レセプトデータの構造と管理

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December 03, 24

スライド概要

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 臨床研究データ管理学
2024年12月6日
https://sph.med.kyoto-u.ac.jp/syllabus/

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京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野 特定講師

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1.

臨床研究データ管理学 2024年12月6日 レセプトデータの構造と管理 深澤 俊貴 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野 [email protected] 1

2.

経歴・資格 学位 2017年 学士 (薬科学) 慶應義塾大学薬学部 2019年 修士 (薬科学) 慶應義塾大学大学院薬学研究科 2024年 博士 (医学) 京都大学大学院医学研究科 職歴 2019年 – 2020年 2020年 – 2024年 2024年 – 現在 2020年 – 2024年 2024年 – 現在 東北大学病院臨床研究推進センター 助手 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野/デジタルヘルス学講座 特定助教 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野 特定講師 リアルワールドデータ株式会社 シニアコンサルタント (兼業) 株式会社JMDC アドバイザー (兼業) 資格 2024年 – 現在 2024年 – 現在 日本疫学会認定疫学専門家 日本薬剤疫学会認定薬剤疫学家 2

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到達目標  レセプトデータとは何か、いつ・どこで・どのように生み出されるかを理解する  レセプトデータが内包する様々な限界を理解する  NDB申請に必要な「申出依頼テンプレート」を用いたグループワークを通して、 研究に必要なレコードとデータ項目を理解する 3

4.

アウトライン 1 日本の医療保険制度と医療情報データベース (レセプトデータベースを中心に) 2 レセプトデータの構造と利用上の留意点 3 グループワーク 4

5.

アウトライン 1 日本の医療保険制度と医療情報データベース (レセプトデータベースを中心に) 2 レセプトデータの構造と利用上の留意点 3 グループワーク 5

6.

日本の医療保険制度 特徴1:国民皆保険 すべての国民が公的医療保険に加入することを保証 特徴2:フリーアクセス 紹介状なしで、あらゆる医療機関にアクセスできることを保証 特徴3:現物給付 医療を一部自己負担金のみで受けられる 国民皆保険達成から50周年を迎える機会に、 その経験を国際社会に共有することを目的 として、2011年にLANCETから出版 The Lancet – Japan: Universal Health Care at 50 Years. https://www.thelancet.com/series/japan 6

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特徴1:国民皆保険 公的医療保険 保険者 (保険者数) 保険加入者 (加入者数) 健康保険組合 (1,388団体) 大企業の従業員とその扶養家族 (2,838 万人) 被用者保険 組合管掌健康保険 (組 合健保) 全国健康保険協会管掌 全国健康保険協会 (1団体) 健康保険 (協会けんぽ) 中小企業の従業員とその扶養家族 (4,027万人) 共済組合 (85団体) 公務員とその扶養家族 (869万人) 国民健康保険 市町村国保、国民健康保険組合 (1,716団体) 自営業者、年金生活者、非正規雇用者 とその扶養家族 (2,537万人) 後期高齢者医療制度 後期高齢者医療広域連合 (47団体) 75歳以上 (1,843万人) 共済組合保険 厚生労働省「我が国の医療保険について」をもとに作成 (保険者数、加入者数は2022年3月時点) 7

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特徴2:フリーアクセス 日本 例.イギリス、オランダ、カナダなど 一次医療 家庭医 (general practitioner, GP) 二次医療 三次医療 二次、三次医療 8

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特徴3:現物給付 医 療 費 総 額 自己負担金 2割 0–5歳 3割 6–69歳 2割 1割 70–74歳* ≥75歳* *現役並み所得者は3割 9

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保険診療とリアルワールドデータの生成 保険加入者 保険者 保険医療機関 保険薬局 レセプト レセプト 審査支払機関 医療機関データベース レセプトデータベース 10

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レセプトとは 外来 医科入院外レセプト 医科入院レセプト 医科医療機関 入院 DPCレセプト  レセプトは、診療報酬明細書の 通称  保険加入者が受けた診療内容が 記録される  医科レセプト (入院外/入院)、 DPCレセプト、調剤レセプト、 調剤 調剤レセプト 歯科レセプトの4種類  各保険医療機関・薬局から保険 保険薬局 加入者ごとに月締めで発行され、 歯科 歯科レセプト 審査支払機関を通じて保険者に 集積 歯科医療機関 11

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レセプトデータのみ レセプトデータと検査値データ 世界の医療情報データベース レセプト データベース 医療機関 データベース プライマリーケア データベース 統合ヘルスケア データベース 一次医療 一次医療 一次医療 一次医療 専門医療 入院医療 専門医療 入院医療 専門医療 入院医療 専門医療 入院医療

13.

