【CEDEC2017】SDRの方が魅力的とは言わせない! ~最新タイトルのHDR対応~

9.5K Views

January 17, 24

スライド概要

CEDEC2017 (Computer Entertainment Developers Conference 2017)で行われた講演
『SDRの方が魅力的とは言わせない! ~最新タイトルのHDR対応~』
で使用されたスライドです。

講演概要は以下のサイトをご覧ください。
https://cedec.cesa.or.jp/2017/session/ENG/s58db348bbb537.html

※CEDECの資料公開サイトCEDiLでも本資料が公開されています。
https://cedil.cesa.or.jp/

profile-image

株式会社カプコンが誇るゲームエンジン「RE ENGINE」を開発している技術研究統括によるカプコン公式アカウントです。 これまでの技術カンファレンスなどで行った講演資料を公開しています。 【CAPCOM オープンカンファレンス プロフェッショナル RE:2023】  https://www.capcom-games.com/coc/2023/ 【CAPCOM オープンカンファレンス RE:2022】  https://www.capcom.co.jp/RE2022/ 【CAPCOM オープンカンファレンス RE:2019】  http://www.capcom.co.jp/RE2019/

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

SDRの方が魅力的とは言わせない! ~最新タイトルのHDR対応~ 株式会社カプコン 田中 王士郎

2.

アジェンダ • HDR出力に必要な変更点 • BIOHAZARD 7のHDR対応 • MONSTER HUNTER: WORLDのHDR対応 • まとめ 2

3.

HDR出力に必要な変更点

4.

HDR出力に必要な変更点 • 最終出力前の処理を変更 – 色域の変換 – OETFの変更 https://commons.w ikimedia.org/w iki/File:CIEx y1931_Rec_2020_and_Rec_709.svg http://www.soumu.go.jp/main_content/000375840.pdf 4

5.

色域の変換(BT.709レンダリング時) • SDR出力時は行わない – sRGBやRec.709の色域はBT.709 • HDR出力時はBT.2020へ変換 – 行列式による変換 – BT.709と比較して広色域 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:CIExy1931_Rec_2020_and_Rec_709.svg 5

6.

OETF(Opto Electronic Transfer Function) • ディスプレイの信号解釈方式であるEOTF(ElectroOptical Transfer Function)に対して伝送する信号方式 Content EOTFに合わせたOETFで伝送 Display 信号をEOTFで解釈し出力 http://www.soumu.go.jp/main_content/000375840.pdf 6

7.

OETFの変更 • HDR出力時のOETFはST.2084 – 人間の視覚特性に合わせている – 明るさの範囲が0.0001~10000nitとSDRの100倍 http://www.soumu.go.jp/main_content/000375840.pdf https://msdn.microsoft.com/en-us/library/windows/desktop/mt742103(v= vs.85).aspx 7

8.

SDR/HDR出力処理の比較 • SDR出力時 色域変換 BT.709 Rendering OETF Apply sRGB • HDR出力時 BT.709 Rendering BT.709 to BT.2020 Apply ST.2084 sRGB Display BT.2020 ST.2084 Display 8

9.

BIOHAZARD 7のHDR対応 HDR出力パイプラインの構築

10.

高輝度部分を潰さないパイプライン • SDR出力パイプラインがベース – 色域変換/OETF適用以外を共通化 – HDR/SDR出力で個別の制御を削減 Apply sRGB SDR Display HDR Display 10

11.

SDR出力パイプラインの問題点 • HDR出力の高輝度の表現力が活かせない – 形状の潰れ – 明るさの表現力不足 • 高輝度部分がクランプされる – Karisトーンマップ[A] – カラーコレクションのLUT 潰れた高輝度部分 (BH7の蛍光灯) HDR Display 11

12.

SDR出力パイプラインによるHDR出力 高輝度部分が潰れている画像

13.

トーンマップ時の対策 • HDR出力時はクランプしない – 後続のLDRポストプロセスに影響は無かった クランプ有 クランプ無 13

14.

カラーコレクションの問題点 • LUTのフォーマットによるクランプ • 参照は0~1の範囲sRGB空間の色 • 返り値は0~1の範囲のリニア空間の色 • HDR対応していた時期は開発終盤 – HDR用LUTを別に用意するなどは非現実的 14

15.

カラーコレクション時の対策 • 輝度が1.0以上だった場合はLUTの参照や補完方 法を変える – 輝度で除算した色でLUTを参照、返り値に輝度を乗算 LUTによるクランプ有 LUTによるクランプ回避 15

16.

最終出力までクランプ有り 高輝度部分が潰れている画像

17.

最終出力までクランプ無し

18.

新旧パイプラインの比較 • 旧パイプライン HDR Display • 新パイプライン HDR Display 18

19.

BIOHAZARD 7のHDR対応 SDR出力の印象に合わせたHDR出力

20.

発生したHDR/SDR出力の印象の違い • 規格に厳密な出力では望んだ結果にならない[B] – SDR出力の方が明るく感じる – 色が地味 • 暗部が白く浮いて見える HDR出力 SDR出力 20

21.

SDR出力の印象に近づける • 絵の基準はSDR出力 – アセット制作時はHDR出力機能は無かった – 全てのアーティストがHDR環境で見れる訳ではない • SDR出力の印象に近づけ、高輝度部分はHDR出 力の表現力を活かす 21

22.

SDRの方が明るく感じる問題 • ディスプレイの出力nitの基準の差によるもの – SDRディスプレイは1.0を200~300nitで出力 – HDRディスプレイは規格では1.0を100nitで出力 22

23.

1.0の明るさの基準を揃える • 1.0の明るさの基準を200~300nitに設定 – BIOHAZARD 7では200nitとして出力 – ゲーム内のオプションから50~500nitの範囲で調整 100nit出力 200nit出力 23

24.

