西洋のだまし絵の世界2

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September 10, 26

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各ページのテキスト
1.

だまし絵 トロンプ・ルイユ ― 絵が飛び出て見える西洋美術の技法 Trompe-l'œil : the Western art of illusion だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 01

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トロンプ・ルイユとは フランス語で「眼をだます」を意味する美術用語。 日本語では「だまし絵」と訳され、最近では「トリックアート」とも呼ばれる。 起源 確立 流行 起源は古代ローマとされ、庭園や部屋を 飾る装飾画として用いられた。 15世紀フランドルの静物画で技法が発展 。木目や紙まで本物そっくりに描写。 バロック時代のヨーロッパ、19世紀アメ リカで大流行した。 すなわち、絵画が「平面」であることを忘れさせる、視覚に挑む知的な遊戯である。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 02

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技法の全体像 技法 代表作家 効果 額縁を利用した飛び出し表現 ペレ・ボレイユ・デル・カソ 他 額縁ごと手描きし人物が飛び出す錯覚 寄せ絵(ダブルイメージ) アルチンボルド、歌川国芳 果物・野菜・人体の集合で別の像を構成 精密静物のトロンプ・ルイユ ウィリアム・ハーネット 他 壁の物・木目まで本物そっくりに描写 建築的だまし絵(天井画・壁龕) アンドレア・ポッツォ 他 平面の天井や壁に架空の立体空間を描出 不可能建築・パラドックス M.C.エッシャー 3次元で成立しない構造を平面上で構成 アナモルフォーズ(歪像) エアハルト・シェーン 特定の角度から見ると像が浮かび上がる だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 03

4.

額縁そのものまで手描きし、人物が今にも画面の外へ飛び出してくるように見せる技法 。「枠」という絵画の境界線自体を演出の一部に取り込む、もっとも直接的な飛び出し 表現。 T E CH NI Q UE 01 1 額縁の一体化 本物の額縁と、絵の中に描かれた額縁を連続させ、境界を曖昧にする。 額縁を利用した 飛び出し表現 2 身体のはみ出し 手足を額縁の外に配置し、鑑賞者の空間に踏み込んだように描く。 ペレ・ボレイユ・デル・カソ 《非難からの逃走》1874年 3 視線の演出 少年の驚いた表情が、鑑賞者と同じ空間にいるという錯覚を強める。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 04

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果物・野菜・人体・魚などのモチーフを緻密に寄せ集め、離れて見ると一つの人物像に 見えるように構成する技法。近くで見た「部分」と遠くで見た「全体」で、まったく異 なる像が立ち上がる。 T E CH NI Q UE 02 1 二重の読み 近景ではモチーフの集合、遠景では人物の肖像として機能する。 寄せ絵 (ダブルイメージ) 2 西洋と日本の共鳴 アルチンボルドの肖像と歌川国芳の「寄せ絵」は独立に発展した類似技法。 ジュゼッペ・アルチンボルド 歌川国芳「寄せ絵」 3 知的な遊戯性 単なる技巧ではなく、見立てのユーモアと風刺を含むことが多い。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 05

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壁に掛かるバイオリンや古紙、棚に収められた日用品を、木目や紙の質感まで含めて本 物そっくりに描写する。19世紀アメリカで大流行し、写実技巧の極致として人気を博し た。 T E CH NI Q UE 03 1 質感の再現 木目の傷、紙の反り、金属の錆びまで克明に描き込む。 精密静物の トロンプ・ルイユ 2 浅い奥行き 被写体を壁面すれすれの浅い空間に配置し、実物大で描く。 ウィリアム・ハーネット 1888年 Antonio Pérez de Aguilar 1769年 3 生活用品というモチーフ 楽器・書物・貨幣など身近な物が主題として好まれた。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 06

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平らな天井や壁に、あたかも本物の柱や壁のくぼみ(壁龕)、その先に広がる神聖な空 間があるかのように描き込む。17世紀イタリアの教会・宮殿で最も大規模かつ華やかに 用いられた。 T E CH NI Q UE 04 1 壁龕(へきがん) 彫像を置く壁のくぼみを描き、灰色の陰影だけで立体感を演出。 建築的だまし絵 (天井画・壁龕) 2 だまし天井 平面の天井の上に、さらにもう一つの空間があるように見せる。 アンドレア・ポッツォ サンティニャツィオ教会 天井画 3 単一視点の設計 特定の立ち位置から見たときに完璧な錯視が成立するよう計算される。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 07

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3次元の現実では物理的に成立しえない階段や建築物を、平面上の論理としては矛盾な く成立させて見せる技法。厳密には伝統的なトロンプ・ルイユとは区別されることもあ るが、視覚の錯覚を扱う系譜として並び称される。 T E CH NI Q UE 05 1 無限循環の構造 階段を上り続けても元の場所に戻る、循環する構図を作る。 不可能建築・ パラドックス 2 局所的な整合性 部分ごとの遠近法は正しいが、全体では矛盾するよう設計する。 M.C.エッシャー 《上りと下り》他 3 だまし絵との違い 現実そっくりに見せるのではなく、視覚のルールそのものを問う。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 08

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正面から見ると引き伸ばされ歪んだ模様にしか見えないが、特定の角度から斜めに覗き 込むと、正しい像(顔や風景)が浮かび上がる技法。演劇の書割や映画セットの奥行き 表現にも古くから応用されてきた。 T E CH NI Q UE 06 1 斜め投影の計算 鑑賞位置を一点に固定し、そこから見た像が正しく見えるよう逆算して描く。 アナモルフォーズ (歪像) 2 隠された図像 宗教的・政治的に直接描けない像を、隠し絵として忍ばせる例もあった。 エアハルト・シェーン 木版画(16世紀) 3 舞台美術への応用 限られた空間で奥行きを感じさせる大道具の技法としても使われた。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 09

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歴史的な流れ 古代ローマ 15世紀 フランドル 17世紀 バロック 19世紀 アメリカ 20世紀 シュルレアリスム 庭園や邸宅を飾る装飾画としてトロ ンプ・ルイユが用いられる。 静物画に応用。木目・紙・日用品を 写実的に描く伝統が確立。 教会・宮殿の天井画としてヨーロッ パ全土で大流行する。 ハーネットらによる精密な静物のだ まし絵ブームが起こる。 エッシャーやダリらが視覚と現実の 境界を問い直す表現へ発展。 目的の変遷 15〜18世紀:部屋を美しく見せる/画家の技術の誇示/彫刻の代用 な遊戯へ だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 19世紀:写実技巧の極致としての人気 20世紀〜:視覚と現実の境界を問う知的 10

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まとめ だまし絵(トロンプ・ルイユ)は、単なる「絵が上手い」技術ではなく、鑑賞者の視覚と認識そのものに働きかける知的な仕掛けとして、 古代から現代まで西洋美術史を横断してきた。 01 額縁の飛び出し表現 02 寄せ絵(ダブルイメージ) 03 精密静物の描写 04 建築的だまし絵 05 不可能建築 06 アナモルフォーズ 視覚は、信じるに足るほど正確で、だまされるに足るほど不完全である。 だまし絵 ― トロンプ・ルイユ 11