から後援名義をいただいた。 ファーストサタデー当日(2015 年 9 月 5 日)は、世界 91 都市がファーストサタデーに 参加した。山梨におけるファーストサタデーには、約 100 名の参加者があった。開催経 費については、会場借り上げ費、ポスターデザイン費など約 30 万円であった。 2-2-2 ファーストサタデーの内容 ファーストサタデーのタイムテーブル作成に当たっては、他所でのタイムテーブルを 参考にして作成した。大きく分けて午前と午後に分かれ、午前中はプレイヤー間の交流 を促す「クロスファクションコーヒー」および初心者向けに基本操作の講習会を開催し た。昼食後、午後からは、イベント用に作成したミッションを巡りながら経験値アップ を行う「レベルアップブートキャンプ」を開催した。ブートキャンプの実施に当たって は、初心者 2 名(同じ陣営)に、違う陣営のベテランプレイヤーが指導者となるように調 整した。運営者に報告するレベルアップ数や経験値などのデータ集計については、ブー トキャンプ前後に画面キャプチャした画像を特定のメールアドレスに送ることで行っ た。結果発表後、高校生によるソングリーダーの発表会を設けた。 2-2-3 ファーストサタデー結果 Ingress においてプレイヤーレベル 3 以上となるためにはゲーム上での SMS による 「認証」と呼ばれる行為17が必要である。ファーストサタデー当日にゲームサーバーの エラーにより認証ができず、多くの初心者プレイヤーがレベル 2 で留まってしまった。 しかし、こうしたトラブルにも関わらず、山梨のファーストサタデーにおいてはレベル アップ総数 49 となった。 これは 2 位であった台北のレベルアップ総数 43 を抑えて、山梨のファーストサタデ ーが世界第 1 位となった。これを見た県内のプレイヤーからは「山梨のような小さい都 市でも、工夫次第で世界トップになれると分かった」、 「やる気が出た」などの声が聴か れた。 2-2-4 イベントの経済波及効果 ファーストサタデーでは、参加者にアンケート調査を行った。アンケート調査の目的 は、大きく 2 つあり、1 つは回答者の属性などから誘客効果を判断すること、もう 1 つ は消費行動を把握することでイベントの費用対効果を算定するというものである。 アンケートは記述式で実施し、68 人の参加者から回答を得た。概要については以下 の表 19~表 22 示されている。 2017 年 12 月現在、 「認証」の機能は停止している。出典:『 【MMMMORPG】Ingress 攻略(wiki 風味)【大規模社会実験】 』内「Verification error(エージェント認証エラー)障害 復旧」 、http://ingressjp.blogspot.jp/2015/09/verification-error_15.html, 2017 年 12 月 11 日参照。 62 17

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表 19 アンケート結果:問 1(1) 性別 N % 男性 58 85.3% 女性 10 14.7% 不明 0 0.0% サンプル数 68 100.0% 表 20 アンケート結果:問 1(2) 年齢 N % 20 歳未満 7 10.3% 20 代 15 22.1% 30 代 27 39.7% 40 代 16 23.5% 40 代 2 2.9% 50 代 0 0.0% 60 代以上 0 0.0% 不明 1 1.5% サンプル数 68 100.0% 表 21 アンケート結果:問 1(3) 住まい N % 甲府市内 18 26.5% 甲府市以外の山梨県内 36 52.9% 山梨県外 13 19.1% 不明 1 1.5% サンプル数 68 100.0% 問 1(3):住まい_その他 件数 東京都 5 長野県 3 神奈川県 2 埼玉県 1 青森県 1 静岡県 1 計 13 63

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表 22 アンケート結果:問 1(3)-1 山梨県に来るのは何回目か N % 初めて 1 7.7% 1~5 回 5 38.5% 6~10 回 0 0.0% 10 回以上 7 53.8% 不明 0 0.0% サンプル数 13 100.0% アンケートにおいては、イベントの費用対効果を計測するため、参加者のイベント参 加に係る経費(交通費、宿泊費、飲食費、土産代・買い物費など)を同時に調査した。こ の経費からまず参加者消費支出を推計し、その後山梨県産業連関表から産業連関分析で イベントの経済波及効果を推計した。最後に、推計した経済波及効果とイベントに係る 経費の比較を行った。 まず、参加者消費支出は 65 万 1120 円と推計できたとし、ここから山梨県産業連関 表を用いて経済波及効果を推計したところ 95 万 2164 円であり、開催経費の約 30 万円 と比較すると約 3 倍もの効果が期待できると分かった、と述べている。 2-2-5 ファーストサタデーのまとめ ファーストサタデー実施から明らかになった事項について以下の表 23 にまとめられ ている。 表 23 イベントの効果などのまとめ 項目 イベント実施可能 実施に必要な条件・内容など ・企画者にノウハウが必要。 ・NPO、教育機関、行政を含むと効果が 大きい。 ・イベントで上位になると協力者に達成 感やモチベーションの確保。 誘客効果あり ・30 代~40 代男性が多い。 ・県外からも誘客可能。 ・周知は Google+や Twitter、甲府市広報 や甲府駅掲示板など。 Ingress を活用した地域活性化の可能性 ・消費行動アンケートの産業連関表を活 用すること。 ・費用対効果は 1.0 以上。 第三章 今後の展開についての考察 これまで第一章において Ingress の説明、第二章においてイベントを実施し、そのア ンケートに基づいた費用対効果を推計した。第三章においてはこれらを踏まえ今後の展 64

