入力厳格化のパラドックス(森本の法則)

>100 Views

December 08, 25

スライド概要

profile-image

PMO、ITコンサルタント

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

(ダウンロード不可)

関連スライド

各ページのテキスト
1.

入力厳格化のパラドックス (森本の法則) 「完璧なデータ」を目指すほど、なぜ組織は崩壊するのか?

2.

誰しも「正確なデータ」が欲しい 管理者の「善意」から始まる悩み 現状分析 公平性・統制 正確な数字で ミスや不正をなくし 正しい判断をしたい 公平に評価したい

3.

そして陥る「善意の罠」 管理を厳格化してしまう • 必須項目 を増やして、入力漏れを防ごう • 入力規則 を細かくして、表記揺れをなくそう これらは全て • 理由記述 を義務付けて、例外を許さないようにし 「森本の法則」の よう 発動トリガーです

4.

定義:森本の法則 正確なデータを収集するために 規則や書式を詳細化すればするほど 入力者の負荷が限界を超え かえってデータの信頼性が低下する 現象 ※この現象を指す一般的な名称が存在しないため、便宜上命名。

5.

視覚化:森本カーブ ルールの厳格さと品質の相関 • 初期段階では、ルール追加により品質 は向上する。 • しかし、人間の認知限界(適正ポイン ト)を超えると、グラフは急降下する。 • ここから「負のスパイラル」 に突入す る。

6.

崩壊のメカニズム①:認知負荷の限界 脳がパンクする 人間のワーキングメモリ(短期記憶)は有限で す。 • 複雑な分岐条件 • 曖昧な定義 • 多すぎる選択肢 これらを前にすると、脳は「思考停止」モード に入ります。

7.

崩壊のメカニズム②:回避行動 AAAAA現象(生存戦略) 脳がストレスを感じると、人間は「正確さ」よりも 「苦痛からの解放」 を優先します。 • 一番上の選択肢を連打する • 「特になし」で埋める • 隠蔽する(入力を避ける)

8.

参考:類似する法則・概念 収穫逓減の法則 グッドハートの法則 コブラ効果 労力を追加しても、あ 「測定値が目標になる 問題解決の対策が、 る点を超えると効果は と、良い指標ではなく かえって事態を悪化さ 薄れ、最終的にはマイ なる」 せる ナスになる(経済学) 人間は数値をハックし (ヘビ駆除の報奨金で 始める ヘビ養殖が始まった逸 話)

9.

事例1:アンケート調査の失敗 施策 (Measure) • 顧客の本音を知りたい • 全50問のマトリクス設問 • 「不満」選択時は理由記述(必須) 結果 (Result) 偽りの高評価 記述が面倒なため、不満があっても全員 が「満足」を選択。結果、需要のないシス テムや機能を開発し大損害。

10.

事例2:バグ管理の失敗 施策 (Measure) • 分析精度を上げたい • 発生フェーズ・原因・処置分類など • 10項目以上を完全必須化 結果 (Result) 闇改修(隠蔽)の横行 起票に20分かかるのを嫌い、軽微なバグは 報告せず修正。公式記録からリスクが消 滅。

11.

事例3:工数管理の失敗 施策 (Measure) • 正確な原価管理がしたい • 15分単位で詳細に入力 • 毎日の入力を義務化 結果 (Result) データの形骸化 毎日の入力が苦痛で、週末に「記憶で適 当に入力」。実態のない綺麗なデータだ けが残る。

12.

具体的対策①:引き算と自動化 1. 項目の削減 2. データの自動収集 「あったらいいな」は全て捨てる。 入力行為そのものをなくす。 分析に絶対に使わない項目は勇気を ログやAPI連携を活用し、人間が介 持って削除する。 在しないフローを作る。

13.

具体的対策②:支援と許容 3. UIによる支援 4. 70点主義 手入力させない。 100%の精度を目指して 選択肢化、自動補完、デフォルト値の最 0%の信頼性になるより、 適化で負荷を下げる。 緩い運用で90%の実態を掴む。

14.

データだけの話ではありません 森本の法則は、組織マネジメントの あらゆる領域に潜んでいます

15.

例:コストとコンプラのパラドックス コスト管理 コンプライアンス ルール: ルール: 1円単位の経費精算、 不祥事防止のため 文房具1本でも上長承認 チェックリストを100項目に 結果: 結果: 100円のペンの審査に 中身を読まずに 管理職が10分使う。 「全てYes」と書く。 → 会社全体のコストは激増。 → 重大な問題が見逃される。

16.

例:会議と革新のパラドックス 会議の形骸化 イノベーションの死 ルール: ルール: 会議の質を上げるため、 開始前に確実なROIと 詳細な事前資料を義務化 詳細計画を提出せよ 結果: 結果: 資料作成で残業し、 「絶対に成功する(ように見える)嘘 本番は「てにをは」の修正会。 の計画書」しか出ない。 → 肝心の議論ができない。 → 挑戦が消える。

17.

解決の原則:Design for Humans 「人間を仕組みに合わせる」のではなく 「仕組みを人間に合わせる」 性悪説‧管理 性善説‧⽀援

18.

セルフチェック 組織が「パラドックス」に陥っていませんか? • 1%の不正を防ぐために、99%の社員を縛っている (性悪説) • 本来の目的(売上・安全)より、「ルール遵守」が優先 されている • 現場がルールを守るフリをして、裏で「抜け道」を使っている • 管理するためのコストが、得られる効果を上回っている

19.

「厳格な管理を手放す勇気が 真実を守る」 「人間を仕組みに合わせる」のではなく、「仕組みを人間に合わせる」