日本の医療情報データベース 日本薬剤疫学会. 日本における薬剤疫学に応用可能なデータベース調査. https://www.jspe.jp/committee/kenkou-iryou/ 13

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日本のレセプトデータベース 公的DB NDB 網羅性 * ◎ 主な民間DB KDB JMDC 健保DB JMDC 後期高齢者DB DeSC DB △ △ △ 〇 組合健保 後期高齢者 組合健保、国保、 後期高齢者 ほぼ全国民 (組合健保、 国保、後期高齢者 協会けんぽ、共済、 国保、後期高齢者) ◎ 追跡性 転院しても可 検査値 取得 △ △ △ × △ 健診データから 限定的に可 健診データから 限定的に可 健診データから 限定的に可 不可 健診データから 限定的に可 *保険ごとに対象者が異なるため、DBごとにカバーする対象者の年齢、性別、職種に偏りがある 14

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レセプトデータベース:生成の流れ 保険加入者 保険者 保険医療機関 保険薬局 レセプト レセプト KDB JMDC DB DeSC DB 審査支払機関 NDB 15

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レセプトデータベース:強み   追跡性の高さ:保険者を変更しない限り、転院や複数の医療機関受診があったとしても、全ての保険診療情 報を施設横断的に追跡可能 一般集団において有病割合、発生率を推定可能 (NDB or 被保険者台帳データを有するデータベース) 株式会社JMDC. JMDC Claims Database. https://www.jmdc.co.jp/jmdc-claims-database/ 16

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レセプトデータベース:弱み  傷病名の不正確さ:本当はその傷病を有していなくとも、保険病名として記録されうる → バリデーション研究の実施、アルゴリズムの開発により対処  処方や調剤の記録が必ずしも患者の服薬を意味しない  臨床検査値データがDBに格納されていない (特定健診データとは突合可能) Fukasawa T et al. J Epidemiol. 2020;30(2):57–66. 17

18.

レセプトデータベース:傷病を特定するためのアルゴリズム 例:SJS/TENを特定するためのアルゴリズム (感度76.9%、特異度99.0%) Fukasawa T et al. PLoS One. 2019;14(8):e0221130. 18

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アウトライン 1 日本の医療保険制度と医療情報データベース (レセプトデータベースを中心に) 2 レセプトデータの構造と利用上の留意点 3 グループワーク 19

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レセプト電算処理システムに関する情報 厚生労働省保険局. 診療報酬情報提供サービス. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/receMenu/doReceInfo 20

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レセプトデータの構造 レセプトデータは各種レコードに分割され、レコード単位でNDBに格納 (下図は医科レセプトの例) レセプト共通レコード (RE) → 性別、年齢、診療年月など 医療機関情報レコード (IR) → 医療機関コード、都道府県など 傷病名レコード (SY) → 傷病名コード、転帰など 保険者レコード (HO) → 診療実日数、合計点数など 診療行為レコード (SI) → 診療行為コード、量など 医薬品レコード (IY) → 医薬品コード、量、回数など 厚生労働省. NDBの利用を検討している方へのマニュアル. https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557476.pdf 21