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開についての考察を行っている。 最初に、Ingress が持つ観光振興などの可能性について、以下の表 24 に整理されて いる。前提条件として、行政担当者が Ingress プレイヤーであることが必須であるが、 観光振興においては、対象の拡大やインバウンド観光につながることが期待されるとい う。観光振興以外には高齢者福祉や防犯など多くの分野において活用が期待できるとし ている。 表 24 Ingress 活用の可能性リスト 大分類 対象 前提条件 分野 内容 行政の立場 行政による仕掛けは可能だが、まず担当 者が Ingress プレイヤーになることが必 須である。 観光振興 県外者 対象拡大 これまで観光対象とされてこなかった 30 代~40 代男性の誘客効果に期待される。 県外者 イ ン バ ウ ン 世界中にプレイヤーが存在するので、イ ド観光 ベント実施によりインバウンド観光が促 進される。 県外者 県外者 地 域 内 消 費 商工会と連携し、割引特典などを設ける 促進 ことで地域内消費が促進される。 資源活用 地域住民しか知らないスポットの見える 化が可能なので、フットパスなどを活用 した観光振興が図られる。 観光振興以外 県内者 高齢者福祉 神奈川県大和市のように健康増進策とし て、高齢者の外出や運動に活用できる。 県内者 防犯 東久留米市や甲府市のように、プレイヤ ーが防犯パトロールのボランティアを兼 ねることで防犯につながる。 県内者 郷 土 愛 の 育 見えてなかった資源をテクノロジーで見 成 える化することで、その地点に行ってみ ることで郷土愛の育成ができる。 県内者 社会福祉 外に出る理由づけや適度の運動になるの で、引きこもり対策やうつ病対策への活 用の可能性がある。 県内者 地域づくり Ingress は現実社会で他のプレイヤーと 触れ合う機会が多いため、プレイヤーの コミュニケーション能力の向上や様々な 立場のプレイヤーが出会い共同作戦を行 うことで、産官学連携を促進する土壌が 生まれる。 65

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情報発信 Ingress を活用した新しい取り組みによ 県内外者 る話題作りやプレイヤー自らによる情報 発信が期待される。 上記の活用可能性を踏まえて、山梨県内において実施しやすい事項について表 25 に まとめられている。 表 25 山梨県内において Ingress を導入しやすい項目 項目 内容 グリーン・ツーリズムの促進 農村の資源を巡るミッション設定。旧中道町で試行中 である。 既存イベントとの連携 ワインツーリズムとの連携、各地の祭との連携を図る。 フットパスの強化 既存フットパスのミッション化の他、インバウンド観 光に対応するため、富士山世界遺産群をミッション化 する。また、北杜市美術館ネットワークのミッション 化などにより新たな誘客が期待できる。 中心街活性化 中心街の特徴的なモノ(ポータル)をミッションで巡る 仕組みを作り、魅力的なミッションメダルの設定や飲 食店などからのサービス提供をすることで甲府市中心 街の活性化につなげる。 郷土愛の育成 スーパーサイエンスハイスクール(SSH)などでの授業 やパソコン部などで Ingress を活用することで郷土愛 の育成につなげる。 本先行研究では、Ingress 活用に関するリスクについても考えている。Ingress 活用 によるメリットは大きいが、考慮しなければならないリスクが存在するとしていて、例 えば、ルールの変更や提供中止という大きなリスクを有しているという。このようなリ スクを取りまとめて表 26 に示されている。Ingress の活用に当たっては常にこうした リスクを考慮していく必要があるとした。 表 26 Ingress 活用のリスク 項目 内容 一企業がゲームを提供している ルール変更や提供中止などが起こる。 ことのリスク 既存観光客との乖離 観光地などで黙々とスマホを操作するプレイヤー と一般観光客の乖離が生じる。 プレイヤーとの連携方法の変動 行政予算を確保すればいいというものではなく、 プレイヤーやゲームコミュニティとの連携方法は 常に変動する。また、コミュニティに属さないプ レイヤーの連携が難しい。 本先行研究では Ingress の活用については地方自治体において検討が進められてい ることを受けて、こうした場合の進め方について以下のように示している。 66

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①自治体職員自らがプレイヤーとなる ②地域のプレイヤーと意思疎通を図る ③イベントノウハウの調査・共有 ④自治体同士での連携の模索 ⑤運営会社と意思疎通を図る(連携する自治体を募集している) ⑥観光振興以外の部分でも活用の可能性を探る そうして、まず自らがプレイヤーとならないと Ingress 自体を理解することが困難で あり、Ingress を活用しようという自治体職員は、まず自らプレイヤーとなることから 始めてほしいとし、その上で、次のステップである地域のプレイヤーとの意思疎通に進 んでほしい、と本先行研究は結んでいる。 <論文を受けて> 私が Ingress をプレイしている中で、フラッシュファームはイベントというより、日 常的な地域のプレイヤーコミュニティによる活動の 1 つであるという認識であり、地域 振興におけるイベントとしては小さすぎるのではと思っている。そのため、本論文第 2 章の図 9 において、フラッシュファームについて記載しなかった。 また、これから Ingress を導入しようとする自治体に対して、観光振興のみならず、 別の活用可能性を示しているという点が特徴的だった。 先行文献研究全体を受けて 先行文献研究全体を受けて、本論文では Ingress を観光振興に導入した複数の自治体 において、Ingress を導入した理由や Ingress を観光振興に導入するために必要な要素 などを研究するという方針を建てた。 研究における問い 【観光振興においてなぜスマートフォンアプリ「Ingress」が選ばれたのか、そして導 入した自治体間で取り組みに差が出ている要因とは何か】 スマートフォンアプリケーション「Pokémon GO」を開発する Niantic, Inc.(Niantic 社)が開発するスマートフォンアプリケーション「Ingress」を神奈川県横須賀市、東京 都中野区などの自治体が観光振興に取り上げた頃は、まだコロプラ社の「コロニーな生 活」やマピオン社の「ケータイ国盗り合戦」はサービスが続いている時期である。そん な中で、Ingress が選ばれた理由は何かを研究する。 また、観光振興に Ingress を導入しているが、2014 年 12 月からの導入以来、積極的 にイベントやキャンペーンを発信している横須賀市と、同じく 2014 年の導入以来目立 ったイベントやキャンペーンを打ち出せていない中野区、双方の間に差が生じる要因は 何かを研究する。 67