暗部が白く浮く問題 • 暗部の印象調節用にHDR用にガンマ補正の導入 – BT.2020へ色域変換した後にガンマ補正を行う – BIOHAZARD 7では1.2を採用 ガンマ補正 1.0 ガンマ補正 1.2 24

25.

暗部が白く浮く問題 • ST.2084とは異なるEOTFを使用 – BIOHAZARD 7ではACES 2000-nit[C]を採用 25

26.

EOTFの種類による比較 ST.2084 ACES 1000-nit ACES 2000-nit 26

27.

100 nit出力 ガンマ補正 1.0 ST.2084

28.

200 nit出力 ガンマ補正 1.2 ACES 2000-nit

29.

SDR出力

30.

BIOHAZARD 7 HDR対応のまとめ • 高輝度部分のクランプを排除したパイプラインの構築 – トーンマップ – カラーコレクション • SDR出力の印象に近づけ魅力的に見せる – 明るさの基準設定 – HDR用のガンマ補正 – EOTFの変更 30

31.

MONSTER HUNTER: WORLDのHDR対応 HDR出力パイプラインの構築

32.

HDR出力パイプラインの構築 • SDR出力パイプラインをベースにHDR出力対応 – アセット、ライティング共にsRGB空間 • MONSTER HUNTER: WORLD専用の描画シス テム 32

33.

SDR出力パイプラインによるHDR出力の問題 • 高輝度部分がクランプされる – カラーコレクションのLUT – ACES Filmicトーンマップ • BIOHAZARD 7と同じ現象だが、異なる対処を とった 33

34.

HDR対応のレンダリングパイプライン • 変更前 • 変更後 34

35.

カラーコレクションのLUTのHDR対応 • HDR出力用LUTを実装 – 入力はST.2084変換した0.0~1.0の値 – 出力はリニア空間のfloatフォーマット[D][E] 35

36.

HDR対応のLUTの制作環境 • LUT制作にはNukeを採用 – 輝度2.0を超えるグレーディングが可能 • リニア空間で作成したLUTをST.2084変換した値で参照 できるようにしてアセット化 – sqrtカーブやlogカーブよりも品質が良かった 36

37.

Nukeのワークフロー ②グレーディング ③設定をLUT化 ①ゲームのトーンマップを再現 37

38.

HDR出力用Filmicトーンマップ • HDR出力用にACES Filmic Tone Curveの係数 を設定 – トーンマップとカラーコレクションは分離したまま • 係数はUncharted 4の設定を参考にした[F] 38

39.

MONSTER HUNTER: WORLDのHDR対応 SDR出力の印象に合わせたHDR出力

40.

HDR/SDR出力の比較 • HDR出力がSDR出力の印象と異なる – 暗い – 色が地味 HDR出力 SDR出力 40

41.

HDR/SDRの印象の差を埋める • HDR用出力用の調整項目の導入 – 1.0の明るさの基準設定 – 彩度調整 • ゲーム内のオプションから調整可能 41

42.

1.0の明るさの基準設定 • 既定値を300nitに設定 100 nit出力 300 nit出力 42

43.

彩度調整 • 疑似的にBT.709からBT.2020へ色を拡張する – 全体的に色が薄く見える問題が緩和された 彩度調整なし 彩度調整あり 43

44.

最終的な比較 100 nit出力 彩度調整なし 44

45.

300 nit出力 彩度調整あり

46.

SDR出力 46

47.

MONSTER HUNTER: WORLDのHDR対応のまとめ • HDR出力はSDR出力パイプラインがベース – カラーコレクションのHDR出力用LUTを制作 – HDR出力用のFilmicトーンマップに変更 • HDR/SDRの印象の差を埋める – 1.0の明るさの基準設定 – 彩度調整 47

48.

まとめ

49.

両タイトルの総括 • HDR出力パイプラインはSDR出力パイプライ ンをベースに構築可能 – クランプなどを考慮して一部変更する必要はある • HDRとSDR出力の印象の差はある – HDR/SDR出力の比較は早めに行う – 調整項目を設けるなどシステムによる吸収は必要 49

50.

今後の展望 • アセットやライティングの広色域対応 – 現在はBT.709の色域しか活用できていない • ACESによるカラーグレーディングの導入 – ターゲットの色域やOETFによらず、統一された見た 目を提供に必要な労力を軽減する 50

51.

ご質問はございますか? • HDR出力に必要な変更点 • BIOHAZARD 7のHDR対応 • MONSTER HUNTER: WORLDのHDR対応 • まとめ 51

52.

参考資料 • [A] Tone mapping, Karis 2013 – • [B]シリコンスタジオによる HDR出力対応の理論と実践, Kawase 2016 – • http://32ipi028l5q82yhj72224m8j.wpengine.netdna-cdn.com/wpcontent/uploads/2016/03/GdcVdrLottes.pdf [E]High Dynamic Range color grading and display in Frostbite, Fry 2017 – • http://www.oscars.org/science-technology/aces/aces-documentation [D]Advanced Techniques and Optimization of VDR Color Pipelines, Lottes 2016 – • https://www.siliconstudio.co.jp/rd/presentations/files/CEDEC2016/cedec2016_sskk_hdr_kawase.pdf [C]ACES DOCUMENTATION – • http://graphicrants.blogspot.jp/2013/12/tone-mapping.html https://www.ea.com/frostbite/news/high-dynamic-range-color-grading-and-display-in-frostbite [F]The Technical Art of Uncharted 4, Waylon 2016 – http://advances.realtimerendering.com/other/2016/naughty_dog/NaughtyDog_TechArt_Final.pdf 52