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医科レセプト DPCレセプト 調剤レセプト レセプト管理レコード (MN) レセプト管理レコード (MN) レセプト管理レコード (MN) 医療機関情報レコード (IR) 医療機関情報レコード (IR) 薬局情報レコード (YK) レセプト共通レコード (RE) レセプト共通レコード (RE) レセプト共通レコード (RE) 保険者レコード (HO) 保険者レコード (HO) 保険者レコード (HO) 公費レコード (KO) 公費レコード (KO) 公費レコード (KO) 傷病名レコード (SY) 傷病名レコード (SY) 処方基本レコード (SH) 医薬品レコード (IY) 医薬品レコード (IY) 調剤情報レコード (CZ) 診療行為レコード (SI) 診療行為レコード (SI) 医薬品レコード (IY) 特定器材レコード (TO) 特定器材レコード (TO) 特定器材レコード (TO) コメントレコード (CO) コメントレコード (CO) コメントレコード (CO) 日計表レコード (NI) 日計表レコード (NI) 摘要欄レコード (TK) 症状群記レコード (SJ) 症状群記レコード (SJ) 基本料・薬学管理料レコード (KI) 臓器提供医療機関情報レコード (TI) 臓器提供医療機関情報レコード (TI) 分割技術料レコード (ST) 厚生労働省. NDBの利用を検討し ている方へのマニュアル. https://www.mhlw.go.jp/conten t/12401000/000557476.pdf 奥村泰之. NDBデータハンドリン グの工夫. https://icer.tokyo/materials/ach ievements/ 各種レコードを統合し、 テーブルデータに変換 臓器提供者レセプト情報レコード (TR) 臓器提供者レセプト情報レコード (TR) 臓器提供者請求情報レコード (TS) 臓器提供者請求情報レコード (TS) 包括評価対象外理由レコード(GR) 包括評価対象外理由レコード(GR) 診断群分類レコード(BU) 傷病レコード(SB) 患者基礎レコード (KK) 診療関連レコード (SK) 外泊レコード (GA) 包括評価レコード (HH) テーブル名 情報源 レセプト RE, HO, BU 傷病 SY, SB, BU 医薬品 IY, CZ, SH, CD (IYとCDの重複分は削除*) 診療行為 SI, CD (SIとCDの重複分は削除*) IR 合計調整レコード (GT) 診療行為レコード (SI) コーディングレコード (CD) *特定入院期間 (診断群分類ごとに定められている算定期間) を超える場合 22

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リレーショナルデータベース  レセプト通番でレセプトを特定、データを連結  個人ID (ID1、ID2) で患者を特定、データを連結 レセプト通番 ID1 ID2 性別 … XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX レセプト テーブル XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX レセプト通番 傷病名コード 疑い病名フラグ 診療開始日 … XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX レセプト通番 医薬品コード 処方日 XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX 調剤日 XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX レセプト通番 診療行為コード 実施日 XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX 傷病 テーブル XXXXX … XXXXX XXXXX XXXXX 回数 XXXXX XXXXX XXXXX … XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX 医薬品 テーブル 診療行為 テーブル 23

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リレーショナルデータベース  傷病名コード、医薬品コード、診療行為コードを用いて、各種マスターと連結することにより、 詳細情報を付加 レセプト通番 傷病名コード 疑い病名フラグ 診療開始日 … XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX 傷病名コード 傷病名基本名称 ICD-10-1 ICD-10-2 XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX XXXXX 傷病テーブル 傷病マスター 24

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レセプトテーブルの作成と留意点 項目 医科レセプト DPCレセプト 調剤レセプト レセプト通番 RE RE RE ID1 RE RE RE ID2 RE RE RE 診療年月 RE RE RE 入院年月日 ― BU ― 退院年月日 ― BU ― 性別 RE RE RE 年齢階層コード RE RE RE 医療機関コード IR IR RE 都道府県 IR IR RE 入院外来区分 RE ― ― 点数 HO HO HO 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/    留意点1 (NDB):個 人IDがユニークでは ない/被保険者台帳 データがない 留意点2:入退院日が 正確ではない/予定・ 緊急入院を区別でき ない 留意点3 (NDB):年 齢データは年齢階層 コードで提供される 25

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傷病テーブルの作成と留意点 項目 医科レセプト DPCレセプト 調剤レセプト レセプト通番 SY SY/SB ― 傷病名コード SY SY/SB ― 疑い病名フラグ SY SY/SB ― 傷病名区分 ― SB ― 診療開始日 SY SY ― 転帰区分 SY SY/BU ―    留意点4 (NDB):研究者がマスターを独自に作成する必要がある 留意点5:DPCレセプトには診療開始日が記録されない/レセプトからは正確な再診日を特定できない 留意点6:医療機関外の死亡を十分に捕捉できない 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 26