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第4章 研究方法 1. Ingress を観光振興に導入することを過去に表明している神奈川県横須賀市と東 京都中野区にインタビューを行った。 神奈川県横須賀市への質問は以下の通りである。 (1) 自 治体に よる ゲー ムの 観光 振興へ の利 用にお いて 、他 の自 治体 におけ る戦 国 BASARA やパズル&ドラゴンズなどの非位置情報ゲームの例、また導入した時期には 他にも位置情報ゲームがサービスを行っていたが、なぜ Ingress を選んだのか? (2)どのような場合に Ingress が効力を発揮するのか、効力を発揮する条件とは何か? (3)各種イベントやキャンペーンの想定数や目標人数の有無、最終的な参加・応募人数、 メディア・SNS などでの反響 3-A ミッションデイ横須賀 3-B「横須賀×ハイスクール・フリートミッション」プレゼントキャンペーン 3-C「NL-PRIME」横須賀便運行記念ミッション&「オリジナルスカジャン」プレゼ ントキャンペーン 3-D「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」公式ミッションプレゼントキャンペ ーン 3-E 偉人ミッションプレゼントキャンペーン 3-F SAKURA OF YOKOSUKA【さくらまつりミッションクリアでアイテムゲット!】 3-G モバイルバッテリー無料貸し出しキャンペーン (4)イベントやキャンペーン成功の鍵とは (5)サブカルチャーとのコラボレーションの効果 (6)各種キャンペーン参加者のリピート率 (7)Niantic 社の介入の有無による、イベントの盛況度合い 東京都中野区への質問内容は以下の通りである。 (1) 自 治体に よる ゲー ムの 観光 振興へ の利 用にお いて 、他 の自 治体 におけ る戦 国 BASARA やパズル&ドラゴンズなどの非位置情報ゲームの例、また導入した時期には 他にも位置情報ゲームがサービスを行っていたが、なぜ Ingress を選んだのか? (2)どのような場合に Ingress が効力を発揮するのか、効力を発揮する条件とは何か? (3)各種イベントやキャンペーンの想定数や目標人数の有無、最終的な参加・応募人数、 メディア・SNS などでの反響 3-A スマートフォンゲーム「Ingress」を活用した観光・地域活性化を考えるセミナ ー(2015 年 1 月 26 日に開催) 3-B 「なかのまちめぐり博」の開催を記念したオリジナルミッションをクリアした人 へのモバイルバッテリープレゼントキャンペーン(2016 年 12 月 31 日に締め切り) (4)イベントやキャンペーンの成功の鍵とは 68

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(5)今現在は取り組みを進めていない、行っていない理由 2. Twitter 上で神奈川県横須賀市でのイベント「ミッションデイ横須賀」に関する 投稿と『 「なかのまちめぐり博」の開催を記念したオリジナルミッションをクリア した人へのモバイルバッテリープレゼントキャンペーン』に関する投稿について の投稿数を検索した。ミッションデイ横須賀は「#IngressYokosuka」および 「#missionday」をというワードを含む 2015 年 10 月 30 日から 2015 年 10 月 31 日の投稿を、 『 「なかのまちめぐり博」~』は Twitter および Google+ での 2016 年 10 月 15 日から 2017 年 1 月 31 日の投稿を「中野区 歴史と文化の回廊」と 「まるっと中野 Ingress」というワードで検索した。全て 2017 年 10 月 30 日の 時点である。 3. また、ミッションデイ横須賀に関しては、Google+上に Niantic 社が公式に立ち 上げたイベントページ (https://plus.google.com/events/cc1fvuf8knlotblbesr4is5l2v0, 2017 年 10 月 30 日参照)の投稿に関しても調べた。 4. Twitter を採用した理由は、普段から Ingress プレイヤーによる投稿が行われて いることに加えて、ミッションデイ横須賀においては、Twitter での広報アカウ ント(https://twitter.com/ingressyokosuka, 2017 年 10 月 30 日参照)が立ち上げ られ、広報アカウントから「#IngressYokosuka」を添えた投稿をする案内があっ たことが理由である。また、 『Twitter の高度な検索』18で特定のワード・特定の 日付で投稿を絞り込み検索することで過去の投稿を遡りやすいことも理由である。 5. Google+についても、普段から Ingress プレイヤーによる投稿が行われているこ とに加えて、Niantic 社からの情報発信などは主に Google+を中心に行われてい ることを理由に採用した。 第5章 1. 研究結果 SNS 投稿の検索・調査結果 ① Twitter において、ミッションデイ横須賀に関する「#IngressYokosuka」およ び「#missionday」というワードを含む 2015 年 10 月 30 日から 2015 年 10 月 31 日の投稿を調べた結果、「#IngressYokosuka」を含む投稿は 402 件、 「#missionday」を含む投稿は 11 件であった。投稿内容は、自分の位置情報を 伝えるもの、ゲーム画面、イベント当日の食事、記念艦『三笠』の写真、ミッ ションデイ横須賀当日に開かれた対談イベントが実施された横須賀芸術劇場 の様子など多岐にわたった。 Twitter、 『Twitter の高度な検索』、https://twitter.com/search-advanced?lang=ja, 2017 年 10 月 30 日参照。 69 18

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② Twitter において、 「中野区 歴史と文化の回廊」は 5 件、 「まるっと中野 Ingress」 を含む投稿は 3 件であった。モバイルバッテリーの当選やレンタサイクルで巡 ったことを伝える内容などと共に投稿されていた。 ③ Google+において、 「中野区 歴史と文化の回廊」は 6 件、 「まるっと中野 Ingress」 を含む投稿は 0 件であった。どのような場所を巡ったのかという内容やモバイ ルバッテリーの当選を伝える内容などと共に投稿されていた。 ④ ミッションデイ横須賀において、Google+上で Niantic 社が公式に設置したイ ベ ン ト ペ ー ジ (https://plus.google.com/events/cc1fvuf8knlotblbesr4is5l2v0, 2017 年 10 月 30 日参照)には 50 人以上のユーザーが 937 枚の写真を共有し た。 2. 横須賀市へのインタビュー まず、横須賀市の地理的特徴として、東京湾と相模湾に挟まれた三浦半島の中腹の位 置が Ingress 的に「地の利」があること、無人島「猿島」、アメリカ海軍基地、観音崎 灯台などの観光名所があることが挙げられ、加えて横須賀市の観光施策の目的は「市外 からの集客を促進させ、市内経済の活性化を図ること」である。また、アニメ、マンガ、 ゲーム、クリエイターの側面からサブカルチャーの取り組みを合わせて新たな客層を来 訪させることも含まれる。 取り組み開始当初、職員は 5 人未満(主担当 2 人)であった。 以下、横須賀市提供の資料に基づく、横須賀市が Ingress を用いた観光振興の取り組 みを立ち上げたきっかけから市長記者会見での Ingress を用いた取り組み開始の発表 までの経緯である。 (1)横須賀市が Ingress を活用した集客事業を立ち上げたきっかけ 観光企画課の職員が、iOS 版アプリのリリースをうけ、2014 年 7 月末頃から Ingress を始め、観光課職員の中で「おもしろい」と広がっていった。 千葉や静岡からリンクが張られ、各方面から横須賀へ来るプレイヤーを感じるように なり、「これは集客に活用できるのでは?」と動き出した。 (2)具体的な取り組み まずはポータル(ゲーム内拠点)がたくさんなければいけないが、当時横須賀は都内に 比べるとまだまだ少なかった為、職員がプライベートな時間を使ってポータル申請を続 けた。また、ポータルに説明文を入れ込むなどの地道な作業から始まった。 (3)事業の確立(2014 年 10 月~) 岩手県庁の Ingress 活用研究会発足の一報を受け、事業として動き出した。 その日経 MJ の記事にコメントをしていた、おおつねまさふみ氏が横須賀市在住と のことでお話を伺い、現在リリースされている特設サイト19の監修にご参加いただいた。 観光情報サイト「ここはヨコスカ」、『STRATEGY BASE FOR INGRESS IN YOKOSUKA』 、http://www.cocoyoko.net/ingress/, 2017 年 12 月 12 日参照。 70 19

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また、『はじめよう!Ingress(イングレス)』という電子書籍の著者である堀正岳氏も 横須賀市在勤とのことで、細かい仕掛けづくりにご助力いただいた。 話題作りや今後の進め方など、ゲーム上で両陣営からご意見を伺うため、堀正岳氏よ りコグレマサト氏、いしたにまさき氏をご紹介いただき、監修という形でのご協力を得 ることになった。 (4)市長記者会見 市長記者会見にて、横須賀市の Ingress を活用した集客事業スタートの発表を行った。 監修の堀正岳氏、おおつねまさふみ氏、コグレマサト氏、いしたにまさき氏も同席した。 発表の内容は 2 点。Ingress 特設サイトオープン、猿島航路半額について。 質問に対する横須賀市からの回答は以下の通りである。 ① なぜ Ingress を選んだのか? 1) 無料のアプリであること。課金要素や有料ダウンロードの場合、斡旋につながる おそれがあること、上司の許可などが必要となってしまうことから。 2) 自分自身がプレイしていること。ポータルの存在がすなわち観光名所であること。 プレイしている中で、千葉県や静岡県からのリンクがあったこと。 3) 最初は予算をかけずに取り組めたこと。既存の観光情報サイトに関連ページを組 み込んだ。特設ウェブサイトでは、外注の必要性などのために予算が発生してし まうが、たまたま市の職員に紙媒体とウェブ媒体それぞれのデザイナーがいたこ とで予算をかけずに取り組めた。 4) 観光スポットがコンパクトにまとまっていること。近県から比較的訪問しやすい こと。 観光スポットがコンパクトにまとまっていることというのは、Ingress プレイ ヤーをメインターゲットにする場合、プレイヤーには楽にハック数や AP(経験値) が稼げてメダルを手に入れたい、という目的がある。その目的と、気軽な観光ス ポット、記念になるご当地グルメなどがコンパクトにまとまっている町のほうが、 Ingress プレイヤーの目的に沿いやすいと考えている。 ただし、 「さらに広域のコントロールフィールドを作りたい」 「交流したい」 「山 の頂上に上って達成感を味わいたい」など様々な目的があると思う。Ingress プ レイヤーをさらに細分化し、メインターゲットをより詳細に設定することで、 「コ ンパクトにまとまっている」ことは必ずしも条件にはならないと思う。 5) Ingress 内で横須賀に来てもらう理由がある程度確立している。 ② 観光振興において Ingress が効力を発揮する条件とは? 1) 著名な方やメディアを巻き込んで企画する 2) 予算がない中でも、どのような可能性があるか探す 3) 作品へのリスペクト、作品への愛 4) 陣取りゲームの縄張り意識よりも、地元愛が勝った(例:ミッションデイ横須賀) 5) ゲームの中の要素を取り入れる[例:『ポケモン GO』において、東京湾フェリー 71