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医薬品テーブルの作成と留意点 項目 医科レセプト DPCレセプト* 調剤レセプト レセプト通番 IY IY/CD IY/CZ/SH† 医薬品コード IY IY/CD IY 処方日 IY IY/CD CZ 調剤日 ― ― CZ 処方日数 IY IY/CD CZ (調剤数量) 1日処方量 IY IY/CD IY * IYとCDの重複分は削除 †IY、CZ、SHレコードはレセプト通番と処方番号を用いることで突合可能  留意点4 (NDB):研究者がマスターを独自に作成する必要がある     留意点7:剤形によっては1日処方量を正確に特定できない 留意点8:診療報酬の算定ルールにより、一部の投薬状況を把握できない 留意点9:実施日 (処方日・調剤日) は2012年4月診療分以降に記録が義務化された 留意点10 (NDB):実施日 (処方日) 、回数 (処方日数) は横持ちから縦持ちにデータ変換する 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 27

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診療行為テーブルの作成と留意点 項目 医科レセプト DPCレセプト* 調剤レセプト レセプト通番 SI SI/CD ― 診療行為コード SI SI/CD ― 実施日 SI SI/CD ― 回数 SI SI/CD ― 数量 SI SI/CD ― * SIとCDの重複分は削除    留意点4 (NDB):研究者がマスターを独自に作成する必要がある 留意点8:診療報酬の算定ルールにより、一部の検査状況を把握できない 留意点9:実施日は2012年4月診療分以降に記録が義務化された  留意点10 (NDB):実施日 、回数は横持ちから縦持ちにデータ変換する 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 28

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留意点1 (NDB):個人IDがユニークではない/被保険者台帳データがない  個人IDがユニークでないと、①別の個人を同一人物として識別してしまう可能性、②同一人物を ダブルカウントしてしまう可能性、③保険者と姓が同時に変わると追跡不可能  被保険者台帳データがないと、医療機関を受診しない場合、①その人物が特定不可能 (有病割合 や発生率を推定する際の分母設定で問題になりうる)、②死亡等の離脱理由が特定不可能 ID ID1 ID2 概要 留意点  保険者番号、被保険者証の記号・番号、生年月日、 性別をもとにしたID   氏名、生年月日、性別をもとにしたID   同一生年月日、同性の複産の場合、識別不能 保険者の変更や誤記により、紐付け不能 同姓同名、同一生年月日、同性の場合、識別不能 氏名の変更や誤記により、紐付け不能 厚生労働省. NDBの利用を検討している方へのマニュアル. https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557476.pdf 6NC連携による医療政策研究等を目的としたNDB研究体制構築のための研究班. NDB研究の限界と対応策. https://ndb6nc.ncgm.go.jp/review/countermeasure.html 久保慎一郎 他. レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB) 利用促進に向けた取り組み. https://square.umin.ac.jp/ndb/PDF/NDB_UG_nayose-method_190902.pdf 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 29

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留意点2:入退院日が正確ではない/予定・緊急入院を区別できない  入院エピソードは、①複数月にまたがる可能性、②DPCレセプトから医科レセプトに移行する可 能性、③医科レセプトからDPCレセプトに移行する可能性がある → DPCレセプトの入退院日と、医科レセプトと包括対象医科レセプトの入院料等の算定により 入退院日を推定する必要あり  医科レセプトでは、予定・緊急入院を区別できない (DPCデータでは可能) 福田治久 他. 保健医療科学. 2017;68(2):158–167. 奥村泰之. NDBを用いた臨床疫学研究の留意点. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 30

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留意点3 (NDB):年齢データは年齢階層コードで提供される  実年齢、満年齢はデータ提供が認められていない  年齢階層コードは、実年齢または満年齢を元に格納 ○ 実年齢:診療月の末日時点の年齢が適用 ○ 満年齢:診療年度末時点の年齢が適用 項目 説明 年齢階層コード1 5歳刻み、最大は80歳以上 年齢階層コード2 0–9歳は1歳刻み、10歳以上は5歳刻み、最大は100歳以上 年齢階層コード3 0–19歳は1歳刻み、20歳以上は5歳刻み、最大は100歳以上 厚生労働省. FAQ1. NDBに格納されているデータに関するご質問. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index.html 31