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の乗船で「おこう」によるポケモンの捕獲(乗船 40 分、内おこうの効果時間 30 分という時間の中でどれだけのポケモンが捕まえられたかというコンテンツに おける地元の強み)、三浦半島でのポータルとポータルを結ぶリンクやコントロ ールフィールドの作成] ③ 各種イベントやキャンペーンの想定数や目標数の有無、最終的な人数、メディアお よび SNS での反響 キャンペーンのほとんどは予算をかけていないため、特に目標人数を定めていな いが、各回 200 人を目標としている。 ※「『ハイスクール・フリート』ミッションキャンペーン」に関しては、具体的な数 字は制作会社の都合により非公開。 1) 特設サイト(2014 年 12 月 18 日~) アクセス数 12 月 18 日〜翌年 4 月 30 日 234 万件、「猿島」キーワード検索 同時期の前年比 350%増 2) 猿島航路割引(2014 年 12 月 20 日~2015 年 2 月 28 日) 実質 22 日間、割引利用者は 455 人(全体の渡航者 5652 人) 3) ミッションキャンペーン(2015 年 2 月 1 日~) 応募総数 290 人(神奈川県内 59%、神奈川県外 41%) 4) さくらミッションキャンペーン(2015 年 3 月 14 日~2015 年 4 月 15 日) 応募総数 256 人(神奈川県内 60%、神奈川県外 40%)、米海軍基地一般開放日 に合わせた一日限定のミッションは 1 日で約 100 人がコンプリート 5) 岩手×横須賀 友情の架け橋ミッション(2015 年 5 月 19 日リリース) 2016 年 1 月 25 日現在、70 人コンプリート 6) モバイルバッテリー無料貸し出しキャンペーン(2015 年 7 月 1 日から開始) 2015 年 10 月末で終了し、貸し出し希望者はゼロ 7) 偉人ミッション プレゼントキャンペーン(ソフトバンク社コラボ企画、2015 年 8 月 15 日~同年 9 月 15 日) 応募者 161 人(神奈川県内 48%、神奈川県外 52%) 8) アルペジオミッションキャンペーン(2015 年 10 月 1 日~同年 11 月 1 日) 応募者 341 人、 ステッカー配布数 1500 枚(神奈川県内 31%、神奈川県外 69%) 9) ミッションデイ横須賀(2015 年 10 月 31 日、横須賀芸術劇場) 来場者数 計 2000 人、事前応募フォーム記入者数 1927 人、ミッションデイ 受付来場者数 1531 人、当日記念撮影 AM10:00 ヴェルニー公園 300 人 10) 『2016 年度第 1 回京急沿線ウォーク「咸臨丸フェスティバル」ウォーク』 ×Yokosuka Ingress(2016 年 4 月 30 日、京急久里浜駅〜浦賀駅間) 総来場者数 1836 人、一般参加者 1461 人、Ingress 参加者 375 人(神奈川県 内 54%、神奈川県外 46%) 11) WILLER TRAVEL による NL-PRIME 運行 2016 年 7 月末〜同年 10 月末、総乗車数 200 人 72

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12) (※参考)よこすか×ハイスクール・フリート グルメスタンプラリー 期間:2016 年 9 月 16 日〜同年 11 月 13 日、参加店舗:3 エリア 34 店舗、 販売食数:18642 食、34 店舗コンプリート人数:241 人、総合売上:1797 万 7124 円 図 14 イベント別参加人数 (出典:横須賀市提供の資料)20 1866 人とあるのは、イベントの事前アンケートの回 答に基づく人数である。本論文において、ミッションデイ横須賀の参加者数 1866 人とい う数字はこれに基づく。 73 20ミッションデイ横須賀の参加人数が

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図 15 都道府県別 のべ参加人数 (出典:横須賀市提供の資料) 各種数値は横須賀市へのインタビューと横須賀市提供の資料に基づく。 ④ イベントやキャンペーン成功の鍵とは? 1) 【模索・発見・企画】を行政が行い、 【発展・継続】を地元事業者の自発的な動 きによって実行され、 【波及】として、ファンコミュニティが形成されること。 74

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(1)【模索】遊びに行くことでファンコミュニティとのコミュニケーションを積極 的に行う。横須賀のプレイヤーのアイディアを集めるなど。また、他自治体から「ウ チでは何をやれば良いのか?」という質問を受けることがあるが、「地元のプレイ ヤーに尋ねてみては?」と回答している。 (2)【発見】遊ぶことでコンテンツにおける地元の強みの発見(例: 『ポケモン GO』 において東京湾フェリー/40 分の乗船中に「おこう/30 分」でポケモンを捕まえる と、どれくらいの数と種類が捕まったかという実験)。 (3)【企画】地元の有力かつ中立の立場の人を誘い込む、巻き込む。お願いする形 ではない。 2) サブカルチャーの取り組みに向けて (1)予算がないからといって諦めないで可能性を探す:旬に乗ることでコンテンツ 制作側と自治体の win-win の関係を構築する。 (2)積極的に制作会社などへアプローチを行う:横須賀市では伊藤園やソフトバン クが Ingress とのパートナーシップを発表した21翌日にアプローチをした例がある。 これをはじめ、アプローチにおいてはスピードとタイミングが求められ、それらを 見極めることが鍵となっている。 (3)作品への愛:チラシ 1 枚・ポスター1 枚にしても、作品をどれだけ愛している かということがわかってしまう。 (4)ファンや制作会社に向けて横須賀がサブカルチャーに明るいと印象付けるた めに継続していく。キャンペーンはきっかけであり、再訪してもらうためにも素材 を作り続けることが重要。 3) アルペジオキャンペーンとミッションデイ横須賀について (1)アルペジオキャンペーン 横須賀市は以前から聖地巡礼マップ作成などでコラボレーションを行ってい て、アルペジオのファンと Ingress プレイヤーの双方からメダルデザインが好 評だった。 (2)ミッションデイ横須賀 1 万人が来てもパンクしないように準備をしていた。準備期間の 2 ヶ月間、 毎週 1 回行う会議に出席していたほどボランティアスタッフの熱意が高かっ た。 ⑤ サブカルチャーとのコラボレーション効果について 1) Ingress ではないが事例として『よこすか×ハイスクール・フリート グルメス タンプラリー』が挙がった。 2) コンテンツが一過性のものでもファンコミュニティは続く。 3) 横須賀がサブカルチャーに明るいと印象付けることで、コンテンツ制作側から Ingress 速報(2015 年 6 月 20 日)『Ingress、3 社との提携を正式発表(三菱東京 UFJ 銀 行, ソフトバンク, 伊藤園)』 、http://ingressblog.jp/persepolis-collaboration, 2017 年 12 月 12 日参照。 75 21