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留意点4 (NDB):研究者がマスターを独自に作成する必要がある  基本マスターとは、医療保険請求のための統一コードに、価格や点数、算定条件等の各種情報を 付加した電子的マスターファイルのこと  厚生労働省保険局が運用する「診療報酬情報提供サービス」のウェブページで公開 厚生労働省保険局. 診療報酬情報提供サービス. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/downloadMenu/ 32

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基本マスターの更新 診療報酬改定に伴い定期的に更新される 厚生労働省保険局. 診療報酬情報提供サービス. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/downloadMenu/ 33

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基本マスターの仕様説明書 厚生労働省保険局. 診療報酬情報提供サービス. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/downloadMenu/ 34

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傷病名マスター (深澤の経験から必要と考える項目) 項目 説明 傷病名コード 一般財団法人 医療情報システム開発センター (MEDIS-DC) が作成しているレ セプト電算処理システムコード 傷病名基本名称 MEDIS-DCが作成している傷病名 ICD-10-1 国際疾病分類第10版 (ICD-10) コード (基礎疾患の分類番号) ICD-10-2 国際疾病分類第10版 (ICD-10) コード (症状発現の分類番号) 例.糖尿病性白内障:「ICD-10-1」には糖尿病のICD-10コード「E143」を入力し、 「ICD-10-2」には白内障のICD-10コード「H280」を入力 → 白内障を特定したい場合、ICD-10-1だけを使うと「糖尿病性白内障」を取りこぼす 社会保険診療報酬支払基金. レセプト電算処理システム マスターファイル仕様説明書. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/file/spec/R06rec1.pdf 35

36.

ICD-10コード 世界保健機関 (WHO) が作成した分類であり、死亡や疾病のデータを体系的に記録、分析、解釈、 比較するために用いられる ICD10 国際疾病分類第10版 (2013年版). http://www.byomei.org/icd10/ 36

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ICD-10コードの構成と傷病名コードとの対応関係 コード/分類 説明 例 ICD-10コード  基本分類 傷病の類似性をもとに分類。第1桁はア 内分泌、栄養及び代謝疾患:E00–E90 ルファベット、第2桁と第3桁は数字。 ICD10 国際疾病分類第10版 (2013年版) の「章」に対応  3桁–5桁の分類 1つの傷病に対して1傷病名表現になる ようにICD-10を細かく分類 傷病名コード 1つの傷病に対して1傷病名表現、1傷病 2型糖尿病性白内障:8844347 名コードになるように、MEDIS-DCが 2型糖尿病性網膜症:8830045 作成しているレセプト電算処理システ ムコード 2型糖尿病性白内障:E113 2型糖尿病性網膜症:E113 この2つが対応関係にある 37

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医薬品マスター (深澤の経験から必要と考える項目) 項目 説明 医薬品コード レセプト電算処理システムコード。1桁目は「6」 薬価基準収載医薬品コード 厚生労働省が定める薬価基準収載品目につけられた12桁のコード 個別医薬品コード (YJコード) 薬価基準収載医薬品コードを拡張し、すべての商品を区別できるようにした12 桁のコード EphMRA-ATCコード 欧州医薬品市場調査協会 (EphMRA) の解剖治療化学分類法 (ATC) に基づく コード WHO-ATCコード WHOのATCに基づくコード 医薬品名 医薬品の販売名 成分名 医薬品の有効成分名 投与経路 薬価基準収載医薬品コードの投与経路の情報に準拠した分類 剤形 薬価基準収載医薬品コードの剤形の情報に準拠した分類 KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes. 医薬品コード. https://www.kegg.jp/kegg/medicus/drugcode_ja.html 38

39.

薬価基準収載医薬品コード/YJコード  厚生労働省が定める薬価基準収載品目につけられた12桁のコード  薬価基準収載医薬品コードとYJコードの違いは、データインデックス株式会社の『情報医療ナ レッジ』を参照  コードの各桁の意味は以下の通り 2149039F1015 「ロサルタンカリウム25mg錠」の例 A B CD E F A:薬効分類番号 (日本標準商品分類「87 医薬品及び関連製品」のサブカテゴリーに対応した薬効分類) B:投与経路及び成分 (内服薬:001–399、注射薬:400–699、外用薬:700–999) C:剤形 (A–E:散剤、F–L:錠剤、M–P:カプセル、Q–S:液剤、T, X:その他) D:上記A–Cによる同一分類内の規格単位ごとの番号 E:上記Dによる同一規格内の番号 (統一名収載品目の場合は01) F:チェックデジット (読み取りミスなどをチェックするために他の桁の値から計算式で求められる数字) KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes. 医薬品コード. https://www.kegg.jp/kegg/medicus/drugcode_ja.html データインデックス株式会社. 情報医療ナレッジ. https://www.data-index.co.jp/knowledge/146/ 39

40.

EphMRA-ATCコード/WHO-ATCコード  解剖治療化学分類法 (Anatomical Therapeutic Chemical Classification System) に基づくコード  EphMRA-ATCコードとWHO-ATCコードの2種類があるので、注意 ○ EphMRA-ATCコード:主な用途は、製薬会社のマーケティング ○ WHO-ATCコード:主な用途は、医薬品の使用実態や副作用を調査する薬剤疫学研究  WHO-ATCコードの各桁の意味は以下の通り C09CA01 「ロサルタン」の例 レベル1:解剖学的部位に基づいたメイングループ レベル2:治療法サブグループ レベル3:薬理学サブグループ レベル4:化学サブグループ レベル5:化学物質 KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes. 医薬品コード. https://www.kegg.jp/kegg/medicus/drugcode_ja.html データインデックス株式会社. 情報医療ナレッジ. https://www.data-index.co.jp/knowledge/146/ 40

41.

効能効果の対応標準病名     一般財団法人日本医薬情報センター (JAPIC) が開発したシステム 医療用医薬品添付文書の「効能効果」に対応する「標準病名」を関連付け、相互に検索 病名、商品名、一般名、薬効分類、ICD10から検索可能 添付文書の「効能効果」と対応する「標準病名」の結び付けは、JAPICが専門家による妥当性の 評価を受けて独自に作成  医療のIT化を推進しようとする内閣府や厚生労働省の戦略の一助となるよう広く一般に無料公開 一般財団法人日本医薬情報センター. 効能効果の対応標準病名. https://www.byomei.jp/byomei-public/#/public 41

42.

効能効果の対応標準病名 ロサルタンカリウム錠25mg「アメル」の検索例 一般財団法人日本医薬情報センター. 効能効果の対応標準病名. https://www.byomei.jp/byomei-public/#/public 42

43.

診療行為マスター (深澤の経験から必要と考える項目) 項目 説明 診療行為コード レセプト電算処理システムコード。1桁目は「1」 診療行為名 診療報酬情報提供サービスの医科診療行為マスターの診療行為省略名称 区分番号 医科診療報酬点数表に記載されているアルファベットと数字からなる番号 社会保険診療報酬支払基金. レセプト電算処理システム マスターファイル仕様説明書. https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/file/spec/R06rec1.pdf 43

44.

診療行為の区分 医科診療報酬 区分番号のアルファベット 基本診療料 A 初・再診料、入院料等 B 医学管理等 C 在宅医療 D 検査 E 画像診断 F 投薬 G 注射 H リハビリテーション I 精神科専門療法 J 処置 K 手術 L 麻酔 M 放射線治療 N 病理診断 O その他 特掲診療料 分類 医学通信社. 診療点数早見表 2024年度版. 44

45.

留意点5:DPCレセプトには診療開始日が記録されない/レセプトからは正確な再診 日を特定できない  医科レセプトに記録される診療開始日は、当該医療機関において、その傷病の診療を開始した年 月日  DPCレセプトには傷病の診療開始日の記録がないため、入院後に発生した傷病の診療開始日は特 定不可能  再診料は、傷病特異的ではないため、医科レセプトに複数の傷病が記載されていた場合、再診日 を特定することは不可能 45

46.