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舞台化や声掛けなどのアプローチ(=コンテンツ側から見つけてもらえること) が発生し、連鎖していく。 ⑥ キャンペーン参加者のリピート率 単純に各イベントの参加者数を出しているだけで、具体的な数字はわからないが、 体感的・感覚的にはリピート率は高く感じた。 ⑦ Niantic 社の介入の有無によるイベントの盛況度合い 介入有り/ミッションデイ横須賀:1866 人 介入無し/咸臨丸フェスティバルウォーク:375 人 Niantic 社の介入の有無によって、イベントの盛況度合いに差があった。 当初、アノマリーを三浦半島で開催する計画だったが、「自治体が主体となるな ら平和的なイベントが良いのでは?」という回答を Niantic 社から受け取ったこと でミッションデイを開催することに至った。 「よこすか京急ウォーク」は年 5 回開催されるイベントで、京急電鉄と横須賀市 の協働事業である。 咸臨丸フェスティバルウォークは 2016 年度第 1 回のイベント。 その企画に際して Ingress を活用する横須賀市が京急電鉄に Ingress とのコラボレ ーションを提案した。企画においては、Ingress だけではなく、いかに地元の魅力 を引き込むかを考えた。また、 「公式イベントであるミッションデイか」との問い 合わせが複数あったため、公式イベントではない旨をポスターなどに記載した。 よこすか京急ウォークの開催には、横須賀市・京急電鉄・横須賀市商工会議所で 構成される「横須賀集客促進実行委員会」が携わっていて、Ingress 導入以前から 続く関係性もあり、咸臨丸フェスティバルウォークと Ingress のコラボレーション の実現に至った。 ⑧ 吉田雄人前横須賀市長が市長時代に Ingress を用いた取り組みを前面に出て応援し ていた影響はあったのか? 大きな関わりはなく、また予算があまり無かったため、吉田前市長の判断は関わ っていない。 ポケモン GO に関してはトップダウンの側面もあった。また、ポケモン GO にお いては、株式会社ポケモンの意向が強く、コラボレーションの実施が難しい。非公 開となっている自治体ガイドラインには売上に関わるコラボが禁止されているこ とが書かれている。そのような面で、ポケモン GO は Ingress に比べて自由度が低 い。また、ポケモン GO に限らず、版権への厳しさなどでコラボレーションのしや すさは企業ごとに異なる。 ⑨ 公式イベントの開催が目標だったが、ミッションデイ開催後はどうするのか? 市の開催は負担があり、市としては自治体にしかできないことを行うことが第一 である。そこで、 「横須賀でキャンペーンをしたい」という企業あるいは既存のメ ディアのサポートを行う方針となった(事例:こびとずかん「こびと発見ミッショ ン・よこすか」、京急電鉄、WILLER TRAVEL による NL-PRIME の運行)。 ⑩ 公式イベントでの有料チケット販売などお金を支払う側面(マネタイズ)が表面化し 76

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た中で、取り組み当初からの姿勢に変化はあったのか? 課金しなければレベルが上がらない、課金した人が強い、というような趣旨のマ ネタイズ(お金を支払う側面)なら再検討があったかと思うが、チケット販売は個人 のコレクター心を満たすだけのものであったため、取り組み当初からの姿勢は変わ っていない。 ⑪ イベントの開催に際しての土曜・日曜出勤などに対する職員の方々のモチベーショ ンなどはどのようなものだったか?また、代休などはあったのか? 土日祝日の出勤でも、役所の規約に則ってスタッフが出勤する。Ingress に限ら ず花火大会やトークショーなどのイベントを年中行っているため、土日出勤だから モチベーションが低いというようなことはない。代休などについては職員の雇用形 態にもよる。 3. 中野区へのインタビュー 質問に対する中野区からの回答は以下の通りである。 ① なぜ Ingress を選んだのか? もともとプレイしていたこともあり、石巻での申請イベント 22や横須賀市の猿島 航路割引キャンペーンを参考に、2014 年 12 月頃に取り組みを開始した。 中野区としては、人を呼び込み来外者を増やし、観光消費額を増やすことと、寺 社や中野サンプラザ、中野ブロードウェイをはじめとする観光資源があり、それら をプレイヤーが巡ることが中野区内を回遊することにつながるため、中野区の PR や来街者の増加という効果が見込めるのではと考えた。 ② 観光振興において Ingress が効力を発揮する条件とは? 1) 地域にやる気を持ったプレイヤーが多くいること このことがアノマリーやミッションデイなどのイベントが各地で開催される 要因なのではないだろうか。 2) 自治体の主要産業が観光であること 主要産業が観光であれば、アノマリーやミッションデイで多くの参加者が訪れ ても、その地域住民は(知らない人がたくさんくることを歓迎している又は慣れ ているから)寛容であるため、受け入れやすい観光資源が適度に散らばっている こと地域内に観光資源が散らばっていることで、地方では商店街が駅前にしかな く、郊外には大型ショッピングモールがあるという例があるが、東京 23 区内で は商店街が駅前のみならず各地にある。よって、駅前だけではなく、駅から離れ たところに観光資源があれば、駅から離れた商店街などをプレイヤーが回遊する ことで観光消費額の増加が見込める。 ③ 各種イベントやキャンペーンの目標人数や最終的な応募人数について イトナブ(2014 年 5 月 14 日)『Ingress Meetup in Ishinomaki』 、 http://itnav.jp/old/archives/938, 2017 年 12 月 12 日参照。 77 22

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1) スマートフォンゲーム「Ingress」を活用した観光・地域活性化を考えるセミナ ー(2015 年 1 月 26 日に開催) 20 人を想定していたが、最終的には約 100 人が参加した。区外からの参加 者が多数で、純粋にプレイヤーとして来ている人が多く、自治体関係者はゼロ だった。また、商店街関係者へ事前に声をかけていたが、当日参加した方はい なかった。 セミナーの開催に関連して、企業・自治体・メディアから少なくとも 10 件 以上の問い合わせがあった。 2) 「なかのまちめぐり博覧会」で、オリジナルミッションをクリアした人へのモ バイルバッテリープレゼントキャンペーン(2016 年 12 月 31 日に締め切り)を 行った。 このキャンペーンが掲載されていた『まるっと中野』23は中野区とサンケイ リビング新聞社との公民協働事業であり、このキャンペーンはサンケイリビン グ新聞社が中心となって行った。 最終的に応募は約 150 人あったが、目標数を特に定めておらず、PR が主な 目的であるため、ウェブページの訪問などで十分に効果があった。 ④ イベントやキャンペーン成功の鍵とは? 1) Ingress と何かを掛け合わせる 例:Ingress×健康、Ingress×地域活性化、など 2) Ingress に限らず、イベントやキャンペーンに付加価値や魅力を持たせる 例:ミッションデイにおける記念品の配布など 3) 事前の情報発信 『スマートフォンゲーム「Ingress」を活用した観光・地域活性化を考えるセミ ナー』の開催前には、まるっと中野のホームページや東京商工会議所のメール マガジンへの掲載が行われた。 4) 参加費が無料であること ⑤ 今現在は Ingress を用いた取り組みを行っていない理由は? 当初、石巻や横須賀で活用したイベントが開催されており、中野区の地域特性を活か しやすい取り組みだと感じていたが、公式イベントでの有料チケット販売などのマネタ イズ面や地域トラブルなどの新聞記事での表出があること。また、住宅都市である中野 区では、商業地域のすぐ隣に住宅街があり、住宅街を避けてイベントすることの困難さ や歩きスマホなどネガティブな要素も多いため、大きなイベントは難しいと考えている。 23 東京都中野区・サンケイリビング新聞社運営、 『中野区都市観光サイト まるっと中 野』、https://www.visit.city-tokyo-nakano.jp/, 2017 年 12 月 12 日参照。 78

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第6章 1. 結論 インタビューを受けての結論 インタビューを通して、Ingress を観光振興に導入した理由として、最も大きな要因 かつ共通していたものは、導入以前から職員自身が Ingress をプレイしているというこ とが明らかになった。 そして、Ingress を用いた観光振興の取り組みを表明しながらも、積極的に取り組み を進めている横須賀市と現在は取り組みを止めている中野区へのインタビューを通じ て、取り組みに対して自治体間に差が出た要因は、マネタイズ面(お金を支払う側面)の 表面化と都市の性格であると明らかになった。 日本国内において 2015 年 12 月開催の Ingress の公式イベントから無料チケットと 共に有料チケットの販売が開始し24、加えて、アプリ内課金の開始25や広告収入モデル の確立26といったマネタイズの側面が表出してきた。そうした流れを受けて、中野区は 取り組みを止めている一方、横須賀市は取り組みを続けていることから、自治体での姿 勢の違いが表れたと言える。また、住宅都市のような構造で、商業地のすぐ隣に住宅街 が広がる中野区に、スマートフォンを持ったプレイヤーが多く訪れることによる住環境 や地域の安全にマイナスの影響を及ぼす可能性の懸念が生じたことも、横須賀市と中野 区の双方の間に差が生じている要因である。 横須賀市と中野区へのインタビューを受けて、Ingress を用いた観光振興の取り組み において求められる要素を以下のモデル図に示した。モデル図は⑨を頂点とする①から ⑧の要素でピラミッド状に構成される。 Ingress 速報(2015 年 10 月 7 日)『Abaddon サポーターキットの内容・値段・注意 点』 、http://ingressblog.jp/abaddon-supporter-kit/, 2017 年 12 月 12 日参照。 25 Ingress 速報(2015 年 10 月 29 日)『Ingress に「ストア」誕生、そこで手に入る 3 つの アイテム』 、http://ingressblog.jp/store-front/, 2017 年 12 月 13 日参照。 26 本論文の第 2 章の図 13 を参照。 79 24

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図 16 Ingress を用いた自治体での観光振興の要素モデル図 (出典:筆者作成) まず 1 番目に、自治体職員が Ingress をプレイしていることである。これは横須賀市 と中野区で共に共通していることである。 2 番目は自治体の重要産業が観光であることである。何が何でも、あるいはどうして も地域の外から人に来てほしいということではない限り、あるいは都市の性格上、商業 地のすぐ隣に住宅街が広がる地域にスマートフォンを持った多くのプレイヤーが訪れ ることで住環境や地域の安全にマイナスの影響が懸念される場合などにおいては、 Ingress を観光振興に導入する必要はないだろう。 3 番目に公平性に対する自治体の姿勢である。2017 年 12 月現在、Ingress では公式 イベントでの有料チケットの販売に加えて、アプリ内課金の導入、広告収入モデルの確 立によるマネタイズ面(お金を支払う側面)が表面化している。これを受けて、横須賀市 は、課金しなければレベルが上がらない、課金した人が強い、というような趣旨のマネ タイズ面(お金を支払う側面)なら再検討があったかと思うが、チケット販売は個人のコ レクター心を満たすだけのものであったため、という理由で取り組み当初からの姿勢を 変えていない。一方で中野区は、マネタイズ面の表面化が一因となって Ingress に関す る取り組みを 2017 年 11 月現在は行っていない。このように、公平性に対する姿勢は 自治体によって異なるため、導入に際して確認する必要があるだろう。 4 番目に観光スポットが適度に散らばっていることである。観光という点から、街の 80