留意点6:医療機関外の死亡を十分に捕捉できない  65–74歳の健康保険組合加入者を対象とした研究において、入院死亡の感度は94.3%、特異度 98.5%、外来死亡の感度は47.4%、特異度99.9%  レセプトは診療報酬請求のために発行されるため、請求にあたり医療機関に死亡を記録する動機 がなければ、感度は低くなる Sakai M et al. Environ Health Prev Med. 2019;24(1):63. 46

47.

留意点7:剤形によっては1日処方量を正確に特定できない 例えば、  頓服薬、外用薬では、1日処方量を正確に求められない (詳細は『ナショナルデータベースの学術 利用促進に向けて: レセプトの落とし穴』を参照)  「管 (アンプル)」の場合は、使用量に関わらず管の単位での請求になる など 奥村泰之. ナショナルデータベースの学術利用促進に向けて: レセプトの落とし穴. https://icer.tokyo/materials/achievements/ 47

48.

留意点8:診療報酬の算定ルールにより、一部の投薬・検査状況を把握できない 例えば、  算定回数制限:「D005 血液形態・機能検査」において、HbA1cは月1回までしか算定できない  同時算定不可:「D007 血液化学検査」において、HDLコレステロール、総コレステロール、 LDLコレステロールは主たるもの2つしか算定できない  包括評価:「J038 人工腎臓 (1日につき)」において、透析液 (灌流液)、血液凝固阻止剤、生理食 塩水、エリスロポエチン製剤、ダルベポエチン製剤、エポエチンベータペゴル製剤、HIF-PH阻 害剤は算定できない など 48

49.

留意点9:実施日は2012年4月診療分以降に記録が義務化された  医科レセプトにおいて、実施日は2012年4月診療分以降に記録が義務化されたため、実施日の特 定が重要になる場合、研究対象期間を2012年4月以降にする必要がある  例えば、曝露とアウトカムの特定に医薬品や診療行為の実施日が必要な場合、2012年4月以降の データに限定しないと時間の前後関係を判別できないため、因果の逆転が起こりうる 厚生労働省. 電子レセプト請求における算定日の記載について. https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uo3f-att/2r9852000001uszg.pdf 49

50.

留意点10 (NDB):実施日、回数は横持ちから縦持ちにデータ変換する  医薬品レコード (IY)、診療行為レコード (SI) では、「1–31日の情報」に回数が記録される (横持 ちデータ)  横持ちデータのままだと解析しにくいため、縦持ちデータに変換する (以下は患者Aにおける 2024年12月診療分のSIの例) 診療行為コード 1日の情報 XXXXX 1 YYYYY 1 2日の情報 … 31日の情報 … 1 ZZZZZ … … 1 診療行為コード 実施日 回数 XXXXX 2024/12/01 1 YYYYY 2024/12/01 1 YYYYY 2024/12/02 1 ZZZZZ 2024/12/31 1 50

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アウトライン 1 日本の医療保険制度と医療情報データベース (レセプトデータベースを中心に) 2 レセプトデータの構造と利用上の留意点 3 グループワーク 51

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グループワーク <設定> 糖尿病と新規に診断された患者を対象に、糖尿病治療薬の使用実態を記述する薬剤疫学研究を計画しています。2015–2024 年のNDBデータを用いる予定です。なお、医療費の算出は予定しておりません。 <グループワーク>  課題1:当該研究で「医薬品テーブル」を作成する際に必要な「抽出項目」を検討し、「申出依頼テンプレート.xlsx」の 医科レセプト情報、DPCレセプト情報、調剤レセプト情報の各シートにおいて、該当する出力対象を■にしてください (プルダウンで選択できます)。  課題2:課題1で出力対象とした「抽出項目」において、研究に必要と思われる「データ項目名」を検討し、その「出 力」欄を〇にしてください (プルダウンで選択できます)。 52

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まとめ  レセプトデータを扱う際は、それがいつ・どこで・どのように生み出されたもの であるのか、データそのものを正しく理解する姿勢が求められる  レセプトデータが内包する様々な限界に留意する  レセプトデータを用いた研究を実施する際は、その扱いに精通した専門家に相談 する 53