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各地を巡ってもらうことは必要であるのは中野区へのインタビューの通りである。 5 番目に予算が無くても様々な可能性を探すことである。予算がないからといって諦 めてしまうのではなく、様々な可能性を探すのは横須賀市へのインタビューの通りであ る。 6 番目に自治体とプレイヤーコミュニティの積極的なコミュニケーション、7 番目に 自治体より地域のプレイヤーが主体となることである。各種イベントやキャンペーンを 開く上で、参加者となる Ingress プレイヤーの存在は欠かせず、アイディアを得るため にもプレイヤーおよびプレイヤーコミュニティとのコミュニケーションは重要である。 8 番目に著名な方や地元の有力者、メディア、企業などを巻き込んで企画することで ある。ここで大事なのは「お願いする姿勢」ではなく、 「巻き込んでいく姿勢」である。 そうして、このモデル図の頂点かつ 9 番目にある、Ingress を用いた観光振興につな がっていく。以上が、インタビューを受けて、Ingress を用いた自治体の観光振興の取 り組みに求められる 9 個の要素である。 2. 今後の課題 Ingress を用いた観光振興の取り組みにおいて横須賀市に並び代表的な自治体である 岩手県にインタビューを行うことができなかった。 更なる研究として、自治体の産業別売り上げおよび収入金額において観光産業が占め る割合の水準などの基準を設定した上で、このモデル図に基づいて、どの地方自治体が Ingress を用いた観光振興の取り組みを行うのに当てはまるのか、岩手県にこのモデル 図を当てはめるとどの要素を満たすのか、という観点から研究を行ってみたい。 加えて、海外でも Ingress のリアルイベントは開催されているが、横須賀市のような Ingress を用いた観光振興の継続的な取り組みの事例にも視野を広げていきたい。 謝辞 本論文にあたり、横須賀市経済部観光企画課の古崎絵里子氏、中野区都市政策推進室 の横溝友樹氏には大変お世話になりました。ここに改めて謝意を表します。 参考文献 先行文献研究 1) 天野景太(2010 年)「携帯位置情報ゲームと観光経験--ゲーミング・ツーリズムの実 態と展望」 、東京国際大学国際関係学部・東京国際大学国際関係学部論叢編集委員 会編『東京国際大学論叢』 、pp.69-82。 2) 岩手県庁ゲームノミクス研究会(旧岩手県庁 Ingress 活用研究会、2015 年) 『岩手県庁 Ingress 活用研究会報告 地域活性化における Ingress の可能性』、 81

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https://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/031/399/katudou houkoku.pdf, 2017 年 6 月 1 日参照。 3) 岩手県庁ゲームノミクス研究会(2016 年)『岩手県庁ゲームノミクス研究会中間報告 書』、 https://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/031/399/2016032 3interim-report.pdf, 2017 年 8 月 2 日参照。 4) 倉田陽平(2012 年)「ジオキャッシング:無名の人々がゲームを通じて発掘・拡張す る観光価値」 、 『観光と情報:観光情報学会誌』第 8 巻・第 1 号、pp.7-14、 http://www.comp.tmu.ac.jp/kurata/research/YKurata-STIJournal12.pdf, 2017 年 8 月 3 日参照。 5) 倉田陽平(2012 年)「ジオキャッシング:現実世界に埋め込まれたゲームとその観光 的要素」 、情報処理学会誌『情報処理』Vol.53-No.11、pp.1153-1158、 https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=85935&file_id=1&fi le_no=1, 2017 年 8 月 3 日参照。 6) 倉田陽平(2013 年)「観光周遊支援ゲームのこれから」、 『観光情報学会第 6 回研究発 表大会』 、pp.41-48、 http://www.comp.tmu.ac.jp/kurata/research/YKurata-STI13summer.pdf, 2017 年 8 月 3 日参照。 7) 倉田陽平・池田拓生(2011 年)「Web と実世界とをつなぐ宝探しゲーム「ジオキャッ シング」の普及と地域振興への応用可能性」、 『観光情報学会第 4 回研究発表会講演 論文集』 、pp.23-30、http://www.comp.tmu.ac.jp/kurata/research/YKurataTIkedaSTI11.pdf, 2017 年 8 月 3 日参照。 8) 白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之(2015 年)「フ ィールドミュージアム構築における 代替現実ゲーム「Ingress」の活用」、 『IT を活 用した教育シンポジウム講演論文集』9 巻、pp.79-82、 http://blog.shirai.la/wp-content/uploads/downloads/2015/04/ITSympo2014KoseAS3.pdf, 2017 年 6 月 1 日参照。 9) 田畑恒平(2016 年)「スマートデバイス向けアプリケーションとゲーミフィケーショ ン に よ る 地 域 活 性 化 の 可 能 性 」、『 江 戸 川 大 学 紀 要 』 26 巻 、 pp.269-277 、 https://edo.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=659&file_id=18&file_ no=1, 2017 年 8 月 3 日参照。 10) 保和衛(2015 年)「観光ネクストステージ スマホのゲーム Ingress(イングレス)を観 光に活かす 岩手県庁 Ingress 活用研究会の活動から」、日本観光協会編『観光とま ちづくり: tourism』2015・16(2)、pp.36-38。 11) 千野正章・高橋謙洋・渡辺和樹(2015 年) 『スマホアプリ活用による地域活性化 INGRESS を活用した観光振興・地域振興の可能性』、公益財団法人山梨総合研究所、 https://www.yafo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2016/06/15103-4.pdf, 2017 年 12 月 17 日参照。 82

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12) 宮武清志(2015 年)「位置ゲームと観光振興―イングレスを例として―」、 『第 30 回日 本観光研究学会全国大会学術論文集』、pp.365-368。 13) 山田浩義・志摩憲寿(2016 年)「位置情報ゲーム「Ingress」を用いた観光振興の可 能性の研究―横須賀市を事例として―」、『公益社団法人日本都市計画学会都市計 画報告集』No.14、pp.355-358、 http://www.cpij.or.jp/com/ac/reports/14_355.pdf, 2017 年 10 月 17 日参照。 14) 渡辺武尊、猿渡隆文、中道武司、菊池大輔(2013 年)「位置情報ゲームコンテンツに よる地域活性化 京都・大阪・和歌山の事例から」 、モバイル学会事務局編『シンポ ジウムモバイル研究論文集』 、pp.5-8。 Niantic, Inc.によるスマートフォンアプリケーション『Ingress』 、 Android 版アプリ (Google Play Store): https://play.google.com/store/apps/details?id=com.nianticproject.ingress, iOS 版アプリ (App Store): https://itunes.apple.com/jp/app/ingress/id576505181, 最新版:バージョン 1.129.2、最終更新日:2017 年 12 月 15 日、参照日:2017 年 12 月 17 日。 83